表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/287

【降臨35日目】 所持金9億9233万1010円 「金と鉄。」

「ここで決着付けてやるぜェッ!!!!

うおおおおおオオォォ!!!!!


ルナルナルナルナルナルナッ!!!

ルナルナルナルナルナルナッ!!

ルナルナルナルナルナルナルナァーーーッ!」



  「出たぁ!!

  ルナお姉様の必殺・過呼吸連打!!!

  勝負を掛けたニャ!!!」



「ほう…

地球の拳術スキルですか。

原始的ながらも研鑽の痕跡は見受けられますね。」



「ルナルナルナルナルナルナッ!!!

ルナルナルナルナルナルナッ!!

ルナルナルナルナルナルナッ!!

ルナルナルナルナルナルナッ!!

ルナーレ・ヴィーアッ!!!」



  「目視で50発以上のクリーンヒット!

  執拗に撃ち抜かれるッ!!

  眉間ッ!人中ッ!咽喉ッ!壇中ッ!鳩尾ッ!明星ッ!

  如何にヒルダ・コリンズとて絶命必至ニャ!!!」




「これでッ!!

トドメだぁッーーーーー!!!!!!

うおおおおおッ!!!!!

ブッ潰れろォォオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」



ドッゴオオオオオオオオンッ!!!!!



…モクモクモクモクモクモク



  「やったニャ!?」



ス――――――――――――――――ッ。



「バカなッ!?

完全に捉えた筈ッ!?」



  「ヒ、ヒエッ!!

  無傷!? あれだけの直撃を喰らって!?

  そんな馬鹿ニャ!?」



「はぁ。 (小馬鹿にした溜息)

やれやれ、少しは楽しませて貰えるかと思いましたが…

期待外れですね。


まあいいでしょう。

その蛮勇に敬意を表して…

本物の拳打というものを見せてあげましょう。」




「クッ!!

まだまだああああ!!!!」




「いいえ、終わりです。


破ッ!!」





どぐちゃッ!!!





「っんどぶっげッえええええええええあああッ!!!!!」




  「はわわ!! こっちに飛んで来たニャ!!!

  にゃぶふおおおお!!??」




ドゴ――――――――――――――ン(×2)




「ガボッ!  ゴフッ!」




  「…ニャっ、ニャはっ!  (ピクピク)」




「ふむ。

劣等種にしてはよく頑張りましたね。」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「リン君、おはよう。

朝メシどうする?」



『清磨さん、おはようございます。

喫茶店以外でお願いします。』



「はははw

モーニング文化は肌に合わなかった?」



『コーヒーとトーストは合わない気が…』



「まあ、ここらの文化だからね。

…じゃあ、きしめん食べに行く?

大須商店街に有名な店があるらしいから。」



『お! いいですね。

トーストよりも地元感あります。

是非!』



「OK。

じゃあ、同行希望者を集めて来るよ。」




シャワーを浴び終わって出て来た安宅と後藤が挙手したので、4人で出かける事にする。

江本も誘ってやろうと思ったが、ソファーで丸まっていたので今回はスルー。


朝なのに、結構店が開いてるな。

名古屋人は勤勉なのだろうか?

喫茶店モーニングに加えて、ベトナムカフェのバインミー、台湾茶房の豆乳粥。

歩き進んで行くと、ほう。

古めかしい麺屋に辿り着いた。

通勤時間は終わったのか、一段落感はある。



「へえ。

メニューはきしめんだけなんですねー。」



『後藤さん、大阪の人はきしめんを食べるんですか?』



「いや、殆ど見掛けへんですね。

俺らはうどん文化圏やと思います。」



『ああ、じゃあ名古屋限定なんですかね?』



後藤はきしめん大を注文。

俺・飯田・安宅はきしめん並を注文。

4人で仲良く箸でたぐる。


安宅が何気なく壁の値段表を見ながら呟く。



「へえ、最近値上げしたんですね。

前は500円で食べれてたみたいです。」



『あ、本当だ。

このボリュームと味で500円はお得ですねー。

仕事前とかいい感じかも。』



俺の父さんがなあ。

毎朝無駄に早起きさせられてたからなあ。

こういう安くて旨い飯を腹一杯食わせてやりたかったな…

ああ、そっか俺が《子供食堂》って表記を嫌うのって…

父さんにこそ御馳走してやりたかったからなのか。

もう1年生きてくれれば、孝行も出来たのになぁ…



「それにしても、食料の高騰は凄いね。

ファミレス各社の一斉値上げが、朝のニュースになってたよ。」



飯田がスマホの画面を見せながら報告して来たので、4人で物価談義。

まさしく、その時である。



  「仕方にゃーーだろっ!!!」



突然、カウンターの奥から怒声が飛んで来たので慌てて振り返る。

奥から出て来たのは、恐らくはここの主人であろう70歳くらいの老人。



  「ウチだって! 最後の最後まで我慢しとった!!

  でも、もう限界ッ!!」



どうやら、この店の値上げを批判しているように解釈されてしまったらしい。

確かに軽率な会話だったな。

俺達は老店主に平身低頭して詫び、決して店の経営方針を批判した訳でない事を説明した。

最初は興奮していた老店主だったが、やがて平静を取り戻してくれた。



  「ウチは国産小麦だから…

  戦争とは関係にゃーと思っとったんです。

  でも、輸入小麦があるから、国産小麦も安く買えとった訳で…

  薄利でやっとったウチは、もう500円じゃ無理。」



『でも、700円でも良心的な価格だと思いますよ。

俺、味音痴なんですけど。

ダシも効いてて全部汁を飲めちゃいましたし。』



  「ちゃんとしたムロ節を使ってるから。」



『ムロ節、ですか?』



  「名古屋はムロアジと八丁味噌を組み合わせる文化があるんよ。

  きしめん的には正統派でやらせて貰っとる。」



『へえ、鰹節とはまた違うんですね。』



  「他の地方の人からしたら、かなり変わった味の組み立てに見えるらしいね。

  我々名古屋人にとってはソウルフードだけど。」




その後、店主と景況談義。

値上げしたのは、単に小麦だけではない。

光熱費もである、と聞かされる。


特にガス代。

ロシアからガスを買えなくなった西欧諸国が世界中でLNGを爆買いしている。

結果、暴騰したガス相場は多数の資源国との長期契約を結んでいる我が国をも苦しめている。

たったの1割燃料費が上がっただけで、こんな個人店の利益など簡単に吹き飛んでしまう。

店主が感情的になってしまうのも無理もない。


そんな話をしているうちに、結構打ち解ける。

ランチタイム用の買い出しに行っていた奥様も戻って来て談笑。


思い切って3日後の肉振舞イベントにスタッフとして参加してしてくれないか誘ってみる。




  「いや、私はきしめん一筋の男だからね?

  誘ってくれるのは光栄だけど。  

  BBQなんてハイカラな場じゃお役に立てないよ。」




『じゃあ、焼ききしめんを食べさせて下さい。』



  「焼ききしめん!?

  何それ?  そんなのがあるの?」



『さあ。

今、何となくおもいついただけですよ。

でも、焼きそばや焼きうどんが存在するんですから。

きしめんも焼いたら美味しいんじゃないでしょうか?』



  「名古屋の人間は保守的だからねえ。

  そんなゲテモノ、嫌われるんじゃないかな?

  いや、でもBBQという場面なら…」



『私が食べてみたいだけですよ。

どうせ名古屋でイベントするんだから、名古屋っぽいことしたいじゃないですか。

徳川宗春公もローカルカラーの振興に力を注がれた訳ですし。』



  「ほう!

  お兄さん、関東の人なのに宗春公をご存知なのかい!?」



『自分の中では宗春公のリスペクトイベントですので。』



  「…そうか。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】


6億6451万4610円

  ↓

6億6351万4610円


※尾張食堂店主・毛受秀允にイベントスタッフ報酬+広告費として100万円を支払い



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



  「遠市さんと言ったね。

  アンタ、何でこんな事する?

