【転移21日目】 所持金8億5600万ウェン 「よしてくれよ。 かけがえの無いクラスメイトじゃないか。」
朝起きて何気なく外へ出ると、そこには神妙な顔をしたキーンとカインが直立不動の体勢で立っていた。
俺と目が合った瞬間、2人は満面の笑みで抱擁を求めてくる。
「おはよう!!
今日も爽やかな朝だね!!
近いうちに自由都市のモーニングカフェを案内させてくれよ!」
「やあコリンズ君!
昨日の駆除は楽しかったね!
今日の予定はなんだい?」
『ど、どうもお二方。
配当、持って来ましょうか?』
「いやいや!
配当目当てなんかじゃないよ!
朝の挨拶は親友とこそ交わしたいじゃないか!」
「昨日興奮して一睡も出来なかったよ。
私、ずっとコリンズ君の事ばかり考えていたよ!」
とりあえず面倒だったので、配当金を持って来てやる。
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【所持金】
7億5530万ウェン
↓
7億5030万ウェン
※カイン・R・グランツに300万ウェンの利息を支払。
※ドナルド・キーンに200万ウェンの利息を支払。
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2人は「えへへ」と笑いながら配当を受け取り。
申し訳なさそうな顔で金庫の中の元金を確認しに行った。
『あのお。
元金を確認するのは出資側の正当な権利です。
なので、くれぐれもお気遣いなく。』
俺の注意点はただ1点。
結果としてポンジスキームになってしまう事を防ぐだけである。
変なカネの使い方をしたり盗難に遭うと、間違いなく破綻する。
なので種銭を貯めた後は、ワンマンバンクに転身しよう。
などと考えているとカインに呼び止められる。
「…コリンズ君。
昨日キーン社長に話した件って
いつから有効?」
『ん? どの件ですか?』
「ほ、ほら!
《最低預金額5億で1%
10億以上で2%
100億以上で3%》
って彼に言ったらしいじゃない。」
『ええ、まあ。
もしもプライベートバンクを開くなら、そこら辺が妥当かな、と。』
「わ、私。
10億なら作れるんだけど…
どう?
っていうか
最低預金額5億って本当!?
後2億入れた方がいい?」
『あの…
カインさんにはお世話になっているので。
お友達枠って訳じゃないんですけど。
今の金額でも普通に配当続けますよ?』
「お、おう!
あ、ありがたい…」
『それにカインさんであれば
10億入れてくれた時点で2%払いますよ?
勿論、内密にはして欲しいのですが…
前倒し営業ということで。』
「じゃ、じゃあ。
10億入れたら2%、毎日くれるの?」
『ええ。
その場合、毎日の配当が2000万ウェンとなりますね。
勿論、今まで通り金庫チェックは自由にどうぞ。』
「こ、コリンズ君!
今からちょっと家財売っぱらってくるから!!
ちょっと待ってて!!」
言うなりカインは自宅に向かって疾走していってしまった。
まあ、気持ちは解る。
宿内に戻るとキーンがずっと金庫の前に座っていた。
まあ、気持ちは解る。
『あの、キーンさん。
飯でも行きますか?』
「う、うん。
でもまあ…
今日はやめとくよ。
集金も一通り終わったし…
その後は自由営業の予定だったしさ。」
『営業回りしなくていいんですか?』
「君より価値のある営業先がある訳ないだろう?」
『まあ、無いでしょうね。』
その後、キーンに色々話しかけてみたが、金庫の前でブツブツ言ってるだけで会話にならなかったので、放置した。
後で文句を言われたくないので、コレットに頼んで軽食と毛布を置きに行って貰う。
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俺が近所の居酒屋で暇を潰していると懐かしい顔が現れる。
『平原君か?』
「やあ、遠市君。
ここに居るって女将さんに聞いてね。
生活は順調?」
『ぼちぼちかな?』
「こっちの報告をする。
原田さんが死んだ。
戦闘訓練中の事故でね。」
…ハラダ?
「今、クラスは完全に2つに分裂しているんだ。
王国に従おうとする派閥、王国から脱出しようとする派閥。」
俺も後者に含まれるのだろうか?
