【降臨21日目】 所持金2378万6819円 「ママに聞かないとわからないでちゅ。」
異世界転移時の初期レベルは1。
レベル2になる為には10の経験値が必要だった。
レベル3になる為には20の経験値が必要だった。
レベル4になる為には40の経験値が必要だった。
少なくともステータスウィンドウには、そう表示されていた。
言うまでもなく、地球では自身のステータスを確認出来ない。
…だが、レベルアップ法則に大した違いはない。
そう仮説立てている。
キョンを10匹殺した時点で、日利は2%に増えた。
キョンを20匹殺した日に、日利は3%に増えた。
故に、必要経験値は異世界同様であり、そしてキョン1匹の経験値は1と見てまず間違いないだろう。
そして昨日、レベル4に上がった。
イノシシ2頭に40ポイント以上の経験値があった為に違いない。
逆にレベル5・日利5%(40+80で120必要)にまでは上がっていないということは…
1頭あたりの経験値は20以上60未満となる。
今日、2匹だけ殺す。
もしもレベル1上がったらイノシシの経験値は30以上60未満。
上がらなければ20以上30未満に絞られる。
昨日、鈴木に教えて貰った狩猟事情。
本州で狩れる獣でポピュラーなのは、やはり猪と鹿。
そして恐らく、体格や気性からして鹿より猪の方が経験値は多いだろう。
可能であれば、狩るのは猪一本に絞りたい。
なので、猪の取得経験値は正確に少しでも知っておきたい。
今日は2匹だけ殺す。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
平原猛人の晩酌に真夜中まで付き合わされたので、今日も寝坊してしまった。
10時20分。
例によって朝が起きられない。
「おう、リン。
水ないか?
頭痛いわ。」
『飲み過ぎですよ。』
「俺も弱くなったなあ。
昔は一晩中飲み続けてられたのにな。」
『隼人君が心配してましたよ。』
「マジ?」
『マジです。
そりゃあ、親が深酒してれば心配するでしょ。』
「地味に嬉しい。」
『アイツの代わりに俺から頼みますわ。
少しは酒を控えて下さい。』
「そうだな。」
『後、警察沙汰も控えて下さい。』
「いや!
警察は違うって!
俺は何も悪いことしてないのに!
アイツラが勝手に逮捕状持って来るんだよ!」
『いやいや、違わないですよ。
最近もレイプで告訴されたばっかりじゃないですか。』
「アレは夫婦だからノーカン。」
『カウントするか否かは司法機関が決める事っす。』
「可愛げのない奴だなあ。
オマエだって誘拐犯の癖に。」
『さらってねーす。』
「でも指名手配されてるじゃん。」
『まあ、警察に接触したい対象は多いし
一旦捕まりますわ。』
「オマエ…
結構、肝が座ってるよな。
今時の若者にしては根性あるよ。」
『どもっす。』
「なあ、ひょっとしてワザと逮捕されようとしてる?」
『まさか。
ただ、役人との接点は増やしておきたいですね。』
これは切実。
こっちが出世しちゃうと、個々の役人と接触しようがなくなるからね。
異世界でもそこは苦労した。
俺としては省庁の課長クラスと歩調を揃えたかったのだが、巨額過ぎる資産が災いして局長クラスとしか話せなかった。
更に富むと、王族クラスとしか話せなくなってしまい、最後は局長級ですら遠慮して俺への直答を控える様になってしまった。
この反省を踏まえて、地球では資産形成ペースをやや落としている。
(但しレベリングは積極的に行う)
巨万の富を築いてしまう前に、何としても各省庁の中堅層と個人的な面識を持っておきたい。
逮捕されるのが一番てっとり早い気がする。
…雑な考えである事は百も承知なのだが。
現在、このグランピング区画には鷹見・平原という、まだ捕まってない犯罪者が居る。
鈴木にしても叩けば埃が出るタイプだろう。
こんな連中と一緒に居る以上、既にクリーン路線は断念している。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「トイチさん、少しいいですか?」
エモやんの報告。
指名手配の件だろう。
「佐々木に詳細を探って貰っているのですが…
まずは話を整理しますね。」
『ええ。』
「伊東まゅま14歳。
現在、この子が失踪中。
実家とも学校とも連絡が付かない状況です。」
『なるほど。
そりゃあ、ご家庭も心配しますよね。』
「伊東の実家は興信所を雇うなどして娘を探しておりました。
比較的裕福な家庭らしいです。
その過程で、トイチさんの配信に映っている伊東まゅまを発見したようなのです。」
『へえ、ネットって怖いですよね。』
「そして埼玉県警に
《娘がこの動画の男に誘拐された》
と被害届を出したとのことです。」
『…。』
「佐々木によると、伊東家はトイチさんが誘拐していない事は理解しているようなのです。
《警察に捜査させれば、後は自動的に娘が帰って来るだろう》
という程度の意識みたいで。
去年、同様の手口で伊東まゅまを保護出来た事が成功体験になっているようですね。」
『…大体、あらましは理解出来ました。』
「佐々木には、あれからも伊東からメッセージが来ているみたいなのです。」
『ほう、何と?』
「このスクショ画面を御覧下さい。
読み上げますね?
[おぢに食い逃げされた(ぴえん)]
[ねー そっちセーアン来てる?]
[天丼250ぇんの店見つけた!!!]
