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【転移36日目】 所持金15億1537万6510円 「子供は親の玩具じゃない!」

身構えていたので、すぐに起床出来た。

俺の肩を揺すったのは安宅。

雰囲気から察するにこの男は寝ていない。



「トイチ先生。

平原さんからの合図です。

諸事万端整いました。

お着替えが済み次第…」



『いえ、いつでも動ける体勢です。

さあ、行きましょう。』



運転も安宅が担当。

10分程で海岸に辿り着く。


暗いので正確な場所はわからない。

だが、潮風の角度が海からの距離を教えてくれた。


車内で指示されていた通り、俺達全員が一切無言。

これからやらかす事を鑑みれば、残る痕跡は少しでも減らさなくてはならない。


点滅するペンライトの合図に従い、現場に近づく。

緊張混じりの吐息は聞こえるが、無言は徹底されている。


2つの人影が俺に接近する。

恐らくは寺之庄と平原。



「注射針は俺が刺す。」



耳元で囁いたのは平原猛人。

親子だけあって、やはり声が似ている。


俺は無言で頷きながら平原の肩を素早く2度叩く。

仲間全員で決めた《了解》の符丁。

いずれ女共にも悟られてしまうだろうが、ギリギリまで秘匿したい。


クジラの殺害には電流案と薬物案があった。

と言うより相手が巨大過ぎて、殺害手段が他に思いつかなかった。

どうやら皆は薬物案を採用したらしい。


《塩化カリウムを心臓に流し込む。》

薬殺の場合は、そうする手筈になっていた。

シロナガスなどの大きな種になると、心臓だけでも500㌔前後の重量がある。

今夜の獲物であるザトウクジラはその半分程度のサイズと聞いているから、単純計算で心臓の重量は250㌔となる。

心臓だけで250㌔?

…想像がつかない。

いずれにせよ、手渡されたこの巨大な器具で俺が殺すのだ。

これは改造注射器だろうか?

まあいい、詮索をしない約束だ。


手首を軽く2回ポンポン叩かれる。

振り返るまでもない、この丁寧な触り方は寺之庄だ。


手首2回は《決殺》の符丁。

俺は手動シリンダーのポンプ部分を操作する。

5回、6回。

一旦手を休めようとしたが、寺之庄が俺の手首を連打してきたので、制止されるまでポンプを上下させ続けた。

途中、前方から甲高い異音が聞こえる。

或いはクジラの悲鳴だったのかも知れない。


その時は長い時間に感じたが、今振り返れば5分前後の作業だった気がする。

俺は寺之庄の手に引かれ、無灯火の安宅車に乗り込んだ。

車両の外では必死の形相の鳩野が周囲を警戒していた。


俺がシートに座った瞬間、安宅車は発進する。

他のメンバーは後から来るらしい。



「トイチ先生。

お疲れ様でした。」



『いえ、大した事もしておりませんので。』



「先生。

今夜の貴方は宿でずっと寝ておりました。

磯子でどんな騒ぎが起こったとしてもトイチ先生には関係のない事です。

宜しいですね?」



『…はい、私は何も見ておりませんし、知りません。』



「口裏は全員で合わせます。

先生に一切のご迷惑は掛かりませんので。」



『…承知しました。

もしも賠償金・保釈金が必要になれば、その全額を私が負担します。

また相応の休業補償を支払う心づもりであることを皆様にお伝え下さい。』



「ありがとうございます。

先生のご厚情に皆が喜ぶことでしょう。」



先程の民宿に帰って来る。

帰って来てから気付いたが、俺の宿所は離れになっていたようだ。

安宅曰く、逢引用物件として昭和時代から人気の宿であるらしい。



勧められてシャワーを浴びる。

「潮の香りを完全に消して下さい。」

扉の外からそう指示されたので念入りに身体を洗った。



目が冴えてしまったので、リビングで安宅と晩酌。

相模の地酒を1杯だけ呷る。

安宅が無言でラベルを俺に向ける。

《天青》

意味はわからないが、彼なりの願掛けであろうか?

少なくとも数ある酒瓶の中から《天》の字の入った物を選び、俺に注いだのだ。

全てを汲み取る必要はないが、大意は悟らねばならない。



「絶命を確認しました。」



着信を数秒で切ると安宅はそう言って頭を下げた。

イノシシやシカとは比較にならない危ない橋を俺達は渡っている。

我が国の捕鯨に対する諸外国の干渉を鑑みれば、今夜の蛮行は日本一国を渡れば済む橋ではないのだ。



『皆様に存分にご休養を取る様にお伝え下さい。


…今夜の件とは関係はありませんが。

吉事がありましたので、メンバーの皆様に祝儀振舞をしたいと考えております。

その旨もお伝え下さい。』



言い終わってから、内心首を傾げる。

…吉事?

自分で言っておいて何だが、そんな事あったか?

現在の国際情勢を鑑みれば、今は自粛すべき時期だろうに。


荒木は昨日、中東戦争の再燃を予言していた。

何でも近くイスラエルが大規模軍事行動を敢行するらしい。

(国際社会にとっては周知の事実であり、マーケットはこれを織り込み済みとのこと)




  『じゃあ、最悪の場合。

  第三次世界大戦が発生すると言いたい訳だな?』



  「オマエは何を言っている?

  もうとっくに始まってるじゃないか。」



呆れたような荒木の表情を思い出した。

少なくとも、現在は平時ではないのだろう。

そういう視点で国際ニュースを見れば…

うん、まあ確かに始まってるな。

そして立地上、我が国がこの争乱から逃れられるとも思えない。




「数々のお心遣い言葉もありません。

我々もトイチ先生を慶賀致します。」



…慶賀かぁ。

この情勢では不謹慎かも知れんな。

まあいい。

クジラは死んだ。

17時になればわかる事だが、きっとレベルが上がっている事だろう。

俺にとってはめでたい。


皆は俺のレベリングを助けて日利を引き上げる。

俺は金銭を以て皆に報いる。


現時点でパーティーの方針に迷いはない。

俺は俺で粛々と進めて行こう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




目が覚めると昼過ぎだった。

身支度を整えてからリビングに向かうと、平原と寺之庄が居た。


卓上には色彩豊かな魚介が並べられていた。

海鮮とはよく言ったものである。



「リン。

これがコチだ。

食べておけ。」



『コチ?』



「知らないのも無理はない。

漁獲が少ないから、全部料理屋に直行して市場に出回らない。

相模湾の名物だよ。」



『へえ、旨いっすね。

まあ、俺は味のわからない方ですけど。』



「アワビやマコガレイも用意させた。

英気を養っておけ。」



言われるままに刺身を貪る。

命を奪う実感があって心地良い。



「じゃあ、簡潔に報告するぞ。

あの後、我々全員が現場を離脱。

現場の様子は福田魁にチェックを頼んである。

余程の事が無い限り、我々はあそこに近寄らない。」



『お手数をお掛けします。

福田さんに謝礼を…』



「もう払った。

と言うより、俺はあの男に一つ貸しがあってな。

それがチャラになった。」



『貸しですか?』



「古い話だ。

オマエらの世代には関係ない。」



『…。』



「話を続けるぞ。

スマホの法人契約をこれから行うが、機種に指定はあるか?」



『機種、ですか?

いや、俺はそういうのに疎くて。』



「ああ、俺もそういう差異には興味がないのだが…

女の間ではiPhoneでないとイジメられたり仲間外れにされたりするそうだ。」



『そっすか。

じゃあ、iPhone以外の機種を買って下さい。』



「了解。

手続き進めとくわ。

ただ、半導体不足で現物が不足しているらしくてな。

即納は難しいそうだ。

まあ、それでも今週中には納品してくれるそうだがな。」



『半導体不足…』



「そりゃあ、アメリカの対中制裁とウクライナ戦争が重なっているからな。

中国・ウクライナ、共に多くの半導体メーカーが生産拠点を置いている。

不足して当然だろう?」



普段政治的な話をしない平原の口から聞かされると、改めて激動の国際情勢を再認識させられる。

ともあれ、1消費者としての俺は素直にスマホが手に入る事を喜んでおく。



「トイチ君。

次は僕から。」



寺之庄が挙手する。



「飯田さんから連絡。

ハイエースタイプのキャンピングカーを無事購入。

本当は新車を購入したかったみたいだけど、これも半導体不足で断念したみたい。

なので中古車。

現在、バッテリーやタイヤの交換中とのことです。

これ、送られて来た画像。」



『結構豪華ですね。』



「うん。

前の持ち主がフルチューンしたらしいね。

但し7年落ちだから、万全の調子では無いと思っておいて。」



『ええ、問題ありません。

短期決戦のつもりで動いてますし、その車両が不調であれば買い替え資金を追加投入します。』



「OK。

その旨、伝えておくよ。


もう一つ報告。

後藤・江本組は大阪に戻った。

理由は希望者が膨れ過ぎて収拾がつかなくなってるから。

なので、現在の大阪には後藤・江本・田名部の3名が駐屯している。」



『昨日は実験的にリモート預かりを成功させたのですが、彼ら大阪組はちゃんと利子を払えてるんですか?

