【降臨25日目】 所持金6937万0600円 「を殺したのは…」
不本意にも女性キャラが増えて来たので、他のメンバーへのケアを改めて真剣に考える。
特に恩師(笑)が露骨に性的な言動を繰り返す上に、カネに対して恥も外聞もなく媚びるタイプなのが問題だ。
(要は俺に性的に媚びる事を意味しているので。)
一匹のオスがメスを独占する集団には発展性がない。
猿山がそうであるように、全てのリソースがメスの争奪戦に割かれるからである。
俺は猿山なんぞが欲しい訳ではないが、目的達成の為にせめて取り巻く猿を納得させなくてはならない。
統治とは納得だからだ。
俺が仲間に早急に女をあてがわなくてはならない理由である。
これを怠って破滅した男を見ているからこそ、強い危機感を持っている。
異世界の裏ボス。
超資本家のピーター・ピット会長はその財力に任せて、最優秀のスタッフを大量に雇用していた。
だが、俺のカネ配りによって執事長も含む全てのスタッフに逐電されて破滅してしまった。
俺の印象に強く残っているのは、会長と元ボディガードであるアッチソン氏の決別場面である。
「何が不満なのだ?」
と詰問する会長に対して氏は
「他人のハーレムを見せつけられるのは辛い」
と回答した。
今、思えば当然の話である。
世界最高のボディガードであるアッチソン氏は言うまでもなくオスとしても卓越したスペックを備えており、彼がその気になればセックスの相手など幾らでも確保出来たはずだったのだ。
だが、会長専属の護衛として多忙なスケジュールをこなす彼にそんな暇は無かった。
ハイスペにも関わらず彼は独身だった。
そんな彼の業務内容は老齢の会長の閨をも護衛する事だった。
不満が蓄積されない訳がない。
しかも、アッチソン氏は長身でスポーツ万能であったが、ピット会長は矮躯の老人だった。
この生物としての不均衡。
そもそもが危険を孕んでいたのだ。
俺は同じ轍を踏んではならない。
低スペの俺が、ハイスペの彼らに何の配慮もせずに女と戯れていれば?
ヘイトが溜まらない訳が無いのだ。
なので。
彼ら全員にセックスの相手を確保するまで、女には触れないと決めている。
誤解すら危険なので、ヒルダのテントには足を踏み入れない。
鷹見や恩師もこちらのテントに踏み込ませない。
(これに関しては平原猛人という番犬が非常に有効に作用してくれている。)
そもそも、分配を公約にしている俺が女を独占しているかのような印象を世間に与えてしまうと、今後の政治活動に大きな支障を来してしまうのだ。
さて。
これらを踏まえた上で、改めてメンバーの下半身事情を思い返す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【寺之庄煕規】
育ちが良い長身イケメン。
(ちなみに彼の実家の福井県にはJR寺之庄駅なる鉄道駅が存在する。)
インスタアカウントのフォロワーが膨大。
明らかに寺之庄狙いの女がDMを送って来ている。
どう考えても女には困らないポジション。
単にモテるだけではなく、同性の友人も多い。
美人の婚約者が居るのだが、弓長が寝取る気満々で迫っている。
彼に対してはこれ以上女を勧める気はない。
寧ろ、警戒すべきは弓長に過度に肩入れして関係者から恨みを買う事。
【弓長真姫】
寺之庄を虎視眈々と狙うパチンコ屋の娘さん。
そもそも寺之庄とは家柄が釣り合ってないし、婚約者持ちの男に迫るのは道義的に賛同出来ない。
ただ、俺に対する初期からの出資者でもあり、無下にするのも難しい。
俺の目を盗んでヒルダと密談している気配がある。
【飯田清麿】
のんびりリア充。
バスケットボールの世界では有名人らしく学生時代から普通にモテて来た。
(なので女にガツガツしていない。)
彼の恋人の関羽がヒルダの腹心の座に収まっているので聖域。
ヒルダからも執拗に《飯田に他の女を近づけるな》と念を押されている。
関羽を怒らせてヒルダに讒言でもされると大変なので、飯田には早々に籍を入れて貰う。
【安宅一冬】
東大中退。
当初は財務官僚を目指していたが、在学中にハイレバトレードで官僚俸給の一生分以上を稼いでしまい心が折れてしまう。
以降、志を貫徹出来なかった挫折感に苦しみながら生きてきた
二十代の頃はメディア露出も多かった上に、今でも投資雑誌に連載コラムを持っているので有名人の部類に入る。
ヒルズ族に可愛がられていたので夜の遊びは経験豊富だが、性を売り物にするような女が大嫌いであると最近自覚し始めている。
俺に対しても《素敵な伴侶を見つけたい》とストレートに訴えている。
言うまでもなく最大出資者なので、俺も全力でこの男をケアせねばならない。
【江本昴流】
甲子園の花にしてなんJのアイドル。
左構えから繰り出される上中下ランダム投法は野球漫画界に多大な影響を与えたと聞く。
万能チートの上、設定盛り盛り。
後付で面白エピソードが無限に発掘される。
ハイスペ過ぎてスキル無しでも異世界冒険を勝ち抜けるタイプの男。
理想は高く、スタイル良い枠のプリキュアが好み。
東横で会った佐々木なる少女と親密なのだが、彼女が16歳である事が不安材料。
長幼の序に非常に厳格なので、後藤より先に女を作らせようとすると怒る。
【後藤響】
U-15野球日本代表優勝投手。
春夏合わせて甲子園大会4度出場。
高3の春に肩を壊すまでは世代ナンバー1投手として内外の注目を集めていた。
俺を除けば同学年の中では断トツの有名人。
単に身体能力が突出しているのみならず、知力・コミュ力も卓越している。
ゴルフボールを投擲して野生動物を絶命させる技術を身に着けてからは、ハイペースでレベリングを行っている。
《カノジョが欲しい》とは広言しているが、冗談抜きに釣り合う異性が存在しない。
江本の顔を立てる為にも早急に女をあてがわなければならないのだが、相応のレベルでないと江本の逆鱗に触れる。
一見、極めて温厚に見えるのだが、実は内面が非常に複雑なので扱いが難しい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大切な事は。
コアメンバーが五者五様に俺など足元にも及ばぬハイスペックであり、最低限の生存には困らない身分であるということ。
彼らにとって俺は必要不可欠ではない。
もしも俺との関係が険悪になったら、さっと離れてしまうだろう。
故に、彼らに女をあてがう事はレベリングや元本蓄積よりも優先度が高い。
無論、《あてがう》などという失礼な物言いは口が裂けてもしてはならない。
飯田・寺之庄に対しては、このまま祝福ムードを醸し出し続ける。
安宅・後藤・江本に対しては、彼らが一刻も早くパートナーを獲得出来るように誘導する。
今朝は寺之庄のアップしたインスタの話題になった。
ただでさえ女性ファンの多いアカウントにイケメン新キャラの後藤画像がアップされ始めたことによって、問い合わせが急増しているのだ。
特にBBQの肉を焼いている後藤の画像。
非常に評判が良い。
男の俺でも精悍な魅力に思わず嘆息させられるほどだ。
惹かれる女子が多いのも当然だろう。
よし。
丁度、邪魔者も消えてくれるらしいし、話題を膨らませてみよう。
「ねえねえ、ダーリン様♥
ウ↑チ↓ら、極上うな重を喰いに行きたいッス♪」
「にゃんにゃんゴロニャン♥
うな重ウミャウミャ♪
恩師ちゃん、お小遣い欲しいにゃん♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5735万0000円
↓
5731万0000円
※乞食に2万円×2を贈与
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パサッ。
「え? くれるだけ?」
「頂きにゃんにゃん♪」
屑共が完全に視界から消えた事を確認してから本題に入る。
『流石は後藤さんですね。
ちょっと画像上がっただけで、もうこんなにファンが付きました。』
「ははは。
奇跡の一枚ですよ。
実物はこんなんです。」
…問題は、実物の方が画像より遥かにイケメンなことなんだよな。
画像では伝わり切らないオスとしての力強さよ。
このレベルの男に釣り合う女なんて見つかるのだろうか?
『コメントしてくれてる女性達。
凄い熱量ですね。
ほら。
《BBQイベントあったら私も行かせて下さい》
とか
《浜松の方なんですか? 私は名古屋の天白区です。》
とか。
完全に後藤さんに気がありますよ。』
「ははは。
SNS上の社交辞令ですよ。
ありがたく喜んでおきますが
流石に真に受けとったらアホでしょw」
これは謙遜ではない。
敬遠である。
数週間行動を共にして理解出来た事だが、後藤は極めてガードが固い。
態度に出さないだけで、彼は遊んでいる女が大嫌いときている。
(よって、SNSで突然接触してくるような軽率な女はそもそもが論外。)
更に後藤には江本という強固な外堀があり、悪い虫が近寄れないようになっている。
女が後藤と親密になるには、まずエモやんチェックに合格してから、後藤の審判を仰ぐ必要があるのだ。
ここまで鉄壁の防衛線を築いておいて「カノジョが出来ない」と愚痴るのはおかしい気もするのだが、だからこそ俺には真剣に取り組まねばならない。
『…後藤さん。
貴方とは同年齢ですけど。
女性論語っていいですか?』
「おお、トイチさんの女性論
ちょっと気になります!」
『まず。
後藤さんはアルファオスを超越したスターオスです。』
「す、スターオス?」
『言うまでもなく《アルファオス》とは群れの中で一番のオスです。
前提として後藤さんはアルファです。
ねえ、エモやんさんもそう思うでしょ?』
「はい! ダントツアルファです!」
「コイツは昔から何でも褒めて来るんで、話半分に聞いとって下さい。」
『メディアの発達によって
女性が生活圏の外の男性を気軽に閲覧できるようになりました。
TVで男性アイドルを観たり、最近では動画配信もですね。
そういう生活圏の外も含めた女性の視界の中で1番のオス。
これがスターオスです。
後藤さん、貴方のことです!』
「え、ええ。
いや、いきなり言われても。」
『そうですよね、エモやんさん。』
「言語化して下さってありがとうございます!
まさしく俺が長年に渡って響さんに訴え続けていたことです!」
「2人がかりで洗脳してくるの、やめてー。」
『後藤さんはスターなので、社会に対して露出さえすれば勝手に女が寄って来ます。
つまり、ファン・追っ掛けと言われる人種です!』
「えー?