この3つです。」
『都内で天丼250円は安いですねえ。』
「いえ、極端に単価の安い店は反社が経営している可能性が高いので気を付けて下さい。
特に海鮮系の飲食店は密猟の換金ルートとして悪用されるケースが多いですので。」
『マジっすかー。
世の中怖いですねー。』
「現在、佐々木とjetさんが警察にトイチさんの無罪を証言し得る人間を探しております。
幸い、伊東まゅまは東横では目立った存在らしく、タイミング次第では十分証言可能かと。」
『jetに礼を述べておいて下さい。
佐々木さんにも。
…あ、一応謝礼を私の代わりに振り込んでおいて頂けませんか?』
「…佐々木なのですが、事情があって口座を使えない状態なのです。
所持しているスマホも、裏ルートで買った本人名義ではないものなので…」
『あの子も事情ありそうな雰囲気ですね。』
「詳細は伏せますが、やむを得ない事情から事件を起こしてしまい
地元に帰れなくなってしまったのです。
施設を出たばかりで…」
『とりあえず、100万円渡しますのでjetに送っておいてくれませんか?
佐々木さんと2人で分ける様に伝えておいて下さい。』
「え!?
100万ですか?」
『あの2人は俺の為に動いてくれてる訳じゃないですか?
でも肝心の俺はのんびり起きてこうして肉を食べてる訳でしょ?
せめてカネくらいは払わせて下さい。』
「…わ、わかりました。
早速振り込んで来ます!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1609万6919円
↓
1509万6919円
※江本昴流に謝礼金100万円の振込を依頼
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
江本を見送った後、鈴木と本日の打ち合わせ。
《昨日同様、2匹だけ殺害したい。》
と伝える。
特に詮索はされない。
「…あ、あの!」
『はい、何か?』
「先日は申し訳ありませんでした!」
『え?
と、申しますと…』
「ルナルナ@貫通済さんと…
き、キスしてしまって…」
『ああ、お気遣い恐縮です。
ああいう奔放な面も彼女の魅力。
細やかなお気遣いこそ、若輩の私が学ぶべき鈴木社長の御人徳。
そう解釈しております。』
鷹見は兎も角。
今の俺に鈴木は必要不可欠な存在だ。
この男だけは何としても繋ぎ止めておきたい。
欲を言えば、味方以上の身内とも言える存在に仕立て上げたい。
「…いやぁ
トイチさんは落ち着いてらっしゃる。
自分が20歳の頃を思い出して恥ずかしくなります。」
『いえ。
先日も思った事ですが
私もいつかは鈴木社長のような大人になれたらと憧れております。
どうか今後も御指導をお願い致します。』
「あ、いや。」
…褒め過ぎたか。
まだ匙加減が上手く行かないな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
着替えをしているとヒルダに声を掛けられる。
「また妾が増えるのですか?」
『?』
「女を攫ったそうではありませんか。」
『いや、それは誤解だ。
単に冤罪でこっちの世界の治安機関に手配されただけだよ。』
「…どうせ、それが切っ掛けで妾が増えますよ。」
『既に言ったが。
気に入らなけば追い出せばいい。
奥向きの事は全てヒルダに任せるよ。』
「…どうせ、私好みの面白い女が来るのでしょう。」
『そんなに鷹見が気に入ったか?』
「…昨日はリンを殺した後、どこに死体を隠すかを相談しておりました。」
『そっか。
なるべく痛みなく殺してくれれば助かる。』
「どうするのですか?」
『指名手配されたという事は…
警察が被害届を受理して、裁判所が逮捕状を発付したってことだからな。
俺にはどうこう出来ないよ。』
「いえ、ルナの処遇です。
側室に迎えるのですか?」
『いや、本当に言葉通りなんだ。
オマエが決めてくれればいい。』
「…。」
『地球のこれからは全て俺が決める。
口を出すな。
但し助言は欲しい。
奥向きの事はヒルダが決めてくれればいい。
王国や帝国でも、側室選びには正室の意向が強く反映されていただろう?
それと同じだ。』
「私はリンの正室なのですか?」
『正室はコレット・コリンズ。
ヒルダ・コリンズは母。
これは不動。
但しオマエを異性として見ている。
実は凄く好みだ。
以上。
何度も同じことを言わせるな。』
「…その様な愚かな判断は、本国でもこちらの世界でも聞いた事はありません。」
『だろうな。
俺も同じことをしている馬鹿は見た事がない。
不快か?』
「嫌悪9割。」
『だろうな。』
「ですが心のどこかで女としてのプライドを擽られている己がおります。」
『そっちの比率を増やせるように精進するよ。』
「期待せずにお待ちしております。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本日の護衛は飯田と後藤。
安宅は今日も銀行。
12時前には出発すると決めた。
「遠市さん。
今日は姫街道を進みます。
仲間が箱罠の猪を譲ってくれることになったので。」
『姫…?
街道…?』
「愛知県に抜ける街道です。
今は脇道に成り下がってしまいましたが、かつては東海道の本道でした。
ここから車で20分程の距離ですので。」
『ああ、気を遣って下さって助かります。』
俺達が狩装束に着替えていると、鷹見が指を咥えてこちらを見ている。
御自慢のドローンを足元に着陸させているのは《役に立つアピール》だろうか?
「ウ↑チ↓も行きたいッス。
あ、イキたいというのは下ネタとのダブルミーニングの要素はあまりなくて。」
『ヒルダ!
どうする!?
