【転移19日目】 所持金6億3000万ウェン 「カネが余ればネタにでも走るしかないんだ。」
純資産が1億ウェンを越えた。
手元には5億チョイのキャッシュ。
うち3億はカインからの預かり金。
うち1億チョイはキーンからの預かり金。
仮に2人が預金を引き揚げたとしても、毎日1千万ウェンずつ資産が増えていく計算だ。
『なあ、ヒルダ。
1千万ウェンあったら何が出来るの?』
「…腕利きの冒険者と1年独占契約が結べますね。」
口ぶりからすると、それが彼女の亡夫の相場だったのだろう。
ヒルダの亡夫ケビンは他国にまで名の通った相当腕利きの冒険者と聞いているので、《トップクラスの護衛も俺の日利で雇える》、と解かった。
『他には何が買える?』
「テナントですね。
この王都では最小区画のテナント物件が1千万ウェン弱で買えます。
郊外に行けばもっと大きな物件を購入する事も可能でしょう。」
なるほど。
《小商い用の物件程度であれば、俺の日利で買える》と。
『他に有効な使い道ってあるか?』
「…あくまで非公式ですが。
身分です。
1千万ウェンあれば、平民社会での役職が買えますね。
例えば地区代表とか商工会代表とか、ギルド理事とか。
私の父もそうだったのですが、平民社会の役職を足掛かりに爵位の購入。
というのが一般的な買官のルートです。」
『爵位って買えるの!?』
「手順さえ踏めば。」
ヒルダが何か言いたそうな顔で話すので、意見を促してみる。
「身を護るには爵位は有効です。
ですが、それと同じくらいリスクを孕んでます。
派閥に所属し政治姿勢を表明する事を強要されますので。
私の父ジョーも、それで死にました。」
『解かった。
買官は、それをしなければ身が危ういと感じない限りは行わない。』
母娘が頷く。
俺もこんな未開世界で名誉を得た所で嬉しくもなんともないので、丁度いい。
『他に何か買えるものあるかな?』
あまり喋らないコレットの顔を見ながら話を締め括ろうとする。
「…およめさん」
『!?』
俺が驚いていると、ヒルダが補足する。
「裕福な殿方の間では《1千万ウェン》というのは
第二夫人以降を増やすときの隠語として使われます。
私の父ジョーも、それで死にました。」
と補足した。
ジョーさん、さぞかし痛快な人生を送った人なのだろうな。
コレットの発言意図は明確である。
《男なんてカネを持てばすぐに愛人を作りたがる。
オマエは私を捨てるなよ?》
言葉は少ないが、目がそう言っている。
「もう赤ちゃんを産める年齢です。
わたしは若いから元気な子供をいっぱい産めます。」
俺の出掛け際にコレットが耳元に囁いてきた。
なるほど。
俺が地球に帰るにせよ帰れないにせよ、それは魅力的なPRだな。
この先、カネは無限に入るのだから養育費に頭を悩ませる必要はないだろうし。
裕福になれば女は寄って来るだろうが、ここまで全ベット(それも母娘で)して来る女は現れない可能性の方が高い。
…この2人は別枠で大事にしよう。
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母娘と顔を合せていたくないので、街をブラブラ散歩する。
最近、売春婦に付き纏われる事が増えた。
カネは必要最小限しか持ち歩いていないのに、コイツらは何故かカネの匂いを嗅ぎ取れるらしい。
(まあ、そういう商売だからな。)
「お兄さん。 女の子探してるの?」
「暇ならアタシと遊ぼうよ。」
「おやハンサムだねぇ。 安くしとくよ!」
着ている服も換えてないし、高額の買い物もしていない。
なのに、何故か娼婦が俺を見つけると、付き纏って来るようになった。
おかげで売春相場に詳しくなる。
庶民向けの立ちんぼだと、上5万ウェン・中3万~2万ウェン・下1万ウェン。
老婆や病気持ちは数千ウェンで慈悲を乞うてくる。
美人は多いのだが、どれも表情が卑しく興が乗らない。
こんな賤しい女達とセックスするくらいなら、母娘に説教混じりで生活設計の話をされている方が遥かにマシだ。
1人だけ相当しつこい立ちんぼが居た。
かなり長い距離付き纏って来る。
ずっと無視していたのだが、あまりにしつこいので。
『俺は貧乏人だから、誘っても時間の無駄だよ?』
と断り文句を投げ掛けてやる。
実際、大金を持つのは怖いので、最近は数十万ウェン程度のハシタ金しか持ち歩いていない。
俺と目が合うと娼婦は「エへへへ」と言って、こちらの機嫌を取るような媚びた態度を取る。
『あそこのグループに行けよ。
俺より立派な身なりをしてるだろう?