キャッシュは私の元でしか増えないでしょう。』



「後払いに同意した者の資金だけを預かっているそうだ。

当然、単利。」



『え?

単利なんですか?』



「うん、嫌なら預けなければいいんじゃないかな?

お願いしているのは彼らであって僕らではないのだから。」



関西組強気だな。

…いや、そもそも例え単利でも1日1%なんて破格だからそうなるのか。



『ヘイトコントロールの為にも、私が再度大阪入りした方がいいですか?』



「?」



『いや、後藤・江本組は論外としても田名部社長も事業者としては若手かつ新興でしょ?

あまり強気に出過ぎると、この先綻びが生じかねません。

何らかのケアが必要かと思いますが…』



「…うん、そうだね。

本来なら僕らが気配りする場面だった。

申し訳ない。

明後日の名古屋BBQが終わったら関西のケアをお願いさせて欲しい。」



鳩野起床。

かなり空腹の様子だったので、民宿本館に電話して炊けた飯を届けて貰った。

男4人で刺身と海苔をメシに盛ってから茶漬けで喉に流し込む。

悪い気はしない。



「ふう。

僕、普段はこんなに食べないからね。

甘いものが食べたくなっちゃったw」



「寺之庄君。

なら、今からの報告は朗報かも知れんぞ?」



「え?

そうなんですか?」



口直しの梅干をガリガリ齧りながら平原がスマホ画面を開く。



「なあ、リン。

金本光宙君とは仲良くしていたのか?」



不意に懐かしい名を聞かされ驚く。

光宙と書いてピカチュー。

その凄い名前のインパクトもあってか

彼は転校生ながらも、一瞬でクラスに馴染んでしまった。



『え? 金本君ですか?

はい、仲良くとまでは行きませんでしたが

結構気さくに話し掛けて来てくれて

社会見学から帰ったら彼の車を見物に行く約束をしてたんです。』



「車?」



『あ、いや。

痛車、というんですか?

社会見学のバスの中で彼の御両親が凄い痛車に乗ってるという話になって。

皆で見に行くという話の流れになったんです。

まさか、こんなに長い社会見学になるとは思いもよりませんでしたが。』



「彼の父親から連絡があった。

オマエに逢いたいらしい。」



『…え?

金本君のお父さん?

どうして突然?』



「オマエが神奈川に帰って来たという情報がSNSで出回ってる所為だろうな。

夜色の奴が個人情報垂れ流し続けてるから。」



『…鷹見ィ。

またアイツかあ。

あの女の所為で、俺は本当にプライバシーが無くなってるんですよね。』



「で、俺と金本さんは保護者会追放コンビだから結構仲がいいんだ。

何度か一緒に呑みに行ったこともある。

顔を立ててくれんか?」



『あ、いや。

猛人さんと親しいのであれば喜んで伺いますけど。

何の用でしょうか?』



「んー?

かなり面白い男だから、面白い用事なんじゃないか?」



…そりゃあ良くも悪くも面白人間だろう。

でなきゃ息子にあんな名前は付けない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



平原と2人で顔だけ出しに行く。


《洋菓子のカネモト 関東支店》は俺が通学に使っていた駅にあった。

俺の乗降口と反対側でなければ、在学中に顔を出せて居たかも知れない。



「金本さん、御無沙汰しております。

リンの奴を連れて来ました。」



「おお、平原クン!

いつもごめんねー。

さあ、入って入って。」



足を踏み入れるまでもなく、この店のヤバさが伝わって来る。

平原からは《ケーキ屋》と聞いていたが…


違う。

ここは著作権侵害屋だ。


マ●オ・ミッ●ーマウス・アンパ●マン・スパ●ダーマン

初音●ク・プリ●ュア・となり●トトロ・ラブ●イブ・鬼滅●刃。



ありとあらゆる人気版権キャラの絵がプリントされたケーキの写真が飾られており。

特大のショーウインドーには、我が級友の名の由来ともなった巨大ピカ●ュウが鎮座していた。

さて、息子そっくりの顔の男と対峙する。



「やあ、遠市クン!

ボクの名前は金本宇宙!

宇宙と書いてコスモと読む!

ちなみにアニキは聖衣と書いてクロス!

妹は七感と書いてセブンや!


国連デビューおめでとう!

まあ、その前からピカがキミの話しとったけどな。

今日はよく来てくれたね!」



『…金本君のお父様。

息子さんにはお世話になっておりました。』



しまった、過去形で語ってしまった。

これでは金本光宙が死んだと打ち明けているようなものではないか。



「まあ入ってや。

ピカの仏壇もあるから。」



『あ、はい!』



仏壇?

そうか、割り切った遺族も当然居るのだろう。



版権だらけの店内を進む。

通常の菓子がない。

いや、在庫が保存の効く焼き菓子ばかりなのだ。

どうやら受注生産に特化しているようだ。


壁には一面に賞状が貼られていたので、感心して覗いてみると。


…ッ!?

告訴状じゃねーか!!!


マーベル、ディズニー、ジブリ、東映、講談社、小学館、KADOKAWA、名だたるコンテンツホルダーからの告訴状が誇らしげに並べられている。

息子もかなりアレだったが、この父親はマジモンだ。



『あの…

金本さん。

光宙君の仏壇はどこに?』



「ふっふっふw

キミの目の前にあるやんw」



『え!?

目の前?

いや、等身大ピ●チューしか…


うおっ!!!

戒名が刻まれとる!!!!』



「あっはっはwww

遠市クンは関東の人の割にはリアクションいいよなあww

素質あるでェwww」



『…い、異世界院転生居士。』



「うははw

それはピカの奴が生前に決めた戒名でなww

ちなみにワシの戒名は《版権院蹂躙居士》やww」



『いや、人の命でこういう不謹慎な…』



「ワシはキミ同様に真面目やで?

ストラテジーがあるから我が子にピ●チューなんて名前を付けれる。

ちゃうか?」



『…一貫はしていると思います。

息子さんも、そこは評価していました。』



「…異世界はどうやった?

ゴブリン殺した?」



クソッ。

もう俺が異世界帰りである事が前提になってるじゃねーか。



『あ、いえ。

私は色々あってゴブリン寄りでしたので…

…彼らに対しての差別的な発言を控えて頂ければ幸いです。』



「あっはっはww

ゴメンゴメンww

ああ、そうかー、キミはそのパターンか。

魔界視点のなろうって面白いよなー。


で、ピカの奴はどうやった?

アイツ、ちゃんと活躍出来たか?」



『あ、いえ。

実は恥ずかしい話なのですが、私は初日に追放されてしまって。

息子さんともそれっきりだったんですよ。』



「え!マジ!?

ええなあ。

追放されるなんて主人公やん!

ピカの奴が羨ましがっとる顔が目に浮かぶでー。」



『そうですね。

クラスでもなろうを読んでた連中は羨ましそうな目線を向けて来ました。

ただ、あまりオタコンテンツに触れてない連中は真に受けてましたね。』



「せやね。

義務教育でなろうを教えなアカンね。

なあ、ピカの奴はその時どんな感じやった?」



『えっと、最初に皆で鑑定したんですよ。』



「おおおお!!!!

鑑定キターーーーーーーーーー!!!!」



『落ち着いて下さいよぉ。

で、その鑑定の数値が低かったんで俺は追放されたんですけど。

逆に息子さんはかなりのハイアベレージでした。』



「おお!!!