オマエが決めろ!』
「我々は食事の支度をしておきます。」
『鷹見、良かったな。
ヒルダはオマエを相当気に入ってるぞ。』
「えっと、微塵も歓びが沸き上がって来ないのですが。」
『なあ鷹見。
オマエ、何か欲しいものある?』
「え? いや、脈絡なく急に言われても。
女はカネとチ〇ポ以外に興味ない生き物ですよ?」
『じゃあ、今夜は小遣いやるよ。』
「えっと…
この文脈だと、普通は後者をくれる場面なんですけど。」
『後者はヒルダの判断に任せる。』
「前者のみ許可!」
『だ、そうだ。』
「サイテーのマザコン野郎ッスね。
死ねウンコ野郎!」
『うん。
じゃ、行って来るわ。』
バックミラーには軽口を叩き合っている鷹見とヒルダが映っている。
明らかに身内の距離感だ。
アイツらどうせガッチリと結託するんだろうなあ。
嫌だなあ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「右手に見えるのが橘逸勢神社です。」
『あ、はあ。
三筆でしたっけ?
空海関連の。』
「流石に博識ですね。
…参拝されますか?」
『え?
参拝?
した方がいいんですか?』
「あ、いや。
朝、仰られてたじゃないですか。
身に覚えが無いのに指名手配された、と。」
『ああ、なるほど。
私なんかが《似た境遇》とか言ったら
逸勢公に失礼っぽいですけどね。』
「す、すみません!
変な意味はなくて…
遠市さんの冤罪が一日でも早く晴れれば、と。」
『ははは、気を遣わせてしまい恐縮です。
それでは折角ですから参拝してみますか。』
流刑人を祀っただけあって本当に小さな神社である。
おかげで上る階段が短くて助かる。
鳥居脇の石碑をチラ見。
読み切る根気はない。
後続の飯田がスマホでアレコレ撮影してくれる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1509万6919円
↓
1409万6919円
※警視庁or印刷局から渡された100万円を橘逸勢神社に破棄。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「遠市さん、えっと。
私も遠目に拝見しただけなのですが…
…その。」
『筆供養です。』
「…なるほど、筆供養なら仕方ないですね。」
『鈴木さんの御地元への感謝も込めて、です。』
「恐縮です。
あの、今日も精進致しますので。」
車は神社を通り過ぎ、トンネルの脇に到着。
どうやら眼前のトンネルを潜れば愛知県の豊橋市に至るらしい。
そして近隣の農家と話が付いているのか、スマホで談笑しながら鈴木は脇道を数分進む。
「話はついてます。
新しい電気槍を試してみたいので、止め刺しだけさせてくれ。
そういうタテマエです。」
『何から何まで助かります。』
「あくまで殺したのは私という事になります。
問題が起これば全て私、ということで。
遠市さんは見学していただけ。
宜しいですね?」
『承知しました。』
箱罠に一頭。
電流を流し込んで殺す。
流石に要領は覚えたので、単なる作業だった。
「お見事。」
『いえ、無抵抗の相手だったので。』
「もう1匹箱罠に掛かってるのですが…
天竜川沿い、それも上流なので、相当時間が掛かります。」
『ああ、そうですか。
17時には戻れなさそうですか?』
「うーーーん、飛ばせばギリギリ…
ああ、いやちょっと難しいかもです。
ただですね、この近所にもう一匹イノシシが掛かってます。
ここから車で5分もしない位置です。」
『あ、じゃあそっちをお願いしていいですか?』
「…それが、ククリ罠なんですよ。」
『?』
「剥き出しのイノシシの足にワイヤーが掛かっただけの状態です。
箱罠と違って、負傷リスク高いです。
止め刺しに失敗して返り討ちにされた猟師も少なくはないです。」
『へえ、とりあえず見せて下さい。』
別に勇気がある訳ではない。
《ククリ罠》という語感が面白くて、どんな形状なのか見てみたかっただけである。
車は5分も走らずに目的地近くに着く。
「あそこですよ。」
『うわあ。
本当に前足にヒモが掛かっているだけですね。』
「…ちょっとおススメは出来ないですね。
アレ、オスの…
結構大型です。」
『…後藤さん!』
「はい。」
『何としてもあの個体を殺害したいです。
フォローお願い出来ますか?』
「いけます!」
後藤の自信に溢れた表情を見て安堵する。
まあ、この男なら何とかしてしまうだろう。
「トイチさん、少し下がっていて下さい。」
言いながら後藤は布塊を持って来る。
『それは?』
「網です。
農業用の。
これを投網的に使います。」
『じゅ、準備がいいですね。』
「ええ、お役に立てる様に
幾つか武器を持って来たので。」
頼もしい男だ。
よく見ると全身のポケットにも色々入っている。
『広げます!』
後藤のアクションは全面的に信頼しているので、何の危惧も無かった。
案の定、ネットを絡めてイノシシの動きを見事に鈍化させてしまう。
後藤は自然にやっているが、凡人に真似出来る芸当でない事は理解出来る。
もがいているイノシシを電気槍で殺す。
『いやあ、後藤さんには毎度驚かされます。』
「いえいえ。
タダ飯を頂いている事に罪悪感があったので。
自分なりに工夫してみました。
一応レベリングも行ってます。」
『え!?
レベルですか?』
「いやいや、トイチさんが仰ってたことじゃないですか?
キョン10匹でレベルが上がると。」
『あ、はい。
あくまで推測ですが。』
「恐らくその仮説は正しいですね。
10匹殺した時点で、身体能力が微増しました。」
『え!?
微増って、わかるんですか?』
「いえ、自分の身体なので
当然コンディションの変化は把握出来ますよ。
ほら、俺って元ピッチャーじゃないですか?