貴族か何かじゃないか?
それに引き換えこっちは平民で貧乏人でケチで流れ者だ。』
俺が早足で振り切ろうとすると、娼婦は尚も喰い下がって来る。
おいおい、これ娼婦に偽装した強盗なんじゃないか?
警邏の騎士団を見かけたら助けて貰おう。
「じゃ、じゃあ!
な、何か仕事をくれませんか!!」
娼婦が真横で叫ぶ。
『だから!
俺は貧乏人だ!
他人を雇える余裕なんかない!』
「兼業で冒険者をやってます!
1人で大鹿を狩って表彰された事もあります!
裁縫や料理も出来ます!」
なるほど。
女冒険者か。
それで全然振り切れないんだな。
俺はそこそこ本気で走っているのだが
相手は早歩きと小走りでしっかり喰い付いている。
「そうだ!
情報! 私、情報屋としてもお役に立てると思います!
酒が強いのもあるんですがっ!
話上手ってこともあって!
昔から話を聞き出すのが上手いんです!」
確かに話し上手だな。
その証拠に俺、全力で逃げながらもこの女の素性に興味を持ってしまっている。
「私、仲間も友達もいないんです!」
俺のプロファイリングを終えたのか、勝ち誇ったようにそう打ち明けて来る。
上手い!
こちらの表情の変化だけをヒントにニーズを汲み取ってしまった。
今の俺が一番恐れているのが、仲間をぞろぞろ呼ばれて、集団でタカられる事だ。
この女が本当に一匹狼だとすれば…
デメリットはかなり減少する。
逃げながらニコニコ金融に辿り着くがテナントは閉まっている。
ああ、もう胡桃亭の隣に移ったか。
俺は仕方なく胡桃亭の方向に無言で走る。
娼婦は少しだけ嬉しそうに笑っている。
やや落とした走行ペースから、こちらの心境の変化を読み取ったらしい。
俺は有能な人間は好きだが、勘のいい奴は苦手だ。
そいつの好奇心が豊かであれば、もう相性最悪。
胡桃亭の付近まで来たところで、見慣れた後ろ姿を見つける。
『ダグラスさん!!!
助けて!!!』
恥も外聞もなく救いを求める。
この男には俺の護衛義務がある。
娼婦を追っ払う事まで契約内容に含まれているかは謎だが、彼の男気に縋ろう。
「流石に痴話喧嘩の解決までは給料に含まれていないんだがな…」
言葉とは裏腹に腰の剣に手を掛けてくれる。
頼もしい!
明らかに喧嘩慣れした人間特有の威圧感がある。
この強面の大男が俺を護ってくれるという安心感よ!
娼婦は「やだなあ、ちょっと話をしてただけッスよww」と言って間合いを取る。
そのバックステップが、あまりに敏捷だったので寒気がする。
少なくともこの女は俺なんかより遥かに身体能力が高いし、対人戦の経験豊富さすら感じさせられた。
『ダグラスさん!
この女に絡まれてるんです!』
「いやいやいや
誤解ッスよww
何かお仕事紹介して貰えないかな、とw?」
凄いな。
この女、戦闘態勢を取ったダグラスに全然臆していない。
「コリンズ、どうしたい?