マジっ!?」



『ええ、本当です。

特に魔力の数値は突出していて、クラスでも3番目でしたね。』



「突出と言いつつ1番を取れないのが、如何にもアイツやな。」



『いや、凄いんですって。

我々はレベル1スタートだったんですけど…

彼は初期魔力値が700後半だったんです。』



「へえ、それって凄いの?」



『はい。

歴代の宮廷魔術師でもレベル上げ切って800チョイが最高値だったそうですから。

我々を呼び出した司祭も大喜びでした。』



「うおお、司祭キターwww

読めたでー、実はその宗教団体が黒幕で裏ボスなんやろ?

せやろ? せやろ?」



『まあ、概ねそんな所です。

実質的な世界宗教ですからね。

いや教義はかなり素晴らしいんです。

ですが、現場はかなり腐敗してましたね。』



「うおーー!

うおーーー!!

ピカは!?

ピカは司祭と戦ったんか!?」



『あ、いや。

私も伝聞でしか知らないのですが…


教団の指示で魔界に攻め込んで…

そこで発生した会戦で王国が

…要は我々を拉致した国なのですが。

その王国側が大敗したのです。

戦死者名簿に息子さんの名前がありました。』



「…そうか。

ピカの仇は坊主と魔界かー。

ワシが異世界行った時の仕事が増えたなー。


ん?

ゴブリンって魔界?」



『合戦当時、魔王職を務めていたのがゴブリン種です。』



「…何やキミ、ひょっとして息子の敵の陣営に居たんか?」



『あ、いえ。

合戦当時は殆ど無関係でした。』



「殆ど?」



『魔界の国債を引き受けましたので…

まあ息子さんの敵対国に資金援助をした事になります。』



「岸田がウクライナに財政支援してるようなモンか?」



『そんな所です。』



「ま、キミにも色々事情があったやろうからな。

ざまぁは追放者の特権や。

うん、特権や。


…でも息子に矛先が向くとやっぱ辛ェわ。」



『申し訳ありません。

そして、金本さんにもう一つ謝罪しなければならないことがあります。』



「何や?

キミが息子を撃ったとか、そういう話はナシやで!?」



『あ、いえ。

異世界で息子さんの葬儀を開催しました。』



「え?

お、おう。

それは感謝こそすれ、怒るようなことではないやろ。」



『ただ、合同葬儀という形になってしまって。

魔族や王国人、

彼らとの合同になってしまいました。

それで式典のフォーマットも神聖教団、我々を拉致した張本人なのですが…

神聖教のやり方で弔ってしまいました。

息子さんの宗派を知っていれば、個別に対応出来たのですが。』



「え? 宗派? 何やろ?

ゴメン、ワシも自分の宗派知らん。

大阪に帰ったら解ると思うけど。

あれ? 親父の墓ってどこやったかな?

ゴメン、知らん。

もうそのシンセーキョーダンでええわ。」



『いや、墓参りはちゃんとしないと駄目でしょう!』



「うおっ、若い癖に変な所にスイッチがあるよな、キミ。

わかったわかった。

アニキにLINEして宗派聞くわ。

《ウチって葬式とか宗派どこー?》

はい送信♪


まあ要するにピカの葬式終わってんな?

手間が省けたわ、ありがとうな。


あ、返事来た。

《ぶっきょー》

って書いてある。

使えんアニキやな。

七感に聞くか。

《ウチって葬式とか宗派どこー?

今年の冬コミどうするー?》

はい送信♪


キミ、若いのにそういうケジメがちゃんとしてて偉いなー。

お、返事帰って来た。

《五悠嫉妬、大至急ペン入れ手伝える子紹介して》


遠市クン、キミの友達に漫画描ける子おらん?」




『え!?

この話の流れで漫画!?』




「妹がなあ。

同人作家としてはかなりのビックネームなんやが…

かなりのハードワーカーで、アシスタントが定着せえへんから悩んどるねん。

知り合いにリアル寄りの背景画描ける子がおったら紹介してやって欲しい。

仕事場は谷町線千林大宮駅から徒歩2分。

洋菓子のカネモト総本店の3階。

アーケード沿いやから雨の日でも安心やで!

週5で入れる子が希望や!

4コマで良ければ商業連載のコネもあるで!」



『あの、息子さんの話を。』



「ああ、そうやったそうやったww

ワシ、悪気なく子供の存在を忘れる人やねんww

背中を見て育って欲しいもんやなww

あっはっはwww」



『あの、宗派は?』



「もおええやん。

俺ら兄弟、親父の葬式も省略したし。

コミケの前日に死なれても困るよなぁ?

あっはっはw

そう思わへん?」



『いや、親の葬儀は挙げなきゃ駄目でしょう!

人倫の道に反します!』



「うはは、怖w

ピカの奴が言ってた通りやww

サイコ入った真面目クンがクラスに居るって言とったからなww」



『さ、サイコは入ってないと思いますけど。

論点をずらすのはやめて下さいよ!』



「はははw

ゴメンゴメン。

お詫びにお菓子あげるから許して♪


プリ●ュアクッキー、マリンが余ってるからあげるわ。

防腐剤たっぷり使ってるから、まだ腐ってない筈やでー♪」



釈然としないが、江本の好物だからな。

怒りを噛み殺して袋を受け取る。



「な?

それで勘弁してや♪

こうやって息子の友達と話すのも一種の供養やん。


で、結論としては

ピカの仇は魔界と教団ってことやな。

じゃあいつかワシがアイツと同じ世界に飛べたら仇討って終わりや。

はい、この話おしまい。」



『…あの、大変申し訳ないのですが。』



「ん?」



『紆余曲折ありまして…

最終的に私が魔界と教団の代表に就任しました。』



「…。」



『…。』



「曲がりすぎィ!!!」




しばらく2人で放心する。

そして等身大ピ●チューに合掌。

改めて友の冥福を祈る。




「はい、切り替えて行こう!」



『早!』



「今日、キミを呼んだのは。」



『はい、光宙君の供養の為ですね。』



「ちゃうちゃうww

人間は死んだら塵芥やww

だからピカより長生きしたワシは、奴の分まで頑張るだけや。

なあ遠市クン、男は過去を振り返ったらアカンで。」



『…。』



「今日、キミを呼んだのはコラボ依頼や。」



『は?

コラボと申しますと。』



「はははw

そういう駆け引きはやめてぇや。

キミ、ルナルナと付き合っとるやろ。」



『え? ああ、鷹見。

まあ、一応。』



「単刀直入にお願いしたい。

ルナルナちゃんねるとコラボさせて欲しいんや。」



『はあ、じゃあ連絡付いたら頼んでみます。』



  「リン。

  俺からLINEしとこうか?」



『すみません、猛人さんにお任せします。』



  「OK。

  金本さんから条件あります?」



「えー、キミの彼女さんやろ?

なーんで平原クンが連絡するの。

NTR? NTR?」



『いや、私スマホ持ってないんですよ。

それで猛人さんに検索や連絡をお願いする場面が多くて。』



「え?

スマホくらい契約したらええやん。」



『いや、私銀行口座持ってないんですよ。

それで不動産もスマホも契約出来なくて。』



「おお、反社ぁ…

怖。」



『いやいや!

単に事情があって口座が作れないだけなんですよ。

短絡的に反社会的勢力と結びつけないで下さいよ!』



「でも平原クンと一緒に居る訳やん?」



『あ、はい。』



「ルナルナの彼氏やん?」



『あ、はい。』



「じゃあ反社やん?」



『…はい、自分を反社会勢力と認めます。

申し訳ございませんでした。』



「うん、わかってるのならええけど。」



…仕方ないじゃないか。

こんな重犯罪者達とつるんでいる以上、否定のしようがない。

いや、最悪の犯罪者である金本宇宙にだけは言われたくないのだが。



  「金本さーん。

  OKでました。

  ただ案件料として1日拘束で100万欲しいそうです。」



『え!?

100万!?

アイツ何考えてるんだ!!

金本さんスミマセン!

まさか、そこまで吹っ掛けるとは思いもよらず。

厳しく叱責しておきますので。』



「え!?

100万!?

うおお、ありがたいわあ!!

平原クン、感謝を伝えておいて!

まさか、そこまで良心的に応対してくれるとは思ってへんかった。

謹んで来訪をお待ちしておりますので。」



『え?』



「え?」



『いや、100万って法外でしょう。』



「うん、法外やね。

法外に安い。」



『え!?

