【降臨52日目】 所持金2506億1177万0000円 「梨羊羹(税込み450円)を送りましたよね?」
『え?
小牧さん帰っちゃうんですか?』
「え?
私、817連勤中なんだけど?」
『いやいや。
てっきり公安の人達の窓口になってくれるものかと。』
「いやいや。
流石に半休位は許して貰えるものかと。」
『えー、帰っちゃうんですかー?
参ったなー。』
「えー、帰っちゃ駄目なのー?
参ったなー。」
『…。』
「…。」
『小牧さん、提案があります。』
「どうせ天下りとかボーナスとか、そういう話でしょ。」
『え!?
何でわかったんですか!?』
「君の顔に書いてあった。」
『…それ、皆から指摘されるんですよ。
そんなに私、顔に出てますか?』
「私がこういう職業で訓練されている所為もあるけど…
君はねぇ。
普段が無表情過ぎるんだ。
なのに、何か魂胆のある時だけ表情が活き活きするから…
何となく、思考が見える。」
『えー。
私、そんなに無表情ですか?』
「Z世代特有の死んだ表情筋。
他人の感情に一切斟酌しない昆虫みたいな顔つき。」
『いやいや!
世代論で一括りにされても。』
「嫌がるのは勝手だけど。
君の世代は全員そうだよ?
自分の利益以外に極度に無関心というか。」
『御言葉ですが。
私は! 私なりに公益も考えておりますよ。』
「そう、それ。
君は公益という趣味以外に何の興味も持ち合わせていないだけ。
ゲームやアニメのマニアと大差ないよ。
それに公益の為なら何をしてもいいと思ってるでしょ?」
『…。』
「防諜分野にはそういうモンスターがたまに出現するよ?
私は若い頃にアメリカに出向していたのだけどね。
ペンタゴンにそういう真性のキチガイが居た。」
『そんなにヤバい人だったのですか?』
「イラク人やイラン人を数百万人殺した人だよ。
彼の中では公共の正義に合致してたみたいだね。」
『いやあ、怖いですね。』
「ちなみに、君はどの国で何万人殺す予定なの?」
『いやいや!
特定の民族や国家を標的になんかしないですよ。
そんなのジェノサイドじゃないですか!』
「うんうん。」
『私は人類全てを救済したいんです!』
「うんうん。」
『だから!
地球での死者は何としても1億…
いや2億以下に抑えます!』
「ん?」
『なので。
そんな虐殺者と一緒にしないで頂きたい!』
「怖っ。
君には人の心とかないのかな?」
『ありますよ!
その証拠に小腹が減ったんでラーメンでも喰いに行きませんか?』
「え?
その話の流れ本当に怖いよ?
ムンバイの粗暴犯でももう少し筋道立ってるよ?
あの…
私、帰宅許可を申請してるんだけど…
ちゃんと通じてる?
言葉は通じるけど話が通じない人って、それ最悪のモンスターだからね?」
『小牧さんが居ないと寂しいんですよ。』
「君と居ると心が折られるんだけど?」
そんな風にワチャワチャやってるとアルファード大西が帰って来たので、3人でラーメンを喰いに行く。
「えっと、リン君。
こちらの人は?
お巡りさん?」
『私の親友の小牧さんです。』
「はじめまして。
仕事で来ている小牧です。
残念ながら部内の規則がありまして。
友人にはなれないんですよ(ニッコリ)。」
「何かこの人、ポリの気配するんだけど?」
『惜しい。
似たような仕事の人ですね。』
「君が出資者でなければ…
この場で超法規的措置を断行するんだけどね。」
「怖っ! 怖っ!」
『大丈夫、この人も血の通った人間です。』
「その血を君に搾り取られて…
本当に死に掛けてるんだけどね。
あ、ウチの時任。
先日吐血して昏倒。
意識不明の面会謝絶状態だから。」
『ええ!?
時任さんが!?
誰ですか!
そんな酷い事をした奴は!』
「…自覚ないって怖いなあ。」
『???』
「あ、話の腰折ってゴメン。
そろそろソープ代が無うなって来たんやけど。」
『あー、これは気が付かず申し訳ないです。
纏まった額を後部座席に積んでおきますねー。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1727億2523万0000円
↓
1727億2023万0000円
※大西竜志に遊興費として500万円を支給。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「リン君。
後ろから凄い音したけど、かなりの金額なんちゃん?
流石の俺もちょっとだけ恐縮するわい?」
『まあまあ。
ソープ遊びも大西さんの仕事という事で。』
「私と業務内容が全然違うなぁ。」
「いやあ。
最近、ずっとソープのハシゴしとるやろ?
なんか下っ腹が痛うなってきてな。
流石に連夜の4Pはヤバいわ。
少し飽きて来たし…
ちょっと控えた方がええかも知れん。」
『大西さんでも飽きるんですね。』
「嬢って全員同じ顔しとるけんな。
ほら、今時の子って全員同じメイクして同じ喋り方で同じ整形しとるやろ?
何か脳がバグって来てな。
四国の女も山陰の女も同じ箇所整形しとるねん。」
『あー、言われてみれば。
私も殆どの女性の見分けが付きません。
鷹見位のものですよ、ハッキリ認識出来るのは。』
「そう! それ!
それがルナルナの人気の秘訣なんや思う!
全てのAV女優の集合写真撮った時にな?
一発で見つけられるのルナルナだけやで。」
『ああ、それでアイツ人気があるのかもですね。
あまりルッキズム的なこと言いたくないんですけど。
アイツ、どちらかと言えば… ブ…
美人ではないじゃないですか?
何であんなに人気あるのか分からなかったんですよ。』
「AV女優も風俗嬢も全員整形しとるけんな。
逆に整形しとらんルナルナが一番信用出来るねん。」
『ああ、そういう視点があるんですね。
確かに、鷹見は素材勝負してますよね。
化粧も殆どしてないんじゃないですか?』
「いや!
してるよ!」
『え?
そうなんですか?』
「奈々ちゃんとユニット組んでから化粧が飛躍的に上手うなった!
昔の動画と比べたら分かるけど、持ち味活かしたままけっこになっとる!」
『はええ、気が付きませんでした。』
「まあ、これもソープでの聞きかじりなんやけど。」
『あはは、大西さん夜遊びでそんな話してるんですか。』
「いやあ、流石にカネ貰いっ放しじゃ悪いけんさ。
なるべく君の喜びそうな話に誘導しとる。
政治とか経済とかも。」
『え!?
大西さんが政治経済!?
そんな誘導って出来るものなんですか!?』
「いや、大したことはしとらんぞ。
待合室で日経新聞とか東洋経済読んどるだけ。」
『あ!』
「向こうも接客業やけんな。
難しい本片手にボーイにな?
《話しよっておもっしょい子、アホは苦手》
言うだけでええわい。
そうすると店で一番学歴高うて物知りな子付けてくれる。」
『おおおおお!!!!!
うわあああああ!!!!
み、見た目に似合わぬ頭脳プレイ!!!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1727億2523万0000円
↓
1727億1023万0000円
※大西竜志に褒賞金として1000万円を支給。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「オイオイ。
また凄い札束の音がしたぞ。」
『これからもソープガンガン行って下さい!
1日10人くらい抱いて下さい!』
「えー、流石にそりゃ死ぬじゃろ。
35越えてから腎臓にガタが来とってな。」
『景気良く毎日10Pにチャレンジして下さい!』
「死ぬ死ぬ!
俺も歳やけん!
そりゃ流石に許して!!」
『大西さんってカネを与えたらいい仕事しそうな気配がするんですよ。』
「いやいや、俺で人間ガチャするのマジ勘弁。」
『他に! 他に何か面白情報ないですか!?』
「ええ。
いやあ、そなん都合良うネタは無いぞ?
精々、米子でロシアのスパイがやっとる店に飲みに行った位やけん。」
『あはは、大西さんも持ってますねぇ。』
「ちょっと待って!」
『え?』
「ん?」
「あ、その話、詳しく…」
「あ、ああ。
じゃあ、ラーメンでも食いもって話そか?」
「いや!
外でその話をするのはマズいです!!」
「え? うん、まあ。
じゃあ、この話は今度で。
リン君、豚骨系と味噌系どっちがええ?」
『ああ、人と会う予定なのでニンニクの少ない方で。』
「えっと、小牧(?)さん。
何かリクエストあります?」
「血尿止まらないので、身体にいい物を。」
『ええっ!?
小牧さん体調崩されておられるんですか!?』
「うん、誰かさんのお陰でね。
死んだら普通に呪う予定だから。」
『小牧さんが死ぬなんて嫌だなあ。』
「うん、なら…
3日でいいから休暇をくれないか。
せめて両親の墓参り位はさせて欲しいんだ。
死に目にも会えなかったからね。」
「あ、じゃあ蕎麦にするか?
ラーメンは塩分多うて身体に悪いって聞くけん。」
「すみません。
大西さんのご厚意に甘えさせて下さい。」
そんな遣り取りがあったので、深夜のドライブインで蕎麦を喰った。
鴨南蛮を食べるのは初めてだったので、ちょっとテンションが上がった。
小牧はざるそばにライス(小)を大西はカツ丼大盛を食べていた。
隣接した敷地にバッティングセンターがあったので、1人20球ずつ遊んだ。
俺にしては結構ヒット性の当たりが出たことに、2人が目を見開いて驚愕する。
オイオイ、オマエラ流石にその反応は失礼だろ。
宿に帰ると深夜3時を過ぎていたので、シャワーだけ浴びて寝た。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目を覚ますと昼を回っていた。
窓の外には煌煌と太陽が輝いている。
「ゴメン。
起こそうか迷ったんだけど…
トイチ君、かなり疲れてるみたいだったから…
どうしても起こせなかった。」
寺之庄があまりに申し訳なさそうな顔をするので、バッティングセンターで盛り上がった話をして場を和ませる。
『安心して下さい。
たまには息抜きもしてます。
ヒロノリさんも、今度一緒に行きましょう!』
「いいねえ。
深夜のラーメンとか楽しそう。」
『でしょ!』
2人で夜遊びの相談をしながら、リビングに向かう。
塩崎夫妻が訪問していたので西日本土産を贈呈。
鷹見が開いたイベントの盛況ぶりを聞かされる。
写メを見せて貰ったが道路沿いに車がびっしりと停められていた。
『ええ!?
