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【降臨46日目】 所持金852億2565万0000円 「残念ながら時間切れのようだな。」

昨夜顔を出した香川の商工業者の飲み会。

アルハラ色の強い集まりを覚悟していたが、思ったよりおとなしかった。

メンバーの平均年齢が70歳後半だった所為もあるのだろう。

一人一人に酌をして回っているだけで、それなりに可愛がって貰えた。

(そりゃあね、皆さんのお孫さんより俺の方が年下だからね。)


・隠し芸をしろ

・カラオケを歌え

・一気飲みをしろ


俺はここら辺を覚悟しており、老人の好みそうな楽曲も即興で練習していたのだが杞憂に終わった。

ウルフルズとか湘南乃風とか《元気のある若者》と好意的に受け止めて貰えそうなアーティストの曲を後藤に調べて貰い、2人で小一時間練習したのだ。


23時を過ぎた辺りで、メンバーの御家族が迎えに来だしたので、俺も店の玄関まで出て笑顔で見送った記憶がある。

やや強めの雨が降っていたので老人達が濡れないように、車の入り口まで傘を差して送った。



若手の有志(それでも全員還暦を過ぎている)が2次会に誘ってくれたので、懇意のスナックにお供した。

例によって有志の1人が愛人にやらせている店だった。

俺が『下呂や岡山でも同じ話を聞きました』と言うと、皆が爆笑しながらその話を聞きたがった。



「それにしても…

四国なんかに猊下みたいなビッグネームが来てくれるなんて…

本当に感激ですよ。」



『あー、いえいえ。

私如きは、そんな。』



「よく言うでしょ、アーティストの全国ツアーって。

あれね、毎回四国は除外されるんですよ。」



『そういうものなんですか?』



「四国は人口少ないし、県同士も離れてるからねえ。

大きなホールもないし。

徳島・高知は貧民の集まりだし、我々讃岐の人間は溜め込むだけでカネ払い悪いからねえ。」



老人達が腹を抱えて笑い出す。

思い当たるフシがあるのだろう。



『今日の宴会も豪華でしたし、悪いイメージはありませんでした。』



「あれはねw

猊下が来られると聞いたから、みんなで慌てて店のランクを上げたんですよw」



『え!?

そうだったんですか。

申し訳ありません!

そこまで気を遣って頂いてたとは露知らず。』



「見栄w見栄w

若者の前で恥をかくのが怖かっただけですよ。

会長なんか半泣きでパニックになってましたもの(笑)


猊下だって骨付き鳥だけデーンと出されても困るでしょう。

香川はねー、駄目なんですよ。

うどんとか骨付き鳥とか、そういうのしかないからw」



『いえ、駄目なんかではないですよ!

あ、あの。

かっしゃ焼きって料理を食べさせて頂きまして。

凄く美味しかったです。』



老人達が笑いを止めて、真顔でこちらを振り向く。

何か問題発言をしてしまったのだろうか。



「…猊下は来られたばかりですよね?」



『…あ、はい。

一昨日に到着致しました。』



「遍路以外も回られておられるんですか?」



『いや、お遍路も全然なんです。

望遠鏡の博物館に挨拶に行かせて頂いたり。』




「…。」



『あ、あの。

私が何か不躾を申し上げてましたらお詫びさせて下さい。』



「…逆ですよ。

上辺だけの御訪問ではないんだな、と感じました。

正直、嬉しいです。」



『…。』



「選挙の応援演説でうどんだけ食って帰る政治家とか居ますからね。」



『…いえ、私も似たようなものだとは思いますが。』



「…1点質問させて下さい!

猊下は全国で子供食堂イベントを開くと仰られてますが…

四国も含まれてるんですか?」



『あ、はい。

勿論です。

予算は出来るだけ平等に分配されるべきです!』



「…例えば、この香川県ではどのようにイベントを運営されますか?

自分で言うのもおかしい話ですが、ここはかなり難しい土地ですよ?」



『まだ発表前なのでオフレコにして欲しいのですが、高松市に友人のDJを招いてイベントを行います。』



「DJ? あのレコード回してるDJ?」



『はい、社長が今連想されておられるDJです。』



「…えっと、それは子供食堂とは。」



『直接的には関係がありません。

ただ、フライヤーに趣旨を明記する取り決めを昨夜店舗様と交わしました。』



「え? 昨日?」



『店とDJを抑えたので、ああ勿論ギャラは支払い済みです。

日付は来月1日から3日連続。』



「…はい。」



『お手元のスマホで検索して頂きたいのですが…

DJ斬馬。

阪神間ではかなりの有名人です。』



  「あ! すぐに表示された!」

  「wikiも充実してますね。」

  「OWLは昔よく行ったなあ。」



『まずは支援の恒久化を前提としたパイプを作ります。

これは香川県だけではなく、全国で随時展開します。』



「…おお。」



『イベントを開きながら、協力者を募ります。

口だけで《やりたい、やりたい》と言ったところで誰も信じないと思いますので。』




いつの間にか仕事の話になっていた。

要はプレゼンである。

今まで俺が何をして来たか、老人達に東京・浜松・名古屋での事例を口頭で解説し、検索で裏取りして貰う。



「いや、東海道沿いは人口も多いし、施設も充実してるから可能なんですよ。

この辺は逆なんです。

四国の中心と言われているここ高松でも、大箱はありませんし…

集客も難しいと思います。」



『うーーーん。

来場者10人でもいいんじゃないですか?

それで楽しんでくれるのなら。』



「いやいや!

幾ら高松でも猊下が声を掛けて10人って事はないですよ!

さっきの寄り合いでも50人は居たでしょ?

普段は来ない会員も、猊下が来ると聞いて駆け付けたんですよ。」



『何人なら固いですか?』



「うーーーん。

曜日にもよりますけど。

猊下でしたら、300は余裕でしょう。

みんな娯楽に飢えてますから…

いや500は簡単に集まりますよ。

人が集まらなかったら、ウチの社員動員しますし。」



『じゃあ、1000の箱をキープします。

大箱が無いのなら、500の箱を2つ。

それも無ければ100の箱を10個キープしてスタンプラリー的に連携させます。』



「あ、いや。

それはありがたいのですが。」



『申し訳ありませんが、従業員の方の休日動員は不可。』



「え!?」



『宜しいですね?

こちらも独自で追跡調査しますよ?』



「あ、はい!

それは勿論!

はい!

仰る通りです!」



異世界時代に小耳に挟んだ話だか、 ソドムタウンには労働者慰労の打ち上げパーティーの後片付けを自分達だけでやった経営者も居たらしい。

顕彰の為にも是非面会したいと思い、ポールに調べさせたのだが特定は出来なかった。

だが俺には見知らぬ聖人の偉業から学ぶ責務がある。

奪った労働者の時間で名声を買おうとするような風潮は、直ちに撲滅されなくてはならない。

イベントの運営に複数の事業家が噛む事が目に見えている以上、労働者への搾取が起こる可能性は出来うる限り摘んでおかなくてはならないのだ。



『場所は…

香川1県イベントならJR高松駅周辺。

四国全体でやる場合は、直線距離的な意味での全体の真ん中を探します。』



「…でしたら、四国中央市。」



『あ、地図で見た事あります。

如何にも真ん中っぽくていいですね。』



「アイツらが勝手に自称してるだけですけどねw

あの命名には我々も結構クレーム入れたんですよ。

何様かとw」



『あははは、怖い怖い。』



「でもまあ、猊下の主張は通じると思いますよ。

要は公平性ですよね?」



『ええ、はい。』



「あの辺、知り合いが多いので情報集めておきます。」



『…ありがとうございます!

非常に助かります!』



「あ、いや。

助けられてるのはこちらですので。


選挙には出ないのですね?

出馬されるなら全力で支援しますけど。」



『いえ、私は被選挙権がありませんし

教義上、猟官が禁止されているのです。』



教義を明文化しないのって本当に卑怯だよな。

異世界の宗教の話なんてされても、確かめようないじゃないか。


尤も…

今のところ極めて原理主義的な姿勢を貫いているのでヨシ!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


541億1045万9000円

   ↓

540億1045万9000円


※高松青年クラブに1億円を寄贈 

(宗教団体からの出資である為、領収書は固辞)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




別に頼んだ覚えは無かったのが、大西竜志が店の前でずっと待機してくれており、屋島まで送ってくれた。

背後に追走する車両のハンドルは寺之庄が握っている。

大西をもっと上手く使え、という暗黙のメッセージなのだろうか?

いや、《現地人を味方に付ける術を身に着けよ》のニュアンスの方が大きいのだろうな。


二日酔い防止の為か、アルファードの中でペットボトルの水を飲ませてくれた。

先程も会場で配って好評だったシジミカプセルをガブガブと流し込む。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


540億1045万9000円

   ↓

540億1035万9000円


※大西竜志に日当10万円を支給



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「ガルパン君はこの後どうするんか?」



『起床したら、予定通り土佐入りします。』



「1個謎なんやけど。

何でそなんウロチョロするんか?」



『嫁に追い回されてるだけですよ。』



「あはははは、俺と一緒じゃなあw

親近感が湧くわい。


じゃ、ソープ行って来るわ!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



起床。

まだ少しだけ酒が残っている。

だが、不快感はない。

シジミカプセル、結構効果あるのかもな。


シャワールームで念入りに身体を洗う。

時間を掛けて丁寧に歯を磨く。


着替えは…

白装束だな。

もうこれが俺の正装だ。



「リン兄ちゃん、おはようなのだ。」



『やあ、おはよう。

昨日はちゃんと眠れたかい?』



「やることないから、ずっと配信してたら

《不登校児の癖に夜更かしするな》って炎上しちゃったのだ。」



『…Twitter?』



「コメ欄とTwitterが地獄だったんすよ、ぴえん♪」



『それにしては妙に表情が余裕だな。

ひょっとしてファンが増えたとか?』



「お、流石は本職の詐欺野郎なのだ。

炎上すればするほど登録者数が増えるんすよ。

おかげで挑発がやめられなくなってしまったのだ。」



『はえぇ。

それは深刻な現代病だな。』



「ぼ、ボクだって良くないとはわかってるのだ!」



『あ、いや。

見てる連中が可哀想だと思ったからさ。』



「あ、そっちっすか。」



『あの、配信者としての光戦士君に質問なのだけど。

君のファンやアンチって、幸せな人生を歩んでるのかい?』



「…んな訳ないってわかってるんすよね?」



『まあ、幸福な人間はTwitter火遊びに興じている暇なんてないだろうからな。』



「非モテ童貞中年共が、子育て論を熱く語ってるっすね。

ガルちゃんでは羊水賞味期限切れ無産オバサン達が、ボクのママ上を強烈にバッシングしてるのだ。

まさしく地獄なのだ。」



『…ふーむ。

その人達の傾向はわかるかい?』



「傾向?」



『いや、社会的な属性とか…

趣味とか特技とか。』



「うーーーん。

ボクが不登校少年って事もあって

学歴厨が多いっすね。

それにリン兄ちゃんへの批判も多いのだ。」



『え? 私?』



「兄ちゃんは高校中退でしょ?

