【降臨55日目】 所持金5698億0000万0000円 「何故オマエがここに居る!」
深夜0時を少し過ぎた。
夜間走行は不安だったので、東京への移動は夜明けを待つことになった。
現在、交代で睡眠中。
一応、女を買いに行く許可も出したのだが、外出する者はあまり居ない。
池田公園の恋辻占、これが意外にバズった。
どうやら女子の間で有名なインフルエンサーが何人か混じっており、更にはあの場で何組かカップルが成立した事が原因らしい。
神聖教が割と好意的に、何よりポップにSNS上で称賛されていた。
このバズりに呼応するように、鳥取勢も先日のイベント画像を再びSNSにアップし始めた。
良い意味で注目度が上がっている。
これは嬉しい誤算。
地球に帰還してから初めてネット戦略が当たった気がする。
先程まで金本聖衣と通話していたのだが、「その路線は正しいから続けろ。」とのコメント。
関東支店で現在量産中の恋辻占が完成次第届けてくれるとのこと。
参集を義務付けた訳ではないが、全員がこの広い倉庫で待機している。
倉庫内には無数の大型テントが張られ、1人3枚以上の毛布も支給されている。
きっと、ここに大金を積んだトラックが駐車している所為だろう。
毛受夫人が差し入れて下さった握り飯を頬張りながら、俺達はトラックの荷台を睨みつけ続ける。
きっと俺達の動物としての本能が富を防衛しているのだろう。
「トイチさん。
今、宜しいでしょうか?」
『あ、はい。
今、仮眠から起きた所です。』
テントに後藤を招く。
「ゴールドバーグ専務からメッセージが届いております。
大至急、ZOOM通話出来ないかと。」
『ゴールドバーグ?』
「関西きょうせいアプター証券です。
大阪のパーティーで司会をしていた。」
『ああ、孝文さんですね。
え? 通話って今ですか?
もう日付変わっちゃってますけど。』
「文面が少しパニックっぽいんです。」
『じゃあ、まあ5分程度でしたら。』
後藤がキビキビとノートPCをセッティングしている間に、寺之庄と坊門が戻って来る。
俺はコロナ禍中に異世界に飛んだのだが、鎮静化するまでの間にオンライン通話の習慣はすっかり定着したらしい。
暗黙の作法も増えたとのこと。
(逆光禁止とか退出順とか、色々あるらしい。)
『孝文さん、先日はお世話になりました。
遠市厘です。』
「これはこれは猊下、夜分恐れ入ります。」
深夜でも孝文はキッチリしたスーツを着用している。
背景はホテルの一室だろうか?
こんな遅くまで仕事をさせられるなんて、外資系金融は本当に大変である。
いや、付き合わされる俺が一番大変なのだが。
『えっと、何か御用でしょうか?
明日の打ち合わせとか?』
「あ、いえ。
それもあるのですが…」
孝文は気まずそうに目を泳がせている。
こちらから何を問い掛けても要領を得ないので、優しく丁寧に語り掛け続けてようやく話が見えて来た。
どうやら孝文に対して先日のパーティー客から苦情が殺到しているそうなのだ。
俺が500万ポンドを持ち逃げしたと思われているらしい。
『いや、持ち逃げも何も。
明日、いや今夜ですね…
普通に貴国の大使館に持参する予定なのですが…』
「勿論! 勿論ですよ!
私が猊下を疑う訳ないじゃないですか!」
いや、オマエ…
疑ってるからZOOM通話を打診して来たんだろうが。
今、何時だと思ってるんだ。
『後藤さん。
ポンドを持って来て貰っていいですか?』
「はい、直ちに!」
「あ! いや! 疑うとかではなく!」
『今、画面に映しますから。』
「わ、私は猊下に全幅の信頼を寄せているのですが!
ネットの噂を鵜呑みにした皆様がパニックになっているのです!」
『はい?
噂と申しますと?』
「その、猊下が2億円しか持っていないという噂が流れておりまして。」
『幾らなんでも、2億程度の手持ちはありますよ。
宗教団体を維持運営するのもタダではないので。』
「で、ですよね!!」
『大体、私は資産額を公表した覚えがないのですが…
誰がそんなデマをバラ撒いているのですか?』
「い、いえ!
奥様の鷹見夜色様と恩師様の松村奈々様が!
猊下の資産は2億しかないと配信で明言されたので…。
後、猊下が知的障碍者であるとも…」
…またアイツらか。
毎回毎回、俺の邪魔ばっかりしやがって。
ホント勘弁してくれよ。
「それがネット上では定説になってるんです。
今、英訳された動画が出回っていて、あの夜ポンドを預けた皆様がパニックに…」
『なるほど、概要はわかりました。
確かに手持ちの乏しい人間にカネを預けるなんて怖いですよね。
英国の皆様の感情は理解します。』
「後ですね!」
まだ、あるのかよ。
「猊下がホームレスなのではないかという疑念が囁かれておりまして。」
『確かに定住はしておりませんね。』
「そのぉ。
申し上げにくい事なのですが…
今の背景、テントか何かでしょうか?」
『ええ、仲間と共に野営しております。』
「え!?
や、野営ですか…」
画面の向こうの孝文がヘナヘナと姿勢を崩してしまう。
「あ、ああ、あ。」
『孝文さん、大丈夫ですか?』
「いえ、はい、いえ。」
まあ、どう見ても大丈夫ではないわな。
「現在、SNSで公園で段ボールに座っている猊下の画像がバズってます。
それを見たお客様からクレームが殺到しておりまして。」
気持ちは理解出来る。
大金を預けた相手がホームレスだったと判明したら、俺でも心が折れるだろう。
『ええ、その画像は私で間違いありません。
画像のイベントが終わった後、そのまま名古屋で宿泊しております。
あ、後藤さんありがとうございます。
カメラを札束に向けて下さい。』
「了解。
この角度で写ってますか?」
『孝文さん。
ポンドです。
ちゃんとあるでしょう。
こちらの束がお預かりした分で500万ポンド。
そしてこちらのトレーに乗せている方が、日利1%の5万ポンド×2日文で10万ポンドです。
別に録画して頂いて構いませんので。』
「あ、いえ!
そんな録画なんて失礼なこと出来ませんよ!」
そうか録画は深夜に通話打診してくるより失礼なのか。
オンラインルールってマジで謎だよな。
『じゃあ、これで話は終わりで宜しいですね?
私も忙しいんですよ。』
「あ、スミマセンスミマセン!!!
…あの、猊下。」
『はい。』
「私も今、偶然名古屋に滞在しているんです。」
なーにが偶然だ。
俺の持ち逃げを疑って脳死で追いかけて来たんだろうが。
『そうですか。』
「もしもこれからどこかの店で飲まれるご予定でしたら…
接待させて頂けませんでしょうか?
車も出しますよ!」
うんざりした俺が断ろうとするも、寺之庄が死角から俺の背中を2度叩く。
《話に乗れ》という合図である。
『寝る前に栄で飲もうという話は出ておりました。』
「おお! 奇遇ですねぇ!!
私もこれから飲みに行く所だったんです!
どうですか、これから一杯!!!
レベル高い子の居る店を用意します!!」
『申し訳ありません。
妻帯者ですので。』
「ああ、これはこれは失礼致しました!」
女の居ない店をリクエストして1時間後に待ち合わせ。
深夜に好きでもない相手と酒場で談笑。
もはや正気の沙汰ではない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【遠市パーティー】 対孝文チーム
遠市厘 (主賓)
大西竜志 (運転手)
後藤響 (護衛)
松永謙一郎 (栄に土地勘)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「トイチ君。
ゴールドバーグから引き出せるだけの情報を引き出してしまおう。」
車内で寺之庄が切り出す。
『孝文は英国序列では使い走りでしょ?
引き出す程の情報を持ってますかね?』
「僕らは英国側の内情を全く知らない状態だ。
何も知らずにパーティーに行くのは危険だよ。
人質も取られてるしね。」
『確かに。
報道では英国庶民の窮状ばかりがクローズアップされてますが…
それが全てではないですしね。』
「君がカネを武器にしている以上、資本主義の総本山である英国とはいずれ激突する。
それまでに一つでも相手の手の内をチェックしておくべきだ。」
…確かに。
寺之庄の言う通りである。
俺は資本主義と戦う為に帰って来たのだ。
寝てる暇などある筈はない。
アホらしいのだが30分かけて栄に向かう。
老人を酷使するのは気が引けるのだが、栄に土地勘のある松永翁に同行をお願いした。
「御安心下さい。
昔から夜遊びに目が無いんです!」
言葉ではそう言ってくれているが、日付が回っている事もあり昼間の彼が見せる程の俊敏性を感じない。
俺はひたすら頭を下げて労う。
残念ながら臨時ボーナスは受け取ってくれなかった。
彼が愛人にやらせているスナックに顔を出して挨拶。
そのままママも同行させる。
これは地元で何か問題が起こった時の保険である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、車内で孝文と協議し、外資系ホテル内の個室ラウンジで飲む事になった。
彼はこのホテルに泊まっており、本心では俺に定宿を知られたくなかったのだろうが、利便に妥協してくれた。
深夜の個室。
当然、人払いは済ませてある。
『こんばんはー。』
「猊下! こんな夜分に申し訳御座いません!」
5分程互いに頭を下げ合ってから、後藤がアタッシュケースを持って来て無言で開く。
「え?」
『もう先払いしておきますよ。
どうぞ、お渡ししておきます。』
孝文がアタッシュケースの中身を硬直したまま眺めている。
視線の先は俺がスキルで出したポンド紙幣。
ああ、確かにな。
コイツはカネを扱うプロだ。
スキル生成された紙幣の不自然さに気付いて当然か。
『どうぞー、手に取って下さいね。
機器をお持ちでしたら通して頂いて結構ですよ。』
《機器》という単語を出した瞬間に孝文の視線が一瞬だけ泳ぐ。
ジェームズ・ボンドのお国柄だからな。
通貨をチェックする小道具位は常備していても不思議ではない。
「いやあ、綺麗な新券を用意して下さって恐縮ですよ。」
明朗な声色を装いながらも孝文は目玉をギョロギョロさせて、新札のシリアル番号を盗み見ている。
必死で笑顔を貼り付けているが冷や汗は顔を伝い始めていた。
そりゃあね。
ピンピンの新札の番号が連番ではなく、全てバラバラだったら危機感覚えるよね。
俺だって偽札を疑うもの。
「いやあ、何と申しましょうか。
ははは。
この場で私が受け取ってしまうと、契約違反になっちゃいますよぉ♪」
おどけた喋り方の孝文だが、既に涙目になっている。
彼にとって相当マズい状況らしい。
要は、俺に遊び半分でポンドを預けた連中が孝文にプレッシャーを掛けているのだ。
総額500万ポンドの損失と言っても彼らからすれば毎週の小遣いレベルの小銭に過ぎないが、騙されたとなると話は別だ。
それが例え1ペンスであっても、東洋人の小僧に侮られるなどプライドが許さない。
結果、同じ東洋人かつ言い出しっぺの孝文に全ての矛先が集中しているそうなのだ。
まあ、そもそもコイツが変な言い掛かりを付けて来たのが原因なので、同情はしてやらない。
「あ、あの。
猊下が利息を支払って下さる為の封筒を弊社で用意したいのですが。
あ! 結束も致します!」
直訳すれば、《偽札チェックをさせろ》という意味である。
コイツ本当にプロか?
と言いたい気分だが、断る理由も無いので承諾。
孝文は恐縮したような素振りで表向きはペコペコ頭を下げて来る。
すぐにでもチェックしたい本心が伝わるのは御愛嬌。
『私、コンビニで買い物する用事があるので、30分程席を外します。
その間結束しておいて下さい。』
「え? あ、はい!」
時間が惜しいので、即座にチェックさせる。
俺はホテルのロビーで軽く休憩。
松永の愛人に貰った酔い止めを飲む。
そして30分経って仕切り直し。
明らかに孝文の表情がフレンドリーになっている。
どうやら無事に本物判定されたらしい。
(封筒も結束も無いが、アホらしいのでツッコまない。)
なるほど。
俺の【複利】はポンドにも効力が及ぶ、と。
心の中のメモの隅っこに追記しておく。
孝文はキラキラとした目で俺を見つめている。
どうやら評価が完全に反転したらしい。
「いやあ、それにしても猊下は流石ですね!
日本国内でポンドなんか中々手に入らないでしょ♪」
…中々手に入らない通貨で利息を払わせようとするなよ。
『はあ。
英国は友好国ですので。』
俺は皮肉で言ったつもりなのだが、通じなかったらしい。
相手は皮肉の本場だからな、まだまだ俺の悪意が足りなかったのだろう。
孝文は頬を紅潮させて相槌を打って来る。
「はい!
我が国は日本の永遠の友好国です!!」
『フェートン号、ノルマントン号…』
「ささ、猊下!
一献、一献どうぞ!
あ! 何かオツマミ頼みますね!
猊下って苦手な物ありますか?」
『…苦手。
カネと女でしょうか。』
「あっはっは!!
一本取られました!
ここらで一杯お茶が欲しい♪
いやあ、猊下は流石です!」
孝文が意味ありげにウインクして来る。
コイツ、絶対に曲解するタイプだよな。
「おーい、君♪
フルーツの盛り合わせを頼むよ。」
すっかり上機嫌になった孝文はチップをウェイターに押し付けながら、ニコニコと愛想を振りまいている。
まあ、コイツはコイツで色々大変なんだろうな。
「それにしても猊下!
私は感服しました!」
『は?
感服と仰いますと?』
「下町での布教活動ですよ!
