【降臨56日目】 全財産消失 「無敵理論やめーや。」
これは俺の勘だが、今は昼頃だと思う。
いや、腹の減り具合からして、もう夜かもな。
薄暗い部屋で転がされている為、時間を確かめる術がない。
「リン❤
ごめんさいねー、お仕事が長引いてしまいました♪」
『うむ。』
「何か作りますね♪
食べたいものはありますか?」
『いや。』
「あ、そうだ(ポン)♪
久しぶりに王都料理を作りましょう、そうしましょう❤
リンの好物の《ラムのトマト包み》は如何でしょう?」
『…口の中が切れていてな。
酢の効いた料理はやめてくれ。』
「あらあら。
腫れ物でも潰してしまいましたか?」
『うむ。
昨日オマエらにボコられた時に切ってしまったようだな。』
「あらあらあら、大変!
じゃあ、あまり染みないお料理にしましょう。
《シナモンミートマカロニ》なら食べられますか?」
『うむ。』
「はい♪
すぐに作りますね♪
出来次第お呼びします❤」
『いや、手錠足錠のこのザマだからな。
起き上がる事すら出来ないのだ。』
「あらあら。
じゃあ、そちらにお持ちしますね♪」
『うむ。』
壁の方を向けて転がされているので向こうの様子は分からないのだが、今コンロをオンにした音が聞こえた。
と言う事は居住施設なのだろうか?
ひょっとして三田のタワマン?
残念ながら見当もつかない。
「мені 29 років~♪
Новоспечена дружина~♪」
何やら機嫌良く歌っているヒルダ。
ああ、そう言えば胡桃亭で料理をしている時も、あんな感じだったな。
あの女がコレットと肩を並べて包丁をトントンやっていた光景をふと思い出す。
今は昔の物語だ。
「リン~❤
出来ましたよ~♪
さあ、食べさせてあげましょうね♪」
『うむ。』
「地球の味付けでは、あまりパスタにシナモンを使用しないようですので。
醤油風味の物も用意しました。
さあ、どうぞ、あーん❤」
『うむ。
もぐもぐ。
いや、俺は王都風味も好きだよ。
日本じゃ受けないと思うけど、個人的にはアリだと思う。』
「///❤」
もうアホらしいので、この状況にツッコむ気力も湧かない。
ヒルダが妙に上機嫌なのも、白ける原因の一つである。
『ああ、わかった。』
「どうされました?」
『女が幸福に感じるものって…
男にとって退屈なものばかりなんだよ。』
「まさかw」
ヒルダはクスクス笑う。
「私の歓びはリンに尽くす事です!
従って私の幸福はリンの幸福です!」
『そうかなぁ?』
「そうです❤」
『ってか、オマエって俺に尽くしてるの?』
ヒルダは不思議な物でも見るような表情で俺を眺めている。
「当然ではありませんか。
女の使命は夫に絶対の忠誠を誓い無私の献身を行うことです。
尽くす、ただそれだけが私の喜びなのです!」
『あ、うん。』
どうやら異世界と地球では《尽くす》の定義が異なるらしい。
早急に語義統一を図らなければならないな。
『なあ、ヒルダ。』
「はい❤」
『まずは状況を説明してくれ。』
「畏まりました!」
死角なので見えないが、ヒルダがスマホか何かに指示を出している。
今までとは打って変わって、冷徹な軍人の様な喋り方だ。
異世界の時から思っていたが、on/offの切り替えが緻密過ぎて怖い。
5分ほど経って、見覚えのある女共が入室して来る。
殆どが新キャラだが、関羽・弓長・佐々木と見覚えのある顔もあった。
相変わらず揃いの制服を着用している。
『森さん、ご無沙汰しております。』
「(無視)」
『…やあやあ、弓長さん。
あれからどうされていましたか?』
「(無視)」
『…佐々木さん。
エモやんさんが貴女の話ばかりをしていて大変でしたよ。』
「(無視)」
なるほどね、
大体コイツラの組織運用理念がわかった。
まあ、わかった所でここから脱出する手段が見当たらないのだが。
「モミジ。
始めなさい。」
「は!
これより状況解説を始めます!」
モミジと呼ばれた女性はキビキビと動く。
(ヒルダと同年代くらいだろうか?)
