【降臨28日目】 所持金1億3725万2247円 「代わりに頼む。」
早朝。
部屋には俺・安宅・寺之庄・飯田の4人。
手早くメシをかき込みながら、手短に打ち合わせ。
話し合いながらも、俺は3人の下半身事情に想いを巡らせる。
飯田は表情に出さないが、すれ違った時の関羽がかなり浮かれていた。
元々カップルであった事も加味して、恐らく飯田はセックスをしたものと推定する。
ノルマ1達成。
寺之庄がわからない。
関羽とは対照的に、弓長は戸惑うような表情をしていた。
ひょっとしてセックスをしていないのか?
わからない。
そもそも、寺之庄級の長身イケメンと俺とではモテ格差があり過ぎて、人生哲学を垣間見ることすら出来ない。
…それとも、やはり婚約者を呼んだ方がいいのだろうか?
わからない。
俺は、寺之庄が放置した場合、弓長が暴発すると見ている。
もうこの際、一晩だけでも抱いてやってくれないかな。
そして安宅。
昨夜、あれだけ盛り上がったからには、ますます女探しを急ぐ必要が出て来た。
そりゃあね、あれだけ熱く語っておいて何もしなければ詐欺だからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺が浜松から名古屋に居を移したとの報告を聞いて、下呂の松永、そして米原の宮田のテンションが上がっている。
両名からすれば、日帰り圏内にまで俺が西進して来たことが嬉しいらしい。
今日、下呂に行くことは昨夜の松永謙一郎猟師とのリモート会議で決まっている。
現在、松永所有の箱罠に2体、括り罠に1体のイノシシが捕獲済であり、この3匹の殺害権は俺が確保している。
と言う訳で、後は車と同行者のチョイス。
安宅は遊びに来る投資仲間を迎えなければならないので、待機。
ヴィラの離れを迎賓館的に使う事を許可する。
寺之庄のキャンピングカーだが、下呂山中では取り回しが難しい可能性があるので、ヒルダのプリウスに送迎して貰うことに決めた。
「ねえヒルダァ。
ウ↑チ↓も仲間だよね?」
「は?
違いますけど?」
「ヒルダお姉様。
奈々ちゃん、可愛いニャンコちゃん♪」
「殺処分で。」
「酷いにゃ(泣)!」
『ヒルダ。
知らない土地だ。
急いでくれ。』
「はーい❤」
「BBA! そのドヤ顔やめろや!」
「奈々ちゃんも遊びに行きたいニャ!」
鷹見と恩師がヒルダに纏わり付いている。
ヒルダは口では冷淡だが、表情はどこか楽し気である。
エルデフリダ、鷹見、恩師…
ヒルダ・コリンズは屑と相性が良いのかも知れない。
残念ながらコレット・コリンズは生真面目だった。
実に残念である。
「リン。
邪魔者が纏わりついて来てますが…
どうしますか?」
機嫌良さげにヒルダが尋ねて来る。
俺に尋ねる時点で、同行許可を与えてるようなものだが…
『ヒルダと2人で行く。』
「ッ♪」
「ちょ! テメーマザコン!」
「今日は3P面談の予定日ニャン!」
『大急ぎで行って、用だけ済ませて帰る。
女を3人も連れて行けば、松永翁が応接の姿勢を取らざるを得なくなる。
向こうに誤ったメッセージを送りたくない。』
「ねえ、ダーリン様ァ。
たまにはウ↑チ↓に構って!」
「恩師ちゃん、遊びに行きたいニャ!」
『…わかった!』
「おお!」
「トイチ君も少しは分かって来たニャン♪」
『明日は休暇とする!
3人で名古屋見物!』
「やったぜ!」
「やったニャ♪」
『なので、明日はヒルダと3人でどこぞに遊びに行って来い。
以上!』
「ふぁ!?」
「ニャ!?」
「リン、私は休暇など不要なのですが。」
『たまには羽根を伸ばして来いよ。』
「では♪
保健所に薄汚い泥棒猫2匹の殺処分をお願いしに行きます♪」
「オイイイイイ!!」
「にゃががーー!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
出発は7時半。
ヒルダの運転で高速道路を北上する。
特に休憩に興味がないらしく、ひたすらアクセルを強く踏み続けている。
『随分、あの2人を気に入ってるんだな。』
「連邦戦線でも申し上げたでしょう?
能力のある女には千金の価値がある、と。」
『やっぱり、ヒルダから見てもアイツらは優れている?』
「本国では、スキルの種類や練度こそが能力であり価値でした。
それは分かりますね?」
『ああ。
カイン、ドナルド、グリーブ隊長。
猛者はみな、強力なスキルを隠し持っていた。』
「では、こちらの世界ではどうでしょう?
スキル無きこの世界では、何を以て価値と考えますか?
ヒントはこちらに有って本国には無い物です。」
『うーーん。
何だろう。
おカネ…
は異世界にもあったしな。』
ヒルダは一拍置いて、俺の理解度を観察する。
「答えは知名度です。
ネットを通じて個人の影響力がフォロワー数・再生数として可視化されている恐ろしい在り方。
それこそがこの世界の特徴なのです。」
『ああ、確かに異世界にはネットが無かったよな。』
「このネット社会において鷹見夜色こそが最強。
万夫不当と表現しても過言ではありますまい。
鷹見に及ばぬながら、松村奈々も卓越した逸材。
故に、リンの手元に置くべきだと判断しております。」
『最強は大袈裟じゃないか?
ただの犯罪者だろ、アレは。』
「リンはまだまだネット社会の本質を理解していないようですね。
いいですか、もう令和なのですよ?
そろそろ意識をアップデートして下さい。」
『あ、はい。』
異世界人にデジタル面で説教されると地味に凹むよな。
俺、時代遅れなのかな?
名古屋ICから郡上八幡まで1時間と聞いていたが…
40分強で到着してしまう。
『オマエって結構飛ばすよな。』
「ご安心下さい、オービスの位置は全て暗記済です。」
…地球への適応早すぎだろ。
その後。
ヒルダのスマホで松永に電話する。
まだ8時過ぎなので気が引けるが、まあ相手は田舎の人だし大丈夫だろう。
『お世話になります。
遠市で御座います。
郡上八幡で降りました。』
「早いですね!?」
『昨夜も申し上げた通り
手早く殺し、きっちり払い、速やかに帰ります。』
「ふふふ。
動画の通りの人ですなw」
『既に国道256号に乗っております。
大きなドーム球場(?)の隣を通り過ぎて、山に入りました。』
「ああ、それスポーツセンターです。
娘の卓球の試合を応援に行ったことあります。」
『へー。
東京ドームみたいで…
うおっ、結構曲がりますね。』
「あー、そのくねくね道。
結構長いんで気を付けて下さい。
軽自動車とかだと、ややパワー不足に苦しみます。」
『プリウスですけど、大丈夫ですか?』
「プリウスいいですねー。
それなら余裕です。」
九十九折とは、よく言ったもので、下呂に抜ける道はヘアピンカーブの連続だった。
内心、二度と下呂に行かない事を決意する。
通話口の向こうの松永翁は俺のそんな感情を目敏く察したのか、「難所はそこだけ! 後は一本道!」と連呼してくる。
勿論それは嘘で、狭く険しい道がその後も続いた。
『ヒルダ、スマンな。』
「何故詫びるのですか?」
『いや、この難所だ。
運転させるのが申し訳ないなって。』
ヒルダ・コリンズは鼻で笑う。
「リンと私が潜り抜けてきた、あの激闘の日々を思えば。」
《オマエが一方的に殺して回ってただけじゃん。》
と内心思ったが、怖いので黙っておく。
『俺が止め刺ししている間に温泉でも入っとくか?』
「リンを見物しているのが一番面白いです。」
『そんなに俺って面白いかな?