いや、1日拘束でしょ!?

日当100万ってボッタクリでしょう。』



「いやいや!

あのルナルナちゃんねるやで?

500万でもペイ出来るやん。

100万はオトモダチ料金やで?」



『そ、そういうものなんですか?』



「だって大谷翔平より広告効果あるのってルナルナくらいやん。」



『いやいやいや!

何を仰ってるんですか。

大谷選手は我が国が誇るスーパースターですよ!

鷹見みたいな犯罪者と比較したら失礼でしょう。』



「でも、大谷なんて所詮

試合が無いと関連tweet途切れるやん。」



『あ、いや。

それは、アスリートなんだから当然じゃないですか。

彼らの仕事は試合に出る事なんだから。』



「うん、そこなんや。

メジャーの試合数は1年間に162試合。

全試合に出場する訳でもないから、年間の半分も稼働してへん。」



『い、いや。

そりゃあそうでしょう。

毎日試合に出てたら、如何なる豪傑でも身体を壊してしまいますよ。』



「ところが犯罪は違うねん。

犯罪配信はその気になれば毎日出来る。」



『いやいやいや!!

幾ら鷹見と言えど毎日犯罪は…

いや、まあ、してますけど!


でもですよ?

いずれは検挙されちゃう訳じゃないですか!』



「検挙されるって事はニュースに取り上げられるってことやん?

それってスポンサー的には美味しいやん?」



『いやいやいやいや!!

金本さん、冷静になって下さいね金本さん!

逮捕されたらお店のイメージが下がってしまいますよ!』



「下がらへんよ?

だってルナルナは最初から犯罪者であることを売り物にしとるから。

寧ろ逮捕されたら、犯罪者として格が上がる。

それにこの店構え見てみ?

明らかにライン越えとるやろ?

ちなみに去年は《煉獄さんケーキ炎の呼吸・愛ノ型「誕生日祝」》で荒稼ぎしたから。」



『それって訴えられたりしないんですか?』



「東映と集英社から告訴されとる。

一審では負けた。

賠償金2000万コースやな。」



『いや!

大損害じゃないですか。』



「でもワシ、賠償金なんて払ったことないもん。

どうせ払う気ないんやから、裁判でオモロイ事言いまくって知名度上げたらええねん。

TVも面白がって取材してくれるしな。


オマケに大企業VS個人商店の構図は世間ウケする。

結構投げ銭貰えるで?

現代社会ではな?

ビッグネームから告訴されたら儲かるねん。

そういう構造やねん。

ワシの妹なんかセーラー●ーン同人誌で勝手に富樫義弘の偽装サインを利用して荒稼ぎして主要7社から告訴されて、最後は脱税で実刑喰らった。

おかげで同人界では一番の有名人や。

知名度のおかげで追徴金もペイ出来とる!


だからこそのルナルナちゃんねるやねん。

賠償金なんぞは例え5万でも払わん、死に金やからな。

でもルナルナへの100万やったら喜んで払うよ。

だって明らかに生きるカネやん。

相手は日本最高の有名人やねんで?

ちなみに世界一は明らかにキミやけど。」



『まあ、犯罪自慢なら

アイツが一番でしょうね。』



「キミに感謝する。

ピカの奴はルナルナとそんなに縁がなかったみたいやからな。」



『鷹見は…

殆ど学校来てませんでしたからね。

クラス内でも特に誰とも仲良くなかったですよ。

たまに学校来ても問題ばっかり起こしてました。

刺青も入ってて怖かったですしね。

お互い雰囲気変わってて再会時は気付きませんでしたけど。』



「やっぱりあの子、孤立してたん?」



『あの性格ですからねえ。

今振り返っても…

担任くらいじゃないですか?

アイツと話してたの。』



「ああ、それが奈々ちゃん出演の布石になってた訳やね。

保護者的には腹の立つ教師やけど、身体は最高やね。」



『ええ、我々もあの人の身体は慕っていたのですけど。

高校2年って将来掛かってますから、ちゃんとした教師に当たりたかったです。』



  「金本さん、夜色からLINEグループ作って欲しいとのことです。

  ギャラは松村奈々と2人で100万で構わないとのこと。」



「おおおおお!!!

マジっすかぁ!!!

奈々ちゃんも来てくれるの!?

もう足向けて寝られへんわ。

はい、今承認しました。」


  

  「じゃあ、リン。

  オマエがスマホ入手次第、俺とグループ入れ替えな。」



『え? え?』



  「いや、オマエの女なんだから。

  オマエが管理しなきゃおかしいだろう?

  あくまで俺はリンの代理だぞ?

  そこは履き違えるなよ?」



『あ、はい。

スミマセン。


じゃあ、金本さんと鷹見が一緒に配信する時に

立ち会えばいいんですね?』



「ん?

いや、ワシとルナルナじゃ年齢差あり過ぎて

画面映えしないから、ワシはアバンで挨拶する程度。」



『あ、そういうものなんですね。』



「そこで、金本家の最終兵器を投入する!」



『さ、最終兵器!?』



「うん、そうやねん。

ピカの失踪から3年。

カネモト洋菓子店の新正統後継者として

金本流の全ての奥義を授けた。」



『お、奥義!?』



「そう!

KANEM 光を継ぐ男!!


紹介するで!!

金本家の最終兵器!


いでよッ!!

金本 光戦士ずんだもん!!!!」



『え? ず、何?』



場の空気に呑まれた俺がキョロキョロしているとキッチンから緑色の人影が《ゆらり》と膨れた。



「もう、パパ上は話が長いのだ。


やあ、お兄さん!

ボクはキュートな家事手伝い枝豆・ずんだもん。

光戦士と書いてずんだもんと読むのだ。


こんな僕の夢は将来大金持ちになって、いつかこのDQNネームを改名すること!

はあ、どこかに僕のすんばらしい才能を買ってくれるお兄さんはいないっすかね?」



絶句。

俺はこの声と喋り方を知っている。

皆がスマホで見ている《ずんだもん》だ。

江本や飯田とも一緒にずんだもん動画を見た。


スマホを入手したら視聴する予定だった。

俺でも知ってる超有名キャラだ。


金本 光戦士ずんだもんと名乗ったこの少年。

コスプレと言うのだろうか、緑の髪・緑の服。

完全にずんだもんをトレースしている。

いや、顔はしっかり金本系列なのだが。



「お!

噂の遠市パイセンじゃないっすか。

おっすおっす♪

ピカ兄ちゃんが世話になったのだ。」



『あ、いえ。

お兄さんにはお世話になりました。』




聞けば、出生時の光戦士は《ぞす》と呼ばれていたらしい。

だが、近年のずんだもんブームに目を付けた金本宇宙が読み仮名を《ずんだもん》と定めた。


後で知った事だが…

改名には家庭裁判所の許可が必要だが、現在の戸籍法では「読みがな」に関する規定がなく、読みの変更には届け出や許可は不要らしい。


以降、この少年は猛特訓を重ね、ずんだもんと全く同じ口調同じ声色で喋れるようになった。

年齢は14歳。

学校には行っていないが、朝から晩まで配信を続け

youtube登録者数6万・Twitterフォロワー2.3万まで数字を伸ばす事に成功したとのこと。

父の金本宇宙は何としても今年中に10万の壁を破らせたいと考えている。



「コラボ動画には、我が子ずんだもんを出演させる!」



『え、ええ。

あの、彼まだ中学生の年齢ですよね?

学校の許可とか要るんじゃないですか?』



「学校には行ってへんねん。

こんな底辺校区の学校に通わせてもなあ。

キミもそう思うやろ?」



『いや、民度は最低だと思いますが…

集団の中で切磋琢磨する事が人格の向上に繋がるのでは?』



「初日に追放されたキミが生還して良い暮らしをしてる訳やからねえ。

説得力ないねえ。」



『…確かに。』



「遠市クン。

カネと学歴はどっちが大切だと思う?」



『カネに決まってるじゃないですか。

学歴はそれを獲得する為の手段の一つに過ぎません。』



「知名度と学歴はどっちが大切だと思う?」



『知名度に決まってるじゃないですか。

悪名ですら無名に勝るのですから。』



「キミが親なら14歳の息子を底辺学校に入れるか?」



『まさか、屑共と接点作るのは百害あって一利なしですよ。

そんな暇があるのなら動画配信などの属人的な分野の技術を磨かせます。』



「それでは人格向上は図れないかもやで?」



『いや、どう考えても社会の底辺共より、オンライン上の上澄みと付き合った方が勉強になるでしょう。』



「じゃあ、息子を不登校ずんだもんにするのは無問題モーマンタイやな?」



『はい、考え得る限りの最善手です。』



「うむ。

同意見で嬉しい。

という訳で、ルナルナさんにはウチの息子をプッシュしてくれるように、遠市クンからも頼んどってくれへんか?

