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【降臨54日目】 所持金4460億4680万0000円 「俺は君達に罰だけを授けよう。」

起床前から強い違和感を感じていた。

目を覚まして30分程経過してから、光戦士を人質に出した事を思い出して嘆息する。


挿絵(By みてみん)


参ったな。

泉下の金本光宙に合わせる顔がない。


ふと、クラス転移の件を忘れていた自分に気付く。

級友との別離からもう半年か。

元々親しい訳ではなかった所為もあり、皆の顔や名前を思い出せなくなっている。

薄情なんだろうな、俺。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『支度が整い次第、名古屋に向かいます。

清麿さんと合流出来たら、そのまま関東へ立ちたいです。』



画面の中の飯田の表情は硬い。

良く言えば精悍、悪く言えば消耗し切っている。

アウェイの名古屋に放り出されて孤軍奮闘させられているのだからやむを得ない。

うっかり俺が《秘書》の肩書を与えてしまった事により、彼はまさしく政治家の秘書の様なストレスフルな日常を過ごす事になってしまった。

最初出逢った時の陽気さは、飯田の中からすっかり削ぎ落とされていた。



「リン君、申し訳ない。

こっちの連中が挨拶だけでもと願っているんだ。

顔を立ててあげてくれない?」



『うーん。

気を遣った方がいいですか?』



「こっちの人はリン君に冷遇されてると思ってる。」



『え!?

冷遇ですか!?』



「窓口に俺と毛受さんしかいないからね。

中京勢に全然ケアしきれてないんだ。

なのに、大阪の坊門総業が君との関係を誇示するようなTweetを連発するから…

《名古屋飛ばしだ!》って騒ぎ始めてる。」



『あー、すみません。

清麿さんに負担が行っちゃいましたね。』



「俺はいいんだよ。

好きでやってる事だから。」



『本音を述べておきますね。

今の私は国際規模の資本家です。

そして出国の意図がないので、首都東京以外に拠点の定めようがありません。』



飯田に英国大使館の一件を再度掘り下げて語る。

異世界から帰還して、まだ2か月にも満たないのだが、やはり国家が出て来た。

経験上、ここからの展開は洒落にならないほど早い。

なので地方自治体への気遣いが非常に困難になる。

弁解する訳ではないが、ここまで地球が不景気だとは思わなかったのだ。

たかが数千億の小銭の段階で粘着されるとは想定外であった。



『その坊門総業は会長が俺の野営に同行しております。老齢にも関わらず、四国まで付いて来てくれました。

それが彼を他社とは別格に扱っている理由です。

無論、人間的な相性もあるので、誰でも彼でも同行はしません。

ただ、坊門会長は《この老人とは相性が良い》と私が錯覚させられる位に努力してくれております。』



「そうだよね。

もはや、《リン君に100%迎合するかしないか》、の段階まで来ている。

ただ、距離もあってこちらの人はそれを理解出来ていないんだ。

名古屋城BBQから、まだ2週間しか経過してないからね。

あの頃のイメージで固定されてる。」



『なるほど。

確かにあれから時は経っておりませんね。


ただ、清磨さんもご存知の通り…

現時点の私の価値って急騰中なんですよ。

なので今、値付けする意味はありません。

正直、感度の高い方にしか分からないと思うので…』



「そうだね。

鈍感な人間にリソースを割くのは、君にとってデメリットが大き過ぎる。」



『ですが、それでは納得出来ないでしょうから、突発で今日名古屋イベントを開きます。』



「え!?

ああ、わかった。

すぐに地元の財界と調整して…」



『池田公園でやらせて貰えませんか?』



「え? 女子大通りの?」



『はい、前にドン横の話を聞いたじゃないですか?

界隈民が池田公園に流れたって。』



新宿歌舞伎町に《東横》があるように、名古屋栄にも《ドン横》がある。

ドン・キホーテの横に界隈民が溜まっていたのだ。

ただ取り締まりが厳しくなったので、池田公園なるホストクラブ地帯に人が流れた、と。



『そこで突発オフをやります。』



「ふうむ。

それ、戦略なんだよね?」



『はい、リクエストには極力耳を傾けますが、その声に合わせる事はありません。

公園で私は地べたに座って神聖教団の新スイーツを配布します。』



「…その心は?」



『私は足を止めない。

伴走出来る者の挨拶だけを受けます。』



「…GOOD。

君の勝利はより鮮明になるだろう。」



『フルメンバーで行きます。

私が直接全員と話せるとは思いませんが、連絡先交換くらいはしますよ。

後、イベントは鳥取式で開催する、とだけSNSで呟いておいて下さい。

18時開催21時撤収、そのまま関東に向かいます。

停車地の選定は安宅チームに一任します。』



「OK、スケジュールは俺と寺之庄君で調整しておく。」



リモートにも慣れた。

独断が増えた。

俺以上に皆がそれを望み始めているからだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【遠市キャラバン】  名古屋行きチーム


遠市厘     (オーナー)


後藤響     (相談役・護衛)

寺之庄煕規   (相談役・予備運転手)

坊門万太郎   (出資者)

堀内堅造    (護衛)

堀内信彦    (護衛)

浦上衛     (イベントコンサル)

国重辰馬    (報道担当)

石賀一博    (執事)

小牧晃     (防諜顧問)

大西竜志    (運転手)

伊地知義和   (運搬担当)

沢下球児    (運搬担当)


宇田川政則   (車両担当)  ※大阪出発時に合流

松永謙一郎   (運搬担当)  ※名古屋市で合流

宮田大輝    (車両担当)  ※名古屋市で合流

遠藤恭平    (相談役)   ※名古屋市で合流



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



箕面を出発前に全員で円陣を組み、簡潔に自己紹介。

初顔合わせの者も居れば、会話したことの無い者同士も居る。

俺は1人1人を皆に紹介しながら、チーム内でのポジションを共有する。


例えば以下の様に。

《後藤響には護衛機能を期待している。》

《小牧晃には警察・公安との折衝を任せる。》

《国重一馬はマスコミとのクッション役。》

などといった具合にだ。


最後に改めて、仲間に対して俺の自己紹介。



『私の名前は遠市厘。

先々月に異世界から帰還して参りました。

現地では政治指導者である魔王職と宗教指導者である神聖教団大主教を兼任しておりました。

特技はカネを増やす事です。

それ以外には何の取り得もありません。

異世界で重症を負い、未だ歩行障害が残っております。

地球に帰って来た目的は、全ての人が豊かに暮らせる世界を構築する為です。

理想を皆さんに無理強いするつもりはありません。

ですので退職はいつでも認めます。

戦闘中の逐電にもペナルティを課しません。

退職慰労金は5億円。

即金で払いますが、インフレへのケアが出来かねることだけは御承知下さい。』



俺が異世界帰りである事をよく知らない者も居た。

新参の石賀などは俺がカネに困っていない事すら分かっていなかった。

大西に至ってはインフレの概念を知らなかった。

まあ組織なんてそんなものだろう。



原則的に俺の乗騎はアルファードで固定。

その後部座席に代わる代わるに人を招いて打ち合わせをしながら東進する事に決めた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【移動時間だるい】 暇つぶしじゃないよー!! [雑談]


※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます



「ニャンニャニャーン♪

夜猫@の百合猫営業担当!

