【降臨58日目】 所持金2万円 「おもしれー女だよ、笑えないけど。」
目が覚めるとヒルダは居ない。
手枷足枷にも慣れてきたので、ゴロゴロ転がって部屋の様子を確認する。
結構豪華な部屋だ。
12畳? もっと広いかも。
天井が高く壁紙にラグジュアリー感がある。
そして俺の転がされてる布団の枕元に書き置きがある。
《すぐに戻ります♪
緊急の用事がある時は枕元の赤いボタンを押して下さい。
私の声が聞きたくなったら隣の青いボタンを押して下さい♥》
赤いボタンを押すと、本当にヒルダの郎党がノータイムで入室して来る。
関羽や弓長と話せればと思ったのだが、入って来たのは新顔だった。
ヒョロっと背の高い30代位のお姉さん。
肩口に装着している機器は米国の警察官が着用を義務付けられているボディカメラだろう。
『あ、おはようございます。
時間的には、こんにちはなのかな?』
俺が何を話し掛けても一言も発しない。
恐らくはヒルダから口を利かないように命令されているのだろう。
トイレに行きたい旨を伝えると、巨大なオマルの様な物を持ってきてくれた。
陶器製の本体に豪奢な模様が刻まれている所を見るに、尊重のポーズは取っているつもりらしい。
用を足した後、手洗い桶やタオルを与えられる。
5分ほど無言の排泄作業を行った後、お姉さんは一礼して退出した。
芋虫の様に這って、ドアまで向かい脱出方法を探るも施錠されていた。
そりゃあ鍵くらいは掛けるよな。
退屈なので芋虫態勢のまま部屋をヌメヌメと移動する。
授業で読んだフランツ・カフカの《変身》を思い出した。
人間なんてどれだけ偉そうに振舞った所で、囚われてしまっては虫ケラと大差ない。
…東横は楽しかったなあ。
枕元にコミックス版の《正直婚活仲人》が置かれてある。
推奨図書のつもりなのだろうか。
退屈なので不本意ながら目を通す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【2023年版「この漫画がしゅごい」女子部門1位受賞作品】
【タイトル】
正直婚活仲人
【あらすじ】
『千の見合い相手のうち真人間は3人しかない』という意味で、千三つといわれる婚活業界。
そんな業界に身を置く古林昼子は成婚の為なら嘘をいとわずに営業成績をあげてきた。
しかし、縁切り地蔵を破損してしまった呪いが原因で、嘘がつけない体質になってしまった。
わがままな高齢女性の要望、ヤリモクの資産家男性達、次々起こる婚活にまつわるトラブル、そしてライバル婚活会社としのぎを削る闘いに、嘘をつかない正直営業で立ち向かう昼子の姿を描いた皮肉喜劇。
【一巻目次】
第一話 「農家はやめとけ」
第二話 「30年目の見合い写真」
第三話 「ハゲの人権」
第四話 「出禁者限定パーティー(前編)」
第五話 「出禁者限定パーティー(後編)」
第六話 「残り物には灰汁がある。」
第七話 「羊水カウントダウン」
第八話 「ボクは医者だぞ!」
第九話 「何をどうやっても姑は負債」
第十話 「強襲、国籍泥棒」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヤバい、結構面白い。
絵柄からして社会人女性向けの作品なのだろうが、男の俺が読んでも面白い。
婚活業界というセンシティブな題材を扱っているだけに、かなり表現が際どい。
《ハゲ》《人権身長》《羊水》《姑》《連れ子》《托卵》《偽装結婚》《DNA鑑定》《婿養子》《高学歴女性》《農協婦人部》と際どいテーマが頻出し、読んでるこっちが心配になる程であった。
(出版社的には大丈夫なのだろうか?)