これ、全部鷹見のファンですか?
アイツ凄いですね!』
「私も驚きましたよ。
関東や沖縄からもファンが押し掛けてましたから。」
『へー、凄いですね。』
「この写真を御覧下さい。
イベントスペースの玄関には!
夜猫@のサイン色紙を飾っております!」
『え?
あ、そうですか。』
コイツ、正気か?
鷹見と松村先生なんて犯罪者ツートップだぞ?
折角の豪華施設なのに…
絶対に価値落ちるだろ…
「それで…
図々しいお願いなのですが…」
『あ、はい。
私で力になれる事がありましたら。』
「…そ、そのお。
どうせなら、セットで飾りたいと言いましょうか。」
『…?
ああ! 私もサインを提供すればいいのですね?』
「いやあ、ハハハ。
申し訳御座いません。」
そんな遣り取りがあったので、色紙にサインしてプレゼント。
正直、こんな物に何の価値があるかは謎なのだが、塩崎夫妻が喜んでくれたのでヨシとする。
鷹見が好き勝手したらしいからな。
俺もこの夫婦には強く出れないのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、本題。
俺の所為で関西が大変な事になっているらしい。
ついでにイギリスが破綻寸前らしいが、流石にそれは俺に関係がないだろう。
『後藤さん!
約束は守りますので御安心下さい!』
「いえ、まだトイチさんの所為だと決まった訳では…」
言葉とは裏腹に後藤の表情はやや硬い。
そりゃあね、ホームタウンの危機に自分が絡んでいるとなればね。
気が気でないよね。
後藤とは《大阪を滅ぼさない》って約束をしちゃってるからね。
フォローせざるを得ないよね。
『私に責任があろうがなかろうが、貴方のホームは全力で守ります!』
「ふふっ、少し安心しました。
トイチさんにそう仰って頂けると心強いですわ。」
そんな会話を交わしながら仲間で朝食。
塩崎夫人が焼いてくれれたベーコンエッグを貪る。
トマトジュースは苦手だったのだが、並べられたものは最高級ということもあり非常に美味だった。
途中で光戦士と七感が遊びに来たので、西日本巡りの記念撮影画像を皆で鑑賞して盛り上がる。
塩崎夫妻は烏天狗仮面をネタだと思ったらしく大爆笑していた。
『後藤さん、エモやんさんと連絡取ってます?』
「いや、忘れてました。
…えーっと、アイツのSNSは、っと。
お! ちゃんと、お遍路の御詠歌を88個上げてますね。」
『へー、あんな仮面被ってても
やる事はやってくれるんですね。
改めて見直しました。』
「本人に直接言ってやって下さい。
喜びますよー。」
江本の行方は依然として不明なので、後藤が親御さん(江本飯店)に通話謝罪。
俺もその横で頭をペコペコ下げる。
息子の奇行は今に始まった訳ではないらしく、親御さんは笑って流してくれた。
SNSが更新されているという事は生きているのだろう。
その点、少し安堵する。
小牧の起床を待って帝塚山の拠点に訪問。
皆でメシでも食いながら懇親会。
その時点では、そんな風に気軽に思っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、これはヤバいね。」
拠点のかなり手前で寺之庄が呟いた。
住宅街だと言うのに渋滞している。
それもセンチュリーとかプレジデントとか、国産高級車ばかり。
『我々へのお客さんですか?』
「いや、君へのお客様だよ。
多分、あちこちの議員さんだねえ。
あれは三重ナンバー、向こうは富山ナンバーだね。」
『…。』
「どうする?
一旦引き返す?」
『別に…
普通に顔を出します。』
「議員さん達は挨拶をしたがると思うけど。」
『大勢の中の1人で良いのであれば…
それでいいんじゃないですか?』
「まあ、妥当な所かな。」
車列が動かなかったので、降車して徒歩で邸宅に向かう。
途中で俺に気付いた何人かが車から飛び降りて駆け寄って来るが、後藤にブロックさせる。
『数名であれば殺しても構わない』
と伝えてあったので、排除もかなり乱暴だ。
後藤は80歳くらいの老人でも容赦なく押し倒す。
結局、世の中フィジカルが全てだよな。
「不敬は許さんッッ!!」
更にはこの男が恐ろしい剣幕で叫んだので驚かされる。
《不敬?》
俺も含めた場の全員が一瞬考えてから、《トイチに対する無礼は許さないという意味なのかな?》と見当を付ける。
まあなぁ、アポも無しにいきなり握手の手を伸ばして来るような不心得者は、国によってはその場で射殺されるからな。
(と言うか、異世界でも俺に対してあまりに距離を詰めて来る者は無警告で斬られていた。)
小牧が眉を顰めながら、何かを言いたそうにしているが、気付かないフリをする。
俺が車列で塞がった門前でキョロキョロしていると、坊門翁が飛び出して来て引き入れてくれた。
背後から幾人かの老人が擦り寄って来たが、鬼の形相の坊門が蹴り倒してしまう。
現代日本の、それも超高級住宅街で何故こんな野蛮な現象が発生するのか不思議で仕方ないのだが…
既にそういう局面らしい。
気の弱い光戦士や俺はビクビクしながら、野獣の群れを通り抜ける。
振り返ると後藤がスーツ姿のオジサンを殴り倒しながら怒鳴っていた。
やっぱり、この男は怖いな。
「に、兄ちゃん。
今日ボクは豪邸訪問、どんなお菓子が出されるのかな?
くらいの心づもりで来ていたのだ。」
『わかる。
まさか、こんなにナチュラルに暴力が横行するなんて思ってもいなかったよな。』
「やっぱり響兄さんは怖い人だったのだ。
あんなに躊躇いなく人を殴るなんて…」
『あ、それは私が多少殺しても構わないと事前に伝えてあったから。』
「また諸悪の元凶はコイツなのだ。
オマエか! オマエか!(ポカポカ)」
『あっはっは、ゴメンゴメン。』
「他人事みたいな態度に草も生えないっすね。」
門に入るタイミングで額から血を流した老人が駆け寄って来る。
さっき後藤が投げ飛ばしていた1人だろう。
てっきり暴力排除へのクレームかと思って身構えたのだが…
「お近づきの印にどうぞーーー!!」
と金地の風呂敷に包まれた酒瓶(?)のようなものを手元に押し付けられてしまう。
見た所、80歳は確実に超えているだろう。
なのに駆け寄るスピードが尋常では無かった。
血まみれの顔に満面の笑みが浮かんでいて怖かった。
老人は坊門総業の社章を付けたお兄さん達に取り押さえられてしまう。
良く見ると沢下も混じっていたので、遠目にウインクを交わし合った。
所詮、腕っぷしが全て。
嫌な真理だなよなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、邸内。
そもそも足の踏み場が無い。
1階のリビングと和室はかなり広い筈なのだが、アホみたいに衣装ケースが積み上げられている。
どうしよう。
木更津の倉庫に送るか…
いや、あっちでは小麦を増やす実験に集中したいしな。
「全て猊下の御資産で御座います!」
聖徳太子が札束の山の前ですしざんまいのポーズを取る。
…参ったな、地球でもミスリル硬貨を導入してくれないかな。
アレさえあれば2000億弱なんてリュックに放り込んでおけるのに。
『斑鳩会長、かなりお手数をお掛けしたようで。
色々ありがとうございました。』
「いえいえいえいえいえ!!
滅相も御座いません!」
『通話ではかなり厳しい事を申し上げましたが…
会長には本当に感謝しているんです。』
「ほ、本当ですかぁ?」
『ホントホント、半分くらいは感謝してます。』
「じゃ、じゃあ後の半分は?」
『こういう屑が居るから社会が穢れてるんだろうなって。』
「怖い怖い!
それ粛正宣言じゃないですか!」
『私、忙しいんで。
斑鳩さんの粛正まで手が回らないと思いますよ。』
「…妙に安心感のある回答です。
あの!
つ、尽くしますので殺さないで下さいね?」
『嫌だなぁ、殺しませんよぉ。』
「側近の人達にもちゃんと言っておいて下さいね。」
聖徳太子が食い下がって来たので、後藤・寺之庄・田名部を呼び、彼の赦免を宣言した。
気は進まなかったが、一筆書いてやる。
…老人の害意への敏感さにはつくづく驚かされる。
「猊下ぁ!
どもどもですやでぇ!」
『坊門さん。
先程はどうも。
四国では色々ありがとうございました。』
「いえいえ!
山伏バトルに参加出来ずに申し訳御座いまへん。
まさか猊下が水上歩行するなんてw
令和のお釈迦様ですがな!」
『ははは。
ホモ野郎などと悪口ばかり言われております。
問題が発生する度に全て私の所為にされてしまうくらいですからw』
「うーーーん、猊下のお力でもうすぐイギリスが滅びますからな。
疑われるのも止む無い事かと。」
『あ、それそれ。
何でイギリス?