いやでも、誘われてないしな…
「今日でようやく基礎訓練が終わった。
最後の1週間、王の森での実戦訓練を完了すれば…
1ヶ月の訓練期間がすべて満了し、ようやくフィールド依頼を受けられるようになる。」
『王の森?』
「ああ、城の北側に広がる立ち入り禁止の特別区だよ。
王の狩猟場としてディア系が放し飼いにされている。
豊かで広大な人工林の中には王様の別荘もある。
史上何度か外交の舞台にもなった由緒正しいエリアだよ。」
『へえ。』
「1か月後。
初任給が支給され、多くの者が冒険者ギルドに登録すると思う。
内堀の外に住みたがっている者も多いんだ。
君の宿に希望者を泊めてやってくれないか?」
『悪いな。
俺は単なる下っ端従業員だし。
そもそもあの宿は一般営業をやめたよ。』
そもそもオマエらが内堀から出るより先に、俺が王国を去っている可能性もあるからな。
「女子が他を嫌がってるんだよ。
何か風俗店みたいな宿屋ばっかりだろ?
ここだけだよ、普通の宿は。
君から女将さんに特例は無いか聞いておいてくれないか?」
『わかった。
頼むだけ頼んでおくよ。
期待せずに待っていてくれ。』
「ありがとう。
遠市君には感謝している。」
『よしてくれよ。
かけがえの無いクラスメイトじゃないか。』
…よし、宿の押し付け先も決まったな。
早速ヒルダに報告して、作戦を練って貰おう。
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俺は胡桃亭に帰るとヒルダに仔細を報告した。
ヒルダは無言で宙を睨んでいる。
「幾ら引っ張れそうですか?」
『俺達は29名同時に召喚されたんだが、俺以外は1人100万ウェン支給されている。
後、全訓練課程の修了と同時に初任給30万ウェンが貰えるそうだ。
ただ、彼らを何度か城外で見かけてるので支給額の全額は残って無いと思う。
恐らく現在は1人頭50万ウェンを保有している筈だ。』
「50万の論拠は?」
『俺の祖国では貯金率が5割強なんだよ。
地元は民度が低かったから必ず平均を下回ると思う。
なので100万の5割である50万ウェンを平均して保有していると推測した。
29名セットで召喚された。
俺が初日に追放されて、その後2人死んだらしいから。
現在26名生存。
クラス総額1000万ウェン以上のキャッシュがあるとみた。』
「500万くらいは引っ張れるでしょうか?」
『全員が一緒に行動する訳じゃないからな。
実際は5名とか10名とかの単位としか交渉出来ないと思う。
女子が10名強で拠点を欲しがっているのではないか、と俺は考える。』
…だとすれば、ヒルダの500万というのはかなり妥当な読みか。
「理由は?」
『貞操の為。』
「…宿屋は逆効果では?」
『ここを買えば貞操を護り易いと吹き込んでくれ。
男の俺が何を言っても信じられないと思うし。』
「もしもリンの読み通りに女子級友の皆さんが来られたら…
コレットに交渉させましょう。
悪くない目が出る筈です。」
玄関の掃除をしていたコレットが戻って来たので、3人で打ち合わせ。
コレットの地球女子評が中々辛辣で面白かった。
リスセクシュアルの概念を知らない筈なのに的確に分析して来る辺り、母親譲りの洞察力を身に着けているのだろう。
最後に平原・和田・猪首と再会した時の想定問答集をそれぞれに分けてヒルダが作成し、ロールプレイング。
初見でなら殺す自信がある、母娘が揃って言うならそうなるのだろう。
正直俺はポーション契約さえ押し付けられればなんだっていい。
せめて1つ位は役に立って貰わないとね。
かけがえのないクラスメートなんだからさ。
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ダグラス組がフィールドに出るようだったので、同行を願ってみる。
案の定、露骨に嫌そうな顔をされてしまう。
「あのねえ、コリンズの若旦那。
昨日もご一緒したでしょう?
おとなしくしておいてくれると助かるんですけどね?