加えてヒルダ・コリンズ自身をモチーフにしていると思われるシーンも多く、更にそれが批判的に描写されているので、面識のある人間にとってはメタ的な緊張感もある。
例えば、主人公の昼子にはやや反抗期の娘・玲子が居るのだが、これは明らかにコレットがモデルである。
また若き日の昼子が婿養子を迎えた際に、夫の慶次の仕事にやかましく口を出して世間の顰蹙を買う描写がある。
これなどは恐らく故ケビン・ロー氏との逸話だろう。
妙なリアリティがあって引き込まれる。
男の俺でもここまで没頭してしまうのだから、女子にヒットする理由もわかる気がした。
「ただーいま♥」
漫画に夢中になっていて、ヒルダの入室に気が付かなかった。
実に不覚である。
まあ、鈍感な俺がどれだけ頑張ったところで、ヒルダの気配を探知出来たとは思えないが。
「リン♥
いい子にしてましたか?」
『いや、脱出ルートを探していた。』
「脱出?
日本を出るのですか?」
『いや、日本からは出ないけど。』
「???」
サイコパスか、コイツ?
このとぼけた表情が怖いんだよな。
「何か不便や不満があるなら何でも解消しますよ♥」
『じゃあ、手錠外せよ。』
「これは失礼しました!」
意外にもあっさりと外して貰う。
てっきり理由を付けて拘束され続けるのか思っていたので心底驚いた。
言わなければ足錠を外さない辺りは、こういう女なのだろう。
そして歩いて一緒に風呂まで向かう。
『なあ、ヒルダ。
ここってどこなんだ?
ホテル?』
「?
虎ノ門のタワーマンションです。」
『オマエ、三田にもタワマンあるじゃん。』
「あそこはフミカに下賜しました。
三田では官邸から遠すぎて不便ですので。」
『ヒルダって気前良いよな。』
「手当たり次第に資金を配られている方に言われても…」
『否めないな。』
湯船に浸かりながら虎ノ門について説明を受ける。
要は江戸城の外門の名称である。
故に皇居が非常に近いとのこと。
また、天下り法人(特殊法人や公益法人等)の事務所がこの付近に大量に存在する事から、「虎ノ門」は非営利法人の代名詞として用いられることがある。
この立地を活かして八面六臂の大活躍をしているのが渋川薫子であり、働きぶりに感激したヒルダは越前の安堵状を与えたそうだ。
そんな事が許されるのかは謎なのだが、以後渋川家は福井県で何をやってもOKらしい。
少なくとも女共の間ではそうなってしまった。
(他にも淡路一国を与えられた、宇崎紘子なる郎党も存在するそうだ。)
渋川家の公約が福井県縦断高速道路の建造なので、恐らくは渋川薫子の代で完成するのだろう。
また余談ながら、渋川家が理事を務める福井市内のテック拠点「ふくい未来創造館」が金沢市内にある「ITビジネスプラザ武蔵」と北陸地域のIT助成金枠を巡って緊張の種になっているのだが、これが一気に福井優位となる可能性が高い。
渋川薫子を始めとした胡桃倶楽部の構成員が各省庁と完全に歩調を合わせているからである。
少なくとも2025年度に文科省が主催する「テクノハックJAPAN」の北陸大会が何故か通例を無視して福井市内で開催される事となってしまった。
(ヒルダに従っていれば、このレベルでの恩賞が貰えるのだ、異世界を席巻する訳である。)
こんなものは氷山の一角に過ぎず、胡桃倶楽部は凄まじい速度でロビイングを行っているとのこと。
『何のために?』
「?
妻たるもの、夫の支えとなる義務が御座います。」
『え?
俺の為?』
「当然ではありませんか。
資産を配るにしても、一般市民の立場で呼び掛けるのと、首相の立場で呼び掛けるのでは国際社会の反応が異なります。」
『首相!?』
「内閣総理大臣 遠市厘。
素晴らしい響きです。」
『いや、総理は岸田さんでしょ?
オマエも仲良くしてるって聞いたぞ?』
「?
ええ、ですので予め入閣しておけば…
始末後にリンが閣内昇格で総理になれるではありませんか。」
『しま…
いや! 殺すなよ!!! 絶対!!