チームに対して体調を申告する義務があるんです。」
『な、なるほど。』
そうか。
この男はチームスポーツのエースだもんな。
自身のコンディションを言語化するのも仕事のうちなのだろう。
「江本も10匹殺したそうです。」
『え? エモやんさんも?』
「あの男は俺と違って緻密なので、レベリング前後に握力を計測してました。」
『おお、流石。』
「通常、江本の右握力は56~58の間だったそうなのですが
キョン10匹殺害後は57~60に微増したとのことです。
一応、トイチさんだけに報告するタイミングを探ってました。」
後藤は人好きのする表情で離れた場所にいる飯田と鈴木を眺めながら、そう言った。
『あ、なるほど。
お気遣い感謝です。』
「ゲームみたいにキッチリはしてませんけど。
レベリングは普通に可能ですね。
きっと昔の人間は経験則でレベリングの概念を理解していたんでしょう。
だからこそ猛獣と闘う風習が世界中に存在する。」
…後藤。
この男もまた一個の怪物である。
世の中の大抵の事象を言語に落とし込む知性と、実践してしまえる胆力を兼ね備えている。
『後藤さん、特許でもとります?』
「ははは。
動物愛護の観点からも、こんな情報は広めるべきではないでしょう。」
『…はい。』
まあ、そうだろう。
レベリングの概念は俺達で独占するに越したことはない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1609万6919円
↓
1579万6919円
※鈴木翔に30万円を支払い
(日当10万円+イノシシ殺害歩合10万円×2)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
車内で鈴木に謝礼を支払う。
「いやー、正直に申しますね。
ちょっと貰い過ぎというか…
今日なんか。実働殆どないですよ?」
『でもね、鈴木社長。
こっそりイノシシを殺させてくれる相手なんて
世の中に何人居るのでしょうか?』
「いや、まあ
それはそうでしょうけど。」
『私は助かってます。
可能であれば、これからも懇意にして下さると嬉しいです。』
…とは言ったものの。
短期間で集中してレベリングする予定なので、鈴木との付き合いが短期間である可能性は高い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
キャンプに帰るとヒルダ達がシーフードバーベキューの準備を整えてくれていた。
イカ・ふぐ・エビ。
オリーブや八角を刻んだソースは王都風。
懐かしいなぁ。
「この貝は、三河名物のイタヤ貝というらしいです。
ベビーホタテに似ておりますね。」
俺が内心舌を巻くのが、ヒルダが完全に地球知識をマスターしている点である。
《三河》という旧国名も何気なく会話に出て来る。
ロシア語もウクライナ語も、日常会話程度であれば不自由しないそうだ。
…あのさあ、もう少し、その、手心というかさあ。
他人が持ってるチートって、マジで怖いよな。
「ねえ、ヒルBAA。
このBBQソース、変な味しないッスか?
ロシア風?」
「まあ、そんな所です。」
「へえ、ひょっとして異世界風?」
「好奇心は猫をも殺すそうですよ?」
「うはは、怖ぇえw
ねえ、ヒルBAA。」
「ん?」
「ウ↑チ↓、この味嫌いじゃないッスよ。
鼻をツマミながらなら、食べれるッス。」
「それ、故郷の宮廷料理です。
王族の中にも苦手な方はおられたので、無理に食べる必要はないですよ。」
「ほーーん。
宮廷料理と聞くと、ウ↑チ↓の口に合う気もしてきたッスねえ。
はい、ダーリン様♪
あーーーん♡」
『あ、スマン。
俺への《あーん》はヒルダの許可を貰ってくれ。』
「まぢ糞だな、このキモマザコン!
ねえヒルBAA!
あーんくらいはいいでしょ!」
「あらぁ、あらあら♪
ごめんなさいねー♪
リンは私のお酌じゃないと食べれないから。
リン♪
はい、あーん♪」
ヒルダが満面の笑みで俺の口元に王国イカ焼きを運ぶ。
もっとも、目は全然笑ってない。
『懐かしいな。
胡桃亭で何度か食べた味だ。』
「王都の宿でしたので、外国の宿泊客が王都風料理を食べたがるのですよ。
特に帝国人にとっては相当珍しいらしく、好評でしたね。」
『ドナルド…
ドナルド・キーンも食べたのか?』
「ええ。
リンが来る前年の事でしたでしょうか。
不意にやって来られて…」
『そっか。
今の俺、あの人と同じメシ喰ってるんだな。』
「気に入って下さっているのですか? あちらを。」
『そりゃあ、単純な愛着なら向こうの方が強いもの。』
「…それは意外です。
リンは帰る話ばかりしていたので、地球にしか興味がないのかと。」
『地球は…
そもそも、あまり良い生まれ育ちではないからな。
義務感だよ。
帰って来たのは。』
王都風料理と言っても、ソースが向こうの味の組み立てというだけで、ただの海鮮焼きに過ぎない。
それでも、胸を焼くような強烈な懐かしさがある。
『鷹見ー。
無理して食べなくていいぞ。』
「いや!
ウ↑チ↓もダーリン様の家庭の味に慣れていきます!」
「うふふ♪
ルナ、無理をしなくていいんですよ♪」
「あーーーー!!!
テメーBBA!!