そして俺の前方の壁にプロジェクターを投影する。
ヒルダがやって来て、俺の肩を掴んで壁を見易い位置に転がした。
そして背後から突然抱き締められる。
オマエの人生、さぞかし楽しいのだろうな。
「現在、胡桃倶楽部は主要経済4団体の一つに指定されております。
その流れで渋川代表が有識者会議への出席資格を得ております。
この資格は岸田内閣が続く限りは、更新されることでしょう。」
モミジはパワーポイントを駆使して各勢力と胡桃倶楽部の関係性を補足していく。
経団連や商工会とのパイプはかなり太くなってきたが、同友会に警戒されてしまっているのが悩みのタネとのこと。
「続いて、組織の資金状況についてです。
これに関しては、(株)ウォールナッツ。
その財務に絞った資料から解説致します。
右側の円グラフを御覧下さい。
こちらが弊社のポートフォリオです。」
いつの間にか女共が整列してプロジェクター画面を見てフムフムと頷いている。
まるで社内会議に紛れ込んでしまった感覚だ。
どうやらコイツラは135円台で取得したドルを一旦円に戻すかどうかを悩んでいるようだった。
他にもシンガポール支社の起ち上げ可否についても、やや意見が割れているようにも見えた。
超トップダウン型組織ではあるものの、意見はかなり自由に交換できる風潮らしく、ヒルダの提案した不動産取得案に否定的なコメントが多く寄せられる場面さえ見られた。
(この遣り取り自体が俺を騙す為の芝居の可能性も考えられるが。)
最後にモミジは岸田首相の後任予想を行ってから一礼して下がった。
「次、クニエ。」
「は!」
クニエと呼ばれた女はまだ若い。
俺とそんなに歳は離れていない雰囲気だ。
大学生? 下手をすると高校生かも知れない。
「続きまして、NATOの動静について解説します。
主な情報提供者は菅原陸将補とウィンザー上級大将です。
また非公式にではありますが…
横田基地のネイ監察官が意見交換を打診して来ております。」
要は、ウクライナ戦争の長期化に悩む欧米人が日露戦争の再来を狙っているのだ。
樺太かウラジオストクの対岸に我が国の艦隊を展開させたがっているとのこと。
この極東プレッシャーにより、ロシアが侵攻を断念させる方向に持って行きたい。
無論、ロシアも馬鹿ではないので、硬軟両面から日本に中立を守らせようとしている、というのが一連の流れ。
経済制裁によってロシア経済が崩壊するという当初の西側の目論見は完全に外れてしまっている。
寧ろ、中露を軸としたサプライチェーンが完成し始めていて、西側諸国がパニックになっているそうなのだ。
特にインド・中東がロシアの資源を積極転売し続けており、欧州諸国にとって一方的に不利なレートでの取引が固定化しつつある。
『いや、問題はそこではなく!』
クニエが説明を中止して、目線でヒルダに指示を仰ぐ。
ヒルダがサッと手を挙げると全員がキビキビと退室して行った。
…コイツって本当にこういう軍隊ゴッコが好きだよなあ。
「何か不備がありましたか?」
『そもそもさあ。
オマエ、何でそんなにカネ持ってるの?』
ヒルダは心底不思議そうな顔で答える。
「?
資本主義社会では能力に応じて富が分配されます。」
凄いな。
この女、一言で俺を納得させてしまった。
ただヒルダの言葉に頷く事は、生涯貧窮から抜け出せなかった父親を貶める行為でもある。
もう真理が見えているだけに心が苦しい。
『じゃあ、どうしてそこまでの権力を持っているのかを尋ねるのも愚問なんだな?』
「…?