この状況なら斬っても正当防衛が成立すると思うんだが…
流石にそのレベルの手練れが相手だと臨時手当を要求させて貰うぞ?」
「へえ、コリンズさんですかぁ…
最近どこかがで聞いたような気がするなぁ…」
娼婦は更に間合いを取りながら言う。
止む無くダグラスが剣を抜き片手中段に構えた。
「スマン。」
短く失態を詫びながら、ダグラスは娼婦に間合いを詰める。
俺も人質に取られてしまわないように、少しずつ彼に近寄る。
チャキン。
不意に娼婦が針のような短剣(暗器だろうか?)を地面に落として両手を挙げた。
「いやいやいやww
ホントにただの売込ですってww
怖いなーーーwww
でもワタシの商品価値は解かってくれたようで、嬉しーーーーww」
『ダグラスさん。
奴は冒険者を自称しています。
俺は恐らく密偵か何かだと思うのですが、そちらで預かってくれませんか?
尋問してくれて構わないんですが、恐らく素性は明かさないでしょう。
性格的に他者を欺くことに歓びを感じるタイプの女です。』
「そんなのを押し付けるなよ…」
『埋め合わせは必ず。
屋内には入れずに路上で話を付けて下さい!』
「了解。
殺してもいいんだな?」
『万が一の治療費や修理費は全てこちらで持ちますので!』
「助かる。」
そんな会話を俺が交わしている間も娼婦は両手を頭の後ろに組んだままニコニコしている。
この女はラノベとかによく出て来る強キャラ枠だな。
大方、魔界四天王とか秘密警察のエースとかその辺りのキャラだ。
そう思うと今の俺は異世界を堪能しているのかも知れない。
「雇ってくれるんですか?」
『そこのお兄さんと相談しておいてくれ。』
「いやあ、ありがたいッスねえww
私の名前は!」
そのまま俺は、路地を曲がって胡桃亭に逃げ込んだ。
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結局、ヒルダに泣きつく。
彼女は無言で、それでいて何かを言いたそうな表情でこちらを観察している。
そして一旦目を閉じてから上品に溜息をついた。
「若さの所為もありますが、リンの手の内は読み易いのです。」
『俺が読み易い!?
そ、そうか?
こう見えて結構、目立たない様に注意しているつもりだが。』
「…これは指摘しようか迷っていた事ですが。
生まれ育ちの貧しい者が急に財産を築いた場合…
世の中全てを値付けして格付けを楽しむ傾向が強いです。
特に。
世間一般では高価とされるにもかかわらず
自分にとってはそうでない物品・サービスを見た瞬間。
優越感が露骨に表情に現れます。
それこそ娼婦やカフェのVIP席や… 宿の連泊料金もそうでしょうか?」
『…返す言葉もない。
俺の今までの振舞に、成金的な驕りが見え隠れしていたと?』
「…成長なさって下さい。
明日、生き延びる為にも。」
口うるさい女だが、ヒルダこそ我が師である。
まあ、そもそもが義母だしな。
苦言には感謝し従うべきだろう。
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初日。
俺が異世界に召喚された初日に、この母娘と出逢った。
王都で唯一客引きの気配が無い胡桃亭を発見して、外から覗き込んだのだ。
中には退屈半分に談笑している母娘がいた。
そして。
目が合った瞬間には、俺の豊かさはバレていたとの事だ。
年少のコレットでさえ、一瞬で見抜いたらしい。
この世界で俺だけが自分の勝利を確信していた。
前途に何の不安も持っておらず、王侯を嘲笑して同情すらしていた。
それがあからさまに顔に出ていたらしいのだ。
あの時はそんな事まで意識していなかったが。
無意識だからこそ、11歳の少女に直感で見抜かれた。
後は答え合わせだ。
俺の単調な生活ルーチンを見て、スキルの本質的な部分は母娘に把握されていた。
例えこの世界に【複利】の概念はなくとも、【成金】や【馬鹿】の概念はちゃんとあったのだ。
