【降臨79日目】 所持金2億4844万0533円 「ねんがんのスマートフォンをてにいれたぞ!」
地球に帰還さえ出来たら勝確!
そんな風に思っていた時期もあった。
だが、実際はその逆。
完全に追い詰められている。
まずカネが無い。
何度数え直しても手元に2億強しかない。
俺の能力が財力特化であるにも関わらず、この体たらくである。
次に、地球で集めた仲間と切り離されてしまった。
俺の思い上がりかも知れないが、かなり信頼関係を築けていたメンバーなのだ。
残念ながら、今では皆の安否すら不明である。
そして何より日本全国に敷かれた指名手配網。
警察とヤクザの両方が俺を探している。
流石の俺も故郷で賞金首になるとは予想していなかった。
思えば、異世界では恵まれていた。
ダン・ダグラス。
カイン・D・グランツ。
ドナルド・キーン。
ケネス・グリーブ。
王子フェルナン。
頼もしい仲間達が常に俺の周囲を固めてくれていた。
俺が生き抜けたのは、ひとえに優秀な仲間に恵まれたおかげである。
…優秀と言えば、ヒルダ・コリンズ。
あの宿屋の未亡人が無双し続けて、王国も帝国も教団も悉く滅ぼしてしまったからな。
勲功に順位を付けるとするなら、満場一致であの女が選出されるだろう。
そんな化け物が地球に来ちゃったからなぁ。
案の定、1年で官邸を侵食。
NATOを完全に味方に付けてしまった。
誰かアイツを何とかしてくれんかな。
…鷹見をぶつける腹案もあったし、現に殺し合いにまで発展してくれたのだが、アイツら不死身だから嫌になる。
そして、その鷹見が何故か俺が潜伏している茨城県にやって来た。
しかも俺のアジトがある土浦市内をグルグルと回っているようなのである。
…なので、隠れ家にすら帰れなくなってしまった。
配信画面からニャガニャガと不快音が聞こえる度に胃が痛くなる。
本当に参った。
手元に使える駒が無い状態であの狂獣と鉢合わせたら…
想像しただけで寒気がする。
孝文か江本を側に置き続けておけば良かったなぁ。
俺はリビングを見渡しながら、内心後悔する。
あーあ、今思えば四天王って最高のメンツだったよな。
いや、別に今のメンバーにゴチャゴチャ言う気は無いんだけどさ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【児玉繭子】
千葉の夜逃げ屋。
旦那の目が離れた瞬間に弾け始めた。
勝手に米国債増やすのヤメロ。
(それ真珠湾よりもエグい奇襲だぞ。)
【福永史奈】
大学8年生?
休学中?
見た目30代だが…
年齢不詳の怪女
【野上絵麻】
色々やらかしまくって離婚調停中。
《ダイエットを明日から始める》と毎日言ってる。
食べる姿には浅ましいながらも愛嬌がある。
俺のオキニ。
【久能木瀬里奈】
ジャンジャンバリバリ!
周囲曰く、俺の所為で脳が焼き切れてしまったらしい。
『じゃあ、何で他の豚共は普通に喋れてるんだよ!』
と強く抗議したい。
ギャグキャラみたいな振る舞いをしているが、冷静に考えれば旦那の6000万円をFXで溶かしたマジモンの屑である。
【桂川風香】
旦那の貯金をFXとホスト通いで溶かした上に托卵が発覚して逃亡中。
今の所、何一つ褒める箇所が見つからない女である。
瀬里奈と旦那から盗んだ金額を自慢し合っていた時は、心底寒気がした。
嘘か実かパチンコ銀行に1億円以上預金しているらしい。
【木下樹里奈】
13歳の東横キッズ。
最初出逢った時はOLさんか何かと思ったほど大人びていた。
ヒルダから側室資格とスキルを貰った癖に平然と出奔している。
(ちなみにヒルダはこういうふざけた女が大好きだ。)
彼女が手に入れた【ステータス閲覧】は、一見地味ながらも洒落にならないチートスキル。
この地球上で彼女だけが自身の状態・能力を視認可能。
本人の上昇志向・若さ・スペックの高さと非常に噛み合っている。
鷹見を嫌ってる癖に日に日に鷹見化している女。
【古河槐】
13歳の東横キッズ2号
母の愛人を殺害した13歳。
ステータスの概念を知ってからは、見えないながらも推測と緻密な記録でレベリングしている。
最初会った時は本当に普通の女の子だったが、
今の彼女は普通を遥かに上回っている。
俺の子供を妊娠しているらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺が女性化してしまっているので完全に女所帯。
異性の目がない所為か、アホみたいに散らかっている。
どれだけ注意しても豚共が散らかすので、俺が渋々掃除している始末。
この面子ではヒルダ・鷹見をどうこうするのは不可能だよなあ。
もう少し信頼出来るパーティーメンバーが欲しい。
誰か居ないかな。
「リン子には私が居るじゃない♪」
『うーーん。
繭子さんですかぁ。』
「アンタねえ、チームビルディングに高望みし過ぎなんだよ。
私で妥協しておかないと泣く羽目になるよ。」
『いやあ、ははは。
ところで米国債増やすのやめません?』
「えー、もう少しだけ米国債欲しーい❤」
『もう少しってどれ位ですか?』
「後10年❤
10年だけ口座に入れて♪」
あー、アメリカ滅びたな。
参ったなぁ。
分配が終わるまではドルインフラに破綻されちゃ困るんだけどな。
まあ仕方ない。
孝文辺りに別の方法を考えさせよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ねえ、リン子ぉ!