そんな人間がボクを連れ回してるのが

気に食わないみたいなのだ。

ボクのパパ上とママ上も高校中退なんだけど、そんな夫婦がリン兄ちゃんを全肯定しているのも腹が立つみたいなのだ。

コメ欄でもそいつらは学歴自慢しながらボクを叩いてくるのだ。」



『ふむ。

エリートの感情を害してしまっているという事だね?』



「…逆。」



『え?』



「多分、みんな引き籠りとかフリーターとか…

生活もかなり苦しいと思うんすよ。」



『でも、ちゃんとした大学を出てるんだろ?』



「…これ、パパ上から

絶対に外では言っちゃ駄目って言われてるんすけど。


世の中には…

《親から買って貰った学歴以外に誇るものがない人》

がいっぱい居るのだ。」



『それ! 絶対に外で言うなよ!!』



「いやいや!

流石のボクも空気を読んでるのだ!

刺されるの怖いし…」



『つまりストロングポイントが学歴しかない人は、不登校とかの話題に敏感。

なので不登校系として有名な君の配信に集まっている、と?』



「他にも不登校系の配信者は何人か居るんだけど…

ボクがいい暮らしをさせて貰ってるのも、炎上し易い原因なのだ。」



『いい暮らし?

いや、野営から野営の連続で、寧ろ君や君の御両親に申し訳なく思っているのだが。』



「…でも、ここのグランピング施設。

どう見ても上級国民用なのだ。

検索したら1人一泊11万円だったし。」



『あ、いや。

確かに、高いかな…

セキュリティを重視しているだけなのだが。

すまない、私も感覚が麻痺してしまっている。』



「後、みんなの憧れ夜猫@と仲良しなのも恨まれてるのだ。」



『え?  ヨル…  何?』



「自分の嫁さんのユニット名くらい覚えとけなのだーー!!!」



『あ、ごめん。

なんかわからないけど、ゴメン。』



「夜色姉ちゃんと猫オバサンの話なのだ。」



『ああ、何かワチャワチャやってるな。

いいんじゃない、仲良くやってるみたいだし。』



「いい歳こいてあの猫耳はキショイのだ。

あんなキチガイに教員免許を与えておいて

子供に登校を強いるなんてまさしくヘルジャパン。」



『まあ、ようするに君は嫉妬されてるんだな?』



「あ、兄ちゃん《嫉妬》って単語は絶対駄目っすよ。

オジサンオバサン総発狂するから。

NGワードなのだ。」



『へえ、配信も大変なんだな。

やっぱり、私はやめておこうかな。』



「リン兄ちゃんは確実に地雷を踏むタイプなのだ。」



『いや、言葉には気を付けてるつもりなんだよ?』



「気を付けてそれなら、暗い海の底で貝になってろなのだ。」



『はーい。

地球で炎上したら異世界に逃げ込みまーす♪』



「コイツの逃げ癖見てたら我がフリを治したくなるんすよね。」




5ちゃんねる・ガルちゃんといった俺でも名前を聞いた事がある掲示板では、光戦士とその両親への根拠なき誹謗中傷が溢れていて驚いた。

注意深く読み解いて行くと、やはり学校・学歴がテーマ。

学校に通わない者が社会的に成功してしまう事への不快感。

要は、自分達の獲得した学歴が無価値化することへの反発なのだろう。



『私、異世界の大学で名誉博士号いっぱい貰ったんだけど…

それで何とか宥められないかな?』



「どうせカネで買ったんすよね?」



『買ってない買ってない!

私が大富豪だったから、アカデミーが擦り寄ってきただけ!』



「少しは恥を知れなのだ、この資本家野郎。」




俺と光戦士がソファーでそんな話をしていると、皆に呼ばれる。

大阪に行った江本も未明には屋島に戻っていたらしい。

食事は施設側が用意してくれた鯛と蛸のカルパッチョ。

表面を少し炙ってくれたので、食べ終わってしばらくしても口の中が香ばしい。

腹ごしらえが済んだので、出発する。


荷物は既に整理済み。

車両4台体制で土佐入りを目指す。

29番土佐国分寺にて参拝後、昼までには高知市街に入る予定。



・寺之庄車(坊門翁寄贈キャンピングカー)

・江本車 (江本父の名義)

・田名部車 (田名部の私物)

・4㌧車 (坊門翁の会社名義)



俺はキャンピングカータイプの寺之庄車に光戦士・坊門と共に乗り込み、車内で皆と通話連絡をする。

仲間が全国に散っている分、出来るだけ接触回数を増やしておきたいからな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【浦上衛】



「申し訳ありません!

待ち切れず四国上陸しました!

八幡浜を越えて、大洲に入った所です!」



『え? 大分から来られたんですか?』



「いやいや対岸ですもの。

私の自宅から薄っすらと佐田岬が見えますもの。」



『ああ、そう言えば。

確かに。』



「松山で一発景気づけしてから高松にお邪魔して宜しいですか?」



『ああ、いえ。

今、高知県に向かっておりまして。

差し支えなければ来られます?

広めのグランピング場ですので駐車場の余裕はあります。

敷地内の宿泊可能施設としては、ドームテント7つとトレーラーハウス2台です。』



「おお!

行きます!

是非とも行かせて下さい!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





【金本宇宙】



「送った画像、見えるか?」



『ええ、要はフォーチュンクッキーですね?』



「いや、形状だけその原型である辻占煎餅に寄せたんや。」



『ん? つじうら?』



「江戸期からの伝統菓子や。

フォーチュンクッキーの原型になったと言われとる。」



『へえ、それは初耳です。』



「味はバターチョコ系の万人受けするクッキー味。

統計上、日本人は煎餅よりもクッキーが好きやからな。

その上で、形状という文化部分は日本古来の伝統に寄せる。


トイチ君。

君のやっとる事は異世界の持ち込みや。

どれだけ取り繕っても文化侵略である事には変わりない。

可能な限り、日本の文化・文明に寄せて行け。

それが最後の最後で君を守る。」



『…勉強になります。


あの、一歩掘り下げさせて頂いて宜しいですか?』



「うん、聞かせてくれ。」



『まず辻占に関する注記は使わせて下さい。

私もこれ以上国民感情を刺激したくありませんので。


その上で、《占い》ではなく《恋愛成就》の方向にしましょう。』



「ふむ。

アタリが入っている確率ではなく、アタリそのものを配るということやな。」



『はい、貧乏人は損をさせられる事を極度に恐れます。

だって、普段散々損をさせられているのだから。

だから、占いって怖いんですよ。

もしも凶とか大凶が出ちゃったら…

苦しい今日よりも更に辛い明日が来ちゃうかも知れませんから。』



「…見て来たように言うねんな。」



『私は、そこに居ましたから。』



「…そっか。」



『なので、神聖教団からの振舞品は幸運が保証されてなくてはならない。

私が金本社長に発注する商品は《恋愛成就クッキー》…

いや《恋辻占》とでも命名しましょうか。』



「随分攻めるな。

でもキャッチーや。

商売の成否は商品名でほぼ決まる、《恋辻占》は大いに合格水準!」



『これは異世界での話なのですが、神聖教団の売店で恋愛成就クッキーが購入出来ます。

サイズは一口大。

価格は500ウェン、日本円にして500円相当だとお考え下さい。』



「一口500円か、GODIVAのトリュフタイプのような価格帯やな。」



『そのギミックが面白かったのです。

恋愛成就クッキーは二重構造。

平凡なクッキーの内部に小さなドライフルーツが埋め込まれております。


全て同じ外観で味は3種類。

首長国産トマトプラム・自由都市産の白梅・王国産のアンズ。

プラム味なら、いずれ両想いになれます。

白梅味なら、話し掛ける事で関係が進展します。

アンズ味なら、その日のうちに目線が2度合うことで好感度がアップします。』



「え?  そ、そんな子供だまし…」



『それが買うんですよ。

いい歳したオッサンオバサンが。』



「異世界人ってアホなん?」



『いえいえ、地球人なんかより遥かに優秀な連中ですよ。

そこら辺を歩いてる日雇い職人さんなんかでも、かなり理路整然と話しておられました。』



「じゃあ、恋愛限定でIQが下がるってこと?

兎我野に遊びに行く時のワシみたいに?」



『恋愛と宗教とスイーツ。

人間の知能を下げるであろう、この3点が融合することにより…

皆が安心して呆けておりました。』



「まあ、信仰という事なら、多少の色ボケは正当化されるか。」



『技術的に可能ですか?

予算は多めに出します。

味も良くして欲しい。』



「出来る。

但し味はイチゴ・リンゴ、桃の3種類で調整させてくれ。」



『?』



「赤系の果物の方が恋愛感あるやろ?