幸か不幸かヒルダは馬鹿な成金を腐るほど観察し続けてきた。
その集大成が自分を賢いと信じる俺との出逢いだった。
ただ、それだけの話だ。
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俺は上着を乱暴に脱ぎ捨ててソファーに寝転がった。
不貞腐れる位の事は許してくれよ。
自分のアホさ加減に呆れて無気力になる瞬間なんて、誰にだってあるだろう。
ヒルダはダグラスの詰め所に向かった。
あの女の性格なら自分で尋問くらいはするのかも知れない。
小一時間経って母娘が帰って来る。
「アレはダグラスの預かりとします。
路銀が尽きているようなので宿を乞われましたが断りました。
一旦、カネを握らせて放し飼いにしたいのですが?」
許可を求める体ではあるが、この女の性格なら自腹を切ってでもそうするだろう。
俺の意志を尋ねたと言う事は、今後の指揮系統を俺経由にするかヒルダ経由にするか、そこら辺の微細な調整を求めているのだ。
『相手は日当とか年棒とか要求はしてるの?』
「私も直接尋ねたのですが。
《5万ウェンだけ貸して欲しい恩は百倍にして返す》
とだけ繰り返しております。」
なるほど。
あの娼婦は冒険者としての自分の価格を年棒500万ウェン程度に見積もっているという解釈が妥当かな?
それとも自己評価はもっと高いが、女だから安く提示している、かな?
相当腕は立つのだろう。
そこは素人の俺でも薄っすらと理解出来る。
後は人間性だな。
密告屋気質だったり盗癖があったり、女の場合は悪気はなくてもサークルクラッシャー的な振舞をしてしまう者も居る。
あの女は馬鹿ではない。
少なくとも馬鹿を演じられる程の知能はある。
義理堅いフリや冗談が通じるフリも得意な方だろう。
俺が観察して来たこちらの世界の女とはやや毛並みが…
そう、他の娼婦とは明らかに思考パターンが異なっていた。
『なあ。
あの娼婦、異邦人なのか?』
「はい、そう思います。
恐らくは帝国人か連邦人でしょう。
それも何らかの立場のある人間です。」
『何らかの立場?』
「軍属の密偵、資産家の放蕩娘、貴族の家出娘。
或いは夢見がちで冒険心に富んだ愚かな女。」
『どれだと思う?』
「その全てでしょう。」
《裕福な貴族の娘が好奇心半分で敵国見物にやってきた。
行きがかり上軍隊からも依頼を受けてしまい、身元を明かせなくなってしまった。》
それがヒルダの見立て。
娼婦も貴族令嬢も両方観察してきたこの女が言うのだから、あながち的外れではないのかも知れない。
ちなみに外国商人向けの宿に生まれた関係か、各国の密偵も腐る程見てきたそうだ。
貴人であるとする論拠もある、とヒルダは言う。
試しにパンを与えてやった時の屈辱に耐える反応。
身なりにそぐわない品の良い食べ方。
かと思えばヒルダに観察されている事に気付いた瞬間、クチャクチャと口内を見せる下品な食べ方に切り替えた。
「余程庶民を見下していないとあの振舞は出来ない」、との事だ。
日頃蔑まれている貧民ほど気位が高い。
同性に見下された状態で、己を卑しめる振舞が出来る訳がない。
そんな簡単な理屈すらわからないほど、恵まれた生まれの女なのだ。
とのヒルダの分析。
ああ、あの娼婦は女向けのラノベとかでよく居る主人公だな。
俺、100回くらい読んだわ。
同性受けはするらしいんだけどな。
男の俺から見ると鼻に付く存在だ。
なるほど、アレに対する嫌悪感の正体かも知れないな。
『幾ら払えばこちらが得をする?』
「直訳すれば、向こうは500万を要求してますので。」
『500万以上? 以下?
どっちにすれば俺は得をする?』
「1000万。」
朝の話題に戻って来たか…
先程ヒルダは「…腕利きの冒険者と1年独占契約が結べますね。」と言った。
これは言葉通りの意味ではなく、《相手が裏切り難い金額》ということだろうか?