腹減ったぁ!」
『絵麻さん。
昨日は《もう食べられない》って言ってたじゃないですか。』
「ウンコしたら腹が減った。」
『シンプルな構造で羨ましいです。』
「いやあ、ガハハww」
『褒めてないですけどね。』
絵麻が騒ぎ始めると、残りの豚共もトイレに入り、出て来た順に箸で湯呑を叩いて空腹を主張する。
前世でどんな善行を積んだら、ここまで幸せになれるのか不思議で仕方ない。
『エンジュは何か食いたいものあるか?』
「水戸嵐さんの食材で何か作るよ?」
『料理とか出来たっけ?』
「出来ないよ。
でもjetが《しない奴は一生出来ない》って言ってた。」
『アイツ、結構いい事言うよな。』
「jetもリンの事、評価してたよ。
《アイツ、結構いい事するよな。》
っていつも褒めてた。」
『…それは光栄だね。』
「で?
この中で料理出来る人、居る?」
絵麻・瀬里奈・風香がいつの間にか姿を消した。
毎度の事だが、アイツら家事分担の話題になった瞬間に気配を消すよな。
専業主婦経験がある癖に、その名残が見えたことないし。
木下とエンジュが今ある材料で作れるレシピをタブレットで検索し、寄せ鍋を作ってくれた。
殺人レベリングに勤しんでいるだけあって、実に【器用】な手並みである。
『なあ、樹理奈。』
「んー?」
『何で料理するのにステータス画面を開いてるの?』
「経験値になっても不思議じゃない場面でしょ。」
『え?
料理で経験値入るの?』
「作業系は極稀に微増してるんだよ。
だから、今は検証中。
法則を発見出来れば、今よりコスパのいいレベリングが出来るからね。」
『結構、色々考えてるんだな。』
「レベリングは知力も上がるからね。
本当に最近だよ、筋道立てて物を考えられるようになったのは。」
『どう?
物を考えられるようになってから見えるヒルダ・コリンズは。』
「立ち回りが神懸ってるね。
ヒルダの動きは日本の国益と完全に合致してる。
だからリンが何やっても、最終的にあの女に勢力ごと吸収されちゃうと思う。」
『樹理奈が言うならそうなんだろうな。』
「日本って良くも悪くもシーパワーの国なんだよ。
だから英国協調が一番上手く行く。」
『…英国協調かぁ。』
「まだ分からない?
ヒルダはリンの英米嫌いに付け込んで、外堀を埋めてるんだよ?
この先何があっても岸田やバイデンはヒルダの肩を持つと思う。」
『…だろうな。
いやあ、つくづく驚かされるわ。』
「今更何言ってんだか。
異世界に居た頃から、ヒルダってあんな感じだったんでしょ。」
…ヒルダもそうだが、木下の成長ぶりに驚かされている。
ついこの前までは、社会情勢とは無縁の単なる東横キッズだったのにな。
まあ、それもそうか。
今の木下の知力・精神力は数値だけなら大学教授並だ。
ハートランド理論を口にしても不自然じゃないよな。
「ジャンジャンバリバリ―!!」
料理が出来た頃合いになって、どこかに隠れていた豚共が出現し再び箸で湯呑を叩き出した。
…コイツラ、本当に13歳組の教育に悪いよな。
自炊に文句を言ってた絵麻は隠し持っていたピザポテトと寄せ鍋を同時に貪り、腹の膨れが目視可能なまで食べると幸せそうな笑顔でソファーに寝転んでしまった。
『絵麻さーん。
そんなに腹が膨れるまで食べても仕方ないでしょう。』
「えー、これはリン子の赤ちゃんだよお。」
『そうなんですか?』
「昨日の晩、あれだけ妊娠したじゃんww
ガハハハハハww」
やれやれ。
品性の欠片もない女である。
他の豚共も腹をポンポン叩きながらニヤニヤ笑ってやがる。
ってオイオイ。
13歳組も真似し始めた。
何で子供って反面教師からしか学ばないんだろうな。
…いや、この2人は学習意欲があるだけ立派だよな。
何だかんだで貪欲に成長を遂げている。
2人の姿勢を俺も見習わなければならない。
…俺にとっての教師や反面教師って誰なんだろうな。
「ニャガー! ニャガー!」
画面の中からは相変わらず不快な雑音が流れ続けているが、目を背ける事は出来ない。
鷹見一派の動向と俺の命運は直結してるからな。
「いや、朝も言っただろ。
今夜は都内に居る必要があるんだよ。」
「カネクレーダーが反応してるニャ!
奴は茨城のどこかに隠れてる気がするニャ!
持って来た手錠を使いたいニャ!」
「それって…
倒錯企画さんの撮影で使った小道具だろ?
どこも苦しいんだから現場の備品盗むなよ。
後で詫び入れとかなきゃ。」
「ニャニャニャ。
トイチ退治に使えると思ったニャ。
ここらに潜伏してる気がしたから!