普通に売り出しているではありませんか。」
ヒルダは首を傾げながら答える。
なるほど。
確かに我が国がこれだけ愚劣な選挙戦を行っている以上、異世界人たるこの女にそう指摘されても仕方ないし、ハックされても文句は言えないだろう。
我が国の法律は議員の多数決によって決まる。
そして議員や選挙にカネを流すルートは腐るほど存在する。
ヒルダからすれば、政治権力がオープンに売りに出されているようにしか見えないのだ。
この女は異世界最古の封建国家である王国の、更には首都である王都に生まれ育っている。
王国女性にしては比較的リベラルな価値観の持ち主ではあるが、それでも強固な封建的価値観を保有している事には変わりない。
30代半ばまでを封建政治にどっぷり浸かって過ごした。
そこでは平民女性である彼女が政治参画する手段は皆無だったし、本人もそれを当然の事として認識していた。
だが、俺と共に国民主権のソドムタウンに辿り着き、自己防衛の為のロビー活動を余儀なくされた。
その時に政治権力の購入を経験済なのだ。
そして、そのソドムタウンは日本国なんかよりも遥かに倫理規範が厳しかった。
厳格な封建政体と倫理的な共和政体、ヒルダ・コリンズは両方を知悉している。
そんな女にとって日本はアホみたいに緩かったのだ。
簡単にカネを稼げたし、そのカネで政治権力を購入する事は更に容易だった。
ただそれだけのこと。
『わかった。
要するにオマエは、蓄財の自覚すらないのだな?』
「私の富はリンだけですが?」
『…カネで納得してくれんか。』
「それに何度も申し上げましたが、これらの資産はリンの覇業の為に蓄えたものです。
献上する為の目録も既に用意しております。
後は受け取って下さりさえすれば、全てが丸く収まるのです。
特にトヨタ株。
これはリンに箔をつける為に買い集めたものです。
やはりこの国を代表する企業の主要株主になって頂いてこそ、リンの力を皆に見せつける事が出来ましょう!」
『俺、株は持たない事に決めてるから。
と言うかさあ。
女性が貯めたお金を取り上げるのっておかしくないか?』
「?
我々は夫婦なのですから、富は共有されて然るべきですし、その名義人は夫であるリンであるべきです。」
『え!?
共有なの?』
「一本化しておかなければ、家督を継ぐ者が家中の財政状況を把握出来なくなるではありませんか?」
そうなんだよな。
どれだけ資本主義に適応しようが、この女ってガチの封建人なんだよな。
全ての発想が家単位。
自分の産んだ子を起点としての世界にしか興味がない。
目の前に居るのが現代人と錯覚してはならない。
呂雉・独孤伽羅・月里朶、そういう連中の同類なのだ。
「御安心下さい♥
木更津の倉庫に、ちゃんと私の貯金も足しておきました。
無論、リンの蓄えた5698億に比較すれば微々たるものですが♥
ともあれ、夫婦貯金が6000億を突破しましたね♥」
『ッ!?』
え?
な、何でオマエが木更津倉庫の存在を知っている?
俺ですら、まだ1度しか使ってないんだぞ?
「夫婦の共有財産ですね♥」
え? え? え?
ちょ、ゴメン。
ちょ、ゴメン。
ちょ、待って、脳を休憩させる猶予を頂戴!
「あ、思い出しました♪
斑鳩が献上して来た大阪港区の倉庫。
あそこはどうしますか?」
…マズいな。
コイツに全てを把握されている。
逆に俺はヒルダ一派の内情、何一つ知らないんだけど。
何でコイツは俺の全てを把握しているの?
「リンの即位を飾るに相応しいオブジェを作らせ始めているのですが。
この際、大阪に保管させますか?」
…え、コイツ。
《そくい》?
アレ、今コイツ何て言った?
「当初は王国風の祭壇を作らせようとしたのですが…
地球側のデザイナーが、私のスケッチを上手く汲み取ってくれなかったのです。
それで、日本神道と神聖教を折衷したデザインになってしまいました。
私は不本意なのですが、皆はこちらの方が良いと言っているので無下にも出来ず。」
ヒルダはスマホを片手で器用に操り、イメージイラストやオブジェの制作風景を見せて来る。
な、なんかスクエニ系ラスボスが登場しそうなコテコテの玉座?みたいな椅子が映っている。
「場所はどこにします?
東京? ロンドン?」
『ロンドン以外で。』
「承知しました。
ロンドンは除外致します。」
『…あの。』
「はい?」
『即位って、何の即位?』
「決まっているではありませんか。
故郷は既に制圧済なのですから、当然次の攻略目標は地球です。
これでリンは両方の世界を征服した至高の王となり!
王朝は未来永劫、人類を支配し続けるのです!」
『あ、いや。
俺、王座とか1ミリもいらないんだけど…』
「流石で御座います!!」
『え?』
「これだけ強欲が溢れる世の中で、リンは無欲高潔!
感服致しました!