そう尋ねると少しだけ満足気に笑ってくれた。
俺はそこまで出来の悪い生徒ではないらしい。
「ただ、幾ら与えるにせよ
ダグラス達とは上手く調整するべきです。
アレに500払うなら、その場でダグラスには1000万以上を提示しなければなりません。」
『ダグラス一派はカインさんの管轄なんだよなあ。』
「では、ダグラス達にはそのまま伝えましょう。
先にグランツ家と話を付けてからの話ですが。」
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どのみち、カインはここに絶対にやって来る。
何せ1日300万ウェンの配当が貰えるのだ。
元金の確認もあるし来ない筈がない。
俺がカインなら隣に引っ越すね。
「どうもー♪」
能天気な表情を見る限り、隣の騒動はまだ知らないようだ。
部下の新装開店を祝う事なく、真っ先にここに来たのだろう。
『どうも、お疲れ様です。
配当を持ってきますので、金庫チェックをお願いします。』
「おほほーw
来ていきなりすまないねー♪」
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【所持金】
5億6705万ウェン
↓
5億6405万ウェン
※カイン・R・グランツに300万ウェンの利息を支払。
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カインに娼婦の件を話すがどこか上の空だ。
あ、コイツ頭の中で銭勘定しているな。
『カインさん、念の為にその女をチェックして頂けませんか?
折角軌道に乗った矢先にリズムを崩されたくないんです。』
「ああ、うん。 そうだね。
それは全くそうだね。」
クッソ!
コイツ、全然話を聞いてない。
この顔は、脳内で試算表作ってあれこれ数字を足し引きしている顔だ。
醜悪だな、カネの亡者というものは。
俺って普段こんな呆けた表情で他人様に生返事していたのか?
『カインさん!
奴はビジネスモデルを探りに来たスパイかも知れない!』
俺がそう言った瞬間にカインが我に返った。
不安と憎悪の混じった獰悪な表情で目玉を剥いている。
「スパイ!?
我々のビジネスを盗もうとしているっ!?」
日頃は温厚な紳士だが、この男の本質は高利貸の息子であり修羅場を潜った冒険者である。
一度スイッチが入ると猛禽の如く攻撃的な形相になる。
(あくまで伝聞だが、カインは戦術レベルのガチな魔法も使えるらしい。)
「コリンズ君。
その女は何者だ?
憲兵本部?
教団の密偵?
ちゃんとボディチェックは済ませたのだな?」
矢継ぎ早に質問しながら抜剣し、そのままで隣に向かう。
あ、有無を言わさず拷問してから殺す気だ。
そりゃあ仕方ないよね。
日利1%が掛かってるもんね。
怪しい動きをした奴が殺されるのは当然の報いだよね。
命の価値が300万ウェンを上回る奴なんて滅多にいないのだから。
ヒルダが溜息をつきながら、カインを呼び留め2人でボソボソ議論している。
即時殺害派のカインと聴取後殺害派のヒルダで数分揉める。
俺が地球に帰った後なら、拷問でも処刑でも好きにしてくれればいいのだが、リスクは負いたくない。
ヒルダが物置から楕円形の水晶球の様な物を持ち出し、カインと頷き合ってから隣に消えた。
前後の文脈からして嘘発見器的な尋問道具だろう。
最近掃除した形跡があったので、展開次第では俺に使う予定だったのかも知れない。
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配当の時間が近づいたのでコレットと2人でポーションの汲み取りを行う。
水筒は12本。
もう余分は殆どないとの事である。
「ポーションが余ってきちゃった。
置き場に困ってるの。」
『もう容器は無いのか?』
「お母さんも探してくれたんだけど。
宿の什器は全部使っちゃった…」
『わかった。
後で物置を見せて貰おう。』
「ねえ、リン。
お風呂に入っちゃう?」
コレットが悪戯っぽく笑う。
俺もつられて笑う。
『水浴び用の大桶に全部入れちゃおうか?』
「贅沢ww」
リッター5万だもんな。
ただ台所に流すのは癪だよな。
『ポーションって身体に毒じゃないんだよね?』
「お金持ちの人はワインとポーションをカクテルして飲むのを自慢するんだって。」
成金と言うのは万国共通だな。