止むなく借りパクしたニャ。」
「だから。
周りに迷惑掛けるなよ。
奈々の勘はアテにしてるけどさ。
そんな漠然とした根拠で予定崩せないんだよ。
兎に角、この配信終わったら帰るぞ。」
「…わかったニャ。」
「気持ちは分かるが、ここは堪えてくれ。
スポンサーとの兼ね合いもあるんだよ。
じゃあ三橋。
プレゼントコーナーのテロップ流して。
奈々、告知するぞ。」
「…ニャ。」
おお。
これは朗報だ。
どうやら鷹見一派は東京に帰ってくれるらしい。
俺は思わず胸を撫で下ろす。
やれやれ、長逗留されたらどうしようと悩んでたが、案外早く立ち去ってくれたな。
これで土浦に戻れる。
土浦を拠点に、江本・孝文・繭子にカネと情報を集めさせて…
そして東京帰還作戦だ!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
相模から出航した福田魁は既に舘山での補給を終えて、大洗を目指しているとの事。
マリーナへの予想到着時間は17時。
「うーん、17時かぁ。
どうする?」
『ここで発動してから向かいましょう。
流石に施設で札束出すのは怖いです。』
「だね。
じゃあ、福田社長には少し待って貰おう。
グループLINEに送っとくわ。
それにしても有村社長の気遣いは本当に助かるわ。」
目を離すと繭子が外貨をコロコロ転がすからな。
外でマイナー硬貨を落っことしてしまったら、騒ぎになってしまうだろう。
もう少しカネが溜まって居れば海路から東京上陸を狙うんだがな。
2億では何も出来ない。
とりあえず今回は船内で福田魁から情報収集。
仲間達の再結集作業について色々と委託するつもりだ。
画面の中の鷹見が驕奢なサロンバスに乗り込む。
そして、しばらくして流れるツイート。
《それでは東京に帰ります。
土浦の皆さんありがとうございました!
次は単独ライブで来させて下さい!》
三橋さんを始めとして優秀なブレーンが付いているお陰だろう。
テキスト上のアイツは随分如才のない発信をするようになった。
今や鷹見は害悪系としては世界的有名人だからな。
収入も安定しているみたいだし、無理にヘイトを買いに行く必要もなくなったのだろう。
鷹見の形式的なツイートに凄まじい速度でRT・いいねが付けられていく。
俺がこの女を恐ろしいと感じる理由の一つが、この理不尽なカリスマである。
繭子が念入りに調査した所、《フォロワーやRT数を買っている形跡は見当たらない》とのこと。
だろうな。
鷹見のツイートに寄せられたコメントの熱量を見ていると、もはやカネで人気を偽装する必要など微塵もない事が伺える。
《夜猫@お疲れさまでした!
また茨城に来て下さい!》
《水戸で居酒屋2店舗経営してます!
立ち寄られる事があったらご馳走させて下さい!》
《AVランキング上昇おめでとう!
これからも全力で推すわ!》
《ルナルナさん握手ありがとうございました!
FANZAで見るよりスタイル良くてびっくりしました!》
《タワレコで夜猫@のPOP見ました!
凄くお洒落ですね!》
《次はさつまいもソフトを是非食べて!》
念の為、鷹見を称賛しているアカウントをチェックしてみる。
1人半グレっぽいアカウントがあったが、後は全員カタギっぽい。
実名で鷹見を褒めているアカウントも珍しくない。
「この子も軌道乗ったねえ。」
『繭子さん。
フォロワー20万って多いんですか?』
「ルナルナにしては少ない。
ただ、凍結や垢BANを乗り越え続けての成果だからね。
この増加ペースを見る限り、100万越えのポテンシャルあるよ、この子。」
『うーん。
まさか鷹見が日本を代表するyoutuberになるなんて…
つい数か月前には信じられない話です。』
「いや、日本代表は男だった頃のリン子だからね?」
『ほえ?』
「まったく。
自分の事には鈍感なんだから。
ほれ、この検索結果見てみ?
《Rising Card 》って打つよ。」
『え? これ私ですか?』
「元々は手品用語なんだけどね。
今、アンタの代名詞になってる。
世界中のアスリートやマジシャンが、ライジング・カードの再現を試行錯誤してるところ。
今の所、再現性が高いのはナイジェリアのアヨ・アチュワとフィリピンのハメス・デラクルス。
この2人が双璧とされている。
余談だけど、アチュワはハードル走で、デラクルスはボクシングで、それぞれ五輪出場している。
ただ2人とも、鳥は1羽も落とせていない。」
…まあ、トランプで鳥が落とせる訳ないからな。
しかし、この2人はスナップだけであんなに高くカードを投げてるのか。
トップアスリートの身体能力って本当に凄いよな。
「ライジング・カードだけじゃないよ。
アンタの言動って色々誇張されて世界に発信されてるから。
特に《レズ処刑発言》の所為でカルフォルニアが大混乱に陥ってるのよ?」
『いや、勝手に言葉尻取って勝手に混乱されても。』
「アメリカのLGBT界隈は、アンタの離間策だと考え始めてるのよ。
今、あの国に行っちゃ駄目よ?
飛行機降りる前に射殺されちゃうから。」
…まあ、米国債の件もあるしな。
射殺程度で済ませてくれるとは到底思えない。
そりゃあね、自国の国債を勝手に刷ってる奴なんて許せる訳ないよね。
「という訳で!
そろそろ国債タイムとなります!
YEEHAW!!!」
『ねえ繭子さん。
予め欲の上限を決めましょうよ。』
「じゃあリン子の獲得総額の半分で!」
『宇宙なんて貰っても仕方ないでしょ。』
「何言ってんだい!
タダなら犬のウンコでも貰っとくよ!」
やれやれ、人の欲は限りない。
「はい、後1分!
気を抜くなよー!」
『私の精神状態と利息って、多分連動していないです。
世の中の賃借契約がそうであるように。』
「貰える側としては良いことよ!」
『だから資本家ばかりが肥え太っちゃうんでしょうねぇ。』
そんな取り留めのない話をしているうちに秒針が鳴った。
《4399万円の配当が支払われました。》
「うははは!!
リン子すげえ!!!
米国債もマシマシだあ!!!」
スマホを見ながら踊り狂っているのを鑑みるに、繭子の口座の米国債も増えたのだろう。
参ったなぁ。
米国も国債残高に関してはかなりヒステリックになっている。
バレなきゃいいのだけど。
アイツらも馬鹿じゃないからな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
2億0945万0533円
↓
2億5344万0533円
↓
2億5044万0533円
※配当4399万円を取得
※児玉繭子に雑費として300万円を支給。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『え?