世間の生臭坊主共が袈裟を飾る中!
猊下は段ボール1枚で市井にご布教されておられます!
私、感動しております!」
嘘やん。
オマエさっき、俺をホームレス扱いしたやん。
「宗教家として高潔であるばかりではなく、経済人として大いに有能であられる!
猊下こそ令和のスーパーヒーローですよお!!!」
『いえいえ、私などは。
大谷選手を差し置いて、その称号はちょっと。』
「おお!
しかも謙虚でいらっしゃる!!」
コイツ、マジで手のひらクルクルだよな。
さっきまで詐欺師でも見るような態度をしていた癖に。
「猊下。
私は1人の金融人として!
猊下から真摯に学びたいと思っております!
何か御助言を賜れませんでしょうか!」
孝文は瞳をキラキラさせながら俺を覗き込んで来る。
まるで数十年来の師を仰ぐような態度。
そりゃあコイツは出世するよな。
『いえ。
私のような若輩者が、孝文さん程のベテランに何か申し上げるのは…
流石に礼を失するとでも申しましょうか。』
「いえいえいえいえ!!!
私なんか歳を喰っただけの能無しです!
椅子を尻で拭くしか取り柄のない男です!」
満面の笑みで孝文が追従する。
どこまでがブリティッシュジョークなのか判別がつかない。
『えっと。
助言は出来ないのですが、他人様からカネを預かる時はこう申し上げてます。』
「おお!!!」
『カネなんて私1人で幾らでも増やせます。
増やす能力の無い人が恩着せがましく押し付けて来るのは迷惑なので、せめて御自身が私に迷惑を掛けている事を自覚して下さい。
預金者の方には、常々そう申し上げております。』
「えええ!!!!
預金が迷惑なんですかーーー!!!!」
『邪魔なので。』
「あ、あ、あ、あ、あ…
おカネを邪魔と言う人、生まれて初めて見ました。
じゃ、じゃあポンドも邪魔なんですか!?」
『最も邪魔ですね。
最初、それがカネであると認識すら出来ませんでしたし。
いや、ポンドと言う通貨がある事は知ってましたけど。
いきなり渡されても…
それが本当に流通しているカネなのかすら判別出来ませんし。
何かあのおカネ、感触が変でしたし。
からかわれてるのかな、と。
内心思いました。』
「あ、あの感触はポリマー紙幣だからです!
決して怪しくないんです!」
どうやら世界各国ではポリマー紙幣なるフィルム紙幣が普及し始めており、英国も数年前から全紙幣をポリマーに置き換えたそうである。
偽装が困難である事が導入の理由らしいので、無意識的に攻略してしまった俺としてはやや心苦しい。
「お!
猊下、盛り合わせが来ましたよー!
何か好物はありますか?」
『じゃあ、知恵の実以外で。』
「あっはっは! 確かに!
これ以上猊下に御叡智が備わってしまうと、忠実な僕たる我々の仕事がなくなってしまいますな!」
『え? しも…』
「猊下!
私は最初から猊下を信じておりました!!
勿論、神聖教に改宗します!!」
本当に調子のいい奴だなあ。
それとも金融の世界で出世する為には、ここまでしなければならないのだろうか。
「無論!
口では何とでも言えます!」
『はあ。』
「なので!!
忠誠の証を献上させて下さい!!」
『カネはやめて下さいね。』
「…。
じゃーん!
100万ポンドでーーーーす!!!!
あ、これ私の裁量で自由に運用していいキャシュですから♪」
で、出たー。
会社のカネで投機する奴ー。
『さっき置き場に困ってる話をしたばかりですよね?』
「あのォ。
このおカネにも利息を付けて頂く事は…」
『…利息を要求している時点で、献上ではなく単なる預金行為なのでは?』
「カネカネカネカネナンマイダー。」
『勝手に題目を唱えないで下さいよ。』
「ここだけの話、セム系宗教より神聖教の方が優れていると思うのです。」
『宗教戦争になるから、その発言やめてー。』
結局、孝文はアタッシュケースに強引に100万ポンドを押し込んでしまう。
『孝文さーん。
そういう真似やめましょうよ、大人なんだから。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4460億4680万0000円
575万ポンド
↓
675万ポンド
※孝文・J・ゴールドバーグから100万ポンドを預かり。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うおー! WOHOO!!! うおー!」
『孝文さん、フロアには他のお客様も居られますから、あまり騒がないで。』
「あはは、失礼致しました!
で、では!
私も日利1%貰っちゃっていいのでしょうか!?」
『あのー、日利についての提案なんですけど。』
「あ、はい! (ゴクリ)」
『貴方には手間賃として日利2%お支払いしますので、ポンド関連全部お任せしていいですか?』
「え? に、にぱ?」
孝文が一瞬白目を剥いて倒れかけてから、根性で背筋を駆使してリカバリーしてくる。
「え? え? え? HAWAWA。」
脳が焼かれてしまったか、株屋の癖に情けない奴だ。
『私、一々個別管理するほど暇ではないので。
ポンドやらユーロやらは全部孝文さんにお任せします。』
「えーーーーーーーー!!!!
ゆ、ゆ、ゆ、ユーロも頂けるんですかああああ!!!?」
『無理強いはしませんが。』
「あ、あ、あ、あ、あ…」
『孝文さん? 大丈夫?』
「あ、あ、あ、あ…」
しまった、刺激が強すぎたか。
痙攣してやがる。
松永の愛人に来て貰って介抱させる。
『すみません、こんな夜中に。』
「いえいえ!
謙さんがいつもお世話になっておりますし。
最近は猊下の話ばかりしておりますのよ。」
『ああ、それは恐縮です。
私もこれからも松永さんには恩義を返していくつもりですので。』
チャコママと2人で『「イエイエ」』と頭を下げ合い続けるうちに、孝文が意識を取り戻す。
瞳孔から光が完全に消えている様な気もするが…
まあ店内照明の加減だろう。
「猊下! 猊下! 猊下!
猊下あああああ!!!」
『あ、はい。』
「この身は猊下の忠実な僕で御座います!!!
どのような事でもお申し付け下さいませ!
猊下の望みを叶える事こそ、この孝文めの使命で御座います!」
コイツの手のひらドリルかな?
どうして数十万ポンド増えた位で俺に傾倒するのか理解に苦しむのだが、まあ金融マンなりの理屈があるのだろう。
ぶっちゃけ金融に関しては俺に追従しているのが最善手だからな。
きっと俺の価値を直感的に悟ってしまったのだ。
『いや、別に望みとかは要らないんで。
えっと、もう眠いんで帰っていいですか?』
「HAWAWA!!
これは失礼致しました!!
直ちにスイートを押えます!!」
『いえ、仲間に帰還を約束しておりますので。』
「Oh!!
これは申し訳御座いません!!
直ちに直ちに!!」
流石に体力の限界だったので、倉庫に戻って寝た。
孝文は少年の様に輝く瞳で夜の栄に消えていった。
タフと言う言葉は外資系金融マンの為にある。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
10時起床。
俺以外のテントは全て畳まれ終わっていたので、慌てて皆に詫びる。
倉庫の外に出ると、既に全車両が発進待機状態だったので、己の怠惰を恥じる。
特に運転席に座ってる連中には、1人1人頭を下げて不足がないかを尋ねておいた。
『女っすか? 女っすか?』
下ネタも敢えてこちらから振る。
年配の松永や伊地知が積極的に賛同したので、関東到着時に女を振舞う話の流れに持って行けた。
『大西さん。
昨夜はすみませんでした。
ずっと待機させてしまって。』
「謝ることじゃないだろう。
待たせるのも君の仕事、待つのも俺の仕事。
それでいいじゃない。」
『そう仰って下さると助かります。』
「成果はあったの?」
『あー、何とも言えないのですが。
経済的には大きくプラスなのかな、と。』
「いいことじゃない。
今、世界中が経済で苦しんでるってニュースで言ってたよ。」
『そうですね。
お陰様でおカネには困らなさそうです。』
大西は無言で笑ってからアクセルを踏んだ。
このアルファードを味方車両で囲みながら、全員で木更津を目指す。
既に安宅・鳩野組が駐車スペースの割り振りを終え、倉庫で待機してくれている。
キャパを目視で確認次第、関西のカネを木更津に移動させる。
こちらが押さえた倉庫のすぐ向かいに荒木の拠点がある事以外に危惧はない。
安宅に何度か荒木参りをさせたのだが、ずっと留守にしているらしい。
俺と違って、アイツは各国を回っているみたいだしな。
日本には居ないのかも知れない。
昔から思っていた事だが、相変わらず何を考えているのか分からない奴だ。
木更津の倉庫には15時の到着を想定している。
パーキングエリア毎に仲間を車両に招き、1人1人に感謝を述べながら東進した。
俺は知っている。
皆とフランクに話せるのが、今日で最後になることを。
最後だから、語り合っておきたい。
関東は俺のホームだ。
一度腰を据えてしまえば、スキルの性質上簡単には再始動出来なくなるだろう。
そしてカネは加速度的に増え、比例して社会的地位も上昇する。
遅くても年内には、俺は死体か王になっているだろう。
つまり、今までの様に彼らと言葉を交わす事も困難となる。
彼らとフランクに話せているのも、旅先だったからだ。
キャラバン生活という不安定な状態、だからこそ互いにフランクであれた。
わかっている。
それもきっと終わりなのだ。
この旅路の果てが栄光でれ破滅であれ…
俺の旅は終わってしまったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【遠藤恭平】 (休職中警察官)
「推奨ラノベを買って来た。
時間のある時に目を通しておくこと。」
『異世界ラノベですか?』
「いや、主人公が異世界と地球を行き来するローファンばかり買い集めたんだ。
読めば分かると思うけど、これらの作品の主人公は全員スキルを隠してるから。
少なくとも君みたいにペラペラ話してる奴はいない。
どの主人公もヒロインにだけスキルを打ち明けてるけど…
そんな馬鹿な事は絶対にしちゃ駄目だってわかるよね?」
『実はですねえ。
私、異世界に居た時…
初日にヒロインに捕捉されて…
数日でスキルを見破られて…
10日目には肉体関係持っちゃって…
その後すぐに婿養子にされちゃったんですよね。
酷い目に遭いましたよ、ははは。』
「ははは、じゃないよ。
もう少し危機感を持たなきゃ!」
『あ、はい。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【宮田大輝】 (猟師・何でも屋)
「あれから狩猟は順調なんです。
猊下が猟具を大量に提供して下さったおかげです。
さっき、浦上社長ともその話題で盛り上がってました。」
『私のレベリングが終わってしまって、申し訳ありません。
ただ、農村支援については引き続き継続します。
より快適に、より豊かに、より楽に。』
「いやあ、そんな事言ってくれるの猊下だけですよ。
私の周囲の老人達は、《苦労しろ我慢しろ》としか言いませんもの。」
『宮田さんから豊かになって下さい。
まずはモデルケース。
それしか地域格差を緩和する方法って無いと思います。』
「…でも、キャッシュを持ったら私も街中に住むと思います。
正直に言いますね。
猊下からおカネを貰って最初に考えた事が《名古屋か都内でタワマン買えるかな》ですよ。
本当に申し訳ないです。」
『いいですよ。
タワマンに住んでも。』
「でも、我々みたいな田舎者が全員都会に引っ越したら…
地方は壊滅します。」
『しませんよ。
地方の方がその土地を占有しない限り。』
「あ!!!」
『私の政治目的は、資本を公平に流動させることです。
生産力を発揮出来ない癖に、その土地を占有し続けるっておかしくないですか?』
「猊下の仰る資本には…
土地や農地も含まれるのですね。」
『ええ、収益用不動産と農地に関しては、私はかなり厳格な基準での運用を求めると思います。
活用出来ない癖に土地の所有権だけを主張するって犯罪でしょう?』
「…私はこの話、内緒にしていればいいんですよね?」
『別に、聞かれて困る事ではありませんし。
SNSとかで吹聴して頂いて結構ですよ。
私は単に人間のスタートラインを均等にして、各員の持つ能力を効率良く社会にフィードバックしたいだけなので。』
「それ、共産主義よりエグくないですか?」
『まあ、否定はしませんが。』
「猊下、お願いがあります!」
『あ、はい。』
「その考え方、ディストピア指数が相当高いので、我々でオブラートに包ませて頂けませんか?」
『我々?』
「…猊下以外の普通の人間です。」
『ははは、これは一本取られました。
いいですよ、お任せします。』
「企画書! ちゃんと提出しますので。
猊下はお言葉がストレート過ぎるので、もう少し柔らかく!」
『宮田さんには敵わないな。
ええ、貴方にお任せします。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【松永謙一郎】 (猟師・イチゴ農園経営)
『昨日はありがとうございました。
松永さんが居てくれて心強かったです。
チャコママにも感謝を伝えておいて下さい。』
「いえいえ。
猊下の旅に立ち会わせて頂いているこちらが御礼を申し上げたいくらいです。」
『私はフラフラしてるだけですよ。』
「猊下にはドラマがあります。
少なくとも日常を超越してます!
皆が同行を望む気持ちがよく分かります。」
『…確かに退屈はしていないかもです。』
「もうレベリングはしないんですね?」
『強すぎて困っているので、レベルの下げ方を考えている所です。』
「あはははは。
私も一度でいいから、そういう台詞を決めてみたいです。
今までは退屈な人生でしたから。」
『私の側に居れば退屈はしないと思います。』
「はい!」
『でも、悪役になっちゃいますよ。』
「猊下は徳を積まれておられるでしょう。
各地で皆に分配されておられるようですし、納税や勤労を推奨されておられます。」
『松永さん。
この世の富を悉く独占している者が現れたとしたら…
その者は正義ですか?』
「あ、いや。
悉くっていうのは酷い気もします。
世界中で貧富の格差が問題視されてますし。」
『近いうちに、私がそうなっちゃいます。
無論、保身の為に松永さんにも飛騨くらいはプレゼントしますが。
悪役になっちゃいますよ?』
「飛騨かぁ。
美濃ですらオワコン化著しいのに。
悪役になるのに飛騨は割に合わないかもですねえ。」
『じゃあ、東京港区のタワマンとかにしときます?』
「やったぜ!
