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【転移直後】 所持金0ウェン 「よし、この異世界では下町の熟女未亡人辺りで童貞を捨てよう!」 

やあ、みんな!

俺の名前は遠市厘!

ごくごく平凡な高校2年生だ!

俺達2年B組はコロナ禍の中世論の反対を押し切って校外学習に出たのだが、何と異世界にクラス転移してしまった!

(今頃、絶対日本中から総バッシングされている筈だ。)


目の前にはナーロッパ風の騎士達。

俺達を取り囲んで右往左往する聖職者風の男達。

その向こうには側近と内緒話をしている玉座の王様。


断言しよう、地味にヤバい!



「と、遠市くん。

は、派手にヤバいよ。」



後ろから遠慮がちに声を掛けて来たのはラノベマニアの斉藤。

宅建受験直前の俺になろう小説を勧めて来た程のマニアだ。



『ねえ、斉藤君。

これって異世界?』



「た、多分。」



『良かったじゃない。

君、いつも行きたがってただろ?』



「い、いきなり転移させられても!

こ、心の準備が出来てないんだよ。

せ、せめて、パ、パソコンのエロフォルダーを消す猶予は欲しかったよ。」



君なんかまだマシだよ。

俺なんか父親の四十九日も明けてないんだぜ?

参ったなぁ、墓とか仏壇とか、団地の居住手続とか何もかも手つかずなのに。



「ね、ねえ金本君。

や、やっぱりここって。」



「うーん。

ガチっぽいなぁ。

しかもハズレ異世界。」



『え?

そうなのかい?』



参ったな。

金本君は転校初日から学校中でキモがられていた程の真性オタク。

そんな彼がハズレ認定したということは、余程のハズレなんじゃないか?



「ほら、トイチ君も見渡してみ?

オッサンばっかりやろ?」



『本当だ。

女性がいないね。』



「普通、異世界転移って言ったら爆乳の女神とか、爆乳の姫様とか、爆乳の女騎士が迎えてくれるモンやけどな。

このナーロッパはホスピタリティに欠けとるわ。」



なるほど、それで念願の異世界にも関わらずオタク連中のテンションが低いのか。


確かになぁ。

斉藤君が貸してくれたラノベでも、女キャラばっかり登場して、主人公はハーレム作るよな。


…俺もハーレム作れるのかな?

いや、ハーレム以前に早く童貞捨てたいよ。

偏差値とカップル率は反比例する法則に従えば、こんな低民度校に通っている俺に彼女が出来ないのはおかしいのだが…

どういう訳か入学以来、女と全く縁が無い。


そうか、異世界か。

ひょっとしたら後腐れなくセックスさせてくれるキャラとか出現するんじゃなかろうか?

うん、そうだよ。

折角異世界に来たんだから童貞を捨てたいよな。

誰でもいいから、取り敢えずヤラせて欲しい。


再度、周囲を見渡す。

ガチの封建社会っぽいな。

フリーセックスの思想とか乏しそう。

ってか向こうの方では聖職者連中が横柄な身振りで騎士達に指示を出している。

うーん、ひょっとして宗教国家なのだろうか?

もし禁欲的な教義だったら嫌だな。

俺がセックス出来る確率がますます下がる。



借りて読んだラノベでは、主人公が処女の王女とか姫とかと普通にセックスしていたのだが、リスク高過ぎだと思う。

マジモンの打首フラグである。

臆病者の俺にそんな度胸はない。



そうだなあ、童貞捨てたいだけだからなあ。

相手は誰だっていいんだよな。

後腐れさえなければ、ブスでもババアでもなんでもいい。

勿論、美人に越した事はないよ。

顔と身体だけなら松村先生なんかは最高だって皆も言ってる。

まあ、俺はあの人に嫌われてるから無理だろうな。

面と向かって、「アンタ如きが健常者学級に在籍している事が間違ってる。」って言われた事もあるしな。

あの日は布団の中でガチ泣きしたわ。

あれも一種の失恋なのかなぁ。

まあ、人生五大トラウマの1つだな。


童貞なぁ。

捨てるとしたら、身分の高い相手は絶対駄目だ。

リスクが高すぎる。

若い子や処女も駄目だ。

責任を取らされる可能性がある。

俺はセックスはしたいが、責任は絶対に取りたくない。

あ、人妻はどうだろう!

ヤリ慣れてる筈だから、優しくリードしてくれるに違いない!


うーん、駄目だな。

相手の旦那にバレた時に俺の細腕じゃ対抗出来ない。

最悪の場合、その場で撲殺されて終わりだろう。


あ!