昨日、公安の人からも同じ指摘をされて戸惑ってるんです。』
「あ、スミマセン。
じゃあ早速解説しますね。
田名部君が資料を持ってますので、団欒室のモニター使いまひょか。
本当は皆でNFLでも見て盛り上がろうと思っとったんですけど。」
『あ、はい。
お願いします。』
流石に大金持ちの邸宅だけあって、映画鑑賞する為だけの部屋が存在した。
残念ながら父さんと住んでいた団地の居間よりも間取りが広い。
坊門は若い愛人とここでロマンス映画やボクシングのタイトル戦を鑑賞していたらしい。
ちなみに、隣の小部屋はベッドルームだった。
無論、団欒とはそういう意味である。
…金持ちは何でもアリだな。
団欒室に集まったのは、俺・坊門・田名部・聖徳太子・寺之庄・後藤・七感。
少し迷ったが光戦士も同席させる。
「では、即興で恐縮ですが…
パワポで説明します。」
咳ばらいをしてから田名部がレーザーポインターでスクリーンを指し始めた。
「えっと、結論から言いますね。
近年の英国はブレグジットの影響もあり相当の財政難に見舞われておりました。
それに加えて、コロナ禍・ウクライナ戦争と…
巨額の出費を強いられた事は皆様の知る所です。」
田名部がスライドを切り替える。
イギリスがウクライナ戦争に注ぎ込んだ費用が項目別に並んでいる。
パワポって見やすくて便利だよな。
「元々、ウクライナの非核化を規定したブダペスト覚書を主導したのは英国です。
非核化と引き換えに英米露がウクライナの独立を保障するといった内容ですね。
これは、ソ連解体時、米露に次いで核兵器を保有していたのがウクライナだった事が故の措置です。
以上の経緯があった為、英国にはウクライナに対する防衛義務がありました。
これが大前提です。」
『へー。』
「なので英米は今回のウクライナ侵攻に焦ってます。
ここで防衛義務を履行できなければ、各国が一斉に核武装するのではないかと。
勿論、彼らの念頭には我が国がある事は言うまでもありません。
というより《日本の核武装阻止》が彼らの至上命題ですね。
我々が想像している以上に英米は勝負に出ております。」
『まあ、ソ連復活だけは避けたいでしょうしね。』
「ええ、現在の国際社会ってシーパワーとランドパワーが上手く拮抗してるんです。
ただ、ロシアがウクライナを吸収してしまうと、天秤が大きく中露ランドパワーに傾きます。
英国はそれを何としても阻止したい。
なので、ウクライナ戦争勃発後はボリス・ジョンソンの奮闘もあり、英国は相当なリソースをウクライナ支援に注いでます。
英国の特殊空挺部隊(SAS)がゼレンスキー大統領の護衛に当たっているのは有名な話ですしね。
ただでさえ苦しいのに、予想外の出費。
これに英国は苦しみ抜いてます。
経済制裁を受けているロシアに次いで経済が低迷してますからね。」
『へー。
大変ですね。』
「で、その困った英国です。
新たに永久債を発行しました。
18世紀の南海泡沫事件の後始末以来ですね。」
『永久債?』
「文字通りに永久に利子が支払われる債券です。
今回、彼らは年利1%で発行しましたから、100年保有すれば元が取れて、以後は利益が積み上がり続けます。」
『ん? 年利で1%?』
「ちなみに彼らの政策金利は5.25%です。
なので向こうは預金金利も高いですよ。
今、First Directで確か5%くらいですかね。」
『え?
じゃあ永久債なんて買うより普通に口座に入れておいた方が儲かるんじゃないですか?』
「はい、なので全然売れてません。
それどころか、永久債を発行した事により英国財政が不安視され、10年物国債の格付けが2段階下げられました。 ランクBBB、ついにインド国債と並んでしまった訳です。」
『あれ?
イギリス、ヤバくないですか?』
「はい、ヤバいです。
いや、今度という今度は本当に駄目かも知れないです。」
『はぇー、因果応報ですねぇ。』
「で、最後の力を振り絞って彼らは日本市場に永久債を売り込みに来ました。」
『そんなの売れるんですか?』
「当然、売れないですよ。
米国債でも3%の年利が付くんですから。」
『まあ、普通はそっちを買いますよね。』
「なので彼らは一捻りして来ました。
永久債を大量に組み込んだ投資信託を組成。
英米の政治力を総動員して官邸に圧力を掛けて、証券会社大手5社に売り出しをさせたんですよ。
名付けて、《理想郷ファンド》!」
『…。』
「目標販売総額80億ポンド。
日本円にして1兆5000億円です。」
『金額が大きすぎて実感が沸かないです。』
「トヨタ債の10倍の規模感でいて下さい。」
『そんな額、政治力で売れるんですか?』
「ゴリ押しですよ。
TVやyoutubeで派手に広告を流していたので、認知度はかなり高いですし。」
『へー。
それだけ宣伝費を掛ければそこそこ売れそうですね。』
「…いえ、爆死しました。
それどころか、取り扱い証券会社から急速に資金が引き上げられてます。
そして遂に先日、業界11位の久保田オッペンハイマー証券の経営難が報じられました。
久保田証券時代の威光もあって関西では盤石と認識されていたのですが…
それが裏目に出てしまいましたね。」
…話が読めない。
どういう事だ?
要するに英国の国営ファンドが日本での資金募集に失敗しただけだろ?
確かに彼らにとっては痛いかも知れないが、それで国家破綻は大袈裟なんじゃないだろうか?
「…ざっくりとこんな流れなのですが。」
田名部が申し訳なさそうに俺に目線を送る。
ん?
何これ?
俺か? 俺なのか?
また俺の所為にされるのか?
『…あの、私が何か。』
「あ、いや!
決して猊下に問題がある訳ではないのです。
ただ、英国勢が期待していた関西への売り込みが大コケしてしまった原因が…
何せ関西財界のドンがそっぽを向いてしまった事ですからね。」
『…えっと。』
財界のドン?
さっきからコイツは何を言っている?
「斑鳩会長、何も全財産を突然引き上げなくとも。」
田名部が不意に聖徳太子に呼びかける。
「えへへw」
太子はポリポリと頭をかいていた。
「まあ斑鳩はやり過ぎやけど。
今のコイツは議員でも何でもない私人やからな。
どこの金融商品を買おうが、文句言われる筋合いはないやろ。」
「万さんの言う通りですよぉ。
総理からもゴチャゴチャ言われましたけど…
彼らの理不尽政策の所為で…
ボクのトヨタ株は大暴落しましたからねぇ。
恨みこそあれ、買う義理ないですよぉ。」
『…。』
「あ、猊下。
ほら去年、プリウス。
締め出されたじゃないですか。
アレの話ですぅ。」
『あ、すみません。
その頃は異世界に滞在していたので、ちょっと話に付いて行けず…』
「ああ!
これはこれは失礼しました!!
去年イギリスは日本を裏切ったばかりなんですぅ。
いきなりハイブリット車規制を始めて…」
『裏切るも何も、そういう連中でしょうに。』
「はい、仲間内でもそういう話になってぇ。
今回の理想郷ファンドは、ボクは要らないかな、と。
逆に猊下の御奇跡は記録にも残りませんし。
えへへ。」
「つまり、そういう事ですよ。
関西財界のリーダーである斑鳩会長が資産の預け先を猊下に切り替えた事により、国内の富裕層が一斉に追従を始めたんです。」
『え?』
今、田名部がおかしなことを言わなかったか?
「いやあ、えへへ。
リーダーってほど、大した事はしてないんだけどね。
殆ど父の威光ですし。」
「ほんまやでぇw
コイツ、昔から典型的な七光りクンやったからなw
関西の景気が悪いのって、オマエみたいなボンクラが仕切っとる所為やろw」
「万さんは酷いなぁ。
ボクなりに頑張ってますよぉ。」
…話を整理する。
要は聖徳太子は俺が思っていたよりも遥かに大物だったという事だ。
と言うより、この男の父親が田中角栄や金丸信と非常に緊密な政商であり、近畿一円で隠然たる政治力を保持していたらしいのだ。
そして斑鳩はその政治人脈と聖徳太子紙幣(ガチの裏金)を継承したとのこと。
見た目通り大した男では無いのだが、暴君として恐れられていた父とは対照的に気弱でソフトな性格が幸いして、周囲が侮りつつも神輿として祭り上げてくれている状態らしい。
何せ関西の資産家には癖の強い者が多い。
そういう人間に仕切られたくないと皆が考えている。
結果、斑鳩が消去法的に複数の経済団体の理事職を長年兼任し続けることになった。
それが関西財界のリーダー・斑鳩太郎。
議員連中が俺に挨拶をしたがる謎が解けた。
きっと財界の秘蔵っ子みたいに見えるんだろうな。
『で?
斑鳩会長が証券口座を全解約しちゃったんですね?』
「だってぇ。
どう考えても猊下に預けた方が賢いじゃないですかぁ。
それに証券会社の営業なんかと仲良くしても何のメリットもないですし…」
『まあ、否定はしませんが。』
「それで私が大慌てで現金をかき集めているのを見た友人達に問い詰められて…
ついつい猊下ファンドのお話をしちゃったんですぅ。」
『…なるほど。
それで会長の御友人、つまり関西財界の重鎮達が集まって来ちゃったと。』
金持ちは金持ち同士で必ず結託する。
斑鳩の友人であれば当然、大地主か大企業のオーナーばかりであろう。
そんな彼らが日利1%の話を聞き付け、証券口座や銀行口座を一斉解約してしまった。
これで関西金融界はパニックとなっており、関西地方の雄たる久保田オッペンハイマー証券の営業力に期待していた理想郷ファンドが初動で躓いてしまった、と。
「いや、それだけやないんですわ。
久保田に勤めてた証券マンがyoutuberになって理想郷ファンドの事をボロカスに批判してるんですわ。
官邸主導でゴミ投信を売らされたって…
これがバズりまくってんです。
田名部君、スクリーンに出せるか?」
「youtube画面、出しまーす!」
スクリーンはyoutubeホームに切り替わる。
そしてチャンネル登録者数3万9千人の《ブラック証券業界告発ちゃんねる》へ。
一番バズってる動画のタイトルが凄い。
【岸田内閣が押し付ける最低ゴミ投信《理想郷ファンド》だけは絶対に買うな!
日本人よ目を覚ませ、俺達は鬼畜米英の奴隷じゃない!】
『う、うおお。
凄いタイトルですね。
主張が一発で伝わって来ました。』
「まあ、当たらずも遠からずなんですわ。
官邸の判断、正しいと思いますよ。
《ウクライナ戦争に直接は踏み込まない代わりに
国内でゴミ投信を自由に売らせてやる。》
無難な落とし所とちゃいます?
ワシはこの匙加減に関しては岸田内閣を評価しますね。」
『でも、そのゴミ投信を売らされる営業マンにとっては堪ったものではなかったと。』
「そうなんです。
今ってネットで誰でも自由に発言出来る時代ですからね。
政治的に物を売るって、西側同士でも難しいですよ?」
『へえ、こんな動画がバズっちゃったんじゃ…
理想郷ファンド、売るのは難しそうですね。』
「金融系の動画チャンネル・SNSが一斉に叩き始めてますからね。
エンドユーザーからも嘲笑される羽目になってます。
いや、ここより酷い投信なんてナンボでもありますけど…
理想郷ファンドは、ちょっと広告を出し過ぎましたな。
幾らなんでもアレは昔のやり方ですよ。」
『しかし…
天下の大英帝国がですよ?
たかだか1兆円強を集め損なったからと言って、破綻しますか?
彼らが大袈裟に言っているだけなのでは?』
「いやいや!
理想郷ファンドの悪評が他の英国株・英国債に波及してるんですわ。
ガタ落ちです。」
『でも、他の英国債は普通の金利なんでしょう?