おカネ、車に積んじゃうんですか?』
「ええ、このリュックに纏めときましょ。
鷹見グループが東京に帰ったみたいだしね。
私達も土浦に帰るからね。
この別荘を借りてるのはあくまで江蘇省からバカンスに来ている李軍雀氏。
そこは忘れないでね。」
…確かに。
滞在が長引けば必ず齟齬が生じる。
そして逃亡者にとっては些細な齟齬が破滅に繋がる、と。
2人で鷹見のSNSを再度チェック。
うん、アイツは都内に到着したようだな。
メンバーと一緒に日高屋で食事をしている画像がアップされている。
背後には凄い数のファンが囲んでいた。
有名人は大変だよな。
「よし、鷹見グループの東京到着を確認。
リン子が福田社長との会談を済ませたら、その足で土浦に帰るよ。」
『了解。
忘れ物チェックだけしましょう。』
案の定豚共がグズるが、そこまで本気ではない。
コイツらや俺の様な貧民は豪華絢爛なヴィラよりも乱雑なシェアハウスの方が安眠出来るのだ。
残念ながら、俺はその事実を知っている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
福田魁。
平原猛人の盟友。
肥後人。
中学卒業後、上京し中古車業界に入った。
半グレなどという言葉が出来る前から、エグい半グレ行為を続けて来た男。
同類の平原猛人とは早くから意気投合しており、共謀してそれなりの数の敵を殺害している。
当然、平原猛人同様に嫌われ者だし、セレブばかりのヨット界では蛇蝎の如く憎まれている。
紹介してくれた有村社長ですら、福田には無表情での黙礼で済ませるだけである。
俺はそんな男の船の眼前に立っている。
「前にも言うたろう。
俺はオカマ野郎がたいぎゃ好かんばい。
九州ん男やけんな、LGBT配慮なんてアホな真似は絶対にせんぞ。」
第一声がそれ。
ゴミでも見るような目で女姿の俺にそう言った。
『安心して下さい。
私の性自認ゎぁ♡
オトコノコなんですぅ♪』
「本当か?
性根まで女になったごつ見ゆるぞ?」
『リン子、男の子ですぅ♪』
「まあ、時間も押しとるし今日はそぎゃん事にしといてやろう。
平ちゃんからもキサンの面倒見るごつ頼まれとるしな。」
『あーん。
平原さんも来てくれると思ってたのにぃ♪』
「ん?
ゆわんだったか?
平チャン逮捕されとるぞ?」
『えー!?
た、逮捕ぉ!?』
ヒルダめ!
そこから攻めて来たか!
「うん。
居酒屋で若者グループと喧嘩になってな。
5対1やけん正当防衛付いたっちゃよかとばってん。
相手ん頭蓋骨砕いとるけんな。
多分、傷害罪コースやわ。」
ヒルダ、ゴメン。
そう言えばあの人、マジモンだったわ。
『弁護士さんとか何をしてるんですかぁ?
もっとちゃんと弁護してくれなきゃ困りますよぉ、ぷんすこ!』
「違う違う、身元保証人と連絡が取れんけん。
たいぎゃ不利になってしもうたったい」
『えー!?
まったく、身元保証人さんは何をしてるんですか!
リン子、おこです!』
「…キサンばい。」
あ、忘れてた!
俺、平原猛人の身元保証人だったわ。
あー、参ったなぁ。
あのオッサンも身元保証人が逃亡中に騒動起こすなよなぁ。
「まあ、そぎゃん訳で平チャンの忘れ形見(まだ死んどらん)になってしもうたけど。
ほい、預かっとったスマホ。
大切に使えやー。」
『あ、いいんですか?
あの人掴まってるから、契約とかおカネとか…』
「子供がそぎゃん事気にせんちゃよか。
《年頃ん息子にスマホん1つでも持たせてやっとが親心。》
アイツ、そう言いよったぞ。」
『…なんか照れます。』
「そんスマホ。
キサンが口ば割らん限り平チャンには辿り着かんごつなっとる。
たいぎゃヤバかルートで用意しとるけん、出所は絶対に言いなすなや。
技適は通っとるけん安心せー。」
『福田さん。
何から何までありがとうございます。』
「勘違いしなすな。
キサンには関係なか。
平チャンとん義理や。」
面倒くさそうに言いながら福田は俺にスマホを手渡した。
よし、ねんがんのスマートフォンを手に入れたぞ。
…これで地球で俺に勝てる存在が消滅したと言っても過言ではない。
俺は目を瞑り、今までの苦労やトラブルを振り返る。
なんのことはない。
全ての問題は、皆が持っているスマホを俺だけ持ってない事で生じていたのだ。
そしてスマホを手に入れた今!
俺は無敵だ!
『よーし、これで一気に…』
「リン子! 大変だよ!」
『…何ですか繭子さん。
せめて良いニュースから聞かせて下さい。』
「…大谷翔平がまた記録を作った。
多分、年内にもベーブ・ルースを抜く!」
『おお!
流石は大谷選手です。
いやあ、同じ日本人として誇らしいですね。』
「そして悪いニュース。
この港に近隣のヤクザ・半グレが押し寄せている!」
『…え?』
「更に悪いニュース。
その群れのリーダーは真性のキチガイ。
話が一切通じない、人間ですらない!」
『いやいやw
繭子さん、嫌だなあw
ここは地球ですよw
人間ですらないってw』
「ニャガーーーーーーーーッwwww」
『え?
今の鳴き声って。』
「オラオラオラ!!
邪魔する奴はぶっとばすニャ!!」
『…。』
「リン子!
アイツら押し入って来た!
早く船に戻って!
福田社長!