その勝ち誇ったドヤ顔やめろやー!!!」
ヤバいな。
この2人がここまで相性が良いとは思ってなかった。
喧嘩されるのは当然困るのだが、結託されるのは洒落にならない脅威だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
寺之庄のキャンピングカーに入室。
今日の分配は、この男一人に立ち会ってもらう。
理由は簡単で鷹見・平原・鈴木という部外者が同敷地内に居るから。
三者三様に曲者である。
殊更排除する意図もないが、こちらから手の内は明かさない。
「トイチ君、コーヒーで良かった?」
『あ、お構いなく。
もしも積んであれば、ミネラルウォーターかお茶を下さい。』
弓長真姫、フリルの付いたエプロンを着てすっかり寺之庄の新妻気取りである。
やたらと機嫌が良い理由は不明だし、詮索する気もない。
「あ、私ね?
家でクッキー焼いて来たの。
ヒロ君も美味しいって言ってくれたのよ?」
『あ、そうっすか。
頂きます。』
…ヒロ君。
ん?
これ、マズくないか。
後々深刻なヒューマンエラーが起こり兼ねんぞ?
寺之庄煕規はいつもながら穏やかな微笑を口元に浮かべている。
特に弓長を気にする雰囲気すらない。
…婚約者とか大丈夫なのか?
何か嫌な予感がする。
三国志の最強コンビ李傕・郭汜が決裂したのも、嫁さんの嫉妬からだぞ?
大丈夫だよな?
俺にとばっちりはこないよな?
『いやあ、美味しいです。
弓長さんはお料理も得意なんですね。』
「うふふ♪」
言いながら弓長は寺之庄の肩に頭を乗せて笑う。
本音を言えば、婚約者の件を問い質したいのだが、間接的にとは言え弓長は出資者だ。
あまり厳しい態度を取ってしまうとチームに亀裂が入り兼ねないか…
いや、俺がそう考える事を見越したから、女としての勝負に出たのだろうか。
「じゃあトイチ君。
現金、確認して下さい。」
普段からカーテンを閉めっぱなしの居住区画。
ベッドサイドの収納スペースが我々の金庫になっている。
『やはり大金を車に積みっ放しは怖いですね。』
「出口戦略もそろそろ考えなきゃね。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1579万6919円
↓
1億9579万6919円
※出資金1億8000万円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『出資金、数千万円ずつ増えてますね。』
「安宅さんがあちこちの銀行から搔き集めてるから。
高額を引き出す時は、どこの銀行も身分証とかを求めてくるから大変みたいだよ。」
『あの人、幾ら持ってるんですかね?』
「最低3億は預けたいって言ってたよ。」
『まあ、預けられればちゃんと利息は払いますけど。
大金を持ち歩くの怖くないんですかね?』
「僕だって怖いよ。
責任もあるし、結構ビクビクしてる。」
『やっぱり定住が一番ですね!』
「ははは、まったく。」
弓長は運転区画でファッション誌を読むフリをしながら周辺の様子を警戒してくれている。
不意の闖入者だけは避けたいからな。
『ヒロノリさん。』
「んーー?」
『婚約者さんに連絡取らなくていいんですか?』
「今、連絡を取ったら…
家族ごと来ちゃうよ?」
『あー、これ以上利害関係者が増えても仕方ないかもです。』
「ねえ、トイチ君。」
『あ、はい。』
「真姫はねえ。
戦力になるタイプだよ。」
それだけ言うと寺之庄は話を締めくくった。
聡い男だ。
今の一言で俺を完全に納得させてしまった。
《978万9900円の配当が支払われました。》
『よし!』
思わず拳を握る。
「トイチ君?」
『ヒロノリさん。
…お陰様で、順調です。』
「…おお。」
『必ず還元しますので
もうしばらく私の我儘に付き合って下さい。』
「ああ、いやいや。
こちらが頼んで同行させて貰ってるだけだから。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1億9579万6919円
↓
2億0558万6819円
※配当978万9900円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日利5%!
よし! よしよしよし!!
理想的な形で話が進んだ!
しかも異世界の時と同じくレベル5になった途端
下2桁切り上げが付与されている!
やはりレベルアップ法則は地球でも同じなんだ!!
俺は直感的に悟る。
恐らくは、イノシシの経験値は地球でも40ポイントなのだ。
明日からは40ポイントと仮定してレベリングをしよう。
レベル2まで 10ポイント(キョン10匹殺害)
レベル3まで 20ポイント(キョン20匹殺害)
レベル4まで 40ポイント(イノシシ1匹殺害)
レベル5まで 80ポイント(イノシシ1匹殺害+本日1匹殺害)
レベル6まで 160ポイント(本日1匹殺害)
※レベル6到達まで合計310ポイント必要
ということはレベル6まで160ポイントだから…
1匹差し引いて、次のレベルまで経験値120ポイント。
次にイノシシを3匹だけ殺せばレベル6に上がる。
確信がある。
そして、ここからが重要。
異世界では保有経験値が100を越えたかレベル5になった辺りから、複利が付き始めた記憶がある。
昨日、保有経験値が110ポイントに到達した。
恐らくこれに4%が加算されている。
110+4(端数切捨て)=114
今日更に80ポイントを獲得したから194ポイント。
これに5%の日利として10ポイントが乗って204ポイント保有していると見た。
この仮説を早めに証明したい。
保有経験値に利息が付いていなかった場合、次のレベルまで120ポイント。
既に利息が付いていた場合、次のレベルまで106ポイント。
明日可能ならイノシシを2匹だけ殺す。
すると日利有りの仮定で、総保有経験値284ポイント。
これに5%が乗って+14で298ポイントとなる。
するとその翌日には298ポイントの5%として15ポイントが付与されるので
レベル6へ到達する為に必要な総経験値310ポイントを上回る313ポイントを保持している事になり
手を汚さずにレベル6となる。
逆に数日待ってもレベル6にならない場合、地球では経験値に利息が付かないものだと判断する。
ふふふ。
俺は計算やら数字が嫌いなのだが、銭勘定となると必死に頭が回転してしまう。
人間というのは現金な生き物だw
「あの、リン君?」
寺之庄が不安と期待の混じった目で俺を見ている。
きっと興奮が隠せていないのだろう。
そりゃあ、そうだ。
まさか連日レベルアップ出来るとは思わなかった。
浜松に来て良かった。
鈴木に逢えて良かった。
何より、鈴木を紹介し、かつ俺をここまで連れて来てくれた寺之庄に感謝である。
『ヒロノリさん。』
「ん?」
『貴方にかなり助けられてます。
貴方のお陰で順調です!』
「ははは。
役に立てて嬉しいよ。」
『恩返しは、必ずや!』
「もう配当貰っちゃてるしw」
『プラスアルファを必ずや!』
「ははは。
まだ何か貰えるの?