まさしく王の器で御座います!」
『無敵理論やめーや。』
「大体、故郷ではあの複雑難解な国際情勢を4か月で纏め上げてしまったではありませんか。」
『だから。
異世界の覇業も自然にそうなっただけで。
別に俺はそこまで考えていなかったんだよ!』
「ええ。
ですので、地球でも結局そうなります。」
『…まあ、なるだろうけどさ。
だからと言って統一王権が必要だとは思わない。』
「リン、よく思い出して下さい。
故郷で諸王達がリンに服従した理由を。」
『いや、服従も何も。
カネを配っただけの話だよ。
直接配ったのはオマエら母娘だけどな。』
「リンから配られる資金が膨大過ぎたのです。
なので、その傘下に入れなかったケースを想像する事が、皆にとって恐ろし過ぎたのです。」
『地球でも似たような展開になると?』
「はい、どうせリンは気前よく資金を分け与えるのでしょう?」
『まあ、人類全てに平等に配りたいな。』
「自然に皆が臣従します。」
『別に臣従なんかしなくても、普通にカネは配ってやるぞ?』
「ですから。
その分配をより確実により早く受ける為に、皆がリンに首を垂れるのです。
大体、配ると言ってもタイムラグなしに全く同時に分配は出来ないでしょう?」
『まあ、全く同時は現実的ではないな。』
「当然、先に貰った方が有利ですので、皆がリンに優先的に分配されようと試みるでしょう。」
『ああ、確かに。
早い方が得だよな。
時間的格差をフル活用する奴も出て来るだろう。』
「その優先権を頭を下げる事で買うのです。
現にリンの周りには、そういう殿方ばかりではありませんか。」
『いや! 彼らは仲間だよ!
買うとかそういう魂胆の連中じゃない!
殆どカネも渡してないし、寧ろ分配は後回しにするくらいの気持ちでいる。』
「そうなのです。
傍目にも強い信頼関係が築かれているように見えました。
リンは無限の資金を持つだけでなく、人心掌握もちゃんと出来るのです。
言語面の問題から地球全体にその人徳が知られるのは遅れるかも知れませんが…
年内には嫌でも地盤が固まっておりますよ。」
『…ああ言えばこう言う奴。』
「本当はリンも知っているのでしょう?
貴方は地球でも王になります。
別に良いではありませんか。
どのみち他に大した人材も居ないのですから。」
…この女、絶対に俺を王座に押し込む気だな。
いや、異世界でもそうだったから驚きはしないが。
『問題はさあ。』
「はい。」
『俺、世襲に反対なんだよね。』
「???
それは?」
『だから、生まれながらに権力や財産を持っている奴っておかしいだろ?
…俺は如何に世襲を禁止するかを考えている。』
「???」
ヒルダは馬鹿か狂人でも見るような目線で俺を見ている。
この反応、わかっていても傷つく。
「申し訳ありません。
リンの仰る意味がわかりません。」
『言葉の通りだよ。
世界的に相続税率を高めて、資産が全人類に流動する流れを作る。』
「???
それは人民に子への資産継承を禁ずるということですか?」
なるほど。
それが子育てを完了した大人の目線なんだな。
…勉強になったわ。
『別に数千億レベルなら相続を許してもいいんじゃないか?
俺も庶民の暮らしを締め付ける意図はない。
ただ、俺自身の財産は別だ。
膨大過ぎる。
これを世襲させるということは、実質的に地球王権を俺の家系が牛耳り続ける事になってしまう。』
「???
それは何か問題があるのですか?」
『いや、特定の家系が権力を独占したら、汚職とか腐敗とか…
酷くなるじゃない?』
「????
お言葉ですが、賤民上がりの小権力者でも汚職を行っております。」
『まあな。
それは否定しない。』
「それに汚職を犯すか否かは遺伝子で決まります。」
『え!?
いや、遺伝子はそこまで万能ではないだろう?』
「人間の思考や行動など遺伝子が99.9%を決定しております。
汚職を無くしたいなら、汚職を犯しうる血を絶やせば良いだけなのでは?」
『…お、オマエは何を言っている?』
「いえ、出生段階で遺伝子検査を義務付ければいいだけの話かと。
犯罪性向の強い遺伝子を持つ民族や家系を根絶し、一定の公徳傾向を持つ個体だけに生存を許せば、すぐにリンの望みは叶います。
半世紀も経たないうちに、その政治目標は達成されることでしょう。」
『…い、いや。
遺伝子選別は考えていない。』
「では汚職が増えますよ?