いいことを思いついた!

未亡人だよ、未亡人!

旦那が既に死んでる女がいい!

それならセックスの経験も豊富だろうし、怖いオジサンも出てこない。


決まりだな!

町外れで細々と零細事業を営んでいるような未亡人熟女!

それなら絶対安牌だ!

何の後腐れもなくセックス出来る!

数回ヤッたら、さりげなくフェイドアウト(笑)

うん! これなら何のリスクも負わずに済むぞ!


ふふふ、我ながら天才的なアイデアだ。

よし、この異世界では下町の熟女未亡人辺りで童貞を捨てよう!


松村先生め、さんざん俺の事を低能呼ばわりしやがって、見る目の無い女だ。

くくく、実は俺はこんなにも頭脳派なんだぜ!



「おい、遠市。

早く並べ。」



突然、声を掛けられて驚く。

柔道部の岩田だ。



『え?』



「今から司祭様が説明して下さるから、整列だ整列。」



『あ、ゴメン。』



岩田は周囲を素早くキョロキョロしてから俺に耳打ちする。



「卜部が騎士さんから聞き出してくれたんだが、どうやらフェルナンデス司祭はリストラの鬼らしい。

使えない、と判断したら即座に解雇する事で有名みたいなんだ。」



『マジ?

最悪だね。』



「ああ、俺達は高いコストを掛けて召喚されたみたいだから、まだ寛容に扱ってくれているけど。

目を付けられたらヤバいって。」



『うっわ、異世界でリストラとか絶対詰むじゃん(笑)』



「俺はオマエを心配してるんだ!」



『え、何で?』



「昔から遠市は余計な事ばっかり言ってトラブルを起こすからな。

説明不足の癖に感情がすぐ顔に出る。

リストラしてくれって言ってるみたいなモンだぞ?」



『ははは、岩田君は心配性だなぁ。

大丈夫大丈夫♪

俺もやる時はやる男だからさ!』



「そうか…

いや、オマエはそう言って中学の頃からやらかし続けて来たからな。

いいな!

せめて周囲に迷惑だけは掛けるなよ!

頼んだぞ!

いや、フリではないからな!」



まったく、デカい図体して心配性だな。

聞けば俺達は膨大なコストを掛けて呼び出されたそうじゃないか。

じゃあ、彼らだって迂闊にリストラは出来ないだろ?


くっくっく。

俺がリストラ?

無い無い(笑)

それこそ赤ちゃん以下の超絶無能でもない限り、俺がリストラされるなんてあり得ないってのww



壇上に太ったオッサンが登った。

着用している衣装は法服っぽい。

何かを発言し掛けた大臣を制しての登壇だから、余程権勢があるのだろう。

大臣は唇を噛んで無言で王様の隣に戻った。

何となくこの国の権力構造が見えて来る。



「ようこそ!

異邦の若き精鋭達よ!

私の名は、フェリペ・フェルナンデス!

上級司祭です!」


坊主だけあって通る声だ。

玉座の間全体がビリビリ震えた。



「まあ、上級司祭と言ってもね?

今期の選挙が終われば司教に就任しております!

私と仲良くしていると得ですよー、あははは。


そう、今この世界では選挙戦の真っ最中なんです!

ほう、皆さんの世界にも選挙がある?

いやあ、親近感が湧きますなあ。


恐らく皆さんにも王都教区での選挙権が与えられると思いますが!

フェリペ・フェルナンデス!

フェリペ・フェルナンデスに清き一票を!」


第一声が自分の選挙運動かよ…

何か嫌な雰囲気である。

玉座の方でも王様達が眉を顰めている程だ。



「君達は運が良い!」



フェリペは続ける。



「我らの聖戦に士官身分で参戦出来るのだから!」



要は、この王国が魔族 (ゴブリンやらオークやら)の領地に侵攻する際の兵士として俺達が呼ばれたらしい。

何でも外の世界から呼ばれた生物は、高い能力や希少なスキルを身に付けているケースが多いから、とのこと。


ここら辺の理屈はラノベで履修済みなので、多少は理解出来る。

で、その為にもスキル鑑定の儀をこれから早速開始するらしい。



「いやあ、実はこの召喚は予算枠を大幅にオーバーしてしまっているんですよ(笑)

皆さんがレアスキルを所持していなければ、私の選挙資格が没収されてしまうかもです。


あ、ここ笑うところですよー♪」



聖職者達がスキル鑑定装置を組み立てるまでの間、フェルナンデス司祭の質疑応答タイム。

割とフランクに何でも答えてくれる。



「私は戦争になんて加担出来ません!