勿論、コラボ動画の100万とは別に追加料金を払う。」



『はあ、まあ。

猛人さん。

その旨もメッセージ送って下さい。』



  「わかった。

  ただ、プッシュに関しては実際に夜色と光戦士が挨拶を交わしてからだな。

  やはり仕事を一緒にする為には、本人同士の相性ありきだからな。」



「なあ、遠市クン。」



『あ、はい。』



「コラボついでにお願いがあるねんけど。

もしキミがまた異世界行く事になったら連れてってくれへん?」



『いや、光戦士君はまだ中学生でしょう?

流石にそんな苛酷な事は出来ませんよ。』



「あ、いや。

息子なんてどうでもええねん。

ワシワシ、ワシが異世界に行きたい。」



『いやいや。

どうでもいい、なんて酷いでしょ。


金本さん、私も年長者にあまり厳しい事は言いたくないのですが…

敢えて言わせて下さい。


子供は親の玩具じゃない!


さっきから黙って聞いていれば何ですか貴方は。

我が子を道具扱いして酷いじゃないですか!』



「…いや、子供は玩具であり道具やで?

コイツラなんて元はワシの精子の一粒やん?

ワシ、息子から見たら造物主やん?

そらぁ、ワシの都合で使うのもしゃーないで。」



『いやいやいや!

エゴですよ、それは!』



「うーーーん。

こればっかりは親にならな実感湧かへんやろな。

まあ、キミも子供生まれたら理解出来るわ。」



『いや、私も子供居ますよ。

妻帯者ですし。』



「うそお!?

遠市クンってルナルナともう籍入れてるの?」



『?

アイツは単なる妾です。

ちゃんと正妻との子がおります。

後、他の相手とも1人。』



「おお、キミって大正時代くらいの価値観持ってるよな。

で? お子さん生まれた感想はどうや?

案外手間掛かるやろ?」



『?

いや、出産前に帰国しましたので

どうなってるのやら。』



「え!?

酷!!  鬼畜やん!

キミ、人の心ないんか!」



『まあ生活費は渡しておりますので

生きて行くのに困る事はないのではないでしょうか?』



「傲岸! 傲岸!

それ男が一番言ったらアカン台詞や!」



『あのねえ、金本さん。

人の家庭事情に干渉するの、やめて貰えます?

私の妻子をどうしようが、私の勝手でしょうに。』



「鬼畜ゥ!

自分を棚に上げすぎィ!」



どこまでも楽し気に騒ぐ金本。

冷静に考えれば、息子もこんな悪ノリ系統だったよな。


その後、彼なりのサービスなのだろう。

厨房を案内して貰う。

洋菓子店の厨房というより、ガジェット企業の作業場っぽい雰囲気だ。



「じゃーん。

最新式の3Dプリンター。

これがカネのなる木なんや。

遠市クン、好きなキャラおる?」



『突然言われても。』



「イラストやったら何でも菓子に落とし込めるで?」



『あ、じゃあ。

鷹見がいつも使ってるアイコンで。』



「お、愛やね!

ルナルナちゃん喜ぶでー。」



5分も経たずに鷹見ケーキが出力される。

へえ、こんな簡単に剽窃が出来るのか?



「これな?

ガイジン受けが凄いねん。

見てやこの予約表。

ウチの顧客の6割以上がガイジンや。

特に中国系が多いな。

この前、習近平ケーキ作ったで?

それもクマのプーさんケーキと一対の注文や。」



『それ、マズくないんすか?』



「いや、アレはヤバかったでー。

反政府プロパガンダに使われたらしい。」



『ヤバいっすねえ。』



「でも儲かった。

危ない橋こそ真のブルーオーシャン!

カネになるんや!」



『いやいや、息子さんの将来のキャリアに傷がついてしまいますよ。』



「だからこそ、キミに託したい。」



『は!?』



「コラボのみならず。

ずんだもんの面倒見てやってくれへんか?」



『あ、いや。

突然そんな事を言われても。』



「礼はする!」



『いや、お礼と言われましても。』



「キミ、子供食堂を広めたいんやろ?

名古屋で普及イベントするみたいやん?」



『え?

何とか周知・配布出来ないか、と。

日々悩んでおります。』



「ワシがその支援をする。

という条件ではどうや?

何も一生連れ歩いてくれとまでは言わん。

ただ、ずんだもんに世間を見せてやって欲しいんや。

言っとくけどソイツ、若年層向けの知名度はあるで?

ルナルナと被ってない層への告知力はある。」



『…うーーーん。』



「要はキミは福祉がしたい訳やん?

それも食を主軸に展開している。

そしてワシの本業はケーキ屋。

この機材を見たら分かるかもやが、量産能力にも自信はある。

幼稚園とか保育園からの一括注文に対応してるからな。


例えば、このプリ●ュアカップケーキ。

ワシはこれを1日に1000個作れる。

関西の本店は設備が充実しとるから3000は楽勝や。」



『…。』



「お、ようやく商売人の顔になってくれたね?

要するにワシが欲しいのは息子の知名度。

コイツが10代のウチにブレイクさせたいねん。

知名度さえあれば喰いっぱぐれはないからな。


で、キミに対して提供出来るのはベテラン洋菓子店としてのノウハウ・実務能力。

如何に融通が利くかは今見せた通りや。

顧客名簿もあるで?

幼稚園・保育園・託児所・児童館・小学校。

関東はまだまだ未開拓やけど、関西本店では親の代からの付き合いもあって児童向け施設との縁は深い。

どうや?

ワシは旨味のある男やと思わへんか?」



『…長旅に連れ回すつもりはありませんが、数日でしたら光戦士君を預かる事は可能です。』



「OK!!

こっちもキミに全面的に協力する。

実は手土産も用意してるねん。

2日後の名古屋BBQ。

そこでこの菓子を配ってみいひんか?」



金本がクッキーが収納された箱(番重というらしい)を俺達に披露する。

当たり前の様にクッキーにはキャラの顔がプリントされている。



「うん、今キミが思った通りや。

無論、無許可。

でも、安心してくれ。

これは名古屋市が権利を保有しているキャラクターやから。

その名も、《はち丸》。

同名のキャラを主人公に据えたサム8が爆死したのがお笑いポイントや。」



『いや、名古屋でイベントするのに、勝手に名古屋のキャラを使ったら駄目でしょ。』



「うん、そう言うと思って利用規約もチェックしてみた。

《マスコットキャラクターのイラストについて、ポスターやチラシに使用したい場合、キャラクターグッズを製作・販売したい場合は、使用申請の手続きを行っていただく必要があります》

と名古屋市の公式サイトで明記してある。」



『ほら、駄目じゃないですか。』



「いや逆。

クッキーはポスターでもチラシでもない。

しかもキミ、そもそもカネを取るつもりはないんやろ?」



『ええ、チャリティイベントで参加費を徴収するのは筋が通らないと思いますので。』



「つまり使用申請の必要はない。

勿論、キミはきっちりしてる人やから無許可を嫌うと思う。

せやから、フォーマットをダウンロードしておいた。

ほら、これが申請用紙や。」



『あれ?

記入項目少なくないですか?』



「そらそうや。

公共団体は営利が目的ではないもの。

むしろ、PRの為に積極的に使って欲しいとすら思っている。

導入した部署の実績にもなるからな。

宗教とか選挙に悪用されるのを防ぐ為に、こういう使用申請規約を設けてるだけやねん。」



『いや、これくらいなら話しながらでも書けましたけど…

残念ながら2日後なんですよ。

今からじゃ間に合いません。』



「逆や。

この菓子と一緒に一方的に送るだけで構わへん。

例え到着が事後やっとしても、体裁は全部役人が整えるし、そもそも公共団体は余程のことが無い限りボランティア行為を掣肘して来ない。

市民からのバッシングに晒されかねへんからな。

BBQ大会に悪意はないんやろ?