仰げば尊と恩師ッ!

奈々ちゃんでーーす!!!

ファンの皆様、チン凸すんなボケー♪」



「うぃーっス。」



「もっと、やる気出せニャ!!」



「奈々は歳の割に元気だよなー。」



「じゅうニャニャしゃい!!」



「ウ↑チ↓がBBAになった時、こんな風に図々しく振舞えるのだろうか?」



「しみじみ言うニャーー!!!」



「はい、視聴者の皆様どうもー。

ルナルナですー。

AV女優だけど処女でーす。

盃貰えてないんでカタギでーす。

告知もしてない突発配信なのに同接1000人越えありがとうね。


今ねー、スポンサーのホテル風林火山様で撮影仕事を終えた帰りなんだわ。

うん、山梨のエロコンパニオン遊びの旅館ね。

それでコンパニオンさん達と4時間ほどかな、フルに走り回って素材撮影。

結構、疲れた。

寝っ転がった姿勢で配信しちゃってゴメンねー。


ねえ、奈々。

オンエアって甲州放送さんだった?」



「そうニャ。

来月、甲州放送で深夜特番。

首都圏の深夜CM枠が安いタイミングを見て、今日収録のCMを流すそうニャ」



「たかだが30秒のCM作るのも大仕事なんだな。

勉強になったよ。」



「さあ、お姉様!

ここでホテル風林火山さんの宣伝ニャ♪」



「マジかー。

今日20回リテイクさせられたの、結構トラウマなんだけどな。


…まあ、いいや。

はいっ! ルナルナ歌います!」



「奈々ちゃんもハモるニャーー!!」




「「シャッチョサン♪ シャッチョサン♪ センセにセンセ♥

ここらで経費使っときましょ♪

税理士さんもご一緒に♪

福利厚生接待費♪ 名目なんでもいいじゃない♥


温泉遊びは山梨・石和温泉!

石和いいとこ、一度はおいでよ❤


シャッチョサン♪ シャッチョサン♪ センセにセンセ♥

綺麗所はどこですか?

ドコドコ風林火山♥

ブラジャーパンティー ネグリジェシミーズ♥


温泉遊びは山梨・石和温泉!

風林火山で、ジャンジャカホイホイ♥」」




「はいどうもー、ご清聴ありがとうございました。


この曲をねー、ダンス込みでひたすらリテイクするんですわ。

ウ↑チ↓もねー、かなりタフな方だとは思うんスけど…

コンパニオンさんをお姫様だっこしながら、走り回って歌うとねー。

流石にバテましたわ。」



「アレは酷かったニャ。

幾らギャラがいいとは言え酷使ニャ。

お姉様もよく我慢したニャ。」



「まあねえ。

スタッフも増えたし…

外注費も嵩んでるからねえ。

振られた案件は大事にしたいね。」



「ああ、確かに。

燃料費も随分上がったニャ。」



「ゲンさーん。

今のガソリン代ってヤバいんスか?」



  「そうですねー。

  リッター192円はかなりキツイです。

  月内に200円突破もあり得るって噂ですからね。

  零細の運送屋さんは…

  生活出来ないんじゃないですかね。」

 


「やっぱり戦争の所為ッスか?」



  「ウクライナ戦争による高騰。

  それにOPECがぶつけて来ました。

  日本なんかまだマシな方ですよ?

  欧州、特にイギリスは悲惨らしいですね。」



「へー。

わー国はマシなんスか?」



「本当ニャ。

その証拠にホテル風林火山は大盛況だったニャ。」



「ああ、確かに。

本当に末期だったら、エロコンパニオン遊びは出来ないわな。」



「今日はどうするニャ?

疲れてるなら夜の配信中止するニャ?」



「うーーーん。

いや、大丈夫。

ただ来週のイベントまで喉を温存したいから、今夜の歌はナシでいい?」



「志倉にでも歌わせておくニャ。」



「アイツもアタシコ欲に溺れたよなー。」



  「えー♥ 溺れてないですよぉ♥」



「うわあ、カメラに映りたそうな顔してるニャ。

声も媚びまくってるし。」



  「も-♥ やだー♥」



「じゃあ、志倉ぁ。

ウ↑チ↓が戦線離脱したら、オマエがレギュラー昇格な。」



  「はーい♥」



「何? 離脱するニャ?」



「ウ↑チ↓も忙しいんだよ。

そもそも人妻だし。

組の方にも顔出しておきたいしな。」



「トイチにそんな価値ねーww」



「価値があろうがなかろうが。

嫁って言うのは旦那に尽くすのが仕事なの。」



「お姉様ってガチでヤクザ向きの逸材だニャ。」



「…奈々は結婚とかしない訳?」



「現状、お姉様の嫁ニャ♥」



「え? そうなんだ。」



「Wikipediaにはそう書いてあったニャ。」



「嘘ぉ!?」



「ほら、奈々ちゃんの概要欄。」



「うおっ! ホントだ!

《鷹見夜色のパートナー》って表記されとる!!


なあ、オマエはそれでいいわけ?」



「嫌なら既にフェイドアウトしてるニャ。

と言うより、お姉様より強くて有益な相手が居たら即座に乗り換えるニャ♥」



「おお、健全!」



「手のひらクルクルくるりんぱ♥

大麻スパスパ、脳味噌健常者ニャ♥」



「なあ…

やっぱり大麻って有害なんじゃね?」



「奈々ちゃんの顔を見ながら言うニャーーー!!!」



「いやあ、教師やってた頃の奈々って

もうちょっと知能あったぞ?

ウ↑チ↓の中で《賢い大人枠》に入ってた。」



「今は何枠ニャ?」



「いや、ダーリン様と同じ枠に入れてるけど。」



「や゛め゛ろ゛ォ↑---!!!