帰還させて下さい!」



何人かの女子がそう訴えると、司祭は素早く部下の背後に隠れて回答を押し付けてしまう。

この男は聞こえの良いスピーチは自分が独り占めする癖に、恨みを買ったり責任を負わされそうな場面は、全て部下に押し付けているのだ。

地球にもこの手の輩は居るのだろうが、かなりの糞上司ムーブである。


5分後。

帰れない、という事実が判明する。

最後に司祭が他人事のように「理論上は全くの不可能とも言えなくはない気もするんですがねぇ。」と呟く。

そのあまりに無責任な表情を見て、何人かの帰還希望者がその場にしゃがみ込んでしまった。

酷い話である。



「他に質問はありませんかー?」



帰還についての議論を勝手に打ち切ってフェリペは、話題転換を目論む。

徐々に2年B組が騒然としてくるが、聖職者連中は余裕を崩さない。

これは俺達の周囲を騎士や僧兵(?)で包囲している所為だ。

万が一、俺達が暴動を起こしても鎮圧可能という力関係。

これが司祭の鷹揚かつ横柄な態度に繋がっている。



「皆!

まずは冷静になろう!」



前方から声が上がると、クラス全体が静まりかえる。



「司祭や王国にも言い分はある筈だ。

まずは彼らの主張を全て聞くところから始めよう!」



騒いでいた女子が本当に黙ってしまう。

今までの喧騒が嘘のようだ。



平原隼人。

サッカー部のキャプテン。

おまけにイケメンで金持ち。

いつも周囲に見せびらかすように女を侍らせている。

勿論、俺はコイツが大嫌いだ。



平原は司祭に歩み寄ると、立たされっ放しだった俺達に椅子を支給させる事に成功した。



  「ああん♪

  どんな時でも冷静な隼人♥

  惚れ直しちゃったよお♪」


  「ホントよ!

  役立たずの陰キャ共とは大違い!」


  「流っ石アタシの隼人♪

  一緒に居るだけで超安心♥ 

  キャハッww」



取り巻きの女共が歓声を挙げてから、ドヤ顔で周囲を見渡す。

まるで平原の手柄は自分の物かのような態度だ。


司祭達もキーパーソンと話すのが手っ取り早いと判断したらしい。

平原だけと額を寄せて談義し始めた。

まるで俺達と話すのが時間の無駄と言わんばかりの態度である。

(いや無駄なのだが。)

気に入らない。


スキル鑑定装置が組み上がると、大臣が呼び出されて脇の机で書類のような物をチェックさせられ始めた。

大臣やその部下が顔を真っ赤にして司祭に抗議するが、聖職者連中はニヤニヤ笑うだけだ。

最後に大臣が大きく肩を落とし膨大な書類の山にサインを記し始める。

どうやら俺達の管理権を持つのが王国か宗教勢力かの押し問答だったらしい。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




大臣が不本意そうな表情で書類の精査を行っている間、司祭が無遠慮に俺達の輪の中に入って来る。


「ねえねえ、君達。

他に質問とかない?

オジサン、選挙前だから親切にしてあげるよ?」


親切心からではなく、大臣の書類チェックを待つのが退屈だったから話し掛けて来たのだろう。

俺達の中をズカズカと歩きながら質問を促して来る。

そして俺と目が合う。

…全く何の質問もしないのは雰囲気悪いな、と思った。


『あのお。

こちらの宗教の教義を教えて下さい。』


別に興味があった訳ではない。

この異世界の文化がセックスに寛容か否かを知りたかっただけなのだ。


「え!? 

教義!?」


司祭が目を丸くして俺を見つめる。


『あ、スミマセン。

この質問、問題ありましたでしょうか?』


「あー、いや…

別に悪くはないんだけど。


へー、今時珍しいねえ。

教義(笑)って。」


司祭はそれだけ言うと笑いながら、他の生徒の群れに入っていった。

え? スルー?

俺、何も変なこと言ってないよな?

クラスメートが非難がましい目線を向けて来たので少し驚く。


いつもそうなのだ。

俺が真面目に振舞えば振舞う程、それが場違いであるかの様に扱われる。

…聖職者に教義を尋ねるって、そんなにおかしいことか?

釈然としない。



「はい! 

それではね! スキル鑑定装置のね! 準備がね!