たかだか日本のyoutuberに叩かれたくらいで、影響ありますかね?』
「…今、金融商品の売買はAIが行っておりますから。
ネガティブニュースへの反応速度が尋常ではないんです。
先週の英国債暴落ですけど、かなり経済的トピックになってますよ?」
『ああ、すみません。
先週は山伏にボコられてました。』
「あ、そうでしたな。
失礼。
まあ、話を戻しますと今の英国は本当にピンチなんですねん。
本当に彼らカネが無いんすわ。
G7で唯一のマイナス成長ですよ、彼ら。」
『いや、その理由が知りたいんですよ。
だって、ロンドンって国際金融の中心でしょ?
幾ら戦争にリソースを割いているからと言っても…
全世界から大富豪が移住してきていると聞きますよ?
カネが無いとは考えられないです。』
「…猊下、怒らんと聞いて下さいね?」
『あ、はい。』
「金持ちほど税金を払いません。」
『…。』
「あ! 怒ってはる怒ってはる。」
『怒ってないですよ、別に(怒)。』
「まあ、そんな訳ですわ。
全世界から集まった金持ち…
主にロシア人やインド人やアラブ人なんですけど。
彼らが資本家にとって都合の良い法律をガンガン作り続けて、当然メディアも支配しています。
っていうか英メディアはオルガリヒに占領されてます。
英国というインフラを使って蓄財はするけど、その富を納税する意図は極度に乏しい…
そういうことです。
嫌でも財政が苦しくなると思いません?」
『なるんでしょうねえ(怒)。』
「ブリカス共はブリカス共で可哀想な連中なんですよ。
常に投資資金の顔色を伺って生きてますから。」
『起死回生の理想郷ファンドという訳ですね。
ロンドンの大富豪に買わせればいいのに。』
「うーん。
少なくともシティに住んでるTier1連中…
要するに投資家ビザで永住権とった奴らは…
西側秩序の構築なんかに付き合う義理はないでしょうなぁ。」
『じゃあ、普通の英国人に買わせれば?』
「普通の英国人はコロナ禍+移民+ブレグジット+燃料高騰で死に掛けてます。
金融商品に手を出す余裕なんて、まずないでしょ。
そもそも中産階層を破壊しているのが西側体勢なんですから。」
『…そんな金融商品、日本人が買う義理なくないですか?』
「ええ、国内のブロガーやyoutuberは概ね猊下と同意見ですね。
いや、理想郷ファンドはまだマシな方ですよ?
繰り返しますけど、もっと変な金融商品なんて世界中に腐る程出回ってますからね。」
元々、我が国の金融機関は顧客の利益を著しく損なう金融商品ばかりを売り続けて来た。
長年の不義理に対して積りに積もった不満。
その矛先が官邸がプッシュしてしまった理想郷ファンドへ向けられた。
そして坊門曰く、この反発に喜んだのが露中を主軸とした反西側勢力であり、初動不振のニュースを面白おかしく全世界に拡散しているそうなのだ。
確かに動画のコメント欄を見てもやや不自然な日本語が散見された。
こういう現象を見ると、改めて動画・SNSこそが地球人類の主戦場である事を痛感させられる。
「さて、猊下。」
坊門が俺に向き直る。
『…はい。』
「以上を踏まえて、猊下はどうしたいですか?
英国に支援を行っておきます?」
『うーーん。
もう腹を割って話しますね。
私が異世界生活を捨ててまで地球に帰還した目的こそが、資本家の打倒なんですよ。
イギリスってその大元じゃないですか?
世間はロシアを悪の本丸みたいに捉えているみたいなのですが、私から見た害悪度って英>露ですからね。
英国債を買うという発想がそもそも無かったんですよ。
寧ろ、《どうやって妨害してやろうかな?》くらいは考えていたので。』
そこに住んでいる連中は兎も角として、英米って国際資本の集積地だからね。
資本家嫌いの俺にとっては比喩抜きで親の仇だよね。
「げ、猊下も資本家じゃないですかぁ。」
恨めしそうな表情で斑鳩が呟く。
『そう。
それなんですよね、ジレンマは。
私を越える資本家なんて存在する訳がないし。
居たとしても来年には抜き去っているに決まっているんです。
…なので、結局私は私の打倒方法を考えなきゃならない訳で。』
皆が怪訝そうな表情で俺をチラチラ見る。
いやいや、仕方ないじゃない。
俺を越える独占資本なんて存在する筈がないんだから。
そのうち権力やら権威やらも自然に備わって、殆どの者が直問すら不可能な状態になるのだ。
異世界で覇権を確立するのに4カ月も掛からなかった。
地球の方が低民度である分苦労しているが、それでもまだ帰還してから2ヶ月も経っていないのだ。
にも関わらず、カネも経験値も数えきれなくなっているし、仲間も増えて、悪名とは言え知名度は誰よりも高く、一部ながら官僚組織とのパイプも確保した。
相当手加減してこれである。
(銀行口座・不動産・証券の保持を自ら禁じ手にしてあるにも関わらずだ。)
幸か不幸か俺は最強なのだ。
後は殺されない限り富が無限に積み上がっていくだけである。
では《資本家の打倒》を公約に掲げる俺としては、この先自然発生するであろうトイチ王朝の倒し方を真剣に考えなければならない。
まあ、単純な暴力でサクッと殺すのが一番無難だよな。
鷹見とかヒルダとか、ああいう有害な連中は確実に仕留めて貰わなければ困るし、ついでに木下や松村先生辺りも連座させよう。
『皆さんは理想郷ファンドを買いたいですか?』
皆、首を横に降るが「少しだけ買っておいた方が無難なのではないか?」という意見が出たので、俺の元にセールスが来た場合は形式的に購入することとなった。
シティなんて誰がどう考えても資本主義社会のラスボス以外の何者でもないのだが、現時点で彼らを刺激し過ぎるのは好ましくないか。
向こうだって切羽詰まっているようだしな。
「久保田は、第一弾として日本国内で1000億集めたいそうですわ。」
『へー。
官邸のプッシュがあれば売れそうな気もしますけどね。』
「いや、年利1%で元本補償無しですからねぇ。
金融商品としては、魅力に乏しいですな。
そもそも今のシティがオルガリヒの巣窟ですし…」
坊門も斑鳩も「最低単位の1万ポンドであれば買ってもいい。」という姿勢。
他の金持ち連中も似たようなものらしい。
その後、坊門が保有するクアラルンプールのレジデンスの動画を見せられる。
「この物件もそうなんですよ。
ディベロッパーは、まず日本に売りに来るんですわ。
弊社もかなり割安に買わせて貰いました。
セールス氏曰く。
《日本人が買ってる物件なら中国人は買ってくれる、中国人しか買わない物件は中国人が買ってくれない。》
との事です。
ワシも海外不動産は相当持っている方やとは思うんですけど、アジア系物件は先に日本でセールしたがるケースが多いですよ。
今回の理想郷ファンドも、そのパターンですな。
日本で売れた実績を看板にして全世界で売る目論見やったみたいですよ。」
その後、スライドには坊門がASEAN内で保有する高級レジデンスが映された。
如何にも南国のゴージャスリゾートといったものから、メイド部屋・運転手部屋付きの大富豪物件まであって見てる分には面白い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局午前は来客を断り切れず、近所の斑鳩邸(アホみたいに巨大)で謁見する事にした。
斑鳩の家風を鑑みれば当然だが、予想通り議員が多い。
なので公人と私人に分けて謁見を許可する。
まずは前半、議員連中。
あくまでセレモニーなので、個々の挨拶は許さず言質を取らせない無難なスピーチのみを行った。
寺之庄達と急遽相談してから行った公人向けスピーチの内容は以下の通り。
・改めての自己紹介 (異世界の話は避ける)
・政教分離方針についての再確認
・同性愛者差別は行わないが、LGBT運動は不支持である旨
そこまで筋道を立てて話せた訳ではなかったが、こちらの主張は繰り返し強調しておく。
私事で恐縮だが《俺はゲイじゃない》というアピールもちゃんとしておいた。
「え? 個別じゃないんですか?
びっくりした〜。
私、知事です。」
「なんか堂々巡りになってる気がするんですけど…
同じスピーチを繰り返してますよね。
もう1回聞けってことですか?」
幾人か特別扱いを求めて来た者が居たので、特別に退去して貰った。
もう全員に割くリソースは残されていないのだ。
せめて個別対応する相手は俺に選ばせて欲しい。
渋る公職者達を帰らせるのに難儀したので、寺之庄との名刺交換だけ許可する。
相変わらず一緒に写真を撮りたがる者が多く驚かされる。
驚く俺に坊門が囁く。
「選挙は知名度が全てなんですわ。
有名人との写真はそれだけで集票効果があるんです。」
『私のは悪名ですよ?』
「…いや、みんな若者票を欲しいんですよ。
猊下も歳を取ったら分かりますけど、ジジババはジジババが大嫌いなんです。
若者の側に居たいんですよ。」
『うーーーーん。
ゴメンナサイ。
ちょっとそこら辺の感覚が分からないです。』
仕方ないじゃないか。
俺の実年齢は17だ。
還暦過ぎた地方議員の価値感なんか、理解しろという方が難しい。
分からないなりに議員達の思考をトレースする。
斑鳩が俺に全betしている上に、圧倒的知名度、各地で行ったボランティア活動。
きっと選挙的にはポジティブなのだろう。
『それで坊門会長。
この後は出資者の皆さんの挨拶を受ければいいのですね?』
「まあ、出資者言うてもワシや斑鳩の飲み友達ですから適当でええですよ。
とりあえず100億以上の出資をした8人とだけ会ってやって下さい。」
要するに坊門派閥だけを優遇せよという話だ。
こちらも一定の配慮はする。
『ああ、8人でいいなら…
はい、一緒にランチでも食べますか?』
出資者に関しては坊門邸のカネ置き場で応対する。
さっき後藤に押し倒されていた老人もニコニコしながら座っている。
この老人が各金融機関から無慈悲に資金を引き下ろしてしまった為に阿鼻叫喚の事態に陥っているらしい。
『1つお伺いしたいのですが。』
「はい! (ニコニコ)」
『中西会長は途方もない財産を築かれて、別に生活には困っていない訳ですよね?