欲の過剰な遺伝子を絶やさない限り、汚職が増える事はあっても減る事はありません。
リンが生まれついての王であるように。
罪人は生まれつき罪人なのです。」
『…考えさせてくれ。』
「畏まりました。」
…何もかも甘かった。
これが世界を革命する気概なのだ。
現にこの女は女性の地位向上を成し遂げ、異世界を一変させている。
膨大な数を殺し大いに恐れられてはいるものの、その政治的功績は万民が認めていた。
何かを変えるとは、こういうことなのだ。
「相続税に関してはどうします?」
『え?』
「明日の経済諮問会議がその議題なのです。
カオルコも出席しますから、希望税率があればその場で伝えさせます。」
『あ、いや。』
「構いませんよ?
リンの構想する税率を仰って頂ければ。
夫の望みを叶えるのが妻の使命ですから。」
『ちょ、ちょっと待ってくれ。
突然言われても…』
「??」
『ま、まずは累進性だ!
金持ちほど多く支払うべきだ!
そこは譲れない!』
「畏まりました。」
『勿論、ケア体勢の整っていない現時点で、いきなり全額徴収とまでは言わない!
そ、そうだな。
よし!
資産家は最低でも相続時に半分を国庫に納めるべきである!』
「??
現在の最高税率は55%ですが…
半分で良いという事は5%の減税措置を講じられるのですか?」
『え? そうなの?
いや! そういう意図で言ったのではない!
あくまで累進性!
貧民からは緩く! 資本家からは多く!
スタートラインの公平性を目指したいんだ!』
「では、相続税の課税基準を変えますか?
現在の非課税ラインは3600万ですから、もう少し上げます?」
『いや、流石にそれ以上のキャッシュの相続には課税するべきだと思う。
俺の言ってるのは超富裕層だよ。
そういう連中にもっと課税するべきだと思う。』
「具体的には?」
『い、いや具体案は…
まだ。』
「ではこうしましょう。
昨年、自民・公明両党が提唱したミニマムタックス案。
これは超富裕層に対する追加課税措置なのですが、この導入に賛同し推進する論陣をカオルコに張らせましょう。
岸田総理や財務省の心証も稼げますので、かなりの良手だと思います。
それで宜しいですか?」
『う、うむ。』
「承知致しました。
では胡桃倶楽部は同案の賛成に回ります。
後ほど訓示しておきましょう。
いずれ人民は方針を示したリンを称えることでしょう。」
『う、うむ。』
「では、明日の議事録が纏まりましたらカオルコに提出させますので、目を通しておいて下さい。
不審な点がありましたら、経産省の者を呼びつけますので遠慮なく御下問下さいませ。」
『う、うむ。』
…あれ、異世界の時と寸分違わぬ展開になって来たぞ?
何で? なーんで?
「ああ、どうして故郷と同じアプローチを取ったかの補足を致しますね。」
『心を読むのやめてくれない?』
「??
夫の心を推し量るのは妻の義務です。」
『ぱ、パーソナルスペースってあるじゃん。』
「それは他人同士の話でしょう?
夫婦とは一心同体。
未来永劫ゼロ距離なのです。」
…ま、マジかー。
夫婦にはパーソナルスペースが存在しないのかー。
…結婚って糞やな。
というか大前提として、俺の妻はオマエの娘なのだが?
「???
では、どうして故郷と同じ政治手法を取っているかの解説を致しますね?
結論から申しますと、リンの社会的特徴が資本特化であることが理由です。
一般的に社会的なアドバンテージは【権力】【武力】【財力】によってもたらされます。
この3つがバランス良く積み上がって行くのが理想なのですが、故郷においても地球においてもリンは他の2つを持たないまま【財力】だけを突出させてしまいました。
これは極めて危険です。
暴力や権力によって財産以上の物を奪われる可能性が高いので。
なので、【財力】が突出してしまった者は、なりふり構わず官僚組織の懐に入る必要があります。
特に、政府が財界人を集めて開催する会議・企画。
ここにはどんな手を使っても潜り込まなければならないのですよ。
私もリンの帰還までにもう少し地盤を固めておきたかったのですが、なにぶん土地勘の欠如に泣かされまして、随分手間取ってしまいました。
お恥ずかしい話なのですが、政界への工作が滞っておりまして、はっきり傘下と断言出来るのが東京31区の村岡と埼玉17区の加賀美しかおりません。
以上のように、我々には殆ど手札がないのです。
なので当面は有識者会議にカオルコを押し込んで地道な切り崩し工作に専念する所存です。
故郷の進捗に例えると、今はリンが(株)エナドリを起ち上げた段階です。
取れる手が極度に少ないのです。
これが2つの世界で似たアプローチを取る理由です。」
『お、おう。』
「地球クリーン作戦の遅れはひとえに私の力不足です。
郎党共はよくやってくれておりますので、どうか顕彰してやって下さいませ。
末代までの誉となりましょう。」
『郎党って、昨日俺をフルボッコにした女共?』
「はい!