岸田さんに指一本触れるな!!』
「え?」
『不思議そうな顔すんな!!!!』
「あ、はあ。
まあ、リンがそう仰るのでしたら。
では、もしも生かしておきたい者がおりましたら名を挙げておい下さい。
その者は助命しますので。」
『誰も殺すな!!!』
「え?」
『不思議そうな顔すんな!!!!』
「…?
誰も殺さずに政治目標が達成出来るものなのですか?」
『なるべく血を流さずに話を進めるのが政治だろ!!』
「???
まあ、リンがそう仰るのでしたら…
それで良いのではありませんか。
あの、本当に資産分配をする気があるのですか?」
『ある!!
全人類に10億円ずつ配る!!!』
「はあ。
配れと仰るのでしたら幾らでも配って参りますが…
その場合、少なく見積もっても地球人の半数は死ぬのでは?」
『駄目だ!
そんな非道は許さん!
人間の命はオマエが思っている程軽いものじゃあないんだ!!
俺は死者を10億以内に収めると決めている!!』
「じゅ、10億ですか…」
ここでヒルダはようやく難しそうな表情をする。
この女がここまで考え込むのを見るのは俺も初めてである。
5分程唸り続けた後、「20億くらいなら何とか…」とヒルダが呻く。
俺の返答は当然NO。
『命は宝だよ!
この宇宙を支えているものなんだ!!
粗末にする者は何人たりとも許さん!』
ヒルダは唇を噛んで天を仰いでいたが、数分経ってから「ベストを尽くします」とだけ答えた。
【10億・10億】以後、これを俺の公約とする。
俺の目的は全人類の救済なのだ、こんな殺人鬼に邪魔されてたまるか!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
風呂から上がってフロアを案内される。
ただっ広いリビング。
天井の高い30畳のリビング。
これは居住用というよりもパーティー用だな…
「ええ、この建物には多くの代議士が入館しております。
それぞれが派閥のメンバーを集めて懇親会を開いているようです。
また英・米・蘭・泰・印も出先機関的に用いております。
ここは非公式会議に便利ですので。」
『まあ、この立地この間取りってその為のものだよな。』
「御安心下さい。
国防族・外務族の懇親会に何度か出席して要領は覚えました。
リンの切り崩したい地域・省庁があれば、いつでも工作を着手可能です。
またアムステルダム式の人の集め方、あれは一見の価値があります!
オランダ資本からの誘いがあれば一度は出席されますように。」
フロアの端にヒルダのスタッフが固まっており、何かの書類のような物を皆で丁寧に書き記していた。
どうやらNATOやらウクライナ政府やらへ送る礼状の草案らしい。
「キリエ。
挨拶を。」
ヒルダは無造作に1人の女性に声を掛ける。
見た感じ40代前半くらいだろうか?
大病院の女医の様なキビキビした雰囲気がある。
キリエはまるで軍人の様に直立して俺に向かい合った。
「望月桐江です。
ヒルダ様のお手伝いをさせて頂いております!」
『あ、遠市厘で御座います。
いつも母… 妻がお世話になっております。』
「キリエは政策担当秘書資格を保有しております。
必ずやリンの役に立つ事でしょう。」
「はッ!
ヒルダ様の御恩に報いる為!
忠勤の限りを尽くす所存であります!」
俺の役に立つかは兎も角、ヒルダの役には立つだろう。
望月女史に再度礼を述べてから窓の外を見る。
眼前に東京タワー。
…改めて別世界である。
ヒルダ軍団の仕事を邪魔したくなかったので、部屋に戻ってセックスをする。
気持ち良かった。
一段落したら、また手錠を掛けられてしまう。
『え?』
「え?」
この女には人の心が無いのかも知れない。
『俺、足首が痛いんだけど。』
「それは一大事で御座います!」
ヒルダは慌てて室外に出ると軟膏のような物を持参する。
そして丹念に丹念に俺の足に塗り込み、時間を掛けてマッサージをする。
「痛い所があったら遠慮なく言って下さいねー♪」
『こころー。』
「あらあら、うふふ♥」
足のマッサージが終わってから、再度足錠を掛けられる。
股関節がやや痛い。
『なあ、ヒルダー。』
「はい?」
『もう16時だぞ。』
「御安心下さい♥
今日という今日こそは、私の愛がリンに届きます♥」
『うーーん。
そうだ。
何も言わずに小遣いくれない?』
「は?
