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【降臨59日目】 所持金3万円 「アウト、他には?」

昨日の居酒屋ゴッコで疲れた俺は疲れ果てて眠り込んでしまい、起床すると既に正午過ぎだった。

書き置きによるとヒルダは霞が関を巡回してから午後には帰って来るとのこと。

あの女のタフさには毎度驚かされる。



俺が目を覚ますとほぼ同時にいつものオマルが無言で運びこまれる。

つまり、この部屋は常時モニターされているという事である。



特にやる事もないので、手錠を外せないかガチャガチャする。

ふと足錠を見ると鎖で部屋に固定されており、手錠を外した所で脱出は不可能である事を悟る。



俺が退屈して芋虫モードになり、部屋をズルズルと這いつくばっていると、突然ドアが空く。

驚いて振り返ると、昨日の政策秘書・望月桐江だった。

望月はゴミでも見るような目で俺を一瞥すると、枕元に書類を置いて立ち去ってしまった。


暇なので読んでみる。

な、なんじゃこれは!?

ほ、法律の草案? 企画書?

すっごく難しい漢字がウジャウジャ並んでいる。


心が折れかけたが、涙を堪えながら頑張って読む。

多分、昨日の所得税減の草案だろう。

書類の末尾には《調整を要する関連法案》という欄があり、冗長な名称の法律名が羅列されている。


うん、これは異世界でも経験した。

1つの法律や税制を弄る場合、連動している法律の改正も必要になって来るのである。


俺の知能でこれを読み込めるとは思わなかったが、無能なりに努力は試みてみる。

頭が痛い。



「リン!」



『うおっ、驚いた!

急に声をかけて来るなよ。』



「いえ、あまりにリンが没頭しているので心配になって。」



振り返るとヒルダが病人でも見るような目で俺を覗き込んでいる。



「何も全文読む必要は御座いません。

この手の専門的な提案書は概要だけ目を通して、後は口頭で諮問すれば良いのです。」



『もう全部読んじゃった。』



「全てですか!?」



『オマエだっていつも隅々までチェックしているだろう?』



「それは、郎党の報告を把握するのは棟梁としての責務ですから…」



『一緒だよ。

俺が頼んだ事なんだから、真剣に向かい合うのは当然の義務だ。』



「ええ、まあ、理屈の上ではそうですが。」



『望月さんに伝えておいてくれ。

まず2.3兆円の減収を理解した上での提案であること。

そして昨日の発言は岸田内閣が2024年度から実施しようとしている期限付き定額減税とは別個であることもだ。

また財務省の増税案自体を批判している訳ではない事も皆に伝えておいて欲しい。

国庫を預かるという使命を持っている以上、緊縮と増税を提唱し続けるのは彼らの仕事であって、その点は非難されるべきではない。

寧ろ、俺はよくやっていると感じている。』



「…。」



『あ、ゴメン。

何か変なこと言ったか?

発言が的外れなら指摘してくれよ。』



「いえ、郎党共に周知しておきます。」



てっきり飯の用意をしてくれると思ったのだが、そのままヒルダは出て行ってしまう。

書見に集中力を使い過ぎたのか、腹が減って動けないので布団にくるまって眠った。




「…。」



『ん? おはよう。』



目が覚めるとヒルダが枕元で正座していた。

無言で1万円札を差し出して来る。



『え? 何これ?』



「本日の恩寵で御座います。」



『ああ、もう17時過ぎちゃったか。』



「ええ、起こそうか迷ったのですが、相当お疲れの様子でしたので。

17時、枕元にこの1万円札が発生しました。

お納め下さい。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


20000円

 ↓

30000円


※配当1万円を取得。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『あ、うん。

これ、俺が受け取っていいのか?』



「当然で御座います。

差し支えなければ、この部屋にあるキャッシュを受け取って頂きたいのですが。」



『まあ、気が向いたらな。』



「後、買い集めたトヨタ株。

受け取っては頂けませんか?