忠烈無双の精鋭達です!」
『毎度の事だが…
忠がオマエだけに向けられ、烈が社会に向けられる現状を何とかしておけよ。』
「前向きに善処します❤」
で、コイツらがどれくらい忠烈かと言うと、木更津倉庫襲撃時に俺の仲間の多くを制圧して軟禁していた。
画面の中で確認出来たのは昨夜倉庫に待機していた伊地知・沢下・鳩野・堀内(堅)である。
解放を命じるとすぐにヒルダは応じたが、逆に言えばこの女は俺の身内に対してその程度の認識しか持っていない。
都内のホテルで軟禁状態にあった坊門と国重も先程解放されたとの事だが、俺にその情報の真偽を確認する術はない。
『何故彼らを拘束した?』
「スパイの可能性もあるので、後ほど尋問しようかと。」
『…そんな事を言ったら!
オマエの配下にだってスパイが居るかも知れないじゃないか!』
「ええ、なので私は郎党全員にDNA鑑定と人質の供出を義務付けております。
また、これまでの全通話記録も提出させた上で、全員に発信機を装着させてます。」
『…どうして、そこまでされて女共はオマエに着いて来るんだ。』
「さあ。
女は現金な生き物ですから、強くて有益な方に付きますよ?
だって面白いでしょう?」
『そんな軍隊みたいな生活の何が面白いんだよ!』
「でも、昨日の大使館では楽し気でしたでしょう?」
『まあな。
俺をボコってる時の女共は心底楽しそうだったよ。』
「それだけの事です。」
いや、わかるよ。
俺が女でも絶対にヒルダに惹かれるわ。
一見冷淡だが極めて面倒見が良いし、何より常に陰謀を張り巡らせているので一緒に居て退屈する事がないのだろう。
『俺の仲間には絶対に危害を加えるなよ。』
「善処します。」
『絶対にだ!』
「御安心下さい。
まだ始末してはならないと厳命しておりますので。」
『これからも殺すな。』
「前向きに検討しておきます。」
興奮した所為か全身の痛みが再発した。
それを和らげる為、ゆっくりと呼吸を整える。
その後、送られて来る木更津班の生存確認画像を横目で確認しながらヒルダと雑談。
沢下と堀内(堅)の顔に激しく殴打された痕跡があるので厳重に抗議、謝罪と賠償を要求する。
協議の結果、昨夜拘束された者全員にヒルダが賠償金と治療費を支払う事で合意した。
俺達が現地動画を見守る中、木更津班に日本円が現金で支払われる場面を確認。
彼らの安全の為に帰宅させる事を決意する。
通話はさせて貰えなかったが、俺の解散指示アナウンスは彼らに聞こえた様子だった。
『彼らを追撃するなよ?』
「善処します。」
『必ず生存確認をさせろ。
負傷や死亡に関してはオマエの差し金と断定するからな?』
「発信機でも付けましょうか?」
『監視も追尾も禁止だ。
いいな?』
「畏まりました。」
ヒルダは俺の指示には概ね従う。
逆に言えば、それがなければ際限なく暴虐の限りを尽くす。
『大体、どうしてオマエはそこまでアグレッシブなんだ?』
「昔から内助の功と言うではありませんか?」
どうやらこの女にとっては皇帝謀殺もNATO誘致も《陰ながら夫を支える健気な妻の内職》程度の認識であるらしい。
世間の主婦がパートに出掛ける位の気持ちで婦人軍団を編成しているのだ。
異世界人達さえも理解に苦しんでいたのだから、俺にコイツの心理が読めないのは仕方ない。
「そこまで妻の行状が不安なら、抱きしめて手放さなければ良いのです♪
これで全て解決ですね、ぶい♥」
『30越えて《ぶい♥》は止めろよ。』
「私、29歳です♥
日宇両国の戸籍にそう記されてま〜す♪」
『背乗りやめーや。』
「背乗りではありません、新規創出です♪」
『その時点で偽造じゃないか。』
「国際社会が認めている以上、この戸籍は正式なのです♥」
取り敢えず、戸籍管理の厳重徹底が俺の公約に加わる。
「そんなに気になるのなら、ずっと囲って下されば良いのです♪」
最後にそう言って勝手に話題を打ち切ってしまった。
ヒルダが聞きたがったのが西日本巡りの話。
大阪以西を回ったあの数日で、俺の政治的優位が決定したとのこと。