小遣いと申しますと。
何億くらい用意させましょうか?」
『えっとねえ。
オマエ、万札持ってるか?』
「は!
直ちに用意致します!」
ヒルダは慌てて部屋を飛び出すと、5秒も数えないうちに戻って来た。
「申し訳ありません!
現在、手元に7億程度しかありませんでした!
明日であれば纏まった金額が用意出来ます!」
『じゃあ、悪いんだけど。
その中から1枚頂戴。』
「1枚!?
あの?
このキャッシュは全てリンへ…」
『いや、荷物になるしな。
1枚でいいよ。』
「はあ。
こんなもので宜しいのでしたら…
どうぞ。」
『ありがと、大切にするよ。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
0円
↓
10000円
※ヒルダ・コリンズから小遣いとして1万円を受領
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そのまま2人でゴロゴロしながら17時を待つ。
リラックスしてたヒルダだが、ノックされる度にすぐに政治家の顔になり、室外で部下と話し合いを始めた。
途中、一度だけヒルダから意見を求められる。
「リン。
来週の有識者会議で所得税減税が議題となるのですが、何か要望はありますか?」
『よ、要望とは?』
「いえ、税率の増減に指定がありましたら、そのまま総理に伝えますが。」
『あ! それじゃあ減税は出来るのか!?』
「?
決めるのはリンです。
所得税率を下げたいのですか?」
『下げたい!』
「数字を指定して頂ければ、そのまま提案書に落とし込んでおきますが。」
『お、俺は実際の税法には疎いのだが貧乏人の生活を楽にしたい!
累進性! 累進性だよ!』
「はあ。
御存知の通りこの国の所得税率は所得に応じて5%から45%までスライドしているのですが…
ここの課税ラインを調整しますか?」
『そ、そうなのか。
うん、少しでも労働者の可処分所得を増やしたい!』
「現在は下から順に195万以下5%、330万以下10%、695万以下20%と段階分けされているのですが…」
『あ、あの。
じゃあ、5%減税って出来るか!?』
「はあ。
所得195万以下の者を無課税、330万以下の者を5%という風に?」
『だ、駄目かな?』
「?
可否を決めるのはリンで御座います。」
『オマエから何か意見はないのか?
減税案に賛成とか反対とか。』
「?
女が政治に口を出すなど言語同断でありましょう。」
『え? そうなの?』
「古来より《雌鶏鳴いて国滅ぶ》と申します。
殿方を差し置いて政治に口を挟むなど女の風上にも置けません。」
真顔で言われると脳が混乱する。
オマエの鳴き声で俺の鼓膜1000枚くらい破れてるぞ?
誰がどう見てもコイツが一番やりたい放題やってるんだけどな。
「ましてや、徴税は王だけに許された特権で御座います。
当然、税率はリンが定めるべきでしょう。」
『あ、いや。
別に俺1人で何もかも決めるつもりはないぞ?
皆とよく意見を擦り合わせてだな。』
「流石で御座います!」
『え?』
「下々の意見を積極的に汲み取ろうとする、その姿勢!
まさしく王者の器で御座います!」
『…オマエ、ブラック企業でも出世するタイプだよな。』
「では。
総理には5%減税案を伝えておきます。
後ほどキリエに草案を提出させますので、ご不審の点があればどの様な事でも気兼ねなく御下問下さいませ。」
『うむ、わかった。』
「ああ、それと。
減税案ですが。
全ての所得層に適用して宜しいのですね?」
『?』
「地球に来てから高額所得組の不平を何度か聞かされております。
最高税率の45%はあまりに苦しいと。」
『そ、そういうものなのか?』
「年収4000万円を越えると45%を徴収されてしまいますから。」
『…え、そんなに収入があるんなら、別に、払えるだろ。』
「リン、もっと下々の事を考えてあげて下さいませ。
仮に4000万円から45%を引いてしまうと2200万しか手元に残りません。
これに固定資産税や社会保険料も掛かって来るのです。
子供が進学を控えている家庭などはどこも大変ですよ?