よく言われるんだけどさ。』
ヒルダはゆっくりと身体を揺すって無言で笑った。
「あの女が言うのですよ。
《リンこそが世界を広げる男だ》
と。」
『そっか。
俺がオマエ達を胡桃亭から連れ出したのって
少しはプラスだったのかな。』
「女は誰しも、退屈な日常から攫っててくれる殿方を求めております。
流石に地球まで連れて来られるとは思いませんでしたが。」
《オマエ勝手に来ただけだろ》
と喉まで出掛かるが、そういう話術的なトラップの可能性もあったので思い留まる。
しばらく走っていると不意に山が開けて視界に集落が広がる。
山林国である我が国は山と言う名の大海原にサトという大小の島々が浮かんでいる。
平原広大な異世界でも、それに近い郡部はあった。
《だから、道という名の航路を絶やしてはならない。》
王国人も帝国人も魔族ですらも、そのようなニュアンスで都市部偏重を戒めていた。
王都のすぐ傍の農村地区住民ですら似たようなことを言っていたので、都鄙格差は文明が持つ共通の宿痾なのかも知れない。
「戸隠神社です。」
『ん?』
「この地にあるものは信濃の分社ですが、戦勝祈願で知られているそうです。
征露にも功があったそうですよ。
10分ほど迂回すれば…」
『その10分で俺は進むよ。
祈願は不要。』
「ふふっ、失礼致しました。」
9時過ぎ。
松永翁に再度電話。
《戸隠を抜けた》と告げると、《保井戸なる集落で待機している》と返答された。
長い山道にうんざりしていると、ヒルダが後部座席から握り飯と冷茶を取り出してくれた。
礼を述べてから無心に貪る。
『懐かしい味がする。』
「少しでも地球の味覚に近づけていれば良いのですが。」
『いや。
胡桃亭の日々を思い出した。』
「そうですか。」
やってる事はあの時から変わらない。
獲物を殺して女を養う。
俺はややアプローチが特殊だが、そこまで他の者と大差はない。
原始、男はずっとこうやって来たのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「郡上から長かったでしょう。」
松永翁は爽やかな笑顔で歩み寄って来る。
遠州土産を渡すと彼は大袈裟に喜んでくれた。
まず保井戸の括り罠で1匹殺す予定。
これは事前の打ち合わせ通り。
松永が俺とサシで話したそうだったので、ヒルダを下呂市内に先行させる。
グランピング場の下見と手土産のチョイスの全てを任せる。
アイツ、俺より日本文化に詳しいからな。
飛騨川に注ぐ無名の小川。
5分ほど遡った位置にイノシシが掛かっている。
「川の側で掛かってくれると助かるんですよ。
冷やさなきゃですから。
本来は。」
松永が振り向く。
《本来は》という言葉には、俺への強い期待が混じっている。
『肉や皮を求めている訳ではありません。
故あって大量のイノシシを殺害する必要があるのです。
何も言わずに機械的に殺させて下さい。
当然、報酬は支払います。
また、この御恩に報いる為にも、狩猟業従事者の皆様にとって有益な法整備に対しても支援を惜しむ気はありません。』
「法整備?」
『農村の過疎化が進行している我が国だからこそ、狩猟技術を保有しておられる方をもっと優遇するべきだと思いませんか?
政府が熱心に農業を補助していますが、狩猟現場にも同等かそれ以上のケアが必要不可欠です。
だって、そうでしょう。
野生動物に立ち向かうなんて危険な任務。
社会はもっと敬意を払うべきです。』
エドワード王の受け売りだが、さも自分で考えたことの様に話す。
彼は最後まで宮廷社会を掌握出来なかったが、農村からの支持は絶大だった。
その証拠に賞金を懸けられて本領まで落ち延びる際、民衆達が落ち武者狩りに一切協力しなかった。
おかげで叛逆貴族の追捕隊はたった十数名のエドワード一行を捕縛出来なかった。
見ているのだ、人間は。
為政者の一挙一動を。
聞いているのだ、民衆は。
為政者の語る一言一句を。
俺には責務を先払いする義務がある。
もう公約を表明しなければならない時期に来ている。
俺の目指す社会は極めてシンプル。
実務者に適切な報酬が支払われる社会。
中抜きは強く制限する。
無論、資本主義の原理と相反する理想である事は百も承知。
だからこそ、資本主義社会の為政者は原理の対極で社会を支える者を絶対に粗略にしてはならない。
資本主義社会において、定量化に向かない業種に対するケアは困難を極める。
だからこそ、だからこそ、資本の体現者である俺には彼らに目を向ける責務がある。
猟師なんてその最たるものだろう?
「私に出来る事と言えば、危ない橋を一緒に渡ることくらいですなあ。」
松永は暴れるイノシシを眺めながら呟いた。
「トイチさん。
銃を撃たれたことはありますか?」
『いえ、触ったこともありません。』
「括り罠の止め刺しには、銃を使うことが一般的です」
松永翁は恭しく俺に銃を捧げてきた。
リスクは彼の方が大きいだろうに。
俺は彼からのレクチャーを受けながら、引き金を引いた。
想像よりも引き金は軽かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
9923万3847円
↓
9903万3847円
※松永謙一郎に20万円を支払い
(日当10万円+イノシシ殺害歩合10万円)
【推定経験値】
イノシシ1匹
40×1=40
《経験》 683→723
本日取得 40
本日利息 未取得
※次のレベルまでの必要経験値547
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「本当に初めてですか?