それに3つとも国内生産量が豊富にある。

将来、分量が増えたら君が政治に使え。」



『ご配慮ありがとうございます。』



「バター生地案は一旦保留。

その3種とのバランスを優先や。

チョコ風味はカットした方がええやろな。

この通話が終わったら室野シェフにも相談してみる。

彼なら最高の食感・旨味に引き上げてくれるやろ。」



『最低でも1イベント5000個は欲しいです。

賞味期限は…  欲を言えば30日。』



「両方得意分野や、そこは任せてくれ。」



『ありがとうございます!』



「トイチ君。

利口な君は知っとると思うが…

現代ビジネスはマーケティングが全てや。

タダで配るモンとは言え、複雑なギミックは大衆が受け入れへんぞ?

そこは考えとるんか?」



『…ホストにプロモーションを依頼して宜しいですか?

TikTokを主戦場にかなりの動画を撮っている連中が居ます。』



「…ええよ。

やってみ。


これはワシからのアドバイスやが、ホストが女に向けた動画だけをアップするのは逆効果や。

《普通の兄チャンやオッチャンがホストに教えて貰った流行》という体の動画の方がええ。

可能なら性格の明るいフツメンかチョイブサを主役にしろ。

理由はわかるな?」



『はい。

恋愛機会の裾野を狭めないということですね?』



「流石や。

君なら上手く運用出来るやろ。

明日中に試作品を千林総本店から出力する。

セブを四国に派遣するわ。

君が食べて問題無かったら、プロジェクト始動や。

ワシは包装紙の試案を練っとくから、希望があれば聞かせてくれ。」



『神性を感じる包装を希望します。

さも御利益がありそうな。

仏教か神道に寄せてくれると助かります。


正直に内心を打ち明ければ、異世界の宗教を前面に出している現状は怖いんですよ。

地球人のナショナリズムを極力刺激したくないので。』



「せやな。

作らんでええ敵は作るべきやない。」



『…何か、神道系のスイーツってないですか?』



「うーーん、神社、菓子博、違うな(ブツブツ)


トイチ君、神饌・直来で調べておいてくれ。

もしもお遍路の途中にそういう話が出来るモンが居ったら初歩を教えて貰ってもええ。」



『神饌…  お供え物…

直来…  皆で食べる…


行けます!!』



「よし包装デザインの原形は君が考えろ。

ワシは包装可能な形状案を何パターンか送っておくから。」



『はい!!』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【jet】



「手短に話すぞ。

フリーペーパーの試案は添付の通り。

オマエの修正希望に合わせてから、第1号を発刊する。」



『ごめんな。

俺、いつも難しい部分をjetにばっかり押し付けちゃってる。』



「好きでやってる事だよ。

リンは気にしなくていい。

添付の02.txtはスポンサーリスト。

パチンコ・消費者金融・風俗関連・マルチビジネスは俺の独断で断ったぞ?

それでいいんだな?」



『ありがと。

俺とjetって価値観近いからさ。

多分、オマエが嫌がるスポンサーって俺も好きじゃ無い。』



「俺達の活動が食事提供メインだろ?

協力企業が飲食業主体になってしまったよ。

後、地方の観光地とかお取り寄せグルメとか。

オマエがウロチョロしてるからだなw」



『一段落したら関東に戻るよ。

オンライン通話も悪くないんだけどさ。

俺、直接jetに逢いたいわ。』



「あ、オマエが鰻いっぱい送ってくれたからさ。

俺、鰻を焼くの得意になったぞ?」



『マジで!?』



「マジマジ。

今の俺、鰻丼製造機みたいに思われてるもん。」



『おお!!

すげえな!!』



「日本人って鰻が好きなんだろうな。

イベント会場に匂いを漂わせたら集客力凄いぞ?」



『ああ、流石だわ。

匂いは盲点だったな。』



「どうせオマエ、自分はあんまり食ってないんだろ?」



『…一応食ってるよ。

今朝もカルパッチョ食べたし。』



「頬が少しこけてるぞ。

移動の連続で疲れてるんだろ?」



『まあ、知らない環境って気遣いしちゃうからな。』



「ちゃんと戻ってこい。

腹一杯食わせてやる。」



『ありがと。

オマエにはずっと助けられてる。』




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




通話が終わり、シートに持たれて目を休める。

俺は時間を有効活用出来ているのだろうか?

このキャラバン移動は的外れではないのだろうか?

あちこち走り回る事で仕事をした気になってるだけなのではないだろうか?

地方回りなんて自己満足じゃないのか?

皆は機械的にカネだけ振り込まれる事を望んでいるのではないか?


頭を強く振って意識を現実に戻す。

何を言ってるんだ俺は。

的外れは最初から百も承知だろ。

外れたのなら当たるまで射続けるのが俺の仕事だ。

何の為の莫大な富だ。

誰よりも試行する為のものに決まってるじゃないか。

射る、射る、射る。

それも矢面に立って射る。

何かを成就するって、そういう事だ。


そうだよ、俺は異世界帰りの遠市厘だ。

薩摩でも陸奥でもモスクワでも、勝つ為なら足を運ぶべきだろ?




『坊門さん、走行は順調ですか?』



「問題あらしまへん。

今、香川を抜けて川之江JCTの手前です。

トイチさんがさっき話題に挙げた四国中央市ですわ。


ほら、標識出てるでしょ?

ここで高知・徳島・愛媛に進路が分かれるんです。」



『ああ、それじゃあ本当に四国の真ん中なんですね。』



「この川之江は伊予と讃岐の国境なんですわ。

四国戦国史でも屈指の激戦区で阿波勢・土佐勢も攻防戦に参加してます。

多くの守将が討ち死にして、最後は秀吉にも攻撃されてます。」



『…。』



「はい、土佐方面に進路を切りました。

ここからは退屈な山道ですよー。

時間掛かりますから寝ときなはれ。」



『坊門会長。』



「はい?」



『川之江が丁度真ん中ですか?』



「真ん中言うたら土佐の山奥が中心点ですわww


でもまあ、走行距離的には4県の連中が納得する立地ではありますな。

四国中央市って名前は生意気で腹立ちますけどww」



『…。』



「猊下。

公平性って、そこまで意地になって守るモンちゃいますよ。」



『も、申し訳ありません。

全国を回る事は難しいので、せめて地方毎の要衝だけでも訪問させて頂こうと。』



「ふふふ。

でも、若い猊下がそうやって必死な顔で頑張ってはったら。

真心はちゃんと通じると思います。


それよりも猊下は根を詰め過ぎですから、身体だけ壊さんように。

ちゃんと息抜きもして下さいね。

女遊びも仕事のうちですよ。」



『肝に銘じます。』



…決まりだな。

四国では本営を川之江にまで進める。

現地で事務所のようなものを確保してもいいか…

ただ、地図で見る限り平地面積がやや狭い。

海沿いだが本州への航路がない。

(船ってチャーター出来るものなのか?)

まあいい。

一旦布陣してみよう。


そこから4県に公平感のある顔の出し方をすれば…

特定の誰かが不遇感を感じにくくなるだろう。

その後、中国・九州。

西国に限っても、まだまだ未踏地だらけだ。

顔だけでも出せるだろうか?

正直、カネが溢れて困っているのだ。

本来はもう移動などするべきではないのだが…


為政者の土地勘の有無は格差や差別に繋がる。

それは厳重に自戒しなくてはならない。

今後は各地方に予算を交付する段階に入る。

せめて47都道府県、1度でいから挨拶だけでも済ませておかなければ…

地方同士で齟齬や疑念が生まれてしまう可能性がある。

それだけは絶対に避けねばならない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「猊下、もうすぐ山を抜けます。

高速降りたら30分ほどで29番国分寺に到着します。」



坊門に肩を揺すられ我に返る。

川之江JCT通過からさして時間が掛かっていない。

…なるほど、四国中央市とはよく言ったものである。



『ありがとうございます。

念のため、顔を洗い直します。』



キャンピングカーの洗面ルームで軽く顔を拭く。

最近はいきなり写真を撮られる事も増えたからな。

だらしない身だしなみをしていると、組織の恥になってしまう。

気を引き締めねば。



「不自由な思いをさせてしまいますな。」



『いえ、皆様のお心遣いに感謝しております。

昨日の件なども、ただただ申し訳なく思います。』



「…。」



坊門は無言で俺を見つめてから口を開く。



「はて? 昨日の件。」



眼が語っている。

《オマエが口にしてどうする》

と。



『大変失礼しました。

何もありません。』



「そうでっか。」



坊門は俺の目を見据えたまま何も言わない。

恐らく昨日の件で皆が俺に対して何かを言語化する事はない。

俺はノンバーバルな指導から真摯に学ばなくてはならないのだ。

それも今すぐに。



「後、報告ですが…

ケーブルテレビが猊下の取材を申し込んでおります。」



『ケーブルテレビ?』



「高知のローカル局ですよ。

インスタで土佐入りを宣言されましたやろ?

切っ掛けはそれですわ。

どうします?

取材受けます?」



『あ、いえ。

私で答えられる範疇であれば構いませんが。』



「…自由民権TV。

名前の通りの放送局です。

元々、土佐革命新聞という地方紙…

というか政治機関紙があったんですけど。

設立には安岡道太郎や中江兆民も関わってる名門なんでっせ?

新聞機能と議席を失い、紆余曲折を経てケーブルTVだけが残りました。」



『へえ、何か大変そうですね。』



「高知は昔からカネがないから…

物事が続かん土地なんですわ。

でも情念だけが残る。


自由民権TV、アイツら一番偏屈な連中ですよ?