幾ら日利が高いとは言え、どうして私なんかに預けたのですか?』
「命乞いです! (ニコニコ)」
『え?』
「だって猊下、資本家を憎悪されておられるじゃないですか。 (ニコニコ)」
『まあ、否定はしませんが。』
「なので反共主義から転向します! (ニコニコ)
中西興産も献上します! (ニコニコ)
実家は浄土真宗ですが、神聖教に改宗します! (ニコニコ)」
…参ったな、一番殺したい人種に先に懐に入られてしまった。
うーん、名簿をパラパラめくると中西翁は400億以上を俺に預けている。
(そんな額をどうやって現金化したのだろう?)
つまり俺が原資を膨らませれたのも、この男の功績でもある。
余程の大義名分が無いと殺せないな。
『資本家を憎悪しているのは事実ですけど。
別に私は革命家でもなんでもありませんよ?
それに何かを成し遂げる程の力量もありません。』
中西翁は笑顔を崩さずに首を横に振った。
「はい、猊下は革命家ではありません。
既に王でおられます。(ニコニコ)」
『…そういうのって分かるものなのですか?』
「私はイートン校の出身です。
世界中の王族と面識はあります。
真贋を見分ける位の事は出来ますよ。 (ニコニコ)」
他の7人も中西翁と似たような属性。
病院グループのオーナーだったり、大地主だったり。
あり余るカネでちゃんと世界を観察し、人を見る目を養って来たそうだ。
俺を慕ってるから擦り寄って来た訳ではなく、逃れ得ぬ危険を感じたから出資と言う形でクリンチして来た、そんな印象。
彼らは配当もちゃんと支払われている事に驚き、気が付いたら各所の資産を投げ売って坊門邸に日参していたとのこと。
分かるような分からんような。
1つハッキリしている事は、彼らが金融機関の上得意だということ。
普段であれば、金融商品は気前良く買ってやっていた。
が、俺に乗り換えてしまった。
そのタイミングがたまたま理想郷ファンドの売り出し時期と重なってしまった。
英国にとっては不運としか言いようがない。
「猊下!
今週中には野村と三菱UFJから全額を引き出せます!
その分も異世界ファンドに預けて宜しいでしょうか!」
1人の老人が挙手して喋る。
今年で米寿だそうだが、やたら口調がハキハキしていて感心させられる。
『は?
異世界ファンド、ですか?』
「失礼しました!
皆がそう呼んでいるので!」
元々、異世界ファンドなる名称は我らが天空院翔真の商標だったのだが、いつの間にか俺を表す言葉になったそうだ。
どうやら幾人かの老人達の中で天空院と俺が混同されたらしく、その流れの一環らしい。
坊門が俺に乗り換えるまで天空院を面白がっていたのも混同の原因とのこと。
そりゃあね、確かに紛らわしいよね。
「あ!
猊下!
思い出した!」
『坊門会長、どうされました?』
「猊下が欲しがってた天空院はんの写真集!
ちゃんと買っておきましたよ!」
『おお!
それは素晴らしい!
感謝します!』
「vol.1からvol.3の写真集と、DVDも取り寄せました!」
『おおおお!!!!!』
待望の天空院写真集。
ドバイや深センを舞台に派手に撮っている。
この男はそこまでイケメンではないのだが、余程のナルシストなのかどの写真でも心底楽しそうにポーズを取っている。
それが妙な説得力に繋がっていたのだろう。
ポンジの広告塔としては最適な人選と言えよう。
折角なので皆でDVDを視聴することにする。
《天空遊覧、友よ地球は蒼かった。》
タイトルからして期待をそそられる。
舞台はまさしく先程話題に上がったシティ・オブ・ロンドン。
純白のロールスロイスの後部座席で足を組む天空院がロンドン塔やタワーブリッジを背に、様々なポーズを取りながら人生を語っている。
喋る時に必ずロクロを回しているのも、如何にもあの男らしい。
皆、思わずクスクス笑いながらも天空院の堂々たるビックマウスには好意的な目線を送っていた。
「それでもッ!!
守りたい世界があるんだあああああ!!!!」
最後にロールスロイスの屋根に上った天空院が決めポーズを取るとリビングは温かな笑いに包まれた。
あまりに愉快だったので皆で天空院ゴッコをして遊んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて問題は、いつの間にか16時を回ってしまっている事だ。
寺之庄や七感は俺に時間を知らせるタイミングを探っていたようなのだが、あまりに夢中でDVDを見ていたので声を掛けそびれたらしい。
まあ、事実楽しかったしな。
何せ天空院鑑賞は俺の数少ない趣味の1つである。
坊門が無言で目線を投げ掛けて来る。
17時の【恩寵の儀】をこの8人に見せるか否かを問うているのだ。
『坊門さんはどうしたいですか?』
「ここに居る連中には詳細は何も話してません。
ただ、《詮索はするな》とは言い聞かせてはおりますが。」
『…。』
「見せるデメリットは情報漏洩の危険性ですな。
猊下の奇跡の詳細が世界に知られてしまうのが早まることでしょう。
今の所、知られているのは…
水の上を走る奇跡、トランプで鳥を落とす奇跡、そして何より世界一有名な美少女アイドルを愛人にしている奇跡ですが…」
三番目の奇跡にはツッコまないぞ。
「恩寵の儀の奇跡性は…
社会に与える衝撃がこれらとは比較にならんでしょうなぁ。
世界がアレを知ったら、神認定と悪魔認定を同時にされてしまいますよ?」
『…既にホモ認定されてるんですけど。
そこは上書きして貰えますかね?』
「いやあ、既にWikipediaの《ゲイの著名人欄》にカテゴライズされてますからな。
今から修正するのは神様でも難しいんとちゃいますか?」
『ふむ、次に生まれ変わったら…
Wikipediaにデマを書かせないスキルを所望しておきます。』
結局、今日の複利はこの斑鳩邸で開催することになる。
《詐欺の実演》というタテマエでのみ8名の観覧を許すことにした。
この8人は特に坊門・斑鳩と近しい関西の有力者。
大阪・兵庫の選挙に強い影響力を及ぼす存在であるとのこと。
(このグループを敵に回して関西都市部で選挙戦を戦うのは非常に難しい)
単に政治的スタンスが近いだけではなく、一緒に有馬温泉に遊びに行ったり個人的にも親しい。
要するに坊門は、《自分1人ではなくグループごと取り込んでみないか?》と言いたいのだ。
『では実演の前に、集まってる金額を教えて下さい。』
リビングは既に床がたわみ始めている。
そりゃあね、大工さんだって数千億円の現物を敷き詰める馬鹿の存在までは想定出来ないだろう。
坊門曰く「床なんぞ幾ら抜けても構へんのです。」とのこと。
まあ、カネさえあれば家なんて幾らでも買えるからな。
「おカネが溢れても大丈夫ですぅ。
弊社が住之江区に倉庫を確保しましたので。
当然、猊下に寄進致しますぅ。」
斑鳩がスマホで現地画像を見せて来る。
デカい。
日本通運やヤマト宅急便の物流センターと同規模の倉庫である。
うむ、これなら10垓円くらいの紙幣は保管可能だろう。
(そんなに増えた頃には日本経済は破綻している可能性が高いが。)
『斑鳩会長。
1つ謎なんですけど。
こんな巨大倉庫に納まる位にカネが増えたら…
皆さんの資産が目減りしませんか?』
「…猊下との御縁を越える資産なんてある訳ないじゃないですかぁ。」
『いやいや、私なんかは別に。』
「でもここが革命後ソ連でしたらぁ…
多少の資産なんかよりスターリンとのコネの方が遥かに価値があるでしょう?」
…まあ、否定はしない。
現に異世界でも魔王たる俺との面識の有無が最重要視されていたからな。
だが。
『いや、そこが分からないんですよ。
私、代議士でも経営者でも何でもないただの小僧ですよ?
住所も銀行口座もスマホも持ってない。
そんな私にどうして皆さんが権力の可能性を感じてるんですか?
明らかに異常ですよ。』
「…ある程度の歳になれば、どの若者が伸びるかなんて嫌でも見えて来るんですぅ。」
『そういうものですか?』
「だって私、国内の選挙だけでも100回くらい立ち会ってますよ?
親に言われて1期だけ府議もやりましたしぃ。
そりゃあ、嫌でも見えちゃいますよぉ
若い人の伸びしろなんて。」
『…斑鳩会長が仰るならそうなんでしょうね。』
そりゃあね、肉体年齢17の俺が70代80代の老人の哲学に口は挟めないわ。
彼ら曰く、俺の動画での受け答えや各種のムーブをウォッチしている限り、俺は勝ち確らしい。
中西翁を筆頭に8名が口を揃えて言うのが《20歳ではあり得ない場慣れ感》である。
当然、彼らほどの資産家なら俺のプロフィールは確実に調べ上げている。
(俺が行方を知らない実母・青木明菜の所在を把握していても不思議ではない。)
調べ上げた結果、異世界帰りの噂すらも信じ掛けているのが現状らしい。
ちなみに彼らは東側拉致説には同調していない。
何故なら俺からは中露の臭いがしないから。
彼ら超富裕層は、選挙で言論で裁判で交易で、俺が思う以上に東側諸国と対峙している。
なので東側の息の掛かった者は何となく判別出来るのだそうだ。
『4000億?』
「あ、いえ。
猊下から端数を禁止されておりますので。」
『いやいや、昨日3600億でしたよね?
1日で400億円も増えるって…
どう考えてもおかしいでしょ?
異常ですよ。』
「え?
でも100人居たら、せいぜい1人4億チョイじゃないですか?」
真顔で言い返されてしまう。
『いや、4億も大金だと思いますが。』
「?」
不思議そうな顔で斑鳩が首を捻っている。
まあ、そりゃあね。
この場に居る人間にとっちゃ数億なんて大したカネじゃないんだろうね。
坊門曰く、4億なんてそこらの町医者でも持ってる金額だそうだ。
『100人は多過ぎじゃないですか?』
「御安心下さい!
そのうちの10家は私の一族ですぅ。」
まあね。
閨閥って言葉もあるくらいだからね。
斑鳩や中西程の超富豪なら、一族もさぞかし裕福だろうね。
金持ちは金持ちと結婚するから仕方ないよね。
関西での出資者が100名を越えると聞いて身構えていたのだが、蓋を開けると一部の超富豪一族が出資枠を独占していただけだった。
どうりで斑鳩達が先回りして命乞いして来る筈である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1727億1023万0000円
↓
5727億1023万0000円
※合計4000億円の預託を目視確認
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『えっと、私の計算では…
えっとえっと。
5㌧以上の質量が出現するので…
もう少し離れて頂けますか?