バックエンド商品を用意してる訳でもないな?」



『勿論ですよ。

セールスなんかを目的としている訳ではありません。』



「good!

騙されたと思って、その用紙に記入して送ってみ?

多少の不備があっても、周りが勝手にお膳立てしてくれるわ。」



『…やってみます。』



「ワシ、キミの役に立てそう?」



『ええ、私が知らない世界をご存知だと思います。』



「異世界連れてってくれる?」



『まあ、向こうに行く用事や安全な手段が出来たら。

声は掛けることにします。』



「…ええやん。


ここで一句。

《夢は断じてッ! 叶わへんけどッ! 叶えれるッ!!》

ふう、今日もレガシー作ってもうた。


じゃあ、ずんだもんにクッキー積ませるわ。

キャラ菓子の注文あったら紹介してな、ちゃんとバックは払うから。


ちなみに自治体を狙うアイデアはピカの発案や。

今となってはアイツの忘れ形見やな。」



『…。』



車にクッキーを積んだ光戦士は、そのまま勝手に後部座席に座ってしまった。

なるほど、最初からこのシナリオか。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



一旦、民宿に帰って一服。

光戦士に本館の一室を割り当ててやる。



「ボクの名前はずんだもん!

見ようによってはパパ上に捨てられた憐れな枝豆なのだ。」



『いや、光戦士君。

それは違うよ。

君のお父様は、彼なりに君の前途を真剣に考えている。』



「ふむ、一理あるのだ。

まあ有名人のパイセンとのコラボも決まったし

ボクの前途は順風満帆なのだ。」



『あの、無理にその喋り方しなくていいからね?』



「ふっふっふー。

天才のボクは毒親の英才教育によって

すっかり自分をずんだもんと思い込んでる哀れな枝豆擬人化なのだ。」



『そ、そうか。

まあ君の人生は君が選択しなさい。

学校にも、なるべく行った方がいいかもね。』



「黙れ凡人。

天才youtuberのボクに公教育なんて必要ないのだ。」



『いや、それだと偏った人間になってしまうでしょ?』



「ちっちっち。

リン兄ちゃん、今はもう令和ですよ?

アップデートして行かなきゃなのだ。」



流石にここまでの先進性は御免蒙る。

便所に行って帰って来ると、既に光戦士は配信を始めていた。

ああ、こういう子かぁ。

一言断って欲しかったな。

兄貴は気配りの出来る男だったのだがなあ。


30分程で彼の配信が終わったので、無断行動の否について諭す。

特にカメラを回す行為は、周囲に不利益を与えかねないことを説明。

本心では納得していない様子だったが、表向きは詫びて来た。



「ぴえん。

初日から怒られたのだ。

ボク、こういう昭和のノリ苦手なのだ。

この先上手くやっていけるか不安なのだ…」



冷静に考えたら、俺の実年齢が17だから3つしか変わらないんだよなあ。

説教する資格とかあるのかなあ。


俺は体育会系の組織に所属した事がない。

だから、後輩を叱責する匙加減がわからない。

さっきの説諭も、俺なりに気を遣ったつもりだが…

どうなのだろう。



『ヒロノリさん。

クラスメートの弟を持ち帰ったんですけど。

どうやらトラブルメーカーっぽくて…

申し訳ないです。』



「リアルずんだもんでしょ?

芸風通りの子だよね。」



『御存知なんですか?』



「いや、彼有名人だよ?

何度かネットニュースにもなってるし。

動画、見る?」



寺之庄のスマホで光戦士動画を閲覧していく。

顔以外は完全にずんだもんトレースである。

これを何の才能と表現すればいいのかわからないが、異能であることは確かである。

3年経てば、この少年にも兄・光宙のような柔軟性が備わるのだろうか。


これが女なら有無を言わさずヒルダに預けたのだが、参ったな。

誰に世話をさせるべきか、いや俺が見るべきとは理解しているのだが。



『彼、どう扱えばいいですかね?』



「…隔離したいのならスタジオでも提供するのが無難かな?」



『彼が成人していれば、それも考えたのですが

まだ大人の教導が必要な時期だと思うのです。』



「金本氏は、その適任者がトイチ君と思ったのだろうね。」



『うーーん。

肝心の私が子供ですからね。

なので、彼にとっては苛酷かも知れませんが

大人として扱います。』



「大人として?」



『例えば、今から始める恩寵の儀。

当然、彼は混ぜませんし、話も漏らしません。』



「それが大人扱いなの?」



『ええ、スキルの輪の中に置くのは身内だけ。

資格も資質も無い者を子供である事を理由に特別扱いはしません。

私、勝手にヒロノリさんを身内扱いしてますけど、大丈夫ですね?』



「うん、それは嬉しい。」



『お父様にもちゃんと許可は取っておりますので。』



「え? 父に?」



『ご実家を訪問した際に

《ヒロノリさんを下さい。》

とお願いしております。』



「えええっ!?

そ、それで父は何と?」



『はい。

別れ際に

《お譲り致します。》

と仰いました。』



「ああ、なるほどぉ。

なるほどなるほど。」



『申し訳ありません。』



「いや、別に謝るようなことでは。

まあ、現状は君の指示で動いてる訳だしね。

もう譲られてるようなものだよ。」



『ヒロノリさんばかりが割を食ってる気もしますので

貴方からも要望があれば、是非共聞かせて下さいね。』



「…要望かぁ。

うーーん。

今がかなり満足感あるからね。

こんなに充実感のある日々を過ごせたのは生まれて初めてだよ。」



『そう言って頂いて恐縮です。』



「だってそうでしょ。

こんな体験、しようと思って出来るものではないからね。

あ、じゃあ。

要望1個いい?」



『あ、はい!

是非!』



「極力、トイチ君の側に居たいんだ。

運転手とかカバン持ちとか、そんなのでいいんだ。

文字通りの側近みたいなポジションになりたい!」



『いやいや、私こそヒロノリさんが近くに居てくれるなら、これほど心強い事はありません。

むしろこちらからお願いしたいくらいです。

ただ貴方をカバン持ち扱いは出来ませんので。

その旨だけをご理解下さい。』



この男を粗末に扱ってしまえば、福井の名家である寺之庄家・渋川家の不興を買うだろう。

下手をすれば一県丸々敵方に回ってしまうケースすら考えられる。

それだけは絶対に避けたい。



「勿論、おカネが絡んだ話だからね。

僕の取り分は減らして欲しい。」



『いやいや、おカネは約束通り支払わせて下さい。

ポジションによって利率が変化したら、皆さんを不安にさせてしまいます。』



「そっか、ごめん。

君の言う通りだ。

じゃあ、透明性の確保の為にも他のコアメンバーに僕の手持ちを開示しても大丈夫?」



『ええ、ヒロノリさんの資産に関しては私はタッチ出来ませんし

貴方であれば皆が納得するように話を持って行ってくれるでしょう。』



「ありがとう。

いつも我儘言ってゴメンね。」



『では、側近のヒロノリさんに最初のお願いです。』



「はい。」



『我々にとって、金本光戦士は現時点で最大のリスク要因です。

機密が漏れるとしたら間違いなく彼からでしょう。

ヒロノリさんには彼を何とかする方法を考えて欲しいのです。

無論、金本宇宙を納得させる形でです。

私は分配云々言ってる割に、供給手段を持ってないので。

長年製菓業に携わっている金本家は手元に確保しておきたいのです。』



「…提案するね。

まず光戦士君には仕事として配信を依頼する。」



『はい。』



「当然、配信時間は17時前後。

恩寵の儀が行われてる最中は、彼が動けないようなスケジュール割を行う。」



『ええ。』



「彼には配信部屋若しくは配信車を準備しよう。

依頼する配信内容は…

いっそのこと子供食堂にしない?」



『…攻めますねえ。』



「彼、確かに問題もあるんだろうけど。

稀少性はあるでしょ?

試す価値はあると思う。」



『OK。

全てお任せします。

ただ、最初だけ私が因果を含めて参ります。』




17時が近いので、急ぎ協議して光戦士に配信部屋を割り振る。

民宿の本館を別途に借りた。



「ふつふっふー。

賢いボクにはお見通しです!