いや、えー?」
『当然、スターたる貴方には
その中で気に入った者を食い散らかす権利があります。』
「あ、いや。
食い散らかすって…
俺はそういうのは、ちょっと。
相手の子が可哀想じゃないですか。」
『手を付けないのはもっと可哀想です。
後藤さん、電車賃もタダではないんですよ?
今まで貴方を追いかけて来た女性達、みんな自腹ですよね?』
「ああ、確かに。」
『英雄色を好むという格言がありますが、アレは間違ってます。
英雄には好む色を鮮明にする義務があるんです。
擦り寄って来る女に余計なリソースを割かせない配慮として。』
「お、おう。」
『貴方は英雄です。』
「え、いや。」
『なので!
求める対象について発信する義務があります!』
「え!?
ぎ、義務?」
『はい。
例えば、仮に貴方が貧乳派であるにも関わらず
その事を秘めていた場合。
巨乳のファンが無駄な時間を貴方に割いてしまう可能性があります。』
「え、あ。」
『後藤さん。
貴方、女の属性でこれだけは生理的に駄目だってありますか?』
「いやそんな。
急に言われても。
あー、でもケバい女が嫌いですね。
ブランド物で固めたり、整形したり。
実家が質朴な職人家庭というのもあって
俺はそういう女が生理的に駄目なんですよ。」
『それです!
そういう好みをオブラートに包んで発信し続けると
フィルタリングされた女が向こうから勝手に来ます!』
「ええー?
いや、そんな…
そんなモンなんですかね?」
『後藤さんに限ってはそうなんです。
結論から言えば、αを超越したスターである貴方が女を探しに行く必要はありません!
寧ろ貴方は《抱いてやる側》なのですから、条件を提示するだけでいいんです。
当然、電車賃は向こう負担で!』
「え、いや、突然過ぎて。」
後藤が戸惑っていると、江本が突然拍手を始める。
真顔で落涙しながら拍手されると正直怖い。
「トイチさん。
よくぞ言って下さりました!
貴方について来て良かった!!!
一生ついて行きます!」
『あ、どうも。』
「江本… 取り敢えず涙を拭いてくれ。
いや、ちょっと距離近すぎやろ。
詰めんな! 詰めんな! オマエ怖いねん。
泣きながら距離詰め寄られるのはホンマ怖い。」
「グスッ… 失礼しました。
トイチさん!!」
『あ、はい。』
「貴方こそが天下を獲るお方ですよ!!!」
『…天下は治めるものであって、獲るものではないのですけどね。
その場合でも社会全体に適切な対価を支払うつもりなので安心して下さい。』
「おお!! この余裕感!!!」
我が国の国家予算が確か100兆チョイだった筈。
俺が国政を壟断せざるを得ない状況になれば、当然毎年支払ってやるつもりでは居る。
『話が脇道に逸れましたが、後藤さんの女性問題はそういうことです。』
「いや、俺のシモなんかより
脇道の方に注力して欲しいんですが、それは…」
『エモやんさん。
改めてですが!
以上を踏まえた上で!
後藤さんに相応しい女性…
いや対等に釣り合う相手なんて当然存在しないのですが。
エモやんさんが合格点をあげれる女性は居ますか?
貴方が候補者を連れて来ないなら、不特定多数が分母になってしまいますよ!?
そろそろ決めて下さい!』
「…そのお言葉を待っておりました。
はい!
責任を持って決めます!」
「え? 俺には選択権ないんですか?」
『貴方なんかより、江本さんの方がよっぽど後藤さんの事を考えてます。』
「ます!」
『そもそも後藤さん、あんまり欲がないでしょ?』
「いやあ、たまに指摘されるんですけど
自分にも欲はあると思うんですけどねえ。」
『駄目ですね。
表情に欲がない。』
「球界のキチガイ指導者並の言い掛かり感よ。」
『エモやんさん!
後藤さんのこれまでの人生の中で
ベストヒロインは誰ですか!』
「…よくぞ聞いて下さりました。
実は響さんの実家の工務店の向かいに定食屋があるんです。」
「おい! 江本!!
ちょ! その話はヤメロ!!
マジでええ加減にせえよ!!」
「やめませーーーん!!
そこの娘さんが響さんの1学年上で…
山岸美里さんと仰るのですが…
最も人間的な相性が良いです。」
「江本おー!?」
「解説します。
まず御両親同士が商店街の役員同士で仲が良い。
また美里さんのお父様が陸上400メートルで国体に出場した経験もあり
アスリートに対して理解があります。」
「あ、そうなん?
あのオッサン陸上やってたん?
俺、初耳やねんけど!」
「血液型B型の響さんとO型の美里さん。
共にアクション洋画趣味。
相性は良いと思います。」
「え? ゴメン。
オマエ、何で俺らの個人情報把握してるの?
やめてな? ホンマやめてな?」
「響さんも憎からず思っているんですよ。
ホワイトデーの時に
美里さんにだけ別枠のお返しをしてましたから。
一点危惧しているのは…
美里さんの音楽の趣味がロキノン系であることくらいですかね。
まあ、これは互いの妥協で十分調整可能でしょう。」
「怖い怖い怖い。
江本、オマエどこでその情報仕入れたん?
それどこ情報なん?
っていうかホワイトデーの話とか何で知っとるの?
あれは俺の中で極秘ミッションやってんで?
後、ロキノンは我慢する。」
『なるほど。
あの、ここに山岸さんを呼んで貰って全然OKですよ。
歓迎します。』
「…申し訳ありません。
独断なのですが、美里さんとは既に下交渉を終えておりまして
いつでも浜名湖に来れる態勢です。
無論、山岸家の承認を得ております。
お父様の耕一郎社長、お母様の芳江さん。
御両名共に、響さんを絶賛しております。」
「江本ー。
オマエなー。
っていうか、美里姉の連絡先なんて俺かて知らへんねんぞ?」
エモやんが凄く綺麗な土下座をする。
…美しい。
土下座こそが日本の美なのではないか、とさえ錯覚させられる。
「響さん! 皆さん!
誠に申し訳ありませんでした!」
「オマエの土下座芸、もう見飽きたわ。
トイチさん、コイツ昔からこんな感じなんですよ。
キョンの時だけやないんです。」
『まあまあ。
エモやんさんも後藤さんを思ってのことですので。』
「誠に申し訳御座いません!!」
「で?
江本は俺と美里姉をくっつけたいんか?
あの人、俺にそんな感情を持ってへんと思うけどな?」
「御言葉ですが!
響さんからの好意に感激しない女性がこの世におりましょうか?
いや、いない!
しかも山岸家のガッチリした体格は!
後藤響MarkⅡを出産し得る可能性が高いです!
俺はリトル入団から、響さんだけを見つめ続けてきました!!
響さんのことなら響さん以上に知ってます!」
「…男に言われると怖いからやめてな?」
『じゃあ、後藤さん。
その山岸一家を招待しても宜しいでしょうか?』
「あ、響さんトイチさん。
念の為、後藤家にも根回ししております!
皆様も賛同して下さりました。」
「え!?
オトン達も来るんか!?
…オマエ、周到過ぎる根回しホンマにやめろや。
下の学年の子らがビビり倒してたで?
トイチさん、俺…
コイツより年下やったら、絶対に野球挫折してたと思います。」
俺の想定とは随分異なるが、エモやんに任せた瞬間に解決は決定していたのだ。
この男は余程周到なのか、後藤一家・山岸一家に対しても、俺の印象操作を行っていた。
「トイチさん。
誠に申し訳ありませんが!
貴方は、歌舞伎町で恵まれない家出少年少女の保護をしていた事になってます!
いや、俺がしました!」
『…いや、保護なんてしてませんし。』
「いえ!
この画像を御覧下さい!」
エモやんの突き出してきたスマホには、いつぞやチャンポン麺を皆に振舞った場面が映っていた。
13歳、茨城、ついて来た中学生カップル…
みんな年齢相応の無邪気な表情で笑っている。
『ああ、皆でチャンポン喰いましたね。
懐かしいな。』
「トイチさん!
貴方は身寄りのない子供を救済する聖人なのです!」
『あれは一日だけですよ?』
「どうせこれから皆をお救いになるつもりなんでしょ!?」
『まあ、その為に地球に還って来ましたから。』
「じゃあ、これは嘘やないんです!
だから、この画像を使ったプロパガンダに関しては謝りませんからね!」
…コイツ凄えな。
こんな最強兵器を紹介してくれた後藤には感謝しかない。
苦笑している後藤に一礼。
この男は弱ったフリをしつつも、瞳の奥には不敵な光が輝いていた。
自分が掌の上で踊らされてるだけに過ぎない事を改めて思い知らされる。
怪物めw
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
後藤と江本がテントの割直しを始めたので、機嫌良さげに話を聞いていた安宅に声を掛ける。
『御安心下さい。
私にとって安宅さんこそが本命ですから。』
「え!?
ほ、本命とは。」
『女性談義ですよ。
次は安宅さんの番ですよぉw』
「ええ、もーーww
トイチ先生は上手いんだからww」
『後藤さんみたいにメンタルと家業が安定した方は幼馴染系が合うと思うんです。』
「ええ、彼はご実家が商売をやっているみたいだから
同じ商店街っていうのはいいですよね。」
『翻って安宅さんは如何でしょうか?』
「あー駄目駄目。
私は典型的なガリ勉でしたから。
女性とは縁がないですねえ。
初めて女性と本格的に口を利いたのは…
投資で当ててからですね。
私自身がそうだったので仕方ないのですが
その頃の女性は口を開けばカネカネカネ。
思い出してうんざりします。」
『では、昔の女路線ではなく
狙うのは、これから新規出会いですね。』
「あの、結構トイチ先生って親身になってくれるんですね。
嬉しい反面、こちらの私事なんかにリソースを注いで下さって恐縮しております。」
『私は陰キャなんで、こういう男同士の恋愛話に憧れてたんです。』
安宅は照れたように笑って納得してくれる。
『結論から言うと。
安宅さんが満足の行く女性に巡り合うのは、そんなに難しくないと思います。』
「え? そうですか?」
『今、寺之庄さんのインスタの注目度が高まってるじゃないですか?