  名古屋とは縁も所縁もないんだろう?」



『名古屋がどうという話ではありません。

最終的には社会全体にリソースを公平に分配する制度を確立させます。


肉振る舞いの動機に関しては、自分自身の実家が貧乏で、多分地元でも最貧の部類だったからだと思います。

それで子供食堂の事例を知って、徳川宗春公の事跡も教えて貰って…

上手く言えません。

やってみたいんです。』



  「わかった。

  100万円は貰い過ぎだとは思うけどな。

  でも、受け取ったからには誠実に対応したい。

  このデータ、ポスター出力して店頭に貼っていいんだね?」

  


『はい! お願いします!』



  「こっちは生まれも育ちも名古屋だから、ある程度は告知出来ると思う。

  カネのことは本当に心配しなくていいんだね!?

  年寄りは人脈だけは無駄にあるよ?

  それに名古屋人はケチだから、無料イベントには殺到するよ!?」



予定には全く無かったことたが、毛受翁はかなり積極的に支援を申し出てくれる。

流石は年の功とも言うべきか、名古屋市内の子供食堂に話を繋いで貰えた。

これを受けて、飯田・安宅の名古屋残留を決める。


安宅にも女性フォロワーが徐々に増えて来ている。

なので、今回の名古屋BBQではリーダーっぽい振舞をさせて、株を上げておきたい。

いや、かなり追い風なのだ。

浜松でインスタ投稿を繰り返した為、中京圏のフォロワーが増えている。

あからさまな売春婦やタカリ女も目に付くのだが、若くてまともな女からのコメントも付いている。

木下の意見なのでどこまで信じて良いのかわからないのだが、《アカウントがイケオジっぽくなって来た》とのこと。



「今の安宅さんなら、ホ別2万で本番させてあげてもいいくらいだよ!」



この女なりに配慮しているつもりなのかも知れないが、そんなことをされたら安宅が破滅してしまうので、厳しく制止しておく。

いや噂が立っただけでコラム連載を打ち切られる可能性すらある。


我が国では人を殺すよりも木下とセックスする方が重いペナルティを受けるのだ。

そこら辺、ヒルダから厳しく注意させないとだよなあ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




宿所に戻って、車両の割り振りを相談する。

…やや悩む。

やはりキャンピングカーが無くなったのは大きい。

何だかんだで、いつでも野営できる車両は強かったのだ。


談義の末。

飯田に1000万を託し、ハイエース型のキャンピングカーを購入して貰う事に決める。



『すみません。

清磨さんの負担がどんどん重くなってしまって。

100倍キャンペーンの約束もありますし

1000万と言わず、何億か収めて頂けませんか?』



「うーーん。

多分、その金額は俺じゃぁ使いこなせないかな。

一応、出納に関しては記録してるから

リン君がスマホ入手したタイミングで送信させてよ。


平原さん。

いつ頃になりそうですか?」



  「今日、関東に戻ったら手続き始めるわ。

  確か、履歴事項証明書と印鑑証明が必要なんじゃないかな。

  取得次第、法人向けモバイルのビジネスプランの手続き開始ってとこかな。」




「お手数を掛けます。」



  「飯田君と一緒だよ。

  俺の道楽だw」



『…私もいつか道楽でスマホを他人に買ってやる日が来るんでしょうか?』



「リン君が各地でばら撒いてるキャッシュが、お子さんお孫さんのスマホに化けてるよ。

谷口老人も言ってただろ?

お孫さんが3人共iPhoneの最新型を強請って来て困ってるって。」



『ああ、そっか。

それも道楽ですねぇ。

じゃあ、これからも広くバラマキ続けます。

勿論、清磨さんに受け取って貰ってからですけど。』



「ふふっ、そんな言い方されると天邪鬼が発動しちゃうなぁw」



皆で大笑してから、今後のスケジュールを再度確認した。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】


6億6351万4610円

  ↓

6億5351万4610円


※飯田清磨に車両費及び雑費として1000万円を支給



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



磯子に鯨が漂着しているとの情報を既に入手してある。

衰弱したザトウクジラ。

堀割川の河口。

ヨットハーバーに頭から突っ込んでいる。

SNSに上げられた画像を見るに、かなりのサイズである。


もしも経験値が質量に比例するならば、イノシシ100匹以上のポイントを稼げるかも知れない。

やる価値は…  ある。



「リン。

1つオマエにとって有利な要素がある。」



『え?

何すか?』



「俺のツレがヨットハーバーの会員なんだ。

鯨に接近する糸口はある。」



『おお!』



「問題はツレの嫁と俺の嫁が学生時代からの親友同士ってことなんだ。」



『あ。』



「うん、凄く嫌われてる。

っていうか、強姦魔呼ばわりされちまってるんだ。」



『なるほど。』



「でも電話してみるわ。」



『え!?

どの面下げて?』



「もしもしー、福チャン元気ー?」



  「おお、平チャンかー。

  オマエ、よく俺に電話出来たな。

  女房が怒り狂ってたぞ。」



「ゴメンゴメン。

それよりヨット遊びしたいんだけど案内してくんない?」



  「別にヨットくらい幾らでも乗せてやるけどさー。

  平チャンと遊んでたら、女房と娘が怒るんだよー。」



「えー。

母娘2代で嫌うなんて酷いなあ。」



  「オイオイ、それだけじゃねーって。

  オフクロも平チャンを憎んでるから

  3代だってばよww」



「うおー、マジかーーww

少しは俺を弁護する論陣を張ってくれよーw」



  「えー、平チャン悪さばっかりしてるからな。

  庇うトコあったかぁw?」



「バカヤローw

今の俺は正義だっつーのw

丁度、隣に正義マンが座ってるんだけど。

後3時間で横浜着くぜ―ww

メシ行こう、メシww

それでヨットハーバー案内してくれww」



  「はぁww?

  平チャンが正義ぃーw?

  何を企んでるんだかww

  残念だけど、久しぶりの家族サービスでな。

  それこそ家族をヨットに乗せてやる日なんだよw」



「マジかー。

じゃあ、俺も乗っけて貰うわ。」



  「うおーw

  コイツ、ホントに来る気だww」




人間関係には法則がある。


金持ちの友達は金持ち。

成金の友達は成金


この福チャン氏も一代で這い上がった豪傑だそうだ。

平チャンこと平原猛人が中卒で鹿児島から上京して不動産業界に殴り込んだように

福チャンこと福田魁も同じく中学卒業後に上京し中古自動車業界に殴り込んだ。

2人の逸話を聞く限り、彼らは邪悪極まりない犯罪者以外の何者でもないのだが、天罰を受ける前に保釈金を払える程度の資産を築いてしまった。

九州の悪童同士ということもあり、かなり親密な関係にあるらしい。




「大丈夫大丈夫。

アイツとは付き合い長いから。

一緒に死体埋めたこともあるくらいだしな。」



『え? 人を殺したんですか?』



「殺したって言っても相手はヤクザだぜ?

それも私利私欲の為に殺した訳じゃない。

誓ってもいいが、俺達は正義のコロシしかしない。」



『いやあ、例え大義名分があったとしても

暴力は良くないですよ。』



「でもオマエだってそうだろ?

異世界で勝ち残った以上、場数を踏んでないって事はないだろうからな。

暴力を全く行使してないって事はない筈だ。」



『いや、確かに殺しましたけど。

えっと、20人? 30人?』



「シリアルキラーじゃねえか!」



『いやいや!!

相手は盗賊だったんです!

こっちは襲われた被害者だったんですよ。

あくまで正当防衛! 