参ったなあw」
『まあ、まずは払い出しをさせて下さい!』
「うん、カウントするね。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
2億0558万6819円
↓
2億0378万6819円
↓
2378万6819円
※配当金180万円を出資者に支払い
※出資金1億8000万円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
2000万越えたかあ…
地球での経験値法則も見えて来たし、ここからは早いだろうな。
もう元本はあまり考えなくていい。
周囲が俺の為に必死に用意してくれるからだ。
後はカネの置き場所だな。
地球にもミスリル貨があれば助かるのになあ。
まあ、そこまで俺に一方的に都合の良い話はないだろう。
今あるカードは充分チートなのだ。
感謝して戦おう。
『ヒロノリさん。
一旦、出ますね。』
「オッケー。」
キャンピングカーを出て数分してから、手筈通り安宅が乗車する。
部外者の前では、こうする事に決めた。
俺がグランピング場のオプションであるハンモックでくつろいでいると、鷹見が勝手に隣のハンモックで配信を始める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【相談急募】 彼ピが重度のマザコンだった件について [雑談]
※この配信では「たぬきの葉っぱ」で匿名コメントができます
「はーい、今日はちょっとテンション低いです
《ルナルナ@貫通済》でーす。
あ、《ポン吉》さん。
金のハート、ありがとでーす。
もうねー。
タイトルの通りッスわ。
滅茶苦茶凹んでます。
今ね?
見ての通りダーリン様とキャンプデートなんスよ。
うん、静岡県。
浜名湖ってあるじゃない?
そこのキャンプ場、それも金持ち向けのガチな施設に来てます。
景色もアメニティも最高で、環境はいいんスけどね。
お、《地卍蔵》さん
金のバラ感謝です!
いつもありがとね。
勝負下着買ったんスよ。
黒レースの結構エロいやつね。
いや、勝負する場面だから。
ダーリン様とキャンプデートなんて
まさしくメスの関ケ原ッスよ。
《たぬき13号》さん、別にアイテム投げなくても見せてあげますって。
BANされない程度に下着チラ見せしますね。
見える?
映ってる?
シースルーランジェリーの股割れ式。
上下で4000円した。
ウ↑チ↓にとっちゃ高い買い物なんだよw
《へっぽこ大明神》さん、エロい? 可愛い?
ありがと♪
それでねー。
気合満々で静岡まで来たんだけど。
ダーリン様が、母親同伴で来てるのね?
信じられる!?
一昨日も昨日も、相手のカーチャンと相部屋よ!?
もうねー、頭おかしなるよ?
いや、マジで。
…ねえ、ウ↑チ↓って魅力ないかな?
やっぱブスは、こういう扱いされる宿命なのかな?
《たぬき3号》さん風船ありがとです。
それでね?
ダーリン様…
どうも母親とヤッってるっぽいんスよ。
隠す気もないっていうか…
でしょ!?
おかしいよねぇ!!
ウ↑チ↓が病むのも仕方ないでしょ!
《アスパラカス》さん、いつもコメントありがとうね。
《ええんやで》さん、アイテム投下無理しなくてええんやで。
いや、厳密に言えばねー。
ダーリン様の元嫁の母親。
うん、そう自称してる。
結構美人ッスよ。
自称ウクライナ人。
戦争から亡命してきたって言ってるけど…
なんか嘘くさいんだよね。
あ、《たぬき10号》さん!
ふわっちくんメガホンありです!
またゴールデン1位狙うからね!
えっとねえ。
それでね。
BBAが一々マウント取って来るんスよ。
さっきも料理の用意手伝わされたんッスけど。
ウ↑チ↓家事系苦手じゃないッスか?
そしたら
《女の癖にそんな事も出来ないのぉ↑》
とかネチネチ言って来るんスよ。
それでね?
それでね?
ウクライナ料理?
なんか味付のヘンテコな料理食べさせられて
聞いて!
漢方薬みたいな味のステーキソース!
うん、それで肉を食べさせられるの
そりゃあ、《おげ》ってなるよお。
それでね?
それね?
ウ↑チ↓が一口食べてもうギブアップって気持ちになってたらね?
見せつけて来るんですよ
BBAが!
こっちを見ながらニヤニヤしてね?
ダーリン様に あ~んってしてるんスよ!!!
それでね!!