マジでその枠やめろニャー!!!!!」



「えー、そんなにダーリン様は駄目かぁ?」



「せめて健常者の枠に入れろニャ。」



「あの人はギリ健入ってるからいいじゃん。」



「アイツのどこがギリなんだニャ!?」



「え? 確かにガイジ枠だけど。

顔の割にそこそこ健常寄りじゃね?」



「いやいや、アイツのどこに健常要素があるニャ。

奈々ちゃんの教師人生の中で最低の糞ガイジだったニャ。」



「えー、1個上の学年に竹田クンって居たじゃん?

あの人の方がガイジ度高かったと思わない?」



「竹田は中退した後、近所の珉珉でバイトを始めて

今じゃバイトリーダーっぽいポジションだニャ。」



「へー、あの人の知能でリーダーなんて務まるんだ。」



「言っとくけど竹田以下がトイチだニャ。」



「いやいやいや!

竹田クンよりはダーリン様の方が上でしょ!」



「…恋は盲目ニャ。


まあ、少なくとも本職の教師として人間偏差値を付けると…

竹田39、トイチ35が妥当ニャ。」



「えー、その評価は納得できないなあ。

前から思ってたけど、奈々ってダーリン様に当たりがキツ過ぎない?」



「異論は勿論認めるニャ。

ただ教壇からしか見えない光景があるニャ。

教師は生徒の社会性が俯瞰で見えてしまうものだニャ。」



「ダーリン様って、そんなに社会性ないか?

ウ↑チ↓よりはマシでしょ?」



「お姉様は社会性ある方。

トイチはウンコ以下。」



「うーーーん。

否定出来ないのが辛いな。


何? また別れろって話?」



「アイツ、カネは持ってるみたいだから。

慰謝料貰ってから別れろニャ。

確か2億くらい持ってる筈だニャ。」



「配信で金額ゆーなっってww」



「ゴメンニャーwww」



「ただでさえ、ダーリン様にはタカリ野郎が寄って来てるんだよ。

ほら、LGBT団体とかそういう活動家系。

2億も持ってるなんてバレたら、際限なく粘着して来るぞ。」



「アイツはホモだから、うっかりカネを出しそうで怖いニャ。

《生徒のカネは恩師のカネ、恩師のカネは恩師のカネ》

そういう真理をアイツはまだ理解出来ていないニャ。」



「LGBT団体は無条件でブロックしてるからいいんだけど。

自称ダーリン様の知り合いが増え過ぎてるんだよ。」



「ああ、宝くじに当たったら親戚が増える理論ニャ。」



「ほら、あの人スマホ持ってないじゃん。

連絡が全部ウ↑チ↓に来るんだよ。

本当に知り合いだったらマズいからさ、一応話は聞いてやってるけど。

あからさまなタカリ野郎も居てムカつくんだよ。」



「トイチにタカっていいのは恩師ちゃんだけニャー!!!!

もう全部ブロックしニャよ。」



「一応、テストはしてるんだよ。

《遠市本人しか知り得ない情報を先に出せ》

って具合にさ。」



「で? 知り合いは居たニャ?」



「それっぽい人は1人だけいたけど、ガイジンだしなー。

なあ、奈々。

高校時代のダーリン様にガイジンの知り合いとか居ないよな?」



「英語講師のジョーンズさんとかニャ?

ちなみにあの人、飲み屋でホステス殴って強制送還されたニャ。」



「いや、ダグラスさんの友達を称するエドワードさん。

《遠市氏に伝えてくれれば分かる》

の一点張りでさ。

そもそもダグラスって誰だよって話だよな。」



「うーーーん。

奈々ちゃんの観測範囲には居ないニャ。

次にトイチに会った時に伝えればよくニャい?」



「いつ会えるんスかね?」



「明後日こっちに帰ってくるんでしょ?」



「あの人のスケジュールってこの世で最も信用ならんからなー。」



「奴は住所不定無職だから仕方ないニャ。」



「まあ、住所不定に関してはウ↑チ↓も似たようなものだから強くは言えんが。」



「ロケバス睡眠はお肌の敵だとは分かりつつもやめられないニャ。」



「そうなんだよー。

ロケ車とゲンさんさえ居れば、大抵のことは出来ちゃうからなあ。」



「ゲンさんは竿役としては賞味期限切れなのが惜しいニャ。」



  「一応、まだ現役でーす。」



「あははは、こりゃまた失礼しニャしたww」



「あ、思い出した。

新潟からお礼メール来てたわ。」



「ニャ?」



「ほら、社会保険長文。」



「ああ、そんな奴いたニャ。」



「ダーリン様に転送したらマジな返信が来たんだってさ。」



「どーでもいいけど、へー。」



「なんかねー、文面難しくてよくわかんなかったんだけど。

《税の累進性をサイテーギして、労働者の可処分所得を増やす》

ってダーリン様が約束したらしいよ。


ね? たまに健常化するでしょ、あの人。」



「…それ、奈々ちゃんが授業で言った事だニャ。」



「あ、そうなんだ。」



「って言うか、アイツがドヤ顔で語ってる事って、全部奈々ちゃんの授業の受け売りニャ。」



「へー、あの人らしいわww


でもさ? 少なくともダーリン様は奈々の授業を理解するだけの知能があるって事でしょ?

少しは褒めてやりなよ。」



「…鷹見さん。

公教育が福祉である以上、授業には学年全員が理解出来る難易度である事が求められます。」



「あ、はい。

そうッスね。」



「なのであの学年への授業は、一番低能なトイチに合わせた難易度で行ってたニャー!!!」



「おお、今明かされる衝撃の真実。

ってか、奈々の授業って分かり易ったからな。」



「そりゃあ、トイチでも理解出来るように噛み砕いて教えてたから小学生でも理解出来るニャ…

あのド低能に合わせて高校社会科を教える事がどれだけ苦痛だったか!

何度学年主任に苦情入れたか分からんニャ!!!」



「あっはっはwww」



「笑い事じゃねーーーニャ!!!


…兎に角。

アイツはアホの分際で真面目だから、社会に対しての知識・常識は全て奈々ちゃんの受け売りだニャ。」



「へー、結構奈々の影響受けてるんだ。」



「えっとねえ、今だから言えるけど。

アンタらの学年には特に保守寄りのバイアスを掛けた授業をしてた。

特にトイチに関してはあれ以上左傾化させないようには気を遣ったニャ。」



「へー、教師ってそんな事まで考えるんだ。

結構、大変なんだね。」



「最近は生徒が異常事件起こしたら担任の責任が問われるニャ。

トイチは絶対やらかすタイプだから、死ぬほど気を遣ったニャ。」



「えー、ダーリン様は穏健派じゃん。」



「だーかーらー!