帰路にこの子も乗せてやって下さい!」
「御用改めだニャーーー!!!
抵抗する者は抹殺するニャ!!
ほーら、ヤクザ君達!
高い傭兵料払ったんだから、ちゃんと探すニャ!
抵抗する者はぶっ殺せニャ!」
「いやいや、奈々姐さん。
昭和じゃあるまいし。
そんな乱暴な事は出来ませんよ。
あくまで家出人の保護!
人道上の救命行為!
その線は崩せませんからね!」
「えー。
志倉の身体を好きにしていいから
アクションシーン見せて欲しいニャ。」
「いやいや、姐さん。
このご時世にアクションしちゃったら!
組も無事じゃいられないんですよ。
それにしても…
本当に遠市さんが居られるんですか?」
「奈々ちゃんのカネクレーダー!
その的中率は1000%だニャ!」
嘘だろ?
職員が何人か殴り倒されたぞ。
え?
暴対とかどうなってるの?
今、令和だよな?
アップデートしようよ!
「ニャガーーーwww
ニャガーーーww
クンクンクン、臭う臭うニャ!
この港からぁ!
糞トイチの臭いがぁ!
ビンビンするニャぁッ!」
「リン子!
あいつら桟橋まで入って来るつもりだ!
時間がない、このカネは船に積みな!!」
『え、いや、そんな。』
「迷ってる時間はない!
あそこの組は茨城でも有名な武闘派集団だ。
アンタが思う程甘い相手じゃない!」
船を降りる寸前だった俺はカネの詰まったリュックを渡され福田のクルーザーに押し戻される。
『繭子さん!
メンバーは!』
「わかってる!
旦那と合流して全員で潜伏する!」
『皆さんの生活費とかは?』
「米国債がある!」
『えー、心配だなあ。』
「多分足は付かないから大丈夫!」
『いや、米国経済を心配してるんですよ。
変なトリガーにならなきゃいいんですけど。』
結局、繭子は豚共と13歳組を引率し千葉に戻る手筈に。
児玉夫妻がコンビネーションを発揮すれば、大抵の問題は解決可能ということ。
「ギャロさんに伝言ある?」
『約束は必ず守る!
そう伝えて下さい!』
「りょーかい。
必ず伝えると約束する。」
「ニャガ―ww ニャガ―www」
「近づいて来たね。
福田社長、すぐに離岸して下さい!」
「わかった。
遠市、出るぞ!」
繭子と話をしている間、福田のクルーはロープを外し出航体勢を整えていたようだ。
俺がデッキに飛び乗ったと同時に船は桟橋を離れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
我が国が誇る高級車ブランド・レクサス。
ヒルダもその高性能ぶりを熱く語っていた。
無論初めて知ったのだが、レクサスはクルーザーも出しているらしい。
全長:19.94m
全幅:5.76m
重量:33.3t
客室数:3部屋(ベッド6名対応)
その名もLY650。
嘘か実か小売り価格が4億円を越えているらしい。
もっとも、反社の福田はダーティーな手口を用いて格安でこの高級クルーザーを手に入れたらしい。
ヨット界で嫌われるのも妥当なところである。
これだけの大型クルーザーとなると一人では運転出来ないので、福田は2人のクルーを連れて来ている。
クルーと言っても福田の舎弟。
あからさまに堅気ではない。
相当な経費が掛かっているのは明白なので謝礼を支払おうとするも無表情で拒絶される。
代わりにクルーへのチップを提案すると子供の様に破顔して快諾してくれたので、そういうツボを持った男なのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
2億5044万0533円
↓
2億4844万0533円
※福田船のクルー2名に計200万円をチップとして贈呈。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、ようやく手に入ったスマホである。
早く使い方をマスターして逆転の端緒にしなければ、と思ったのだが。
あれ?
通電している筈なのに、立ち上がらないぞ?
『ん?
電源は入ったけど。
画面が起動しない?
初期不良?』
「今時ん機器でそぎゃん事あるか?
上陸したら再起動してみぃ。
今は海上やけんな。
まちっと陸地に近づけば電波も入るて思うばってん。」
『あ、なるほど。』
釈然としないが、貰い物なので文句も言えない。
仕方なくスマホの説明書を読んでいるとバッドニュース。
「…今、あちこちんヤクザが関東ん港ば探し始めたらしい。
今、磯子に帰るとは危険ばい。」
『やめといた方がいいですか?』
「相模は鷹見夜色んホームや。
やけん地元ん組員には熱狂的な鷹見シンパの多か。
わかるやろ?」
『…はい、相模方面は諦めます。』
「茨城県内ん水域はマズか。
一旦、北上するぞ!」
ここはLY650のキャビン。
純白のソファの前にはピカピカに磨かれたローテーブル。
冷やされたシャンパンがあると言う事は、強襲さえなければ今頃ささやかな一席を設けてくれていたのだろう。
「今、那珂アリーナん真横ば航行中なんやけど。
水戸ん河口やけんな。
ここは通過して茨城ん水域ば抜くる。
…仙台なら土地勘はあるとばってん。
アソコん組は親鷹見派揃いで有名やけんな。」
「オヤジ!
背後から正体不明の高速船が接近!
サーチライトをグルグル回してる!
絶対カタギじゃない!」
舵を握っていたクルーが叫ぶ。
「こっちも全速で北上!