悪役になりまぁす!!!!」
『それ地元じゃ絶対に言っちゃ駄目ですよ。』
「あはははははwww」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【宇田川政則】 (猟師・自動車整備業)
「猊下、あのおカネ。
本当に貰っちゃっていいんですか?」
『どのみち、全人類に10億ずつ配る予定なので。』
「経済壊れちゃいますよぉww」
『…。』
「…なるほど。
そこまで思い詰められておられましたか。」
『全員に配る方法が思いつかないんです。
なので希釈して相対化する以外に弱者が救われる道がない。』
「老婆心から申し上げます。
富豪を窮乏化させたからと言って困窮者を救済出来るとは思えません。」
『…でも、スッキリします。』
「…。」
『宇田川さんにもその理屈は分かるでしょう?
金持ちが破滅したら、貧乏人は鬱憤が晴れますよ。
少なくとも私はそうでした。
企業破綻や経営者逮捕のニュースを見ては無邪気に喜んでおりました。
日頃、温厚な父親がそんな私を厳しく叱責するのです。
余程、醜悪な表情をしていたのでしょうね。
それでも、日頃の鬱憤が晴れる歓びを押し殺す事は出来ませんでした。』
「猊下が…
今や猊下こそが大富豪ではありませんか。」
『じゃあ、私が死ねば世に一笑を届ける事が出来ますね。』
「悲しむ人間、結構多いと思いますよ。
少なくとも私は泣いてしまうと思います。」
『…それは残念です。』
「本当に配るのですか?」
『その方法が思いつかずに悩んでいるのですが。
まあ、何とかなるでしょう。
アイデアなんて賞金を懸ければ幾らでも集まるのですから。』
「…異世界でも、そんな風に振舞っておられたのですか?」
『私、向こうで一番の大金持ちになったんです。』
「…でしょうね。
その雰囲気があります。
そのおカネは何に使ったのですか?」
『配りました。
配り切れませんでしたけど。』
「…配ったらどうなったんですか?」
『ゴミ処理場で働いていた人達が仕事を辞めてどこかに行ってしまいました。
これだけ言えば、続きはもう分かりますよね?』
「…はい。
光景が目に浮かびます。」
『不思議と役人は殆ど辞めなかったです。』
「…。」
『世の中ってこういう物なんだなって…
良く分かりました。
きっと地球も似たような結末を辿るでしょう。』
「…猊下、猶予を頂けませんか?」
『猶予?』
「猊下がおカネを配った時に、社会が混乱しないようにです。」
『いいですよ、宇田川さんにはお世話になりましたし。』
「ありがとうございます。」
『でも。』
「…はい。」
『急いだ方がいいかも知れませんね。』
「…。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【石賀一博】 (執事)
「わからん。」
『はい?』
「俺にあがな大金を渡す価値はないで?」
『そうでしょうか?』
「地元では、皆から馬鹿にされとった。
要領が悪うて、つまらんで、愛想1つも使えんで」
『奇遇ですね。
私もです。』
「君は俺なんかとは違う。
万事上手うやっとるし、何より人に囲まれとる。」
『それ多分、カネの力ですよ。』
「万事上手うやっとるよ、君自身の徳と力で。」
『ははは、これじゃあ水掛け論だ。』
「…君には価値がある。
そして残念ながら俺には価値がない。
…何か役に立ちたいけど、俺は何も出来ん無能だ。
他のメンバーは、みんな優秀な雰囲気だけぇ、余計に申し訳ない。
なあ! きっと俺に渡したカネは無駄になるでぇ!
君の嫌いなムダ金だでぇ!!」
『そこまで有用性を真剣に考えて下さる石賀さんなら…
有意義に使ってくれるんじゃないですか。』
「馬鹿にせんでごせぇ!
真面目な話をしょーるんだ!!
大体! この衣装はなんだよ!!
全然、俺に似合ーとらん!!!」
『執事服です。
パーティーで上座の脇に何人かそういうガイジンが居たでしょう?』
「彼らは、どう見ても本職の執事だよ!!
イギリスって貴族社会だけぇ、メイドとか執事とか、そがなんが残っとるんだら?」
『みたいですね。
執事を養成する学校もあるみたいですし。』
「俺には無理だ。
おおかた、若い頃に志願したとしても、その学校の入学試験に受からなんだだらー。」
『いいじゃないですか、合格証書なら私が出しますよ。』
「だけぇ!!
どうして俺なんだよ!!
たまたまイベントに顔を出しただけだら!!」
『石賀さんにとって苦痛であれば、地元に戻って頂いても結構ですよ。
勿論、慰労金も支払いますし。』
「慰労されるような貢献は何一つ出来とらん!
そして苦痛は俺の勝手な無力感が原因だ、君には何の責任もない。」
『そうですか。』
「…なあ。
俺は子供の頃、ずっと柔道をやっとった。
鉄砲玉くらいなら務まると思う。」
『執事をそんな風に使う話は聞いた事がありません。』
「…じゃあ、教えてくれよ。
俺は何をすりゃあええ。
いや、一体何が出来るでぇ。」
『さあ。』
「…。」
『それを2人で考えて行きましょうよ。』
「…いけん。
君の時間を俺なんかの為に奪いたーない。」
『あ、今の台詞は執事っぽい。』
「…からかわなんでごせぇ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【国重辰馬】 (報道担当)
『カメラ、持ち込んでくれて良かったのに。』
「…猊下の不利益になり兼ねない記録は残せません。」
『そんな考えをしていたら、報道なんか出来ないでしょう?』
「何事も優先順位があります。
ジャーナリストとしての職業倫理が、世界に優先するとは考えておりません。」
『人民には知る権利がある。』
「知らない権利もあるはずです。」
『あるんでしょうね。
いつか憲法にも追記されるかも。』
「猊下のスキル…
あれ、絶対に異世界のものですよね。
地球の物理法則に反してます。」
『ええ、異世界に行った時に身に着けました。
ちなみに異世界の物理法則にも反しているそうです。
報道して貰っても構いませんよ。』
「…社会に混乱が起こりかねません。」
『まあ、経済は大混乱するかもですね。』
「なら、報道は慎重になされるべきです!」
『いいんじゃないですか?
貴方がそう判断されるなら、一理あるのでしょう。』
「…ありがとうございます。」
『他のジャーナリストがどう判断するかは分かりませんが。』
「…猊下は能力を伏せるつもりがないのですか?」
『伏せる? 何故?』
「あ、いや!
大金を持っていれば嫉妬や憎悪の的になりますし。
何よりあの金額です、下手をすれば世界が敵に回りかねません!」
『国重さんも私を憎みますか?』
「いやいや!
そんな事はあり得ませんよ!
私は猊下のお志に触れていますし!
世界にとって本当に必要な方だと思っております!」
『憎む者も憎まない者もいる。
金額に比例して振れ幅が大きくなる。
それだけの話です。』
「ヘイトコントロールに配慮なさって下さいと申し上げているのです!」
『ははは、鷹見の奴に言って下さいよ。』
「…猊下は美化報道もお嫌いなんですね?」
『バイアスを掛ける行為が嫌いなだけです。』
「仕方ないじゃないですか!
インタビュアーやカメラマンが人間である以上、バイアスは掛かってしまいますよ!」
『…そこまで配慮して下さる国重さんなら、程よい匙加減で記録を残して下さることでしょう。』
「…少し時間を下さい。
公正な報道を行う為の仕組作りをします。」
『その間に私、死にますよ?』
「…いや、流石に、それは。」
『わかってるんでしょう?
私は今日、刺し違えるつもりで大使館に行くんですよ?』
「…。」
『ほら、スマホ起ち上げて。』
「はい。」
『カメラ回ってます?』
「回しました。」
『私、遠市厘は資本家勢力と刺し違える為に地球に帰って来ました、以上。』
「…。」
『編集権、持ってるのは貴方ですから。』
「…公開すべきか判断が付きかねます。」
『判断なんて視聴者が勝手にすればいいのでは?』
「…猊下、私も本音を申し上げていいですか?
無論、カメラは止めないままで。」
『どうぞ。
持っておきましょうか?』
「お願いします。」
『あー、撮影ってこんな風景なんですね。
いいですよ、多分撮れてます。』
「私、国重辰馬は今まで公平な報道を謳っておりましたが…
結局、自分の意見や好みを視聴者を押し付けたいだけだと悟りました。
…以上。」
『ふふふ。
何かジャーナリズムっぽいw』
「ですねw
少し楽になりました。」
『これからもお願いしますね。』
「?」
『ちゃんと記録して下さい。
例え現在の地球に混乱をもたらしたとしても、人類史全体では益となる事でしょう。』
「…はい!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【浦上衛】 (イベント担当)
『あんな感じで良かったんですかね?』
「カップルが誕生していたのでOKです!」
『やったぜ!』
「でも、オッサン連中が念仏唱えてたので減点です。」
『ははは、確かに。』
「で、ここからが本題。」
『あ、はい。』
「最後は派手な格好をした若い男女も唱和してました。」
『え!?
そうなんですか!?』
「ええ、私はそこを集中して観察してましたから。
イベントって若者に支持をされたら勝ちなんです。
つまり、猊下の勝ち。
空前の大成功。」
『いや、流石に空前というのは大袈裟なのでは?』
「このハッシュタグを見て下さい。
#カネカネカネカネナンマイダー
かなり好意的にツイートされてます。
それも広い年齢層にです。」
『あ、本当だ。
老人と中学生が交互に検索に出て来た。』
「このイベント続けましょう。
かなり強いイベントです!
何より恋辻占さえあれば、どこでも誰でも開催出来る汎用性があります。」
『私の手の回らない時に、浦上さんにお願いしてもいいですか?
いや、本心では丸投げしたいと考えてます。』
「私はその為に海を渡りました。」
『浦上さん、1個謎なんですけど。』
「はい。」
『どうして、私にそこまでしてくれるんですか?』
「…猊下が何故世間にそこまでされるのかを知る為です。」
『なるほど。
きっと貴方の動機は分からず仕舞になるのでしょうね。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【堀内堅造】 (護衛)
「若い頃に猊下と出逢っていれば…
貴方を主役にしたアニメ企画を制作したものを。」
『私なんてつまらないですよ。
身も心も醜いですし。
マタギ学園の方がよっぽど面白いです。
ヒロインは全員美人ですし。』
「アレは…
嘘を描いた作品だから気楽に見れるんです。
明るい日常、仲良い隣人、可愛く気立ての良いヒロイン、感動の最終回。
全部嘘っぱちですよ。
現実は、全て逆です。
私は故郷には憎悪しか持っていません。」
『美作、悪くはなかったです。』
「でも、あそこでは山伏に襲撃されただけでしょ?」
『言われてみれば。』
「所詮、そういう土地なんですよ。
地元の人間は宮本武蔵の生誕地である事を誇ってますけど…
彼の伝記を一度でも読んだら、美作の未開性と野蛮性に呆れます。
少なくとも私は、何を誇れば良いのか分からなかった。」
『一緒に良い所を探して行きましょう。』
「猊下。
貴方の美点は、出逢う前から数えきれないほど見えておりました。
探す必要がある時点で、それは美点でもなんでもないんですよ。」
『美点なんてないですよ。
たまたま分不相応なカネを持ったから、そういうバイアスが掛かってるんです。』
「…猊下だけなんですよ、配る事しか考えてないのは。」
『ははは、前に担任から異常者だって言われました。』
「…女に見えるのは王冠の値段だけです。
その責務や艱難に決して意識が届く事はない。」
『まあ、それが彼女達の仕事ですから。
責める気はありません。』
「猊下が既に王である事に皆が気づけば、齟齬は自然になくなります。」
『善政とは英主の統治を指す訳ではありません。
人民個々が王の責務を負うことでのみ垣間見れる境地なのです。』
「そんな時代が来ればいいのですが。」
『来ませんよ。』
「でしょうね。」
『死との選択を迫られない限り。』
「え?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【堀内信彦】 (護衛)
「関東に戻れば、流石に定住されるんですよね?」
『ええまあ、カネが持ちきれなくなりましたしね。』
「私に政治の話は分かりませんが、猊下ほど偉い人が動き回るのはあまり良くないと思います。」
『偉くはないですよ。
七転八倒の連続です。』
「でも、そのうち安定するんですよね?」
『そりゃあ、カネ持ちが定住すれば自然に安定しますよ。
…ですが、私が定住しちゃったら。
信彦さんが褒めてくれた偉さは消失します。』
「…仰ることは何となく理解出来ます。」
『水は澱めば腐ります。
カネや権力は一カ所に留めてはなりませんし、誰か1人が独占してはなりません。』
「…旅を続けるのですか?」
『そうありたいですね。』
「猊下のゴールを教えて下さい。
ずっと、そんな風に流れ暮らすのは異常です…
マタギの私でさえ家はあるんですよ。」
『以前、友人と語り合った事があるんです。
いつか何もかも捨てて世界の果てで一緒にbarでもやろう、と。
きっと私の死に場所って、そういう所なんだと思います。』
「哀しすぎますよ、そんなの。」
『いつか、私が最果てで死を待つ日が来たら…
信彦さんも遊びに来て下さいよ。
一杯くらいご馳走しますよ。』
「じゃあ、干し肉でも持って行きます。」
『楽しみが増えました。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【坊門万太郎】 (出資者)
「それにしても猊下。
どんどん手の届かん所に行ってしまいますなぁ。」
『そうですか?