それは奈々ちゃんの努力の賜物ニャの!!

あのキチガイの価値感を少しでも穏健な方向に持ってく為に死ぬほど苦労したニャ。」



「ほえー、たかが学校の授業にも色々あるんだなー。」



「そうニャ!

こんな風に配信じゃ言えないような、裏事情だらけニャ!」



「あれ?

今って配信中じゃなかったっけ?」



  「カメラ回ってますよーーー!!!!」



「ニャ!?」



「あ、ゴメン。

疲れてて忘れてた。

頭が回ってない時に限ってカメラ回ってるよなww」



「奈々ちゃんも忘れてたニャ。」



「結構、話題がヤバい方向に行ってたよな。」



「まあいいニャ。

毀損されたのはトイチの評判だけニャ。」



「奈々の教員免許もヤバいかもなw」



「ニャ!?」



「生徒にガイの者とか言うなよw」



「だって本当のことニャw」



「「ギャハハハハハwww」」



「…三橋ィ。

今回の配信はアーカイブから消しておけニャ。」



  「あ、はい。」



【この配信は終了しました】



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



名古屋ICを降りた足でそのまま毛受翁の自宅を訪れた俺は飯田と再会。

固く抱き合って互いの無事を祝った。



「リン君、改めてお疲れ様。」



『清磨さんこそ、お疲れ様です。

大変な仕事を押し付けてしまいました。』



「本当だよ。

大阪以西は行かないとか言ってたのにww

四国とか山陰とかww」



『アレは成り行きなんですよーw

流石の私も山伏バトルは予想してませんでしたしw』



「ねえ、1つお願いなんだけど。」



『あ、はい。』



「またパーティーメンバーに戻してよ。

君の側に居たい。」



『ええ、是非!!

私、清磨さんに貧乏籤引かせてしまったって…

ずっと後悔していたので。』



「絶対、リン君の側の方が面白いに決まってるからね。

名古屋の連中も預けたがってるけど…

東京に持って来させればいいでしょ?

大阪でも倉庫借りたんだって?」



『ええ、10兆くらいは入る筈です。』



「じゃあ、そっちに持って行かせよう。」



『名古屋でも倉庫とかキープしたって聞きましたけど。

どうします?』



「アレも《中京地域を軽視してませんよ》ってポーズだから。

インターから近い以外の利点はないよ?

名義は毛受さんのお父様。」



毛受翁の父親は先年97歳で大往生を遂げたそうだが、多忙にかまけて不動産の相続手続きをまだ終えられてないらしい。

その宙ぶらりんの倉庫を俺達が使えるように毛受翁が手を入れてくれたらしい。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


3422億2765万0000円

  ↓

3421億2765万0000円



※毛受秀允に倉庫使用料として1億円を支払い



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あの倉庫にも何か入れておく?」



『うーーん。

じゃあ、予定とは変わりますが…

今日の恩寵は熱田区のレンタル倉庫ではなく、そこでやりましょう。

なるべく毛受さんの顔を立てたいですし。

車に積み切れなかったら、端数は置いていきます。』



毛受夫妻と共に郊外の倉庫に向かう。

(昔は穀物会社にリースして結構儲けていたらしい。)

小ぶりだが、高い塀に囲まれてる作りは気に入った。



恩寵まで時間があったが、倉庫内に閉じ籠る事に決める。

《池田公園突発オフ会》の準備は皆に任せる。



「迂闊に表をウロウロしない方が良い」



との皆の助言は恐らく正しいので素直に従う。

俺は寺之庄のスマホに入った連絡に回答するだけ。


恐らく俺の周囲に組織が生まれ始めているのだろう。

これまでは判断を迫られる場面が増えただけだったが、最近では判断基準を定める事を求められる。

特に俺への面会希望者をどう断るか、そこに尽きる。

イベントに来てくれる分には構わないのだが、1対1での面会と写真撮影を望む者が異常に多いのだ。

気持ちは理解出来なくもないが、この段階ではもう無理だ。

俺も文字通り身動きが難しくなりつつある。



「リン君が池田公園でイベント開くって発表したからさあ。

みんな迷ってるみたいだよ。

本当に地べたに座って応対するの?」



『まあ、段ボール位はお尻に敷きますけど。

基本は地面に座りますね。』



「…そうか、君は来場者同士を相対化させたいんだ。」



『ええ。

清磨さんから見せて貰ったメッセージ。

地主や議員で《自分は特別扱いされて当然だ》みたいな文面の人が多かったので。

それに対する私なりの答えです。』



俺の父親は社会から冷遇され続けて早死にした。

毎日懸命に重労働に勤しみ、悪徳とは無縁だったにも関わらずである。

貧民として生まれ、貧民として死んだ。

そんな親の背を見て育った俺が、父親と真逆の人種に好意を持つのは難しい。


ポール・ポールソンは怠惰なボンボンだったが人間性は謙虚だった。

坊門万太郎は傲岸な成金だが、若者を楽しませる事に極めて積極的だった。

飯田が見せてくれた《自分は特別扱いされて当然だ》メールからはそういう可愛気を全く感じない。

文面の段階で面白味のなさが伝わって来ているのだ。

それでいて押し付けがましい。

マンツーマンで時間を割かせる事を前提にしている者に割く時間はない。

以上。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



さて、今日と言う今日こそは斑鳩一族の増額を許さない。



「後、150億だけでいいんで増資させて下さいぃ。」



モニター越しに訴えかける斑鳩に《NO》と回答して、昨日と同額の4200億なら預かる旨を伝える。

数分の押し問答の末に預かり金の総額4200億で納得させた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


3421億2765万0000円

  ↓

7621億2765万0000円



※合計4200億円の預託を許可



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「じゃあトラックを毎日猊下の為に横付けしますぅ!

直ちにコンボイ軍団を編成しますぅ!!」



あまりにしつこく斑鳩が食い下がるので、こちらも根負けして増額を許可してしまう。



『但し! 

独り占めは駄目ですよ!

他の預金希望者が居たら、その人の分の分配・運搬も負担してあげて下さい!