カネが余ればネタにでも走るしかないんだ。
わかるよ、俺もそうなりかけてるもの。
2人で持て余しているポーションを飲む…
が、所詮は医薬品だ。
そんなにガブ飲み出来る代物ではない。
さあ、17時が来る。
《6769万ウェンの配当が支払われました。》
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【所持金】
5億6405万ウェン
↓
6億3174万ウェン
※6769万ウェンの配当を受け取り。
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ここまで数字が大きくなると貧民の俺には全てが未知だ。
ただ、日々己の感覚が麻痺していることだけは理解出来る。
配当と同時に零れ落ちるポーションをコレットと回収しながら、必死に頭を現実に戻す。
用意していた12本の水筒で受け止めてもポーションは尚も零れる。
…そりゃあ、複利だもんな。
コレットと水浴び場で足湯ならぬ足ポーションを楽しむ。
「お肌綺麗になるかなぁ。」
『もう十分綺麗じゃない?』
「だめ。 女は美に貪欲であるべきなの。」
『ヒルダの受け売り?』
「お母さんからそういう方面の事はあんまり言われない。
でも、近所の友達はみんなそう言ってるよ?」
『コレットが楽しめるなら俺も協力するけど。』
「じゃあ、今度ポーションのお風呂だねw」
「逆に身体に悪そうだけどなw」
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ヒルダが帰って来たので74万ウェンを渡す。
「…これは?」
『今月の生活費。
あと、あの女関連でカネが掛かるならそこから払っておいてよ。』
「ご自分で渡せば宜しいでしょう?」
『新婚の俺が身元の分からない女に直接カネを渡すのは憚られるだろう?』
ヒルダは少し驚いた顔で俺を見てから、少しだけ笑う。
流石にね。
これだけ何日も一緒に居れば相手が喜ぶ振舞とか解かるよね。
後、端数を受け取ってくれる相手が居ると数字の管理が楽で助かるよね。
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【所持金】
6億3174万ウェン
↓
6億3100万ウェン
※実家に74万ウェンを生活費として納入。
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で、ヒルダからの報告。
娼婦は当面殺さない。
理由は他国の要人の身内である可能性が高いので。
『どうせ帝国皇帝の娘とかそんなのだろう?』
「まるで見てきたように言いますね。」
あの娼婦が帝国人か連邦人だろう、と皆が言うのでそう着想するようになった。
ラノベで100万回くらい見た展開なので、仮にそうだったとしたら逆に白けるだろう。
『要するに最悪の事態に備えたい、ということだよ。
平民の振舞ではなかったのだろう?』
「立ち居振る舞いが…
貴族教育と士官教育の両方を受けている者特有のものなのです。
勿論、平民の娘が貴族を騙ろうとしている可能性もありますが…
連邦は女子の軍務が憲法で厳禁されております。
女子が貴族教育と士官教育を同時に受ける為の抜け道のある国は帝国か首長国だけなので…」
『首長国人である可能性は?』
「あそこは貴族階級だけ人種が異なります。
紅髪人と呼ばれることが示しているように、首長国貴族は全員赤い髪ですし…
貴族の子でも赤以外の髪色に生まれれば市井に放逐されてしまいます。」
『では、帝国貴族か首長国の放逐貴族だな。
或いは髪を染めているのかも知れないけど。』
「その可能性も無くは無いでしょうが…」
『俺はそのつもりで警戒する。
ヒルダも皆にこの仮説を前提に動くように伝えてくれ。
今から国外脱出する身だ、国際的な問題だけは避けたい。』
「それが…
あの娘が周囲を挑発するものですから…」
『?』
どうやら、娼婦とダグラスが勝負をする羽目になったらしい。
決闘でもするのかと思って驚いたが、狩猟頭数を競い合うらしい。
既に武名を確立しているダグラスとすれば、女と決闘沙汰に発展した、というだけで名声を貶めてしまう。
なので本心では斬り殺してやりたいのだが、それが難しいようだ。
「ごめんね、勝手に決めて。」
『ああ、いえ。
ダグラスさんはカインさんの管轄でしょ?
