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【降臨22日目】 所持金3165万1219円 「…悪は滅びた。」

肩を刺されたと言っても大した事はない。

我が国の武士は手足に矢が刺さったままでも戦い続けていたし、異世界でも騎士や冒険者達は多少の負傷は気にせず任務を続けていた。

俺の前任者である魔王ギーガーに至っては身に四刀七槍を受けながらも、最前線で自ら血槍を振るい続けたと聞く。

たかだか女の刃如きで歩みを止めるなど、先代の誉れに対する冒涜である。




「いや、戦国時代を引き合いに出されましても。

俺らとしては、安静をお願いするしかないやないですか。」



『今日も狩りをしたいんです。

それで一区切りですから。』



「いやいや、昨日はかなりの流血でしたよ?

流石に反対せざるを得ません。」



『後藤さんをお呼びしたのはね?

エモやんさんより話が通じるかな、と。』



「まあ、江本なら100%反対するでしょうね。」



『後藤さんは何%?』



「3割くらいは反対です。」



『意外に理解的なんですね。』



「はい。

要は、2匹殺せばレベルアップするんですよね?」



「理解が早くて助かります。」



「容態が落ち着いてからではアカンのですか?」



『私は指名手配中でしょ?

いつ逮捕されるか分からないんですよ。

鷹見が勝手に配信するから、居場所も警察に把握されてるだろうし。』



「静岡県警が今日踏み込んで来ても不思議ではないですからね。」



『自由があるうちに、出来ることをやっておきたいのです。』



異世界でそうだったように、地球でも近いうちに自由は失われるだろう。

当然である。

資本とは王権そのものであり、王に自由など許されるべきではないからだ。

俺の戦いとは、自らを殺し続ける性質のものに他ならないのだ。


遠市厘個人に自由が許されているうちに、打てる手を全て打っておかなければならない。



「俺はええんですけど、江本が強硬でして。

まあ、向こうの方が正論なんで俺も強くは言えないんです。」



『ここにイノシシを持って来てくれませんか?