正当防衛だから殺人ではない!』



「オマエ、怖いわぁ…」



『チェストルールでもアウトですか?』



「うーーん。

リンってさあ。

精神性が逆武士道だよな。

多分、薩摩でもドン引きされると思うぞ?」



『え? 参ったなぁ。

薩摩人だけは俺を理解してくれると信じていたのに。』



「いやあ…

悪久公の全盛期でも…

オマエはアウトだと思うぞ?」



『…相手は盗賊なんですけど。』



「でもオマエ、盗賊以外も普通に殺してるだろ?」



『え?

殺したかなぁ。


あ、思い出した。

女騎士を殺しました。』



「うおー、マジかー。

何? 揉めたの?」



『いや、助けを求めて来たんで。』



「え!?

助けてやらなかったの?

古今東西、どんな物語でも女が救いを求めて来たら救うだろ!?」



『それなんですよ。』



「ん!?」



『なんかねー。

《大義はこっちにあるのだから庇護して当然》

みたいな態度でしつこく食い下がって来たんですよ。

こっちは退去するように申し入れたんですけどね。』



「それで…

殺したのか?

オマエ、戦闘力あるわけ?」



『あ、いや。

俺が騎士に勝てる訳ないじゃないですか。

騙し討ちで爆弾投げて殺しました。

経験値を大量にゲット出来たんで、名の有る騎士だったのだと思います。』



「うおおお…

マジかー。

サイコだなあ。

いや、俺もそれなりに修羅場潜ったつもりだったが…

オマエの一点の晴れ間もない瞳を見て、上には上が居るって思い知ったわ…


そうか、異世界で大量殺人してたから肝が据わってるんだなオマエ。」



『いやいや!

人を殺人鬼呼ばわりしないで下さいよ!

俺が直接殺したのは、その盗賊と女騎士くらいのものですって!』



「オイオイ。

それって間接的にも殺してるって事だろー?」



『いやいやいや!

確かに俺の政治判断によって止むを得ない犠牲はありました!

それは認めます! そこから目を背ける気はありません!


でも精々10万人以内には収まってるはずですよ?』



「大量殺人鬼じゃーん。

大隅半島滅亡するくらいの規模で殺してるじゃん。」



『いやいや!

聞いて! 最後まで聞いて!』



「聞くよー。

若者の言い訳に付き合ってやるのも大人の仕事だからな。」



『でも10万の死を遥かにペイする程の富を社会に与えました。

トータルで大いにプラスだったと断言出来ます!』



「はっはっはww

死刑判決受けた独裁者とかの定番台詞www」



『茶化さないで下さい!

俺は真面目なんです!』



「わかったわかった。

偉い偉い。


で? 地球でも10万人殺すのか?」



『あ、いえ。

地球の方が経済規模が大きいので10万の犠牲では救済し切れないと結論づけました。

まあそれでも数億以内に収めると決意してますので安心して下さい。』



「あはははははwww

来年度のノーベル薩摩賞にはオマエを推薦しておいてやる。

まあ、ほどほどにな。」




そんな取り留めのない話をしているうちに、遠州を通過し終わる。

目指すは沼津PA。

そこで点呼休憩をする手筈なのだ。

幸い、車列は纏まっておりヒルダ車と鳩野車は目視可能である。

俺が軽く手を振ると、気が付いた安宅が冗談めかして敬礼して来る。

窓越しに笑い合っていると、横から視線を感じる。

ふと振り向くと、恨みがましい表情で俺を睨みつけている平原妻が居たので、何も見なかった事にする。



『猛人さん、俺って奥さんに嫌われてるんですかね?』



「いや、どうかな?

《滅ぼすべき悪魔の化身》とは言ってたけど。」



『うおっ、ひでえ。』



「次にアイツを犯す時に、ちゃんと否定しておこうか?」



『逆効果ぁ…』




与太話に飽きたので本題。

鯨の殺し方を考える。

平原が確認したがっているのは、俺の戦闘力。



「1個謎なんだけどな。

オマエって、そのヒョロガリで…

異世界ではどうやって戦ってたの?」



『あ、いや。

嫁さんとか姑さんとかが、そういう関係を全部やってくれてたっていうか。』



「…オマエはその時何をしてたんだ?」



『いや、葬式に出席したりカネを配ったり。』



「なるほどー。

分業の確立は夫婦円満の秘訣だとは聞くな。


でも、全くバトルしてないってことはないだろ?」



『…障碍者になるまでは、爆弾を投げてましたね。

俺、あだ名が《炸裂少年》だったんですよ。』



「うおおおおwwww

面白ぇwwww

わかるww リンってそういうあだ名が付きそうww

凄くわかるww」



『言うて、相手はウサギとかカメばっかりですよ?』



「小動物かぁ。

鯨を殺す参考にはならんなぁ。」



『いやいや!

異世界のウサギには角が生えてるんですよ!

俺の頬の傷!

これ、そいつらにヤラれたんすからね!』



「へえ、武勇伝あるじゃんww」



『それに!

異世界の亀って滅茶苦茶デカいんすよ!

いやホント!

この車よりデカい亀を倒したんすよ、俺!』



「えー、本当かーw

話盛ってないww?」



『盛ってないっすよー!

ブライアン農園に巣食ってたジャイアントタートルを俺の大活躍で一掃っすよ!』



「あっはっはww

どうやって一掃したの?」



『いや、凍結弾っていう、冷凍ガス弾があって。

1発2万ウェンくらいしたかな。

その頃の俺にとっては大金だったんすけど。

凍結弾をまとめ買いして、腕利きの傭兵を大量に雇って、

安全な崖の上からひたすらポイポイですね。


…なんすか!  仕方ないでしょー。

俺弱いんだから!』



「いや、オマエかなりいい線行ってるわ。

正直舐めてた。


結論から言うな。

オマエ、もう最強だわ。


あのな?

自覚ないと思うから教えといてやるけど

オマエの才能ってカネを増やす事でもなんでもないから。


リンの才能は《臆面もなく正解を選べる》こと。

…オマエ最強だよ。」



『この細腕で最強も何もないでしょうに。』



「でも、異世界じゃあ誰もオマエの相手にならなかったんだろ?」



『まあ、言われてみれば。

気が付いたら勝ち終わってました。』



「ふははw

最適解を臆面なく選んだ証拠だよ。


さて、リン。

鯨をどうやって殺す?」



『いや、大して何も思い浮かばないんですけど。

セオリーから言えば毒か爆弾でしょ?


1億払いますんで、用意して貰えますか?』



「100万も掛からないってわかってる癖に。」



『原価じゃ人は動かないでしょ。』



「はははw

達観しとるw


まあいい。

面白い話を聞かせてくれた礼だ。

カネはイラン。

手段は俺が用意してやる。

準備終わったら、最後のスイッチをオマエが押せ。

どのみち、日の出ているうちは大人しくしてろよー。

ただでさえオマエ、国連から目の敵にされてるんだから。」



『ああ、そっか。

昼間は動けないですか…


ねえ、猛人さん。

神奈川県に入ったら寄って欲しい所があるんですけど。』





◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【ストーキング実況】 愛のカーチェイス  [雑談]


※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます




「どうもー、アダルト動画ランキング1位女優!!

相模の獅子!! ルナルナ@貫通済でーす♪」



「どうもー、人生楽勝おま●こ二毛作!!

猫にマリファナ!! 奈々ちゃんでーす♪」



「2人合わせて♪」



「「夜猫@でーーーす♥」」



「はい、と言う訳で!

ドライブ配信でーす」



「高いレンタカー借りてしまったニャ♪」



「何?