ねえ、兄貴。」
「なあ、コリンズよ。
オマエと違って俺達は忙しいんだ。
何せ駆除屋を起ち上げたばかりだからな。
近隣をチェックして、安定した狩場や顧客を確保する必要があるんだよ。」
『ダグラスさん。
俺、いい顧客と狩場を紹介出来るかも知れません。』
「…どこ?」
そんな遣り取りがあったので、一緒にブライアン農園に向かうことになった。
彼らは渋ったが、《俺でも20匹のジャイアントタートルを狩れた場所です》と説明すると興味を持ってくれた。
途中、グリーブの農園を尋ねて駆除に誘う。
俺VSダグラス組の構図だと、状況がアンコントローラブルになる可能性が高いからな。
凄腕のグリーブを同行させておけば、ストライキという選択肢をダグラス組が取りにくい筈だ。
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【所持金】
7億5530万ウェン
↓
7億5370万ウェン
※傭兵グリーブを日当10万ウェンで雇用
※ダグラス組員9名を総額90万ウェンで雇用
※ゴードン武器店にて60万ウェン分購入
炸裂弾20万ウェン (1個5000ウェンを40個)
凍結弾40万ウェン (1個2万ウェンを20個)
【残弾】
炸裂弾70発
凍結弾60発
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ブライアン農場がここまで歓迎してくれるとは思わなかった。
先日の駆除では確かに再訪を約束したが、まさか5日後に手勢を連れて来るとは思っていなかったらしい。
ずっと魔物退治を冒険者ギルドからも農協からも請けて貰えなかっただけに、感無量であるそうだ。
冒険者達は貴族の農地を優先する。
幾ら官歴が長くとも、所詮は平民に過ぎないブライアン農場主などは、タライ回しの後回しである。
「コリンズ君よ。
糞亀共の絶滅って可能?」
『絶滅は難しいかも知れませんが、古池の水は抜けるかも知れません?
何とか接近して、あの池を空池にしてしまいたいんですよね?』
「そう見えないかも知れないが人工池だ。
陶器製の蓋材さえ砕けば、時間は掛かるが空に出来る。」
俺はダグラス組を振り返る。
《簡単では無いが、時間を掛ければ出来なくもない。》
との反応。
まあいい。
実は俺、この農場の事はどうでも良くて
レベリングを楽しみたいだけなんだよなあ。
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『じゃあ皆さん!
レベリングの世話、お願いします!!』
「ああ、安心しろ。
ちゃんと介護してやる。」
今日は全弾投げる!
腱鞘炎対策にヒルダが考案したポーショングローブも使う。
説明しよう。
ポーショングローブとは、細長い傘立て壺を厳重に補強し中にポーションを満たした道具だ。
密閉式の蓋のおかげで馬車運搬も可能だ。
少しでも手が痛くなれば、ポーショングローブに腕を突っ込んで回復を図る算段だ。
よし!
《崖下のジャイアントタートルに凍結弾を投げ続ける作戦》開始だ!!
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凍結弾10投(殺害数9)
↓
小休止
↓
凍結弾10投(殺害数14)
↓
小休止
↓
凍結弾10投(殺害数22)
↓
ファンサービス 凍結弾10発の投擲権を皆に譲渡
↓
凍結弾10投(殺害数5)
↓
凍結弾10投(殺害数11)
※合計殺害数61
※総取得経験値48800
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よし、レベルアップした。
保険として護衛を連れて来たおかげで、投擲に集中出来た。
何よりヒルダ謹製のポーショングローブ、最高だな。
流石は凄腕冒険者の妻であっただけの事はある。
皆に小休止を提案。
俺はポーショングローブに手を突っ込んだまま、差し入れのサンドイッチを貪る。
あまりに行儀の悪い犬食いを見かねたダグラスが若衆(俺より年上)に食事介助を命じる。
ゴツイお兄さんに口を拭いてもらったり、《あーん》をして貰ったり…
シュールな絵面になってしまった。
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【ステータス】
《LV》 14
《HP》 (3/3)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 2
《幸運》 1
《経験》 90967
次のレベルまで残り72089ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利14%
下4桁切上
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よし。
炸裂弾70発。
危険は上がるが、ジャイアントタートルとの高度差が少ない池の東側に回って投げるか…
護衛にも役に立って貰わないとな。
『グリーブさん。
この高さ、亀共が昇って来そうでこわいんですけど。』
「ああ、通常は登って来ないんですが…
興奮すると、来てもおかしくはないですね。」
『皆さん、角度的にジャイアントタートルが向かってきてもおかしくはないんですが…
ガードお願い出来ますか?』
護衛連中が軽く得物を挙げて同意を示す。
恐れたり気負ったりする様子も無いので、実に頼もしい。
『炸裂少年、行きます!!!』
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炸裂弾10投(殺害数4)
↓
炸裂弾10投(殺害数2)
↓