そこに安宅さんが一緒に映るだけでいいと思いますよ。
ああやって100も1000もハートマークが付くって凄い事なんでしょ?』
「ええ、ですが。
アレは若くてハンサムな寺之庄君と後藤君に人気が集まっているだけで。
私は年も年ですし、顔だって自信がありません。
一緒に映るのは怖いんですよ。
比較されるのが恥ずかしいと言いましょうか。」
『…実はイケメン腰巾着の法則というのがありまして。』
「イケメン腰巾着!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
異世界七不思議の1つに、ポールソンハーレムというものがある。
ポール・ポールソンは話せば深みのある男であり、周囲の語る所によると多くの偉業を成し遂げた男なのだが…
見た目は猫背で薄汚く、冴えない子供部屋おじさんに過ぎない。
そんなオッサンがハーレムを築いているのが不思議で仕方なかったので、2人きりの時に率直に尋ねた事がある。
『ねえ、ポールさん。』
「んーー?」
『ポールさんって薄汚い中年ニートの分際で、どうしてハーレム作れたんですか?』
「ちょ! リン君、言い過ぎィ!」
『あ、すみません。
率直に謎だったので。
異世界のスキルだのモンスターだのは
故郷の絵巻物で履修済だから、そこまでの驚きは無かったんですけど。
ポールさんみたいなオッサンに女性が群がってるのが不思議で不思議で。
何か卑怯なスキルとか、違法な薬物とか使ったのかな?って。』
「失敬な!
俺の魅力だよお。
リン君も、もう少し人生経験を積めば
俺のグゥレイトな魅力が理解出来る日が来る!
筈!」
『ははは。』
「あー! 流しやがった!」
『例えば、ドナルドさんなんかは長身美形な訳じゃないですか?
しかもあの人、学生時代にフェンシングの大会で優勝してる訳でしょ?
さぞかしモテたと思うんです。
現に今でも女性人気凄いですしね。
あの人がハーレム作るのなら納得出来るんです。
だって一番カッコいいんだから。
…でも、ポールさんはねえ。』
「か、顔の話はお互い様だるぉお!?
き、聞いたよ!
地球じゃ《ルッキズム反対運動》っていうのが盛んなんだろ?
リン君も故郷の美風をちゃんと受け継がなきゃ!」
『ルッキズムねえ。
そりゃあ俺もこの顔でこの身長だから、言いたい事は山ほどありますよ。
だからこそね?
陰キャ仲間のポールさんがモテてる謎を解明しておきたいんです。
どうせ暗い学生時代を過ごして来たんでしょ?』
「ぐぬぬ。
勝手に仲間扱いしおってからに。
…そりゃあ、俺は。
モンスター模型オタクとして、クラスの女子全員からキモがられてたさ。
当然、スクールカーストは一番下。
ああ!!!
思い出して、発作がぁ!!!
あぎゃああああ!!!!」
『ポールさん!
落ちついて!
ほら! エナドリです!!
勝手に口に流し込みますよ!!』
「うぎゃあああああああ!!!
ゴクゴク。
ぷはあ。
じゃあ、そんな底辺野郎の俺がどうしてハーレムを作ってるか説明するね?」
『はい、是非!』
「俺は…
洒落にならないモテ方をしていたドナルド・キーンの取り巻きだった。
まあ、取り巻きっていうか庇護枠だね。
向こうの方が先輩だったし、そもそもキーン不動産がウチの家業の元請けだったし。」
『やっぱり、ドナルドさんモテてたんですか?』
「そりゃあ、モテるなんて生易しいものじゃないよ。
フェンシングの試合が近づくと、地方州からも女性ファンが押し寄せて
アイツの掲載されたポスターは熱心なファンが剥がしとってたからね。」
『おお!
あの人、謙遜してたけど
やっぱり凄い人だったんだ!!』
「まあ学園のヒーローだよね。
俺なんかと違って先生方からの信望も篤かったからね。
説教でさあ、職員室に呼び出される度に教師全員が俺を囲んで言うんだよ。
《幼稚な模型遊びをしている暇があったら、キーン生徒会長の仕事を手伝いなさい》
ってね。」
『うんうん。』
「笑顔で頷かないで、傷付くから!
言っておくけど俺ってナイーブだからね!?
まあ、そんな訳で当時の俺はドナルド・キーンの背景素材だったね。
あれほどの人気者になると学生時代の水晶画像なんかも結構残ってるんだけど
結構、俺も映ってるんだ。
フェンシングの道具を運ばされたり、エルデフリダ係をやらされたり。」
『エルデフリダ係?』
「いや、ドナルドの恋人がエルだったから。
俺は公式の場面で、エルのドレスの裾を持つ係だった。
それでダンスパーティーとかで、ドナルドがエルと踊る時は楽団にダンスナンバーのリクエストをしたり、踊る前にフロアを掃除させられたり。
俺、マジであのカップルのパシリだったから。
はあ(達観溜息)。
まさしく暗黒の学生時代だわ。」
『ポールさんには気の毒ですけど。
まさかドナルドさん程のハイパーイケメンに掃除なんてさせられませんからね。』
「うん、同じことは当時も散々言われた。
家業が掃除屋の俺には言い易かったんだろうね。」
『ポールさんにそんな過去があったんですね。』
「意外でしょ?」
『ん?
意外… かなあ?』
「意外でしょ(涙)!」
『大人の癖に泣かないで下さいよぉ。
はいはい、意外意外w
ますます謎ですよ。
そんな人がハーレム?
言っちゃ悪いですけど、ハーレム作るような人って
ドナルドさんみたいに学生時代からモテてるんじゃないですか?』
「俺、屈辱的な学生時代を過ごしてたけど。
反面、目立っては居たんだ。
だってそうだよね?
学園のヒーローの取り巻きだったんだから。」
『まあ、ドナルドさんはどこへ行っても人目を惹くタイプでしょうし。
その背景素材なら目には付きますよね。』
「実はこれがモテる奥義。」
『ええっ!?』
「当時の俺はわかってなかったんだけど。
各所に顔を出して知名度を稼ぐことで、社会で上位の有名人達と面識が出来た。
例えば一般の学生が校長とサシで話す機会なんて普通はない訳じゃない?
でも、ドナルドは大人全員のお気に入りだったから…
校長主催のお茶会とか懇親会に普通に呼んで貰えるんだよ。
ああいう所って普通はカップルで行くもんだからさ。
婚約者のエルも正装でお供するんだ。」
『あ!
正装のエルデフリダさんが動くと言うことは!!!』
「そう、ドレスの裾を持つ係の俺も駆り出される。
結果、教師陣との面識だけはドナルドの次にあったんだ、俺。」
『おおおお!!』
「勿論、それだけで評価はされないよ?
当時の俺、単なる発達障害の根暗オタクだから。
いや、ぶっちゃけ今もだけどさ。
でも、面識が出来たら向こうも自然にこっちを気にかけて来るのね?
それでソドム大学院の推薦をくれたり、アカデミーに所属してないと入れない図書館のゲストカードをくれたり。
認めたくはないけど。
ドナルドの取り巻きであることが、社会との接点であり、上流へのパスだったのね。
当時の俺は惨めな気持ちだったけど。
周囲からは凄く羨ましがられたな。
《オマエばっかりキーン先輩に贔屓にされてズルい》
って面と向かって非難される事なんてしょっちゅうさ。
こっちの気も知らずに、ね。
それに加えて、エルは異常に権力持ってたからねえ。
俺はよくわからないんだけど、女社会って奴?
アイツの裾持ってるだけで帝国系の人脈は自然に増えたね。
俺の元嫁が帝国貴族なのも…
まあ、エルのお供でそういう集まりに出たからだし。
あの頃は色々あったんだけど、それが切っ掛けで俺の父親と元嫁の父親が面識持っちゃって…
はあ(追憶溜息)。」
『ぷぷぷっw
ポールさんが結婚してたっていうのが実感湧かないww』
「俺だって未だに実感ないよお!
言っとくけど、リン君は俺の同類だから!
君も絶対に普通の家庭は築けないからね!」
『ああ、呪いを掛けられてしまったww』
「まあ、そういう訳で。
俺は学生時代にかなりの人脈を獲得してたのよ。
大切な事はね?
それが超絶リア充のドナルド・キーン経由の人脈ってこと。」
『ふむ、この話の核心ですね。』
「同じコミュニティに入るとしてもね?
陰キャの紹介で入ると、最初から陰キャフォルダに分類されて、そういう扱いを受ける。
逆に陽キャの紹介で入ると、何故か陽キャフォルダに入れて貰えるんだ。
だからオタク陰キャの俺でも、ドナルド&エルのスクールカースト頂点カップル経由で入ったコミュニティでは準陽キャ扱いをされるんだ。」
『まさか!?』
「うん、その驚愕は理解出来る。
でも、世の中ってそういうものだから。
言っとくけど俺、オタク趣味は隠してないよ?
相変わらずモンスター模型趣味のカフェには入り浸っていたし、子供向けの冒険絵巻物も校内で読んでたから。
それでもね?
ドナルドカップルのパシリをしているってだけで、陽キャ達が俺を準陽キャ扱いしてくれるんだ。
ここ大事ね!?
奥義の核心部分よ!?」
『ええ、何か人間関係の核心が見えて来ました!』
「スクールカーストって
超絶陽キャ>陽キャ>パンピー>陰キャ
の順に並んでる訳じゃない?」
『はい、地球でも同様です!』
「超絶陽キャのパシリをしてると、陽キャ達が自分達に準ずるポジションとしてパンピー階級より上のものとして扱ってくれる。
いや、パシリなんて良いものじゃなくて、当時は《腰巾着野郎》とか言われてたけどね。」
『あ! 何か見えてみました!!
何かが見えるッ!!!』
「言っとくけど。
陽キャなんて総人口の上位1割位しかいないから。
社会の9割はパンピーよ?」
『つ、つまり陽キャに準仲間扱いされた時点で
社会の9割を構成するパンピー階級を越えてしまう訳ですね!!!』
「そーゆーこと。
勿論、学生時代はそこら辺を俯瞰も言語化も出来てなかったけどね。」
『…新鮮です!』
「皆が必死でキョロ充化する訳だよね。
まあ、俺は陰キャでありながら、パシリ補正で準陽キャ階級になった訳だ。
するとね?