これって、やっぱりいい車なの?」



「シボレー コルベット♥

配信向けに見栄えのする車を選んだニャ♪」



「確かに加速凄いよね。

これならダーリン様を捕捉出来るわ。」



「はーい、奈々ちゃん達は今。

トイチを追って東海道を疾走してまーす。」



「ダーリン様、嘘つきだからねー。

福井とか言ってた癖に、関東に向かってるからね(怒)」



「はーい、落ち着けニャー。

運転手の奈々ちゃんは、今日はコメント読めないニャー♪」



「なので、コメントはウ↑チ↓が拾って行きます。


《松茸うさぎ》さん、FANZA1位おめでとうございます。

ありがとうございます!


《大仏ランチャー》さん、折角大阪来たのに…

ごめんねー、今日はねえ、多分奈々の部屋に泊まるんじゃないかな。」



「掃除とか全然出来てないニャー♥」



「ガサ入れ配信行っとく?」



「やめろニャーww」



「それにしても同接増えたねー。

最低でも2000は集まるのがデフォになった。

デイリーランキング、7日間連続1位受賞しました。

改めて皆様に感謝!」



「みんな、ありがとニャ―♥」



「もうねー、オマエラ投げ銭し過ぎ。

もっと節約しな!

花火上げても名前読んであげないよー。」



「今日はイベントの告知しないニャ?」



「同じ話ばかりしてると飽きられるからな。

おい、養分共!

コメ欄で告知しとけ。」



「日に日に雑になって来るニャーw」



「お、一斉にコピペし始めたね。

《乳首特訓》さん!

《ハイエロ粒子》さん!

《うんこ1番》さん!

《ルナルナ結婚してくれー》さん!

《たぬき51号》さん、URLありがとー!」



「でも、どうしてこんニャに同接伸びるようになったニャ?」



「奈々が可愛いからだよー。」



「えへへニャー♪」



「まあでも、短期間に中バズリが続いたのが一番の理由だろうねぇ。

元々、ホストボコり動画にカルトなファンは付いていたんだよ。

それでクラス戒名動画でバズって。

ダーリン様のガルパン動画で国連デビューして…

寿司ペロでパクられて、その影響でFANZAのランキングに載って。

地上波で屑共をボコって…

それらの全てが結構相関した要素なのね。」



「これだけ暴れ回ってたら嫌でも有名になっちまうニャ。」



「で、奈々も貢献度高いんだけど。

やっぱりダーリン様がウ↑チ↓にとってのアゲマンなのね?

ああ、男だからアゲチンになるのかな?」



「配信中に男のノロケしちゃ駄目ニャ!」



「はいはい、ゴメンって。

ただねえ、ダーリン様の話してもあんまりウ↑チ↓のリスナーは傷付いてないのね?」



「ああ、言われてみれば。」



「あの人がイケメンとかマッチョとかだったら…

リスナーは劣等感煽られて心が折れてたと思うけど。」



「それはあるニャ。

男は諦めが早い生き物ニャ。」



「でも、ダーリン様ってヒョロチビの上に、あの顔な訳じゃない?

いや、ウ↑チ↓もブスだからルッキズム的な話はあんまりしたくないけど。

でもまあ、ダーリン様ってオトコとしてのカースト低い訳じゃない?

だから、リスナーは妙な優越感持ってるんだよ。」



「うーーーん。

あの学校は貧困地域だったからブ男ブ女の比率が高かったニャ。

担任になって生徒名簿見せられた瞬間に…

所得とルックスの相関性を目の当りにして驚いた記憶があるニャ。

トイチはその中でも、アレだったニャ。」



「はい、ここでコメント!

自分がダーリン様より勝ってると思う奴。

コメント書き込んで行け!」



「やめーやww」



「おお、やっぱり身長の書き込み多いね。

特に175を越えてる男は自信満々で書き込んで来るね。

ねえ、奈々。

ダーリン様の身長ってナンボ?」



「学校の資料じゃ160ジャスト。

ただ3年前のデータだから多少の増減はあり得るニャ。」



「うおっ!

コメ欄凄い事になっとる!?

いつもは弱男の泣き言全開の癖に

《160ジャスト》って聞いた瞬間に自信に満ち溢れた書き込みの数々ww」



「トイチ、徳を積んだニャww」



「ウ↑チ↓ね?

別に計算ずくであの人に惚れた訳じゃないんスけど。

配信者の彼氏として遠市厘はパーフェクトかも知れない。

リスナーを刺激しないwww」



「何?

コメ欄、そんなに盛り上がってるニャ?」



「みんな上から目線でダーリン様の批評を始めてるww

すっごくウキウキで草。」



「トイチは弄り易いキャラではあるよニャー。」



「多分ねえ。

あの人ってオスとしての基礎スペックが低いのよ。

担任的にもそう思うでしょ?」



「まあ、教員免許的にノーコメントで。」



「あ、保身ww


低いから、リスナー達が妙に自信を持っちゃってるのよね?

《あんな奴でもイケるなら、俺もワンチャンあるんじゃね?》

みたいなノリのコメント多い。」



「一応、側室ニャんだから褒めてやれニャww」



「いや!

ウ↑チ↓、あの人を評価してるよ!

世界で一番、遠市厘の真価を理解してるのウ↑チ↓だもん。」



「そこがわからないニャ。

お姉様は何であんな奴を気に入ったニャ?

カネ?」



「いや、カネ持ってるって知ったのは後からだなー。

最初はねえ。

動画編集してるうちに、あの人が低スぺなりに頑張ってる事が見えて来たことかな。

ぶっちゃけダーリン様って、福祉受けてる層の中でも最下層の存在な訳じゃない?」



「否定はしニャい。」



「その割に心折れずに頑張ってるなって思って。

高校で宅建取るのって難しいんでしょ?」



「ああ、それは地味に偉業。

宅建馬鹿にする人多いけど。

不動産会社の社員でも落ちまくってるニャ。」



「うん。

そういうの見ているうちに

好きにはならなかったけど、好感は持ったね。

机の700円パクったことを反省するくらいの好感は持った。」



「クラスメートのカネを平然と盗むやーつ。」



「いや、反省してるって。

そういう負い目も含めて…

ちゅき♥」



「恋愛フラグの発動条件がおかしいニャ。」



「うおー。

コメ欄がアピりまくってんなー。

違う違うww

ウ↑チ↓を700円で買える訳じゃないからな!

そんなに安い女じゃねーからw

ってか3日後リリースの新作動画より安いじゃねーかww」



「お姉様は一晩幾らニャ?」



「カネじゃ買えない。

でも、ウ↑チ↓に尽くしてくれたら

サプライズ的なエロハプニングは発生するかも知れない。」



「うわっ! ズルい女ニャwww」



「お、コメ欄。

スタッフ応募コメントが大量に流れて来たw

脳死かww オマエラ脳死かww」



「オマエラ、良く考えるニャ。

今、お姉様のスタッフに取り込まれたら。

対スシロー戦・対記者クラブ戦に駆り出されるニャ!」



「へっへっへーw」



「否定しろニャ!」



「おっ、発信機…

…横浜公園出入口。

え? あの辺なんかあるか?

ハマスタ!? ハマスタ!?

女? 女? 殺すか? トイチ殺すか?」



「疑心暗鬼になっとるニャww」



「いや!

あの辺ってなんかある!?」



「…県庁?」



「ああ、じゃあ仕事なのかな。

なんか不安になって来た。」



「まあ、付いていけばわかるニャ。

シボレー借りたおかげで、距離が劇的に縮まったニャ。

じゃあ、こっちも5分後横浜公園で降りるニャ。」



「やっべ緊張してきたー。」



「それじゃあ、リスナーのミニャさん。

殺人の証拠を残したくないから配信終わるニャー。」



「チクった奴はIPから住所割り出して

家族全員拷問してから殺すよー。」



「リスナーの脳がますます焼かれるニャ。」



「はい、それでは!」



「それでニャ♥」



「この配信は、相模の獅子こと!

ルナルナ@貫通済と!」



「昼は聖職者!