理解しかねるが、この女が言うならそうなのだろう。
気まぐれに鳥取の湖山池の話をしてやると存外喜んでいた。
《一番大きな池》という着眼点が素晴らしいとのこと。
湖山池があまり知られていない事は尚好ましく、後々の検索戦略で優位に立てるらしいのだ。
なるほど、わからんでもない。
どのみちやることもないので2時間ほどセックスをした。
手首が腫れて来たので中止する。
「まあ、炸裂弾の投げ過ぎの後遺症でしょうか?」
『この手錠の所為だぞ(怒)。』
「地球にもエリクサーがあれば良いのに。」
『どうせ俺には効かないし。』
「ご安心下さい。
未来永劫、私が側に居りますから♪ (ニッコリ)」
『え? ずっと居るの?』
「はい、永久に❤」
…マジかー。
…そうかぁ、永久と来たかぁ。
うーーーーーん、マジかぁ…
未来永劫と来ましたか…
ははは、はは、ははは…
…やっぱ辛ぇわ。
「16時30分となりました。」
『あ、そうなんだ。』
「木更津班に連絡を取りますね。」
そういってヒルダは通信機を取り出す。
「ミヤビ、待機は完了しておりますか?」
「ヒルダ様。
はい! 現在、A班が倉庫内にて待機。
B班が周辺の索敵を行っております。」
「うむ。
神の恩寵は17時ジャストです。
負傷に注意して状況を遂行するように。」
「ハッ! 了解であります!」
『オマエって軍隊好きだよな?』
「軍隊? はて?」
どうやら軍隊行動の自覚すらないらしい。
曰く、あくまで《旦那様のお手伝い♥》の範疇とのこと。
この母娘の恐ろしさって、微塵の敵意も無く俺を苦しめ続けているところだよな。
「リン、もうすぐです。」
『うむ。』
「カウントダウンしましょうか?」
『いや、それは時計の仕事だ。』
2人で秒針を眺める。
《本日の配当は御座いません。》
脳にそんなアナウンスが響いた。
ヒルダは不思議そうな表情で俺を眺めている。
「?
スキルをOFFにしておられます?」
『いや、異世界の時から変わらず俺のは自動型だ。
昨日までは俺の周辺に通貨が射出されていたのだがな。』
「?
今日は出ないのですか?」
『うん、俺もこんな事は初めてだ。』
「???」
『これは仮説なのだが、オマエに資産を押さえられた事で、現在の手持ちがゼロになったのだろう。
ゼロに利息は付かない。
だから今日は1円も獲得出来なかったのだ。』
「リンの資産は木更津にあるではありませんか?
私の資産も全て合わせましたので、増えこそしましたが、減ってはおりませんよ?」
『うーん。
多分な?』
「はい。」
『夫婦の共有財産と言われた事で、俺の脳があのカネを自分の物だと認識しなくなったのだろう。』
「理解出来ません。
夫婦の富なのですよ?
妻たる私はリンの所有物ですので、実質的にあの資産は全てリンの物です。」
『いや、女性を物扱いするのは良くないだろ。』
「ッ!?
…。
///♥」
何が嬉しかったのかヒルダはずっと俺にもたれ掛かっていた。
オマエが幸せそうで何よりだが…
要するに俺の資産が全て消失したと言う事である。
コイツらにはとことん段取りを狂わせられるよなあ。
『あのー、俺無一文になったんだけど?』
「あらあらww
リンったら冗談ばっかり♥
いいですか、木更津倉庫に積み上がった我々の資産は6000億円を越えているのですよ?
これは日本の富豪ランキングで7位という壮挙です!」
『あ、うん。
そのカネは俺のじゃないみたいだから。』
「リンの資産に私の資産が合わさったのですから、全てリンの資産です!」
『うーーーん。
それは樽一杯の泥水なのでは?』
コイツと何を話しても平行線なので、不貞腐れて寝転ぶことにした。
まだ時間が早かったので退屈で眠れない。
それを目敏く見つけたヒルダがタブレットで漫画を見せてくれる。
「リン♥
何か見たい漫画はありますか?」
『今年のHUNTER×HUNTERが読みたいな。』
「検索してみましたが、今年は掲載されていないようです。」
『じゃあ、いいや。』
「そこで!