随分と思い切りが良いので驚きました。」
『手榴弾を何度か投げた経験がありまして。
それが生きているのかも知れません。』
「なるほど。」
さっきまで暴れていたイノシシは微動だにしない。
ぐったりと腹から血を流し続けている。
直感的に銃でも経験値が入ることを確信する。
『ありがとうございます。
松永社長のおかげで、実に有意義な学びがありました。』
「いえ、こんな田舎に来て下さって。
出来る事と言えば…
この程度しか思いつかず。」
『無論、口外しませんし
万が一発覚して松永社長が不利益を被った場合
金銭の形にはなると思いますが、補償もさせて下さい。』
「こちらも口外しない事を約束します。」
松永翁のジープに乗り込み、下呂市街を目指す。
途中、彼が所有するイチゴのビニールハウスを通り過ぎる。
『あんなに多くのハウスを経営されてるなんて、流石です。』
「いえ、あれは失敗です。
結局、パッションを持てませんでした。
償却が終わってからはパートさんに任せっ放しです。」
『松永社長は色々と手広くご商売をされていると伺いました。
尊敬します。』
「苦し紛れに足掻いていただけですよ。
キャンプブームも終息が早かったですし、次の足場を血眼で探していた所です。
そんな時、遠市さんから声を掛けて下さりました。
着信メッセージを見た時は飛び上がって喜びましたよ。」
『私にそんな価値はありませんよ。』
「…いえ、その恥ずかしい話なのですが
私もラノベとか… 年甲斐もなく読むので…」
オマエモカ。
『ああ、そっちの。』
「だから、そういう噂の有る遠市さんとは
是非お話してみたいと思ってました。」
『申し訳ありませんが。
仲間から、その話をする事を禁止されています。
デメリットしかありませんし。』
「でもルナルナさんが配信で異世界の話、結構してるじゃないですか。
TikTokのプロフ欄にも《異世界帰りの彼ピがいます♪》って書いてますし。
『アイツさえ居なければステルス出来たし。
楽勝だったんですけどねw』
「…何だか楽しそうですね。」
『派手な立ち回りしか出来なくなってしまいましたから。
素振りくらいは陽気に振舞わなきゃです。
勿論、私は元々陰気な人間なんですけどね。』
その後、松永翁と陰気自慢トークで盛り上がる。
勿論、誇張なのだろうが山里社会の陰湿レベルの高さに思わず吹き出してしまう。
このジーサン、人の懐に入るのが上手い。
ミュラー卿もそうだったが、年の功には勝てないものだ。
「来年70歳なんですけどね?」
『ええ。』
「異世界転生して美少年に生まれ変わって
チートスキルで無双してハーレム作りたいんですよ。」
『パートさん達が居るじゃないですかw』
「嫌ですよ、あんなBBA共w」
掛かっている箱罠は三峯神社から少し上がった場所に1つ。
温泉寺側にも1匹掛かっているとのこと。
殺すだけなら大した時間も必要ないそうなので、ヒルダに連絡して時間を潰させる。
《温泉にでも入っておけ》と朝から言っていたのだが、休憩に興味がないそうなので、足湯に入ることを強いておいた。
「殿方には分からないかも知れませんが
ストッキングを履き直すのが面倒なのですよ。」
『俺も面倒だから代わりに頼む。』
ヒルダは笑って電話を切る。
『松永社長。
私用に電話を使ってしまって申し訳ありませんでした。』
「いえ、ハーレム構築のコツを見せて頂きました。」
わからない。
今の短い会話のどこに、ハーレム要素があったのだろうか。
ジープは三峯神社の裏を抜けながら、停車可能位置にギリギリまで近づいていく。
目視の距離に獲物が居たので、2人で周辺警戒。
銃所持資格の無い俺が発砲なんてしている場面を見られたら、2人共お縄になるからな。
発砲。
撃った場面を撮影されていない限り、疑惑を掛けられてもシラを切り通すことを誓い合う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
9903万3847円
↓
9893万3847円
※松永謙一郎に10万円を支払い
(イノシシ殺害歩合10万円)
【推定経験値】
イノシシ1匹
40×1=40
《経験》 723→763
本日取得 80
本日利息 未取得
※次のレベルまでの必要経験値507
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
契約通り、死体の処理には関与しない。
殺害以外は全てを任せる。
「あの…
我々も途方に暮れとるんですわ。
鳥獣保護法。
これが悪法で、死体の処理を強要されるんです。
タァケかって…
害獣駆除すればするほど、損をするので
ホント。」
『撃ち捨て合法にすれば、楽になりますか?』
「そりゃあ、勿論。」
『その場合、異臭や昆虫大量発生が想定されるのですが
何か対策はありますか?』
「あ、いや。
そこまでは。」
『発生し得る問題の解決策があるのでしたら、撃ち捨ての法制化には積極的賛成です。
規制緩和による狩猟業者保護が私の基本方針ですので。
レジャー勢に対しては逆に規制強化派ですが。
ただ、私は都市部の生まれで日常的に狩猟が行われる地域の事情は分かりません。
なので、もしも有効な対案があれば積極的に教えて頂きたいのです。』
「…。」
双方無言で最後の箱罠に。
このイノシシは手負いなのか随分と衰弱している。
俺と目が合っても、つまらなそうな表情を変えなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
9893万3847円
↓
9883万3847円
※松永謙一郎に10万円を支払い
(イノシシ殺害歩合10万円)
【推定経験値】
イノシシ1匹
40×1=40
《経験》 763→803
本日取得 120
本日利息 未取得
※次のレベルまでの必要経験値467
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お互い、下らない人生だよな。
「遠市さん。」
『はい?』
「実は若返るスキルを使っておられるとか?」
『は?』
「いや、二十歳と伺っていたのですが
妙に達観されておられるじゃないですか
だから、本当はオッサンなのにスキルとか転生で若返ってるのではないか、と。」
『いやいや、私は幼稚な人間です。
達観だなんて滅相も無い。』
「ほら、その大人の対応。
絶対遠市さんって人生2周目ですよ。」
『…ああ、そうなんですかねえ。』
「いいなあ。
転生したいなあ。
若返りたいなあ。」
『OK。
若返る技術が売ってたら松永社長の為に購入致します。』
「やったぜ!」
こういう他愛もない話が出来る老人は貴重だ。
話が通じる事を意味するからな。
場の雰囲気をマジにしないようにという配慮も素晴らしい。
馬鹿な話しかしない松永であるが、複数の事業を経営しているだけあって非常にクレバーである。
俺の本音も正確に汲み取って来る。
「下呂なんて、来たくないでしょ?
遠市さんの年代なら、温泉とかも興味ないでしょうし。」
『…名古屋市内を拠点にしている時なら。
郡上八幡までは問題ありません。
要は高速道路が繋がっていれば良いのです。』
「では、提案なのですが
郡上八幡インター付近に箱に入れたイノシシを集めるのは?
…経費は掛かってしまいますが。」
『ありがたいです。
喜んで払います。』
浜松と同じ要領のオプション。
1頭20万。
郡上八幡まで持って来させる。
経費が嵩むならこちらで払う。
最低買取り頭数は8匹。
(10匹を提案したが押し戻された。)
但し、このオプションはこちらが滋賀・岐阜・愛知・静岡の4県に滞在している場合のみ優先適用。
《遠方滞在時は来れるか不明》と正直に申告しておく。
「こちらから他にも融通を利かせますので
下呂の観光支援をお願い出来ませんか?」
『え?
私が支援ですか?』
「またまたぁ。
浜名湖はあんなに熱く推しておられたじゃないですか。」
『?
推すと申しますと。』
「あははは。
遠市さんは若いのに交渉上手ですなあ。
やっぱり人生2周目なんじゃないんですかw」
『あ、いえ。』
「ルナルナ配信。
浜松編かなりバズってますよ。
特にプレゼント企画。
各地で開封の儀が行われておりますからね。」
『え?
そうなんですか?』
「もー、トボけちゃってー♪
…遠市さん。
駆け引きは無しにしましょう。
ルナルナちゃんねる、誘致の相場を教えて下さい。
勿論!
交通費・宿泊費は私が負担します!
こう見えて商工会では発言力あるんですよ。
ウチの派閥から会長を出している事もあって、大抵の企画は通ります!」
『あ、いえ。
別にお礼とかは考えてないかな、と。
鈴木社長の配信に鷹見を貸したのも、彼との付き合いの一環ですからね。』
「え!?
そうなんですか!?
じゃ、じゃあ下呂でルナルナちゃんねるを配信することも…」
『まあ、あの女に関しては母が監督しているので…
母に判断を仰ぐ形になりますが。』
「あの!
先程のヒルダさんですよね?