自分では停滞感に悩んでいるのですが。』
「そうは言うたかて。
英国大使館なんて、中々は入れませんで。」
『カネを届けに行くだけですよ。』
「でも、それで結局勝ちはるんでしょ?」
『何を以て勝利とするかは分からないのですが…
英国に対しての経済的優位が自然に確立される気はします。』
「…最強ですやん。」
『最強じゃないからWikipediaに悩まされてるんですよ。』
「ははは、確かに。
見事にLBGT騒動に巻き込まれてしまいましたなあ。
ブリカス共、光戦士君を猊下の寵童って思い込んでましたで?」
『光戦士の前途を考えれば宜しからず。
彼の兄に合わす顔がありません。』
「まあ、結婚とか就職で困りそうではありますわな。」
『アレも年頃です。
恋人でも見繕ってやりたいのですが。』
「えっと、女性の?」
『勿論ですよ。
彼、普通にヘテロですし。』
「一番ええのは、同世代の異性と交際する事なんですけど。
猊下は光戦士君と同世代の女子って思い浮かびます?」
…コレット、木下、伊東まゆま。
ロクなのが居ないな。
あんな奴らに光戦士を任せるなんて以ての外である。
全却下。
『居ませんね。
坊門さんの知り合いで居ませんか?』
「孫娘かなあ。
結構美人ですけど。」
『おお!』
「でもその場合、結婚を前提とした交際になってまいますよ?」
『あー、それはあの年頃の男の子には重荷かも。』
「中学生なんてヤリたい盛りですからな。
自分が通った道だけに、可愛い孫娘をその対象には出来ませんわ。
まあ、婿入りなら歓迎しますけど。」
『え? 歓迎なんですか?』
「あれで度胸座ってますやん。
本人なりに頑張ってるし。
ワシはかなり高評価してますよ。
猊下は?」
『あー、彼の一族全員優秀ですからね。
どうしても比較しちゃってました。
確かに、ピンでもやっていける素材だとは思います。』
「でも戦力には数えてないんでしょう?」
『彼の兄が異世界で戦死しているのですが。
私にもその何割かの責任があるんです。
なので、弟まで危険に晒してしまったら、金本家に申し訳が立ちません。』
「…ちなみに何割くらいでっか?」
『10割くらいだとは思ってます。』
「それ猊下の責任ですやん。」
『なので、弟に対しては10割の責務を全うしたいです。』
「なのにむざむざブリカスの手に渡してしまったと。」
『ええ、慙愧に堪えません。』
「さっさと奪還しましょう。
ワシもあの少年の事は見込んでおります。」
『ですね。
命に代えても彼を護る所存です。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【小牧晃】 (防諜顧問)
『どうもー。』
「どうして私の番だけ楽し気なの?」
『私、小牧さんが大好きなんですよ。』
「何? それ新手のイジメ?」
『あっはっは、酷いなぁ。』
「で? これから君はどうする?」
『どうもしませんよ。
海賊船から光戦士を奪還して終わりです。』
「いや、あのスキルの話。」
『ええ、どうでした?
手品の感想を聞かせて下さいよ。』
「種さえあれば笑えたんだけどね。」
『種は異世界方面にきっとあるんですよ。』
「笑えないなあ。
君、スキルとか異世界の原理は把握してるの?」
『まさか。
互いの世界が極星の果て同士にある事くらいしか知りませんよ。』
「ちょ! ちょ! ちょ!
それ一番の話の核心!!
え!? 異世界って地球と同座標上にあるの!?」
『ああ、言われてみれば…
そうなるのか…』
「いやいやいや!
全然話が違って来るよ!!
ファンタジーとリアルSFくらいに危険度が違うよ!!」
『なるほど、確かに。』
「え?
君、宇宙に行って来たの?
どうやって?」
『ああ、それは意識してなかったですねえ。
まあアレです。
ワープっぽい装置で帰って来ました。』
「ヤバいヤバいヤバい!!!」
『どれくらいヤバいですか?』
「君の所為で地球が滅びそうな予感がする!」
『ああ、そりゃあヤバいですね。』
「宇宙規模で厄介事が起きそうな気がする!」
『ヤバすぎでしょ。』
「胃が痛くなって来た…」
『恐縮です。』
「ちなみに上司の時任が他界したから。」
『ええ!? 時任さんが!?
一体誰にやられたんですか!!』
「この白々しさ、怖いなぁ。」
『わ、私は一体どうすれば。』
「故人の冥福を祈ってやって。
緑色の胃液を吐くまで頑張ったんだから。」
『カネカネカネカネナンマイダー。』
「どうせ次は私だろうけど、念仏は割愛でOKだから。」
『えー、小牧さんの冥福祈りたいですよぉ。』
「えー、死ぬ時くらいは勘弁してよぉ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【沢下球児】 (運搬担当)
「猊下!
サービスエリアに着いた時くらいはゆっくりして!」
『ハアハア。
差し入れです。
長距離運転お疲れ様です。』
「もう貴方からは十分に貰ってます。」
『すみません。
せめて気持ちを形にしたかったんです。』
「どうして運転手風情にそこまで気を遣うんですか?
俺、そんな人を初めて見ましたよ。」
『…わかりません。
どうしてなんでしょうね?』
「猊下。」
『あ、はい。』
「その答えは俺に考えさせて下さい。
何故、遠市厘がそう振舞うのか。」
『きっと沢下さんの出した答えが私の本音なんだと思います。』
「…そんな寂しい事を仰らないで下さいよ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【伊地知義和】 (運搬担当)
『伊地知さん!
差し入れだけでスミマセン!』
「ははは、全員と話してるのは見てましたけど。
私も含まれてるんですね。」
『当たり前じゃないですか!
あの…
伊地知さんにはリスクを背負わせてしまっていると思います。
万一の場合、カネは荷台ごと廃棄して頂いても結構ですので、ご自身の安全を最優先して下さい。』
「…。」
『伊地知さん?』
「お断りします。」
『え?』
「だって若い貴方が死ぬつもりなのに…
老人の私が保身に走れる訳がないじゃないですか。」
『いや、別に…
死ぬと決まってる訳では。』
「流石にこの歳になれば解りますよ。
本物の覚悟はね。」
『いや、私なんかは別に。』
「偽物ばっかり見せられて来た人生でした。
どいつもこいつもインチキばかりだった。
だから、最後の最後で引き当てた本物だけは裏切れない。」
『…。』
「猊下。
貴方には使命がある。
貴方にしか成し得ない使命があります。
だから、絶対に最後の最後まで生き抜いて下さい!」
『…いえ、私はそこまで。』
「順番守れよ!!!」
『?』
「命には順番があるでしょうに!!
私の方が何十年も先行してます。
貴方の順番はずっと後ですよ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【寺之庄煕規】 (相談役・予備運転手)
「帰って来たね。」
『ええ、長い旅でした。』
「でも、この先も続くんでしょ? 別の形で。」
『…はい、続きます。』
「ゴールは決めた?」
『ええ。』
「そのゴールにはちゃんと君自身が居るんだよね?」
『…どうでしょう。』
「君が幸福になることだけが僕の望みだ。
叶えてくれると嬉しいな。」
『…もう叶い終わりました。
ヒロノリさんが叶えて下さりました。
これで満足して下さい。』
「もう希望はないの?」
『遠市厘は、もう十分です。
後は独占することなく…
少しでも世界に均等に、それだけが望みです。』
「生きろよ。」
『ヒロノリさん。
もしも私が中道に…』
「聞けよ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【後藤響】 (相談役・護衛)
「箱根の坂を越えてしまいました。」
『ええ、後は日常が続くだけです。』
「俺、トイチさんに声を掛けて本当に良かったです。」
『こちらこそ。
後藤さんには救われっぱなしです。』
「もう俺に出来る事は残っておりません。
それが心苦しく、悔しいです。」
『そうですか?
私は貴方に依存してしまっているんですけどね。』
「でも、トイチさんは強い人やから…
その依存もすぐに克服されると思います。」
『私は矮小な人間です。
ずっと貴方を羨んでいる。』
「もっと高い目標を持って下さい。
俺なんかを見ていちゃ駄目です。」
『目標…』
「トイチさんには、もっと先に進んで欲しいんですよ。
こんな下らん場所で足踏みをしていては駄目です。」
『足踏みしてますか?』
「だってトイチさん。
全然本気出してないじゃないですか。」
『買い被りですよ。』
「イギリスを滅ぼさない方法をずっと考えてたでしょ?」
『さあ、あんな奴ら何人死のうが…』
「それはトイチさんの本音じゃないんです。
心の奥底では、貴方は犠牲が出ない道を探し続けている。」
『ねえ、後藤さん。
犠牲の出ない道ってあるんですかね?』
「強大な王権が阻止する間もなく誕生すれば…
そしてその王が安定した世襲統治を開始すれば…
犠牲は最小限に収まります。
こういう歴史の話はトイチさんの方が詳しいでしょ?」
『私の歴史知識なんて、学校で習った程度ですよ。』
「王にはならないんですね。」
『もう令和ですよ?』
「だから、貴方は本気じゃないんです。」
『…。』
「これだけは覚えておいて下さい。
丸い刃が一番痛いんです。
獲れる天下を獲らない貴方の甘さがみんなを苦しめるんですよ。」
『…買い被りです。』
「買い被りなんかじゃない!
俺が一番トイチさんを見ています。
貴方自身なんかより、遥かに真剣に見て来ました。」
『参ったな。
何せ貴方の言葉は全て正しい。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【飯田清磨】 (秘書)
「もうすぐ相模湾が見えるね。」
『ですね。
清磨さんの警察病院は左側でしょうか?』
「いや、もう通り過ぎた。」
『そうですか。
あっと言う間でしたね。』
「ねえ。
君の人生で一番印象に残ってるのは異世界?」
『あ、はい。
やっぱり、かなり特殊な体験だったので。
きっと、あれが私の人生の黄金時代だったんです。
もう通り過ぎましたけど。』
「俺は今だよ。」
『…。』
「リン君と一緒に居た日々だけが、俺の本当の人生だった。」
『これから、幾らでも楽しい日常を作っていきましょうよ。』
「…嘘は良くない。」
『…そうですね。
嘘は良くないです。』
「見えた!」
『海ほたる…』
「リン君。」
『はい。』
「死ぬなよ。」
『…。』
「なあ。
クラスメートの命、全部無駄にするつもりか?
無駄死にする為に帰って来た訳じゃないだろう。」
『…清磨さん、俺は。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【嘘じゃボケw】 今日こそコメ返しするニャ―♪ [雑談]
「どうもー。
夜猫@の夜更かし担当!
相模の獅子ッ!!
ルナルナ@貫通済でーーす!!!」
「ニャンニャニャーン♪
夜猫@の百合猫営業担当!
仰げば尊と恩師ッ!
奈々ちゃんでーーす!!!」
「はい!本日は!
待ちに待った雑談回です!」
「ただの暇つぶしニャ―wwww」
「言うなよーーーwww」
「「ギャハハハハww
ギャヒ―――ww ギャヒーーーww」」
「はい! 先程!
スポンサーのパチンコ・デジュンさんの東京支店に挨拶に伺って参りました。」
「朴社長、ハゲって言ってゴメンニャ―ww」
「コイツ、やたら朴社長のデコを撫でたがってたからな。
あの後、ウ↑チ↓平謝りしたんだぞ。
はい、奈々のデコチョップの埋め合わせに!
デジュンさんのCMソング歌いまーす♪」
「「名古屋でパチンコ遊ぶなら、デジュンにおいでよ~♪
ジャンジャンバリバリ~♪ ジャンジャンバリバリ~♪
釘は甘々、景品ドカドカ、近所は華やかソープ街~♪
デジュンの出玉は天井知らずでデジュンデジュン~♪」」
「何でライブに関係ない歌って一発でマスター出来るんだろうな?」
「不思議とダンスも一瞬で記憶出来ちゃうニャ。」
「メスガキ太鼓の振り付け覚えた?」
「サビだけで許してニャ。」
「オイオイ、サビ以外の時はどうするんだよ?」
「可愛いポーズするニャ❤」
「マジ?」
「ニャンニャンニャニャーン❤
ニャンニャコニャンニャン❤
んみゃ?」
「歳を考えろよーーwwww」
「じゅうニャニャしゃい(号泣)!!!」
「はい、と言う訳でね。
デジュンさんの新台CMに出演する事が決まりました。」
「えっと、次のジャグラーだったかニャ?」
「うん、ジャグラーと北斗の入れ替えのタイミングで収録。
ほら、大須南店の駐車場拡張するって言ってたじゃない。」
「ああ、じゃあ放映は年末だニャ。」
「ふう、今年も何とか凌げそうだわ。」
「バズった割にしんどそうだニャ?」
「うーーーん。
人と機材、増やし過ぎたかも。
最初はバズったつもりで居たけど…
世界的に見れば、ダーリン様の注目度ありきだからな。」
「何であんな奴がチヤホヤされるのか理解出来ないニャ。」
「言うて世界一有名なホモだからな。
LGBT論争が盛り上がるほど、ダーリン様有利には進むんじゃない?」
「いや、LGBT論争なんて当分収まらないニャ。
アメリカでは何百人も死人が出てるほどニャ。」
「うーーーん、あの国はなあ。
議論に銃を持ち出すのは良くないと思うんだけどなぁ。」
「やめとけ。
また内政干渉って文句言われるニャ。」
「いやあ、別にそんな大袈裟なつもりはないんだけどな。」
「ほおら虹色アイコンが湧いて来たニャ。」
「何でウ↑チ↓がホモの話題した途端に湧くの、コイツラ?」
「多分AIで監視してるニャ。
一定の登録数のあるチャンネルは全部巡回対象にしてて、特定のキーワードが出たら凸。
コメントの傾向を観察する限り、この理屈ニャ。
ほら、ここ。
全部、文意が重複してる。」
「ああ、アイコンがセクシーな白人女の場合は…
bot?」
「Twitterとかのスパムと一緒ニャ。
脱ぐ美女でスパムじゃないのはッ!!