小休止
↓
炸裂弾10投(殺害数11)
↓
炸裂弾10投(殺害数5)
↓
小休止
↓
炸裂弾10投(殺害数6)
↓
小休止
↓
炸裂弾10投(殺害数13)
↓
小休止
↓
炸裂弾10投(殺害数4)
※合計殺害数45
※総取得経験値36000
《経験》 126967
次のレベルまで残り36089ポイント。
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「コリンズよ。
凍結弾に比べると、炸裂弾の殺傷能力はやや落ちるな。
或いはもう1レベル上がるかもと思ったのだが…
残念だったな。」
『確かに残念ですが、そこまで欲張ってません。
お気遣いありがとうございます。』
口ではそう言ったものの、残念でも何でもない。
俺の複利は経験値にも適用されるのだ。
このまま何もしなくても、数日後には経験値配当のみで15レベルに到達する。
まあ、これこそが秘中の秘なので当然伏せるが。
その後、護衛達が弱ったジャイアントタートルを狙って息の根を止めて行く。
「トドメを譲ろうか?」とも聞かれたが、不慮の事故が怖いので遠慮しておいた。
俺は安全圏から出るつもりはない。
殺戮劇は小一時間程で終わった。
元気な生き残りもまだ何匹か居るが、間引きには成功したと見ていいだろう。
結局、護衛達が倒したジャイアントタートルは22匹。
「トドメを刺しただけだから」と遠慮はされたが、事前に俺が独自に設定した報奨金を支払う。
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【所持金】
7億5370万ウェン
↓
7億5170万ウェン
※護衛チームに討伐支援報酬として220万ウェン支払
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「コリンズ君…
これでは私が貰い過ぎだ。
それに討伐チップまで譲ってくれるのだろう?」
『あ、いえ。
譲るも何もグリーブさん達が討伐したのは事実じゃないですか。』
「いや、我々が池に降りた時には殆どの大亀が爆風で負傷していたし。
何より、轟音で恐慌状態にあった。
我々こそトドメを刺しただけだ。
君が支給してくれたポーションのおかげで怪我をあまり気にせず伸び伸び動けたしな。
ダグラス君はどう思う?」
「同感だな。
戦闘という意識は無かった。
7割方仕事が終わった後の残務処理という感覚だ。
カネを貰えるのはありがたい。
素直に感謝している。
ただ、グリーブ社長の言う通りだ。
貰い過ぎは後味が悪いな。」
『じゃあ、今後まとまった経験値が入手出来そうな状況になったら俺に売って頂けませんでしょうか?
他のみんなには内緒で譲って頂けるとありがたいんです。』
そこまで言って、ようやく護衛達は納得してくれた。
こちらとしても問題はレベリングの頭打ちだ。
レベルアップは必要経験値が段階的に倍増していくのだが、正直頭打ち感はある。
皆も下記の表を見てみて欲しい。
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「レベルアップへの必要経験値」
1から2 10ポイント
2から3 20ポイント
3から4 40ポイント
4から5 80ポイント
5から6 160ポイント
6から7 320ポイント
7から8 640ポイント
8から9 1280ポイント
9から10 2560ポイント
10から11 5120ポイント
11から12 10240ポイント
12から13 20480ポイント
13から14 40960ポイント
14から15 81920ポイント ←今ココ
15から16 163840ポイント
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レベル15には数日で到達出来るのだが…
以降は必要経験値が10万を越える。
俺には複利があってレベリングがかなり有利とは言え…
一種の停滞感は予感させられている。
俺は農場主ブライアンとの事後処理を終えて帰路に就いた。
周辺のウルフを殺して回っていた。
護衛達は顧客サービスと主張していたが、単に暴れたりなかっただけだろう。
殺生は手応えあってこそ楽しいのだ。
《1億524万ウェンの配当が支払われました。》
丁度、胡桃亭の玄関を跨ごうとしたタイミングで聞き慣れたアナウンスが脳内に響く。
おお、ついに億越かぁ…
流石に感慨深いな…
この状態を保てば、1日1億以上ずつ増えて行く。
ペースがかなり上がって来たな…
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【所持金】
7億5170万ウェン
↓
8億5694万ウェン
↓
8億5600万ウェン
※1億0524万ウェンの配当を受け取り。
※妻実家に94万ウェンを生活費として納入
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その日はヒルダに生活費を納めてから寝た。
【ステータス】
《LV》 14
《HP》 (3/3)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 2
《知性》 3
《精神》 2
《幸運》 1
《経験》 103703
次のレベルまで残り59353ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利14%
下4桁切上
【所持金】
8億5600万ウェン
※カイン・R・グランツから3億ウェンを日利1%で借用
※ドナルド・キーンから2億ウェンを日利1%で借用