ダーリン様も嬉しそうに糞マズ漢方ステーキをモキュモキュ食べてるんスよ!!
もうね!
あの男は常にBBAの肩を持つの!!
ウ↑チ↓がね?
折角のキャンプなんだから、Hしようよって誘ったらね?
ダーリン様の奴、何て言ったと思います?
《ママの許可を取って》
そう言ったんスよおおおおおおお!!!!!
もうねー、もうねー。
今日100回くらい発狂してました。
ふーーーー。
コメント読み忘れちゃっててゴメンね。
うん、ちょっと泣いてるかな。
…いや、別れない!!!
だって好きだもん!!!
本気で好きだもん!!!
ヤダ!!!
…ひっぐ、ひっ、ひぐ。
あは、ゴメンね。
《KIRA》さん、ありがと。
うん、頑張る。
負けない。
誰かを好きになるのって
どうしてこんなに苦しいんだろうね?
後、あの年頃のBAAはどうしてあんなにウザいんだろうね。
ったく、腐ってるのは羊水だけにして欲しいわ。
うん、そうだよ。
昨日の配信じゃああ言ったけど。
ウ↑チ↓、ダーリン様に貫通して貰ってない。
…あのBBAとはヤリまくってる癖にさあ!!!!
ああああああああ!!!!
もうやだああああ!!!!!
心が痛いよ!!!
折角のラブラブ旅行がBBAの所為でぶち壊しだよ!!!
《ちーかま執行猶予中》さん、金のシャンパンタワーありです!
いつも助かってまーす!
あー同接増えて来た。
989人。
これ1000越えるかも。
あ、プロフィール欄に色々リンク貼ってます。
ファンティアには過去のエロコスもアップ、有料プラン加入でエロシチュボ聞けるので、フォロー宜しくです。
あああああああ!!!!
ダーリン様が近親相姦してて辛いよおお!!!!
もうね。
涙が… 止まりません。
…辛い、辛いよぉ
あのBBA… 死なねーかな。
いや、滅茶苦茶ガタイのいいBBAなんスよ。
ほら、ダーリン様って貧弱チー牛じゃないっスか?
恵体信仰あるんでしょ、きっと。
寝込みを襲って殺す予定だったんスけどね?
全然隙がないんスよ。
いや、死体は浜名湖にドボンで。
相手が女ならね?
ステゴロじゃ絶対負けない自信はあったんスよ。
…あのBBAはねえ。
強い。
うん、ガチ。
100回勝負して100回殺されるのが見えてる。
手首とかゴツくてヤバいっスよ。
いやマジで! 骨格からしてヤバい!
うん、まあねえ。
そういうBBAから常に牽制されてるんスよ。
《イチゴフラッペ》さん、金の招き猫ありがとうございます!
…あの、ファンティアの貢ぎマゾプランにも入ってくれてますよね?
いつもありがとね。
はい、それでは
事前に告知しておりましたが!
本日のスペシャルゲストー。
誰だと思う? 誰だと思う?
ふふふ。
ヒント、ガルパン。
あははは。
ええ、そうなんスよ。
ななな、なーんと。
ダーリン様が隣でスタンバイして下さってます。
はーい!!!!
みなさーーーん!!!
それではゲスト入場!!!!
ダーリン様こと、遠市厘様でーーーーす!!!!
皆さん、はくしゅーーーーーー!!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『え?
マジ?
オマエ、この流れで俺を映すの?
え?これもうカメラ回ってるの?』
「はい、ダーリン様!!!
現在同接990…
いや1000行ったぁッ!!!!」
『なあ、前から思ってたんだけど
同接って何?』
「いやいや!
ダーリン様、何を仰ってるんですか!
今、令和ですよ!?
同接とは
リアルタイムで何人がその配信を「見ている最中」
であるかを示した数字です!
つまり今は1000… いえ1080人がこの動画を見てるってことなんスよ!
しかもふわっちでですよ?」
『ふーーん。
あの、俺が喋ってる声って
その1080人に届いてるの?』
「はい、もう1100人を突破してますけど。
ダーリン様、やっぱり数字持ってますね。」
『こんにちはー。
鷹見に構ってやってくれてありがとうね。
これって見るのに、おカネとか掛かるの?』
「あ、いえ。
ふわっちは基本無料です。
アイテムってのを購入すれば配信者にプレゼント可能です。
その売り上げの5割を獲得出来ます。」
『へー。』
「今、《やっくんのパパ》さんが金の花火を上げてくれましたよね?」
『あ、うん。』
「この花火は1000円のアイテムですから
500円がウ↑チ↓に入って来ます。」
『え?
マジ?
あんなエフェクトに1000円も掛かるの?』
「あんなって言わないで下さい
ウ↑チ↓らはこれに命懸けてるんスよ!!」
『えっと。
《やっくんのパパ》さん。
まずはありがとうございます。
お気遣いを嬉しく思います。
ただね?
貴方が裕福な方ならいいんですけど
もしも御生活にそこまでのゆとりが無い場合
デジタル的な浪費は控えて欲しいんです。
ハンドルネームにパパって書いているということは
お子様がおられるんですよね?
じゃあね?
さっきの1000円はお子様に使ってあげて欲しいんです。』
「ダーリン様。
配信の大前提を否定しないで。」
『えっと。
鷹見は私が責任をもって養いますんで。
高額の贈答は…
いや独占欲とかではなく。
デジタル上の贈答って浪費じゃないですか。
だから、応援コメントだけでいいんですよ。
払うとしてもせいぜい10円とかね。』
「ちょっと待ったーー!!」
『いや、俺は前々からデジタルデータの値付けに疑問を…』
「いや!