重税の苦しさからシンガポールに逃れる者も少なくありません。
少しは慈悲を掛けてやってあげては如何でしょうか?」
『わ、わかった。
減税は全所得一律で構わない。』
「財務省の大久保なる者が減税派ですが、同省では非主流派として苦しい立場にあります。
時間がある時にでも謁見を許してやれば、リンの為に忠勤することでしょう。
逆に、野中・魚住の両名にはご注意下さい。
愛国の志ではありますが、リンとは真逆のスタンスです。
今、名簿を作らせておりますので、完成次第チェックをお願い致します。」
『わ、わかった。
…減税って、そんなに簡単に出来るものなのか?』
「選挙には追い風になりますから現政権は喜びますよ。
議題に上がった事を派手に報道させるだけで支持率は上がりますので。」
『俺は…
パフォーマンスではなく!
本当にみんなの可処分所得を増やしたいんだ!
真面目に働いている者が困る社会っておかしいだろう!!』
「素晴らしい。
今のリンの御言葉。
民共は必ずや歓呼で応えることでしょう。」
ヒルダ曰く、現在の内閣の支持率から逆算すると高い確率で減税案が国会での議論に上がるらしい。
話の進め方次第では、次の衆院選の直前辺りに可決されてもおかしくないとのこと。
『…。』
「どうなされました?」
『いや。
己の不勉強を恥じていただけだ。』
経産省からレクチャー要員を招聘する提案をされたが拒絶。
不思議そうな表情で理由を尋ねられたので、『情報が全てオマエ経由だとバイアスが掛かる』と答えると、何がおかしいのかケラケラ笑っていた。
それが17時までに交わした会話である。
「リン!
木更津を映しますよー♪
スイッチON♥」
『お、おう。』
「じゃーん♪
本日は倉庫の四方をリンの肖像写真で飾りました!」
『お、おう。
自分の顔ってあんまり見たくないからさ。
今度から、勝手に写真使うのはやめてな?』
「?
どのみち地球がリンの肖像画と銅像で溢れます。
故郷でもそうだったでしょう?」
『まあな。
そりゃあ、カネ配る奴の肖像画なんて…
俺でも飾るわ。』
「あ!
後2分♥」
『うん。』
「後1分♥」
『何でオマエってそんなに楽しそうなの?』
「妻は夫に尽くしている時が最も幸せなのです!」
『あ、うん。
減税案ありがとうな、ちなみに手首が痛い。』
「うふ♥」
手首の関節がジンジンするのだが、税率が下がるのは良いことだ。
少しでも皆の可処分所得が増えれば嬉しい。
諸君、どうか俺の手首などは気にせずに生活を謳歌して欲しい。
「はい、カウント行きまーす♥」
『あ、はい。』
「10♥」
『はい。』
「9♥」
『はい。』
「8♥」
『はい。』
「7♥」
『はい。』
「6♥」
『はい。』
「5♥」
『はい。』
「4♥」
『はい。』
「さんっ♥」
『はいっ。』
「にーぃ♥」
『はーぃ。』
「いーーーーち♥」
『はーーーーい。』
《1万円の配当が支払われました。》
空中から出現した一万円札を見て、一瞬考える。
ひらりひらりと舞い落ちる間に、【下4ケタ切り上げ】のルールを思い出す。
なるほど、1万円の利息の下4桁切り上げると配当も1万円だよな。
やっぱりこのスキルって卑怯じゃない?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
10000円
↓
20000円
※配当1万円を取得。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヒルダはしきりに首を捻り、何度も木更津班に確認をさせている。
「リン。
スキルの不具合なのでしょうか?」
『いや、オマエのおかげで正常な動作確認が出来た。
感謝するよ。』
「///♥」
『家計に幾らか入れようか?
2万しかないけど。』
「いえ!
妻が夫の財をねだるなど言語同断です!
私の物はリンの物!
リンの物はリンの物!