後、総預金額が整数になるように調整して下さい。

斑鳩会長がちゃんと配分してるか抜き打ちチェックしますからね!』



強い言葉を使ったが、そういう面での不正を斑鳩が苦手な事は知っている。

良くも悪くもあの老人は、顔の見える相手と揉める事が出来ないのだ。

(代わりに相手の存在しないペーパー不正は幾らでもやってしまう。)

田名部にも厳重な監視をお願いし、そして関西に置き去りにしてしまった事を詫びる。



『田名部さん。

近いうちに拠点・倉庫は1カ所に固めます。

その日まで我慢して貰っていいですか?

雑用ばかりさせて申し訳ありません!』



「いえいえ!

現状、猊下の富の大半がこちらに集まってますので、雑用とは思っておりません!

緊張感を持って取り組みます!」



『おカネもそうですけど…

田名部さんには他の形でも埋め合わせさせて下さい。』



「え?

別の形と申しますと?」



『一番ヤバい地獄に連れて行くとか…』



「あははははは!

お気遣い恐縮です!

是非、地獄にお供させて下さい!!」



田名部淳。

大阪のコンサル。

俺と出逢った日に妻子を捨てた。

彼の希望は刺激的な人生を送る事。

つまり俺を間近で見たがっている。

なので、こちらとしても報いてやりたいと思い続けているのだが、彼が関西の土地勘に強い事もあり、ついつい大阪係を押し付けてしまいがちであるのだ。

一緒に四国を回ってた時とか嬉しそうにしていたもんなぁ。



皆が倉庫内での射出に向け、様々な準備をしてくれている。

坊門が大型のバキューム装置を搬入させたのを見て、《ああ、ついにこの段階に来ているのだな》と感じて嘆息する。



『遠藤さん、今日非番ですか?』



静岡で会った警官の遠藤が遊びに来たので、隣に座って貰う。



「いや、勤務日なんだけど欠勤させて貰った。

上司にも、正直に話しているんだ。

リン君に会いに行くって。」



『それって怒られたりしないんですか?』



「いや、怒られはしなかったかな。

ほら、署の駐車場が壊れた時、リン君が自分から弁償を申し出たでしょ?

だから西署では君の評判、滅茶苦茶いいんだ。


それと、僕もさ…

上司や職場には正直に辞めたいって伝えてるんだ。

だから、あんまりゴチャゴチャ言われない。


勿論、仕事は真面目にやってるよ。

でも、リン君の手伝いをしたいって気持ちの方が強い。

ゴメン、これってタカリと一緒だよね。

でも、それが正直な感情。」



『私のスキルの話ってしましたか?』



「いや、異世界の話はチラっと聞いたけど。

ラノベとかじゃ、スキルとかは秘密にするじゃん。

だから聞いちゃ駄目なのかなって。」



『私、カネが無限に増えるスキルを持ってるんです。』



「ちょ!

駄目だって!

異世界アニメちゃんと履修してる!?

そういう大事なスキルは他人に知られちゃ駄目なんだって!!」



『そりゃあ、そうなんでしょうけど。

ここまで元金が膨れたら、嫌でも世間は悟りますよ。

なら、正義感の強い遠藤さんに予め自首という形で相談するのがベターでしょ?』



「君は若いのに口が回るよなー。


あのさあ、カネが無限に増えたら…

インフレとかヤバくない?

ちゃんと対策してるの?」



『いやあ、流石に現時点ではインフレ是正までは無理ですよ。

なので今は、インフレ対策が可能な金額まで増やす事に専念します。』



「子供の頃、婆ちゃんが聞かせてくれたなあ。

そういう欲張り長者さんの昔話。」



『長者さんは最後どうなるんですか?』



「細かくは覚えてないけど…

村ごと破滅するとかそんなオチだったと思うよ。」



『うわぁ、自戒します。

あ、ヤバくなったら遠藤さんが私を逮捕して増刷にストップ掛けるアイデアはどうでしょう?』



「うーーーん。

日本の司法って時間が掛かるからねぇ。

判決下る前にインフレ始まっちゃうんじゃない?」



『あ、そろそろカネが湧くんで遠藤さんも回収手伝って頂けませんか?

勿論、日当はお支払います。』



「駄目駄目。

地方公務員法で副業は禁止されてるもの。

善意のボランティアでも、かなり突っつかれるくらいだからね。」



『そうですか。

では、遠藤さんが退職されるまで、こちらで積み立てるというのは?』



「えー?

それは利益供与に該当するんじゃないかな?

僕はその話には乗れないかな。」



『お巡りさんって結構厳しいんですね。』



「まあ、権限の強い仕事だからね。

キツメに制限掛けておかないと、不正や暴走をしちゃうんだよ。」



『確かに、警察は…


あ! すみません!

もうすぐカネが出るんで!!』



「あ、ゴメン。」



『ここだけの話、17時になると自動的に発動するタイプのスキルなんですよ。』



「だーかーらー!

スキルの内容はペラペラ喋っちゃ駄目なんだって!

後で推奨ラノベを買って来るから!

ちゃんと目を通しておきなさい!」



『あ、はい、スミマセン!!』




《PERAPE-RA PERAPERAれました。》




え?

何で英語?



俺が疑問を感じる暇もなく、突然カネが噴き出す。

驚いた遠藤が反射的にバックステップ。

子供の頃から空手とサッカーをやってただけあって、信じ難い程に俊敏である。


遠巻きに俺と遠藤の会話を見守っていたメンバーが新装備のバキュームや送風機を駆使して、札束の洪水から俺を守る。

なるほど、文明の利器を駆使すればまだ死なずに済む段階か。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


7621億2765万0000円

  ↓

8764億4680万0000円

  ↓

4564億4680万0000円

  ↓

4480億4680万0000円

  ↓

4460億4680万0000円



※配当1143億1915万0000円を取得。

※元本4200億円の確認。

※配当用の84億円を別途保管

※本日の同行者に計20億円(退去許可を添えて)を贈呈


小牧晃は国家公務員法を理由に受け取りを拒否。

遠藤恭平は地方公務員法を理由に受け取りを拒否。



500万ポンド

  ↓

575万ポンド


※配当金75万ポンドを取得。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



くっそ!

思い出した、昨日ブリカス共にポンドを押し付けられたんだ。

ああ、それでアナウンス機能に英語が被ったのか…

ヤバい!