奈々ちゃんだけニャ―!!!」
「オートエイム・モザイク・システム起動ッ!!」
「よっぴー、でかした!」
「最近、奈々さんの初動が読めるようになって来ました。」
「コラ―、よっぴー!
奈々ちゃんのサービスショットをモザイク塗れにしおってからに!!」
「ひえ!!」
「奈々、よっぴーを苛めるな。
後、モザイク追尾を振り切ろうとするなww」
「ニャハハハハハ♪
ニャガーー!! ニャガーーー!!!
ニャヒーーーーーーーーwwww」
「オマエ、わざわざ大麻決める必要ないだろww」
「ハアハア♪
いい汗かいたニャ❤
お姉様とレズセする時の3倍くらいの汗をかいたニャ。」
「オマエの愛って、基本的に持続性ないよな。」
「それが猫ニャンニャン♪
ちなみにベッドの上ではフェムタチだニャン♪」
「はーい、ウ↑チ↓らの百合動画は既にオンライン上に大量流出してるからね。
カネの無い奴は貢ぎマゾプランを抜けてもいいぞー。」
「あれは悪意ある流出ニャ!
カネ返せニャ!!!」
「まあなあ。
アレだけ会員が増えたら、流す奴も出て来るわな。」
「駄目、犯罪!
駄目、絶対!
但し、大麻は許可するゥーー!!!」
「説得力ねえなww」
「ギャヒ――――――www
ギャヒ――――――www
ニャニャニャNYAHOOO!!!」
「はい、視聴者さんがドン引きしております。
信じられないかも知れませんが、今のあの女。
酒もクスリも一切入ってません。」
「奈々ちゃんニャニャニャニャ!!!
宇宙の恩師ニャ―――――――ン❤」
「何それ?」
「新曲ニャ❤」
「えー、ウ↑チ↓はその曲歌わないぞ?
ソロで歌っとけ。」
「ニャガビーーーン(号泣)!!!」
「夜猫@もコンテンツ増えて来たしなぁ。
自由民権TVさんからもレギュラー枠貰ったし…
リソースは絞らなきゃ。」
「一番、カネになるコンテンツはなんニャ?」
「うーーーん。
ちょと前まではFANZAの新作が有望株だったんだけど。
今はねえ、これ言っていいのかなあ。
ほら、《紹介料払うから遠市厘に繋いで欲しい》って奴。」
「トイチ売ろうぜーーーー♪」
「駄目ー。
ダーリン様、忙しいんだから!」
「でも、アイツの居場所チクっただけで纏まったカネが貰えるなんて錬金術ニャ!」
「あの人、住所不定だからな。
実際、紹介料永久機関は可能だと思う。」
「夢が広がRingニャ♪」
「でもなあ。
DM見る限り、ロクな奴居ないぞ。
オンラインカジノとかFXの情報商材とか。」
「ああ、それは酷いニャ。
…でもカネになりそうニャww」
「やめろって!
ただでさえあの人、変なガイジンに粘着されてるのに。」
「エドワードさんだったニャ?
ホモw? ホモw?
トイチにホモ凸させよーぜwww」
「しねーよww
鬼かテメえww
ダーリン様の居場所は教えないけどさあ。
向こうが申告した情報は寺之庄さんに送っておいた。
あの人もかなり忙しいみたいだけど。」
「ホモww ホモwww
ニャガガガガww ギャヒーーーwww」
「やめーやww
はい、この話終わり。
オマエ、すぐにダーリン様の悪口に繋げやがってww」
「生徒を誹謗中傷するのって気んんん持ちいいーーーッ♡」
「文科省さーーん。
松村君の教員免許3枚没収ねーww」
「やめーニャww」
「「ギャハハハハハハハwwwww」」
「あ、コメ返しどうする?」
「面倒くせーニャ。」
「オマエ、タイトルに勝手に《コメ返し》って書いただろーww」
「ふっ、過去は忘れたニャ❤」
「どうしよっかなー。
最近、マジでタイトル詐欺師扱いされてるからな。」
「次のタイトルは《脱ぎます!》で行くニャ!」
「あのさあ。
前から言うか言わないか迷ってたんだけど。
奈々の裸芸、視聴者に飽きられてきてるぞ?」
「ニャガビーーーーン(猫号泣)!!!」
「オマエ脱ぎすぎなんだよ。」
「女の旬は短いから仕方ないニャ!」
「え? 奈々の旬ってまだ残ってたの?」
「ニャガガビーーーーン(魂号泣)!!!
じゅうニャニャしゃい!!!」
「ちなみに奈々ってリアル17歳の時はどんな子だったの?」
「20代後半設定でお小遣い稼ぎしてたニャ♪」
「今と入れ替わっただけじゃねーかww」
「ニャハハ♥」
「お、奈々コメント増えたな。
流れが早すぎて見えないけど。」
「それニャ。
お姉様に寄せられるコメントは長文系多目だけど…
奈々ちゃんへのコメントは《脱げ》とか《ヤラセロ》とか、そんな脳死ワンフレーズばっかりニャ。」
「奈々って男から見たら即席型オナぺなんだよ。
あんまり深みを求められてないっていうか。」
「ぐぬぬ、教員免許ェ…」
「そうなんだよなあ。
奈々に付く長文コメントって教職絡みばっかりなんだよな。」
「教職コメントはバッシングばかりで嫌になるニャ。」
「7割以上が《教員免許剥奪しろ》だもんなww」
「残りの2割が文科省批判ニャ。」
「まあなあ、こんな奴を教壇に立たせてる時点で…
チェック体制甘いよなぁ。
ウ↑チ↓やダーリン様が高校入学出来ちゃうのも変な話だけど。
まあ、そこは福祉枠だから、あんまり批判はされてないな。」
「トイチ絡みの批判も多いニャ。」
「ああ、ダーリン様のアンチって奈々を攻撃しがちだよな。」
「3年前に中退した奴が何しようが知らんわ!!!
養護に入れろってアレだけ言ったやろがい!!
何が異世界じゃ、知るかボケ!!
あんな端金で製造物責任負える訳ねーだろ!!!
死ねカス!!
バカバカバーカ!!!!」
「あはははw
本音が出た。」
「トイチからは恩師料をもっと搾り取らニャいと割に合わないニャ!!」
「まあまあ、大目に見てやれよ。」
「この怒りはトイチにぶつけるニャ♥」
「やめーやww」
「もー、お姉様はトイチの肩ばっかり持ち過ぎ!
奈々ちゃんとトイチ、どっちが大切ニャの!?」
「奈々だけど?」
「え?」
「え?」
「…いや、意外な答えニャ。
ここはお姉様がトイチを選んで、夜猫@痴話喧嘩への流れに持って行くのが百合ラブコメの鉄板ニャ。
え? え? アイツと別れる? 別れるw?」
「ん? 別れないよ?
ダーリン様はウ↑チ↓の男だからな。
誰にも渡すつもりはないってだけで。」
「この原始的な愛情形態よ。」
「ただ、誰が本命って話になったら…
普通に奈々じゃない?」
「トゥンク♥」
「って、ウ↑チ↓が真面目に語ったら…
まーた虹色アイコンが一斉コメントするんだよな。」
「これ絶対AIニャ。
ホモとレズだけを自動迎撃する仕様だニャ。」
「そろそろ時間です、延長しますか?」
「いや、今日はイランわ。
夜配信の告知だけしておいてくれ。
なあ、コイツラの目的って何なんだろうな?」
「んー?
普通に人口削減ニャ。」
「え? そうなん?」
「ほら、地球人口は年々増えてるから。
偉い人達は冷戦以前から人口削減を考えてたニャ。
だからホモとかレズにはアホみたいに資金が流れてるニャ。
謎のLGBT免罪符も発動するニャ。」
「ほえー、回りくどいことするなー。
人口減らしたいなら、普通にぶっ殺して回ればよくない?」
「はい鷹見さん、思った事をそのまま言ってはいけませんよ。」
「へーい。」
「1分前!」
「でも暴力はやめないんだニャ?」
「いやいや、ウチも生活にゆとり出て来たし。
ダーリン様にチョッカイ出されない限り、切った張ったはしねーよ。
組にも迷惑掛かっちまうしな。」
「あー、それ絶対にフラグだニャww」
「フラグじゃねーっつーのwwww」
「「ギャハハハハハハハwwww」」」
「ギャヒーーーギャヒーーーwwww」
「ニャガーーーニャガーーーwwww」
「はい! それでは最後に本日のプレゼ…」
【この配信は終了しました】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『安宅さん、帰還が遅れて申し訳ありません。』
「意義のある旅だったように見えます。
さあ、話は後にしましょう。
16時50分を過ぎました!」
『ですね。
かなりの分量になっております。
負傷にだけは気を付けていきましょう!』
「トイチ君!
田名部さんからの最終報告!
本日の預金額は4400億円!!」
『了解!!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
4460億4680万0000円
↓
8860億4680万0000円
675万ポンド
※合計4400億円の預託を確認
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「もうバキュームは全開にしておく。
君は転倒しないことだけに集中して!
万が一があれば、後藤君が命綱を引く!!」
『セット完了!!!』
奥のマットに後藤と堀内信彦が陣取る。
あの2人の膂力なら、万が一俺がカネに押し潰されかけても救出してくれるだろう。
駆け寄って来た飯田が最後の命綱チェック。
『清磨さん! 後2分しかありません!!』
「リン君の安全が優先だ!
いいね?
窒息だけは防いでくれよ。
そのバンダナ、息苦しいかも知れないけど呼吸器は死守して!」
紙幣に口鼻を塞がれるのが恐ろしいので、口元には大きなバンダナを巻いている。
再度、飯田が結び目をチェック。
俺と頷き合ってから彼も持ち場に戻る。
「10秒前ーーーーーッ!!!!」
寺之庄が叫んだ。
もはやカウントはしない。
ただ事故だけを警戒する。
《PERAPE-RA PERAPERAれました。》
クッソ!
ポンドはマジで害悪だな。
こっちが命懸けてる時に英語でゴチャゴチャ喚きやがって!!
「トイチ君ッ!!!」
『安定でーーーーーす!!!!』
空調、バキューム、回収シフトの全てが噛み合った。
おかげで、この異常な風圧に耐えれている。
逆に言えば、設備が無ければ確実に死んでいる場面とも言える。
異世界では10億ウェン硬貨が富を極めてコンパクトに纏めてくれていた。
だが地球は駄目だ。
最高額通貨でもたったの1万円。
その膨大な枚数の紙が自分の周囲に射出され舞い散るという悪夢。
常に圧死、窒息死の可能性を想定し続けなければならない。
『ハアハア。』
「トイチさん、回収OKです!」
『ハアハア。』
「どうぞ、ポカリです。
水分補給して下さい。」
『…ハアハア、フ―――。
ありがとうございます。
射出の終盤、かなり息苦しかったので…
酸素を供給する手段を考えておいて下さい。』
「了解、直ちに対策案練ります!
トイチさん、少し横になって下さい。
シャワールームも使える状態になっておりますので。」
『フーーーーーーーー。
お言葉に甘えます。』
運び込まれた簡易ソファーに倒れ込む。
思いのほか疲れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
8860億4680万0000円
↓
1兆0189億5382万0000円
↓
5789億5382万0000円
↓
5701億5382万0000円
↓
5700億0000万0000円
↓
5698億0000万0000円
※配当1329億0702万0000円を取得。
※元本4400億円の確認。
※配当用の88億円を別途保管。
※パーティーに計1億5382万の雑費を支給。
※安宅・鳩野の両名に計2億円(退去許可を添えて)を贈呈
675万ポンド
↓
777万ポンド
※102万ポンド増加。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本音を言えば、大阪への配当は向こうから取りに来させたい。
だが、狭い木更津に部外者が殺到するのは、俺にとって好ましくない。
『沢下さん、貴方に負担を掛けてしまいますが。』
「猊下。
東海道の往復なんてどこの運送屋でもやってることです。
命令する事に慣れて下さい。
走る事が俺のポジション、それを命じるのが猊下のポジションです。
互いにベストを尽くしましょう。」
『…どうかご安全に。』
大阪への配当運搬は沢下が担当。
明日は伊地知の番である。
現在の5000億はこの倉庫に収納。
兆円規模なら入りそうだが…
京円規模への到達を今から想定しておかなければならない。
最低でも同サイズの倉庫を10個欲しい。
当然、本命は穀物射出。
俺の能力が本物ならば、人類全てを飢えから解放する事も夢ではない。
早急に態勢を整えなければ。
沢下の出発を見届けてから、全車両のシフトを全員で確認し直す。
鳩野が雑務用のハイエースを購入していたので、フォーメーションに組み込む。
メンバーを倉庫待機班と大使館班に分けてから、振り返らずに出発。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【遠市パーティー】
「大使館行きチーム」
遠市厘 (オーナー)
後藤響 (相談役・護衛)
飯田清磨 (秘書)
坊門万太郎 (出資者)
小牧晃 (防諜顧問)
大西竜志 (運転手)
国重辰馬 (報道担当)
石賀一博 (執事)
「周辺待機チーム」
堀内信彦 (護衛)
浦上衛 (イベント担当)
宮田大輝 (車両担当)
安宅一冬 (相談役)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、英国大使館前。
と言うより、皇居前だ。
「猊下ー♪」
孝文が満面の笑みで駆け寄って来る。
無駄に瞳がキラキラしていて怖い。
既に大使館の門前には野次馬が集まっており、無遠慮に俺を覗き込んでいた。
モーニングを着用した紳士や美しく着飾った貴婦人が機嫌良さげに俺を撮影している。
例によって撮影許可を申請して来る者は誰一人いない。
向こうから早口の英語で「perape-ra!!」と聞こえるので、存外あれが彼らなりの撮影申請なのかも知れない。
「昨夜は楽しかったですね♪」
そりゃ、オマエはそうだろうな。
ちなみに俺は寝不足で体調をやや崩している。
『えっと、我々はこの衣装しか無いのですが、これで良かったですか?』
「はい!