それでも取材、受けるんですか?」



『まあ、それが私の仕事ですし。』



「…仕事、ですか。」



失言だったかな。

もう俺は魔王でも何でもないからな。

マスコミ対応の義務は無いと言えば無いんだよな。



『坊門さん。

便宜上、土佐人で例えますが…

もしも坂本龍馬が今の私の立場であれば、取材から逃げていたでしょうか?』



「…あ、いや。」



『じゃあ、きっとそういうことなんでしょう。

私の仕事なんですよ、これは。


無論、いずれは正式なスポークスマンを任命します。

正規のキャリアを積み、報道業界をある程度知悉している者が居れば望ましいのですがね。


でも、今は居ない。

取材は受けます。

但し総質問時間1分。

それで差し支えなければ、どうぞ。』



「1分の基準は?」



『質問に1分、回答に1分で計2分。

これでも長すぎる位だとは思いますけどね。

2分越えた動画なんて今時誰も観ないですよ。』



「どこの取材も編集で短くはするんちゃいます?」



『編集権を与えると言った覚えはありません。』



「あッ!!」



『打診元にはそのままお伝え下さい。

動画の権利は当然私が持ちます。

つまり撮影はこちらの機材で行い、こちらが原本を保有する。

先方がどうしても希望するなら使用を許可しても構わないと考えております。

それがマスコミ取材に対する共通したスタンスです。』



「…そこまで考えてはったんですか!?」



『私の仕事ですから。』



「そこまで…。


あ、あのそれでは!

マスコミが隠し撮りや盗み聞きを仕掛けて来る可能性があります!

アイツら結構やりおるんですよ!」



『…多少は不心得者も居るのでしょうけど。

その手の連中は私も鷹見程度にしか扱いませんよ?

問題を起こした局に出稿している企業は反社会団体として認識せざるを得ませんし。』



「え!?」



『私の申し上げていること、何か間違っておりますか?』



「あ、いえ。

盗撮や不法侵入は犯罪ですし、そういう行為にCMを出した以上

その企業への糾弾は避けられないと思います。」



『これ、私の公式発表です。

どこかに記載しておいて下さい。

皆さんで徹底して頂けると助かります。』



「承知しました!」



…俺、マスコミが大嫌いなんだけどな。

でも異世界であれだけ取材に答えておいて、地球のマスコミだけを拒絶するのも筋が通らないしな。

相手をしてやるしかないだろうな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



29番土佐国分寺。

土佐の国府だっただけあって、随分地形が開けている。

人が多く感じるのはその所為だろう。

駐車場も充実している。

一般車両が8台、観光バスが1台。

撮影だけしてサッと帰るつもりだったが人目が多い。

いい加減な事をすると炎上要素になりそうだな。


俺達は全員白装束に着替え、静かに車両を降りる。

最後まで迷ったが、本人が希望したので光戦士にも白装束を与えた。



『わかってると思うが。』



「配信禁止ってことっすよね?」



『ああ、思ったより盛況だ。

変に世論を刺激したくない。』



「リン兄ちゃんが取材受けちゃったら刺激じゃ済まないのだ。」



『そっちは政治利用出来る。

だが涜神への反発は政治利用が極めて困難だ。』



「ひょっとしてボクを連れてる事で兄ちゃんの不利になってる?」



『世のお父さんやお兄さんってみんなそうじゃないか?

私の友人も文句言いながら女房子供と生活していたしな。

順番だよ、こんなもん。』



「…子供扱いはズルいのだ。」



『だが君の年齢の少年を戦力扱いするのはもっと卑怯だからな。

私も悩んでいるところさ。』




門前で整列し深く拝礼。

背後から目線を感じる、シャッター音も微かに聞こえた。

悪い事に観光バスがもう一台到着した。

俺達は無言で境内に進む。


突然、目の前の女性グループが「モトチカー♪」と叫ぶ。

驚いたので思わず警戒態勢を取ってしまう。

どうやら、かつて長曾我部元親公が本堂を再建した話で盛り上がっているらしい。

400年経っても言及して貰えるのだから寺社支援というのはコスパが良いのだろう。



寺之庄が、左右を慎重に観察している。

俺を撮影するインスタスポットを探してくれているのだ。

だが、今日は残念ながら女性客が多い。

もうこの光景は見慣れたのだが、寺之庄に話し掛けるチャンスを狙って女共がジリジリ包囲している。

或いはイケメンは撮影係に向いていないのかも知れないな。

恐らくこの女達はガルパン事件を知っているのだろう。

俺の事はゴミでも見るような目で見て来る癖に、後藤や寺之庄に向ける瞳はキラキラと輝いている。

いいよ別に。

もう慣れたもん。


はい、顔の話やめ!

やめやめやめ!

ルッキズムやめ!



「トイチさん。」



『何ですか、エモやんさん。』



「男は顔やないですよw」



『ちなみに女性の評価基準は?』



「顔6割身長4割ですね。」



『あー、残念。』



「けしからんことに

男をカネでしか評価しない女も居るそうです。」



『ああ、そういう女性は苦手ですねえ。』



「ちなみにヒルダさんはトイチさんのどこを気に入ったんですか?」



『それを尋ねたら《うふふ❤》って返答が返って来ました。

まだ10万チョイしか手元にない頃の話ですよ?』



「あはは、運命の女性ですやん。

そういう話題した事ないんですか?」



『一発ヤッた程度の女に運命を感じる馬鹿とは友達になれない。』



「え!?」



『そんな事を言ったら滅茶苦茶気に入られましたね。』



「うわぁ、価値観夫婦ww」



『笑い事じゃないですよ。

私と同じ価値観ってそんな…』



「目標達成至上主義?」



『まあ、私もヒルダもそういう面は強いですね。』



「あの人の目的って何なんですか?」



『コリンズ王朝の建国。』



「あははははwww

怖いーーーwww」



『その王朝を打倒するのが貴方の仕事ですよ?』



「…えー、マジっすか。

やっぱやらなアカンのですか。」



『荊軻の如くプリンツィプの如く。』



「いややー、死にたくないーww」



不謹慎にも江本とヒソヒソと笑いながら参拝。

人とすれ違う時だけ必死に真顔に戻る。



「ヒルダさんのこと好きなんですか?」



『顔と身体が好きです。』



「猫先生は?」



『顔と身体が好きです。』



「鷹見は?」



『意外にあの顔好きなんですよ。

本人はコンプレックス持ってるみたいですけど。』



「まあ癖のある顔の作りではありますよね。

じゃあ、木下。」



『…アイツが何で私に粘着するのかわからないんです。

ほんの数言だけ話しただけですよ?』



「そんなん言うたら、寺之庄さんなんか存在が粘着されてますよ?

ほら、囲まれてる。」



『いや、あの人はハイパーイケメンだから。

そりゃあ女性陣も一目惚れしますよ。

でもまあ、私はルッキズム被害者の会の入会資格を満たしてる訳じゃないですか。』



「いやいや、木下はトイチさんの価値を見抜いたんですよ。

それもルッキズムバリアを貫通して。」



『木下は法律バリアがありますからね。

今は普通に学校に行かせるべきだとは思うんです。』



「うーーーん。

トイチさんは不登校の光戦士君を連れ回してますからねえ。

学校の話したら木下が逆上しますよ?」



『…辛いっす。』



「木下可愛いですやん。

トイチさんも身体が好みって言ってましたやん。」



『冷静に考えたら、女の身体ってそれだけで魅力的なのでは?』



「それ思ってても口に出さんとって下さいね?

俺にとばっちりが来ますので。」



『ですよねー。』



寺の中で延々と不謹慎な話をヒソヒソとする。

万が一誰かに聞かれたら炎上では済まないので、江本と俺はガッチリ肩を組んで周囲を厳重に警戒しながら《誰の身体がエロいか選手権》で盛り上がる。

意外に江本の木下評価が高い。



「いや、アイツの腰付きとか見ました?

数年すればガチのエロボディになりますよ?」



『ああ、腰は見てないですねー。

あ、でも言われてみればプロポーションには相当自信持ってました。』



「そらあ、同世代と比べたら突出してますからね。

だって俺、最初木下のこと、どこかのOLさんかと思いましたもん。」



『ですよね。

20代中盤くらいに見えました。』



「歳聞かんと一発ヤったら良かったのに。」



『ああ、そうかぁ。

言われてみれば惜しい事をしたかもです。』



ずーーっと、そんな話。

不謹慎ゲージが溜まって来たので、真顔に戻って賽銭箱に奉納。

出来るだけ背筋を伸ばして合掌。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


540億1035万9000円

  ↓

540億1000万0000円


※贖罪として35万9000円を奉納。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『エモやんさん。』



「はい。」



『本日の貴方の言動は宗教団体の構成員として不謹慎でした。』



「それはもう誠にごめんなさい。」



『本当に反省していますか?』



「してますーーん♪」



ヤバい、俺コイツのこと好きだわ。



『まあ一応、建前上は真面目にやりたいので

何か埋め合わせに信心深い事をして下さい。』



「それは神聖教団的な意味で?」



『いや自教団を優先しちゃったら、従来の宗教に申し訳ないじゃないですか。

なので、お遍路に対して埋め合わせをして下さい。』



「うーーーーむ。

ぽっくぽっくぽっくぽっく、閃きました。」



『ふむ。』



「御詠歌を英訳します。」



『…。』



「例えば土佐国分寺の御詠歌は

《国を分け宝を積みて建つ寺の末の世迄の利益残せり》

ですよね?

これ、かなり良い事を言ってると思うんですよ。」



『続けて下さい。』



「88か所の霊場にある御詠歌を全て英訳して画像と共にインスタに上げます。」



『…。』



「画像は遍路を回ってる同胞から提供を求めます。

但しオンラインでも出来る事ですので、直接会った人間限定縛りのルールを設けましょう。」



『いいですね。』



「英訳と言ってもイギリス英語とアメリカ英語が違うように各国でニュアンスが異なります。

なので積極的にコメント欄で交流を行い、大意を擦り合わせて行きましょう。」



『ふーーむ。

誰か日本文化の英訳に長けた人材が居れば良いのですが。』



「え?」



『え?』



「いや、渋川さんの話とか聞いてません?」



『え?』



「渋川薫子さんは高校時代に枕草子の英訳ブログで文部大臣賞を受賞してますよ?」



『え!?』



「いや! 滅茶苦茶有名な話ですやん。」



『ちなみに渋川さんの身体はどうでしょう。』



「隠れ爆乳の人が和服着てるのはエロいと思います。」



『では真面目な評価。』



「てっきり、寺之庄さんから聞いているとばかり。

渋川さんは日本全体から見てもエース的存在ですよ。

テーブル茶道とか簡易和服とかもほぼ独創で体系化された方ですし。」



『…。』



車内に戻ってから寺之庄に確認を取る。

当然、知らなかった。



「へー、薫子さんってそんな事もしていたんだね。

母親が言っていた気もするなあ。


それより昼は何を食べたい?」



移動中もそれとなく聞き続けるのだが、寺之庄は渋川薫子について何も知らなかった。

ちなみに弓長のことも当然の様に把握していない。



『ヒロノリさん。

Wikipediaに渋川さんの項があるじゃないですか。

この人、普通に著書までありますよ?