これは試験に違いないのだ。」



『え?』



「ちっちっち。

17時からルナルナパイセンの配信が始まる情報は把握済みなのだ。

当然、時間被りは配信者として超ギルティ。

リン兄ちゃんはボクが空気を読めるかを試した。

そういうことなのだ。」



『え、いや、違。』



「もんもん。

ボクは合格なのだ?」



『あ、いや。

そうやって気を遣ってくれるのはありがたいというか…

君のお兄さんを思い出したよ。

それとなく周りに気配りしている人だったからね。』



「ふっふっふ。

初日勤務でピカ兄ちゃんを越えてしまったのだ♪」



『お父様から聞いているかも知れないが…

私は今、子供食堂の普及・広報に関する活動をしている。


次からの配信でその話題に触れてくれると助かる。

具体的な指示は寺之庄さんに仰いで欲しい。

これは当面の活動費だ。


お父様に謝礼を支払う許可は得ている。

受け取ってくれるね。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】


9億9233万1010円

  ↓

9億9223万1010円



※金本光戦士に小遣いとして10万円を支給



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おお!

初日から10万円のお賃金を貰っちゃったのだ!

順風満帆過ぎて己の天才っぷりに驚愕なのだ。」



『いや、賃金ではない。

あくまでそれは私的な小遣い銭だ。


現時点で私とキミとは雇用関係にも主従関係にもない。

あくまでスポンサーとコンテンツホルダーの関係だ。

キミは広報能力を提示する、それに対して私は値段を付け支払いをする。


わかるかい?』



「わかったのだ! (本当はわかってないけど)」



『光戦士君はそのお金で衣服や洗面具などの身支度をしなさい。

勿論、遊興費に充てても構わない。


配信に対して別途報酬は支払う。

但し窓口は寺之庄さんだ、いいね?』



「ふっふっふー。

賢いボクは思いつきました。

この10万でポケカを買い占めてやるのだ。

そして情弱共に転売すれば、10代でFIRE確実なのだ!」



『それじゃあ、キミの即応能力を見たいから

部屋で鷹見の配信を視聴しなさい。

そして彼女の配信が終わった直後に、肯定的な感想配信をして貰おうかな。

キミのギャラ相場に関しては、その感想配信を選考材料にさせて貰う。

出来るかい?』



「はい! お任せ下さいなのだ!

早速、ルナルナパイセンの宣伝を頑張って来るのだ!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「トイチ君、見直したよ。

キミはお兄さんとしての素質があるね。」



『いえ、かなり緊張しました。

今でも背中に変な汗かいてます。』



「大丈夫。

少なくとも僕の目には有能で思いやりのあるお兄さんに見えていたから。」



『ありがとうございます。

ヒロノリさんにそう仰って頂けますと、少しだけ安堵出来ました。』



「じゃあ、部屋に戻るよ?

もう時間が無いからね。」



『はい!』



俺と寺之庄は小走りで離れに戻る。

既に安宅が入室しており、ノートに手早く数字を書き込んでいる。


鳩野と平原には席を外して貰っている。

コアメンバーが彼らを内輪に入れたいと申し出れば2人もコアメンバーとなる。

今のところ、そんな提案は上がって来ていない。



「トイチ先生。

大阪組からの連絡です。

資金のセットが完了。

理論上、先生にカネを預けた状況です。


また名古屋の飯田君からも同様の預金報告が来ています。

BBQ大会の報告書も送られてますので、お手数ですが後ほど目を通して頂ければ幸いです。


それでは、本日の総預金額を報告致します!」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


9億9223万1010円

  ↓

55億9223万1010円



※出資金46億円を預かり



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『出資金、増えてますね。』



「いえ、これでもかなり絞ってます。」



『あ、絞ってるんですね。』



「反社寄りの資金は全拒絶してます。

トイチ先生もネットワークビジネスやデリヘルは弾きたいでしょ?」



『…ですね。

私はネットワークビジネスに関しては規制すべきだと考えてますし。

後、風俗営業は正業とは峻別されるべきだと思います。』



「今は暴対厳しいので、向こうもそこまで強硬ではないのですけど。

ややゴネてるみたいなんです。」



『え? ゴネると言いますと?』



「関西は弁の立つ者が多いので…

《自分達を排除するのは職業差別ではないのか?》

《憲法違反ではないのか?》

と。

皆の前で説明を求めて来たようです。

幸いにも殆どの者は相手にしていないようなのですが、一部動揺している者もあり…

排除の為の理論武装をしたいと…」



『OK。

事情は把握しました。

今後は以下の様に回答下さい。


《恩寵の儀はあくまで神聖教の神事です。

ネットワークビジネスも風俗業も、我々の教義に明らかに反している為、参拝をお断りしておりますが

断じてあなた方個人個人を差別する意図ではありません。

但し、神は自由意志で賤業に従事している者への処罰を明言しているので、その旨は忠告しておきます。

悔い改め、あなた方が廃業の後に正業に従事したのであれば、神は喜んで門戸を開く事でしょう。》


以上です。

大阪組にはそのまま伝えるように指示して下さい。』



「畏まりました。」



『いずれにせよ、名古屋のイベントが落ち着いたら関西方面に顔を出します。


…安宅さん、もう時間がありません。

カウントお願いします。』



「了解。

あと17秒。

16・15・14・13・12・11・10。」



イメージする。

大阪や名古屋に据えられたカネも自分の資産であると。

何より、配当を受ける権利を保有するのは、ここに居る自分である、と。

思う所はあるが、その思いを噛み殺して、富の独占を念ずる。


カネカネカネカネカネ、俺俺俺俺俺俺。

権利者は俺1人。



「9・8・7・6・5・4・3・2・1…

ゼロ!」



《6億1514万5500円の配当が支払われました。》



「…先生、おめでとうございます。

やはり、レベルアップしておりますね。」



『えっと、何%増えてますか。』



「は! 11%ジャストです!」



…俺は安宅にメモ帳を借り、慎重に現在まで獲得経験値を記しておく。



昨日までは9レベル。

そして、レベル10到達には合計5110ポイント必要と意識していた。

レベル11到達までは10230ポイントが必要。

レベル12到達までは20470ポイントが必要。

(あくまで仮説に仮説を積み重ねた数値だが。)


そして昨日までの総取得経験値は4114ポイント。

つまりクジラの経験値は6116(10230-4114)ポイント以上。

16356(20470-4114)ポイント以下と考えられる。


…恐らくは1万だろう。

論拠はないが、区切りが良い。

我が師ダン・ダグラスが

《ウルフ系が異常進化したケルベロスは1万ポイントだ》

と教えてくれたことがある。

同様に、鯨の経験値も端数はないのだろうと見当付ける。


まずは1万ポイントと仮定して日々の計算を行い、しばらくは狩猟をしない。

猟師達からの連絡があれば江本に対応させる。


…これ以上のレベリングは難しいかな

異世界では最後に女騎士を殺してレベル19に到達。

以降、経験値は日利のみで得ていた。

あの女と同等の経験値を持ってそうな地球人…

鷹見を殺せば10万ポイント位はあるのだろうか?

なら荒木やヒルダで100万くらいか…

じゃあウクライナ戦争の兵士を殺せば?

そこまでの経験値は得られそうもない。

ヒルダも含めて大してその命に価値があるようには思えないしな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【臨終配信】 死亡寸前、みんな今までありがとう  [雑談]


※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます



「コホー コホー。」



「お姉様、しっかりするニャ!」



「コホー コホー。」



「お願い、死なないでお姉様!

お姉様が今ここで倒れたら予約した会場費は誰が払うニャ!?

同接は10000を越えてるニャ。

ここを耐えれば大BBAに勝てるんだから!

次回「鷹見夜色 死す」

投げ銭、待ってるニャ!」



「コホー コホー。」



「はい、という訳で!

ルナお姉様が大BBAにボコられて死に掛けてるんで。

急遽奈々ちゃんが看病配信しまーす。


《大酒のみ》さん、ルナルナ生きろー!

《シクラメン》さん、え? マジですか?

《たぬき13号》さん、俺的ゲーム速報で見た芸風!

《オナキンマン》さん、あーんルナ様死んじゃった!