既に異名義移管手続きの準備は完了しております。」



『前も言っただろ。

俺が株を持っちゃうとヤバいって。』



「来年度に高騰させるの為の工作が完了しております。」



『ヒルダ。

オマエなー、策略ばっかりするなよ。』



「いえ!

欧米中のトヨタ潰しに対してのカウンターです。

あくまでホワイトプロパガンダの範疇!

攻撃的な工作はしておりません。」



『本当かー?』



「あくまで!

テスラ社とBYD社と中露米欧が自業自得的にダメージを負うだけ!


…私とリンのトヨタ株が結果として値上がりするだけです♥」



『こちらからは仕掛けるなよ?

工作すんなよ?

現時点でどこまで進めてるの?』



「特に何も進めておりません。」



『うん、でも本当は?』



「電気自動車初期不良の被害者を支援する無国籍ロビー団体を設立したくらいでしょうか。

既に米国のテスラユーザー65万人を集団訴訟に踏み切らせております。

原告団のリーダーにはジョーンズ兄弟法律事務所を指名しました。」



『アウト。

他には?』



「欧州では電気自動車を批判した自動車雑誌から次々に広告が引き上げられているのですが、そこに資金援助を少々。

《電気自動車補助金の闇》という特集を組ませました。

ピンポイントでノルウェー政府を攻撃させております。」



『アウト。

他には?』



「中国国内のバッテリー発火事故動画を収集して9か国語に翻訳、米国大手ケーブルTVの《ワシントン365days》に権利を販売。

反中国報道に偽装したテスラ攻撃番組を制作中です。

番組内でトヨタのハイブリッドを推す流れにフワッと着地させます。」



『アウト。

他には?』



「トヨタMIRAIの水素タンクが中々の性能ですので、小型の水素爆弾を製造するマニュアルをこちらで制作しました。

先日のNATO首脳会議・軍事部会にて非公式参加していたウクライナ軍首脳に戦略案とセットで譲渡致しました。

現在同国内で爆弾化作業が進行中です。

来年前半にはモスクワ市内への無差別攻撃を敢行可能でしょう。」



『オマエを中心に戦争が遂行されてるじゃねーか!』



「この功により私と岸田総理にヤロスラフ賢公勲章が授与されるそうです。」



『岸田さん、おめでとう。』



「私はリンに回したかったのですが。」



『…いや、俺はイラン。』



「岸田文雄に万が一の事態が起これば、繰り上げでリンが叙勲されるのでは?

夫婦叙勲、ぶい♥」



『総理に指一本触れるな!!』



「不慮の事故が起こる可能性がなきにしもあらず。」



『岸田総理に何かあったら、無条件でオマエの差し金と断定するからな!

傷一つ付けても許さんぞ!!

いいな! 絶対に総理に危害を加えるな!!!』



「むむむ。」



『何がむむむだ!

これ以上、工作すんなよ?』



「…あの、他にも幾つか戦略構想があるのですが…」



『国際社会のパワーバランス的に封印しておいてくれ。』



「そうは言われましても、既にモスクワ強襲作戦の計画書を提出してしまいました。

短期間であればクルスク辺りまでは落とせる見込みなのですが…」



『うん、わかった。

じゃあ、これ以上は控えよう。

いいな?』



「他にも北方領土を無傷で奪還し、かつ米国だけを矢面に立たせる名案があるのですが…

駆虎呑狼の計とでも申しましょうか。

これは米露両国を極限まで消耗させる一石二鳥の手です。」



『却下。

オマエがやると勝ち過ぎる。

そして我が国にはオマエの戦果を維持できる程の人材が居ない。

故に権益拡張は最小限にせよ。』



「畏まりました。」




腹が減っていたので、ヒルダに食事を頼む。

出されたのは、干し肉のサラダリゾット。

胡桃亭でも何度か食べた王都料理である。

多分、日本では受けない味の組み立てだと思うが、俺は好きだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




食事が終わってからセックスをした。

気持ち良かったので、仰向けになって天井のシミを数える。



「リン、宜しいでしょうか?」



声を掛けられて見上げると、正装したヒルダである。



『うん。

どうぞ。』



「手の者がジュネーブから帰還したのですが、これがさりとてはの者。

是非、リンに謁見させたいのですが宜しいでしょうか?」



『あ、うん。

俺で良ければ。』



「待って下さい。

せめて寝癖を直しましょう!