エッセイ2巻出してるじゃないですか!』



「へー、凄いね。

でも知り合いのWikipediaを見るのって覗き見してるみたいだから僕はしないなあ。

トイチ君だって自分の記事を見られたくないでしょ?」



『いや、私は公人だから。

そこは諦めてますよ。


…どれどれ、遠市厘っと。


う、うわあああああ!!!

犯罪者扱いされてるうう!!!!!

ホモ扱いされてるううう!!!!!』



「ほーらね、誰だって自分の記事を見られたら恥ずかしいんだよ。

だから、wiki閲覧は自重しようね。」



『あ!!!!

俺のページからヒロノリさんのwikiにもリンク貼られてる!!』



「ははは。

それは凄く嬉しいかな。

これからも宜しくね♪」



『ってヒロノリさん、モデルだったんですか!?』



「ん?

ああ、大学の先輩に頼み込まれてね。

事務所に籍だけ置いてあげてる。

僕、ああいう浮ついたのって苦手なんだよね。」



…興味ない癖に普通にメンズモデルランキングに入ってるのはズルいと思った。

ちなみに俺はホモ扱いされた上に、悪口ばっかり書かれていた。

思った以上にレズ処刑発言で敵を作ったなあ。

まあいい。

逆手に取って行こう。



『ちなみに検索したら、弓長さんは棒高跳びで県内記録持ってました。』



「ふーん。

じゃあ高い所の作業は真姫に任せるよ。」



怖っ!

コイツ、人の心が無いのか!?

…でも、引っ越しや大掃除に駆り出されても弓長は喜ぶんだろうなあ。

ここら辺、イケメンパワーは理不尽なんだよなあ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



国分寺を後にして高知市街に入る。

坊門の提案で宿は二カ所取ってある。


一カ所は物資集積用のグランピング場。

画像を見せて貰っただけだが太平洋沿いのかなりガチな高級リゾート。

明らかに外資を狙ったデザインである。

現にハリウッド俳優の某が家族を連れて毎年遊びに来るらしい。

こちらは基本的に部外者立ち入り禁止。


もう一カ所は高知市街の大型民泊。

武家屋敷(?)を現代風に改装したヴィラ。

駐車場も充実している上にちゃんと生垣も植えられている。

肉眼で高知城が見えている。

向こうに見えるのは高知県庁か…


用途は接客やマスコミ対応である。

とりあえず15時30分まで俺はここに滞在する。

かなり風情のある建物なのだが、到着するなり光戦士は配信、江本は英訳作業を開始した。

コイツラの情緒の乏しさはパーティーメンバーとして、かなり信頼出来る。


寺之庄と後藤はリゾート施設に先行。

道路の混み具合を見て俺の出発時間を調整する。

松山で豪遊し終わった浦上はそのままグランピング場まで直行させる。

それとなく尋ねてみた所、やはり川之江を通過するらしいので、ますます彼の地が本営候補として有力になる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



13時。

件の自由民権TVがやって来る。

電話口では「挨拶だけ」と言っていた癖に、ちゃんとカメラクルーが門前に待機していた。

この時点で俺の協調意欲は喪失する。



「あのお。

猊下のお時間を割いてしまうのは恐縮ですので…

もう撮ってしまいますか?

たまたまカメラクルーも来ておりますし。」



『…どのみち使うのはこちらのカメラですよ。

カメラマンは、ここに居る光戦士君。』



「え!?

流石にスマホは…」



『別に無理にとは申しません。

条件は既に伝えた通りですし、こちらからお願いしている訳ではないので。』



「一旦、口頭で取材だけさせて頂くことは可能ですか?」



『構いませんが、取材風景は撮影させて頂きますし

その使用権は弊教団が100%保有します。』



「え、いや、それは。

やや厳しいと申しましょうか。」



『捏造や切り取りを防止する為の措置です。

悪く思わないで下さい。』



「…申し訳ありません。

私の独断では何とも言えませんので、一旦社に持ち帰って宜しいでしょうか?」



彼は落胆していたが、これが俺の世代から最大の温情である事に気づいて欲しい。

編集権の独占さえ諦めれば、貴方達はまだまだ存続を許されるのだ。

まあ、それが理解出来る知能のある人間がマスメディアに在籍しているとも思えないが。




『相談に関してはご自由にどうぞ。

江本さん、お見送りを。』



  「はい、それでは皆様。

  お帰りはこちら南無♪」



コイツ、心底ふざけてるなw




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



14時前。

自由民権TVと全く同じ条件を呑んだyoutuberがやって来る。



「どうもー!

四国の事なら何でもお任せ!

四国系youtuberの信弘でーーーす!」



騒がしい男が門前で頑張って自撮りしている。

聞けば、元は阿波踊りの連をインタビューする動画配信者だったらしい。

ただ競合が多く、何をどうやっても芽が出なかったので四国をグルグル回り始めたとのこと。

俺は動画文化に疎いのだが…

チャンネル登録者数7000。

どうしても俺の比較対象って鷹見とか光戦士だからな。

7000かぁ…



『あ、信弘さん初めまして。』



「猊下!  どもどもどもーー!!

ようこそ四国へ!!!

お遍路インスタ拝見しましたよー!」



『あの、撮影条件に関しては…』



「はい! 承知しております!

光戦士さんが撮影。

猊下のチェックを通ったものを頂戴出来るという事ですね?」



『ああ、話が早くて助かります。

一方的な申し出をお詫びさせて下さい。』



「いえいえいえ!!

もうね!

私みたいな底辺youtuberに返信を頂けるとは思わなかったです!

本能のままに吉野川を遡って参りましたぁ!!」




やはりこの男も川之江を通過したらしい。

折角なので質問してみる。




『光戦士君、カメラ起動してくれ。


信弘さん。

一点ご教示頂きたいのですが、四国の中心というとどこになりますか?』



「おお!

いきなり核心質問来ましたね!」



『実はですね。

瀬戸大橋を渡るまでは、高松か松山のどちらかと聞いていたのです。』



「あ、はい。

長きに渡って繰り返されて来た議論ですね!」



『ただ、両都市はそもそも機能が異なるので、比較するのはナンセンスかなと思っているんですよ。

高松は岡山の隣接経済圏にして瀬戸内海の東出口。

松山は広島の隣接経済圏にして瀬戸内海の西出口。

これって本州から見た都合ですよね。

なので四国にお住まいの方の利便とは切り離して考えるべき、と。

私はそう捉えてます。』



「あ、いや驚きました。

猊下って結構我々の事見てくれてるんですね。」



『信弘さんの地元徳島にも挨拶に伺ってから褒めて下さいw』



「あはははw

是非、歓迎させて下さい!!」



『もう本題に入りますね。

私、四国でイベント打ちたいんですけど。

川之江開催って、どう思います?

嫌がられますか?』



「え? イベントって浜松配信みたいな?」



『ええ、子供食堂等のボランティア活動をされている方の宣伝・支援を目的とする趣旨です。

BBQやスイーツ配布を中心に。』



「いや…

気持ち的には凄く嬉しいのですけど。

…選挙か何かに出られるんですか?」



『あ、いえ。

選挙はご容赦下さい。


戒律で猟官行為が禁止されているので。

すみません、宗教の話になっちゃって。』



「あ、いえ。

白装束を着ながら謝られてもw」



『はははw

本当ですねw

目的は貧困対策・格差解消です。

動機はシンプルで、私の生まれが貧しいからです。』



「お、かなりストレートに来ましたね。

私の中でね?

猊下って謎の人だったんですよ。

いきなり異世界帰りで有名になったじゃないですか?」



『なりましたね。』



「他の人もそうだと思うんですけど。

ガルパン動画から猊下をチェックし始めました。

センセーショナルではあるんですけど、パーソナルな部分が全然見えて来なくて。

それで今日こうやってお話出来て、かなり解像度上がりました。」



『ああ、恐縮です。

そんなにセンセーショナルですか?』



「いやいやw

世界的に話題の中心じゃないですか!

レズデモを始めとして何枚猊下のお写真が焼かれたことか!

ルナルナとの痴話喧嘩動画なんか、何度も見ましたよ!」



『あれは一方的にボコられただけですw』



「あのナイフの演出ってAIですか?

それとも血糊か何か?

劇団やってる友人が感心してましたよ。」



『いやいやw

普通に刺されただけですww』



「えーw

うそォww」



『見ます?』



「え!?

流石にこれはカット部分ですよね?」



『ふっふっふーw』



「うわっ!!

え? コレ、本物の傷ですか?

メイクではなくて?

触っていいですか?」



『グリグリやめてね?


ちょw 痛w痛w』



「あーー、すみません!すみません!

まさかスタント使わずに撮ってるとは思いませんでした!

いやー、やっぱり猊下みたいにバズる人は覚悟が違いますね。

youtuberとして見習います!」



『ボコられただけですってw』



「それにしても、DV全開だけど仲いいですよね?

高校の頃から付き合っておられたんでしたか?」



『あーいやいや。

異世界から帰って来てからです。

たまたま東京で再会して、お互い気づかずに話してましたもの。』



「え? そうなんですか?

ルナルナは特徴的でしょ?」



『アイツねぇ、高校の頃オールバックみたいに髪の毛を後ろで括ってたんですよ。

それで鷹見って言ったら私の中では男の子みたいに額を出してるイメージで固定されちゃって。

今はあんな風に下ろしてるでしょ?