皆さん! コメントありがとニャ!」



「コホー コホー。」



「はい、簡単に状況を説明するニャ。

トイチをぶっ殺しに行ったルナお姉様の前に立ちはだかる大BBA!

果敢に挑んだお姉様だったが、フィジカルの壁は如何ともし難く

善戦むなしく惜敗。


みんな安心するニャ!

幸い心臓がちょっぴり凹んだ程度で済んだニャ!

そして今、呼吸器を装着して何とか命を繋いでいる状態ニャ。」



「コホー コホー。」



「いやー、いつもより花火が盛大に上がってますニャー。

《ミスターフルチンスイング》さん、貢ぎマゾプラン入りました!

《やっくんのパパ》さん、ルナルナの為に貢ぎマゾプラン入りました!

《ルナルナ命》さん、黒スト天国予約しました!

みんなー、ありがとー!

オマエラは最高の養分だニャー!」



「コホー コホー。 (チラッ チラッ)」



「現在のお姉様は危篤臨終絶対安静!!

2日後の大阪イベントがどうなるかは誰にもわからないニャ!

あ、前売り券の返金はしニャいので、その旨ご了承下さい。


お姉様が復活するか否かは、カネ!

ひとえにオマエラが貢いだ金額で決まるニャ!


後、奈々ちゃんの干し芋リスト。

URL貼っておくから、ちゃんと高い順に買えニャ。

オマエラ、期待してるニャ♥」



「コホー コホー。」



「そんな訳で!

お姉様は絶対安静!

今から奈々ちゃんが百合営業的心臓マッサージで治療するニャ!」



「コホー コホー。」



「えっとぉ、今からお口で心臓マッサージするけどぉ。

あくまで救命行為なんでぇ、エロではないのでぇ。

ふわっち運営様、BANしないで下さいニャ♪


それでは、身体を張った救命行為しますニャ♥


んーーー♪ おっぱいちゅーちゅー♥ ひんにゅーちゅーちゅー♥」



「ゴハッ! ゴハッ!」



「レロレロレロレロ♥」



「ッーーーーーーー!!!」



「あ、軽くイッたニャ♪

うおー、コメント欄が凄い事になっとるニャー!」



「コホッ コホッ」



「はい、続きはファンティア有料プランで公開ニャ。

ちなみに現在、貢ぎマゾプランでは!

《夜猫@結成記念、お風呂で洗いっこ動画》

が公開中ニャ。」



「コホー コホー。」



「それでは本日の配信は!

夜猫@の猫担当! ベッドの上ではあんまり猫じゃない。

昼間は聖女! 大麻を吸って空中浮遊恩師・奈々ちゃんが!

お送り致しましたー!


それじゃあみんな!

まったニャー♥」



「コホー♥」



【この配信は終了しました】



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



皆との協議の末、明日名古屋に戻る事に決める。

飯田からの報告書を見る限り、中京圏の地方議員が何名か視察を申し出ている。

注目度は悪くないようだ。

やはりイベントは人を集めてナンボだからな。


光戦士の処遇はかなり迷ったが、金本宇宙の要望に従いキャラバンに同行させる。

その為にもカネを積み直す。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


55億9223万1010円

  ↓

62億0737万6510円

  ↓

61億1537万6510円

  ↓

15億1537万6510円


※配当6億1514万5500円を取得

※配当金9200万円を出資者に支払い

※出資金46億円を別に保管



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『安宅さん、今いいですか?』



「はい、どうぞ!」



『所持金の重量が150キロを越えました。

もう私では管理し切れません。

何とかする方法を考えておいて下さい。』



「やはり銀行は駄目なんですね?」



『ええ、私が預けると…

下手をすれば即日金融システムが麻痺する可能性があるので。

SWIFTに支障が出たら困るでしょ?』



「…現在の国際情勢を鑑みれば、アメリカ側は中露のサイバーテロだと断定するでしょうね。

何らかの物理力を伴う報復に出るでしょう。

その場合、戦局がどう推移するか見当も付きません。」



『なので、今後も口座は作りません。

デジタル以外での保管・運用方法を考えておいて下さい。』



「承知しました!」



そんな話をしながらカネは安宅車に搭載、搭乗員は俺と安宅。

光戦士は別車両で移送し、当然カネは見せない。



整理しよう。

現在の同行者は、寺之庄・安宅・平原・鳩野・光戦士の5名。

加えて、クジラ狩りで世話になった福田魁がBBQに遊びに来てくれることになった。


目を通しておきたい資料は他にもあったが、皆に諫められる。

確かに、昨晩殆ど寝ていない。

あまり根を詰め過ぎると周囲を不安にさせるか…

不眠は彼らも同様だが、彼らにとって俺以外の健康は些事であるらしかった。


枕頭に寺之庄を呼び、諸事万端をお願いしてから電気を消して貰った。

まだ21時前なので眠気は無い。

だが、皆が俺に睡眠を欲する以上、俺には就寝する義務があるのだ。


耳を澄ませば、何かの雑音がそこら中で鳴っている。

世界は未だ起きているのだ。

俺はただ1人、目を閉じて雑音が止むのを待ち続けていた。

【名前】


遠市・コリンズ・厘




【職業】


東横キッズ

詐欺師

神聖教団信徒




【称号】


女の敵




【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)


《LV》 11

《HP》 慢性的満身創痍

《MP》 寝不足

《力》  女と小動物なら殴れる

《速度》 小走り不可

《器用》 使えない先輩

《魔力》 ?

《知性》 悪魔

《精神》 マジモンのサイコパス

《幸運》 的盧


《経験》 15667


本日取得 10000

本日利息  1553



次のレベルまでの必要経験値4803

※レベル12到達まで合計20470ポイント必要

※キョンの経験値を1と断定

※イノシシの経験値を40と断定

※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと断定

※クジラの経験値を10000と仮定


※経験値計算は全て仮説




【スキル】


「複利」 


※日利11%

下2桁切り上げ 




【所持金】


15億1537万6510円



【所持品】


jet病みパーカー

エモやんシャツ

エモやんデニム

エモやんシューズ

エモやんリュック

エモやんアンダーシャツ 

寺之庄コインケース

奇跡箱          

コンサル看板 

荒木のカバン  




【約束】


 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」

 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」

〇         「同年代の友達を作って欲しい。」

          「100倍デーの開催!」

          「一般回線で異世界の話をするな。」

〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」

          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」

 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」

×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」

×         「女性を大切にして!」   

〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」

×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」

×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」

          「今度、焼肉でも行こうぜ!」

〇藤田勇作     「日当3万円。」

〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」

〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」

〇          「お土産を郵送してくれ。」

 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」

 警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」

×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」

〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」

 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」

×平原猛人     「殺す。」

          「鹿児島旅行に一緒に行く。」

          「一緒にかすうどんを食べる」

 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」

 今井透      「原油価格の引き下げ。」

〇荒木鉄男     「伊藤教諭の墓参りに行く。」

 鈴木翔      「配信に出演して。」 

×遠藤恭平     「ハーレム製造装置を下さい。」

〇         「子ども食堂を起ち上げる。」

〇田名部淳     「全財産を預けさせて下さい!」

 三橋真也     「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」 

 DJ斬馬      「音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用する。」

 金本宇宙     「異世界に飛ばして欲しい。」



〇木下樹理奈    「一緒に住ませて」



×松村奈々     「二度と靴は舐めないにゃ♥」

〇         「仲間を売るから私は許して♥」



〇鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って。」

〇         「カノジョさんに挨拶させて。」

〇         「責任をもって養ってくれるんスよね?」



×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」

          「王国の酒…。」

          「表参道のスイーツ…。」 

×         「ポン酢で寿司を喰いに行く。」

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どこかの段階で神聖教コイン(24G)を作ると管理楽かもね 恩寵でコインが増える方向性。売却しやすい5g位で作成 昨今の世情が後追いしてますが金にリソースが過剰集中の真っ最中 神聖教コインが増殖すれば…
ルナxナナ、双方とも初手の頃はウザ目だったのだが いまでは配信が楽しみでしょうがない これだけアクの強い娘達なのになぁ どうしてこうなった(嬉
[良い点] 魔王や明確な敵対組織が居ないので先が読めないワクワクがあります [気になる点] 日利が強すぎなので短期的な勝負になるのは解りますが、死ぬか征服か異世界かそれ以外か気になる~~ [一言] 主…
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