俺、ぶっちゃけガイジンやら英語やらが嫌いなんだよな。

(ナーロッパは好きだよ。)

それをこれから毎日聞かされるのか…

しかも、肝心の配当額が聞き取れないし…


勘弁してくれよ。

俺はオマエラと違って忙しいんだよ。

手間を掛けさせないで欲しいんだけどな。



『皆さん! お怪我はありませんか!?』



  「全員無事です! 遠藤巡査も無傷!」



札の向こうから後藤がキビキビと報告してくれた。

うん、雰囲気も落ち着いている。

バキュームが想像以上に機能してるな。



「猊下、新車のバキュームカーも発注中ですんで御安心下さい!

アメリカで実際に使われている過密地帯用のメガバキュームです!」



続いて坊門が叫ぶ。

なるほど、確かにそういう段階だな。

うん、それは助かる。




『遠藤さーん、もう私を逮捕しちゃいますー?』



「うーーーん。

仮にこれが罪だとしても、逮捕には内閣の承認が必要なんじゃないかな?」



『岸田総理に報告して頂いても結構ですよー。』



「えーーー。

総理と直で話すのって意外に難しいよ?

警察庁の長官が事前にアポ取ってからじゃないと、岸田さんとは逢えないんじゃない?」



『でも、前から薄々思ってたんですけど…

これって地味に犯罪じゃないっすか。』



「うーーーん。

金額が金額だからねえ。

さっきのスキルが犯罪かどうかは…

最高裁の判断を仰がざるを得ないんじゃない?

少なくとも、一介の巡査にはコメントする権利がないと思う。」



『じゃあ遠藤さんは何が出来るんですか?』



「いやー、どうだろ?

リン君はこのカネどうしたい?」



『置き場に困ってるんで、警察庁さんか財務省さんが接収してくれないかな、と。』



「えー、どうだろ。

そういう話の流れだと省庁同士の争いになっちゃうからね。

偽札として摘発されたいか、脱税として摘発されたいか、まずは君の意思を尊重したい。」



『いや、以前警視庁さんにチェックをお願いしたんです。

そしたらスキルで出したカネは本物認定されちゃって。』



「本物なら警察は干渉できないよ?

警察業務はあくまで違法性が確認出来る範疇のみね。

財務省に回収を頼みたいなら、納税するか脱税で追徴金を払うかしないと。」



『何とか警察で引き取ってもらえませんかね?』



「うーーーん。

事件性があれば、証拠品として押収は出来るんじゃない?

でも、さっきの噴出を見る限り、所有権は君にあると解釈せざるを得ないしねぇ。

どこかから盗んだ訳でもない。


それにこの金額だと…

仮に違法性を確認出来たとしても、すぐに逮捕状は発行されないんじゃないかな?

多分、結局は岸田さんに判断を仰ぐ形になると思う。」



『総理は何と仰いますかね?』



「いやー、どうだろ?

金額がデカいと選挙にも影響するだろうからねえ。

世論を慎重に注視して、閣内で意見を調整してから決めるんじゃない?

国際社会への根回しも必要だろうし。」



『時間掛かりますかね?』



「掛かるよー。

法的決着って金額に比例するから。」



『逮捕されるまでの間に10垓円くらい溜まっちゃいそうなんですけど。』



「…それは、もう法律じゃなくて哲学の領域だね。

お坊さんとかに相談したら?」



『いやあ、私自身が坊主でして…

教団の規則で、他宗派との私的議論が禁止されているんですよ。

過去に宗教戦争を引き起こした悪例がありますので。』



「じゃあ自己解決しなきゃ。」



『ですよねー。』



「どうしても困ったら…

僕が邪魔なカネを全部焼くよ。」



『え? そんな事したら怒られるんじゃないですか?』



「まあ、確実に懲罰モノだろうね。

実際、破損した時の罰則って硬貨だけで、紙幣破損に対する罰則規定はないんだけどさ。

それでも警察って、そんなに甘い世界じゃないから。

法律で決まってない行動でも厳しく詰められるよ。」



『な、なんか変な話に巻き込んじゃってすみません。』



「いいよ、別に。

僕が怒られるくらいでインフレを防げるんならさ。

喜んで罰を受けるべきなんだよ。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



池田公園。

名古屋栄にある何の変哲もない公園。

問題はこの公園の周囲にホストクラブやライブハウスがひしめいていること。

結果、独特の雰囲気が醸し出されている。


で、俺が到着した頃には既に100人くらいがタムロしており、ダンボールの切れ端に腰を下ろし終わった段階で周辺のライブハウスから大量にバンギャやらバンおぢが駆け付けていた。


周囲が騒然としているので、俺が何を言っても声が届かない。

ただひたすら写真や動画を撮られ続ける。


鳥取での吉例を踏襲出来るかは謎だったが、毛受夫人にお願いして恋辻占を女性参加者に配らせる事が出来ないか試してみて貰う。

30分程、観察するが殆ど行き渡らない。



「あー、これはメルカリで売り飛ばされるパターンだね。」



寺之庄が醒めた声色でそう言った。



『イベント内容は民度に合わせるべきということですね。』



「あー、でもちゃんと配ってる子も居なくはないか…

恋辻占は2000個持参してるから、理論上全員に行き渡る筈なんだけどね。」



『あ、ヒロノリさん。

あっちの方で袋ごとホストに渡してる女が居ました。』



「どうする?

メルカリが恋辻占で溢れかえるよ?」



『まあ、いいんじゃないですか?

告知の一環だと思えば。』



「いや、宣伝にはなってるよ。

ほら、ホストがインスタで上げた画像がプチバズリしてる。」



『夜職はSNS強いですねー。』



「それが彼らの仕事だからねー。

あ、地元の社長さんが挨拶に来てるみたい。

商工会かな?

どうする?」



『まあ、遠目に頭を下げ合うくらいなら。』




  「トイチ猊下ーーー!!!!!!」



『うお。

叫んで来やがった。』



「みんな遠方から来てるからね。

手ぶらじゃ帰れないんでしょ。」



『どもーーーーーーー!!!!

遠市厘で御座いまーーーーーす!!!!!』



  「私は神聖教の信者です!!!  

  熱心な信徒です!!!!!!

  従業員にも改宗を迫ってまーーす!!!

  洗礼を受けさせて下さーーーーーーい!!!!」



『弊教団では布教は禁止でーーーーす!!!!

悔い改めて下さーーーい!!!!』



  「間違った信仰を防止する観点から!