自然に陽キャ御用達の店に出入りする習慣が身に着くんだよ。
クラブ遊びとか、ライブバーのステージに上がったり、アパレルブランドが経営しているコラボカフェとかね?
だってそうだよね?
ドナルド達陽キャは普段そこで遊んでるんだから。
3回に1回くらい呼び出されるんだよ。
でね?
俺がそういうイケてる店で陽キャに混じって遊んでる様子をさぁ。
女子達は見てないようで、こっそりチェックしてた。
ほら、女の子ってそういうスクールカーストとかに滅茶苦茶敏感じゃない?
だから素知らぬ顔で見てるんだよ、そういう所。
それで大学時代に準陽キャになってからは、女子達にイジメられなくなった。
それがモテの入り口なんだ。」
『モテの入り口!?』
「うん。
女の子にモテる為にはモテフォルダに入ってないと難しい。
要は《この人は交際に値するイケてる人》って認識されることだね。
実はそのフォルダに入る事がモテる入り口なんだ。
逆にフォルダに入ってない男は何をやってもモテない。
だって、そうでしょ?
女の子からしたら《そういう対象ではない》のだから。」
『な、なるほど。
そういうものなんですね。』
「で、モテフォルダに入るのはシンプル。
日頃リア充とつるんで、リア充が行くような店で飯食って、リア充が好むファッションをすること。
加えて一緒に居る事で、上位カーストとの面識・人脈も出来るしね。
喋り方とかも似て来るよ?
人間って身近な友人と挙動が近づく生き物だから。
自分に彼女が居なくても、陽キャカップルと同席することで、疑似女性経験も生まれるしね。
この習慣を若いうちから続けてると、彼らのモテオーラが自分に伝染する。」
『モテオーラ!?』
「いや、居るでしょ?
一目見ただけで
《ああ、コイツ女にモテるだろうな。》
って雰囲気というか風格。
周りにいない?」
『真っ先に思いつくのはカインさんですかねえ。
王都からずっと一緒だったんですけど、あの人は滅茶苦茶モテます。
一緒に飲みに行っても、ウェイトレスが恋する乙女の目で見てるんです。
俺が支払ってる最中でも、女共は全員カインさんを見つめてやがるんですよ。』
「ああ、グランツさんは典型的な王国美男だよね。
それに、この前冒険者番付見てたら普通にランクインしてたし。
あのダンディな見た目で腕まで立つんだから
そりゃあ、モテるよね。
地球でも彼はモテそう?」
『いやいや!
カインさん程の人が地球に行っちゃったら
女が全員彼に靡いちゃいますよ!』
「ははは。
彼ならさもありなんだね。
じゃあ、地球もこっちも
モテる男のタイプは同じだね?」
『ええ、長身で程よく筋肉質。
整った鼻筋。
如何にも喧嘩の強そうな勝気な顔つき。
そして漂う余裕感ですね、モテる奴の共通項は。』
「地球にもそういう子は居るんでしょ?
クラスごと転移して来たんだっけ?」
『俺と一緒に来た中じゃ平原かなあ。
ああ、そういうスポーツマンが居たんですけど。
いっつも女を侍らせてました。』
「じゃあ、答えは簡単。
グランツさんや、そのヒラハラ君。
後、癪だけどドナルド・キーン。
そういうモテ男達と一緒に遊んでるだけでいい。」
『平原死んじゃったんですよ。
俺が魔界にカネを出してなきゃ、死なずに済んだんですかね。
結構、トラウマです。』
「その家族でもいいよ。
モテる奴は大抵その父兄もモテるから。
で、そういうモテ族と遊んでるうちに、彼らと同じ生活様式が身に着く。
それがモテオーラ。
それを纏ってないとモテフォルダに入れて貰えない。」
『じゃあ、陽キャの真似をしろと?』
「真似は意味がない。
それはキョロ充。
逆に笑いものになりがち。
兎に角、一緒に居る事、同席すること。
実際に彼らと歓談し、好きになること。
ああ、好きになるのは簡単。
陽キャっていい奴が多いから、俺達みたいな陰キャはコロっと行くww」
『あははww
俗にいう陽キャコンプレックスですねww』
「俺はね?
そういう学生生活を送った所為で
初対面の女子からモテフォルダに入れられることが多くなった。
だってそうでしょ?
陽キャ経由の上位人脈と、疑似陽キャ生活形態なんだから。
惚れられなかったとしても、準惚れられ枠には入ってもおかしくないよね。
つまり、いざ何か女の子と接点が出来た時
不思議と向こうは恋愛も含んだ文脈で俺に接してくれる。
いや、こういうの言語化したのは今日が初めてだけどさ。
うん、振り返るとそうだったな。
これがモテる為の奥義。」
『陽キャと遊べ、ってことですね。』
「そういうこと。
君はもう実践してるんだぜ?」
『え!?
俺が… ですか?』
「前に言ってたじゃない?
王都に居た頃、オープンテラスでお茶して
コレットちゃんとVIPシートで休憩したって。」
『え、ああ。
あれは、たまたまカネに余裕が出来たから
背伸びして贅沢を楽しんでただけで。
それに、コレットの奴も後から勝手に来ただけですよ?』
「リン君も分かるだろ?
オープンテラスのVIPシートなんて超絶リア充の特等席だぜ?
そんな所でお茶してたら、間違いなくモテオーラが醸成されるし
女の子もそういう目で見る様になるんだって。」
『…ああ、言われてみれば
そうかも。』
「あのね?
陽キャの行きつけって、一種の記号なんだ。」
『き、記号ですか?』
「うん、記号。
世の中は全て記号。
ねえ、モンスター模型趣味ってモテると思う?」
『え?
いや、そんなにモテないんじゃないですか?』
「どうしてそう思うの?」
『あ、いや。
何か根暗そうだし。
そもそも、女子はああいうのキモがりそうですよ。』
「じゃあ、ゴンドラ船を貸し切った船内BBQは?」
『そっちはモテるでしょ。
誘ったら女は喜びそう!』
「そういうこと。
全ては記号。
モテる記号、モテない記号。
実は全部決まっている。
君がコレットちゃんに見せたオープンテラスはモテる記号。
彼女の心証は絶対にそれで上がった筈。
現に結婚してる訳だからね。」
『実は、その次の日にセックスしちゃって。
今思えばハメられたんですけど。
それで婿養子になっちゃって…』
「おお!
記号の賜物だね。
賭けてもいいけど、コレットちゃんが君を目撃したのがモンスター模型屋だったら
翌日セックスには至ってないよ?
多分、金蔓フォルダ行きだったと思う。」
『ふーーむ。
あの時は全然意識してませんでしたが。
店構えもリア充カップル向けの雰囲気全振りでしたしね。
何らかの補正が掛かったのかも知れません。』
「それが奥義ね。
雰囲気、記号、属性。
陽キャと過ごす事によるカースト飛び級。
陽キャ経由人脈。
その下地を作った上で女性と多く出逢うこと。
俺のハーレムを分析するとこんな所かな。」
『ほえええ。
俺は今、宇宙の真理を悟った。』
「これでリン君もハーレムマスターの仲間入りだ!」
『あ、いえ。
実践したら間違いなくコレットに殺されるので。』
「あの子は、やると言ったらやる子だよねえ。
どうする宇宙の真理?」
『困ってる人を助けるのに使います。』
「お!
名台詞ww
魔王様の所信表明に引用しようww」
『からかわないで下さいよおww』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「え? え? え?
それひょっとして異世界の話!?
今普通にスキルとかモンスターとかって!?」
『落ち着いて下さい、安宅さん。
異世界云々は今日の本題ではありません。
安心して下さい。
外じゃ絶対言いませんから。
他ならぬ貴方ですから、あくまでここだけの話。』
「つ、つまり、そのポールソンなる人物。
ギーク寄りのナードなのにハーレムを作ったと!?」
『大学院で博士号を取ってたので、まあ教養階級でしょう。
それで安宅さんが前に
《自分なんか偏差値以外に誇れるものがない》
って自嘲していた事を思い出して。
ポールソン戦略は、安宅さんとは親和性高いかな、と。』
「…いや、異世界の話が気になるというか。」
『それはノイズ。
今は女の話に専念しましょう。
女と違って異世界には穴がありません。』
「至言ですな。」
『もうポールソンの言葉をそのまま再現するだけでいいと思うんです。』
「つまり陽キャとの交際ですね。」
『これも既に実践してます。
清磨さんやヒロノリさんって完全に陽の人でしょ?』
「ええ、それは感じます。
飯田君なんてバスケ部のキャプテンでしょ?
陽オブ陽ですよね。」
『後はシンプルなんです。
安宅さんは彼らとのインスタを撮り続けて
それで御自身のアカウントやイベントに誘導して貰う。』
「え?
アカウントは兎も角、イベントですか?」
『これもポールソン理論なんですけど。
そのオッサン、陰キャの分際でBBQ大会を開いて
一気に人脈を獲得してるんです。
それまでやらかしまくって干されてたのに、BBQイベントで味方を増やした事で街に凱旋出来たそうです。
あくまで本人からの伝聞なのですが、周囲にもポールソンをBBQイベンターと認識している者が結構多かったそうです。
主催して売名した事は、多分本当だと思います。
重要なのは《主催》って肩書なんですよ。
要はコミュティのリーダーってことでしょ?』
「なるほど。
理に適ってますよね。
政治的逆転を果たせる規模のイベントを開く男には…
女性も惹かれると思います。」
『なんかねー。
国境の外の中立地帯で勝手に女とキャンプしてたみたいなんですよ。』
「え? 国境の外って…
そんなことして大丈夫なんですか?」
『いや、異世界の国際法では違法ではないのですけど。
モラル的にアウト寄りのグレーですね。』
「でしょうねえ。」
『でも、そこで一緒にキャンプした女子がですよ?
後にハーレムメンバーに加入してるんです。』
「おお!! マジですか!?
どんな子でした!?」
『冒険者登録するような活発女子コンビですね。
結構可愛かったです。』
「うおーー!
うおーー!
冒険者女子とか!