オマエラの妄想の中では性職者の奈々ちゃんが!」



「「お送りいたしましたーーー♪」」



「それじゃあ虫ケラ共!!」



「それじゃあみんニャ♪」



「「まったねー♥」」



【この配信は終了しました】




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




神奈川県営臨海霊園。

近隣住宅の高層化が進むまでは東京湾を一望出来たと聞く。


一礼のみして帰るつもりだったが、やや墓石が汚れていたので、飯田から貰ったタオルを雑巾代わりに丹念に磨き上げる。


伊藤康彦教諭。

担当科目は体育。

当時は怖さばかりが見えていたが、今思えば面倒見の良い人だった。

コロナ禍で修学旅行が中止になった俺達の為に、アクアライン社会見学を推進してくれた。

少しでも息抜き的な学校イベントを提供してくれようとしていたらしい。

ただ、それが異世界転移という考え得る限り最悪の形で裏目に出た。


俺に言わせれば、一介の教員に過ぎない彼が責任を感じる必要はないのだが…

伊藤教諭にとってはそうではなかったのだろう。

数々の残務整理を終えた後に東京湾に身を投げた。

彼の靴と遺書はアクアライン前に置かれていたとのことなので、その魂は今でも俺達を見守ってくれていると信じたい。



「すまないな。

墓掃除が終わってから来てしまって。」



『いや、俺が勝手にやっていることだ。』



背後の声は荒木鉄男。

偶然か必然か…

忙しいなりに頑張って時間を作ったのだろう。

品川ナンバーのタクシーを背後に待たせてあるのが見えた。



「ゴミ、捨てて来るよ。」



『ありがとう。

後で合掌しよう。』



異世界に転移した時。

俺は嬉しかった。

地球での底辺生活を仕切り直し出来ると思ったからである。

事実、強力無比な【複利】を入手し、前代未聞の成り上がりを成し遂げた。

残された人間の悲哀など、想像もしなかった。


級友の遺族達。

学校関係者。

捜査関係者。


クラス丸々失踪してしまったのだ。

そりゃあ筆舌に尽くし難い想いをしただろう。

バスの運転手さんも世間からのバッシングに耐えかねて、伊藤教諭同様に自ら命を絶ったと聞く。

貴方達には何の落ち度もないじゃないか。

心が抉られるように痛い。



「何、オマエ数珠まで持って来たの?」



  「ヒルダーテメージャマバッカリシヤガッテ!」

  「ソウニャソウニャ!」



『いや、伊藤先生の実家は臨済宗って聞いてたし。

ちゃんと借りてきたよ。』



  「オヤオヤ

  ソクシツノブンザイデ

  オルスバンヒトツデキナイノデスカ。」



「そっか。

偉いな。

オマエから学ぶべき点は多い。」



荒木と並んで無言で伊藤教諭の墓を眺める。

享年34。



  「オイテケボリナンテヒドイニャー!!」

  「ウ↑チ↓ハナンニモキカサレテナカッタゾー!!」



「おい、奈々も呼んだのか?」



  「アラアラウフフ

  リンカラレンラクガナカッタトイウコトハ

  ヨウジガナカッタノデハ?」



『松村先生?

呼ぶ訳ないだろ、あんな女。』



  「ニャガビーーーン!!!」

  「ナメンナー! コノクソババーガブッコロシテヤル!!」



「向こうでヒルダさんと揉めてるみたいだけど。

あの人影は、鷹見だな。

普通、墓地であんな大声だすか?

常識疑うわ。」



  「ホウ、ワタシヲコロス? 

  オモシロイコトヲイイマスネー。」



『…ヒルダッ!!!

御仏前である!!!

黙らせろッ!!!!』



  「オヤオヤオヤ、タイミングヨク

  サツガイキョカマデデテシマイマシタ。」

  

  「シヌノハテメーダ!!」

  


「気持ちは分かるが落ち着け。

オマエのそんな表情、伊藤さんだって見たくない筈だぜ。」



  「ココデケッチャクツケテヤルゼエッ!!!!

  ウオオオオオオオォォ!!!!!



『スマンな。

オマエの言うとおりだ。

今はただ故人のご冥福を祈ろう。』



  「ルナルナルナルナルナルナッ!!!

  ルナルナルナルナルナルナッ!!

  ルナルナルナルナルナルナルナァーーーッ!」



「ああ、神聖教の方式でもいいんだぞ?」



  「デタァ!!

  ルナオネエサマノヒッサツ・カコキュウレンダ!!!

  ショウブヲカケタニャ!!!」



『まさか。

冠婚葬祭は常に現地の文化風習を尊重するべきだ。』



  「ホウ…

  チキュウノケンジュツスキルデスカ。

  ゲンシテキナガラモ

  ケンサンノコンセキハミウケラレマスネ。」




「『南無釈迦牟尼仏』」



  「ルナルナルナルナルナルナッ!!!

  ルナルナルナルナルナルナッ!!

  ルナルナルナルナルナルナッ!!」



隣の荒木とは体育の授業でペアを組んでいた。

なので、鈍臭い俺達は伊藤教諭にはセットで叱責されたものである。

皮肉にも、その俺達だけが生還した。



  「ルナルナルナルナルナルナッ!!

  ルナーレ・ヴィーアッ!!!」



『…。』



「…。」



  「モクシデ50パツイジョウノクリーンヒット!

  シツヨウニウチヌカレルッ!!

  ミケンッ!ジンチュウッ!インコウッ!

  ダンチュウッ!ミゾオチッ!ミョウジョウッ!

  コレハイカニヒルダ・コリンズトテゼツメイヒッシニャ!!!」



『…。』



「…俺は坊主としてのオマエを高く評価している。

きっとオマエの様に高潔な人間こそが祭祀を司るべきなのだろう。」



  「コレデッ!!

  トドメダァッーーーーー!!!!!!」



『そうか、俺は世俗には関わるべきではないか。』



「言っただろう。

高潔過ぎると。」



  「ウオオオオオッ!!!!!

  ブッツブレロォォオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」



『自分を高潔だと思った事はない。』



「そんなオマエの目に世界がどう映っているかって話さ。

脅威なんだよ、オマエみたいな狂人が世俗的な権力を持つのは。」



  「ヤッタニャ!?」



『…反論する気はないよ。

もうオマエと議論しても無駄だ。』



  「バカナッ!?

  カンゼンニトラエタハズッ!?」



「またカネをバラまくのか?」



『ああ、分配する。』



  「ヒ、ヒエッ!!

  ムキズ!? アレダケノチョクゲキヲクラッテ!?

  ソンナバカニャ!?」



「今、円が急速に暴落している事は知っているな。

遂に140円台が定着してしまった。」



『らしいな。』



  「ハァ。 

  ヤレヤレ。

  スコシハタノシマセテモラエルカトオモイマシタガ・・・

  キタイハズレデスネ。」



「資源市場で日本が買い負け続けている。

購買力が嘘みたいに落ちているんだ。

特に穀物、関係者全員が一丸となって確保を試みているが…

旗色がかなり悪い。

この円安は悪夢だよ。

何としても130円台に押し戻さなければならない。

一部の無責任なアナリストが150円台を予言しているが…

そんなバカげたレートになったら、日本は滅んでしまう!

どんな手を使ってでも阻止しなければならない。」



『要するにカネを刷るな、と?』



  「マアイイデショウ。

  ソノバンユウニケイイヲヒョウシテ・・・

  ホンモノノケンダトイウモノヲミセテアゲマショウ。」



「そうだ。

この状況でオマエに濫発されたら…

我が国は間違いなく崩壊する。」



『安心しろ。

俺、今回は全然手持ちがないから。』



  「クッ!!