だから全然わからなかったです。

それに学校行ってる時ってお互い制服ですし。』



「へえ。

ルナルナの制服姿って想像がつかないですね。」



『いや、アイツは身長あるから何を着ても絵になるんですよ。

正直、あの頃は鷹見の可愛さは分からなかったんですけど、スタイリッシュな佇まいに対する憧れはありましたね。』



「うわー。

凄い話を聞いてしまった!

すみません、メールではプライバシーに最大限配慮しますと言いながらw」



『あははははw』



「あ、話が飛び飛びになってしまいました。

すいません、一旦戻しますね。

立地的には川之江は中心です。

ただ、イベント活用として考えると…

大箱がないんですよ。

猊下はなまじ有名人ですからね。

人が押し掛けた時にキャパが…」



『じゃあ、川之江にイベント連絡本部を置いて

四国四県の県庁所在地で同時にイベントを開くのは?』



「…。


あの!

提案なんですけど、その場合1週間ずつずらして頂く事は可能でしょうか?」



『あ、はい。

まだまだ腹案段階ですので。』



「ワンデイのイベントって、どうしても盛り上がりに欠けるんです。

でも、四県で週替わり開催した場合、実質的に一ヶ月イベントになりますよね?

観光客収入も見込めるのではないか、と。」



『…確かに。』



「ウチは阿波踊りしかないんで、よくわかるんです。

今年は4日間だけなんですけど、その間は観光客が大量に来ますから。

もしも1か月イベントにして下されば、経済効果凄いです。」



『えっとね。

私の友人にDJやってる人が居て。

今度高松に来て貰うんですね。

あ、これフライヤー(仮)です。』



「うおおお!!

パリピ感全開!!」



『本人に了解取れるかはわからないんですけど。

四県でやっちゃいましょうか。

徳島にクラブあります?』



「無くてもありますww」



『あはははw

じゃあ、経費と休業補償払いますので、信弘さんも企画に入って貰えますか?』



「え!?

いいんですか!?」



『だって四国詳しそうですもの。』



「四国網羅を標榜しながら宇和島行った事ないんで…

滅茶苦茶バッシングされてるんですよ。

後、瀬戸内の離島に行かずに、淡路島で長期配信してしまった時期があって…

それで大三島とか小豆島の爺さん連中に囲まれて怒られた事はありますね。

弓削島ってどこだよ! とか思いながら説教聞いてましたもん!」



『うお! この時点で知らない地名がいっぱい出て来た!』



「怒られた経験も含めればね?

冗談抜きで網羅してると思います。」



『もうこちらから参画をお願いさせて下さいよ。』



「やりまーす!

船酔い体質なんですけど、島嶼部巡りもしまーす!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


540億1000万0000円

  ↓

540億0500万0000円



※配信者坂東信弘にイベント費用として500万を支払い。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





そんな風にワチャワチャと取り留めも無く小一時間話した。

動画に関してはかなりの部分をくれてやる。

傷を見せるシーンは渡す気も無かったのだが、根負けしたので贈呈。

絶対にメインに据える気だな、アイツw



続いて地元のビジネス団体から挨拶を兼ねた歓迎会開催の申し出があったが、移動時間になってしまったので一旦固辞する。

時間に余裕があれば先方の飲み会に顔を出す事を約束。

お互いペコペコしながら、土産交換。

俺は高松の地酒をプレゼントするが、多分高知でも普通に流通してるんだろうな。

相手はニコニコしながら受け取ってくれるが気まずい。

こっちは高知の地酒を貰った。

包装紙の雰囲気からして、向こうの方が高級品なので心苦しい。


挨拶を早々に打ち切って車両に乗り込む。

今日、幾ら噴出するのかわからないので、早めに広い拠点に移らなくてはならない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



もう小型車には乗れない。

【複利】で払い出される金額が膨れ過ぎたからだ。


例えばスズキのアルト。

走行中に今の金額が噴出すれば確実に運転不能状態に陥る。

高速走行状態なら高い確率で死ぬ。


なので、俺の搭乗車両はハイエースより大きなサイズの車両でなければならない。

いや、違うな。

払い出し金額が読めない以上、午後に移動すること自体が間違っているのだ。

…生活サイクルを根本から変えないとな。



『坊門さん…

高知県って平野が多いですね。』



「ん? 

ここだけでっせ?

高知県は9割以上が山。

平地は海沿いのこの辺だけですわ。

なーーーんもない下らん糞田舎。

それが土佐ですわ。

くていからトサ。

いやあ、若いうちに出て正解でしたわ。

猊下、大阪に帰ったら一席設けさせて下さい。

新地中から最高の女を招集致しますので。」



『北新地にお勤めのホステスさんの出身地が高知県だったら良いオチになりますね。』



「…いや、猊下がそこまで考えておられたとは。

失言でした!

以後改めます!」



参ったな。

ジョークで話を合わせてやったつもりなのだが、想いが表情に出ていたか?

仕方ないだろ。

俺の仕事は遠くて狭い場所に住んでいる人間が割を食わないシステムを構築することなのだから。

坊門がここまで忌避するような故郷なら目を背ける訳にはいかないじゃないか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



15時35分。

宿所に到着。

ハリウッド俳優がバカンスに利用するだけあって、かなり豪華だ。

欧米人が喜びそうな白亜のコテージ。


どうりでお洒落だと思ったら、外資の経営。

本社はチューリッヒ。

清掃と備品補充だけを地元のパートさんが時給920円で請け負っているとのこと。



『すみません、遅れました!』



まずは皆に詫びる。

今の俺は1分の遅れが死に繋がる状況。

もはやタイムスケジュールのズレが許される立場ではない。

メンバーは笑顔で迎えてくれるも、俺の言葉そのものは否定しない。

今日俺は好ましくない行動をとったのだ。

猛省しなくては。



駆け寄って来た後藤が部屋割りを発表してくれる。

俺の就寝スペースは小ぶりなコテージの2階。

全体の中心に位置しており、侵入や盗撮が難しい配置である。

更には対空防衛の一環として斜形ワイヤーを張り巡らせてある。

ドローン戦闘はロシアや鷹見の特技だからな、警戒するに越した事はないだろう。



【複利】に備えて4トン車前に待機。

流石は南国、かなり日差しが強い。

寺之庄がパラソルとビーチチェアを用意してくれたので、太平洋を睨みながら腰掛ける。



「トイチさん、本日は計測器10台体制になります!」



台車で並べられる紙幣計測器、今まで見て来たものより二回り大きい。

聞く所によると、挿入から0.5秒で札束に結束される超仕様とのこと。



「やはり国内メーカーは強いですね。

世界でもこれだけの性能の計測器は殆どないそうです。」



逆に言えば、俺の【複利】がこの計測器を上回ってしまった場合、収拾がかなり困難になるという事である。

今の手持ちは500億程度だから良いのだが、すぐに兆を突破することは目に見えている。


どうする?

資産形成ペースを落とすか…

それとも100兆程度をストックしてから一斉に分配を仕掛けるか。

どちらだ…

多分正解はない。

人類史上、こんな馬鹿馬鹿しい課題に直面したのは俺が初めてだからである。

正解は俺自身が選択し、世界に対して説明責任を果たさなければならない。



「トイチ君。

次は徳島の金毘羅TVからのメッセージだ。

《条件に全て応じるので取材許可を頂けないか?》

との文言。」



『取材に応じます。

但し、多忙なので場所と時間はこちらの指定で。』



「了解、返信しておくね。」



マズいな。

可処分時間が無くなって来た。

近いうちに2時間睡眠生活に逆戻りだな。



「16時50分!

配置に付きます!」



叫んだ後藤が小走りでフォーメーションの最終チェックを行う。

動き回りながらも、しきりに空を見ている。

警戒すべきはドローン。

迎撃手段が後藤のゴルフボール攻撃しかないのはマズい。

本人の談によると有効射程距離が50メートル程度しかないらしい。

これでは到底現代戦は戦えない。

早急に対空装備を充実させなければ。



『ふーーー。』



大きく深呼吸して集中力を高める。

計測器の直上に紙幣を舞わせるイメージ。

異世界での超長距離射出を振り返れば大した距離ではないが…

厄介な作業ではある。


紙幣というものがここまで扱いにくいとは俺に想像出来ていなかったのだ。

濡れるし折れるし隙間に挟まるし擦過傷が絶えないし…

紙幣は辛い。



「1分前ーー!!!」



背後から江本の叫びが聞こえた。

ペットボトルの水を軽く口に含み、後はひたすら眼前の計測器を睨み付ける。




《356億2065万0000円の配当が支払われました。》



っく!

増え方のペースが異常ッ!

そろそろ預け入れ金に上限を設けるしかないか。


違う!

今は確実に射出することだけを考えろ。



『ぐっ! 微調整となると、流石に手元が重い…』



「トイチさん!

やや右に逸れてます!」



『わかっている!!』



全身から汗が噴き出す。

俺の能力はあくまでカネを無邪気に吐き出すだけで、ピッチャーの様にストライクゾーンを狙う性質のものではない。

大体、投擲用に作られた野球のボールでも四死球が出てしまうのに、俺なんか紙だぞ!?

かなり頑張ってる方なんだけどなぁ。

比較対象が無い分、俺の今の努力なんて誰にも伝わらないよなあ。

だって俺もプロ野球の四球見て《ミットに投げろや》とか気楽に野次ってるからね。

やらない人にはわからないよね。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】



540億0500万0000円

  ↓

2740億0500万0000円

  ↓

3096億2565万0000円

  ↓

896億2565万0000円

  ↓

852億2565万0000円



※合計2200億円を預託との報告

※配当356億2065万0000円を取得

※元本2200億円の確認。

※配当用の44億0000万円を別途保管



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『ふーーー。  ふーーー。』



「トイチさん、タオルどうぞ。」



『ああ、助かります。』



「随分増えましたねぇ。」



『エモやんさんの金塊、把握出来てます?

トレイルカメラか何かでチェックしてるんですか?』



「いや!