そしてリンは私の物で御座います!」
『あ、うん。
女ってそういう謎理論を発動させがちだよな。』
2万円の置き場がないので、《正直婚活仲人》に挟む。
「気に入って下さいましたか!?」
『いや、面白かったよ。
業界モノって自分の知らない世界を垣間見れるから楽しいよな。
ランキング1位、改めておめでとう。』
祝福すると、ヒルダは少しだけ表情に影を落とす。
『どうした?
アニメ化も決まったんだろ?
正気の沙汰とは思えないが、おめでとう。』
「いえ、それが気になる事がありまして…」
『うん、何か問題発生?』
「最近、ロシア人ヒロイン作品が大量にプッシュされております。
無知蒙昧なるKADOKAWAがアニメ化を企てているようで。」
『??
そうなの?』
「明らかに不自然です。
ライトノベルに限らずロシア関連が大量にプッシュされているのです。
我々いたいけなウクライナ婦人としては危惧せざるを得ません!」
『うん、オマエ王国人だからな。
背乗りやめろな?』
「これはロシアの工作に違いありません!
我らが日本国に対し卑劣極まりない情報工作の数々!
もはや許せません!」
『いや、一番我が国に工作してるのオマエやぞ?
勿論、卑劣さもオマエが断トツやぞ?』
「この様に私は日本の国益のために日々戦っているのです。」
『絶対それマイナスだぞ。』
「取り敢えず、海自には択捉沖まで攻め上がって貰いましょうか。」
『やめーや!』
「?
北方領土の奪還が国是と伺っておりますが。」
『判断は日本人がする。
オマエは口を出すな!』
「?
承知しました。
今度、菅原陸将補を紹介しましょう。
きっとリンに近い軍事観を持っている筈です。」
『頼むから勝手に戦端を開くなよ!』
「まさか。
殿方を差し置いて戦を行うなど、そんな女は言語道断です♪」
…皇帝勝手に殺したやん。
『頼むぞ!』
「はい♥」
『絶対だぞ!!』
「リンは心配性ですね♥
御安心下さい、夫の心配事を全て粉砕する事が妻の勤めで御座います♥」
『妻は誰が粉砕してくれるんですかね?』
「?」
万事がこの調子である。
この女なりに尽くしてくれている事は理解出来た。
男が女にそういう働きを求めていないのが、俺の苦痛の原因なのだろう。
「リン。
何か望みがあれば叶えますが。」
『んーーー。
じゃあ、居酒屋に行きたい。
叶えろ!』
こう言えば少しは黙るかな、と思った。
だがヒルダはニッコリ笑って部屋を退出してしまう。
10分程待たされただろうか、俺が頬杖をついていると突然ドアが勢いよく開く。
「へい、らっしゃい!」
鉢巻風にタオルを巻いたヒルダが満面の笑みで両手に酒瓶を持っている。
『え? え? え?』
「胡桃軒にようこそー。
お客さん、若いねー。
どこから来たの?」
『え? え? え?』
「虎ノ門の人?」
『あ、フラフラしてます。』
「あっはっはww
若いうちはそれが一番!
何飲む?
日本酒しか無いけど。」
『あ、じゃあ日本酒で。』
「はい、春秀入りまーす!」
居酒屋の親父の真似のつもりなのか、ヒルダは中年男性風のダミ声を作っている。
何でそんなに多芸なんだよ。
「お兄さん、なに食べる?」
『え?
じゃあ、たこわさ。』
「お!
行けるクチだねー。
他に何がいい?」
『あ、じゃあ。
串カツ的な揚げ物が食べたい、です。』
「へい、喜んでー♪」
2分も経たないうちにたこわさが運び込まれ、それから5分も掛からず串カツの盛り合わせが俺の眼前に置かれる。
「ほい、注ぎますよー。
ストップって言ってねー。」
『あ、はい。』
「ほーら、いきまーす。」
『あああ、あああ。
おっとっと。』
「おっとと。」
『うわっ、少し零れ…』
「あっはっは。
サービスしといたよー。」
『おっとと。
ズズ――。』
「お! いい飲みっぷりだね!