後藤さん! 私の側に来て下さい!』
「トイチさん。
仮に5㌧やとしたら、段ボール500個分ですよ?
お年寄りの皆さんをもう少し下げた方が良くないですか?」
さっきから寺之庄が必死に後退を指示しているが老人達は上の空である。
坊門が叱責して全員を庭に叩き出した。
この爺さんは平気で同階層の人間を殴りアルハラもする。
かなりの暴挙だが《あの人は土佐人だから》の一言で許容されてるらしい。
(何より、一代での成り上がり者なので洗練を求められていない)
まあ俺も平原が何をしようが《薩摩》で納得しているからな。
地域性ってそういうものなのだろう。
「5秒前!!」
後藤が叫ぶ。
あまりの大音声に老人達がやや緊張感のある表情となった。
《859億0654万円の配当が支払われました。》
案の定、カネが屋敷の1階部分に満ち溢れ、壁やガラス扉などの各所が破損する。
というより床から変な異音がしている。
中西翁の義弟(コイツも超富豪)が驚きのあまり尻もちをついた以外は怪我人なし。
「あ! あ! あ! あ!」
8人の中の1人が興奮のあまり痙攣を始めたので、背中をさすって落ち着かせてやる。
七感がハーブティーを飲ませてやって、ようやく落ち着いた。
まあ、気持ちはわからんでもない。
『坊門会長。
それでは整頓と分配を行います。
宜しいですね!』
「はい!
運送部門待機しております!
斑鳩が抑えた倉庫に行きましょうか!?」
『ですね。
一旦現地を視察させて下さい。
えっと、皆さんへの分配は…
田名部さんのチェックを通した後で適切に行って下さい。』
振り返ると8人の老人は無言で目と口を開けっ放しだ。
放心、とはよく言ったものである。
「あのォ、猊下。」
十数分程経って、ようやく落ち着いた中西が話し掛けて来る。
『あ、はい。』
「猊下は…
ひょっとして本当に異世界から来られたのでは?」
『だから、そう言ってるじゃないですか。』
「…はい、失礼致しました。」
そりゃあね。
あんなもんを見せられてしまうとね。
嫌でもそういう反応になっちゃうよね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大阪市の港湾部。
斑鳩が寄進(?)した倉庫にカネを運び入れる。
コンテナボックス一基につき、2㌧のカネを詰めることをその場で決定。
流石の俺も感覚が麻痺して来る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5727億1023万円
↓
6586億1677万円
↓
2586億1677万円
↓
2506億1677万円
※合計4000億円の預託を目視確認
※配当859億0654万円
※元本4000億円の確認。
※配当用の80億円を別途保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ね?
私が引き受けを制限したい理由がわかったでしょ?』
「確かに作業ですなぁ。
誰か預かってくれる方はおられないのですか?」
『このカネが違法であれば警察庁さんが押収してくれますし、合法でしたら国税庁さんが徴税してくれます。』
「流石、猊下!
冷静で的確な分析です!」
『じゃあ、ちゃんと申告しておいて下さいね。』
「え?」
『え?』
「あ、あの…
やはりこのおカネも申告しなければならないのでしょうか?」
『あ、いや。
法律で決まっていることですし。』
確か20万円以上の所得って申告する義務があった気がする。
あ、それはサラリーマンの場合か…
こういう社長連中って税法的にどうなんだろう?
「ち、ちなみ猊下は申告されないのですか?」
『ええ申告はしませんが、国税庁の言い値で納税します。』
「どうして、申告されないのですか?」
『先程御覧になられたように、私は天からカネを与えられている訳ですが…
確定申告書にその旨を明記してしまうと公的機関に自身の神性承認を迫ることになってします。
それは皇室に対してあまりに不敬ですので控えるべきかと。』
「…いや、でも控えめに言っても神に選ばれし者ですよね。
許されるんじゃないですか?
この前は水の上を走っておられましたけど、猊下は神様と対話されたりもされるんですか?」
『まさか。』
「そ、そうですよね。(ホッ)」
『配当額がアナウンスされるだけです。』
「え?」
『律儀に金額だけを教えてくれますね。
それが神なのか単なる窓口職員なのかは分かり兼ねますが。』
「え!?
そ、それだけ?
何かおカネを貰える条件とか?
生贄とか戒律とか!
そういう話は神様としないんですか!?」
『ああ、特に配当に条件はないんじゃないですか?
脳内に配当額の報告が届くだけなので。』
「そ、そんなのもはや資本家じゃないですか!!」
『よく言われます。』
「あ、あの猊下は先程…
地球での目標のお話をされてましたが。」
『ええ、資本家の打倒が私の目的です。』
「そ、そんなの。
猊下以上の資本家なんて存在する訳ないじゃないですか!」
『うーーん、でも先程計測した通り地球では2500億しか手元にありませんしね。』
「…それ日本の長者番付に入ってますよ?」
『いやいや、流石に番付は早いでしょう。』
「だって、総資産1000億弱の私でも70位台から落ちないですもの。
ほら、フォーブスの記事です。
日本の資産家TOP100。」
『へー、こんな記事もあるんですね。
あ、本当だ!
会長のお名前ありますね、98位は奥様ですか?』
「いや、コイツは妹です。
で、猊下の資産を2500億だと仮定すると…
番付27位ですね。
ZOZOの前澤君を追い抜いています。」
『へー。』
「これは凄いことですよ!」
『うーーん。
この番付に載っている方は働いて富を手にされた訳ですが…
私はそうではないですからねえ。
誇るのも筋違いかな、と。』
「脳が混乱するので発言にもっと手心を!」
『あ、すみません。』
皆で積み上がったコンテナを眺める。
預り金の保管・分配責任は斑鳩と坊門が負う。
連絡役は田名部。
『インフレ死しても恨まないで下さいね。』
と一応念を押しておく。
異世界でもそうだったが、内心アホらしくなってくる。
カネって何なんだろうな。
『えっと。
ここまで来るとリスクも相当高くなると思うので、私の周囲から退去して頂いても構いません。
希望者には分配金をお渡しますので、いつでも気軽にお申し出下さいね。』
これは後藤や寺之庄に向けた台詞である。
だが誰も挙手しない。
まあ、そりゃあそうだろうな。
俺から離れた所で、何らかの経済活動をして生きて行かなくてはならない。
でも、俺の側ほど稼げる場所なんて存在しなからな。
「トイチ君、おカネだけじゃなくて…
君を間近で見学出来るって凄いことなんだよ。
僕はトイチ劇場の舞台に上げて貰えてる事を感謝している。」
寺之庄の言葉に皆が大きく頷く。
まあねえ、中々こんな場面には立ち会えないだろうからねえ。
俺が彼らの立場でも、もうちょっと見てみたいって思っただろうな。
人間はカネと好奇心にはまず勝てない。
そして俺はその両方を与える事が出来る。
それだけのことなのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
皆で坊門邸に帰宅し、
床の凹んだリビングに座り込む。
『後藤さん。
もうカネ(物理)はしんどいです。
発動時の負傷リスクも高まって来ましたし。
あー、ここのガラス割れてますね。』
「財務省さんに預かって貰いますか?
どうせトイチさんは世の中の為にしかカネを使ってないでしょ?」
『ですね。
納税という形で引き取って貰いましょうか。』
「日本の最高税率は45%ですから、残りの55%はトイチさんが保管せな駄目ですよ?」
『参ったなぁ。
任意で払わせて貰えないですかね。
手元には100億あれば十分なんですけど。』
「じゃあ、国債でも買ったらええんちゃいます?」
俺は周りに人が居ない事を確認してから後藤に耳打ちする。
『高い確率で債権額にもスキルが効いてしまいます。』
「え!? そうなんですか!?」
『はい。
少なくも異世界では銀行口座に法外な利息がついてとんでもない金額に膨れてました。
債権は買いっ放しで放置してたんですけど、多分酷い事になってたと思います。
私が日本国債買っちゃったら…
結果として日本国を接収してしまう事になると思います。
こちらとしては接収は来年以降にしたいんですよねえ。
身軽なうちに為すべき事柄が多すぎるので。』
「うわぁ。
凄いスケールになって来ましたね。
って言うか、トイチさんが本気出したらどんな国でも破綻してまいますね。」
『地球ではスローペースで戦いたかったんですけど。
坊門さん達があそこまで形振り構わず預けて来るとは思わず…
いつの間にか金額が膨れちゃいました。』
「これからどうするんですか?」
『取り敢えず大阪で詐欺実演を約束しちゃったので…
イベントを開くか、ゲスト参加するかしてお茶を濁します。
後は清磨さんを回収して、早々に関東に戻りたいですね。
ここまで西日本滞在が長引くとは思いませんでしたし。』
「俺もまさか自分が山伏と殴り合う羽目になるとは夢にも思いませんでしたw
エモやんのキチゲが変なタイミングで解放されてしまいましたしw」
再度、烏天狗仮面の雄姿を思い出して2人で笑い合う。
そして江本との無事の再会を祈る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大西から連絡が入る。
この近所に飛田新地なる色街があり、今日はそこで泊まるとのこと。
大阪滞在が最後になる可能性もあるので、皆で近所の串カツ屋を貸し切って夕食を取った。
光戦士が配信したがったので、5分だけ出演してやった。
鳥取で拾ったタキシードおじさんをホテルに放置していたを思い出したので、呼び出して共に卓を囲む。
「モテたいモテたいと思ーとるうちに老境に達してしまーた。」
『なるほどー。』
そんな義理は全くないのだがオッサンの人生相談に乗る。
というかこの人50代だろ?
父親よりも年上の人間の人生に口を出していいものなのか?
「どうやったらモテるんだらーか?」
『え?
それを私に聞きます?』
「猊下はアイドルを彼女にしとります。
現代の勝ち組だよ。」
…さっきも気になったのだがアイドルって鷹見の事を言っているのか?
アイツ、ただの犯罪者だぞ?
『いや、アイツはアイドルを自称する犯罪者ですよ。』
「でも単独ライブも行っとるし、近うファーストアルバムも出る。」
『いや、それは犯罪者がアイドルロンダリングしているだけなのでは?』
「ロンダリングでもなんでも、Wikipediaにアイドルと書かれたらアイドルだよ。
ほら、見てつかんせぇ。」
『うわ!!