全男子の憧れじゃないですか!!」
『一緒に冒険者パーティーを組んでた時期もあったそうですよ。
だから、絆も相当のものだったのでしょう。』
「ああ…
憧れるなぁ、そういう生き方。
恰好いいです。
それこそ男の生き方ですよ。」
『ポールソンは都会育ちで、地方での冒険は大変だったようです。
まあ、それに関しては我々も同様ですよね。
今、メールでやり取りしている青森の毛内さんなんかはマジで熊と戦ってますしね。
兵庫の宇田川さんなんかも爆増したイノシシに頭を抱えているそうですし。』
「無論、私に地方で猟師になる才覚はありません。
でもBBQでの振舞なら、真似できそうです。」
『以前もお伝えした通り、肉振舞は実行します。
カネを直接撒くよりは平和的だと思いますので。
そのBBQで目立つポジションに付いて下されば
自ずと安宅さん好みの女性との接点が増えるでしょう。』
「そんなに簡単に行くでしょうか?」
『安宅さんって、御自身の顔を悪く仰られることが多いですよね?』
「毎日鏡を見てますからw」
『確かに今風の美形ではないと思います。
ただ、貴方は有能顔です。
なのでルックスに関しては、寧ろプラスですよ。』
「有能顔、ですか?」
『書いて字の通りですね。
仕事が出来る人間の顔です。』
「え、いや。」
『私の安宅さんに対する第一印象が
《明るく通る声色。
チームスポーツで本格的に揉まれた人間特有の発声。
表情、ちゃんと自己肯定感が備わっている。》
なんです。』
「あはは、ハズレですよ。
チームスポーツなんかやった事ないですもの。」
『そうなんですよ。
スポーツ未経験者にも関わらず、初対面の私にはスポーツマンに見えたんです。
きっと押しの強そうな雰囲気が、そう作用したんでしょうね。
それで、後から東大に現役合格された話を聞いて納得しました。
受験戦争に勝ち抜いた人なんだから、自己肯定感が漂っているのも自然だな、と。』
「褒め過ぎですよお。
恥ずかしいです。」
『安宅さんに覚えていて欲しいのは
私にそう見えたという事なんですよ。
後藤さんとか江本さんとか、ああいうアスリート組と同じフォルダに入りましたもの。』
「ええ!?
いやいやいや!」
『進学校ってハードなんでしょ?
夜遅くまで猛勉強するって聞いてますよ?
やっぱりそういう経験をされておられると、スポーツで揉まれたような顔つきになるんじゃないでしょうか。
それにずっと投資で生計を立てられておられた。
つまり、ずっと勝負をされていた事になります。
いい顔されてると思いますよ?』
「もーー、先生は人を乗せるのが上手いんだからぁw
…でも、何か気分が晴れました。
私、いい歳して何をウジウジしてたんだろうw
実はインスタのアカウントもあるんです。
カネカネ自慢の下らないアカウントw
今日からは、皆さんと一緒のBBQ風景をアップしてみます。
モテたいが為にここまでするって恥ずかしいですけどw」
『…恥ずかしくないですよ。』
「…。」
『恥ずかしくないです。』
「…。」
『皆で楽しみましょう?』
「はい!」
その後、安宅に対して即物的な相談も行う。
ポールソンのBBQイベントは結局は政治工作が目的であり、現に数名の有力者とプライベートでの密談をする機会を得た、と。
『私の肉配りも手段です。
政治的勝利を得る為の。』
正直に打ち明ける。
安宅は力強く俺の手を握り、ただ《お任せ下さい》と真摯に応えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
正午。
強い太陽が浜名湖を照らし、遠州灘が白く霞む頃。
鈴木のトラックが敷地内の端に入場。
僚車は2台。
計3つのイノシシ入り箱罠を届けてくれた。
鈴木組の周囲を俺達の車両で囲みブラインドを作る。
特に寺之庄の大きなキャンピングカーが意識して視界を塞ぐと、トラックが停まっていることすら分かりにくい。
『鈴木社長!
わざわざ、ありがとうございます!』
俺は大袈裟に頭を下げる。
一々捕獲現場まで移動するのはロスだ。
カネで解決するなら猟師チームに持って来てもらいたい。
「いえいえ!
遠市さんのお役に立てるのが嬉しいです!」
鈴木と固く抱擁して親愛を伝える。
この男だけは何としても繋ぎ止めたい。
殺した数こそが俺の力なのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5731万0000円
↓
5601万0000円
※鈴木翔グループに130万円を支払い
(日当10万円×3+イノシシ殺害歩合10万円×4+長距離走行手当20万円×3)
【推定経験値】
イノシシ4匹
40×4=160
《経験》 492
本日取得 160
本日利息 未取得
※次のレベルまでの必要経験値138
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
箱罠内の4匹に電流を流す。
スイッチを押すだけの冷酷な作業。
眼前の命。
それを消す為に使った電気代は幾らなんだろう。
今頃、ウクライナ戦争でドローンを操縦している連中も似たような感慨を抱いているのだろうか?
『こちらの都合で恐縮なのですが。
遠州方面に関しては全て鈴木さんのみを窓口にさせて下さい。
本日同様に、仲間の方は敷地外で待機していて欲しいのです。
報酬は鈴木さんに一括して支払います。
中抜きして下さって結構ですよ?』
「遠市さんは…
あまり中抜きとか好まれない性格ですよね?
なので、実際に渡した金額を報告させて下さい。
田舎でこの金額はパニックを引き起こしかねないので。
2人にはここ数日の日当として20万だけを渡させて下さい。
中抜きの意図はありません!
遠市さんが仰られるのなら余剰金を返却します。
私の取り分を減額して下さっても構いません!」
『いえ、幾ら渡すかは鈴木社長にお任せします。
かつその金額が適正であることと認識しております。
返却は不要ですし、減額の意思はありません。
無論、その使用用途の申告も不要です。』
鈴木も単なる猟師ではない。
夜の店を経営していた経験からか、ヘイト管理と信頼保全に熱心だ。
俺も極力相手に合わせる。
なるほど、確かに現金収入が少ない田舎で日に数十万のカネをいきなり投下すれば良くない混乱が起こるか…
俺は鈴木と適正価格について時間を掛けて話し合う。
当然、彼の主張を全て呑んだ。
拠点から動かずに4匹を殺せたのは大きい。
欲を言えば一日100匹は殺したいのだが。
「遠市さん。
箱罠の数にも限りがあるんです。
アホみたいに高いですし…
可能なら、もっと仕掛けたいんですけど。」
『え?
あんなモン、幾らくらいするんですか?』
「いや!
滅茶苦茶高いですって!
安いのでも5万。
ちゃんとした1号サイズになると15万を越えちゃうんです。
福山通運の営業所止めでも、1万以上送料が掛かっちゃますし。」
『…あの、差し出がましいとは思うのですが
寄付って可能ですか?』
「寄付!?」
『いや、私が代わりに罠具を購入するとでも言いましょうか…
要するに1500万あれば箱罠を100個増やせるってことですよね?
100個増えれば…
捕獲数は上がりますか?』
「いや、それは勿論。
それこそイノシシ・鹿が激減すると思います。」
『それって農業的にプラスなんですよね?』
「…プラスです!」
『鈴木社長の手柄にして貰って構いませんので
箱罠、寄付させてくれません?
実は大分の業者さんとメッセージで遣り取りしてるんです。
1回だけ通話したこともありますよ?』
「大分…
浦上工務店さん?」
『あ、やっぱり御存知なんですね。』
「ええ、この業界で彼は目立ってますし…
ツイッターも相互フォローしてたと思います。」
『彼の罠って実用性あります?
出来れば彼から買いたいんですけど?』
「いや、性能はいいですよ。
イヌイットの技術体系も部分的に取り入れてるみたいで
モデルチェンジにも積極的ですね。
マニュアル動画も全てyoutubeにアップされてるのも素晴らしいです。
ただ、一基20万からなので…
ちょっと手が出せてませんでしたね。」
『物はいいんですね?
捕獲能力は高いですか?』
「ええ、物はかなり良いです。」
浦上工務店に購入希望のメッセージを入れて、返信を待つ。
鈴木とは箱罠寄付時の運用について相談。
俺の散財っぷりが驚きを通り越して呆れられる。
カネで金利が買えるのだ。
誰だって買うに決まっている。
ついでに、福井の谷口・兵庫の宇田川の商品ページも見せて何か必要なものがないか質問。
『あ、いや。
語弊がありました。
《必要なものはありますか?》
ではなく
《買って邪魔にならない物を教えて下さい》
です。』
好意的な相手には早めにカネを落としておきたい。
俺は彼らに色々教わったが、まだ一円も支払っていなかったからである。
鈴木との協議で、宇田川の狩猟用ジムニー・谷口のアニマルセンサーを代理購入する事を決心する。
「これだけの装備があれば、かなり獣害が減ります。
断言しますが…
成果、目に見えて上がりますよ。
実家、みかんやってるんで。
それはよく分かります。」
…好意的な猟師のうち、この鈴木はやはり重要だ。
都内から新幹線で1時間30分の立地。
日帰りで纏まった経験値が買えるのは大きい。
何かあった時にすぐ都内に戻れるという手軽さは、不安も和らぐ。
「あの、遠市さんは肉は不要と仰られてたのですが
両親に叱責されましてw
《一番旨い肉を献上せんか!》
と久しぶりにぶっさらわれましたw」
『すみません!
私の所為でご迷惑を掛けたみたいで!』
「いやいや遠州人は乱暴なだけなんで。
ほら、森の石松とか。
気にしないで下さい。」
鈴木が大量のイノシシ肉をプレゼントしてくれる。
大型クーラーボックス8台分。
『おお!
これ全部肉ですか!?
凄いですね!』
「あ!
先に申し上げておきますが、お代は不要ですよ。
これ以上貰ったら、また親父に怒られちゃいますのでww
すぐ手が出るんですよ、私限定でw」
『あはは。
じゃあ、御言葉に甘えます。』
話しながら、ふと着想する。
『鈴木社長。
この肉って、何人分くらいですか?
BBQ換算で。』
「え?