グランピング場の駐車場でも構いません。

止め刺しだけ、やらせて下さい。』



「…鈴木社長を説得してきます。」




後藤が全部話をつけてくれた。

エモやんへの詫びとして、明日以降は治療に専念する事を約束する。



『いや、ホントホント。

明日から療養しますから。

エモやんさんは怖いなあ(笑)』



「わかりました。

ですが万が一、トイチさんがご無理をされた場合。

静岡県警の警察病院で療養して頂くことになりますからね?」



もう、警察病院は懲り懲りだよ。

飯田と顔を合わせて首を竦める。



「では、こうしましょう。

鈴木社長には箱罠収容の状態でイノシシを2頭搬送して貰う。

止め刺しには俺も立ち会わせて下さい。」



『あ、はい。』



鈴木には申し訳ないが、2t車で走り回って貰う。

まずは湖西市に箱罠回収。



俺は懐かしの寝たきりモードに。

ヒルダは嬉々として俺の手当場面を鷹見に見せつけている。



『オマエら、仲良いよな。』



「ふふっ、そうでしょうか。」



「鷹見ってエルデフリダ成分強めだから、ヒルダとは気が合うんだろう。」



ヒルダは策士だから、ああいう欲望に忠実な直情型に惹かれるのだろう。

その母と同系のコレットも、エルデフリダやらあの辺とは多分上手くやれてると思う。

だから今頃、きっと異世界は安泰の筈だ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





11時05分。

鈴木到着。

皆でブラインドを作り、止め刺し態勢に入る。

江本が電気槍を刺してから、電源だけ俺に入れさせた。


これで経験値が入るかは謎だが

「従って頂けないのであれば、この槍であの女を殺します。」

と言われてしまったので、妥協する。


口に出した、と言うことは江本の殺意も相当薄れて来た事を意味する。


鷹見は勿論マイナスだが、部品としてはオンリーワンである。

どうせならヒルダ共々に使い潰してやるのが愛というものだろう。



流石に日本代表に選抜されただけあって、江本の動きには無駄がない。

何の躊躇いもなく、イノシシの首に槍を突き立てる。

俺はそのやや後方でスイッチを入れただけ。



「「「「お見事です!」」」」



メンバー達が一斉に拍手して俺を讃える。

直訳すれば、《大人しくしとけ》という意味である。


鈴木は後藤を連れ、そのまま天竜川の上流へ。

一応浜松市内ではあるものの、ほぼ長野との県境である。

17時までに帰れるかは不明。



やることもないので、親睦会を開く。

主賓は鷹見と江本。

勝手に殺し合いをされたら迷惑なので、早めに仲裁しておく。


配膳はヒルダに丸投げ。

適当にワインやら焼き河豚やらで卓を盛り上げてくれた。

俺は何もせずにソファーで転がって経緯を見物する。


2人とも余程ドライな性格なのか、淡々と利害を調整し始めた。




「側室でも儲けものだと思いますよ?」



「理屈ではそうっスけど。

感情面で納得出来ないっス。」



「鷹見さんは既にご理解されていると思いますが

トイチさんって信長・家康クラスの偉人なんですよ。

いえ、国際的知名度だけで言えば大谷翔平すら越えてます。」



「いや、その点は理解してますよ。

ダーリン様なりに気を遣ってくれてる事も理解してますし。

でも2番手っていうポジションが…


ウ↑チ↓、生まれがね。

やっぱり父親の顔も知らないような、そういう生まれなんスよ。

母親の愛人に代わる代わる虐待されて、物心ついた時には施設に居たような。

そりゃ、男の本性は知ってますよ?

でも、だからこそ、保証や確信は欲しいじゃないですか?」



「トイチさんの愛人って、1番安定したポジションではあると思いますよ?

あの人、バランス型のリーダーですから。

本妻でない分、逆に配慮してくれるでしょう。

鷹見さんって、カネ以上に自由を求めるタイプですよね?

あれほど好き勝手させてくれる人も居ないと思いますが?」



「うーん、自由というか。

男の江本君からは見えないかもですけど…

あの人って女の人格に興味ないだけでしょ。

ウチとヒルダが殺し合ってても、本気で止めないと思いますよ。」



「いや、昨夜俺が鷹見さんの粛清を提案した時、かなり必死に止めて来たんですよ。

普段、あまり感情を出さない人なので驚きました。

トイチさんは女社会を見下げているだけで、女性を粗末にしている訳ではないです。

仮に女性を軽視していたとしても、貴女は別枠で優遇してくれるのではないでしょうか?


現に、今だって厚遇されてる訳でしよ?」



「うーん。

厚遇っスかねえ。」



「俺、ヒルダさんの顔も名前も、浜松に来てから初めて知りましたもの。

鷹見さんに関しては、既に話を通し終わっていた訳でしょ?

これトイチさんにしては最高の気遣いだと思いますよ。」



「だから納得しろと?」



「手心を加えて欲しい、とお願いしてるんですよ。

お互いの為にも。」



「これ以上騒げば殺すって言いたい訳ですね?」



「だから。

トイチさんから強く禁止された以上、鷹見さんを害する意図はないですよ。

せいぜい皆の安全の為に制圧する程度です。」



「お優しいことで。」



「トイチさんって金の卵を産む鶏なんですよ。

我々からカネを徴収する意図すらない。

もっと大切にしませんか?」



「…そんなレア彼氏を誰かと共有するつもりは湧かないッスね。」



「でも現状独占してるでしょう?」



「…ヒルダが居るから。

その娘の正妻さんもいるらしいし。」



「奥さん、異世界でしょ?」



「?」



「勿論、対外的にはウクライナと言わなければならない事は理解してますよ?

これは内輪の話ね?

鷹見さんも内輪、OK?


状況的にトイチさんの正妻さんは、どう考えても異世界に居られる訳じゃないですか?