配信でBBA扱いされている。
いや、70の私に言われたくはないでしょうけど!」
『ええ、じゃあ
合流したら母に尋ねてみましょう。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺が市街に戻った頃にはヒルダは既に車内に戻っていた。
無言でスマホ画面を見せて来る。
無表情で裏ピースしているヒルダの自撮り、確かに足湯に浸かっている。
『温泉に行ってくれば良かったのに。』
「エナドリ風呂であればお付き合いします。」
『ああ、軍艦でオマエにお姫様抱っこされたよな。』
「数少ない尊い想い出です。」
『また地球で増やしていけばいいさ。』
松永から「今、下呂ではトマト丼が熱い!」とプッシュされるも、店に入るのが億劫だったので目についたスーパーでトマトを買って、ヒルダと河原に座って食った。
気が付くと太陽が真上で輝いていた。
「こちらでもすっかり有名人ですね。」
『?』
「皆がリンを撮影してますよ。」
ふと振り返ると何人かがスマホで俺達を撮っていた。
目が合うと気まずそうに笑いながら逃げてしまう。
『なあ、ヒルダ。
もうスマホ禁止しない?』
「臭を万年に遺しますぞ?」
『大袈裟だなあ。』
「リン以外の殆どの地球人類がスマホ依存症に罹患しております。
私の目には地球人は滅亡寸前に見えるのですが。
歴史的にはアヘンより酷いのですよ?」
『まさかぁw』
笑い合っていると、1人のバックパッカーが近寄って来て記念撮影をせがむので応じてやる。
「隣の方は、いつも配信で言っておられるお母様ですか?
美人ッスねえ!」
『妻です。』
「ああ! やぱり奥様だったのですね!?
あ、奥様も一緒にお写真は…」
『悪いけど。
あんまり自分の女を見られるのは好きじゃないので。』
「ああ、失礼しました!
じゃあ、ルナルナ配信も本心ではあまり…」
『まあ、アイツの所為で私のプライバシーが無くなってしまった訳ですからね。
今みたいにw』
何が可笑しいのかバックパッカーは手を叩いて大笑する。
そして礼も言わずに去って行った。
「本国に居る時から思ってましたが
見た目に寄らずリンは気さくですよね。
あれだけ民衆との距離が近い王など前代未聞でした。」
『俺、あの時は17歳だったからな。
本当は今もだけど。
ガキが威張ってるのはおかしいだろ?』
ヒルダは何も言わずに笑って俺に抱き着く。
前々からこの女には、子供扱いされてるのか男として見られているのかすら見当が付かない。
トマトのヘタを川に捨てて車に戻る。
途中、ヒルダが鷹見に電話。
冗談めかして挑発している。
「テメーBBA! マウントばっかり取りやがって!」
「奈々ちゃんも温泉旅行したいニャ!」
罵り合ってるコイツらだが、どことなく楽し気である。
きっと女には女の友情の形があるのだろう。
「ダーリン様! ウ↑チ↓も!
ウ↑チ↓も温セックスする!!」
「コラ遠市! キサマは担任放置罪で死刑だニャ!
謝罪と賠償を要求するニャダ!」
「まさかリンが個室風呂を予約しているとは露知らず。
何度も激しく求められて困ってしまいました。」
「ウッキャアアアアア!!!
BBA死ね!! 死ねウンコBBA!!」
「あのヒルダさん、もう少し手心と言うか…
ウチの鷹見泣いてますんで。」
その後も鷹見たちはギャーギャー騒いでいたが、ヒルダは《後で土産話でも聞かせてあげましょう♪》と機嫌よく嘲笑して通話を切った。
オマエらさぞかし人生楽しいだろうな。
俺はプリウスの窓から松永に語り掛ける。
『鷹見、本当に来るかも知れません。』
「おお!!!」
『ひょっとすると私の高校時代の担任も来るかも知れませんが…
大丈夫ですか?』
「え!?
相方の奈々ちゃんも来てくれるんですか!?
あの子滅茶苦茶可愛いですけど
本当に教員なんですか?
本職のAV女優じゃなくて?」
『いやあ、どっちが本業なのか私にも分からないんですけど。
あの女が教壇に立っていた事は事実です。
私も《倫理》と《公共》の授業を受けたことありますよ。』
「うお!?
あの人、どんな授業するんですか!?」
『いや、倫理の課題レポート提出したら…
《日教組の広報に一々マジレスすんな》
って鼻で笑われました。』
「今とあんまり変わらないですね。
あれって、もしかしてキャラ作りじゃなくて地なんですか?」
『うーーん。
クラスでもあんな感じでしたしね。』
松永としばらく雑談してから帰路に着く。
話の流れ的に、鷹見を下呂に連れて行くことになるようだ。
浜松のプレゼント企画がバズってるのが羨ましくて仕方ないらしい。
まあ、気持ちは分かるけどね。
13時30分に下呂を出る。
往路を鑑みれば、名古屋には16時前には到着出来るだろう。
『なあ、俺。
ひょっとすると山里が好きじゃないのかも知れない。』
「ひょっとしても何も、先程はそれが表情に出てましたよ?」
『嘘!?
俺、顔に出てた!?』
「リンは自覚している以上に好悪が顔に出るのです。
自覚なさって下さいね。」
『わかった。
仕事先では気を付ける。』
「ついでに奥向きにも気を付けて頂ければ幸いです。」
『むーー。
気を付けてるよ。』
「気を付けてアレなのですか。」
退屈な山道だったが、軽口を叩き合っていたので気が紛れた。
律儀にも高速に乗ってから、ヒルダは今日を振り返る。
「私も王都の女ですから…
田舎は好みませんな。
その点、東京は水が合います。
実に素晴らしい。」
『そもそも田舎の人ですら地元を嫌ってるからな。
さっきの松永さんも名古屋市内の店が一番気に入ってるらしいし。』
松永翁は愛人(と言っても還暦を過ぎたお婆さんだが。)に名古屋市内でスナックを出させていて、色々手掛けている商売の中でも、結局それを一番愛しているらしい。
まあ、わからんでもない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
16時過ぎにヴィラに帰還。
シャワーを浴び終わってから関羽の報告を聞く。
今、離れに安宅の投資仲間が遊びに来ており、どうやら俺や鷹見に会いたがっているらしい。
「可能であれば配信を見学したいらしいです。」
『そうなんですか…
配信ってそんなに面白いですかね?』
「いえ、ルナは寿司ペロ事件でバズっておりますし。
有名人を見てみたいという気持ちは、私も分かります。」
『私であれば、幾らでも挨拶しますが…
森さん、鷹見は何か言ってました?』
「今、松村さんと名古屋市内で遊んでいるようです。
あの様子では今晩は帰って来ないのではないでしょうか?」
へえ、まあアイツらが楽しんでいるなら良いんじゃない。
絶対、何かやらかすだろうけどさ。
カネは、既に俺の部屋に運び込まれている。
結構、増えてるな。
安宅も《今日は名古屋で引き出す》と言っていたし、新顔の投資家も大金を用意したようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
9883万3847円
↓
5億4883万3847円
※出資金4億5000万円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨日までは2億5000万だったが…
ひょっとして安宅と新顔が1億円ずつ引き出して来たのだろうか?
そんな大金、一気に引き出せるものなのだろうか?
想像が付かない。
「あ、リン君お帰り。」
『清磨さん、お疲れ様です。』
「えっと、簡潔に状況を解説するね?
今、離れに居るのは安宅さんの昔馴染みの鳩野さん。
BBQにも来てたでしょ?
ヒゲにバンダナしてた人。」
『ああ!
あの人ですか。
バイクに乗って来られた方ですよね?』
「うん、アレはハーレーのビンテージ物。
500万くらいするモデルだよ?」
『嘘!?』
「いやいや、ホントホント。
さっきコッソリ検索してみて、俺も驚いたもの。
まあ、それくらいキャッシュ持ってる人。
今日は車だけど…
鳩野さん、映画に出て来るようなアタッシュケースで1億持って来たからね。」
『はええ。』
「名前で検索したら、著書も4冊あった。
多分、投資家としてのポジションが安宅さんと近い人なんだと思う。
だから話が合うというか。」
『まあ、あまりに経済力に差があると、お互い会話が成り立ちませんからね。』
「お?