事務的な面も含めてね! やっと、完了しました~(笑)」



司祭がテンション高めに装置の周囲でピョンピョン跳ねる。



「じゃあ前列の人からスキル鑑定しちゃって下さい♪

選挙の時はよろしくね~♡

フェリペだけだと無効票になる可能性もあるから、ちゃんとフェリペ・フェルナンデスってフルネームで書いてね♪」



恐らくは俺達がスキル鑑定を受けること自体が、彼の選挙戦略にとって有利に働くのだろう。

心の底から嬉しそうな表情で身体を小刻みに揺すって踊っている。

まったくもって陽気なオッサンである。



「お! おおおおおお!!!!

【剣聖】!!!!

いっきなり【剣聖】が出たよおおお!!!!


え? 君、名前は?

ほう、宮本君かね!!!

いやあ、素晴らしい!


ほらね、陛下!!

だから言ったでしょ?

やっぱり異なる世界から召喚したモンスターは強化されてるんですって!

なら呼ぶのは人間一択でしょうがww


ふははははwww

比喩でなく! 

これは神をも降臨させる技術だーーww

あははははははwwww」



司祭の言葉に一部のクラスメートは唇を噛む。

そう、今アイツ、俺達を《モンスター》と同列呼ばわりしやがった。

何となく俺達の待遇が見えて来る。



「おお、みんなステータスも概ね高いねえ。

君、初期値のレベル1でその《力》の値は相当なものだよ。

名前は?  へえ、岩田君。

いいガタイしてるねー、ああそうなんだ、故郷で武道の選手だったの?

いやあ、アタリ引いちゃったなあww」



どうやら異世界人にしても、他の世界から人間を召喚したのは初めてだったらしい。

なので、司祭以外は距離感を測りかねている。

空気を読まずに親し気に話し掛けて来るのは司祭位のもので、騎士や聖職者は遠巻きに俺達を観察している。



スキル鑑定を終えた連中が、こちらに戻って来る。



  「おお、興津は【高速成長】か。

  何? レベリング関係?」



  「おい見たか。

  吉岡の奴が凄い戦闘スキル引いたらしいぞ。

  またアイツ調子乗るんじゃないか?」



  「ひょっとして魔力ってオタク度に比例してんじゃね?

  だって、荒木・布川・金本だろw」



  「宮本って凄い奴だったんだな。

  【剣聖】のアイツでも昇段試験落ちるんだから

  剣道って苛酷だよな。」



皆がお互いの品評を始めて盛り上がる。

女子は異様な雰囲気だが、男子は楽しげだ。

ここら辺は性差なのだろう。


俺も他の奴らのスキルをもっと見物したいのだが、フラフラとやって来た司祭に捕まってしまう。

他の奴らに嫌われている所為か話し相手が居ないのだろう。

勝手に俺の前に居座ってしまった。

このオッサンの巨体の所為で、鑑定画面が全然見えない。

このオッサンが話し掛ける所為で、皆の話が全然聞こえない。



「おお、さっきの教義の君かぁ。

どうかね?

スキル鑑定、結構面白いだろう?」



『あ、そうっすね。

拉致されたばっかりなのに…

ここまで盛り上がるとは思ってませんでした。』



  「キャー♥

  【勇者】だって!

  隼人すごーい♪」


  「持ってるよね、隼人は♪」


  「他のチー牛共とは格が違うよー♥」



「おいおーいw

人聞きの悪い言い方はやめてよねーw

拉致じゃないよー、召還だよーww

いや、実質的には拉致だけどさww


でも、楽しいでしょ?

本音で言ってみ?」



『まあ…

早く順番が来ないかなと思ってる自分が居ます。』




  「はあ? あの鉄オタ、スキルまででんちゃ関係?

  キショ キショ キショ。」


  「うっわ。 引くわー。 マジでキモい。」


  「鉄オタキショ!」



「あっはっはww

そうだろうそうだろう♪

何だかんだ言って、男の子はこういうの大好きなんだよ。

歳を取ってマネージャー側に回ってもね?

スキル鑑定って楽しいよ。」


『あ、そうなんすね。』



  「工藤さん達【共振】だってさw」


  「ああ、如何にもだよねー。

  共依存って奴(笑)」


  「あそこは妹がコミュ障だから

  ぶっちゃけ、桜ちゃんは被害者でしょw」



「なんて言うのかなー。

ガチャを引く喜びって言うの?

世代的に自分の部下として配属される連中のスキルを最初に見れる訳じゃない?