あ、トイチさんは頷かないで下さい。

ちゃんと否定して下さいね。

あくまで俺の妄想ですから。」



「まあ、ヒルダがウクライナ出身というのは明らかな嘘ッスね。

それはウ↑チ↓でも理解出来ます。

そもそもあの女、地球人が100億人死んだところで何とも思わないでしょうし。

まあ、そこが気に入ってるんスけどね。」



「多分、ヒルダさんって

娘さんと折り合いが悪いからこっちで住まれてるんだと思います。

だから話の展開次第では正妻並みの扱いは貰えますよ。

地球妻くらいのポジションは貰えるんじゃないですか?」



鷹見は腕を組んで唸りながら、頭の中で素早く損得勘定をしている。

江本は利き手をテーブルの下に隠したまま、沈黙している。



「ウ↑チ↓はダーリン様の仲間枠?」



「いや、それはないですね。

トイチさんって女性に仕事の話をしない人でしょ。

昭和のサラリーマンみたいな労働観持ってると思いますよ。

現にヒルダさんすら何も聞かされてないようですし。」



「ウ↑チ↓は何なの?

って声を大にして言いたい。」



「じゃあ、俺の仲間になってくれませんか?

拳を交わした仲じゃないですか。」



「江本君にはなぁ。

ウ↑チ↓が一方的にボコられただけだからなぁ。」



「俺の腕前は認めてくれるんですよね?」



「まあ、ここまで動ける奴は見た事ないッスわ。

甲子園出たって本当?」



「1年のセンバツは大した出番なかったですけど。

2年の夏はローテに入れて貰ってました。」



「ふーーん。

今度配信に出てくれます?」



「…今でもいいですよ。」



「グーッド。

仲間扱いしてあげます。」



「じゃあ、俺は兎も角

トイチさんは刺さないで下さい。」



「それはダーリン様の心掛け次第かな?

でもまあ、こっちも誠意見せておきます。」



「誠意?」



「東横絡み。

ダーリン様の誘拐疑惑。

もう正式に指名手配されてるんスか。」



「されてるみたいです。」



「その解決をアシストしますよ。

…今回のオトシマエってことで。」



「夫婦間の問題でしょう?

俺は別にどうこう言いませんよ。」



「…状況聞かせて下さい。」



江本は伊東まゅま事件の概要を解説する。



「ああ、アイツか。

佐々木ってのは、サユの事っスよね?」



「ご存知なんですか?」



「狭い界隈ですし。

何度か話した事はありますよ。

そんなに良い関係では無いですけど。」



「仲良くして下されば嬉しいのですけどね。」



「犯されて育った女にロクな奴いないっスよ。

マジで全員ゴミでしたね。


そんな奴同士が仲良く出来る訳ないでしょ?」



「では、仲良し路線は諦めますので

上手く連携して下さい。」



「了解。

早速連携するんで、LINEグループ作って下さい。」



「わかりました。

まず佐々木に承諾とります。


恐らく、問題はないと思うのですが…

オッケー、同意とれました。

グループ申請します。」



「はい、煽りと取られないスタンプを送ります。」



エモやんと鷹見は素早くスマホを操作しながら、テキパキと合意を取っていく。

俺はボーっと見てるだけ。

いや、俺の仕事は有能な人間の時間を奪わないことなのだ。


なので、内容が理解出来なくても機嫌良さげにニコニコしておく必要がある。

急に判断を求められる可能性が高いので、全力で話の流れには食いついておかなければならない。

出資者である事をボトルネックとなることの言い訳にしてはならないのだ。



判断を求められたのは2度。


・リモートで解決困難な場合、鷹見江本組が東京に戻ってもよいか?

・伊東問題解決後に佐々木を庇護しても構わないか?