いや、50人くらいなら…」
『…今から焼いたら、食べます?』
「いえいえ、私も年ですし
50人前は食べられませんよw」
『友達、50人くらい呼べます?』
「ふふっ、人望が試されますねw
まあ、声を掛けるくらいなら。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
以上の経緯があって、急遽BBQ大会を実験的に開くことになった。
ポールはかなり周到に準備したそうだが、俺はぶっつけ本番。
これでいい。
あの男と違って俺は定期開催を目論んでいるのだから。
BBQ慣れしている鈴木と寺之庄に率直にお願いする。
《安宅が主役のような写真を撮れるよう協力してくれないか》、と。
両名、笑顔での快諾。
加えて、秘かにBBQお兄さんとしての修業を積んでいた後藤が安宅のサポートに回る。
『ヒルダ。
今から、皆で肉を焼くんだけどさ。』
「はい、お任せください。」
『この前作ってくれた王国風のソースって作れる。』
「え?
アレは地球人の口には…」
『いや、俺が食いたいだけ。』
久し振りにヒルダが笑う。
肉は、いいな。
『なあ、地球の素材でオマエの口に合うソースってあるか?』
「実は醤油が苦手でして。」
『マジかー。
日本に居たら醤油から逃げられないだろう。
何かゴメンな。』
「ですが、ポン酢は好きですね。
ここだけの話、寿司屋に連れられた時もポン酢で食べさせて欲しいと思ってます。
無論、TPOは弁えておりますが。」
『故郷離れるって大変だよな。
今度、ポン酢で寿司を喰いに行こうぜ。』
それには答えず、ヒルダはただ笑顔を作り直しただけだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
無料BBQイベント。
皆からの提案を受けて、《チャリティBBQ》と銘打った。
無論、《主催 安宅一冬》と記載することも忘れない。
エモやんの提言で #子ども食堂 と付け加える。
『子供食堂…
ですか?
聞いた事はあるのですが、厳密な定義を知らなくて。』
「子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂です。
ほら、色々な家庭がありますから。」
『…そうですか
不勉強でした。
きっと子供扱いされるのが嫌で、故意に目を背けていたのでしょう。』
「佐々木も、似たような事を申しておりました。」
『ねえ、エモやんさん。
俺… 私が子供食堂開いても、いいですか?
勿論、自分が一番子供だとは自覚しております。』
「ええですよ。
怪しいNPOとかも入り込んでるので
どうせなら、俺はトイチさんにやって欲しいです。
貴方がどんな運営をするか興味ありますしね。」
『民業圧迫になるかもですよ?』
「それに言及した人を初めてみました。
ますます、期待してまうやないですか。」
皆から反対されたが、炭を運ぶ役をやらせて貰う。
そりゃあ足も完治してないし、平原猛人に砕かれた腕や鷹見夜色に刺された肩の痛みが消えた訳ではない。
でもさあ。
異世界じゃ、その程度の負傷で立ち止まってる奴なんて見なかった。
ダグラスチームの中には顔に矢が刺さったまま俺を庇い続けてくれた者も居た。
コレット親衛隊の戦没者遺骸の中には腕が千切れたままで戦い続けた形跡のある個体すらあった。
俺は、命とはそうあるべきだと思うし、非力ながらも彼らの側に立ちたい。
だから、あまり怪我人扱いしないでくれると嬉しい。
「じゃあ、撮りますよー。
安宅さん、もっと笑顔笑顔w」
「いやあ、緊張しますよぉw」
万事器用で遊び慣れている飯田が撮影係を志願。
流石にアチコチ旅行に行ってるだけあって、お洒落アングルを撮り慣れている。
「リン君もいちまーい♪」
『清磨さん、奇襲はやめてーw』
皆で爆笑しながら肉を焼く。
鈴木の御両親と兄がやって来て、俺に挨拶。
《ウチの翔が御迷惑をお掛けしてませんか?》
と不安そうに尋ねて来たので、如何に彼に助けられてるかを皆で力説する。
どうやら、家庭内での地位はあまり良くないらしい。
14時くらいからだろうか
徐々に人が増えて来る。
主にSNS経由。
全くの他人が4組も来た。
うち1組はわざわざ豊橋から来たカップルだった。
改めて寺之庄の告知力に感心する。
鈴木の友人もパラパラと増える。
ブラジルパブ時代にボーイさんをしていたペドロなる中年男性が、シュラスコ的に焼かせて欲しいと頼んで来たので快諾。
ヒルダが即興で色々とそれっぽいソースを作り、ちょっとした味変。
本場風に岩塩で食べたりして、皆で盛り上がる。
また磐田在住の個人投資家も遊びに来てくれた。
安宅が主催ということで投資家オフ会と思ったらしい。
俺達は告知文の言葉足らずを陳謝し、彼のグラスにノンアルコールワインを注いだ。
「トイチさん。
今、通話お願い出来ますか?」
エモやんに声を掛けられる。
『ええ。
誰からですか?』
「鷹見です。」
『ああ。
何だろう?
はい、代わりました。』
「ダーリン様ぁ!!」
『鷹見か、何かあった?』
「酷いッスよお!!
ウ↑チ↓らと入れ違いにBBQイベントとか!
インスタ凄く楽しそうじゃないッスか!」
「そーだそーだ!
恩師を仲間外れにするなんて
トイチ君そーゆーとこだよ!
奈々ちゃん激おこなんだからね!
《公共》の成績1にしとくからね!」
『ああ、そのことか。
たまたまイノシシ肉を頂けたんですよ。
それでどうせなら皆で食べようという事になって。』
「ダーリン様の《皆》に
いつもウ↑チ↓が含まれていない件について!」
「奈々ちゃんってば恩師なんだじょーーー!!!
罰として《仰げば尊し》24時間連続歌唱の刑に処すニャン!」
『松村先生、それ実質的に死刑じゃないですか。
まあ、2人にも何か残しときますよ。
んじゃ、忙しいんで。』
「あ! ちょ!」
「にゃーーーーん!?」
プツっ。
『江本さん。
いつもありがとうございます。
そろそろ自前のスマホ用意しなきゃいけませんね。』
「いえ、俺はええんです。
ただトイチさんにもプライバシーは持って欲しいので。
…トイチさんって、そこら辺に鷹揚やから
見てて戸惑うんですよ。」
…まあ、俺は向こうで魔王やってたからな。
あの時はプライバシーもへったくれも無かった。
そもそも、鷹見の所為で俺に匿名性なんか残ってないしな。
「あ、そろそろ17時も近いですね。
トイチさんはお車に。
打ち合わせ通り飯田さんは既に車内に向かわれました。」
『本当だ。
やっぱりイベントある日は時間の流れ早いですね。』
「次からは如何に17時を避けるかを工夫しましょう。
15時終わりのランチイベにするか
19時スタートのディナーイベにするとかですね。」
『ですね。
慌ただしいのって不安です。』
俺は関羽と共にキャンピングカーに戻る。
飯田が全ての準備を整えてくれていた。
「リン君。
今日も金額は2億5000万。
暗算が楽で助かるw」
『わかりますw
俺も端数の計算とかパニックになっちゃう人なので。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
5601万0000円
↓
3億0601万0000円
※出資金2億5000万円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キャンピングカーの周囲に仕掛けたトレイルカメラは関羽が監視している。
今のところ、周囲に気配はなしとのこと。
「いえ、男性が一名。
20代から30代ですね。
キョロキョロしています。」
『森さん。
この人って…
何か見覚えが…』
「…失礼しました。
昨日の遠藤恭平巡査ですね。
BBQ会場に向かってます。」
『ああ。
確かに。
私服だったから分からなかった。
森さん、ヒルダに電話して会場で歓待させて下さい。
俺がじきに戻る旨も伝えて欲しいです。』
「了解。」
よし。
異世界の時よりも、状況をコントロール出来ているな。
向こうではいきなり局長クラスと接点を作ってしまった。
理解不足のまま、官僚機構そのものと対峙させられる羽目になった。
はっきりと失敗だったと思っている。
地球であんな馬鹿なことを繰り返してはならない。
ちゃんと末端の官吏達と広くコミュニケーションを取った上で、段階を踏んで官僚機構との交渉機会を探らねばならない。
警察庁との接点は喉から手が出る位に欲しい。
なにせ最終的には彼らに一番多く予算を分配する算段なのだから。
だからこそ、古屋や水岡そして遠藤という兵卒階級との地道なコミュニケーションから現場事情・感情を知っておかなければならないのだ。
現場に1人の知己を確保しているか否か、これが官僚機構との交渉の成否を大きく分ける。
俺はもう前回のような失敗をしてはならない。
「リン君、1分前。」
『はい、集中します。』
飯田の声掛けはいつも良いタイミングなので助かる。
そうだ、今は目先の【複利】に集中しよう。
《1836万0600円の配当が支払われました。》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
3億0601万0000円
↓
3億2437万0600円
↓
3億1937万0600円
↓
6937万0600円
※配当1836万0600円を取得
※配当金500万円を出資者に支払い
※出資金2億5000万円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「凄いね。
おカネが出現する位置が凄く正確になって来た。」
『今度、ビンゴ板でも用意しておいて下さいw』
「おカネで遊ぶなしw」
2人で笑いながら手早くカネの整理をする。
お互いかなり札を数えるのが上達した。
「じゃ、リン君!
後はやっておくから!」
『ありがとうござます。
大至急、会場に戻ります!』
俺が会場に入ると、打ち合わせ通り寺之庄が車に戻って行く。
さりげなく見回すが、俺達のバトンタッチを訝しむ者は見当たらない。
「あ! 遠市君!」
『遠藤さん!
どもども、昨日はありがとうございました!』
「遠市君がフォローしておけって言ってくれた@terano991を見てたらさ。
急にBBQ通知が来たから、思わず寮を飛び出してきたんだよ。
結構、盛況だよね。」
『ええ、お陰様で。
あ、どうぞどうぞ。
肉もいっぱい食べて行って下さいね。』
皆を歓待しながら遠藤の話にも耳を傾ける。
どうやら職場を辞めたいらしい。
それを俺に相談する辺り、かなり嗅覚が優れている男だ。
『公務員は安定しているでしょ。』
「…安定なんて妥協だよ。
色々な犠牲とのトレードオフ。」
『警察、辞めちゃうんですか?』
「だって、今退職しておかないと
年齢的に潰しが効かなくなるだろ?」
これからも、こういう相談は増える。
そしてある段階から、相談は移籍売込や猟官に変質するのだ。
なので、俺は地球においての返答フォーマットを早めに作っておかなければならない。
今は現場の不平不満を聴取し続ける時期。
「結局、現代社会ってさあ。
遠市君みたいにバズってる子が一番強いんだよ。」
『プライバシー晒されてるだけですけどね。』
「いや、多分君も自覚してると思うけど
ファンは確実に増えてるよ。
君の切り抜き動画も作られてるし。」
『え!?