俺は口を出せないです。』
「さっき女将から、あの子に年棒を払って用心棒にするかも知れないって言われたんだけど。」
『1000万払ってもいいんですけどね。
それだとダグラスさん達の面子を潰しちゃうでしょ?』
「まあ、いい顔はしないだろうね。
ダグラスにもう少し年棒を払ってるんだけど。
その部下連中は一律600万ウェンだから。」
その口ぶりを見ると、親分のダグラスに部下の倍額を払っているのかな?
まあ、詮索をするつもりは無いが。
「悪いけど。
明日、コリンズ君も立ち会ってくれないかな?」
『立ち会い?』
「狩猟勝負だよ。
どのみち、農協からも泣きつかれているしさ。
ほら、ジャイアントタートルが異常繁殖してるだろ?
それとウルフの活発化が重なって、農業地区は酷い目に遭ってるんだよ。
今日も理事長にキミを連れてこいって説教された。」
『え?
俺をですか?』
「だってコリンズ君。
今期のレコードホルダーだよ?
1日100匹討伐、ジャイアントタートルを1日20匹討伐。
この2つを成し遂げてるからね。
3か月後の功労者式典で表彰されるんじゃないか?」
…すみません。
その時はこの国には居ないと思います。
『あの、みんな誤解してるみたいですけど。
俺の討伐数って全部道具の力ですよ?』
「だからいいんだよ。
王様は器具使用による駆除の効率化を推進しているからね。
君みたいにガンガン自腹を切って大量駆除をしている者の存在は嬉しいんだよ。」
ああ、なるほど。
俺のスタイルが王国の政策に合致しているのね。
そりゃあ、お呼びも掛かるか。
『解りました。
明日、皆さんの討伐に立ち会います。』
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俺は閉店間際の武器屋に押し掛け、炸裂弾と凍結弾を大量に買い込んだ。
「オメエ、朝晩は止めろよお。
営業時間の真ん中に来いよぉ。」
『真ん中は忙しいんですよぉ。』
「まあカネになるからいいけどさあ。」
『明日、農協の人達の狩猟に付いて行くんですけど…
安全を買う方法ってありますか?』
「何?
オマエは戦闘しないの?」
『あくまで見学なので、安全を確保したいんですよ。』
「じゃあ、馬車とか借りたら?
1日10万も掛かるけどチャーターできるぜ?」
と言う訳で武器屋から馬車の借り方を教わり、兵器を買い込んで帰った。
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【所持金】
6億3100万ウェン
↓
6億3000万ウェン
※ゴードン武器店にて100万ウェン分購入
炸裂弾20万ウェン (1個5000ウェンを40個)
凍結弾80万ウェン (1個2万ウェンを40個)
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胡桃亭の前でダグラスが例の娼婦と口論していたので、迂回して裏口から帰った。
討伐に同行する、と言うと母娘が嫌な顔をするが、馬車を雇う事と護衛から離れない事を条件に許して貰う。
何で家庭を養う為の仕事に関して、家庭の許可が居るのかねぇ。
【名前】
リン・トイチ・コリンズ
【職業】
法人会員用宿屋の婿養子
【ステータス】
《LV》 12
《HP》 (3/3)
《MP》 (2/2)
《腕力》 1
《速度》 2
《器用》 2
《魔力》 1
《知性》 3
《精神》 2
《幸運》 1
《経験》 32163
本日利息 3446
次のレベルまで残り8787ポイント。
※レベル13到達まで合計40950ポイント必要<
【スキル】
「複利」
※日利12%
下4桁切上
【所持金】
6億3000万ウェン
※カイン・R・グランツから3億ウェンを日利1%で借用
※ドナルド・キーンからの預り金1億4950万9000ウェン