これに即答する。

出資サイドに求められてるのは正しさではない。

レスポンスなのだ。

判断ミスは資本の減少という形で俺が責任を負う。

それを弁えるのが資本家の仕事。

ピット会長から教わったことである。



「どうもー、鷹見です。

スピーカーで共有させて貰いますねー。」



  「佐々木です。

  ご無沙汰しております。」



「じゃあ早速本題。

伊東を誘い出せれば、問題解決ですね?」



  「はい。

  新大久保で太客を捕まえたらしくて。

  そこから連絡が途切れ始めました。」



「了解。

伊東の行きつけのメンコンあれば教えて下さい。」



  「はい、URL送ります。」



「別窓で拝見しますねー。

あー、《太陽王国》っスか。

キャストボコって出禁になったとこっスわ。

伊東の推し分かります?」



  「過去ログ漁りますね。


  …あー、ユーキ君って書いてますね。」



「天佑の《佑》に樹木の《樹》?」



  「…はい、この男です!」



「あー、コイツたまにアパ前でキャッチやってますね。

了解、10分後にコイツに扮した画像と文面送ります。

そちら経由で呼び出して下さい。」



「ありがとうございます。」



鷹見がこちらを振り返り、警察のツテを訪ねて来たので、施設の電話を借りて水岡に連絡。

伊東の捕獲を依頼する。



『警部。

こちらの都合で申し訳ありません。』



  「いや、家出人の保護も俺達警察官の任務だ。

  尽力する。」



『案内人の少女。

現在、身分証を紛失して再発行手続き中だそうです。』



  「…そうか、無くしたのなら仕方ないな。」



『申し訳ありません。』



  「過失は犯罪ではない。

  問題ない。


  バーバリアン、約束通り摘発したぞ。

  系列店も芋蔓式だ。

  未成年者売春の温床でな、上層部もかなり問題視している。

  オマエの目論見通り、ホスト規制の流れだ。

  何人かの議員も、法案提出に意欲的だ。


  売掛を重点的に規制したいんだな?」



『はい。

多くの人々の話を聞いて、無根拠な売掛が諸悪の元凶と判断しました。』



  「了解。

  ヒアリングには俺も呼ばれている。

  偉いさん達に、その点は念を押しておこう。」



『感謝します。』



  「俺は義務を果たしているだけだ。

  オマエだって誰かに感謝されても困るだろ?」



『まあ、私は自分の使命を果たすだけの事ですので。』



  「…トイチ。

  もう一度聞くぞ?

  オマエの使命って何?」



『皆が食っていける社会を作ることです。』



  「そうか。


  伊東まゅまの件は任せろ。」



『では、例の公園で黒いパーカーを着た女に案内させます。

背が高く、黒のキャップを着用しております。

成人済みだそうです。』



  「なるほど。

  じゃあ、年齢確認の手間は省けるな。」



『…借りは返します。』



  「俺は何も貸しちゃいない。

  

  ただな?

  オマエが生かされているのは、我が国の制度と文化の賜物だ。

  

  …借りは返せよ?」



『肝に銘じます。』




水岡との話が付いたので、後は佐々木・鷹見組の連携に任せる。




「佐々木さん、お待たせしました。

この画像と文言を伊東に送って下さい。

どうです? 釣れそうですか?」



  「あの子の性格なら必ず来ます。」



「オッケー。

それではダーリン様が話を付けたオマワリに引き渡して下さい。

新宿署の水岡という警部です。

佐々木さんは身分証を紛失して再発行手続き中、という事になってます。

話を合わせて下さい。」



  「了解。

  伊東まゅまの保護を確認次第、そちらに一報入れます。」



「助かります。

では、機会があれば広場で。」



  「ええ、是非。」



エモやんがやって来て、佐々木が通話を求めている旨を伝えて来る。



  「遠市さんですね。

  資金援助の件、お礼を申し上げさせて下さい。」



『いえ、私は佐々木さんに助けられております。

こちらこそお礼を述べます。』



  「ただ、報酬額が多すぎる気がしております。」



『余ったら…

腹を減らしている連中に何か食わせてやって下さい。』



  「…約束します。」



『江本さんが、貴女の御活躍を教えてくれたのです。

彼、佐々木さんを絶賛しておりました。』



  「いえ、大したことは。」



『お礼も兼ねて、今度豪華なランチでも御馳走させて下さい。』



  「あ、いや、そういうつもりでは。」



『江本さんが近く新宿に戻るので、彼に一席設けて貰います。

私の顔を立てると思って、江本さんにエスコートされて下さい。

流石に、女性に救われっぱなしというのは、面目が立たないので。』



  「…わかりました。

  お任せします。」



電話を切る。

江本が俺の目を見たまま溜息を吐いた。


でも仕方ないだろ?