鷹見と松村先生がWikipediaでアイドル扱いされてるーー!!!
自分で編集したっぽいけど!!!』
「ほらね。
猊下はアイドルの彼氏なんだよ!
いやあ、羨ましいなあ。
私もそがな人生を歩みたかった。」
『うーん、石賀さんも配信してみたらどうでしょう?』
「え!? 私が!?
いやあ、自分には何の取り得も特技もないけぇ。」
『タキシードを着て配信すれば?』
「あ、いや。
この服装は恥ずかしいし。」
『でも、この格好でイベントに来た訳じゃないですか?
鳥取市内で見られるか、全世界に見られるかの違いでしかありませんよ。』
「うーーん。」
『今度、イベントする時に手伝って下さるなら、スタッフとしての立場で配信して下さっても構いません。 当然、手伝いに関しては報酬もお支払いします。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
2506億1677万円
↓
2506億1177万円
※石賀一博に支度金500万円を支給
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この男の使い道が分からなかったので報酬を先払いしておく。
意欲があれば本人から有用性をPRしてくれるだろう。
こういう人間を100人集めても5億で済む。
100人居れば誰かは役に立つだろう。
今の所、そんな思惑である。
石賀にねだられたので、不本意ながら鷹見に連絡を取ってみる。
正直に言えば今日は早く帰って寝たいのだが、まあ仕方ない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【お客様は神様です!】 夜猫@コメ返しSPECIAL!! [雑談]
※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます
「どうもー。
夜猫@の夜更かし担当!
相模の獅子ッ!!
ルナルナ@貫通済でーーす!!!
Japanese only!! Japanese only!!」
「こニャニャちニャー♪
夜猫@の百合猫営業担当!
仰げば尊と恩師ッ!
奈々ちゃんでーーす!!!
本日は溜まりに溜まったコメ返しの日だニャ―♪」
「編集スタッフが面白いと感じたコメントをピックアップしてくれました。
だからねー、偏りはあると思う。」
「今回返すのは日本語で書き込まれたコメントだけニャ。
申し訳ないけど、ネイティブに理解出来ない文章は総カットニャ!」
「はい!
それでは最も多かったコメントベスト3のコーナー!」
「もう予想が付いてるニャー。」
「1位から読みまーす!
《夜猫@はどっちがタチでどっちがネコですか!》」
「1000回くらい答えた気がするニャ。
じゃあお姉様。」
「せーの。」
「「貢ぎマゾプランに入れ!!」」
「その先は君自身の目で確かめてくれニャ!!」
「ちなみによっぴーに翻訳させたところ…
日中韓からのレズ関連質問は、殆どがこのパターンだそうです。」
「大体、エロツボが似てるニャ。」
「逆にねー。
英語圏のLGBT関連コメントは殆どエロ要素なくて、ガチの政治的質問ばっかりなんスよ。」
「マクロン政権への賛否とか聞かれても困るニャ。」
「ウ↑チ↓らは別にそういう目的で配信してる訳じゃないって言ってるんだけどね。」
「取り敢えずアイコンに虹マーク付けてる奴は全員ブロックニャ。」
「はい、それでは次に多かったコメント!」
「はいニャ!」
「言っていいのかなあ。
《トイチを出せ。》
これなんですわ。」
「それニャ。」
「昨日なんか政治家の秘書の人にTwitterでウザ絡みされたわ。」
「連絡先教えろの1点張りだったニャ。」
「ダーリン様は住所不定無職スマホ無しだっつーの。」
「担任として責任を問われるレベルの現状だニャww」
「はい! 続きましては!
あるある第三位!!」
「微妙にコメ返しから逸れてるニャ!」
「Twitterで書かれまくってるんですけど。
《鷹見絶対整形したよね。》
コレ。」
「多分、女が男のフリしてるアカウントだニャ。」
「先週くらいかなー。
ライブ動画がバズリ出してから、急にルックス関連の誹謗中傷が増えた。
多分、女の書き込み。」
「マジレスするとお姉様は毎日配信してるから、整形に行く暇ないニャ。」
「えっとねえ。
ややフライングになるんだけど…
スポンサーに《まるもと美容外科》さんが入ってくれたのね。
業界じゃ結構強いんだったか?」
「国内シェア11位。
全国23カ所にクリニックがあるニャ。」
「正直に言いますね?
ウ↑チ↓、顔面コンプかなり強かったんで、整形願望もありました。
ただねえ、実際にカウンセリング行こうとするタイミングで金欠になったりパクられたりで…
全然行けなかったのね。
丸本会長は《タダで最高の施術をしてあげる》って仰って下さったんだけど。
うーーーん。
正直、あんまりモチベない。」
「まあお姉様は有名人になっちゃったから。
今から整形したところで…」
「それな。
バズる前だったら、この話飛びついていたと思うんだけど。
今更なぁ。」
「で?
結局施術は受けニャいの?」
「うん、会長にはそう言ってある。
あ、勿論宣伝は真面目にするよ。
まあコメントが多いTOP3はこんな感じだな。」
「1位タチネコ論争、2位トイチ関連、3位整形煽り。
…ロクなコメントないニャ。」
「いや、個別では結構面白いのはあったんだよ。
志倉、読み上げてくれ。」
「はい!」
「変態系は外せニャー!」
「コンコルドさんのコメントです。
《お2人の好きな動物を教えて下さい。》」
「小学生みたいな質問だな。」
「奈々ちゃんは当然猫ニャ!」
「じゃあウ↑チ↓は鷹で。」
「適当が過ぎるニャ!」
「アッキーさんからのコメントです。
《次に出演するAVを教えて下さい。》」
「ゴメン、契約の関係でまだ予告しちゃ駄目なんだわ。」
「まあ、そのうちレーベルさんが派手に告知してくれるニャ。」
「金言居士さんからのコメントです。
《岸田内閣の増税ラッシュをどう思いますか?
当方、新潟県にて自動車ディーラー勤務。
年々上がる社会保障費に、もう耐えられません。
娘にはピアノを習わせてやりたかったのですが…
それも泣く泣く断念しました。
真面目に働いている人が普通に暮らせない。
こんな日本の現状はどう考えてもおかしいです。
私が若い頃はもっと未来に希望がありました。
増税と海外バラ撒きばかり積極的な岸田内閣。
民主主義とは一体何なのか…》」
「はい、ストップニャー。
志倉、オマエどうしてこんなコメント選んだニャ。」
「スミマセン!
一番長いコメントだったので気になってしまって。
ここまでで全体の2割くらいです。」
「長ッ!!」
「どうするー?
政治系のコメント無視しとくニャ?」
「こういうさー、真面目系のコメントはダーリン様に丸投げしない?
あの人、小難しい話好きでしょ。」
「ああ、賛成。
たまにはアイツにも役に立って貰うニャ。」
「志倉ぁ、次は短いコメント読んで行け。」
「デビルトムボーイさんのコメントです。
《全財産2万円切った!!》」
「トイチにタカれニャ。」
「ウンコマンさんのコメントです。
《電車で漏らした!》」
「幼稚園からやり直せニャ。」
「《AI生成断固拒否
日本はEUと歩調を合わせて
全面廃止に踏み切るべき》さん
からのコメントです。
えっと、相談内容が…」
「ハンドルネームで全部主張してるじゃねーかww」
「一発マンさんからのコメントです。
《一発やらせて》」
「奈々ちゃんは高いニャー。
多分オマエ、各レーベルからの出演料知ったら驚愕するニャ。」
「ウ↑チ↓は妾とは言え人妻だからな。
奈々と志倉以外とはヤラないぞ?」
「///。
カメレオンさんからのコメントです。
《同性結婚ってどう思いますか?》」
「ポリコレは荒れるからやめろニャー。」
「この人同じコメントを
数千回送って来てるんです。」
「うわ、キッショ。」
「それ頭の病気ニャ。」
「何て回答しますか?」
「うわ、キッショ。」
「それ頭の病気ニャ。」
「種付けオジサンからの質問です。
《ウクライナ戦争関連で儲かる株は?》」
「えー? ウ↑チ↓株とか持ってないからなあ。
まあ、順当にダーリン様と仲がいい会社の株じゃね?
知らんけど。」
「下がったらトイチにタカれニャ!」
「ブルームバーグさんからです。
《イーロン・マスクに一言!》」
「Die, you bastard.」
「何で喧嘩売る時だけ流暢になるニャ!!」
「ちょ!! 英語は止めましょう!
公式には英語喋れないことになってますから!」
「Shut up! Idiot! Fuck you!」
「はい、鷹見さんはチクチク言葉を止めましょう。
国際化著しい現代、1人1人が日本を代表しているという自覚を持って。
尊厳を持った姿勢で社会と向き合って行きましょうね。」
「豚魔人さんからのコメントです。
《早期退職して田舎で農家になりたいです。》」
「え? なればいいんじゃないッスか?」
「まあ、生き方は人それぞれだニャ。」
「エロ河童さんからのコメントです。
《志倉ちゃんを出せ。》」
「え? オマエ、そのコメント自分で読むか?」
「何だ志倉、オメーもアタシコ欲に負けたニャ?」
「いえ、あまりにこのコメントが多かったので。」
「まあ、流石に…
出たけりゃ出てもいいぞ?」
「プライバシーと引き換えにアタシコ欲を満たせニャ。」
「あ、じゃあちょっとだけ。」
「うわっww
いきなり画面に入るなww」
「あーあ、オマエは苗字も珍しいし
すぐに特定班動くニャぞー。」
「えへへ、ちょっと怖いですね。」
「まあ、無理はすんな。
今でも十分助かってるからな。」
「では気を取り直して、次のコメント。
ロンドン出羽守さんからです。
《EUの物価が洒落にならないです。
日本はどうですか?》」
「えー、どうだろ。
奈々、どう思う?」
「日本でも消費者物価は上がってるニャ。
ただ、夜猫@一党に関しては、先月からバズってるから…
昨年までとの公平な比較が困難だニャ。」
「松永爆弾正さんからのコメントです。
《お2人は始めてみたい趣味とかありますか?》」
「うーーーん、何だろう。
時間があれば楽器は覚えたいかな。
正直、ダンスはあんまり性に合ってないから。
ライブの時はギターとか弾きたいんだよね。」
「奈々ちゃんはボルダリングとカヤックとスカイダイビングとワインソムリエ資格取得と化粧品ブランドの立ち上げがしたいニャ!」
「廃帝エドワードさんからのコメントです。
《内々にトイチ殿に面会する事は出来ませんでしょうか?