  マダマダアアアア!!!!」



「幾らだ? 今、幾ら持ってる?」



  「イイエ、オワリデス。」



『6億チョイ。』



  「ハッ!!」



「…勝ち確だな。

もはやオマエを止められる者は存在しない。」



『おいおい。大袈裟だなあ。

6億で何が出来るよ。』



  「ッンドブッゲッエエエエエエエエエアアアッ!!!!!」



「何でも出来るよ、オマエなら。」



『随分買い被ってくれるんだな。』



  「ハワワ!! コッチニトンデキタニャ!!!

  ニャブフオオオオ!!??」



「遠市が築いた実績を目の当たりにしている訳だからな。

それに、あの頃の俺達は【複利】という言葉すら知らなかった。」



『オマエラの無知には助けられたよ。

お陰で教団や王国からマークされずに済んだ。』



  「ガボッ!  ゴフッ!」




「今度はどうする?

鷹見の所為で皆がオマエを知ってるぞ。」



『確かにディスアドバンテージを背負ってしまったが…

そんなの一長一短じゃないか?』



  「…ニャッ、ニャハッ!」



「オマエほどの男なら

どうにでもしてしまうのだろうな。

だから、お願いだ。

紙幣の濫造を止めて欲しい。

俺も極力穏便に事を済ませたい。」



『断る、と言えばどうする?』



  「フム。

  レットウシュニシテハヨクガンバリマシタネ。」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




意外にも平原も伊藤教諭の墓前で合掌した。

かつて学校に殴り込んだ時に何度かやり合った相手らしい。




『そういうモンスターペアレント行為は止めて下さいよ。』


「わかったわかったw MarkⅡの時は気を付けるよ。」




ヨットハーバーで家族団欒を楽しむ福田魁に話を付けにいくらしい。

俺と荒木の話が付くまでには話を纏めてくれるそうなので、言葉に甘える。




「君は、荒木鉄男君か?

隼人のクラスメートの。」



  「ええ、事件前に何度かお目に掛かった事はあります。

  平原さん、よく学校に来られてましたので。」



「息子が世話になった、と言ってしまっていいのかな?」



  「残念ながら、彼とは考え方が大きく異なっておりました。」



「…そうか。」



  「…ご冥福を祈ります。」



「なあ。」



  「はい。」



「隼人の最期は見たか?」



  「いえ、俺が見たのは国の最期だけです。」



「…。」



  「息子さんを殺した国の最期をです。」



「どうだった?」



  「酷いものでしたよ。

  月並みな感想ですけど。」



「…そうか。」



  「日本をこんな風にはしない。

  それが帰還出来た俺の義務だと思ってます。」



「…。」



  「まあ国崩しの張本人が今ここに居る訳ですが。」



「リンには手を出さないで欲しい。」



  「息子さんとは随分相性が良かったみたいですね。」



「俺ともだ。」



荒木が待たせていたタクシーに俺も乗り込む。

タクシー代を払う旨を伝えたが、《税理士がウルサイから》と謝絶されてしまう。

お互い言いたい事は山ほどあるが、ここではしない。

運転手に罪はないのだから。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




16時。

木更津。


アクアラインの根元に、荒木の拠点はあった。

大きな倉庫、駐車しているトラックだけで5台。

特筆すべきは年配の作業員が荒木の顔を見た途端に破顔して手を振って来た事である。

そう、荒木鉄男もまた地球で確固たる地盤を築いているのだ。



「入れ。

ここが俺の拠点だ。

厳密に言えば、さっきの小坂社長の名義ではあるがな。」



『このアクアライン下という立地は、オマエが決めたのか?』



「いや、天が決めた。

俺と小坂社長と会ったのは都内だったからな。

まさか、こんな所で商売をしてるなんて夢にも思わなかった。」



『商売。

ここは倉庫? 工場?』



「…屑鉄屋だよ。」



『あ!』



「俺はどちらかと言えば運命論者を軽蔑していたのだが…

流石にこれだけカードが揃うと、な。」



『…。』



「遠市。

改めて自己開示しておくぞ。


俺はドワーフ族の荒木鉄男。

総族長ゲドの子である。

最初は客人だったが、功を認められドワーフの上級戦士身分を与えられた。

氏族長会議クリルタイの出席権も保有している。」



『あの短期間でマメなことだな。』



「…4か月で天下獲った奴に言われてもな…


そして俺の能力は【鉄道】。

オマエにも見せたな。」



『ああ、レールを敷く能力だな。

鉄道マニアのオマエらしい能力だよ。』



「スマンがアレは嘘だ。」



『!?』



「遠市が率先して騙されてくれて助かったよ。

オマエが俺を《単なる気持ち悪い鉄オタ野郎》だと皆に証言してくれたから…

奇跡的に精査を免れた。」



『なん…  だと。』



「考えてもみろ。

俺は竜殺しだぞ?

それも単独討伐に成功している。


普通ならオマエが詮索するべきだったんだ。

《どうやって竜を殺したのか?》

と。」



『いや、てっきり電車か何かぶつけて退治したのかと。』



「詮索されたら本当にマズかったんだよ。

ドワーフは国際社会と輸出鉄鋼のダンピングで揉めてたんだからな。」



『…鉄 …道』



「そう、俺の【鉄道】は文字通り無から鉄を産み出す能力だ。」



『…そうか。

…そうなのか。』



「じゃあ約束通り、能力を見せるぞ。

付いて来い。」




荒木の要望であるスキルの不使用。

俺に受け入れる義理がない。

仮に俺が自粛を願ったとしても、17時になると勝手にカネが湧く仕組みなのだ。

世界の邪魔になれば、そのうち誰かが俺を殺すだろう。

どうせなら友の手で死にたいのだが、口には出せない。

優し過ぎる荒木鉄男は、きっと心に深い傷を負ってしまうことだろう。




大きな倉庫。

トラック搬入の為か、シャッターが高い。



「言い忘れていたが。

この能力を見るのは地球ではオマエが初めてだ。」



『そいつは光栄だな。

…安心しろ。

誰にも言わない。』



荒木は無言で歩き、巨大なトラックの前に立つ。



「これが25㌧トラックだ。

積載量は14㌧。

運転には大型免許が必要になって来る。

俺はまだ持って無いから、施設内でしか運転した事はない。」



『なるほど。』



「時間が惜しい。

見せるぞ?」



『…。』



荒木は脚を肩幅に開き、静かに右手をかざした。

そっか、あの時俺達に見せた鉄道芸は不器用なコイツなりの一世一代の大芝居だったのだな。



「粉塵が飛ぶから下がってろ。


行くぞ、【鉄道】!」



荒木の右手が微かに光ると同時に…



轟音!

それも金属音。

俺の【複利】が硬貨を噴き出すような軽い音ではない。

重量感のある凶暴な轟音。


そう、それは無数の鉄骨だった。

膨大な数の鉄骨が無造作にトラックの荷台を埋めて行く。



轟音が静まった時には、荷台に鉄骨が満載されていた。

荒木の顔色を観察する限り、まだまだ余裕はありそうだ。

(勿論、余力があるように装ってる可能性はあるが。)



「丁度、10㌧。

誤差はない。」



『そんな事、俺に話してしまっていいのか?』



「良くはない。

オマエと違って俺は小心者だからな。」



無論、コイツとて馬鹿ではない。

鉄骨産出以外にも色々出来るのだろう。

何せ、鉄は人類にとって最も応用性に富んだ資源だからな。

それを無から生み出せる。

元本が必要な俺とはまさしく対極の能力だ。


俺はトラックの荷台を覗き込む。

見た所、何の変哲もない普通の鉄骨である。



「現在の鉄スクラップ価格は1㌧辺り5万円で安定している。

つまりさっきのスキルは50万円程度の価値しか無いということだ。

どうだ、令和のミダス王たるオマエから見ると下らないだろう?」



『いや、そもそも能力の方向性が異なっている。

優劣は付けられない。』



荒木の表情が少しだけ柔らかくなる。

どうやら俺は全くの馬鹿では無かったらしい。



「さて、俺の用件はこれだけだ。」



『?