距離ば取れ!」
続いて操舵室からの第二報。
仙台のマリーナに地元の半グレやヤクザが押し掛けて騒ぎになっているとのこと。
どうやら立ち入り捜索を要求しているらしい。
「今、入港するのはマズか。
もう少し沖に出てやり過ごするか…
うんにゃ、今日は波が高か。」
結局、背後の船影が更にもう一隻増えたので、無灯火航行でやり過ごす事となる。
かなり危険なので絶対に取るべき選択肢ではないようなのだが、背後の船舶に拿捕される方が危険とのこと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
岬を迂回しながらスマホも含めた全照明を消してから沖に出る。
「こら密漁する時んシフトやけん絶対に真似しなすなや?」
真顔で言われたので素直に頷いてしまったが、冷静に考えれば福田は密漁もシノギにしているという事である。
このオッサン、悪い事ばっかりしてるな。
15分後。
サーチライトをあちこちに照らしながら高速航行する船舶が2隻通過。
福田曰く、《密漁用にカスタマイズされている》とのこと。
あまりにも世の中に犯罪者が多い事に驚かされる。
「大洗もマリーナん周辺が不審車両に包囲されとるげな。
戻るとは自殺行為ばい。」
『北も駄目、南も駄目。
どうしましょう?』
「…よし、キサンここで降りれ。」
『はい?』
「あそけ突堤が見ゆる。
つまり文明があるて言う事や。」
陸を見れば、巨大な施設の影が薄っすらと闇に浮かんでいる。
工場か何かであろうか?
『あそこの工場に降りるんですか?』
「ああ、工場があるちゅう事は朝になれば通勤して来る奴もおるし。
夜勤者も退勤する。
あわよくば近所に集落がある。
うんにゃ、太平洋側ちゅう事は…
確か海沿いに鉄道が通っとった筈!
よし、遠市!
キサン、何とか駅に辿り着け!
着いたら…
茨城は危険ばい…
よし、仙台ば通過して山形に行け!」
『え?
や、山形ですか?
土地勘ないですし…』
「やけんよかたい。
追手が推理しにくか!
俺も仙台に停泊次第、そん足で山形入りする。」
福田は素早くそう決めると自身や平原猛人の電話番号を教えてくれた。
本来ならスマホに直接登録するそうなのだが、画面が立ち上がらないので紙のメモに書いてくれた。
『こ、こんなに暗い中で上陸するんですか?』
「アホ!
ノルマンディに行った連中は機銃掃射ば掻い潜って命懸けで上陸したったい!
そればキサンは何や!
男ん癖に女んごたる恰好して!
心まで女になったか!」
『い、いえ。
多分、私の性自認は男だと思うんですけど。』
うん、戸籍にも男って書いてる筈だし。
俺って男だよな。
だって皆からも男って認識されたし。
あ、でも、今は女扱いされてるのか。
いや、俺は男だよ。
性自認に揺るぎはないですぅ!
「男なら危なか橋ば渡って当たり前!
勝つ為にはリスクば負うて当たり前!
俺も平チャンも修羅場潜り抜けて今がある!
キサンも男なら腹ばくくれ!」
『…はい!』
「よし、よか返事や。
外は寒かろうけん、これば着とけ。」
福田は着ていた厚手のマリンコートを着せてくれる。
そして2.5億のリュックを無理矢理背負わせる。
25キロの負荷。
その重みに軽く心が折れる。
恐らく俺に歩兵は務まらない。
「よかね!
何とか線路に辿り着け!
ヒッチハイクかタクシー。
出来れば女ん運転手に乗せて貰え。
駅に着いたら仙台ば通過して山形。
スマホん調子が悪かごたるばってん…
人に借るなり、公衆電話見つくるなりして俺に掛けて来え。
合流ポイントは山形駅周辺!
出来るな!?」
『はい!』
福田は再度周囲を素早く見渡すと俺を突堤に放り投げ、そのまま無灯火で走り去ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
長い長い突堤。
その先には陸があり、巨大な工場らしき建物が浮かんでいる。
周囲は洒落にならない轟音が渦巻いている。
風音と波音が混じり合っているのだ。
今、はっきりと太平洋の荒波が俺の命を脅かしている。
…風が強い。
いや、これは突風だ。
海に落ちたら一発アウトだろう。
背負ったリュックの重みがなければ吹き飛ばされていたかも知れない。
早く線路に辿り着かなければ。
轟音に怯えながら、俺は腰を屈めて突堤の根元を目指して歩く。
落ちたら死ぬ、落ちたら死ぬ、落ちたら死ぬ。
リュックの異常な重さは憎々しいが、この重みが俺を転落から守ってくれているのは確かだ。
おかしい、何故ここまで追い詰められている?
これだけの能力を持ちながら全く活かせていない己の愚かさにはただ呆れるばかりである。
風が少し収まったのでふと思いついて再度、スマホの電源を入れる。
おかしい、電源ランプは点いているのに画面が立ち上がらない。
何だ?
最初に起ち上げる時ってこういうものなのか?
単なる初期不良?
それとも電池残量が足りないだけ?
参ったな。
繭子達にもう少し詳しい事を聞いておくんだった。
《ザー ザー》
受話口から異音が聞こえているという事は、電源は入っているのだろう。
おかしい、繭子や寺之庄のスマホはこんな起ち上げ画面じゃなかった。
初期設定が必要なのだろうか?
歩きながらそんな事を考えている時だった。
「お嬢さん、こんな夜更けにどこに行くつもりですかニャ?」
『ッ!?』
不意に背後から声を掛けられ、心臓が止まるような驚愕を感じる。
松村奈々!?
え?
どうして、この女がここに居る?
やり過ごした船とは別の船に乗っていたのか?
「いやあ、夜風が冷たくなって来ましたニャぁ。」
『…そうですね。』
声色は優し気だが、その手には長物が握られている。
長刀? 鉄棒?
松村の背後には…
無灯火船!
しまった波音で接近に気付けなかった。
「姐さん! ここだけはマズいです!
日本で一番ヤバい場所です!
ウチの組だけじゃ済まないですよ!」
「わかったニャ!!!