立場が逆なら君だってそうしたじゃないか。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




関羽が俺の治療を行う。

ああコイツ、元は看護師だったな。

やはり手際が良い。



「トイチ先生、お礼を申し上げます。」



『礼ですか?』



「望みが全て以上に叶いました。」



『…清磨さんも、同じことを仰っておられました。』



「///。」



まあ、オマエの話題なんて一言も出なかったのだが

言ったことにしておこう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



15時59分。

鈴木後藤組帰還。

トラックの後ろには箱罠に入ったイノシシが唸っている。

かなりデカい。

野戦でどうこう出来る相手ではない。




「トイチさん!

スイッチを!」



『押しまぁす!』



カチッ

ジーーーーーーーーーーーーー。

ドタッ



「「「「「お見事です!」」」」」



勿論、見事でもなんでもないのだが。

話の流れ上、見事ということにしておく。


寧ろ、見事なのは後藤である。

箱罠の周囲に別のイノシシがおり、後藤の活躍が無ければやや危険な状態だったらしい。

俺はカネを持ってるだけのヒョロガリだ。


さて。

問題は、スイッチを押しただけで殺害実績になるか、という疑問。

ある意味貴重な経験値であるが、こんなもんで経験値が入るのなら屠殺人や死刑執行官はレベルがカンストしている筈なので。

まあ良い。

時間がくれば判明することだ。



「トイチさん、俺の勘なんですけど。」



『はい。』



「多分、経験値にカウントされると思いますよ。」



『そうでしょうか?

私、後藤さんのナビに従っただけですよ?』



「でも企画立案はトイチさんやないですか?

つまりトイチさんの手柄と言えるのでは?」



『あー、どうなんでしょ。

手柄というのは、後藤さんみたいに…

実際に武勇を発揮された方のことを指すのではないでしょうか?

今日も活躍されたと聞きましたよ。

何でも興奮して接近して来たイノシシを撃退したとか。』



「ああ、いえ。

これを当てただけです。」



『ご、ゴルフボール?』



「いや、丸腰で山に入るの怖いやないですか?

なので、俺なりに武装してきました。」




鈴木曰く、後藤はノーモーションでゴルフボールを高速連続射出するらしい。

それもイノシシの眼球にピンポイントで当てるとのこと。



「あー、いえ。

こんなん練習したら誰でも出来ますよ?

手首のチカラしか使ってないんで、肩に負担も掛かりませんし。」



言いながら、ゴルフボールを10メートル先の木枝に射出して粉砕する。



『いやー、私では

100年修行しても、後藤さんと同じことは出来ないかと。』



「えーそうですかねえ。

コツさえ掴めば誰でも出来るかと。」




後藤の《誰でも》とは、《甲子園でマウンドに立てる投手なら誰でも》程度の意味なので真には受けない。

なあフェリペさんよ。

国家予算費やして地球から召喚するんなら、こういう天才を呼べよ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


2378万6819円

  ↓

2328万6819円



※鈴木翔に50万円を支払い


(日当10万円+イノシシ殺害歩合10万円×2+長距離走行手当20万円)



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



鈴木は恐縮するが、それは寧ろ俺の取るべき態度である。

彼がイノシシを回収してくれた《国盗り公園》

地図で見る限り、ほぼ長野である。


「10月になれば信州軍と遠州軍で

《峠の国盗り綱引き合戦》

が開催されます、是非遊びに来て下さい!」


鈴木の厚意は嬉しいが、その時期には地球の征圧が完了している可能性もある。

一地域の祭典を贔屓するのは…

政治倫理的に好ましくないなぁ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



16時30分。

飯田がスキレットを使って、鰻丼風ホットサンドを作る。

俺も半切れ御馳走になったが、旨い!