異世界でもそうだった?」
『割とすぐに金持ちになったんで、金持ちとばっかりツルんでました。
向こうに召喚されたその週には、値札見ずにメシを食ってました。』
「おお!
そのセリフ、一度でいいから言ってみたい!」
『清磨さん。
今度、2人で高いもの喰いに行きましょうよ。』
「値札見ずにw?」
『値札見ずにw!』
「あははは!
そりゃあ楽しみだよ。
あー、でも俺。
結局、店を知らないから
前みたいに王将になっちゃうんだろうなw」
2人で爆笑しながら恩寵を迎える。
《3841万8400円の配当が支払われました。》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5億4883万3847円
↓
5億8725万2247円
↓
1億3725万2247円
※配当3841万8400円を取得
※配当金900万円を出資者に支払い
※出資金4億5000万円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
遂に1億を越えたか。
一区切りだな。
仮に出資者全員に切られても、毎日700万強ずつ獲得出来る計算だ。
俺にしては上出来か。
ただ、カネもレベルも増加速度がスローペースだ。
地球では無茶をしていない所為もある。
異世界のように日利6割弱には到達が難しいかも知れない。
そりゃあ、人間殺さなきゃ、纏まった経験値は得られないよなぁ。
飯田がスマホで安宅を呼び出す。
手筈通り、鳩野に1%をこの場で支払うのだ。
無論、俺も安宅に同席する。
「あーーー!
どもどもども!!」
俺を見るなり鳩野は愛想の良い笑顔で握手を求めてきた。
『遠市厘で御座います。』
「おお! 本物の遠市さんだ!!!
いつもニュース拝見しております。
この前は殆ど挨拶出来ずに申し訳ありませんでした。
改めてはじめまして、安宅さんの後輩の鳩野と申します!
…あの。
国連なんかに負けないで下さいね!」
『応援ありがとうございます。
私も別に彼らと喧嘩をしたい訳ではないので、落とし所を探っていく所存です。』
この回答の何が良かったのか、鳩野は満面の笑みで記念撮影を強請ってくる。
まあ、応じざるを得ない。
安宅の面子を潰したくないからな。
安宅が配当を渡すのだが、数えもせずに俺の話を聞きたがる。
《本当に異世界に行ったのか?》
《ヤクザや半グレとの繋がりはあるのか?》
《鷹見恩師組と3Pしたのか?》
《国連分担金をどう思うか?》
別に無礼な男なのではない。
幼稚なのだ。
好意や好奇心を抑制出来ていない。
俺に対してこの喰いつき具合なら、鷹見と面会したらどうなるのだろうか。
念仏の文言を教えてやると爆笑しながら《カネカネカネカネナンマイダー》と唱えだした。
まあ、喜んでくれてなによりだ。
ただ、机の上にカネを置きっぱなしというのも慎みがないので、控えめにではあるが鞄にしまう様に注意する。
「あの…
遠市さんって、意外に真面目な方なんですね。
いや、そのファッションに顔の傷でしょ?
もっと反社丸出しの怖い人かと思ってました。
BBQの時もなんですけど。
殴られたらどうしようと思って、ビクビクしながら伺ったんですよ。」
『いや、私は暴力が嫌いなので。』
鳩野が目を丸くして、「ガルパン動画ェ…」と非難して来る。
うーん、そりゃあそうだな。
女にマウントパンチする動画を全世界に拡散させておいて、非暴力なんて誰も信じてくれないよな。
鷹見が俺を刺した動画を面白おかしく拡散してる不心得者(Lagosと住所表記されていたので、恐らくはナイジェリア人だろう )もいるし、動画検索した者が俺達を暴力の権化かのように誤解しても仕方ないのかも知れない。
「いやあ、やっぱり安宅センパイは流石ですね。
今を時めくインフルエンサーカップルと一緒に居られるのだから。
遠市さん、私はこの安宅センパイに憧れて大学を中退したんですよ。
男ならやっぱり稼がなきゃって!」
「中退の話はあんまりしないでね。
今だから言える事だけど、君のお母様が家まで押しかけて来て大変だったし。」
「嘘ォ!?」
「そりゃあ、手塩に掛けた息子が大学中退して雀荘に入り浸っていたら
発狂もするだろうよ。」
「そんな出来事あったなら、言って下さいよ!
母が申し訳ありませんでした!」
「丁度、ウチの両親が来てた所でさぁ。
私の母親と取っ組み合い始めて、もう大変だったよ。」
「ええ!?
そんな修羅場、どうやって収めたんですか?」
「これ、絶対人に言わないで欲しいんだけど。
…札束見せたんだよ。
せいぜい500万くらいだったかな?」
「マジっすか!?
それで、私の母は何と?」
「…まあ、ウチの両親もだけど態度は急変したね。
思い出したくもないんだけどさ。
私の母親がいきなり《リフォームがしたい》とか言い出すのよ。
マンションの住民集まってる場面でだよ?
《勝手に東大を中退して親に恥をかかせたんだから、母屋をフルリフォームして償え》って母親が喚き出すんだよ。
もうねー。
その時の表情がねえ、如何にもカネの亡者みたいで。
《あ、俺ってこんな人間から生まれたんだな》
って、今でもトラウマよ?」
「じゃあ、話は収まったんですね?」
「…うん。」
「え? 何か問題が?」
「ああ、鳩野君のお母様に…
足代を支払った。」
「ええ!?
言って下さいよ!
そういう事があったんなら。」
「いや、まあ。
お互いの名誉にも関わることだから。」
「あの、ひょっとして母が吹っ掛けたんじゃないですか?
クレーマー気質な面があるので。
幾らですか?」
「いやあ…」
「幾らですか?」
「…10万」
「言って下さいよぉ!
もー、昔からセンパイはぁ。
そういう事があったのなら!
言って下さいよぉ。」
「いや、申し訳ないです。
ただ私も本当にトラウマになってるんで、あまりこの話を蒸し返したくなくて。
…両親、もっと誇り高い人達だと思ってたんで。
2度と顔も見たくないよ。」
安宅と鳩野にも色々ドラマがあったらしく、2人でグチグチとボヤいている。
3回に1回くらい俺に詫びて来るので、彼らなりに気を遣っているのだろう。
「でさあ、鳩野君。
さっきも言ったけど厳密に毎日配当を支払うのは難しいよ?