切り抜き?』
「ん? 知らなかった?
《ガルパン(遠) 切り抜き》
で検索したら…
ほら、君が喋ってる部分だけ出て来た。」
『え? え?』
「ああ、切り抜き動画ってのがあるんだよ。
投稿者以外が勝手にインフルエンサー発言の
面白い部分だけを切り出してアップロードする動画。
ほら、長い動画って見てて疲れるじゃない?
だから要点だけを纏めて欲しいんだよね。」
『な、なるほど。
でも、私はインフルエンサーではないですよ?』
「そう?
知名度的には最高だし。
これからも露出を続ければ、自然にそうなるでしょ。
ルナルナと付き合ってるのもポイント高いよね。」
『私、アイツに刺されたんですけど。』
「見た見たw
アレって台本?」
『違いますよ!
いきなり発狂してブスっとやられたんです。』
「あははは!
あの動画は爆笑しながら再生してた。
コーヒー吹いちゃったもんw」
『ほら、ここ見て下さい。』
「わっ、結構深い傷だね。
痛くないの?」
『痛いですけど。
男子なので耐えます。
後、お巡りさんには内緒で。』
「わかったわかったw
警官には黙っておくよw
でも、君の視聴者は
警官比率高いと思うよ?」
『え!?
そうなんですか?』
「だってルナルナが犯罪系として有名人だもん。
女子犯罪者では明らかに国内トップでしょ。
僕も噂で聞いただけだけど
来年から警察学校の教科書に寿司ペロ事件が採用されるらしいよ?」
『うおっ!?
マジっすか!?』
「あの東横界隈は警察庁が一番注目してるんだ。
だから公私いずれかは分からないけど、ルナルナ動画を見てる警察官は多いはず。
特に公安は絶対に見てるから気を付けて。
各地の県警も少年課の合言葉は
《我が県に第二の東横を作るな》
だしね。」
『そうなんですか?
やっぱり、東横は駄目ですか?』
「だって、そうでしょ。
君の前じゃ言いにくいけど…
あそこは犯罪の温床でしょ?」
『まあ、それはそう思います。』
「だから、東横キッズが検挙される度に
朝礼で訓示されるんだよ。
《管内に東横的な溜まり場を作らせるな》
ってさ。」
『居場所のない奴とか…
どうすればいいんですかね…』
「それな。」
『ゲーセンの前にタムロする位は見逃してくれませんか?』
「うーーーーん。
ゴメン、それだと前を通る人が怖がると思う。
僕はそんなに真面目なお巡りさんじゃないけど
通報があったら解散させると思う。
タムロってる連中の家庭に問題がある事は重々承知だけどさ。」
『あの。
浜松にも子供食堂って、あります?』
「え?
どうだったかな。
いや、何度かニュースで見た気もする。
浜松市は広いから、多分あるでしょ。」
『これ、個人的なお願いなんですが…
利用率、調べておいて貰えませんか?
特に家出するような子が、制度を知ってるか?
活用されてるか?
敬遠されているとしたら、その理由。
いや、理由は知ってるんですけど。』
「え?
何? 何で敬遠?」
『ガキ扱いされるのムカつくんですよ。
何ですか、子供食堂ってネーミング!
後、施されるのはもっと腹が立つ!』
「あははw
多分、正解だねw
OKOK。
今度から補導とかの時は、知名度・利用率を聞いてみる。」
『すみません。
退職相談の時に、仕事を押し付けちゃって。』
「何で?
意義がある仕事なら僕は喜んでやるよ?
世の中の為になるんでしょ?
それ。」
『はい、ただ救済行為が社会の維持運営と相反すると感じれば中断します。
ヒューマニズムは社会運営の手段であって目的ではないので。
あ、なので。
子供食堂の近辺で民業圧迫が発生してないかも調べて貰えると嬉しいです。』
「…了解。
今日、来て良かった。
本当に良かったよ。
ねえ、ちゃんとした経営をしている子供食堂にだったら。
居場所のない子を誘導してもいい?」
『はい、是非!』
その後、ヒルダがノンアルコールワインを持って来たので、皆で乾杯。
浜名湖が照らす夕日を眺める。
その後、遠藤から未成年者向けボランティアの実態を教わる。
特に警察機構から見たNPO団体というのは新鮮な切り口だった。
地域から信頼される活動、逆に警察署に通報が殺到する活動。
現役警官の解説だけにリアリティがある。
「これはあくまで僕の私見ね?
私見だからね。
そもそも人間って営利的な生き物な訳じゃない?
そんな生き物が《非営利団体》を運営出来るかって話。」
『いや、遠藤さんの仰る通りですよ。
私も怪しいって思っていました。』
「いや、あくまでこれは受け売りよ?
NPO団体が摘発されたり、地元で有名な前科者がNPO団体をドヤ顔で起ち上げた時に
署内で絶対、そういう話題になるのね?
僕の上司なんかも、NPOって聞いた途端に身構えちゃうから。
ほら、この検索結果を見て?
年内だけでもこんなにNPO団体の不祥事があるんだよ。
ほら!
この事件!
未成年者の売春斡旋だよ!
口では保護とか言いながら。」
『うわあ、これは悪質ですね。
あ、遠藤巡査の仰る通りでした。
中学生を風俗店に斡旋って書いてます!
しかもアダルトビデオに出演させたって!!
背後には暴力団!?
滅茶苦茶ですね。
いやあ、本当に酷いです。
女性の性被害を防ぐ為にも、厳しく取り締まって下さいよ。』
「うん。
僕もそこまで正義感が強い訳ではないんだけどさ
それでも、やはり未成年者が性搾取されている事件を見ると…
やっぱり使命感湧くよ。
…頑張らなきゃって。
だから、遠市君みたいに子供食堂とかを真面目に考えてる子を見ると
ちょっとやる気出ちゃった。
ねえ、遠市君。
仕事辞める相談、ちょっと延期していい?
僕、今自分が立っている場所でベストを尽くすよ。
子供食堂の実態調査、後は怪しいNPOの噂。
連絡は@terano991にDMでいい?」
『ありがとうございます!
私もスマホを入手次第、遠藤さんに連絡します!』
「うん、楽しみにしてる!
あ、ルナルナ配信の通知来てるw
どうする?
見る?」
『まっさかあw
もううんざりですよw』
見ればイカやフグの切り身を仕入れて来た平原猛人が優しい笑顔で手を振っている。
『お、遠藤さん!
次はシーフード焼きますよー。』
「マジ!?
僕、魚介系が大好物なんだ!!」
遠藤と走りながら、ロメオ・バルトロの論文を思い返す。
孤児院福祉に心血を注いだあの男も未成年者が性産業に搾取される事に強く憤慨し、解決の為に奔走もしていた。
(免罪符の販売に熱心だったのも、その救済資金を集める為だったそうだ。)
ねえ、バルトロ司祭。
俺にそんな資格が無い事は百も承知だけど…
それでも、貴方の遺志、継がせて下さい。
ようやく自分が進むべき道が見えて来たんです。
特に貴方が願った少女の性被害防止。
及ばずながら俺も全力を尽くします!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【人生】 幸福って何? [雑談]
※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます
「はーい全国100兆人の弱者男性の皆さん♪
陰キャに優しい苛めっ子様の《ルナルナ@貫通済》でーす。
腹パンは2発まで!」
「こニャニャちわー♪
ルナちゃんの妹キャラの奈々ちゃんニャン♥」
「お、《自動券売機》さん
早速、風船感謝です!
いつもありがとね。
みなさーん、騙されないで下さいねー♥
妙な猫耳付けて若ぶってますが
コイツ糞BBAです。
もう40越えてるんだった?」
「にじゅうニャニャ!!」
「おばさーん。
いい歳こいて、その痛いキャラ付けは勘弁してよねー。
あのね?
貴女と同じ歳の人はね?
みーんな結婚して子供がいるの。」
「腹ハラやめろにゃーーーーー!!
あ!
《へっぽこ大明神》さん、推し変感謝にゃー♥」
「はいはい。
と言う訳で、今日はスペシャルゲストの奈々が来てまーす。
ねえ、視聴者に何て紹介しよっか?
AV女優?」
「元はルナちゃんの恩師だにゃーーー!!」
「そうだったかな?
思い出せねーなw
《たぬき10号》さん
ありがとね。
無理にアイテム投げなくても、その一言で頑張れてます!
ちなみに奈々のデビュー作のタイトルは?」
「えっとねえ。
渋谷円光 奈々(1△歳)♪」
「はーい、みなさーん。
手元のスマホで検索検索ゥー♥」
「やめろしww
じゃあルナちゃんのデビュータイトルは?」
「えっとねえ。
ウ↑チ↓は《麗脚崇拝シリーズ》さんだったかな。
最初に撮影した素材が、初期の3作と総集編に採用されてたと思う。
違ってたらゴメンね。
うおっ、コメント急に来たww
え?知ってる?
本当に?
結構有名なレーベルなのかなあ?」
「ねえ。
あそこのメーカー単価安くない?」
「ウ↑チ↓は監督と知り合いだったから。
多分、ギャラでは優遇されてたんじゃないかな?」
「えー、ズルーい♪」
「中坊の頃からの付き合いだからね。
太客いっぱい紹介してくれたし、ケツ持ちの組を一次団体に差し替えてくれたし。
盃くれないか頼んだんだけど、断られちゃった。
あのオッサンには足向けて寝れないなあ。
丁度、奈々が担任してた頃はよく一緒に飲んでたよ。」
「えー、その人紹介してよー♥
奈々ちゃんも中学でプチやってた時、使えるケツ持ち探してんだけど
ちゃんとした組はコンプラ厳しかったにゃ。」
「いや、多分死んでるんじゃないかな?
アテンドした女がVIP客を訴えたか何かで組の人にゴン詰めされてたから。
《時効まであと3秒》さん。
3・2・1・0!