寧ろ、こちらの白装束の方が皆様も喜ばれます!」
彼らだって折角来日したんだから、そりゃあ日本っぽい土産話を持ち帰りたいよな。
俺達の白装束はさぞかし東洋の神秘っぽく見えるだろうからな。
『孝文さん。
まず、金本光戦士の安全を確認させて下さい。』
「いやいや!
安全って。
誤解、誤解がありますよ!
光戦士君は英国が総力を挙げて接待しております!
無論、七感女史もです!」
『2人はここにはいないのですか?』
「別件で歓迎されていると伺っております!
ほら、さっき送られて来たお2人の画像!
楽しそうでしょ!?」
孝文がスマホを恭しく差し出してくる。
うむ、確かに画面に映る光戦士は上機嫌だが…
『あの…
どうして光戦士がドレスを着用しているのです?』
「?
ご安心下さい!
我が国はこれくらい配慮しているということです!」
『…彼を回収しますので、こちらに呼んでおいて下さい。』
今夜、光戦士を回収する。
そして両親に送り届けて彼の旅は終わりだ。
後は、どうか健やかな青春を過ごしてくれると嬉しい。
俺が画面の中の光戦士をみつめていると、孝文が耳打ちして来る。
「猊下…
あちらにおられる御老人がバーゼル卿です。」
『あ、はい。』
俺にはよくわからないが、凄く偉い人とのこと。
「お孫さんが猊下の熱烈なファンだそうで。
宜しければ、お写真をお願い出来ませんでしょうか?」
『あ、はい。
まあ、私で良ければ。』
俺は門前で英国人共の晒し物にされながら5分ほど待たされる。
一応念を押しておくが、これって英国式の意地悪じゃないよな?
「perape-ra♪」
陽気な貴婦人が駆け寄って来る。
孝文の説明によると、この御婦人がバーゼル卿のお孫さんのカミーラ嬢(19歳)とのこと。
社交界では結構な人気者らしい。
大使館の門前でカミーラ嬢とツーショット。
シャッターが切られる前に腕を組んで来たので驚く。
反対側の腕をバーゼル卿が組んで来たので更に驚く。
何だろう? 英国にはそういう風習があるのだろうか?
こんな事ならガリア戦記を読み直しておくんだった。
予想通り、館内に入れるのは俺だけ。
当然だろう、彼らが招待状を1枚しか渡さなかったのだから。
最初、英国人達はメンバーを怪訝そうな目で見ていたが、俺が彼らに申次機能を付与している事を教えると愛想良く歓待し始めた。
『孝文さん。
お預かりしていたおカネを持参しました。
もしも随員が許可されないなら、ここで確認して下さい。』
「いえいえ!
流石に門前でおカネを広げるのは。
私が持ちましょうか?」
『孝文さんはそっち側じゃないですか。』
「…猊下側に行っちゃ駄目ですか?」
『いや、貴方は今回ホスト側なんだから…
社会通念上駄目でしょう。』
「ですよねー。」
孝文があちこちを走り回って、石賀だけ同伴出来ることになった。
「どうして俺なの?」
『だって石賀さんは私の執事じゃないですか。』
「それっぽい服は着とるけどさあ。
ちゃんとした作法とか全然知らんぞ?」
『ゴチャゴチャ言われたら、日本式執事作法って事にしましょうよ。』
「無理だよ。
日本人もチラホラおる筈だし。」
『じゃあ、異世界式の作法って事にしておきましょう。』
「異世界って作法あるの?」
『ありますよー。
ゴブリンなんかあまりに作法が煩雑すぎて、種族ごと簡便なオーク式作法に転換しちゃった位ですから。』
「どこも大変だなあ。」
『全くです。』
本来、孝文は色々と雑務を申し付けられていたようなのだが、勝手に俺の隣を歩いている。
まるで随員みたいな態度だ。
いや、それはいいのだがカミーラ嬢がずっと俺の後ろにピッタリついて来ている。
(その後ろにバーゼル翁とその部下が続く。)
それを見た石賀は俺の腕にモールス的にトントン打つ。
4連打×2は《スパイ注意》の合図。
うん、そこは警戒するべきだろう。
カミーラ嬢が実は日本語に通暁していた場合、迂闊にペラペラ話せばこちらの情報が筒抜けになる。
っていうかこの女、どことなくエルデフリダ臭がして信用出来ないんだよな。
敵意の有無と関係なくマイナス作用するタイプの人種だ。
「perape-ra♪」
「perape-ra♪」
「perape-ra♪」
「perape-ra♪」
ガイジンがいっぱい話し掛けて来るので、ペコペコしながら『hello.hello.thank you. thank you.』と適当に返しておく。
何人か英国内の超大物が混じっていたらしいのだが、全員似たようなフォルムだったので識別が出来ない。
後で聞いた所、英国人も大して黄色人種を識別出来ていないので、顔に傷のある俺は《見分けやすい》という一点で彼らに好意的に扱われていた。
わかる!
見分けのつくガイジンって安心感あるよな!
「perape-ra!」
あ、一昨日会ったグランツ(英)だ。
相変わらずガタイで圧を掛けて来やがる。
「perape-ra perape-ra~(原稿用紙2枚分くらいの長文)」
突然、俺に顔を近づけて語り始める。
慌てて孝文が翻訳してくれた所によると、《同じ西側陣営同士頑張ろう。》という呼びかけらしい。
あんな態度を取っておいてどうして味方面出来るのか理解に苦しむのだが、グランツ(英)は本国でもこういう調子らしいし、そもそも英国人というのはこういう生き物であるらしい。
不本意極まりないのだが、グランツ(英)のテーブルに招かれる。
同派閥の連中がニコニコしながらシャンパンを勧めてくれるのだが、そもそもこのテーブルがどういう席なのかすら分からない。
真顔のグランツ(英)がヒソヒソ耳打ちしてくれるのだが、I can not speak English。
何となく、滅茶苦茶重要な情報を彼なりに提供してくれているのは察しがつくのだが、俺は翻訳スキルを所持していない。
「猊下が理想郷ファンドの決起パーティーに駆け付けてくれるとは意外だ、とのことです。」
『いや、呼んだのそっちじゃないですか。
カネを届けに来ただけなんでもう帰りますけど。』
「えーーー!?
今から、歴史的なプレゼンが始まるのに帰っちゃうんですか!?」
『それApple社やボージョレ・ヌーボーが毎年やってるじゃないですか。』
「いえいえ!
今日のプレゼンは経済史の革命として長く語り継がれるものという触れ込みです!」
『はあ。』
「何せ英国が全世界から集めたスーパースター達によるドリームチームですから!」
『…大使館でパーティーって聞いてやってきたんですけど。』
「ええ大使館を借り切って、理想郷ファンドのお披露目パーティーです!」
…ん?
何か話が違うぞ?
『あの、大使館が主催しているんですよね?
貴国が国運を賭けた信託事業なんですよね?』
「あー、大使閣下は現在皇居で開催されておられる天皇皇后両陛下主催の晩餐会に出席されておられます。」
『え?』
「いやいや、まさか両陛下からの招聘を断るなど出来る訳がないでしょう。」
ん?
何か話がおかしくないか?
そりゃあ陛下からの招聘であれば大使は断れないだろう。
でも、皇室スケジュールは年単位で綿密に決められていると聞いたぞ。
仮に晩餐会があったとしても、そんなのずっと前から予定は決まっているだろうに。
じゃあ、今日の催しは大使が不在だと分かり切った上で企画されたってこと?
…国策で投資を募るんだよな?
そんなの許されるものなのか?
『…。』
俺が黙っていると孝文も仮面を脱いだように真顔に戻って耳打ちして来る。
「流石です猊下。
こういう外連味のある企画に関しては、敢えて大使が同席しないケースがあります。
我が国は歴史上、何度かこういう手を使ってます。」
『まあ貴国には貴国の事情があるのでしょうね。
一応、プレゼンが終わるまでは居た方がいいですか?』
「そうして頂けると非常に助かります。」
俺は周囲を見渡す。
どういう連中が来ているのか知りたかったからだ。
グランツ(英)が親切にも1人1人を指さして、それが何者なのかを英語で説明してくれる。
なるほど、バベルの塔が崩れた理由がよく分かった。
「perape-ra!」
グランツがステージを指す。
どうやらプレゼンが始まるらしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(壮大なBGM)
「perape-ra(2分程度の前置き)」
まずはユニオンジャックとエリザベス女王の顔写真が巨大なスクリーンに映し出される。
向こうのテーブルに居るガタイのいいオジサン達(多分軍人さん)が直立不動の体勢となった。
(悲壮なBGM)
次にウクライナ戦争の現状を伝える動画が流れる。
家を追われた民間人や、顔に包帯を巻いた少年の様子が大きく映し出され、プーチン大統領が威圧的に喋っている場面に切り替わる。
(勇ましいBGM)
突然雰囲気が代わり、ユニオンジャックの肩章を付けた兵隊さん達が、ウクライナ国旗の肩章を付けた兵隊さん達と談笑している画像が映される。
次にロシア側の戦車が爆破されるショート動画が連続で映し出され、左上の数字がどんどんカウントアップされていく。
つまり、《英国はこれだけロシアに打撃を与えましたよ》と言いたいのだろう。
(日本風のBGM)
続いて、英国のスナク首相と我が国の岸田首相が抱擁を交わしている画像が映し出される。
左下にG7と書いているので広島サミットの時の記録であろうか?
要するに日英が友好関係にあると言いたいのだろう。
続いて古いモノクロ画像、日本人と(恐らく)英国人の画像が2分割で投影される。
文脈からして日本人は桂太郎、そして英国人は当時の首相か何か。
要は日英同盟を肯定的に見ているというPRなのだろう。
司会の男がフレンドリーな笑顔でスクリーンの動画を説明している。
俺が周囲をキョロキョロすると、割とみんな楽しんでいるように見えた。
(軍人さんっぽい人達の固まっているテーブルは流石に謹厳な雰囲気だが。)
俺が口を開けてボーっと眺めていると、突然派手なBGMが流れて会場にスモークが炊かれる。
…大使館でスモークとか、絶対に駄目だろ。
「perape-ra♪」
突然、壇上に背の高い白衣の男が登壇する。
風貌からするとインド系だろうか?
「彼こそが英連邦の誇る天才イサーン・ジャギ博士です。
フィールズ賞を最年少で受賞し、ラマヌジャンの再来と称えられている逸材です。」
孝文の補足を聞いて目を凝らすと。
なるほど、賢そうな顔をしている。
英国内では相当な有名人らしく、各テーブルがざわついている。
背後のスクリーンにはスナク首相と談笑しながら握手している動画。
続いてアフロヘア―の白人がヘラヘラしながら登壇する。
多分、コイツはヒッピー枠なのだろうな。
「言わずと知れたIT界の旗手ジャック・ターナー会長です!」
…スマン、俺にはわからない。
「失礼、GAGATのCEOですよ。」
スマン、多分知らない俺が悪いのだろう。
恥を忍んで孝文に説明を乞うた所、全世界のコールセンター業務を牛耳っているグローバル企業があるそうなのだ。
何よりAI制御で多言語に対応した自動翻訳受電システムを開発したことで、近年のビジネス界では台風の目となっているそうだ。
《じゃあ、日本でのこのパーティーに応用しろよ》
と喉まで出掛かったが寸前で堪える。
我ながらよく我慢したと思う。
俺が唇を噛んでいると、突如会場から喝采が起こる。
「perape-ra♪perape-ra♪perape-ra♪perape-ra♪」
司会のテンションが露骨に上がった。
ジャギ氏とターナー氏が少しイラっとした表情になる。
「猊下! マーク・ブラッドマンです!
世界No1のyoutuber!!
チャンネル登録者数8000万人の現代の怪物!!」
あれ、アイツは何か見覚えあるぞ。
無意識に彼の動画を視聴していたのだろうか?
ブラッドマンはまるで英雄の様に拳を天に突き上げて喝采に応えていた。
会場の喧騒が落ち着くと、続いて白髪のマッチョ老人が登壇する。
「「「Oooh!!」」」と会場が驚いた様子だったので、恐らく有名人なのだろう。
「冒険投資家のパット・ジョーンズ氏です!