スカウト的な視点で面白い。」



『へー、そんなもんなんすね。』



  「ハぁ!? 和田が【大聖女】?

  ないわー。 機械壊れてるんじゃない?」


  「ウッザ。 ハイハイって感じだよねー。

  まーたアイツ張り切るよー、ウッザ。」


  「あの子、男受けはいいよねー。

  どうせ裏で色目使ってるんでしょw」



「オジサンも10代の頃はそういう発想無かったけどさ。

君も歳を取るとわかるよ。」



『いやあ、俺はまだ17歳っすからね。

歳を取るイメージが湧かないです。』



何故か司祭が俺の隣でペチャクチャ話し続けるので、他の奴らの鑑定結果が見れない。

俺、父子家庭で育った所為かオッサンの話を辛抱強く聞けるんだよな。

だから幸か不幸かオッサン連中の話し相手をさせられる事が多い。



「君さあ。

そんなに宗教に興味あるんなら、教団職員になるか?」



『えー、お坊さんですかー。

いや、そういう進路は想定してませんでした。』



「適性あると思うけどねぇ。

オジサンの推薦枠1個使ってあげるよ。」



『いやー、実は故郷でも担当教諭から

《オマエみたいな無能は山に籠って坊主にでもなれ》

って言われた事があるんです。』



「あはははw

似たような言い回しがこっちにもあるよ♪」



『マジっすか?』



「マジマジw

貴族の兄弟の中で一番出来の悪い奴が神学校を受験させられるケースって多いんだよ。

私はその枠では無いと信じたいんだけどね(ウインクパチ)♪」



『いやあ、でも…

いきなり進路が聖職系って言うのも

相当未来が限定されそうで怖いです。』



「わかるわかるw

キャリアが教団内に限定されちゃうからね。

ま、保険だよ保険。

人生の保険って奴?

大丈夫大丈夫♪

よっぽど君のステータスがポンコツじゃない限り、推薦枠を使ってあげるから。

伸び伸びと鑑定を受けて来なさい。

ほら、最後は君の番だ。」



『まあ、確かに無職になるよりマシかもっすね。

じゃフェリペさん、ちょっくら鑑定受けて来ます。』



「おう頑張れー若人。

オジサンはいつでも君の味方だよー♪」



さてと。

司祭の無駄話の所為で、クラスの様子が全然わからないな。

ただ、例によって平原の奴が周囲からチヤホヤされている。

どうせ当たりスキルを引いたんだろ。

いっつもいっつもアイツばっかり褒められて、本当にムカつくなー。



「ねえ、トイチ君。」



鑑定機のチャージを待つ俺に後ろから話し掛けて来た者が居る。



『ああ、和田さんか。

何?』



「男子達ははしゃいでるけど…

この召喚は絶対に間違ってるよ。」



『まあ拉致であり誘拐だもんな。

酷い事するよな。』



「でしょ!

何とか皆で力を合わせて帰らなきゃ!」



『力を合わせて…  ね。』



「遠市君、耳を貸して。


ねえ、後で全員のスキルを見せ合って…

ここから脱出する方法を考えない?」



『まあ、見せろと言われれば見せるけど。』



「さっき卜部君が兵士さんから聞き出してくれたの。

どうもこの国はかなりの財政難で汚職が蔓延してるみたい。」



『まあ、カネが無いって言うのは理解出来るよ。

この玉座の間も… 何か薄汚いしな。』



「だから、割とお金次第で融通が利く面もあるみたい。」



『ふーん。

地球と大して変わらないってことか。』



「皆のスキルを組み合わせれば、資金は貯められるかも知れない。

それで脱出しよう。」



『なあ、和田さん。』



「うん!」



『他の奴らは、何て言ってる?』



俺がそう尋ねた瞬間、和田は俯いて黙り込む。

だろうな。

この女は低民度地帯に生まれ育った癖に自己犠牲的な性格をしている。

だからクラスの女子で疎む者は多い。

和田と同調するという事は、自分も同じスタンスを強いられる可能性があるからだ。



『大体、何でそんな相談を俺にするんだよ。

俺は自分の事しか考えてないつまらない人間だよ。』



「そんなことない!

少なくとも私は遠市君に助けら…」



  「待たせちゃってごめんねー。

  チャージOKでーす。」



お、スキル鑑定機の準備が終わったみたいだな。

さて、俺にはどんなスキルが与えられるのだろうか。

どうせなら童貞を捨てるのに有効なスキルが欲しいなあ。



  「次、君で最後だ。

  氏名を宣誓後、青枠の上に立ちなさい。」



『はい!