ツマミ、それだけで足りるー?」
『あ、もうちょっと腹に溜まれば嬉しいです。』
「お兄さん何か作るよ。
今、トマトと大根と明太子、あと荒巻鮭が余ってるんだよー。
バケットは今買って来たんだ。」
『あ、そっすか。
じゃあ、それで。』
「味付はー?
日本風、ウクライナ風、王都風、自由都市風!
言ってくれれば何でも作るよー。」
『あ、じゃあ王都風で。』
「へい、喜んで―。」
ヒルダは運び込まれた洋風のちゃぶ台(いや、多分滅茶苦茶高い家具なのだろう)の上で器用に大根を短冊に切り明太子で和えてから、王国風にアンチョビやシナモンで味を整えて行く。
「へい、お待ちー。」
『あ、どうも。
モグモグ。
ああ、この味懐かしいなぁ。』
「お兄さんやるねえ。
王都風の味付け、この辺じゃあんまりウケないんだけどねー。」
『あ、いや。
俺は結構好きです。
家庭の味っていうか…』
「嬉しいこと言ってくれるね!
ほら、もう一杯サービスだ!!」
『うわっ。
おっとっと。』
「おっとっと。」
『うわーー、ストップストップ。
っとっとっと。』
こんな居酒屋コントを寝る前まで繰り広げた。
うん、認めるしかないな。
おもしれー女だよ、笑えないけど。
【名前】
遠市・コリンズ・厘
【職業】
神聖教団 大主教
東横キッズ
詐欺師
【称号】
女の敵
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 16
《HP》 不調
《MP》 不調
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 ライジング・カード!
《魔力》 悪の王器
《知性》 悪魔/ド低能
《精神》 吐き気を催す邪悪
《幸運》 的盧
《経験》 485948
本日取得 0
本日利息 67027
次のレベルまでの必要経験値169402
※レベル17到達まで合計655350ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定
※クジラの経験値を13000と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利16%
下4桁切り上げ
【所持金】
2万円
【所持品】
全没収
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
『100倍デーの開催!』
× 「一般回線で異世界の話をするな。」
『世襲政権の誕生阻止。』
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
「空飛ぶ車を運転します!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
『遠市王朝の建国阻止。』
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇藤田勇作 『日当3万円。』
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
〇 「お土産を郵送してくれ。」
「月刊東京の編集長に就任する。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
×警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
「オマエだけは絶対に守る!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
「一緒にかすうどんを食べる」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げたのんます。」
〇荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
〇 『子ども食堂を起ち上げます。』
「紙幣焼却によりインフレを阻止する。」
〇田名部淳 「全財産を預けさせて下さい!」
「共に地獄に堕ちましょう。」
三橋真也 「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」
〇DJ斬馬 『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』
金本宇宙 「異世界に飛ばして欲しい。」
金本聖衣 「同上。」
金本七感 「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」
〇天空院翔真 「ポンジ勝負で再戦しろ!」
〇小牧某 「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」
阿閉圭祐 「日本国の赤化防止を希望します。」
〇坊門万太郎 「天空院写真集を献納します!」
宋鳳国 「全人類救済計画に協力します!」
堀内信彦 『和牛盗難事件を解決します。』
〇内閣国際連絡局 『予算1000億円の確保します』
毛内敏文 『青森に行きます!』
神聖LB血盟団 「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」
〇大西竜志 「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」
坂東信弘 「四国内でのイベント協力」
国重辰馬 「四国内でのイベント協力」
涌嶋武彦 「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」
斑鳩太郎 『処刑免除を保証します。』
志倉しぃ 「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」
〇孝文・j・G 「英国大使館パーティーにて利息支払い」
〇グランツ(英) 「perape-ra!!!!!!!!」
金本光戦士 「どんな危機からも必ず救い絶対に守る。」
〇木下樹理奈 「一緒に住ませて」
×松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇 「仲間を売るから私は許して♥」
◎鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
× 「ポン酢で寿司を喰いに行く。」
土佐の局 「生まれた子が男子であればリイチ。
女子であればリコと命名する。」