全世界を旅しながらルポ記事と共にポジションを公開する投資スタイルは唯一無二。
今回のウクライナ戦争でも迅速に現地に飛び、ロシアの蛮行を非難し世論に団結を訴えました。」
『ジム・ロジャースみたいな人ですか?』
「我が国では、それは絶対に禁句です。」
『失礼。』
壇上には、ジャギ・ターナー・ブラッドマン・ジョーンズの4名が堂々と並んでいる。
恐らく英国オールスターチームなのだろう。
物凄い気迫が伝わって来た。
俺が壇上の英雄たちを眩しく見上げていると、孝文が耳打ちする。
「御安心下さい。
チームには日本人もちゃんと加盟しておりますから。」
英国の金融商品だから彼らだけで勝手に売ってくれれば良いと思うのだが、彼らなりに我が国の顔も立てているつもりらしい。
「お! 本日の主役です!」
孝文の言葉と同時にBGMが切り替わる。
音量も今までより、やや大きめに…
ん?
この音楽、どこかで聞いたことあるぞ?
どこだったかな?
「Viva 2023! Viva twenty twenty-three!」
あれ?
どこで聞いたかなぁ?
「nnnnnnnnnnnn!!
percent!!!
whoooooooooo!!!!」
え? この声、そしてあのシルエット…
目に焼き付けるほど繰り返し見た独特のポージング!
「Anyone who doesn't is a fool !!!!!」
ば、馬鹿な。
何故オマエがここに居る!?
「But even so!!
There is a world that I want to protect!!!」
派手なスモークと静寂の中から現れたのは…
『天空院翔真ッ!!!!』
思わず叫んだ声は会場中に響いてしまう。
一斉に参加者全員が振り返る。
そんな俺を壇上の5人がゆっくりと見下ろす。
数秒、俺達の視線が交差した。
「perape-ra♪」
何事も無かったように司会が進行を続けた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
要は、こういうことだ。
《英連邦が最強のメンバーを集めたから理想郷ファンドは絶対に成功する。》
言わんとする事はわからんでもない。
…でもまあ、大使が臨席してない時点で、そういう保険が必要な外連ってことじゃない。
彼らの論法では、理想郷ファンドを購入することこそが、此度の戦争でウクライナを支援する唯一の道らしい。
《いや、流石にそれはないだろう》
と俺は思うのだが、この場ではそういう事になっていた。
俺が壇上を眺めるのに飽きて、ローストビーフを石賀とパクパク食べていると不意に周囲がざわついた。
振り返ると人垣が割れ、さっきの5人が俺を睨みつけながら各々ポージングして横一線に仁王立ちしている。
そして、天空院が腰に手を当てながらゆっくりと一歩前に出た。
「地獄の底から戻って来たぜ、遠市厘ッ!!!」
指を真っ直ぐに俺に突き付けて叫ぶ。
『あ、ども御無沙汰しておりました。』
他の4人も一人ずつ前に進み出して、順に口上を述べて行く。
「perape-ra!! perape-ra!!」
「…perape-ra. pera!!!!!!」
「peraperaperaperaperaperaperaperaperapera.」
「pera!!! perapettttt!!!!!!」
ギャラリーが感心した様な表情でウンウン頷いているので、恐らく良い事を言っているのだと思う。
ただ、誰一人として通訳をしてくれる者は居なかった。
そして再び天空院がポーズを取る。
「という事だ!!」
どういうことだよ。
カミーラ嬢もグランツ(英)も心配そうな表情で「…perapera」と慰めて(?)くれる。
いいから通訳連れてこい馬鹿。
石賀がトイレに行っていた孝文をようやく見つけて引っ張って来る。
そして状況確認させる。
「PRコンペをやるみたいです。」
『は? コンペですか?』
「理想郷ファンドvs異世界ファンド、どちらが西側秩序に貢献する運用が出来るか。
その勝負ですね。」
『え? 私も出るんですか?』
「いや、さっき猊下が自分から名乗りを挙げたと。」
『…挙げてないです。
あのねえ、ここは日本ですよ?
日本語以外の言語でペラペラ一方的に話を進めるのは反則でしょう!』
「あ、いや。
ここは英国大使館なので、英国の法律が適用されます。」
『そっすか。』
「いやいや!
そんな顔しないで下さいよ!
猊下にだってメリットはあります!
日本国の法律で禁止されている同性婚の婚姻届を受理したり!
駐日大使館は良い事だっていっぱいしてるんです!」
…コイツら本当にロクなことしないな。
『その話は後ほど。
で? 例によって私は登壇させられるのですね?』
「いえいえ無理強いは! 決して!」
勿論、登壇を無理強いさせられる。
席次の高い老人達が俺を取り込囲んで、半ば力づくで俺を壇上に押し上げたのだ。
我、賓客ぞ?
カミーラ嬢が「perape-ra♥」と応援してくれてるっぽい雰囲気を出す。
うぜえ。
壇上に上がると天空院とジョーンズが派手な身振りで理想郷ファンドを称賛していた。
孝文の補足によると、2023年中にウクライナ領土は全て解放され、ロシアは屈服して落涙しながら和を乞うてくるらしい。
そうかなぁ?
俺は首を捻るのだが、感動的なBGMの音量が上がり、会場は戦勝ムードとなる。
ボーっとしていると、youtberのブラッドマンが壇上で詰め寄って来る。
「perape-ra!!!」
『はい?』
どいう訳か俺に腹を立てているらしく、唾を飛ばしながら会場に何かを訴えている。
脇に控える孝文が慌てて通訳。
「この遠市なる人物は、私の推薦で有名youtuberになれたにも関わらず、恩人の私に礼状一枚送って来ない。
日本人は礼儀正しいと聞いていただけに、大きく失望させられた。
そんな彼にファンドが運用出来るとは思えない。」
『え? 推薦?』
「誤魔化すのはやめるべきだ、貴方の信用が失墜することになる。
ガルパン動画を撮影してあげたのは私なのに、それを自分自身の功績の様に吹聴するのは配信者シップに明らかに反している!」
あー、思い出した。
東横で鷹見を殴った時に嬉しそうに俺を撮っていたガイジンだ。
あー、コイツかあ。
いや、道理でおかしいと思ったんだ。
たかが路上の暴行事件がどうして国連の議題に上がる程の騒ぎになったのか。
チャンネル登録者数8000万のコイツが面白おかしくアップしやがったからだ。
しかもコイツ、事もあろうに恩を着せようとしている。
『勝手なこと言うな、この盗撮野郎!』
俺が叫ぶと会場が静まり返る。
慌てて孝文が飛び出し、必死の作り笑いで俺の言葉を翻訳して場を収める。
絶対、そのまま翻訳してないよな。
『いや! コイツが盗撮したのが悪いんでしょ!』
尚も俺が叫ぶが、孝文が更に大きな声で「perape-ra♪」と言葉を被せてしまう。
何か一言文句を言ってやろうとマイクを握り直すも…
クッソ、また俺のマイクだけ音量切りやがって!!!
我、来賓ぞ!!!
ノーマイクで抗議する俺だが、糞デカBGMに阻まれて声がかき消される。
更には俺へのスポットライトはいつの間にか消され、ジャギ博士のマイク音量完璧スピーチでこちらの叫びは完全遮断されてしまう。
これにはいつの間にか俺の隣に立っていたグランツ(英)も怒りに拳を震わせ、「perape-ra!!」と力強く慰めて来る。
オマエ、何を勝手に味方キャラみたいな顔してるんだよ。
元は言えばオマエの所為だっつーの。
グランツ(英)と孝文は2人でヒソヒソと打ち合わせしている。
俺の顔を見ながら確認を取って来るが、英語なので何を言っているのかわからない。
「perape-ra!!!」
突然グランツ(英)が通る声で、発言を求める。
ああ、俺以外のマイクは電源入ったままなのね。
グランツ(英)は司会と3分程押し問答をしてから、颯爽と中央に進み演説を始めた。
たまに俺を振り返っては小粋にウインクしてくる。
コイツなりに味方をしてくれているつもりらしい。
途中、カミーラ嬢も聴衆の最前列に進み出て、キンキンと何事かを叫んだ。
そして俺を振り向いてチャーミングなウインク。
うん、わかったから通訳入れろや。
全くもって不快極まりない。
オマエらホスピタリティってものがないのか?
俺が憎悪を必死に噛み殺していると、孝文もステージの中央に進んで演説を始めた。
いや、オマエは通訳に専念しろや。
余程、俺寄りの演説をしているのだろう。
聴衆が俺を見る目が徐々に好意的になってくる。
数分もしないうちに「TOICHI」コールが会場から沸き起こった。
戻って来た孝文が爽やかな笑顔を俺に見せる。
「猊下、お喜び下さい!
異世界ファンドの素晴らしさをようやく伝える事が出来ました!」
ん?
オマエ、また余計なことしたのか?
グランツ(英)も戻って来て、歯を二カッとサムズアップ。
親し気に俺の肩を抱いて来る。
まるで十年来の盟友に向けるかの如く笑顔である。
いや、俺の中でオマエこそが一番の敵キャラなのだぞ?
擦り寄られても正直迷惑なのだが…
「ちょっと待ったぁーーーー!!!!」
「perape-----ra!!!!」
天空院が咆哮する。
隣のジョーンズ氏もシンクロする。
「みなさーーーーーん!!!
騙されてはならなーーーい!!!!
この男の正体はポンジスキーマーだあああ!!!!」
「perape-----ra!!!!」
「常識で考えてみて欲しい!!
日利1%なんて話が上手過ぎると思わないか!?
上手い話には裏がある!!!
この男は詐欺師だぁーーーーーーー!!!
俺は君達を守りたいんだああああ!!!!!」
「perape-----ra!!!!
perape-----ra!!!!
perape-----ra!!!!」
天空院が様々なポーズを取りながら、聴衆に訴えた。
勿論、多くの聴衆は日本語が分からないのだが、その情熱的なポージングから天空院の危機感を汲み取ったらしい。
再び会場の皆が胡散臭そうに俺を見る。
オマエら主体性がないのか?
グランツ(英)が涙ながらに俺を弁護しているであろう論陣を張るのだが、聴衆の反応は冷淡だ。
「遠市厘がポンジスキーマ―だという証拠もあるぞ!!」
天空院が指を真上に突き上げる。
聴衆が息を呑む。
「何故なら!
この男の提唱する異世界ファンドとは!!
俺が始めたポンジスキームだからだああああ!!!」
zawazazazawazawaza
zawazazazawazawaza
会場の不信感が頂点に達し、仇敵でも見るような目で俺を睨みつける。
何故か俺の隣に移動していたカミーラ嬢がヒステリックに聴衆を罵倒してから泣き崩れる。
グランツ(英)が悔しそうに演台を拳で叩いた。
…いやオマエらあっち行けよ。
「猊下! マズいです!
今の状況を簡潔に説明するとですね!
猊下が詐欺師扱いされてます!」
『流石に会場の雰囲気でわかりますけど。』
更にはジャギ博士が俺を横目で睨みつけながらホワイトボードに数式を書き殴っている。
どうやら天空院のこれまでの事業が如何に詐欺的であったかを数学的な視点から証明しているらしい。
「perape-----ra!!!! xn + yn = zn!!!
peraperaperapera, Q.E.D.!!!! 」
博士は最後に眼鏡をクイっと上げながら、ビシッと俺に指を突き付ける。
どうやら天空院が詐欺師である事が完全に証明された為、同じ異世界ファンドを運営している俺も詐欺師となるらしい。
数学が苦手な俺から見ても、その証明には論理性が欠如している気がするぞ。
「げ、猊下! 大ピンチです!!
どうしましょう!!!
猊下が嘘つき扱いされてしまいました!!!」
孝文やグランツ(英)やカミーラ嬢が涙目で俺を見つめてくる。
何でこの3人が勝手に俺の陣営に入っているのかは不明。
きっとガリア戦記を再読し忘れた俺が悪いのだろう。
『孝文さん。
私も忙しいので帰っていいですか?』
「ここで中座しちゃったら、詐欺師だと認めた事になっちゃいますよお!!」
『そろそろ私も眠いんですけどね。』
「せめて異世界ファンドが詐欺で無いと証明しなくちゃ!!
でも、そんな方法がある訳がないですし!」
『はいはい。
じゃあ、どんな馬鹿でも理解出来る運用方法を提案しますよ。』
「おおお!!
そ、それはどのような!!?」
『ちゃんと翻訳して下さいよ。
後、マイクの電源入れて。
私だけ切られていると不快だから!』
「あ、はい!!!」
『えーっと。
取り敢えず先に分配しますね。
一昨日500万今朝100万ポンドを預かりました!
面倒なので600万で計算します。
日利1%を2日お預かりしたので、12万の利息ですね。
まずは、この場で612万ポンドを支払います。
ジャギ博士、間違ってたらちゃんと指摘して下さいよ。』
俺は脇に控えていた孝文に札束を押し付ける。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5698億0000万0000円
777万ポンド
↓
165万ポンド
※英国側に元本+利息として612万ポンドを支払い
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『はい、これで私の残りポンドは165万になりました。
誰か数えて下さーい。
ああ、じゃあブラッドマンさんにお任せします。
動画に撮って貰っても構いませんよー。』
ブラッドマンを始めとして数名が怪訝そうな表情で俺の渡したポンドを睨みつけている。
《連番ではない新札なのが怪しい》と物言いがついたので、機器で計測させる。
5分程経って、本物である事が証明された。
「待て! 遠市!!」
『何でしょう、天空院さん。』
「このカネが本物であったから何だ!!
オマエがポンジスキーマ―ではないという証明にはならんぞ!!」
『ポンジスキームって利息を約束して、カネを先払いするから問題なんですよね?』
「当たり前だ!
最終的に持ち逃げすることが目的なんだからな!!」
『発想を変えましょうよ。
私、先に利息を払う事にしました。』
「?