ヒルダが珍しく満足気に笑っていたので、この味は王都でも通用するかも知れない。

まだ王都があればの話だが。


皆が食事に夢中になってる間、キャンピングカーに入る。

そして寺之庄の向かいのベッドに寝そべる。


無言。

苦手なりに、頭の中で色々計算はしている。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


2328万6819円

  ↓

2億0328万6819円


※出資金1億8000万円を預かり



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




安宅は纏まった額を引き出す為に東京に戻っている。

なので、今日は増額はしていない。



さて、昨日の計算のおさらいだ。



保有経験値に利息が付いていなかった場合、次のレベルまで120ポイント。

既に利息が付いていた場合、次のレベルまで106ポイント。

この状態でイノシシを2匹だけ殺した場合。

すると日利有りの仮定で、総獲得経験値284ポイント。

これに5%が乗って+14で298ポイントとなる。

レベル6到達には総獲得経験値が310を越える必要があるから、今日はレベルが上がってない筈だ。


問題は明日。

明日何もせずにレベル6に上がったら、異世界同様に経験値にも日利が発生する事が証明される。

なので今日が分水嶺だったのだ。

経験値に利息が付くか否かで、今後のレベリング方針が全然変わってくるからな。



《1016万4400円の配当が支払われました。》



よし、4ケタ万円に到達。

ペースが上がって来た。

これだよ【複利】の恐ろしさは。

指数関数的に獲得金額が増加するのだ。

我ながら、本当に戦慄モノの能力である。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】


2億0328万6819円

 ↓

2億1345万1219円



※配当1016万4400円



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




今日も弓長はキャンピングカーに居座っている。

すっかり新婚気取りである。

鷹見の言葉を借りると、《キャンプデートはメス関ケ原》らしいからな。

この女はこの女で戦っているのだろう。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】


2億1345万1219円

  ↓

2億1165万1219円

  ↓

3165万1219円


※配当金180万円を出資者に支払い

※出資金1億8000万円を別に保管



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



手残り3000万か。

いつの間にか増えたなぁ。

この先レベルが上がらなかったとしても、元本だけで毎日150万以上ずつ増える計算だ。

そして周囲に俺を手放すつもりはないだろう。


安宅はとうとう保有するタワマンを売りに出したらしい。

俺が『住むところなくなるじゃないですか?』と尋ねると、安宅は不思議そうな表情で「私も東横の広場で寝泊まりをお供させて下さい」と返してきた。

本末転倒の気もするのだが、安宅程の男がそう判断した以上、経済的合理性があるのだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



17時19分。

肉に舌鼓を打ちながらヒルダ・江本・鷹見の3名と東横情勢について協議。

伊東の行方不明が長期化した場合の策を練っていた。


その時。

不意にテーブルに関羽が飛び込んで来る。



「静岡県警です!」



3名が一斉に俺を振り返る。



『大丈夫。

ここで拘束されても、すぐに伊東を確保出来る可能性が高い。

釈放が静岡になるか東京になるかは不明だが、出所次第俺を拾ってくれ。

手持ちのカネはヒルダ、オマエが持っていろ。』



「は! 

お任せください!」



…よし、このカネをヒルダに移譲してしまえば俺の所持金はゼロ。

ゼロには日利が付かないから、留置所内で不慮の事故が起こる可能性は低い。


俺が素早くメンバーに指示を出していると制服姿の警官隊にテーブルを囲まれた。

…理想を言えば、逮捕前に伊東を何とかしたかったが。

流石にそれは高望みだ。

午後の遣り取りを見ても、鷹見・江本・佐々木の3名はベストを尽くしてくれた。

釈放されたら特別ボーナスを支払う事を決意する。



警官隊が手元のスマホと俺達の顔を見比べながら、包囲網を縮める。

まあ、俺もこんな特徴的な傷が顔にあるからな。

言い逃れは出来ない。



『じゃあ、エモやんさん。

ヒルダと鷹見をお願いします。

かなり打ち解けて来たようですが

喧嘩になりそうなら引き離して下さい。


まあ、俺はコイツラが仲良くなり過ぎる事を恐れてるんですけどね(笑)』




「トイチさん!