てっきりスクラップ現場に埋められるのかと思ってたんだがな。』



「恩師に顔向け出来ないことはしない。」



『だな。

伊藤先生の哀しむ顔は俺も見たくない。』



「なあ。

別に俺はオマエと争いたい訳じゃない。

物の考え方なんて、多かれ少なかれ違っていて当たり前だ。

妥協点を見つけたいだけなんだよ。」



…そう。

コイツとは目指すゴールが違い過ぎるのだ。

なので《妥協点》は互いが必死に探さなければならない位置にある。

いや、下手をすると存在すらしないかも知れないのだが。




『俺の名は遠市・コリンズ・厘。

異世界では魔王職を務めていた。

嫡男のダンに譲位し、地球に帰還して現在に至る。


…能力名は【複利】

その威力は、オマエが一番知っている筈だな。』



「ああ、今思い出しても恐怖しかないよ。

笑顔でカネに圧し潰されていく無数の群衆…

あの悪夢には今でもうなされるよ。」



『そろそろ時間だ。

申し訳ないがオマエの悪夢は蘇る。』



「それは…

オマエの能力が任意ではなく

特定時間によって発動する事を認めるということか?

17時限定?」



『さあ。

本当は任意発動なのに

17時にだけ能力を見せる事で

定時発動に見せかけているのかも知れないぞ?』



「オマエならその程度の策は弄してくるだろうな。」



『どこか座る場所ないか?

先月まで車椅子生活だったんだよ。

立ちっぱなしは辛い。』



「ああ、すまないな。

じゃあ離れに来いよ。」



荒木はそう言うと1人でスタスタと歩き出す。

付いて行くとコンテナ式のユニットハウスが敷地の隅に設置されていた。



「安心しろ、見た目よりは断熱性がある。」



『お邪魔します。

…荒木にしては片付いてるな。』



「寝るだけの部屋だからな。

空調とネットがあれば、それで十分だろ。」



殺風景な部屋。

その隅に小さなスーツケースが無造作に置かれていた。

そうか、明日はバンコク出張と言ってたな。


昔、風邪で休んだ荒木の部屋に連絡プリントを届けに行ったことがある。

あの時のアイツは自慢気に部屋一杯の鉄道コレクションを見せて来た。



  「俺さぁ!

  高校を卒業したらさあ!

  1人暮らししてさあ!

  最低でも10畳は欲しいな!

  そこに秘蔵の鉄道グッズを並べてさあ!

  俺だけの博物館にするんだ!

  遠市にも見せてやるよ!!」



この大きなユニットハウスのどこにも鉄道に関連したグッズは見当たらない。

いや、ここに来るまで無数の線路を渡り、無数の列車を見掛けたが、この男は視線すら向けなかった。

もはや荒木鉄男にとっての鉄道は【鉄道】を構成する一要素に過ぎない。

ただそれだけの話である。




「オマエ、何で泣いてるの?」



『寂しいからじゃないかな。』



「そっか。」



『何度か見せたが、返礼代わりに実演しておく。』



「無理しなくていいんだぞ?

あくまで俺が手の内を見せる約束だったんだからな。」



『それでは筋が通らないよ。』



「そうか。」



俺は大きく息を吸う。

財産の総額は不明である。

鳩野車を俺の金庫と定めているので、そこに17時の時点で運び込まれた金額が俺の資産ということになる。

手元にはリュックから抜いた100万しかない。



最近、カネを自分で数える事が無くなった。

安宅や江本のように数字が強い者が周囲に居るので、ソイツらに全てを委ねているからだ。

彼らが5億と言えば俺の資産は5億だし、6億だと言えば6億なのだ。

そして《無くなりました》と報告されれば、きっとそうなのだろう。




『あ、麦茶脇にどけて貰っていい?』



「ん?

ジュースの方が良かったか?」



『いや、多分俺の目の前に…』




《4億1881万6400円の配当が支払われました。》




『うおっ!

ゴメン!!』



「いや、こちらこそスマン!

ズボン濡れた?」



『いや、俺は大丈夫だけど。

雑誌汚しちゃってゴメンな。』



「ああ、別にいいよ。

もう読み終わったし。」



『オマエって経済紙とか読むんだな。』



「せめて基礎用語でも覚えて行かなきゃ、話にならないからな。」



『複利とか?』



「ああ、複利とかな。」



『で?

この新規発行についてもオマエに詫びるべきなのか?』



「日銀にでも謝っておけ。」



『日本銀行さーーん!!

いつも勝手な事をして申し訳ございませーーーん!!』



「遠市。

オマエ、全然反省してないだろ。」



『どうせ日銀なんて近いうちに俺に吸収される存在だし。』



「まあ、順当にそうなるだろうな。

念を押しておくが、職員さんに危害を及ぼすなよ!」



『しねーよ、そんなこと。』



「じゃあ、雇用も守ってやるんだな?」



『まあ、仮に不要になったとしても

早期退職金は弾むつもりだ。』



「…OK.

今、ちゃんと聞いたからな?

公約は守れよ、魔王。」



『だから、地球じゃ魔王関係ないって。』



「でもどうせそれっぽい役職に就くんだろ?」



『どうだろ?

俺、多分宗教方面に進むんじゃないか?』



「ああ、確かにオマエ坊主の代表だしな。

性分にも合ってはいそうだよな。

神聖教?」



『多分、籍が残ってるだろうからな。

戒律上、他宗教には関与出来ない筈だ。』



「まあ戒律なら仕方ないな。」



『で、その戒律には隣人への分配が記されている。』



「へえ、そんな宗教だったんだ。

なんかお布施ばっかり要求してくるイメージだけど。」



『すまん。』



「いや、オマエに謝られても。」



『そしてスマンついでにこのカネ置いてっていい?』



「オイオイ。

俺、税務関係滅茶苦茶真面目にやってるんだぞ?

こんなピン札ばっかり受け取っちゃったら…

税理士になんて説明したらいいいんだよ。」



『重いんだよ。

4億チョイもあったら。

なあ、端数引き取ってくれない?』



「端数って、突然こんな大金渡されても…

勘定科目とかどうすればいいのやら。

このカバンやるから持って帰れ。

帰り、車で送ってやるから。」



『お洒落なカバンだな。

荒木も、こんなの買うんだ?』



「んー?

どっかのチャラいブランドだよ。

貰いモンだから遠慮するな。」



『これ、結構高い奴なんじゃない?』



「そうなのかな?

スマン、俺はブランド系、本当に覚えられんのだ。

買い物する時も、基本的には店員に全部任せてる位だからな。

最近、人から物を貰う機会が増えたからな。

小物関係はもう把握出来んのだ。」



『じゃあ、遠慮なく。

贈り主と会う事があったら、ちゃんと礼と詫びをしておけよ。』



「おう、思い出せたらな。」




結局、荒木はカネを受け取ってくれなかった。

(冷静に考えれば我が国の事業者として極めて正しい判断である。)

来た時同様、アクアラインを渡る。



「なあ、トイチ。

もしも異世界に行ってなかったら

オマエは何をしていた?」



『さあ、宅建取った直後だったし

不動産屋の就職とか探したんじゃない?

俺、纏まったカネが欲しかったから…

それこそ平原不動産に就職してたかもな。』



「やめとけー。

あそこ転職会議で星1.2だぞ。」



『じゃあやめとくわ。

オマエは?

異世界に行ってなかったら、何してた?』



「鉄道会社にでも行ってたんじゃないか?