ヤクザ君達は南の浜で待機ニャ!」
「いや!
あそこの浜もマズいんですって!」
「少しだけ!
少しだけ!
ここで待ってろニャ!」
「姐さん! 北から船影接近!
ヤバいッ! 海保です!!!」
「…ああ、どいつもこいつも使えないニャ!
わかった!
一旦那珂まで戻れニャ!」
「すぐ車回しますんで、スマホの電源入れておいて下さい!」
言い終わるよりも早く無灯火船が離岸した。
当然、俺は暴風の中を走って突堤の根元を目指す。
「ニャはははw
お嬢さん!!!
こんな暗い中で何をやっておられるのですかニャ!?」
『夜のお散歩でーす♪』
「ニャははははwww
それは風流なことですニャ。
ところで今、トイチという名前の男を探しているのですが。
お嬢さんは何か御存知じゃニャいですか?」
『えー♪
遠市厘なんて人は知りませんよぉ♥』
「ニャハハハwww」
『うふふふふ♪』
「ニャガハハハハハww」
「あははははは♪」
「『あ(ニャ)はははははははwwww』」
「ってかオメーだよトイチィッ!!!!!」
叫ぶや否や、松村教諭が手に持った長物を投げて来る。
角材?
いや、違う!
鉄パイプッ!!
結構、デカい!
『ぐわぁッ!!』
躱し切れずに眉間に衝撃をモロに受けた。
横風による減衰がなければ顔が砕けていたかも知れない。
松村は悲鳴を上げて逃げる俺を横目で据えたまま、転がった鉄パイプを拾いに戻る。
キチガイの分際で戦闘に関してだけは妙に冷静な女だ。
「賞金ーーーッwwww
賞金ーーーッwwww
いっちおっくえーーんwww
いっちおっくえーーんwww
ニャガーーーーーーッwwwww
ニャガーーーーーーッwwwww
ギャヒーーーーwww ギャヒーーーーーwww」
信じられねえ。
あの女、この突風の中を棒を振り回しながら追いかけて来る。
アイツ頭おかしいんじゃないのか?
かなり走って突堤の根元…
クッソ、結構厳重っぽいフェンスが張ってある。
何だ? 貴重品を製造する工場なのか?
暗くてよく見えないが《立ち入りを禁ずる》的なニュアンスの警告があちこちに貼られていた。
月明りが《警告》とか《刑事訴追》という文字列を照らしている。
ヤバい、多分この工場。
余程の貴重品を扱ってるのだろう。
洒落にならないセキュリティだ!
警備員さんとか都合よく助けてくれないかな。
『くううう!!!
何とかしてみせますぅ!!』
火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、高いフェンスを何とか登り切って内側に落ちた。
誰か褒めてくれ、25キロのカネを背負っての壮挙である。
俺だって結構頑張ってるんだぜ。
光の加減で俺を見失ったのか、松村はニャガニャガ叫びながら反対方向のフェンスを軽々と飛び越えた。
何だあの身体能力は…
『ハアハア。』
荒く呼吸をしながら周囲を見渡す。
物々しい雰囲気。
恐らくは本来立ち入ってはならない場所なのだろう。
施設全体から尋常ではない緊張感が漂っていた。
気が付けば割れた眉間から流れた血が視界を塞ぎ始めていた。
ヤバい、目に入った。
くっそ、何だよこの状況。
『ハア、ハア…』
暴風の中を全力疾走した所為か、体力も体温もかなり削られていた。
木下のようにステータス画面が見えなくて良かった。
気の弱い俺は、激減したHPを見れば心が折れてしまうだろうから。
…くっそ。
何だ、この状況は!?
あれだけ集めた味方はいつの間にか霧散して、今や孤立無援。
地球に帰ってからは、カネも全然増やせずにひたすら逃げ回っている。
そもそも、ここはどこなんだ?
仙台は近いのか?
馴染みがないだけに、頭に東北地方の地図が浮かばない。
西国から帰ったと思ったら、千葉・茨城…
そして次は山形まで逃げるのか?
いや、おかしいだろ。
命懸けでクラス転移から帰って来て、金目当ての担任に襲撃されるとか絶対おかしいだろ!!
なろうのセオリーちゃんと守ろうよッ!!!!
…何故だ?
どうして俺ばかりがこんな目に遭う?
『ハア、ハア。』
マリンコートの袖で止血を試みるが、血が止まる気配は一切ない。
今居るのは施設の窪みのような場所。
あまりの疲労と激痛に思わず横たわる。
ヤバい、今度こそヤバい。
誰か…
くそっ、思考が纏まらない。
どうすればいい?
駄目だ、今の俺では正常な判断が出来ない。
ふと、ポケットの中のスマホの存在を思い出す。
そうか、ここはもう陸だ!
しかも工場があると言う事は、当然電波が届いている筈だ!
よし、ここで再起動して福田にSOS。
判断を仰ごう。
あわよくば今夜中に救援部隊を派遣してくれれば助かるのだが。
『再起動。
これだよな、電源は入ってるよな!
何でだ?
俺が操作間違ってるのか?』
主電源ランプは灯っている。
スマホは起ち上がっている筈なのだが…
《ザー ザー こちら… ザー ザー》
雑音に混じって人の声が聞こえる。
何だ?
既に福田魁に繋がってるのか?
色々ボタンを押したから繋がってくれたのか?
じゃあ何故通話画面が開いてない?
『あーあー、こちら遠市!
福田さん! 聞こえますか!
追手から襲撃されて負傷してます!
出血が止まりません!
救援をお願い出来ませんか!
こちら遠市! こちら遠市!』
声を押し殺して必死に叫ぶ。
人生で最大の祈り。
繋がれ! 繋がれ!