ハッキングが怖いんでカメラ類は一切向けてません。

カネなんか紙やからジョークで済みますけど、金はヤバいっすよ!」



ヤバいと言いながら、一切利殖をやめようとしない江本の厚顔に思わず笑ってしまう。

アスリートとしては小柄なこの男がエースナンバーを付け続けてきた理由が何となくわかってしまう。

好きに投げさせてみたいタイプのピッチャーなのだ。



『エモやんさん。

ここからの投球案は?』



「じゃあ次は俺の為にタンカーを買って下さい!」



隣で後藤が苦笑している。

カネの掛かるエースなのだ。


でもまあ、江本の構想は一貫して正しい。

纏まった金額を確保した以上、次はコモディティなのだ。

特に原油と穀物。

今、不足してるからな。

早急に射出実験をしなければならない。


…やはり地方回りは現実的ではないか。

理想を言えば、中国・四国と西国を一巡しておきたかったのだが。

残念ながら時間切れのようだな。


4トン車にカネを全て積み込む。

…もう元本を預かるのやめようか。

勿論、メインメンバーには分配を行う。

だが聖徳太子の友人のヤクザの孫とか政治家の息子とか…

そいつらにまでリソースを注ぐのは馬鹿馬鹿しい。



…どちらだ?

どちらが正しい?


俺だけが資産を増やした方が正しい?

それとも出資者を許し配当した方が正しい?

どちらが社会にとって有益か?

いや、そもそも利息こそが悪ではないのか?

配当の概念こそが人類を苦しめてきた元凶ではないのか?



「リン兄ちゃん。」



『お、おう。

何?』



「そんな怖い顔をしてたら、みんなが話し掛けにくいのだ。」



『あ、うん、ゴメン。

ちょっと考え事をしていてさ。』



「どうせ悪だくみなのだ。」



『違う違う、これからの正義について考えていた。』



「わっる。」



反論の余地はない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



かなり汗をかいたので、シャワーを浴びる。

これから高知市街に戻って、先ほど地酒交換をした地元商工者の集まりに挨拶をするからだ。

どうせ飲まされるので腹を括る。

酒宴が嫌なら田舎なんかに来なければいいだけなのだ。

俺は納得してここに居る。



着替え終わって外に出ると、丁度浦上が到着していた。

大分から遥々来てくれた事に頭が下がる。

通話で話すよりも、陽気で若々しい男だ。

これまでの礼を述べ、そして狩猟の必要性が大きく薄れている事を改めて正直に打ち明けて詫びる。



「そうですかー。

もう獣は不要ですか。

今は何をお求めで?」



『重ね重ね申し訳ありません。

今は穀物の調達ですね。

ほら、小麦が高騰しているでしょう?

早急に対策をしたいんです。』



「じゃあ、狩猟にはもう関わらない?」



『いえ、短期間でも触れたことで、その重要性を理解出来ました。

これからは支援に徹すると思います。』



社会はカネだけあっても意味はないからな。

手を動かしてくれる人間に最大限の敬意を払い十二分に報いなければ社会は適切に回らないのだ。

なので浦上の様な創意ある関連業者は特に大事にしたい。



「ははは、大事にされるのは光栄ですけど。

カネがあったら私は小奇麗な商売に鞍替えしますよ。」



『小奇麗と言うと?』



「不動産とか株式投資とか。

女の居る店を始めたりだとか。」



『…。』



「まるでババ抜きでしょ?」



『あ、いえ!』



「猊下。

資本主義ってそういうものですよ。

要は如何に自分が労働者身分に陥らずに済むか。

そういうゲームでしょ?」



『…はい。

それは私自身、身に染みて理解しております。』



「猊下の危惧は理解しております。

カネを配り続ければ現場が疎かになるのではないか、と。

私が不動産投資を始めたと聞いて、そう思ったんですね?」



『仰る通りです。』



「差別されなければ仕事は続けるんですが。」



冗談めかして浦上が笑う。

いや、必死で笑って冗談で留めようとしているのだ。

或いは、彼はこの一言を伝えたいが為に渡海して来たのかも知れない。



「工務店とか猟師とか、必要な仕事だと思うんですけどね。」



トドメを刺すように訴えかけて来る。

悟ったような笑顔にはどれだけの想いが込められているのだろう。

この問いに答える為に俺は帰還したのだろう。



『異世界でカネを配りました。

それもかなりの額を。』



「ええ。」



『結果、真っ先にゴミ収集員が一斉退職しました。

後、娼婦に身をやつしていた者達の殆どが帰郷しました。』



「…。」



『再現する為です、私が地球に帰って来たのは。』



「…銃がねぇ。」



『?』



「2丁しかないんですよ。」



『…はい。』



「それで役に立てますか?」



『貴方を鉄砲玉扱いはしたくないですね。』



「ふふふ、それは残念です。

ただ、希望者は多いと思いますよ?」



だろうな。

正義を訴えながら放つ銃弾ほど心地良いものはないのだから。



「ねえ、猊下。」



『はい?』



「おカネ、1人頭幾ら配るんですか?」



『全人類に10億ずつ。』



「え!?」



『年内にはストックが完了します。』



「ははは、インフレで人類社会壊れちゃいますよーw

新手の人類撲滅計画じゃないですかww」



『大丈夫大丈夫、工務店と猟師さんは生き残れますからw』



「うわー、結局そこからは逃げられないのかーww」



2人で太平洋を眺めながら笑いあう。

大きな夕日が、俺達の視界を鮮やかに染めた。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



40分掛けて市街に戻る。

到着したばかりの浦上もキャンピングカーに同乗させる。

幸い、道はすいていた。


高知城から伸びる商店街を歩いたのだが、結構話し掛けられる。

無断で写メを撮る者も多く、その神経に驚く。

オマエラ、どういう躾を受けて育ったんだ?



昨日の香川に続き、今日は高知での商工業者飲み会。

顔だけ出す。

当然のように飲まされるし食わされるし、質問攻めに合う。

老人ばかりの癖に妙に異世界の話題を振ってくる。



『あの、不躾な質問で恐縮なのですが…

皆さんの御年齢でラノベとかホントに読まれてるんですか?』



  「ワシはスレイヤーズからじゃ!」

  「人生で大切な事は全て銀英伝から学んだ!」

  「吸血鬼ハンターDぜよ!」



『ああ、すみません。

ちょっと聞いたことないですねえ。』



何がおかしいのか老人達が手を叩いて笑い転げる。

俺は高知県の話をしたいのに、異世界の話を延々とねだられる。



『いや、ですから。

ゴブリン種と言っても普通に話は通じましたし。

別に敵対する理由もないでしょ。

いきなり殺すって、そっちの方が野蛮じゃないですか。』



「へー、じゃあオークとかも居たんですか?」



『オーク種も魔界には大勢いましたけれど

人間側の街には最小限しか派遣されてませんでした。

体格がゴツくて威圧的な雰囲気なので、外交摩擦を避けるために自粛していたようです。』



老人達が目をキラキラ輝かせて頼むので、オークやゴブリンをスケッチしてやるのだが、俺に絵心がない所為で全然それっぽく見えない。



「あはははw

大丈夫ww 

角が生えてるのは伝わっちゅーぜよww」



兜をかぶるのに邪魔だから、軍隊に入ってるゴブリンは殆ど角を落してるんだよな。

儀礼の時に付け角をする事も多いね。

でも話が長くなるから割愛するね。



『ははは。

それじゃあ次は高知の話も聞かせて下さいよ。』



「いやーーー。

話と言ってもですねえ。

異世界の土産話を聞かせて貰った後に…

高知なんぞの話をするのは、ねえ?」



  「まっこと恥ずかしいぜよ。」

  「よさこいの話する?」

  「たわけ、恥かくだけや。」



『高知でもイベント開きたいのですが、その相談しても大丈夫ですか?』



「え!?

鰻丼? 鰻丼?

高知の人間はウナギにうるさいよーw

味もわからん癖に通ぶる奴ばっかりww」



『へえ、高知もウナギが盛んなんですね。』



「食べ物はうまいぜよ!

カツオなんかどこで食べても一緒じゃけんど、ウツボらあね。

クジラも!!」



『…え? クジラも食べるんですか?』



「そりゃあ、高知の沖をクジラが回遊しちゅーき。

ぎっちり浜辺に上がっとるぜよ。

今もニュースになりよったやろう。」



『え? その話聞きたいです!』



「いや、座礁鯨は視聴率稼げるきね。

そのうちニュースの時間にでやるろう。

今は…  うん、バラエティばっかりやね。」



俺は駄目元でクジラの処分に噛んでそうな業者を教えて貰う。

酒の席というのが良かったのか、ノリで何件かの関係者に電話してくれた。

その代わりに後日皆の前でカラオケや一発芸を披露する約束をさせられるが、人類の未来の為なので喜んで老人たちの肴になる。


向こうの席で酌をして回っていた寺之庄が戻って来て、角が立たない様に話を撤収に纏めてくれる。

この人、厭味がないから重宝するよな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



軽く一杯が理想だったが、数時間を過ごした。

まあ、その分掘り下げた話は出来た気がするし、有益な一時ではあったのかも知れない。

何より土佐人達が明朗で純粋に場を楽しめた。


もう11時を過ぎていたが、喧騒は途切れる事が無かった。

歩いて武家屋敷まで戻り、風呂を浴びる事にする。



『ああ、坊門さんもこちらに来られてたんですね。

一緒に呑めば良かったのに。』



「いえいえ。

ワシは景色見れただけで満足です。」



昔色々とあったらしく、坊門は頑なに故郷の四万十行きを拒んだ。

高知市内でも特に遊ぶ気配がない。



「猊下、申し訳ないです。

ワシも歳で掃除の手が回りませんでした。」



『え?

あ、別に数日の滞在ですし。』



「寺之庄君達にも相談して応急的に簡易清掃を注文しました。

今、バイトの子が頑張ってくれてます。」



『ああ、そこまで気を遣って頂かなくても。

もう私、後は寝るだけですので。』



「そうでっか、寝るだけでっか。

じゃあ、ワシは向かいの居酒屋で一杯だけ飲んで来て宜しいですか?」



『ああ、どうぞどうぞ!