好きだったし。」



『そっか。

電車の話をしてる時の荒木は楽しそうだったからな。』




互いに沈黙。

或いはこの男も感傷に浸っているのかも知れない。



『なあ荒木。

オマエ、よくこの橋の近所に住めるな。』



「1人くらい、墓守が居てもいいだろう?」



空はどこまでも高く、風は決して止まない。

よくこんな橋を架けたものである。

そうだな。

この壮麗なアクアラインこそが、級友や伊藤教諭の墓標なのだ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




橋を渡り終わってから小腹が空いていることに気付いた。

荒木とコンビニの駐車場でオニギリを買って食べる。


食っている間、取り留めのない話をした。

それがどんな会話だったか思い出せないのは、残念で哀しい。



「本当にここでいいんだな?

1人で大丈夫か?」



『オマエが平原さんに連絡取ってくれたからな。

ここで回収を待つよ。

オマエ、明日からバンコクだろ?

前日くらい早めに寝ろ。』



「…そうだな。

たまには、真面目に眠るか。

オマエは寝てるの?」



『え?

どうだろ?

まあ、眠い時は寝てるんじゃないかな?』



「魔王やってた時は全然寝てなかっただろ?

あんな生活してたら寿命が…」



言い掛けて荒木は絶句する。



『何?』



「…早死はするなよ。

伊藤さんが悲しむぞ。」



一々故人を引き合いに出しやがる。

卑怯だよな、コイツ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




俺を回収に来た平原車にはゴツイオッサンが座っており、恐らくはそれが福田魁なのだと見当を付けた。



「キミかー、国連と戦っちょる猛者は。

凄い傷やねー。」



第一声がそれである。



『はじめまして

遠市厘と申します。』



「ふはははww

確かにキチガイの目をしちょるww

鯨、殺すか?」



『ええ、殺します。』



「ふっふっふーw

いい目をしとる♪

最近の若者はオカマみたいなカスばっかりやと思とったけど。

キミはいいねえ。」



『どもです。』




どうやら、キャラバンは磯子に集結していたらしい。

俺が到着した時には、ヨットハーバーの駐車場に車両を固めてカネを守っていた。


鳩野車に乗り込んだ俺に安宅が報告を始める。

運転席の鳩野が席を外そうとするが、制止して立ち会ってもらう。

安宅の友人をドライバー扱いしたくない。



「トイチ先生。

本日のスキルは?」



『ええ、私は対岸の木更津市に居たのですが正常に発動しました。』



「おお!

流石ですね。


あ、報告しますね。

利率から推測出来ておられると思いますが

本日の預金は40億です。」



『劇的に増えましたね。

確か、昨日は20億チョイだったでしょ?』



「…その勝手な判断になってしまったのですが…

名古屋で飯田君が大阪勢の資金を預かってます。」



『え? それって?』



「ええ、この車両に積載しているキャッシュと飯田君管理のキャッシュ。

その合算が40億なんです。」



『なるほど。

幅が広がっちゃいましたね。』



「申し訳ありません!

先生の許可なく実験染みた行動をしてしましました!」



『いえ、お気遣いなく。』



これはメンバー全員の合意の上でのアクションだろう。

何せ近日中に俺がスマホを持つことになったからな。

コアメンバーが危機感を持ってしまったのだろうな。

だから、俺のスキルが《複数遠隔操作》に対応出来るかの実験を急いだ。

それだけの話だ。


安宅達が恐縮していたので、『気にしていない。』と伝えておいた。

ヒルダは女衆と共に三田に帰ったが、俺は安宅が確保した民泊で仮眠を取ることを決める。

鯨の殺し方は俺以外の誰かが考える、鯨を殺す準備は俺以外の誰かがする。

俺のミッションは呼ばれた時に速やかに駆け付けスイッチを押す事である。

その時、仲間に対して機嫌の良い表情を見せる事も勿論ミッションに含まれている。

特に起床時、絶対に不機嫌な顔をしてはならない。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】



6億5351万4610円

  ↓

46億5351万4610円

  ↓

50億7233万1010円

  ↓

49億9233万1010円

  ↓

9億9233万1010円



※出資金40億円を預かり

※配当4億1881万6400円を取得

※配当金8000万円を出資者に支払い

※出資金40億円を別に保管



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




俺は何度も荒木の【鉄道】を振り返る。


鉄は1㌧で5万円。

カネは1億円で10㌔。


何度も何度も瞼に焼き付いた光景を思い返す。

金と鉄。

増殖と生成。

対極の能力を持った俺達だけが地球に生還した。


荒木は天命を信じ掛けているが、俺は単なる偶然だと思う。

意味は人間こそが見出すべきであり、断じて天などであってはならない。

【名前】


遠市・コリンズ・厘




【職業】


東横キッズ

詐欺師

神聖教団信徒




【称号】


女の敵




【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)


《LV》 9

《HP》 鼻骨骨折疑惑

《MP》 強い

《力》  女と小動物なら殴れる

《速度》 小走り不可

《器用》 使えない先輩

《魔力》 ?

《知性》 悪魔

《精神》 女しか殴れない屑

《幸運》 的盧


《経験》 4114


本日取得 0

本日利息 340


次のレベルまでの必要経験値996


※レベル10到達まで合計5110ポイント必要

※キョンの経験値を1と断定

※イノシシの経験値を40と断定

※うり坊(イノシシの幼獣)の経験値を成獣並みと仮定

※経験値計算は全て仮説




【スキル】


「複利」 


※日利9%

下2桁切り上げ 




【所持金】


9億9233万1010円




【所持品】


jet病みパーカー

エモやんシャツ

エモやんデニム

エモやんシューズ

エモやんリュック

エモやんアンダーシャツ 

寺之庄コインケース

奇跡箱          

コンサル看板 

荒木のカバン    ←new




【約束】


 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」

 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」

〇         「同年代の友達を作って欲しい。」

          「100倍デーの開催!」

          「一般回線で異世界の話をするな。」

〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」

          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」

 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」

×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」

×         「女性を大切にして!」   

〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」

×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」

×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」

          「今度、焼肉でも行こうぜ!」

〇藤田勇作     「日当3万円。」

〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」

〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」

〇          「お土産を郵送してくれ。」

 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」

 警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」

×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」

〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」

 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」

×平原猛人     「殺す。」

          「鹿児島旅行に一緒に行く。」

          「一緒にかすうどんを食べる」

 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」

 今井透      「原油価格の引き下げ。」

〇荒木鉄男     「伊藤教諭の墓参りに行く。」

 鈴木翔      「配信に出演して。」 

×遠藤恭平     「ハーレム製造装置を下さい。」

〇         「子ども食堂を起ち上げる。」

〇田名部淳     「全財産を預けさせて下さい!」

 三橋真也     「実は配信者になりたいので相談に乗って下さい。」 

 DJ斬馬      「音楽を絡めたイベントを開催する際、日当10万で雇用する。」



〇木下樹理奈    「一緒に住ませて」



×松村奈々     「二度と靴は舐めないにゃ♥」

〇         「仲間を売るから私は許して♥」



〇鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って。」

〇         「カノジョさんに挨拶させて。」

〇         「責任をもって養ってくれるんスよね?」



×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」

          「王国の酒…。」

          「表参道のスイーツ…。」 

×         「ポン酢で寿司を喰いに行く。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最初にバトルシーン、そして本編でその状況を加味した描写。 めっちゃ消化しやすくて良かったです。 本編?だけだと濁った感じになる所、既出なのでうまく背景化できるんだなぁと感心
1章で荒木とリンが再会問答した際、リンがもらったスキルに対してのヤバさについて話対話してたので 「複利のヤバさ」について荒木はある程度知見はあったのかな?と当時思ったのですが、 今回のやり取りで複利に…
いつも楽しく見させてもらってます。 正当防衛以外では女騎士を殺したことしか言ってないですけど、金を欲しがる群衆に、スキル発動して生き埋めにしたことの方がよっぽどやばかったですけどねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