王たる者、威厳が必要で御座います!」



『手枷足枷のこの状態で威厳もクソもないだろうに。』




ヒルダに引き摺られてリビングに。

屠殺場に連行される豚の気分である。

リビングでは数名の女性が例のジャケットを羽織って整列している。



「これなるクミコは、英仏剌の3か国語を修得している才媛。

医師免許取得後にUNICEFで9年に渡って勤務した経歴の持ち主です。

リンが汎人類的な支援活動を行いたいと仰ったので急遽呼び寄せました。」



  「西原久美子です。

  UNICEFではパレスチナ支部に4年、スーダン支部に5年在籍しておりました。

  大恩あるヒルダ様に粉骨砕身の精神で奉公を尽くす所存であります!」



『あ、どうも。

遠市厘で御座います。』



どうやら西原は胡桃倶楽部の対国際機関担当らしい。

高い語学力と豊富な国際経験を活かして八面六臂の暗躍をしているとのこと。



「リン。

望みを叶えたいのであれば、まずは既存の組織の使い方を覚えるのが早道となるでしょう。

特にUNICEFの様な寄付金を活動資金にしている組織は、リンと最も相性が良いと言えます。」



西原が無言で頷く。



『西原さん。

ユニセフって寄付金で動いてるんですか?』



尋ねたが、こちらを一瞥すらせずにヒルダに答える。



「はい、各国政府及び企業・個人からの寄付で活動費を賄っております。

年間収入は概ね70億ドル前後で推移しております。」



要は、こういう名の通った国際組織のポストを買え、とヒルダは言いたいのである。

暗に《大義を唱えるなら方法論を準備しておけ》と言われているのだ。



『必要なら1000億くらいなら出すぞ?』



「リン。

高額の寄付をするには銀行口座が必要なのです。」



『はえー。

そうなのか。』



「JPモルガン・チェース・バンクに渡りを付けております。

リンさえ首を縦に振って頂ければすぐにでも口座開設が可能です。」



『それって外国の銀行?』



「ええ、米国最大手です。」



『預金は当然ドルだろ?』



「そうなりますね。」



『却下。

基軸通貨を破壊させようとすんな。』




ヒルダと立ち話をしていると渋川も入って来て、UNICEF談義が始まった。

そこで再度、1000億をキャッシュでUNICEFに寄贈する案を提案する。

だが、女共が俺の発言を《1000億で国際機関のポストを買う話》に執拗にすり替えて来る。

どうやらコイツラは如何に理事の椅子をコスパ良く奪取するかしか念頭にないらしい。

俺が不満を唱えると渋川が口を挟んで来た。

(この女とちゃんと口を利くのは初めてである。)



  「役職さえあれば、大抵の行動は正当化されます。」



淡々とした口調で俺にそう告げると、渋川はヒルダに一礼してその後は黙り込んでしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




寝入り際。

ヒルダに確認を取る。



『なあ、さっきの渋川薫子の発言。

要するにヒロノリさんに役職を寄越せって意味か?』



ヒルダは「ほう。」と目を丸くしたきり、その話題には二度と言及しなかった。

何となく女共の行動原理が見えて来る。

俺と相容れる部分を探す方が難しい。



それはそうとして寝る前にセックスした。

気持ち良かった。

【名前】


遠市・コリンズ・厘



【職業】


神聖教団 大主教

東横キッズ

詐欺師



【称号】


女の敵



【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)


《LV》 16

《HP》 不調

《MP》 不調

《力》  女と小動物なら殴れる

《速度》 小走り不可

《器用》 ライジング・カード!