そうですよね、トイチ先生。」
『あ、はい。
私がウロチョロしているので。』
「はぇえ。
浜松に永住してくれるのかと思ってたんですよ。
だったら、私も磐田で子供部屋おじさんしてるから
またセンパイとも遊べるかな、と。
勿論、遠市さんとも。」
『えっと。
既に安宅さんから伺ってると思うのですけど。
故あって移動を主とした生活をしております。
このヴィラも気に入ってはいるのですが、暫定的な拠点に過ぎません。』
口では突き放すのだが、俺は既に鳩野に好感を持ってしまっていた。
傾倒しているセンパイに声を掛けられたからと言って、キャッシュを1億持って来る神経。
というより、初対面の俺の横でペラペラと私事を語り合える(無)神経。
多分、仲良くなれる。
もうここまで来れば、自分が上手く付き合える相手とそうでない人間は見分けが付く。
俺はそこそこ成功している事業家とは仲良くなれる。
まだ起業してなくても、そういう気質を持った人間とは上手くやれる。
逆に純粋な労働者に対してはリスペクトの感情が湧かないし、そういう人間は俺の真価を理解してくれないように思える。
認めよう。
俺は事業家や資本家が好きで、労働者に対してはそういう感情が湧かない。
目を閉じて、父に詫びようとする。
…が、あれだけ世話になった父親の顔を思い出せない。
目を見開いて中空を睨む。
だが、結果は同じで我が最愛の父・遠市分の容貌をどうやっても想い出せない。
小癪な事に、ミュラー卿や平原猛人、フェリペ・フェルナンデスといった糞みたいなオッサン共の笑顔は明瞭にフラッシュバックする。
父さん、ゴメンな。
俺は聖職者にまでなったのに、貴方の墓を建てるという誓いすら忘れていたよ。
子を捨て、親を忘れる。
もはや遠市厘には人間を名乗る資格がない。
『…鳩野さん。』
「はい?」
『私、孝行出来なかった人間なので…
貴方に代わりを頼めれば嬉しいです。
初対面の方に頼む事ではないですけれども。』
何が彼の琴線に触れたのは謎だが、鳩野は安宅が出した条件を全て呑んだ。
「じゃあ配当は君が来た時に纏めてキャッシュで渡すから、そのカネ寄越せ。
贈与税とかナンチャラは知らん。」
本当に理不尽な要求であるが、学校のセンパイということで許されるらしい。
鳩野は無造作にセンパイに1億預けて、100万の札束を内ポケットにしまった。
後藤も言っていたことではあるが、我が国の先輩後輩文化って心底クソだから、速やかに改善されなきゃだよな。
1億をセンパイに巻き上げられても、鳩野にとっては然したるダメージではないらしい。
俺達に鷹見・恩師コンビが如何に素晴らしいかを熱く語る。
「私、アイドルフェスを主催した事もあるんです!
ルナルナさんに是非アイドルソングを提供させて頂けませんか?
あ、いや私はJASRACの信託会員なので、有名な方に歌って頂ければ儲かるという話なんですけど。」
『いや、まあ。
そこら辺は母に任せておりますので、後で聞いておきます。』
《ママに聞かないとわからないでちゅ》
というのは最強の責任回避フレーズだよな。
「ああ!!
遠市さん! 安宅センパイ!!
大変です!!」
突然、鳩野が絶叫する。
忙しない男だ。
『あの、何か問題でも?』
「ルナルナ配信始まってますよ!!
しかも!!
《彼ピと別れることを真剣に考えてる》
って書いてありますよ!!!!」
ほっ。
ようやくあのキチガイが去ってくれるか。
出来れば次の彼氏さんと速やかに結婚して落ち着いてくれると助かるのだが。
「うわあああ!!
た、た、た、大変です!!!!
しかも、公開彼ピ募集企画やってますよお!!!!!」
ふーん。
スマホって本当に色々使い道が…
待てよ!?
お、俺がスマホを使えば、《人類の救済》は意外に簡単に実現するのではないか!?
ふむ。
そろそろスマホを真剣に入手する時期だな。
通信デバイスの確保こそが、男の独立を担保するものなのだ!
よし、ヒルダに頼んでみよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルナルナ公開彼ピ募集企画 [雑談]
※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます
「どもどもー。
ちょ、待てww
早漏共ww
待てww
コメント早すぎww
せめてオープニングさせて。
わかった! わかった!
後でちゃんと聞いてやるからw」
「はーい。
タイトルを見てサカる気持ちはわかるニャ。
ってか同接1200スタートってキモ過ぎだニャ。
ふわっちってこんなに人居たぁ?」
「はい、皆さーん。
ルナルナ@貫通済でーす。
こんにちはー。
聞いて、聞いて!
今日はアイテム投げるの禁止!
貯金しとけw貯金しとけw」
「それでは気を取り直して
はいどうもーーー!!!!
オンシーオンシーオシオシオンシー♪
アナタの猫型脳内オナホこと奈々ちゃんニャンニャン♥
純潔ハイパー処女でーす♪
AVには3本しか出演してないでーすwww
推し変待ってるニャン♪」」
「はい、と言う訳でコメント欄凄い事になってますねえ。」
「なってますニャー。」
「まあ、殆どがヤリモクなんだろうけどさ。
この熱意は…
流石のウ↑チ↓もビビるわ。」
「いや、ルナちゃんはねー。
ガチ恋勢多いよ?」
「うーん、ウ↑チ↓のガチ恋って…
基本的にM男だからなあ。
うーーーん、パスで。」
「M男ホイホイは長身女子の宿命だニャ。
ちなみに低身長女子はキモおぢホイホイなので、ルナちゃんは恵まれてる方だニャ。」
「ああ、クラスにも居たねえ。
学年主任に粘着されてた子。」
「小峠主任?」
「個人名出すなwww
ウ↑チ↓がBANされるだろww」
「ゴメンニャww」
「ああ、そういう教師が居たんスよ。
母校の教師、ゴミばっかりだったんで。」
「マトモなのは奈々ちゃんくらいだったニャ♥」
「はぁww?」
「恩師に向かってその態度は何だニャーー!!」
「あはははははwww
話が逸れすぎ。
本題入るよー、コメ欄異常事態だから。」
「タイトル通りだニャ。
ルナちゃんの彼ピっていうか糞雑魚野郎のトイチがあまりに駄目駄目だから。
さっき栄で飲みながら別れる相談してたニャ。」
「いや、今でも好きなんスよ?
マジで人生最愛の彼ピなんスよ?
ただねー、マザコンは駄目だわ。
うん、マザコンは病気。
近親相姦は法律で罰するべき。」
「ここでトイチの罪状を読み上げるニャ!」
「マザコン罪?」
「カノジョを放置して母親と下呂温泉で青姦してた罪だニャ!
後、担任放置罪と恩師不敬罪を加算!!」
「コメ欄がヤバい事になっとるw
まあ、そういう訳で本気で彼氏と別れようか真剣に考えてたんスよ。
あ、ここ名古屋。
うん、浜松は一旦退去。
今はねぇ、本郷って駅の近くに泊まってます。
うん、そう。
それで地図で見たら、名古屋で一番大きな栄駅に一本で行けるって書いてあったから。
奈々と呑みに来たの。
で、ドンキ上のクラブ行こうかって話になったんだけど
昔東横で揉めた連中と鉢合わせちゃって、この辺じゃドン横界隈っていうらしいんだけど。
《ギロッポン》さん、いつも応援ありがとー!
それで仕切り直しってことで池田公園で配信してます。
こっちはこっちで見覚えのある顔、何人か居たけどね。
うん、ここが池田公園。
中京では結構有名だよ?
歌舞伎町でも何度か聞いたわ。
この辺が女子大通りっていうホスクラの巣窟なんスよ。
で、そのド真ん中にこの公園がある。
後はわかるな?
ん?
ああ、ウ↑チ↓ねえ、ほら墨入れてるでしょ?
だからねえ、あんまりホストからは寄って来ない。
組に出入りしてた時期が長かったからヤクザと思われてるのかもね。
ほら、半袖の長さだと刺青見えるでしょ?
だから腕が見える夏場は殆どナンパされない。
和彫-。
本当は般若を入れたかったんスけど。
組長の奥さんが般若だったのね?
それで、ウチ結構奥さんに嫌われてたから
周りが《これ以上刺激するのはマズい》って忠告してくれて…
急遽鬼子母神に変更したのね。
マジ?
つべで配信してた頃、普通に背中晒してたよ?
ああ、ふわっちからのリスナーは知らないか。
ああ、ちょっと待って!
《シクラメン》さん!
今日はアイテム投げ禁止で。
いや、フリじゃなくて、今日はそういう日じゃないから。
ファンティア有料プラン加入もやめてねー。」
「はい!
もう一度ルールを説明するニャ!