世界一面白い漫画をリンの為に用意しておきました!」
『え? 世界一?』
少し興味を惹かれる。
「じゃーん♥
《今この漫画がしゅごい!》
女子ランキング1位の《正直婚活仲人》です♪
なんと著者はヒルダ・コリンズ♪
絶賛重版中です、ぶい♥」
『それ、男が読んで面白いのか?』
「安心して下さい。
音読して差し上げます♥」
小一時間、ヒルダの1人コントに付き合う。
キャラ毎に声色を切り替える器用さに感服する。
コイツ本当に多芸だよな。
俺がウトウトしていると、ヒルダがテキパキと着替え始めた。
どうやらリモート会議が始まるらしい。
相手は日本国内の親西側事業家だろうか。
中露の政治姿勢を皆で激しく非難している。
どうやらロシアへの経済制裁強化を官邸に要求する為の会議らしい。
最後にヒルダが立ち上がり、プーチン大統領の好戦的な政策を厳しく糾弾し始めた。
注意深く聞かないと論理的とも解釈されかねない中々の煽動演説である。
「吾人は故なくして漫りに開戦を主帳するものにあらず!
又吾人の言議適中して後世より先覚予言者たるの名称を得るは!
却て国家の為に嘆ずべしとするものなり!
噫我邦人は千歳の好機を失はば我邦の存立を危うすることを自覚せざるべからず!
暴露當征ッ!!
自由を我らにッ!!」
…まずはこの手錠外せや。
【名前】
遠市・コリンズ・厘
【職業】
神聖教団 大主教
東横キッズ
詐欺師
【称号】
女の敵
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 16
《HP》 瀕死
《MP》 絶望
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 ライジング・カード!
《魔力》 悪の王器
《知性》 悪魔/ド低能
《精神》 吐き気を催す邪悪
《幸運》 的盧
《経験》 273073→314034→361139
本日取得 0
昨日利息 40961
本日利息 47105
次のレベルまでの必要経験値294211
※レベル17到達まで合計655350ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定
※クジラの経験値を13000と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利16%
下4桁切り上げ
【所持金】
0円
【所持品】
全没収
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
『100倍デーの開催!』
× 「一般回線で異世界の話をするな。」
『世襲政権の誕生阻止。』
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
「空飛ぶ車を運転します!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
『遠市王朝の建国阻止。』
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇藤田勇作 『日当3万円。』
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
〇 「お土産を郵送してくれ。」
「月刊東京の編集長に就任する。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
×警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
「オマエだけは絶対に守る!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
「一緒にかすうどんを食べる」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げたのんます。」
〇荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
〇 『子ども食堂を起ち上げます。』
「紙幣焼却によりインフレを阻止する。」
〇田名部淳 「全財産を預けさせて下さい!」
「共に地獄に堕ちましょう。」
三橋真也 「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」
〇DJ斬馬 『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』
金本宇宙 「異世界に飛ばして欲しい。」
金本聖衣 「同上。」
金本七感 「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」
〇天空院翔真 「ポンジ勝負で再戦しろ!」
〇小牧某 「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」
阿閉圭祐 「日本国の赤化防止を希望します。」
〇坊門万太郎 「天空院写真集を献納します!」
宋鳳国 「全人類救済計画に協力します!」
堀内信彦 『和牛盗難事件を解決します。』
〇内閣国際連絡局 『予算1000億円の確保します』
毛内敏文 『青森に行きます!』
神聖LB血盟団 「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」
〇大西竜志 「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」
坂東信弘 「四国内でのイベント協力」
国重辰馬 「四国内でのイベント協力」
涌嶋武彦 「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」
斑鳩太郎 『処刑免除を保証します。』
志倉しぃ 「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」
〇孝文・j・G 「英国大使館パーティーにて利息支払い」
〇グランツ(英) 「perape-ra!!!!!!!!」
金本光戦士 「どんな危機からも必ず救い絶対に守る。」
〇木下樹理奈 「一緒に住ませて」
×松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇 「仲間を売るから私は許して♥」
◎鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
× 「ポン酢で寿司を喰いに行く。」
土佐の局 「生まれた子が男子であればリイチ。
女子であればリコと命名する。」