気が利かずに申し訳ないです。

お土産くらい買ってくるんだった。』



「ははは、猊下は若いのに苦労性ですな。

ちゃんと息抜きもせなあきまへんで?


ほな、行って来ます。」



軽やかに外出する坊門を見送り寝室に入ると…
















やられた。

昨日の女だ。

道理で話が突然だと思ったよ。



『こんばんは。』



「ごめんなさい。」



第一声が謝罪。

そう言えば坊門も謝っていたか。

俺が彼でもまず詫びるわ。



「本当はしつこくしないつもりだったの。

邪魔になりたくなかったから。」



『別に…』



まあ、邪魔ではあるよな。



「でも、貴方が高知に向かうと聞いて…

どうしても我慢出来なくなって。」



寝物語に聞けば、土佐の女だと言う。

貧しい漁村で働き口もなく、地元の粗野な風潮も肌に合わず高松に出て来たこと。

介護職に従事していたが、人生を真剣に考えた結果クラブでバイトを始めたらしい。


エチケットとして俺も身の上を語る。

異世界以前の貧しさ、母に捨てられ父は死んだ。

案外、語るほどの人生ではない。



生来、そこまで陽気な女ではないのだろう。

休めと言ったのに、俺の装束を丁寧に畳んでくれている。

特に余計な話もしない。

先日同様、俺も一切の詮索をしない。



「もしも貴方に子供が生まれたら…

どんな名前を付ける?」



『女の子が生まれたら、多分相手に任せるんじゃないかな。』



「きっと男の子が生まれると思うの。」



『俺の父親が《分ける》と書いてぶんなんだよ。

分配の分って本人は周りに説明していた。

幸福を分かち合う人間になって欲しいという意味の命名なんだってさ。

俺の名前の厘も、その思想の延長上みたいだよ。

父親の手前言えなかったんだけど…

貧乏くさいから好きじゃないんだ、この名前。

何か貧しい人生が約束されてるみたいで…

皆を助ける事を強要されてるみたいで…

本当は好きじゃない。』



「…。」



『子供に呪いを掛けるのはよくないな。

親のボランティアに付き合わされる方の身にもなれってなあw』



「今はボランティアなの?」



『…。』



「ごめんなさい。」



『もっと普通に… 気楽に…

利己的に生きて貰いたい。

世の中のことなんて考えても不幸になるだけだからね。』



「ごめんなさい。」



『利益を求めてくれてもいいよ。

自分最優先でいいよ。

そうだな、利益の利に一番の一。

読み方はトシカズでもリイチでも構わないけど。

利一って名前を付ければ、俺の言いたかった事は伝わると思う。』



「直接伝えてあげたら、子供は喜ぶよ?」



『そうだろうな。』



電気を消して眠ろうとするが、女が闇を怖がったので我慢する。

備え付けのプラズマTVも点けてやった。

寂しがり屋だから、クラブなんかで働いていたのかも知れないな。



『ごめんな、この時間ニュースしかやってないわ。

歌番組でもやってればいいのにな。』



「ううん、ニュースって嫌いじゃないから。

外の世界に出れるような気がして…」



『そっか。


お! クジラのニュースだよ。

俺さあ、丁度この情報が知りたかったんだ。

君は幸運の女神かも知れないな。』



「///。」



『しかも生きた座礁鯨。

結構大きいなぁ。』



「父が…」



言い掛けて女が黙る。

そりゃあそうだ。

君の安全の為にもちゃんと身元は伏せて欲しい。

知らないことに優る拷問対策などない。



  「続きましては、名古屋港問題です。

  依然名古屋港の機能は停止したままです。

  はい。復旧の目途は立っておりませんとのことです。

  灯りの消えた港の様子がわかりますでしょうか?

  またロシア系のハッカー集団が横浜港・神戸港への

  サイバー攻撃を示唆する声明を発表した

  との情報も入って来ており…

  一切の予断を許さない状況となっております。」



ハッカー共め、滅茶苦茶しやがって。

先程、飯田の定時報告メールに目を通したが名古屋港は酷い状態らしい。

復旧の見込みも立たないまま待機させられているトラック運転手の疲労も限界に来ている。

《事後報告で済まないが、毛内翁や坂井編集長と共に待機トラックに差し入れをした。》

文末はそう結ばれていた。



  「これを受けて本日の日経平均は…

  トヨタ自動車を中心に大幅な続落。

  終値は1931円安の2万2140円。

  年初来最安値を更新しました。」



女は俺の背中に無言でもたれかかっている。

こういう時、どんな言葉を掛けて良いのかわからない。



  「この問題に関して、主要経済団体連合が官邸を訪問。

  岸田総理に一刻も早い解決を訴えかけました。」



不意に俺の背が熱くなる。

女の目頭だ。

不器用な女はまともに泣く事すら出来ないのかも知れないな。



  「経団連の十倉雅和会長は

  財界一丸となった支援を表明。

  岸田総理に対し、一刻も早い復旧と再発防止を訴えかけました。」



俺、まだまだ子供だからな。

同年代なら母親に相談してもおかしくない場面だぜ?

まあ、今の俺がそれをするとこの女が母子共々始末されるのだが。



  「その他にも様々な意見が上げられたとのことですが。

  特にITインフラの在り方を巡っては議論が白熱し

  政府に対して厳しい意見が多数寄せられたとのことです。」



何でこういう時に限って暗いニュースばっかり流すかね。

もっと陽気で無害な番組をやれよなぁ。



  「官民一体となったサイバーセキュリティ案も提出されたそうです。

  《現在の国際情勢では個々の対応にも限界があり

  中国やサウジアラビアの様な政府主導の防衛体制が

  求められているのではないか。》

  との意見が…

  失礼しました。

  胡桃倶楽部の渋川薫子代表の発言とのことです。」



…残念ながら時間切れのようだな。

そりゃあそうか、戦っているのは別に俺だけじゃない。



  「これに対し岸田総理は

  《断固たる覚悟で慎重に検討する》

  とかなり強い姿勢で決意を表明した模様です。」

【名前】


遠市・コリンズ・厘




【職業】


神聖教団 大主教

東横キッズ

詐欺師




【称号】


女の敵




【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)


《LV》 13

《HP》 慢性的満身創痍 

《MP》 万全

《力》  女と小動物なら殴れる

《速度》 小走り不可

《器用》 使えない先輩

《魔力》 ?

《知性》 悪魔

《精神》 吐き気を催す邪悪

《幸運》 的盧


《経験》 67253


本日取得 0

本日利息 7737


次のレベルまでの必要経験値14657


※レベル14到達まで合計81910ポイント必要

※キョンの経験値を1と断定

※イノシシの経験値を40と断定

※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定

※クジラの経験値を13000と断定

※経験値計算は全て仮説




【スキル】


「複利」 


※日利13%

下3桁切り上げ 



【所持金】


852億2565万0000円



【所持品】


jet病みパーカー

エモやんシャツ

エモやんデニム

エモやんシューズ

エモやんリュック

エモやんアンダーシャツ 

寺之庄コインケース

奇跡箱          

コンサル看板 

荒木のカバン  

天空院翔真写真集vol.4  

白装束  




【約束】


 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」

 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」

〇         「同年代の友達を作って欲しい。」

          『100倍デーの開催!』

×         「一般回線で異世界の話をするな。」

          『世襲政権の誕生阻止。』

〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」

          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」

          「空飛ぶ車を運転します!」

 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」

          『遠市王朝の建国阻止。』

×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」

×         「女性を大切にして!」   

〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」

×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」

×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」

          「今度、焼肉でも行こうぜ!」

〇藤田勇作     『日当3万円。』

〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」

〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」

〇         「お土産を郵送してくれ。」

          「月刊東京の編集長に就任する。」

 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」

×警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」

          「オマエだけは絶対に守る!」

×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」

〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」

 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」

×平原猛人     「殺す。」

          「鹿児島旅行に一緒に行く。」

          「一緒にかすうどんを食べる」

 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」

 今井透      「原油価格の引き下げたのんます。」

〇荒木鉄男     「伊藤教諭の墓参りに行く。」

 鈴木翔      「配信に出演して。」 

×遠藤恭平     「ハーレム製造装置を下さい。」

〇         『子ども食堂を起ち上げます。』

〇田名部淳     「全財産を預けさせて下さい!」

 三橋真也     「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」 

〇DJ斬馬      『音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用します。』

 金本宇宙     「異世界に飛ばして欲しい。」

 金本聖衣     「同上。」

 天空院翔真    「ポンジ勝負で再戦しろ!」

〇小牧某      「我が国の防諜機関への予算配分をお願いします。」

 阿閉圭祐     「日本国の赤化防止を希望します。」

 坊門万太郎    「天空院写真集を献納します!」

 宋鳳国      「全人類救済計画に協力します!」

 堀内信彦     『和牛盗難事件を解決します。』

 内閣国際連絡局  『予算1000億円の確保します』

 毛内敏文     『青森に行きます!』

 神聖LB血盟団   「我々の意志を尊重する者が必ずや遠市厘を抹殺するだろう。」

〇大西竜志     「知り得る限り全ての犯罪者情報の提供。」

 坂東信弘     「四国内でのイベント協力」



〇木下樹理奈    「一緒に住ませて」



×松村奈々     「二度と靴は舐めないにゃ♥」

〇         「仲間を売るから私は許して♥」



〇鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って。」

〇         「カノジョさんに挨拶させて。」

〇         「責任をもって養ってくれるんスよね?」



×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」

          「王国の酒…。」

          「表参道のスイーツ…。」 

×         「ポン酢で寿司を喰いに行く。」



 土佐の局     「生まれた子が男子であればリイチ。

          女子であればリコと命名する。」

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― 新着の感想 ―
動画の編集権渡さないのはアツい なるほど。。。
[良い点] 渋川女史すごいな?!
[良い点] 主人公がキチガイすぎて周りがどんどんマトモに見えてくる。その中でまだ3段階の変身を残してるエモやんの異質さよ。
感想一覧
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