ルナちゃんの彼氏候補に立候補する人はコメント欄でPRして下さいニャ。
アイテム投げは禁止ニャ!
愛は買えない! これが真理ニャ!
あ、奈々ちゃんのツイ垢の干芋リスト♪
そっちは大歓迎だニャ♥」
「参ったな。
コメ欄流れるの早すぎて読めない。
あの、彼氏立候補の人。
一旦奈々のTwitterをフォローして下さい。
彼氏募集のtweetあるので、そこにリプくれたら後で全員読みます。
えっと、奈々が募集してる訳じゃないんで。
チ●凸とかやめてね?
女子って評判共有する生き物だから。
お願いだから自分から男を下げるような真似はしないで。」
「ルナちゃんは結構マメだニャ。」
「ウ↑チ↓、マメかなあ?」
「ほら、一昨日のプレゼント企画。
今朝からお礼tweet来てるよ。
見てみ?」
「うおっw
パンツ画像上げるなしww」
「きっと嬉しかったんだニャ。」
「はい、リスナーの皆さん。
女に転がされない人生を送って下さい。
はい、《たぬき蕎麦》さん。
シャンパンも駄目。
禁止、もうやめてね?
フリじゃないよ。」
「あーー、これ逆効果だニャ。
どいつもこいつもアイテムを投げる事でしか
求愛出来ない哀しきカオナシだニャ。」
「まあ、そういう訳なんスよ。
浮気とか二股とか、そういうのじゃなくて。
彼氏がカーチャンと温泉行った時点でね?
なーんか、人生考えちゃったっていうか。
別れたくないよ?
絶対別れたくないけど
保険くらいは掛けさせて下さいよ。
女なんてねー、本当に弱い生き物だから。
何重にも保険掛けとかないと、簡単に人生詰んじゃうんです。
《よっぴー星人》さん!
ここに個人情報晒すのナシで!!
いや、包茎とかあんまり気にしないんで、そこは別に卑屈にならなくていいです。
いや、男の人だって女のマ●コが上付きだろうが下付きだろうが
それを理由に別れたりしないでしょ?
包茎もその程度ッスよ?
たまに滅茶苦茶気にしてる人いるけど。
あれは高須院長のプロパガンダ!
一回検索してみ?」
「まーた話が逸れてるニャン。」
「あ、ゴメン。」
「それだけ情の深い子なんだニャン。
リスナー1人1人の人生に思わず感情移入してしまうような
ルナちゃんって、そういう子なんだにゃ。」
「えーっと、《天丼太郎》さん。
彼氏の条件教えて下さい。
有意義な質問ありがと。
うーん、条件はない。
強いて言うならねぇ。
配信でも何度か言ってるけど、ウ↑チ↓は男のレアリティを高く評価します。
オンリーワン的な?
多分、ウ↑チ↓がブスだからッスかねえ。
ブスが普通のオトコノヒトの子供産んでもね?
不細工なガキが生まれるだけなんです。
施設の人に厭味半分で言われたんスけど
ウ↑チ↓、遺伝子強いらしいから。
だから、どうせ生まれる子供が不細工確定してるのならね?
誰にも負けないストロングポイントが欲しい。
滅茶苦茶ガタイがいいとか、誰よりも腕力があるとか、絶対に病気しないとかね。
じゃないと可哀想だもん。
だから、彼氏に立候補する人にはストロングポイントを誇って欲しい。
いや、自慢していいんだって!
ウ↑チ↓はそうは思わない。
男はガンガンアピっていくべき。
今、《抹茶パブロン》さんが
自慢したら嫌われる、って書いてくれたじゃない?
いいじゃん、嫌われても。
ソイツは元からオマエラの敵なんだよ。
そりゃあ自慢の仕方が下手でヘイト買う奴もいっぱい居るよ?
でも、それって技術だから、本気になれば改善出来るから。
だから気にしなくていい。
男の人はちゃんと自慢して。
もっと堂々としてくれていんだよ!
女子としてのお願い。
《爆乳神拳》さん。
小学校の頃、クラスで一番足が速かった。
いいじゃん。
つまらなくなんてないよ。
魅力じゃん。
それを悪くいう奴って、結局嫉妬でしょ?
嫉妬する奴に気を遣って、PRの機会逃すのって
それおかしいでしょ?
もっと胸を張ってくれていいよ。
あのさあ!
○○でもいいですか?
××は駄目ですよね?
って自分の短所語るのやめな!
オマエら女の許可が欲しいのか?
違うだろ?
オマエラが欲しいのは女そのものじゃん?
許しを乞うな。
女は役所の窓口じゃねーんだよ。
ペコペコ頭下げて来る男に惚れることなんて絶対にないよ!
だから、オマエラのカッコいいとこ見せて欲しい。」
「あ、ゴメン。
合いの手忘れてた。
ルナちゃん結構熱いよね。」
「リスナーの皆が割とマジで立候補してくれてるんで
ウ↑チ↓もちゃんと応えなきゃなって。」
「ああ、そこは偉いと思うニャ。」
「奈々も募集しとく?」
「いやあ、恩師ちゃんはねえ
いつも言ってるけど、カネとチ●ポにしか興味ないニャン。
テツ君より稼げる子、強い子、まず存在しないニャ。
だからテツ君一択で、保険にトイチ。」
「奈々はダーリン様みたいな男のことぶっちゃけ嫌いでしょ?」
「ああいう奴は、ぶっちゃけイラつくw
でも、恩師特権が通じる金持ちニャン?
当然、キープ。」
「まあ鉄オタもダーリン様もカネは滅茶苦茶持ってるよね。
あの年代のゼロから始めた中じゃツートップかな。」
「トイチはキープしときな。
先生からのアドバイス。
ちゃんとキープした上で、とっとと乗り換えな。
ほら、《日航仮面》さん。
アパレル経営だってさ。
自営? 法人化してる?」
「今日はファンティアも入らなくていいからね。
別に就職面接じゃないんだから、緊張しなくていいよ。
《亀次郎》さん。
貧乏だしオッサンでごめんさい?
…謝るなよ。
ウ↑チ↓のこと好きなら《付き合って下さい》でいいんだよ。
人を好きになるって、そんな後ろめたいことじゃないだろ?
ウ↑チ↓はダーリン様が好きだし、ここ最近の付き合いだけど奈々を好きになって来てるし
あのBBAもおもしれー女だとは認めてる。
その延長でね?
ここへのコメントが切欠で君を好きになるかも知れないじゃん。
だから堂々と好きになってくれていいよ。
《バーバラ石崎》さん、AV観ちゃった?
いいよ別に、ああいうのって男の人を対象にしたコンテンツなんだから
貴方が観るのは自然でしょ?
麗脚崇拝買ったの?
ん? 良かった?
ふふっ、じゃあウ↑チ↓も良かった。
うん、わかった。
バーバラさんの彼氏立候補を許可します。
ん?
立候補でしょ?
いつもありがとね。」
「えっと、今から応募する人。
#ルナへ立候補
を付けて下さいニャー。」
「コメント読めてない人ゴメンね。
今日は本当に同接伸びるわw」
「ルナちゃん。
《冷え切ったマシンガン》さんから質問。
ブサメンは駄目ですよね?
だそうですニャ。」
「…これ、みんな気を遣って言わないことだけど。
そもそもダーリン様もブサ寄りだからな。
でも惚れてる訳じゃない?