《魔力》 悪の王器

《知性》 悪魔/ド低能

《精神》 吐き気を催す邪悪

《幸運》 的盧


《経験》 563700


本日取得 0

本日利息 77752


次のレベルまでの必要経験値91650


※レベル17到達まで合計655350ポイント必要

※キョンの経験値を1と断定

※イノシシの経験値を40と断定

※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定

※クジラの経験値を13000と断定

※経験値計算は全て仮説




【スキル】


「複利」 


※日利16%

下4桁切り上げ 




【所持金】


3万円



【所持品】


全没収




【約束】


 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」

 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」

〇         「同年代の友達を作って欲しい。」

          『100倍デーの開催!』

×         「一般回線で異世界の話をするな。」

          『世襲政権の誕生阻止。』

〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」

          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」

          「空飛ぶ車を運転します!」

 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」

          『遠市王朝の建国阻止。』

×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」

×         「女性を大切にして!」   

〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」

×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」

×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」

          「今度、焼肉でも行こうぜ!」

〇藤田勇作     『日当3万円。』

〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」

〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」

〇         「お土産を郵送してくれ。」

          「月刊東京の編集長に就任する。」

 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」

×警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」

          「オマエだけは絶対に守る!」

×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」

〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」

 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」

×平原猛人     「殺す。」

          「鹿児島旅行に一緒に行く。」

          「一緒にかすうどんを食べる」

 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」

 今井透      「原油価格の引き下げたのんます。」

〇荒木鉄男     「伊藤教諭の墓参りに行く。」

 鈴木翔      「配信に出演して。」 

×遠藤恭平     「ハーレム製造装置を下さい。」

〇         『子ども食堂を起ち上げます。』

          「紙幣焼却によりインフレを阻止する。」

〇田名部淳     「全財産を預けさせて下さい!」

          「共に地獄に堕ちましょう。」

 三橋真也     「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」 

〇DJ斬馬      『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』

 金本宇宙     「異世界に飛ばして欲しい。」

 金本聖衣     「同上。」

 金本七感     「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」

〇天空院翔真    「ポンジ勝負で再戦しろ!」

〇小牧某      「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」

 阿閉圭祐     「日本国の赤化防止を希望します。」

〇坊門万太郎    「天空院写真集を献納します!」

 宋鳳国      「全人類救済計画に協力します!」

 堀内信彦     『和牛盗難事件を解決します。』

〇内閣国際連絡局  『予算1000億円の確保します』

 毛内敏文     『青森に行きます!』

 神聖LB血盟団   「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」

〇大西竜志     「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」

 坂東信弘     「四国内でのイベント協力」

 国重辰馬     「四国内でのイベント協力」

 涌嶋武彦     「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」

 斑鳩太郎     『処刑免除を保証します。』

 志倉しぃ     「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」

〇孝文・j・G   「英国大使館パーティーにて利息支払い」

〇グランツ(英)  「perape-ra!!!!!!!!」





 金本光戦士    「どんな危機からも必ず救い絶対に守る。」



〇木下樹理奈    「一緒に住ませて」



×松村奈々     「二度と靴は舐めないにゃ♥」

〇         「仲間を売るから私は許して♥」



◎鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って。」

〇         「カノジョさんに挨拶させて。」

〇         「責任をもって養ってくれるんスよね?」



×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」

          「王国の酒…。」

          「表参道のスイーツ…。」 

×         「ポン酢で寿司を喰いに行く。」



 土佐の局     「生まれた子が男子であればリイチ。

          女子であればリコと命名する。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒルダ配下の女共はどこまでリンの複利を知っているのか。知っていてこの態度なの?
[一言] 今既に下4ケタ切り上げなわけで。 異世界では最終的に下12ケタ切り上げになってたわけで。 下5ケタ切り上げになったらどうなるのって話をする為に、1万円→+1万円って話をしたのかな、という印象…
[良い点] リンにとっては学びなおしのフェーズでもあるのかな。ヒルダ放置ルートだとディストピアエンドまっしぐらだったっぽいの考えると、これも必要な邂逅だったのかなと。しかしリン、順応早いな。
感想一覧
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