通じろ! 通じろ!
《ザー ザー なのか? ザー ザー》
おっ、何やら聞き返して来る気配。
こちらの音声は何とか届いたらしい。
もう少し大きな声でSOSを求めたいが…
松村に見つかりかねないからな。
『すみません。
追手に見つかりますので、これ以上の音量は出せません。
兎に角。
大至急、大至急助けて下さい。
キチガイに追われてるんです!』
《ザー ザー ザー》
福田もまだ海上だろうからな。
電波は拾えないのだろう。
通話口の向こうに気配は感じるのだが、繋がらんな。
『ああ! もう!!!
何でもいいから繋がれよおおお!!!!!』
俺がそう叫んだ瞬間だった。
今まで一切反応しなかった画面が明るく灯る。
画面に映っていたのは、福田魁ではなく。
『…嘘、どうして貴方が?』
「え? その声?
ひょっとして…」
『…。』
「…。」
『ポールさん!?』
「リン君!?」
スマホ画面の向こうに居たのは、忘れもしない面白オジサンのポール・ポールソンだった。
何たる奇跡。
もう2度と会えないと思っていたが、宇宙の果ての友と再会出来た。
いや、現在の危機から脱出する役には絶対に立たないんだろうけどさ。
【名前】
遠市・コリンズ・リン子・厘
【職業】
ホステス
パチンコ台
神聖教団 大主教
東横キッズ
詐欺師
【称号】
淫売
賞金首
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 21
《HP》 ぐぇぇ…
《MP》 ぞいっ♪
《力》 メスガキ
《速度》 小走り不可
《器用》 ライジング・カード!
《魔力》 悪の王器
《知性》 奸佞邪智
《精神》 絶対悪
《幸運》 的盧
《経験》 1672万7297
本日取得 0
本日利息 290万3085
次のレベルまでの必要経験値424万4213
※レベル22到達まで合計2097万1510ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定
※クジラの経験値を13000と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利21%
下4桁切り上げ
【所持金】
2億4844万0533円
33万BTC (下4桁切り上げ)
↓
40万BTC
13万XRP (下4桁切り上げ)
↓
16万XRP
13万SOL (下4桁切り上げ)
↓
16万SOL
※ユーロ・ポンド・ルーブル・バーツ・ペソ・ドルも保有。
※ユーロ・ポンド・ルーブル・ドルの保管権を孝文・j・Gに付与。
※仮想通貨の運用権を孝文・j・Gに付与。
※タイバーツとフィリピンペソの保管権を児玉繭子に付与。
【残り寿命】
22万6500日 (下4桁切り上げ)
↓
27万6500日
【所持品】
Maison Margiela ショルダーバッグ 白
Archi Diorリング ホワイトゴールド×ダイヤモンド
ティファニー ビクトリア グラジュエイテッド ネックレス
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
『100倍デーの開催!』
× 「一般回線で異世界の話をするな。」
『世襲政権の誕生阻止。』
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
「空飛ぶ車を運転します!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
『遠市王朝の建国阻止。』
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇藤田勇作 『日当3万円。』
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
〇 「お土産を郵送してくれ。」
「月刊東京の編集長に就任する。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
×警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
「オマエだけは絶対に守る!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
「一緒にかすうどんを食べる」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
×今井透 「原油価格の引き下げたのんます。」
「小麦価格の引き下げをお願いします」
〇荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
〇 『子ども食堂を起ち上げます。』
「紙幣焼却によりインフレを阻止する。」
〇田名部淳 「全財産を預けさせて下さい!」
「共に地獄に堕ちましょう。」
三橋真也 「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」
〇DJ斬馬 『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』
金本宇宙 「異世界に飛ばして欲しい。」
金本聖衣 「同上。」
金本七感 「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」
〇天空院翔真 「ポンジ勝負で再戦しろ!」
「再戦するまで勝手に死ぬな。」
〇小牧某 「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」
阿閉圭祐 「日本国の赤化防止を希望します。」
〇坊門万太郎 「天空院写真集を献納します!」
宋鳳国 「全人類救済計画に協力します!」
堀内信彦 『和牛盗難事件を解決します。』
〇内閣国際連絡局 『予算1000億円の確保します』
毛内敏文 『青森に行きます!』
神聖LB血盟団 「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」
〇大西竜志 「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」
『貴方の遺族に篤く報います。』
坂東信弘 「四国内でのイベント協力」
国重辰馬 「四国内でのイベント協力」
涌嶋武彦 「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」
斑鳩太郎 『処刑免除を保証します。』
志倉しぃ 「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」
〇孝文・j・G 「英国大使館パーティーにて利息支払い」
「永遠の忠誠と信仰を(以下略)」
〇グランツ(英) 「perape-ra!!!!!!!!」
E・ギャロ 「農政助言」
「王都で星を見る。」
福永史奈 「出産すれば1億円支給」
野上絵麻 「以下同文」
桂川風香 「以下同文」
久能木瀬里奈 「ジャンジャンバリバリ!!」
児玉繭子 「ウチの旦那に色目を使うな。」
「アメリカ経済を破綻させないように努力する。」
古河槐 「jetの救済をお願い。」
カミーラ・B 「perape-ra♪」
故バーゼル卿 「perape-ra!」
〇有村拓我 「福田魁との連絡を取る。」
福田魁 「男らしゅうせー!」
金本光戦士 「どんな危機からも必ず救い絶対に守る。」
古河槐 「シンママで産む」
◎木下樹理奈 「一緒に住ませて」
×松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇 「仲間を売るから私は許して♥」
◎鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
× 「ポン酢で寿司を喰いに行く。」
土佐の局 「生まれた子が男子であればリイチ。
女子であればリコと命名する。」