  名刺だけでも渡させて下さーーーい!!!!!」




思わず吹き出してしまう。

俺の負けだ。

世の中は面白いと思わせた方の勝ちなのだ。

仕方なく地元商工会(?)の連中を輪の内側に入れてやる。



「「「カネカネカネカネナンマイダー―――――!!!!」」」




俺の眼前に辿り着いた瞬間、社長連中は題目を叫び出す。

信心からではない。

今日まで一切面会を許されなかった怒りを訴えているのである。



『カネカネカネカネナンマイダー。』



大主教としての社会的責任から、俺も題目を唱える。

そして寺之庄・飯田との名刺交換を許可し、彼らの訴えを聞く。


社長連中はまず《名古屋飛ばし》への苦情を俺に訴えた。

名古屋城BBQを見た彼らは、俺が中京圏に拠点を構えると信じていたらしいのだ。

なのに、イベントが終わるとすぐに西日本回りを始めてしまった。

裏切られたように感じたらしい。

言わんとする事はわからんでもない。



  「ワシは浄土真宗を棄教しました!!!」



最前列の老人が叫ぶ。



『え? そんなの親戚付合いとか大変でしょう。』



  「ワシは敬虔な神聖教徒です!!!

  熱田区に寺?神社?を建立させて下さーーい!!」


  「あ! 

  その場合は私も寄付しますよーーー!!!」


  「弊社も猊下に寄進致します!!」



『いやいや、寄付・寄進の類は受け付けておりませんので。

あ、勿論お布施も駄目ですよ。

勝手に集めないで下さいね。』



俺は異世界で清貧宗教が堕落した成れの果てを見ているからな。

もう理屈ではない。

宗教はカネを集めた瞬間に終わるのだ。

っていうか、集金を前提にした時点でそれは邪教だろう。



  「え!? 寄付も駄目なんですか!?」


  「じゃあ、我々敬虔な信者は何をすればいいんですか!」


  「信者として承認される方法を教えて下さい!」



『あ、いや。

皆さん事業を営まれておられるようですから。

普通に従業員さんにお給料を払って。

真面目に確定申告するべきなのではないでしょうか?』



  「えーーー!!!!

  そんなにハードル高いんですか!!」


  「まともに税金払ってたら生活出来ませんよー!」


  「だって娘を医大に入れたいんです!!!」



『いやいや、そうは仰いましても。

元々、分配や救済を目的として起ち上げられた宗教ですからね。』



  「一応、最低賃金は払ってますよ!!」


  「正社員はサブスクで使い放題と法律で許されてます!」


  「労基が何も言って来ないからセーフ!!」



『いや、アウトでしょ。

一言言わせて下さいね?

御開祖様は飲まず食わずで貧民に炊き出しを続けた方なんですよ?

渇きのあまり野薔薇の露を啜ったとまで伝わっております。

そんな方の教義の伝承者を自称するならね?

せめて中央値以上の給料を支払ってあげたらどうですか?』



  「それだと苦しいんですよ!

  孫名義でタワマン買ったばかりなんです!」


  「私なんか役員報酬!  

  7000万円しか取ってないんですよ!」


  「全部派遣に置き換えるんで!

  来期からは派遣元の責任です!」



『私もね?

勿論、企業活動には干渉しませんよ?

でもね?

最低限の心構えを持って下さらない方をね?

同じ信徒とは認識出来ないんですよ。』



  「幾らですか?」



『はい?』



  「ここだけの話です。

  幾らほど包めば教徒と承認されますか?」


  「次の市議会選、応援演説をお願いします。」


  「経費で落ちるなら。

  年間500万程度は猊下に流せますよ?」



『本当にカネは要らないんですって。

経費は全部私が自腹を切りますので。

それにね?

宗教って、教義・戒律を真面目に守ってるなら…

その時点で信徒ではないでしょうか?』



  「いやいやいや!

  信徒であるという形が欲しいんですよ。

  信心の証明とでも言いましょうか…」


  「どんな宗教でも金銭的なルートはありますよ!」


  「経費で落ちるなら!

  教団のグッズをガンガン買いますよー。」



『形と言われましても困ります。

教義を遵守する方は、皆等しく神の子ですから。』



  「猊下ぁ。

  従業員の手前、平等では困るんですよ。

  何かヒラの信者と差をつける方法はないんですか?」


  「来年選挙なんです!

  役職を売って下さらないと困りますよぉ。」


  「本当はそういう抜け道があるんですよね?

  あの、私ビットコインを大量に保有してますので…

  ウォレットさえ教えて下されば、極秘寄進致しますよ。」



『ですからあ。』



最後は押し問答になる。

当初、ホストやバンギャばかりだった池田公園はいつの間にか近隣の俺と繋がりたい商工者の集まりになっていた。

派手なメイクをした地雷系お姉さんや70年代風の革ジャンを着たギターおぢさん達は、公園の端に追いやられてしまった。


参ったな。

宗教団体が声を掛けるべきなのは今追いやられてる彼らなんだけどな。

生活に困っていないであろう社長連中達は肩を組まんばかりの団結力で俺を包囲して、宗教的装飾の販売(勿論領収書込みで)をねだり始めた。



「トイチ君。

もう何かでお茶を濁したら?」



『ヒロノリさん、それって宗教的腐敗の第一歩ですよ。』



「腐敗に繋がらないようなルートを提示してあげて。」




…だから、カネで何かを売ってる時点で腐敗なんだって。

本当に嫌になるよな。

どうして大衆とはこうも愚かなのだ。

或いは人類に必要なのは救済ではなく…



『じゃあこうしましょう!!!

業界中央値を越える労働者賃金を支払っている経営者には…

信者の称号を与えます!

念を押しておきますが!

名誉職ですよ!!!  身分ではありませんからね!!!』



俺がそう宣言した途端。

眼前の老人達が満面の笑みで喝采を上げる。

え? 何?

オマエラ、こんなものが欲しいの?

…理解に苦しむ。



  「やったぜ!!!」

 

  「うおーー!!! うおーーー!!」


  「それでこそ猊下!!!」



わからん。

何がそんなに嬉しいんだ?

承認?

誰かに立派な人間であるとお墨付きを与えて欲しいのか?

いや、流石に人類はそこまで愚かではないだろう。



『じゃあ、神聖教を信仰する方の中で、業界中央値を越えた労働者給与を支払った方に…

《アイアン信徒》の信者位階を授けます!!!』



  「それじゃワシがアイアンッ!!

  貰えないじゃないですかぁーー!!」


  「ウッキーーー!!!!!!」


  「直ちに給与支払報告書を提出します!!!」

  



『落ち着いて!!  皆さん落ち着いて!!!

もう遅いですし、静粛に静粛に!!!!』



  「ワシが位階貰えないじゃないですかぁーー!!