オマエは何を言っている?」
『言葉の通りです。
日利1%を先に払うので、受け取った人は後ほど元本を持って来て下さい。』
「…意味がわからない。
運用者側が持ち逃げリスクを負うとでも言うのか?
もしも受取人が泥棒だったらどうする?
オマエの丸損じゃないか!」
『ああ、その点は心配ご無用です。
私、イギリス人なんて最初から泥棒の集まりとしか思ってないので。
…通訳! 正確に翻訳せよ!!!!』
読み通りだな。
俺に泥棒呼ばわりされて、怒っている者も見受けられるが、それ以上に嬉しそうな英国人が多い。
コイツらは骨のある奴が大好きなのだ。
「窮して罵倒か?
語るに落ちたな。
先に利子を払う?
馬鹿馬鹿しい。
165万の1%元本なら1億6500万ポンドだ。
そんな大金、預かってどうする?」
『そこからは普通に日利1%が発動するだけです。』
「非合理的だ!!!
初動マイナスから始めるファンドなど聞いた事がない!!」
『そうでしょうか?
私はどのみち日利1%以上のパフォーマンスを出せます。
なので、初日のマイナス1%を損失とは感じません。』
「預金者側に有利過ぎる!」
『ええ、有利です。
と言うよりも、先に利息を払ってしまうので、預金者数が相当絞られてしまいます。』
「だろうな。
資金に余裕がある預金者なら、提示されている前払い利息を全額受け取ってしまうだろう。
窓口に皆が殺到する事は必至。
もしも利息が本当に先払いされるならの話だがな。」
『ええ、実質的には私が大量の預金希望者から1人を選ぶ形になるでしょうね。
自然、最も信用出来る者をこちらがパートナーに指名することとなります。
私はこのスキームを《ニコニコ金融スキーム》と呼称しております。』
「論点を逸らすな!!!
じゃあ、オマエが利息を払ったのに、相手が元本を持って来なければどうする!!」
『それはめでたいですね。
英国人との縁がスッパリ切れるのですから。
と言うか、貴方達に持ち逃げさせたいんですよ。
今後、門前払いする口実が出来ますので。』
会場が無邪気な笑いに包まれる。
早速お調子者が何人かルールを無視して壇上に上がろうとする。
だが機先を制したのは孫娘・カミーラの背後に居たバーゼル卿である。
その老体から信じられない速度で札束を乗せた机に駆け寄り、同じく手を伸ばし掛けていた青年貴族を突き飛ばしながら咆哮した。
「perape-----ra!!!!
perape-----ra!!!!
perape-----ra!!!!」
それはまさしく虎のような吠え声だった。
通訳など不要だった。
「この遠市は俺の物だからチョッカイ出すな!」
そう宣言しているのだ。
更には自らの上着の紋章を乱暴に引きちぎって強引に俺に手渡した。
この老人なりの借用書のつもりらしい。
壇上に他のお調子者が上って来て、バーゼル卿と凄まじい口論を繰り広げている。
《独り占めするな》的な抗議なのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「猊下…
これは凄い事ですよ!!」
『孝文さん。
何度も同じ指摘をして申し訳ないのですが。
まずは状況を翻訳して下さい。』
「これはこれは申し訳ありません!
えっとですね。
まずバーゼル卿が明日中に1億6500ポンドを納金する宣言をしました。」
『そもそも論として日本国内にそんなにポンド札が存在するんですか?』
「いやいや! 天下のバーゼル卿ですよ!?」
…だから、そいつは何者なんだよ。
『まあ、いいんじゃないですか。
後は作業で支払うだけなので。』
「ここからなんです!
ウッドランド卿がバーゼル卿の独占宣言に怒り心頭で、日利0.5%を提案しております。」
『?』
「ああ、つまり。
自分は日利0.5%で構わないので、一枚噛ませて欲しいという意味です。
明日3億3000万ポンドを持参させて欲しい、とのことです。」
『えっと。』
「天下のウッドランド家ですよ!?
それくらいは普通に工面できるに決まってるじゃないですか!」
まあな。
今時、あんなカイゼル髭を生やしているからには相当な人物なのだろう。
『ウッドランド卿にお伝え下さい。
私は平等に人を扱うタイプなので、1%で構わないと。』
話の流れがイマイチ理解出来ないのだが、何故か俺の周囲に人垣が出来てしまう。
孝文が必死に連絡先交換を行う。
俺は疲れたのでソファに掛けさせて貰う。
相変わらず通訳は支給されない。
何故かカミーラ嬢が俺の隣に陣取ってしまったが、面倒なので気付かないことにする。
グランツ(英)に至っては俺の後方で腕組みしながら嬉しそうにずっと頷いている。
ツッコむ気力はとうに失せている。
「何故だ!! 何故勝てない!!!」
膝を付き、床に拳を叩きつける天空院。
他の4人も思い思いのポージングで悔しさを表現している。
オマエらが楽しそうなのが内心ちょっと羨ましい。
「それでも守りたい世界があるんだぁーーー!!!」
その台詞、汎用性が高くていいよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
会場内のあちこちから「Toichi Scheme」という単語が響いて来る。
どうやらポンジスキームの対義語として「トイチ・スキーム」なる概念が誕生したらしい。
カインさん、ダグラスさん申し訳ありません。
《ニコニコ金融スキーム》という呼称は却下されたようです。
『孝文さん。
今日は理想郷ファンドのお披露目じゃなかったんですか?』
「何を仰います?
今日はコンペと言ったじゃないですか!」
『…少なくとも途中までは聞かされてませんでしたが。』
「結論から申し上げます!
猊下に軍配が上がりました!」
『あ、はい。』
「西側秩序の構築は理想郷ファンドではなく、異世界ファンドが主軸となることでしょう!!」
『正気ですか、貴国?』
「さあ猊下!!!
勝利宣言を!!」
『え? 勝利?
何の?』
「ウクライナ支援ですよ!
猊下のスキームこそが最善であるとこの場に居る全員が認めたのです!」
『それって単に理想郷ファンドが貴国内でも不評だっただけなのでは?』
『さあ猊下!!
感動のスピーチを!!!』
『どうせ孝文さんが捻じ曲げて翻訳する癖に。』
「えへへ。」
長く不毛な一日だった。
時計を見ると、もう日付が変わり始めている。
俺がシンデレラなら大西のアルファードに飛び乗っている所である。
『あー、約束通り利息は払います。
そんなに驚かれても困りますよ。
たかが日利1%でしょ?
別に使い道はゴチャゴチャ言いません。
ウクライナを支援したいなら、それでいいんじゃないですか?
勝てるといいですね、知らんけど。』
孝文が誇らしく拳を振るいながら演説を翻訳している。
会場に鳴り響く聴衆の歓声を聞く限り、嘘と誇張で塗り固めた虚訳を繰り広げていることは想像に難くない。
最後にグランツ(英)がズカズカと近づいて来て、満面のドヤ顔で俺の腕を高々と掲げた。
どうやらこの男の中では、一貫して俺達は盟友らしい。
その証拠に輝く瞳に一切の迷いが無い。
あまりのアホらしさに思わずため息を吐く。
会場に神々しいBGMが鳴り響いた。
パイプオルガンの後ろでコーラス隊が「アー♪ アー♪」と合掌している。
唇を固く結んで時間が過ぎるのを待つ。
1秒でも早く仲間の下に帰りたい。
不意にBGMが止み、また英語のアナウンスが会場に流れる。
何か重要な告知なのだろうか。
聴衆は目を見開いて私語を止めてしまった。
異常な沈黙が場を支配する。
翻訳をお願いしたいが、孝文も呆然とした表情で大使館内の大階段を凝視している。
誰も何も発しない。
気が付けば、全員が大階段を凝視していた。
何だ?
何が起こっている。
大使が晩餐会から帰還したのか?
不意に手を叩く音が聞こえる。
パチ、パチ、パチと力強く手を叩く音だ。
数秒考えてから、それが拍手であると気付く。
沈黙の会場に乾いた拍手の音だけが鳴り響いた。
拍手の主は、手を鳴らしながらゆっくりと大階段を降りて来る。
会場の全員が息を漏らす。
仕方あるまい、この男がここに居るとは誰も想像もしていなかったのだから。
まさか、こんなビッグネームが来ていたとは。
世事に疎い俺ですら、この男の顔は知っていた。
ウォロディミル・オレクサンドロヴィチ…
ゼレンスキー。
画面の中で何度も見た男。
世界戦争の最前線で戦う国家元首。
《何故?》と脳裏に浮かべてから、それが愚問であると気付く。
これはウクライナ支援パーティーなのだ。
しかも開戦当初から一貫して対露姿勢を崩していない英国の大使館でのパーティーである。
もしもゼレンスキーが来日していたとすれば、何を置いても駆け付けたい場面に違いない。
「Ви, за чутками, Тойчі Рін?
Я хотів зустрітися з тобою.」
ゼレンスキーは真っ直ぐに俺を見据えている。
冷たい目線で俺を捉えながら拍手を続け、そして手を止めた。
だが拍手の音は鳴りやまない。
ゼレンスキーに続いてもう1人が拍手をしながら降りて来たからだ。
『…馬鹿な!
ありえない!!』
「Уряди України та Японії офіційно визнають
їхній шлюб і щиро вітають їх..」
「ウクライナ及び日本政府は
両名の婚姻を正式に承認し真摯に祝福する。」
『どうして!? どうして!?』
「Наречений Рін Тоічі」
「新郎・遠市厘。」
『何故、オマエがっ!』
「наречена!」
「新婦!」
『何故オマエがここに居る!』
心臓を鷲掴みにされるような絶対的な恐怖。
必死で忘れようとしてた忌々しい記憶の数々。
「Хільда Коллінз!!」
「ヒルダ・コリンズ!!」
『ヒルダ!!!』
大階段の上から現れたのは紛れもなく俺の養母・ヒルダであった。
当然の様な顔でゼレンスキーの隣に立ち、いつもの笑顔で俺を見下している。
背後には揃いのジャケットを着た関羽・弓長・佐々木・渋川と他数名の新キャラが横一線に整列している。
その後も次々に階段を降りて来るガイジン達。
周囲の反応からして英国大使もあの中に居るのだろう。
反対側の階段からは各国の武官が足音1つ立てずに降りて来る。
多国籍軍。
当然、陸海空自衛隊の制服も混じっている。
その全員の軍服は勲章で埋め尽くされていた。
間違いない、各国の要人と軍首脳がこの上で会談を行っていたのだ。
何の?と聞く方がどうかしている、ウクライナ戦争に決まっているじゃないか。
そして再びアナウンスが流れる。
「The NATO is extremely pleased to have been able to witness this blessed marriage on the long-awaited day of Japan's accession.
We pledge to stand as witnesses to this marriage, a symbol of the alliance between our two countries, and to record it in history.」
「北大西洋条約機構は、待望の日本加盟の日に祝福すべき婚姻に立ち会えた幸運を極めて嬉しく思う。
日本・ウクライナ両国の同盟の象徴たるこの婚姻の証人として永遠に歴史に語り継ぐことを宣誓する。」
ゼレンスキーが群衆を掻き分けて、ゆっくりと俺に歩み寄った。
画面で見ているよりガタイがいい。
何より、その冷徹な瞳が強く印象に残った。
「Вітаю」
俺を見据えながら、一言呟く。
その呟きに呼応するように会場が激震した。
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
「Congratulations!!」
この日、俺は全てを奪われた。
【遠市厘争奪戦 地球ステージ 「完全決着」】
〇ヒルダ・コリンズ (元宿泊業経営)
VS
●有象無象
※決まり手 北大西洋条約機構
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【名前】
ヒルダ・コリンズ
【年齢】
29歳 (ウクライナ政府公認♪)
【職業】
専業主婦
【国籍】
ウクライナ
日本国
【略歴】
ウクライナ・ルハーンシク州出身。
キエフ・モヒーラ・アカデミー国立大学経済学部卒業。
食品加工業者の父・アルチョムと元ピアニストのガリナの長女として誕生。
25歳の時にオンラインゲームでの出逢いを切っ掛けに日本人・遠市厘と長距離恋愛。
オンライン通話を通じて、両家から結婚を祝福される。
来日中にロシア軍によるウクライナ侵攻が発生。
両親が殺害された上に、戸籍が焼失してしまう悲劇に見舞われる。
婚約者・遠市厘が集団失踪事件に巻き込まれた際も節婦としてよく家庭を守った。
経済・福祉の勉強会である胡桃の会(現 胡桃倶楽部)を創設し、各種ボランティアに携わる。
在日ウクライナ愛国婦人会の会長として、日宇両国の親善に大いに貢献している。
【家族構成】
夫 遠市厘
父 アルチョム・コリンズ (ロシア軍の侵攻により死亡)
母 ガリナ・コリンズ (ロシア軍の侵攻により死亡)
仲人 日本政府
ウクライナ政府
証人 北大西洋条約機構
【賞歴】
ウクライナ英雄勲章
旭日大綬章
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 高い
《HP》 無尽蔵
《MP》 多い
《力》 とても強い
《速度》 神速
《器用》 不器用人生
《魔力》 昼夜無双
《知性》 奸佞邪智
《精神》 漆黒
《幸運》 麻雀漫画のラスボス
《経験》 豊富♥
【スキル】
「ないしょ♥」
※王都婦人はスキルの話題をしない。
強力過ぎた時に配偶者の面子を潰してしまうからである。
【特技】
「ショートスリーパー」
※1日30分程の睡眠で体力・気力が全回複
「女の勘」
※配偶者の浮気を初動以前の段階で察知可能。
【所持金】
財産は全て旦那様との共同管理♥
【所持品】
遠市厘