一刻も早く釈放に持って行きますので!」



「リン。

保釈金は潤沢に用意しておりますので

心配しないように。」



「ダーリン様!

逮捕前の心境を一言!」



まーたコイツ勝手に配信してやがる。



『あー、視聴者の皆さん。

私は今から身に覚えのない罪状で逮捕される訳ですが

静岡県警の皆さんも法律に基づいて、適正な法執行を行っているんですね?

なので、結果として誤認逮捕になったとしても、あまり彼らを責めないであげて下さい。』



「流石はダーリン様!

落ち着き払った強者ムーブ!!

愛してます!!!


もうねー、ルナルナはねー。

ダーリン様を解放する為に警察権力と闘いますよ!

徹底粉砕します!」



『いや、オマエ話を聞けよ。

今、俺が警察に負担を掛けるなって呼び掛けたばかりだろう。』



「いやー、でもーでもー。

善良な市民のウ↑チ↓としてはね?

こーゆー冤罪事件が一番許せないんですわ!


そりゃあね?

実際悪い人が逮捕される分には文句言いませんよ?

犯罪者が捕まるのはいい事ですから。」




中央の背広を着た初老の男が鋭い眼光で俺に対して重々しく一歩を踏み出す。

背後の警官隊も無線機に何事かを報告しながら後に続いた。



…今日はおとなしく捕まっておくか。

俺は手錠を掛けやすいように、ゆっくりと両手を前方に差し出す。




「視聴者の皆さん!

御覧下さい!

この堂々とした態度を!

ウ↑チ↓ねえ、ダーリン様のこの毅然とした男らしさに惚れたんスよ。


あ、《よっぴー星人》さん金の風船あざーっす!!!


やっぱりねえ。

人間の真価って逮捕される時に試されると思うんですよ。

普段どれだけ偉そうにしててもね?

手錠掛けられる時に見苦しくジタバタしているようじゃ3流っスね。」



背広の男は真っ直ぐに俺に歩みながら、書類を広げた。

なるほど、逮捕状か。

法的にも完璧だな。



「いやーーーww

人が逮捕される時って

どうしてこんなに興奮するんでしょうね!

ダーリン様!

骨は拾ってあげます!


さあ、感動の逮捕シーンだ!!!

同接2800越えたよーー!!!!」



背広の男が立ち止まり逮捕状を読み上げる。



「鷹見夜色!!

威力業務妨害!!

及び暴行罪で逮捕する!!!!」



警官隊は俺の横を通り過ぎ、一斉に鷹見に飛び掛かった。



「ええええええ!!?

ウ↑チ↓ィ↑ッ!!!????」



  「17時24分!!  容疑者確保ぉーーー!!!!」


  「ジタバタするな!!! 神妙にお縄に付け!!」


  「これが寿司ペロ女か、噂以上に狂暴な顔をしてやがる。」


  「いいか! キサマには黙秘権がある!!!」


  「警部!!! コイツ、大型ナイフを所持してましたぁ!!

  明らかに刃渡り20センチを越えてます!!!」


  「うおっ!! 凄い握力ッ!!  手錠!!!  早く手錠!!!」


  「ぐわっ!!  全員で持ち上げるぞ!!  車両に放り込め!!!」



「ぐわあああああ!!!!!

何も悪い事をしていないのにいいい!!!!!

冤罪ッ!! 冤罪ッ!! 冤罪いいいいいいい!!!!!!」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



夜半。

事情聴取から帰還したエモやんの説明を受ける。



「鷹見さん…

この間、ス●ローの醤油を舐めてたじゃないですか?」



『ああ、あれは酷かったですねえ。

不潔極まりないです。

回転寿司とか気持ち悪くて食べる気になれなくなってしまいました。』



「最近、静岡でバタバタしていてニュースのチェックを怠っていたのですが

鷹見さんは《寿司ペロ女》として全国ニュースになってたらしいんです。

それをBBCが目敏く拾って、日本食のネガティブキャンペーンを展開し始めたようなんです。」



『まーたBBCか。』



「それで、スシ●ーの株価が暴落したみたいで…

160億円くらいの損害が出たらしいんですね?」



『おお、害悪ゥ…』



「申し訳ありません。

●シローの株価暴落ニュースは文字列では把握していたのですが

まさか鷹見さんだとは…

迂闊でした。

以後、この様な見落としがないように意識を改めます。」



『いや!