遠市厘です!

お願いします!』



  「よし、いい返事だ!

  青枠の上に立ったら、両側のレバーを握って。

  あ、目線は画面から逸らさないでね。」



『はい!』



  「はーい、じゃあ装置が2回光るから。

  瞬きはしないでねー。

  はーい、大きく息を吸ってェー。」



『スウウウウウウウウ。』



  「よーし、そのままゆっくり吐いていこう。」



『ハアアアアアアアアア。』



  「はい、フラッシュ光りまーす♪」



『むぐ。』



  「ああ、もう。

  瞬きしちゃ駄目って言ったじゃない。」



『す、すみません。』



  「じゃあ、このままリテイク行くから。

  今度はしっかり目を開けていてねー。」



『はい!』



イメージとしては健康診断のレントゲン撮影に近い。

再度、深呼吸をしてフラッシュに耐えた。

強いスキル貰えるといいなあ。

実は俺のパラメーターが最強でモテモテになるとかないかなあ。



  「はあい、遠市君。

  鑑定機通りました。

  君のスキルとパラメーター、スクリーンに表示されるから。

  あ、もう青枠から降りていいよー。」



こういう時、ラノベだと最後に測定した主人公のステータスがカンストしてて、全世界から賞賛する展開がお約束なんだよね。

係員が「こ、こんな数値は前代未聞だー!」とか言って驚愕する例のアレね。

じゃあ、ひょっとして俺もカンスト?

ぷーくすくすw

ちょっと楽しみになって来た。



  「はーい、これで全員完了でーす。

  皆さんお疲れ様でしたー。


  えーっと、どれどれ最後の遠市君のパラメーターはっと。

  う、うわあああああ!!!!

  こ、こんな数値は前代未聞だー!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【名前】


遠市厘



【ステータス】


《LV》  1

《HP》  3

《MP》  1

《腕力》 1

《速度》 1

《器用》 1

《魔力》 1

《知性》 2

《精神》 1

《幸運》 1



【スキル】


「複利」 

※日利1%



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



な、なんだ?

周囲のその可哀想な奴でも見るような目は。

その反応、地味に傷付くからやめろよ!


どうやら俺のステータスは激低だったようだ。

聖職者同士のヒソヒソ話から《人類最低スペック》という単語が聞こえる。

クッソ、同じ事を担任にも言われたよ。


仕方ない。

おとなしく教団職員とやらにして貰うしかなさそうだな。

お、司祭もやって来た。

推薦枠貰っといて正解だったぜ。



「遠市厘 (ニコニコ)。」



『あ、はい!』



司祭は笑顔のまま、俺の眼前に立つ。

そしてゆっくりと指をこちらに向け…




挿絵(By みてみん)




ああ、思い出した。

最初の頃はこんなノリだったなあ。

あまりの懐かしさに思わず涙が零れる。


あの頃は楽しかったなあ。

夢や希望に溢れていた。

キラキラした想い出達が次々にフラッシュバックする。


俺なりに頑張った、身体も張った、泣いた、笑った。

あの日々こそが俺の青春だった、黄金時代だった。


なのに、何故…  

何故、こんなことになってしまったのだろう。


…宿屋に泊まっただけなのに。

県立東相模高等学校 2年B組(総員30名)


担任   松村奈々


荒木鉄男

今井直宏

岩田浩太郎

宇治原琴子

卜部優紀

遠藤天使

興津久幸

金本光宙

木島瞳

木下凰華

工藤桜

工藤葵

鹿内樹理奈

鷹見夜色

田村アイリーン

遠市厘

二戸恵梨香

橋本憂作

塙健

原田蛍

布川翔

曽田美香

平原隼人

堀田愛

前田則大

宮原映子

宮本一平

山田麗

渡辺陽介

和田和子

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― 新着の感想 ―
>若い子や処女も駄目だ。 責任を取らされる可能性がある。 俺はセックスはしたいが、責任は絶対に取りたくない。 非モテは責任取る気満々でも処女になど触れることすら叶わないというのに、何を贅沢な… いや…
[良い点] ここでまさかのゼロ話 [気になる点] 詰んでね? [一言] 助けてコレット
[良い点] 若かったなとふと思うことがあります。 トイチ君もそう思ってるのでしょうねぇ。 爆裂少年で経験値稼ぎして自分の成長を無邪気に喜べていた頃が懐かしく思ってるのでしょうか。 世の中の不幸や不公平…
感想一覧
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