はーい、おめでとー。
コメントありがとうねー。
堀内カントクー、この動画見てたら連絡くださーい。
メシの恩義くらいは返しますんで。」
「どっちの穴で返すにゃ!?」
「まあ、それ位は選ばせてやりますよ。」
「じゃあ三つ穴決定にゃん♡」
「オメーが選ぶなww」
「なーんか、ルナちゃん。
さっきまで愚痴ってた癖に、随分明るいにゃん。」
「そりゃあね。
ウ↑チ↓もこんだけ配信してたらね。
プロ意識も芽生えるもんッスよ。」
「おお。」
「ああ、愚痴って言うのはダーリン様のことね?」
「さっきまでメソメソ乙女モードだったニャン♥」
「まーねー。
いや、大したことないのよ。
うな重喰いたいって言ったら
カネだけくれたのね?
地面にパサッと。」
「1人2万ニャー♥」
「いや、カネくれるのは助かるけどさ。
そーゆー意味で言ったんじゃねーっつーの!」
「奈々ちゃんはカネだけ欲しいにゃん♥」
「寂しい女だなー。
だから羊水腐るんだよ。」
「まだ鮮度MAXだニャーー!!!」
「はあ(溜息)
女2人で鰻なんて喰っても惨めなだけじゃん。
《イチゴフラッペ》さん、花火ありがとー!
いつもありがとね♡
ちょっと元気出たよー♪
ほら、奈々覚えてる?
あの店カップルばっかだったじゃん?
座敷には家族連れがいたし。」
「ある意味惨めな絵面ニャン。
女2人でうな重なんて、完全に敗北者だにゃー。
取り消せよ、ハアハア(作り声)。」
「それでさぁ。
ウ↑チ↓らが徒労感で呆然としてたら
ダーリンがいきなりインスタライブ始めるのね?
それが滅茶苦茶楽しそうなBBQ配信なんだよ!!
いや、そんな企画ウ↑チ↓聞いてねーし!!
《バーバラ石崎》さん、ハート連打ありがとうね。
この前はコメント読めなくてごめんねー♪
それもすっごく楽しそうなの!
あの人、男にだけはすっごく愛想いいの。
爽やかスマイルで全員にお酌して回ってた。
ホモかテメーは!!」
「アレは良くないニャ。
女が一番傷付くパターンにゃ。」
「しかも、まーた真横に糞BBAが陣取ってるんですよー。
あー、《たぬき3号》さん金のバラありがとね。
それでニコニコしながらダーリン様の皿にBBQソースを注いでやってるんですね。
ダーリン様もまた嬉しそうなんスよ!
あーーーーーーーー、ムカつく!!!
正妻気取りか!!
じゃあウ↑チ↓はアンタの何なの!?」
「わかるにゃー。
トイチ君は奈々ちゃんが恩師してた頃から
マジモンのコミュ障だったにゃん。
思わず《キチガイの面倒は見れない》って言っちゃったことあるにゃん。」
「あー、やめてー。
言わないでー。
ウ↑チ↓、あの人にマジ惚れだからやめてー。」
「やっぱり、そうにゃん?
金蔓的な意味ではなく?」
「…好き。
まぢで好き。」
「余談ですが、この配信見てる男の人って…
既に脳が焼かれ終わってるにゃん?」
「でもね?
結局、男って仕事が一番の生き物だから。
信じるウ↑チ↓が悪いんですよ。」
「うん、100%ルナちゃんが悪いニャ。
そもそも男の人は女なんてヤレれば何でもいいって生き物にゃん。」
「それな。
結構ウ↑チ↓に入れ込んでた太客もそうだったわ。
結局仕事、結局社会、結局お国。
もうね、アホかと。」
「何が国にゃー、ク〇ニしろにゃー!」
「もうねー、色々な男を見て来たけど
自称屑でも自称エゴイストでも、結局全員社会を優先させるタイプだったわ。」
「男はそういう生き物にゃー。
ちなみに今、奈々ちゃんが付き合ってる人も
ガチガチの正義マンだにゃー。
ホント、アホかと! 死ねよと!」
「えっと、元生徒と付き合ってんだよね?
一緒に来たとかで。
ウ↑チ↓のクラスの子?」
「鉄オタ。」
「え”!!?
マジ!?
嘘っスよね?
あの鉄オタ!?」
「まぢっス。
ちなみに凄くカッコよくなってるッス。
大金持ちにもなってるッス。
詳しくは言えないけど、結構権力持ってるッス。
鉄道趣味は卒業したっぽいッス。」
「うそお!?
今日一番の驚きだわ!!!」
「ただ淡泊過ぎて奈々ちゃん病んでるにゃん。
半年くらい付き合って、まだ14回しかセックスしてないにゃん。」
「あー、それ典型的なセフレ扱いだわ。」
「やっぱりそうかにゃーーーーー。」
「半年14回は他に女が居るか、余程の仕事人間か。」
「病み猫にゃんにゃん。
大麻に依存、にゃんにゃんにゃん。」
「もうねー。
男が悪いんですよ。」
「悪いニャ!」
「ウ↑チ↓らもね?
生活の為に女やってるんで
好きな男がちゃんと物にしてくれないなら!!
売り物になるしかないんですよおおおお!!!!
そりゃあね、AVでも出ないと人生設計出来ませんわ。」
「わかるにゃ。
ちゃんとした彼ピッピが居る時はおとなしニャンコにゃん♥
でも、居なけりゃ老後に備えて最低2000万円は頂きニャンコにゃん♪」
「はい、人生の話になった所で!」
「ところで!」
「奈々。
段取り覚えてる?」
「はいニャ♪
ここで宣伝にゃ!」
「はーい皆さん。
丁度話題がたまたまAVに及んだので。
CMタイム入りまーす。」
「強引な流れニャー。」
「ファンティアに入ってくれてる人は既にご存知だと思いますが!
FANZAさんからルナルナ主演・監修の
《主観フェチ動画 黒スト天国》
いよいよ来週リリースでーす!」
「いえーい、パチパチパチー♥
にゃにゃにゃにゃーんと、リリースから1週間は50%オフにゃ!」
「結構気合入れて作ったので
是非、買って下さいーい!!」
「オニャシャース!!!」
「そして!
初監修作、リリース記念企画として!」
「はいニャ!」
「貢ぎマゾプランに入ってくれてる人限定に!
主観寿司ペロ動画、プレゼントしちゃいまーーす!!!」
「オマエが寿司になるニャー!!!」
「はい、宣伝終わり!」
「ダイマは心が痛むにゃー。」
「お。
《たぬき南極2号》さん、買ってくれる?
ありがとね、星5頼むわ。
《人斬り月光斎》さん!
金のバラ感謝です!
まあ、そういう訳で。
ん?
《折木砲太郎》さん、昔のAV見つけた?
あ、そうなんだ
総集編のジャケット、ウ↑チ↓になってるのかあ。
ああ、あったあった。
ミニスカポリスのコスね。
その直後にパクられたからねー、結構思い出深いわ。
ああ、別に買わなくていいよ。
売り上げは組にしか入らないし。
ばーか、脚くらい幾らでも見せてやるよww
ほれ、ほれ!
いつかオフ会やるときゃ胸くらいは揉ませてやんよw
あははははw
《ガーベラ・テトラポット》さん
んー?
これからどうするって?
そりゃあ帰るよ。
ダーリン様の元に!」
「いやー、ルナちゃん結構一途にゃー。
恩師してた時とは印象360度変わったにゃ。」
「変わってねーしww
はい。
そういう訳で!
そろそろ時間となりました!」
「えー、今来たばっかりー♥」
「いや、肌寒くなってきたし
路上配信辛いんスわ。」
「浜ニャ湖の風は負け犬女を無慈悲に冷やすにゃ!」
「じゃあ、今日のふわっち配信終わり―。
《ドヤコンガ》さん、最後に風船ありがとね。
じゃあ、撤収。
奈々、行くよ。」
「はいですにゃーん♥」
【この配信は終了しました】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
膨れた腹が心地良い。
ベッドから起き上がり平原猛人に礼を述べる。
『平原さん。
今日のシーフード、本当に助かりました。
まさかあんなに人が来るとは思わず。
貴方が買ってきてくれなかったら、イベント失敗してたと思います。
あの、代金払わせて下さい。』
「ばーか。
リンが1円も取ってないのに、俺が受け取れる訳ねーだろ。」
『いや、でも。
フグだけでもかなりの量でしたよ?』
「オマエが振舞った量に比べればな。」
『平原さんには本当に感…』
「なあ。」
『はい。』
「オマエ、今かなりの大金を持ってるみたいだけど。
それ隼人の失踪と関係あるのか?」
『…あります。』
「能力とかノウハウとか?
あるのか?」
『あります。』
「キモオタ共のアニメでいうところのスキルって奴か?」
『はい。』
「…隼人が帰って来ない事と
オマエの持ってる大金、スキル。
関係はないんだよな?」
『…あります。』
「ないよな?」
『あります。』
「ないって言えよおッ!!!」
『あるって言ってるでしょ!!!』
声を聞きつけた江本が飛び込んで来るが、制止して退室して貰う。
これは2年B組の問題だ。
「…隼人はどうだった?」
『?』
「どんなスキル、持ってた?」
『スミマセン。
知らないです。』
「どうして?
結構話したって言ってただろ!?」
『お互いの家族の話とか
ついつい、そっちばっかりしてたので。』
「…ッ」
『ウチの学校の修学旅行横領の件…
平原さんが問題提起してくれたんですよね?
隼人君は、そういう部分を誇らしく思ってて。』
「もういいよ。」
『そんな話ばっかりです。
スキルの話をしなかったのは。
なんでだろう。
仕事の話なんかより
アイツのこと知りたくなったからなのかも。』
「…黙れ。」
『平原隼人を殺したのは…』
「黙れって言ってるんだよおッ!!!!!」
このオッサン、よく泣く人だよな。
…俺もか。
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 6
《HP》 貧弱
《MP》 満タン
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 522
本日取得 160
本日利息 30
次のレベルまでの必要経験値108
※レベル7到達まで合計630ポイント必要
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
※経験値計算は全て仮説
【スキル】
「複利」
※日利6%
下2桁切り上げ
【所持金】
6937万0600円
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
×遠藤恭平 「ハーレム製造装置を下さい。」
「子ども食堂を起ち上げる。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
松村奈々 「二度と靴は舐めないにゃ♥」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
〇 「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」
「ポン酢で寿司を喰いに行く。」