  もっとちゃんとしたルート設定して下さいよ!!」


  「ウキャーーーー!!!!!!!

  キーーー!!!  キーーーー!!!

  ウッキャーーーー!!!!!」


  「アイアンの証明! 証明下さい!!

  何かそういう証書を発行して下さい!!!」



『待って! 皆さん、ちょっと待って!

まずは査定! ちゃんと給与を支払ってるかの査定!

わかりました!! 正式な証書を発行しますから!

少しは落ち着いて下さい!!!

静粛に!!!  静粛に!!!

宗教はマウントの道具じゃない!!!!』



ヤバい、喉がヒリヒリしてきた。

俺は何をやってるんだろう。



『ええ、はい、ええ。

わかりました!

それじゃあ! 

アイアン信徒の上にブロンズ信徒の信者位階も設定します!!!』



公園がどよめく。



『えっと、えっと。


じゃあですね!!!

納税表彰!!!

納税表彰の賞状を教団に提出して下さい!!

ブロンズ信徒の信者位階を授けます!!!』



悲痛な呻き声が公園中から響く。

あそこの落涙しているオッサンは多分申告すらしてない。



『勿論! 信者位階は事業者の専有物ではありません!

社会への貢献度によって獲得出来る、信者位階も設定します。


人命救助や献血行為!! 地域のボランティアなど!!

カネを出すとかそういうのじゃなくて!!

実際に手を動かす方を私は高く評価します!!!』



  「ワシはライオンズクラブにいっぱい寄付したよォッ!!!」



『じゃあライオンズクラブから表彰されちゃって下さいよぉッ!!!』



こんなに絶叫したのは生まれて初めてかも知れない。

俺は群衆に対して憤怒をぶつけ続けていた。



そうか…

思い違いをしていた。

いや思い上がっていた。

自分がどれだけ愚かであったかを痛感させられる。

人を救うなどと増長以外の何物でもなかったのだ。


なので、俺は君達に罰だけを授けよう。

【名前】


遠市・コリンズ・厘




【職業】


神聖教団 大主教

東横キッズ

詐欺師




【称号】


女の敵




【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)


《LV》 15

《HP》 万年低空飛行

《MP》 万全

《力》  女と小動物なら殴れる

《速度》 小走り不可

《器用》 ライジング・カード!

《魔力》 悪の王器

《知性》 悪魔/ド低能

《精神》 吐き気を催す邪悪

《幸運》 的盧


《経験》 273073


本日取得 0

本日利息 35618


次のレベルまでの必要経験値54597


※レベル16到達まで合計327670ポイント必要

※キョンの経験値を1と断定

※イノシシの経験値を40と断定

※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定

※クジラの経験値を13000と断定

※経験値計算は全て仮説




【スキル】


「複利」 


※日利15%

下4桁切り上げ 


※アナウンス聞き取り不能状態。



【所持金】


4460億4680万0000円

575万ポンド



【所持品】


jet病みパーカー

エモやんシャツ

エモやんデニム

エモやんシューズ

エモやんリュック

エモやんアンダーシャツ 

寺之庄コインケース

奇跡箱          

コンサル看板 

荒木のカバン  

白装束  

天空院翔真写真集 Complete!!




【約束】


 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」

 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」

〇         「同年代の友達を作って欲しい。」

          『100倍デーの開催!』

×         「一般回線で異世界の話をするな。」

          『世襲政権の誕生阻止。』

〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」

          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」

          「空飛ぶ車を運転します!」

 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」

          『遠市王朝の建国阻止。』

×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」

×         「女性を大切にして!」   

〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」

×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」

×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」

          「今度、焼肉でも行こうぜ!」

〇藤田勇作     『日当3万円。』

〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」

〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」

〇         「お土産を郵送してくれ。」

          「月刊東京の編集長に就任する。」

 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」

×警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」

          「オマエだけは絶対に守る!」

×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」

〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」

 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」

×平原猛人     「殺す。」

          「鹿児島旅行に一緒に行く。」

          「一緒にかすうどんを食べる」

 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」

 今井透      「原油価格の引き下げたのんます。」

〇荒木鉄男     「伊藤教諭の墓参りに行く。」

 鈴木翔      「配信に出演して。」 

×遠藤恭平     「ハーレム製造装置を下さい。」

〇         『子ども食堂を起ち上げます。』

          「紙幣焼却によりインフレを阻止する。」

〇田名部淳     「全財産を預けさせて下さい!」

          「共に地獄に堕ちましょう。」

 三橋真也     「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」 

〇DJ斬馬      『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』

 金本宇宙     「異世界に飛ばして欲しい。」

 金本聖衣     「同上。」

 金本七感     「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」

 天空院翔真    「ポンジ勝負で再戦しろ!」

〇小牧某      「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」

 阿閉圭祐     「日本国の赤化防止を希望します。」

〇坊門万太郎    「天空院写真集を献納します!」

 宋鳳国      「全人類救済計画に協力します!」

 堀内信彦     『和牛盗難事件を解決します。』

〇内閣国際連絡局  『予算1000億円の確保します』

 毛内敏文     『青森に行きます!』

 神聖LB血盟団   「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」

〇大西竜志     「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」

 坂東信弘     「四国内でのイベント協力」

 国重辰馬     「四国内でのイベント協力」

 涌嶋武彦     「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」

 斑鳩太郎     『処刑免除を保証します。』

 志倉しぃ     「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」

 孝文・j・G   「英国大使館パーティーにて利息支払い」

 グランツ(英)  「perape-ra!!!!!!!!」





 金本光戦士    「どんな危機からも必ず救い絶対に守る。」



〇木下樹理奈    「一緒に住ませて」



×松村奈々     「二度と靴は舐めないにゃ♥」

〇         「仲間を売るから私は許して♥」



◎鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って。」

〇         「カノジョさんに挨拶させて。」

〇         「責任をもって養ってくれるんスよね?」



×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」

          「王国の酒…。」

          「表参道のスイーツ…。」 

×         「ポン酢で寿司を喰いに行く。」



 土佐の局     「生まれた子が男子であればリイチ。

          女子であればリコと命名する。」

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― 新着の感想 ―
地味にレベルアップが加速してるのゾワゾワしますね 今は5日1LVかな ズズズ
>世の中は面白いと思わせた方の勝ちなのだ。 真理ですね。 そしてこのラノベをここまで読み進めてしまっている時点で…
[良い点] やはりお前か いやむしろお前しかいないな なんてこった……
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