僅かではありますが、面識は既にあります。》」
「いるんだよニャー、こういう奴。
奈々ちゃんはトイチの受付じゃねーっつーニャ。」
「志倉。
自称ダーリン様の知り合いはさあ。
面識がある証拠を必須にしよう。
口頭だけの奴はミュートでいいよ。
あのさあ、ダーリン様の知り合いを自称するなら、せめて証拠を見せてよねー。
あの人も忙しいんだから、見え透いた寄生狙いは止めてねー。」
「わかりました!
えっと次のコメントがトマホークさんですね。
あ!!!」
「ん? どうしたニャ?」
「トイチさんから通話申請来ました!!」
「嘘ォーー!!???」
「どうせ光戦士と乳繰り合ってるに1000ペソ賭けるニャ。」
「繋いでいいですか!」
「是非是非!!
流石にダーリン様と言えどホモりながら通信はして来ないだろう!!」
「あ、寺之庄さんいつも調整ありがとうございます。
はいはい、こちらはいつでも可能です。
ええ、そのまま起動して頂けば、はい。
5秒後、スタジオに繋ぎまーす!」
「しゃあ! しゃあ!
女の歓びカップル配信来たよー!!!」
「はい、繋がりましたー!」
「ッしゃあ!!!」
『あ、鷹見。
今、大丈夫?』
「もー、リン兄ちゃん♪
そっちの串はボクのなのだぁ♡」
『えー、さっきから君ウズラばっかり食べてないかw
最初は嫌がってた癖にw』
「食べてみると美味しいのだ♪」
「…。」
「…。」
『あれ? 俺の声聞こえてる?』
「あ!
ルナ姉ちゃん、猫オバサン、久しぶりなのだー♪」
「…聞こえてます。」
「1000ペソGETニャ。」
『あのさあ。
この人が配信者になってみたいって言ってるんだけど。
今度そっちでイベントとかあったら出演させてあげてくれない?』
「そ、そのタキシード姿のオッサンは誰ニャ?」
「初めまして
遠市猊下の執事の石賀と申します。」
「お、おう。」
「ど、どもニャ。」
『図々しいお願いなんだけどさあ。
石賀執事も配信に混ぜてあげてくれない?』
「え?
いや、ダーリン様のお願いであれば大抵の事は聞き入れたいのですが…
我々もスポンサーとの契約等がありまして…
ダーリン様以外の男性演者を画面内に入れられないんです。」
「図々し過ぎニャ。
ってか、オマエどこに居るニャ!?
山陰? 四国?」
『昨夜関西に戻って来たんです。
それ今、大阪市内の串カツ屋で懇親会ですね。』
「懇親会~ッ!?
ウ↑チ↓、そんなの呼ばれたことないんスけど!」
「オマエは恩師不覚悟で切腹ニャ!!」
『梨羊羹(税込み450円)を送りましたよね?』
「愛が軽い!」
「恩師料金が足りないニャ!」
「ねえ、兄ちゃん。
ボク眠くなってきちゃった。」
『長距離移動が続いたからな。
帰って寝るか。』
「駐車場までおんぶー♥」
『えー、どうしようかなーw』
「ちょ! 待てやテメー!!」
「え!? 通話の用事それだけニャ!?」
『じゃあ鷹見、そのうち関東に帰るから。』
「…帰る帰るってアンタ。
全然帰って来ないじゃないっスか!!
いつ!? いつ帰って来るの!?」
『落ち着けよ。
何かねー、証券会社のセレモニー?
それに明日出席しなきゃいけないみたい。
知らんけど。』
「え? 証券?
何で?」
「あ! トイチ!
上がる株を教えろニャ!!」
『うーん。
今月は特に社会に影響を与える予定がないんですよ。
あ、でも。
証券・銀行は全面ストップ安になるんじゃないですか?
何社か破綻すると思います。』
「え? 空売りしろってことニャ!?
ちょ!!!
そこ詳しく!!!」
「あ! 兄ちゃん!
デザートのプリンが来たのだ♪」
『お、いいねえ。
甘いものが食べたかったんだよ。
はっはっは。』
「食べさせてー♥」
『ははは、どうしよっかなーw』
「ちょ!!
ダーリン様!!!」
「コラ―!!
トイチ、コラー!!」
「つ、通信切れてます。」
「…。」
「…。」
「…泣いていいッスか?」
「…腕枕代は1000ペソになりますニャ。」
「コメント返し中止しますか?」
「…ゴメン。
ウ↑チ↓、今日は上がるわ。
流石にメンタルもたない。
鷹見out志倉inで。
適当に返事しておいて。
ほら、1000ペソ。」
「え? あ、はい!」
「毎度ありニャ。
ジョリビーでCセット食えるニャ。」
「あ、どうもー、シクラメンですぅ。
ルナさん、本当に出て行っちゃいましたね。」
「この世の悲劇の元凶は概ねトイチだニャ。
志倉、コメント返しとけニャ。
後、新潟ディーラーの長文も送っとけニャ。」
「あ、はい!
了解です。
次はブリブリ次郎さんからのコメントです。
《プロレス技掛けられたい!》」
「あー、これ多分お姉様へのコメントだニャ。」
「じゃあ、首四の字固めをするようにお願いしておきます!」
「お姉様は捻くれてるから、足四の字掛けて来るニャ。」
「続いて、ハローワーク出禁さんからのコメントです。
《誰にでも出来る儲かる商売を教えて下さい。》」
「誰にでも出来る=儲からない。
この鉄則は覚えておけニャ。」
「すき焼きバトルさんからのコメントです。
《一緒に呑みに行こうぜ、ウェーイ!》」
「…志倉、行きたいかニャ?」
「いえ、別に。」
「チーム夜猫@の晩飯が、自然に飲み会的な雰囲気だからニャ。」
「言えてますね。
私、ビールなんて生まれて初めて飲みましたもの。
続きましては、ゴンザレスさんのコメントです。
《シクラメンちゃん可愛い!》」
「オマエ、自分で読んでて恥ずかしくないニャ?」
「羞恥よりも恐怖を感じます。」
「この配信を観てるのは性欲を持て余したオスが大半ニャ。」
「男性の性欲って怖いんで、そういうの向けて来ない人がいいです。」
「じゃあホモと結婚しとけニャ。」
「流石に遠市さんを狙うのはマズいですよ。」
「じゃあ遠市にホモを紹介して貰えニャ。」
「そうします!」
「よーし、コメント読めニャー。」
「次は前科者さんからです。
《ルナルナに憧れて寿司ペロしたら告訴されて専門学校を退学させられた。》」
「お、おう。」
「何て返します?」
「お姉様は寿司ペロしたからバズったんじゃなくて…
元々、凄い人が事件を切欠にブレイクしただけニャ。」
「奈々さんってルナさんへの評価高いですね。」
「今まで付き合った中ではダントツのベスト彼氏ニャ。
強くて格好良くて漢気あるニャ!
チ●ポが付いてない以外に欠点がないニャ。」
「おお!」
「よっしゃーww
奈々ちゃんの中で楽しい配信になったニャーーwww
志倉ぁ、ラスト面白いコメント読めニャ♪」
「わかりました!
えっと、えっと。
あ、これとかどうでしょう。
《遠市猊下の開いたイベントで人生初彼女が出来ました。
多分、結婚します!》
だそうです。」
「…はい、遠市君はまずは自分のパートナーを尊重することから始めましょう。
身近な人を傷つける人間に社会や世界を救済する資格はありませんよ。」
【この配信は終了しました】
【名前】
遠市・コリンズ・厘
【職業】
神聖教団 大主教
東横キッズ
詐欺師
【称号】
女の敵
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 15
《HP》 左頬骨亀裂骨折
《MP》 万全
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 ライジング・カード!
《魔力》 悪の王器
《知性》 悪魔
《精神》 吐き気を催す邪悪
《幸運》 的盧
《経験》 206483
本日取得 0
本日利息 26933
次のレベルまでの必要経験値121187
※レベル16到達まで合計327670ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定
※クジラの経験値を13000と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利15%
下4桁切り上げ
【所持金】
2506億1177万0000円
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
荒木のカバン
白装束
天空院翔真写真集 Complete!!
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
『100倍デーの開催!』
× 「一般回線で異世界の話をするな。」
『世襲政権の誕生阻止。』
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
「空飛ぶ車を運転します!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
『遠市王朝の建国阻止。』
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇藤田勇作 『日当3万円。』
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
〇 「お土産を郵送してくれ。」
「月刊東京の編集長に就任する。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
×警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
「オマエだけは絶対に守る!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
「一緒にかすうどんを食べる」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げたのんます。」
〇荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
〇 『子ども食堂を起ち上げます。』
〇田名部淳 「全財産を預けさせて下さい!」
三橋真也 「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」
〇DJ斬馬 『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』
金本宇宙 「異世界に飛ばして欲しい。」
金本聖衣 「同上。」
金本七感 「17歳メインヒロインなので旦那との復縁を手伝って。」
天空院翔真 「ポンジ勝負で再戦しろ!」
〇小牧某 「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」
阿閉圭祐 「日本国の赤化防止を希望します。」
〇坊門万太郎 「天空院写真集を献納します!」
宋鳳国 「全人類救済計画に協力します!」
堀内信彦 『和牛盗難事件を解決します。』
〇内閣国際連絡局 『予算1000億円の確保します』
毛内敏文 『青森に行きます!』
神聖LB血盟団 「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」
〇大西竜志 「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」
坂東信弘 「四国内でのイベント協力」
国重辰馬 「四国内でのイベント協力」
涌嶋武彦 「畜産業界の総力を挙げて遠市派議員を衆議院に最低10名押し込みます!」
斑鳩太郎 『処刑免除を保証します。』
志倉しぃ 「カッコいいホモの人を紹介して下さい。」
〇木下樹理奈 「一緒に住ませて」
×松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇 「仲間を売るから私は許して♥」
◎鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
× 「ポン酢で寿司を喰いに行く。」
土佐の局 「生まれた子が男子であればリイチ。
女子であればリコと命名する。」