エモやんさんに落ち度はないですよ!

今の我々、市街地から隔絶された浜名湖のド真ん中に居る訳じゃないですか。

ヒルダや安宅さんもいつもと違うPC環境で、仕事が鈍っているようですし…

それに貴方は大活躍して下さりました。

感謝こそあれ、責める気は一切ありませんからね!』



「そう仰って頂いて助かります。

スシロ●には模倣犯が殺到して社会現象になっているようですから。

今後の推移を慎重に見極めましょう。」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【スシロー醤油チューチュー事件】



スシロー醤油チューチュー事件は

2023年に東京都新宿区の「スシロー歌舞伎町中央店」において、女性客*が醤油差しの注ぎ口をなめる等の迷惑行為を行い、その動画をSNS上に拡散した事件である。

これらの行為により、回転寿司のイメージが低下し、株式会社あきんどスシローは大きな損失を被った。

スシローペロペロ事件やスシローチューチュー事件とも呼ばれる



*逮捕された鷹見夜色容疑者(20)は害悪系配信者として、首都圏一円で様々な迷惑行為・暴力事件を引き起こしていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺がスルーされた理由は謎だが。

何はともあれ。


…悪は滅びた。

【名前】


遠市 †まぢ闇† 厘




【職業】


東横キッズ

詐欺師

自称コンサルタント

祈り手




【称号】


GIRLS und PUNCHER





【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)


《LV》  5

《HP》 刺されて痛い

《MP》 犯罪者が逮捕されてスッキリ

《力》  女と小動物なら殴れる

《速度》 小走り不可

《器用》 使えない先輩

《魔力》 ?

《知性》 悪魔

《精神》 女しか殴れない屑

《幸運》 的盧


《経験》 298 


昨日経験値204

本日取得 80

本日利息 14


次のレベルまでの必要経験値12


※レベル6到達まで合計310ポイント必要

※キョンの経験値を1と断定

※イノシシの経験値を40と断定

※経験値計算は全て仮説




【スキル】


「複利」 


※日利5%

 下2桁切上




【所持金】


3165万1160円




【所持品】


jet病みパーカー

エモやんシャツ

エモやんデニム

エモやんシューズ

エモやんリュック

エモやんアンダーシャツ 

寺之庄コインケース

奇跡箱          

コンサル看板 

鷹見のスマホ      ← new




【約束】


 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」

 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」

〇         「同年代の友達を作って欲しい。」

          「100倍デーの開催!」

          「一般回線で異世界の話をするな。」

〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」

          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」

 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」

×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」

×         「女性を大切にして!」   

〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」

×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」

×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」

          「今度、焼肉でも行こうぜ!」

 藤田勇作     「日当3万円。」

〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」

〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」

          「お土産を郵送してくれ。」

 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」

 警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」

×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」

〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」

 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」

×平原猛人     「殺す。」

          「鹿児島旅行に一緒に行く。」

 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」

 今井透      「原油価格の引き下げ。」

 荒木鉄男     「伊藤教諭の墓参りに行く。」

 鈴木翔      「配信に出演して。」 


 木下樹理奈    「一緒に住ませて」


〇鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って。」

〇         「カノジョさんに挨拶させて。」

          「責任をもって養ってくれるんスよね?」


×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」

          「王国の酒…。」

          「表参道のスイーツ…。」 

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― 新着の感想 ―
お前かよ!wwwwwww 声出たわーw うまいなーw わろたーw
[良い点] 人が捕まる時って実に興奮しますね [気になる点] 鷹見の謎フィジカル
[一言] おwまwえwがwつwかwまwんwのwかwwwwww そして、じたばたして見苦しいwwww
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