それが答えっス。」
「トイチも顔面偏差値低いよね。
ただねえ、あの子は傷で得してるニャン。」
「わかる。
全員、あの傷に目が行っちゃってるよね。
ウ↑チ↓も含めてww」
「オマエラ―。
トイチでもモテるんだから
ちょっとやそっとのブサ度を気に病むニャ。
ルナちゃん、そろそろ配信時間終わりだけど
気になった子、居たニャン?」
「えっとねえ。
今日メッセージ送ってくれた子。
ウ↑チ↓の中で全員キープ君にしちゃいました。」
「え!?
そうニャン?」
「だって立候補してくれた時点で、向こうにはその気がある訳でしょ?
で、ウ↑チ↓はこのタイトルで配信してた訳じゃない。
なら自動的にそうならない?」
「《アリー・アル・サーシェス》さんからメッセージ。
年収200万だし、人権身長満たしてないです。
こんな僕でも本当にいいんですか?
ってメッセージニャン。」
「おっけー。
カネが余ったら恵んでやるよ。
おいアリー。
ウ↑チ↓が養ってやんよ!
ダーリン様のカネでなあww」
「え?
マジニャ!?」
「ウ↑チ↓、彼氏が困ってたら助ける派だもん。
キープでも助けてやんよ。」
「そっかー、素晴らしいニャ。
恩師冥利に尽きるニャ。
ちにみに、奈々ちゃんは水に落ちた犬を叩く派だにゃ。」
「うおお、コメント流れ過ぎて読めねーーw」
「ふわっちで同接3000オーバーは…
素直に凄いニャ。」
「いや、奈々の合いの手ありきだよ?
1人だったら絶対メンヘラ配信になってた。」
「それにしても
彼氏91人誕生しちゃったニャ。」
「ファンティアにもかなりメッセージ来てるわ。
チ●凸は殆どないかな。」
「奈々ちゃん昔から●ン凸多いニャ。」
「奈々は可愛いからだよ。」
「ちなみに人生初チン●は尊敬してた塾の先生からだニャ。」
「あー、それ地味にキツイな。」
「派手にキツイにゃ。
あれで奈々ちゃんの人生哲学・男性観が決まってしまったニャ。」
「奈々推しのみんな。
今の聞いたな?
奈々にチ〇凸はするなよー。
いや、ウ↑チ↓にもヤメロww」
「コメント欄のオチ〇ポ騎士団の諸君。
紳士的なコメントありがとニャ。
でも、多すぎて物理的に読めないニャ。」
「じゃあ、そういう訳で
人生何周分かの彼氏が出来ました、イエイ!」
「恩師的には大反対だニャ、イエイ!」
「今日はコメント読めなくてゴメンねー。
ふわっち始めたての頃から比べると夢みたいッス。」
「みんニャー、いつもありがとー♪
奈々ちゃんの養分として喜んでくたばれニャー♥」
「はい。
名残惜しいですが時間となりました。」
「えー、今来たばっかりーww」
「この配信は相模の獅子ことルナルナ@貫通済と!」
「授業料きっちり取り立てる系恩師の奈々ちゃんが!」
「「お送りいたしましたーーー♪」」
「それじゃあみんニャ♪」
「「まったねー♥」」
【この配信は終了しました】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜は皆との通話タイム。
浜松西署の遠藤巡査が子供食堂絡みで発生した事件例を色々教えてくれる。
多いパターンは《未成年者に飲酒・喫煙をさせて逮捕》というもの。
恐らく、悪意で勧めた訳ではないのだろう。
それは何となくわかる。
だが通報があれば、警察は動かなければならない。
単なる通過儀礼だと知っていても、動かなくてはならないのだ。
他にも、強制わいせつ。
俺が想像している以上にロリコン・ショタコンは多いそうだ。
「遠市君。
歌舞伎町で食堂開きたいならねえ。
裏で毎日通報されてるくらいの気持ちで居てね。
特に未成年者関連は、一発逮捕だから。
わかるよね?」
『はい。
ただ、メシを食わせたい対象が未成年者な訳じゃないですか?
アイツら勝手に飲酒・喫煙してる訳じゃないですか?』
「だから。
ああいう歓楽街でのボランティアは難しいんだよ。
全てがセンシティブだから。」
『ですよね。』
「僕、遠市君には賛成。
ただハードルが高いことも理解してるから
君が落とし穴に落ちないように、可能な限り気配りするよ。」
『すみません。
遠藤さんには何から何まで助けて貰って。』
「それは言いっこなしでしょ。
僕はそんなこと、思いつきもしなかったからさ。」
遠藤が送ってくれた資料を寺之庄が印刷してくれたので、皆で読み込んで共有。
特に逮捕事例は頭に叩き込んでおく。
その後、通話したjetにも共有。
「なあリン。
ネンカク、本来はするべきなんだと思う。」
『だよな。』
「勝手に酒を飲む奴とか居るからなぁ。」
『持ち込み厳禁ってどうかな?』
「だな、それしかない。
あ、今日は鰻丼祭りやってみたぜ。」
『どうだった?』
「礼も言えない奴は多いな。」
『ああ、やっぱりそうか。』
「ちゃんと受け答えが出来て、礼も含めて挨拶をきちっと出来る子は…
普通に働き口が見つかるよ。」
『だよな。』
「逆に受け答えできない奴は…
それも女でそういう奴は…
立ちんぼですら上手く行ってない。」
『まあ、あれもレッドオーシャンビジネスだからな。』
「そう。
自分が同業者と比較されてるって事すら理解していない。
だから、結構酷い目に遭ってる子も多い。」
通話していると、jetの後ろから13歳が顔を出して来る。
「やっほー///」
『よう、久しぶり。』
「リン、有名になっちゃったね…」
『鷹見の話?』
「(コクン)。」
『アイツにも困ったものでな。』
「ねえ、アレと別れたらでいいから…
私と付き合おうよ。」
『ウチ、厳しいから母親チェックあるけど。
大丈夫?』
「…自信ない。
怖い人?」
『…俺は怖い。
鷹見は上手く懐に入った。』
「結局、女も強くなきゃだよね。」
『いや、女の子がそんな苦労しなくて済むように頑張るのも男の仕事なんだろうけどさ。』
「頑張れそう?」
『うーーーん。
俺、そっち方面に頑張る才能ないかもw』
13歳が口元を押さえてくすくす笑った。
この子も鰻丼を食べたらしく、子供食堂のコンセプトを気に入っていた。
「私も手伝えることない?」
『日本では13歳の子が働くの、違法だからねぇ。』
「異世界では違ったの?」
『12で軍隊の指揮を執ってる子はいたな。』
「格好いい。」
『痛々しいだけだよ。
きっと男が泣く泣く徴兵に応じるのって
女の子にそんな馬鹿馬鹿しい事をさせない為なんだろうなって思ってる。』
「でも、私だってリンの役に立ちたいよ。」
『わかった。
今度、通話の時に母親を紹介する。
一度、話してみろ。』
「わかったー。
嫌だけどわかったーww」
『まあな。
普通は嫌だよなw』
13歳は俺との通話を続けたがったが、俺は明日に備えて眠らなければならなかった。
『仕事なんだよ。』
「うそ。 女の人でしょー。」
と疑うので、安宅との2人部屋を見せて納得させた。
部屋で安宅と手短にカネの打ち合わせをしてから寝た。
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 7
《HP》 弱い
《MP》 強い
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 859
本日取得 120
本日利息 56
次のレベルまでの必要経験値411
※レベル8到達まで合計1270ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利7%
下2桁切り上げ
【所持金】
1億3725万2247円
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
〇 「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
〇 「子ども食堂を起ち上げる。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
×松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
× 「ポン酢で寿司を喰いに行く。」