そこではなく!
今、《責任をもって養う》って言いましたよね?
言いましたよねーー!?」
『ん? 言ったよ。』
「そ、それは…
け、結婚… と言う意味の。」
『いや、オマエの立ち位置は当然ヒルダに任せるけどさ。』
「また、あのBBAかああああ!!!!!!!!
超速でタイトル回収すんなやああああ!!!!!」
『あ、ゴメン。』
「あーーーーー、もう!!!
あーーーーー、もう!!!
何なん!?
オマエ何なん!!??
明日オマエの惨殺体が浜名湖に浮いてたら
犯人絶対ウ↑チ↓だよ!?」
『浜松市には《川や湖を守る条例》ってあるみたいだから気をつけてな。
あ、トイレ以外で大小便したら罰金5000円なんだってさ。』
「5000円払ってテメーという糞マザコンを鰻の餌にしてやんよ。」
『変死事件があると水産物の売上に影響あるらしいから程々にな。』
「マジでイラつくなコイツ。
惚れる前にボコっとけば良かったわ。」
鷹見は大型のサバイバルナイフを取り出し、俺の顔をペチペチする。
台本なのか本気なのかは不明。
勿論、怖い。
だが、画面右のコメント欄が凄い速度で回り始めたので、コンテンツとしては正しいのだろう。
「ねえ、ウ↑チ↓のこと
どう思ってるの?」
『え?』
「好きか嫌いかって話!!!
勿論、性的な意味で!!!」
『いや、普通に気に入ってるけど。』
「答えになってねーよ。
オマエ、このまま目玉抉ってやろうか?」
『えっとねえ。
バス事故の前は、怖い子だなって思ってた。
鷹見って学校の中で普通に喧嘩とかしてたじゃない?
正直怖かった。』
「…。」
『今はねえ。
怖いというより脅威。
結構人生ギリギリなんだけどさ。
オマエが一番、俺を追い詰めてるわ。』
「ねえ!
誰がDISれって言ったよ!!」
『褒めてるんだよ。
異性として。』
「はぁ!?」
『男をここまで戦慄させる事が出来るって…
一種の才能だよ。
パワー感じる。
そういう女には無条件で惹かれるんだよ。』
「…じゃ、じゃあ!
ウ↑チ↓がダーリン様を最も戦慄させた女なんスね!?」
『いや、一番の戦慄はヒルダだけどさ。』
「うがあああああああああああああああああ!!!!!」
嘘だろ?
鷹見、躊躇いもなく刺して来やがった!!!
しかも顔面を狙ってたぞ?
『ぐわああ!!!!!!』
「オマエもう死ねやあああ!!!!!!!!!!!!」
『があああああああ!!!!!』
ハンモックの中で肩口にナイフを突き立てられたまま、俺はもがく。
鷹見は物凄い左手の握力で俺の首を絞めながら、反対側の手でナイフを構え直そうとした。
え?
これ台本?
台本?
カメラ回ってるんだよね?
「死ねよやあああああああ!!!!!」
『うぐわあああああああ!!!!』
鷹見が俺を刺し直そうとした瞬間。
背後から黒い影が飛び出し、鷹見を吹き飛ばした。
カンフーキック?
エモやん!?
「はい、カメラの前の皆さん!
以上、ショートドラマ《ラブラブカップル痴話喧嘩》でした!
どうもー御視聴ありがとうございました。」
そのままエモやんが配信を止める。
「トイチさん!!
ヤバいッすよお!!!!」
『うん、普通に痛い。』
「人生で何番目くらいに痛いですか!!!」
『ベスト10には入ってると思う。』
「響さん!
こっちです!!
血止めを!!!!」
『ああ、後藤さん
どもども、お見苦しいところを。』
その後、エモやんが倒れている鷹見を蹴りまわしてから武器を全て没収した。
俺はカプセルテント内で応急処置を受ける。
幸い、ナイフは骨を直撃して止まったらしい。
指名手配中なので病院は断念して、ここで治療を受ける方針を決める。
取り敢えず、対外的にはイノシシに襲撃されたことにする。
《散歩中、突然飛び出してきたイノシシに
驚いて転び肩に牙が当たって出血した。
偶然遊びに来ていた友人の猟師が助けてくれた》
このシナリオで行く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
皆が俺を救命すべく走り回っている。
彼らは優秀なので、俺の命も含めて上手くケアしてくれるだろう。
鷹見は後ろ手に縛られ拘束中。
エモやんが殺害許可を懇願してくるが断固拒否。
これ程の偉材の経歴に傷を付けていい訳がない。
最近、夜更かしが続いたので今日はこのまま寝たいのだが。
やはり肩が痛むので目が冴えてしまう。
『…ヒルダか。』
「随分、変わった妾を拾われたものですね。」
『オマエも女性向けなろうに携わってるならわかるだろ?
《おもしれー女》はポイント高いんだよ。』
「…いや、女からすれば
あんなのは論外なのですが、殿方というのは…
アレが良いのですか?」
『いや、良くはないけどさ。
男から見た面白い女って、ああいうのだぞ?』
「そうですか。
女性向けのトレンドとは大きく異なりますね。」
『だって、なろうを見てるような女って下らない奴しか居ない訳じゃん?』
「否めませんね。」
『だから、女性向けの《おもしれー女》って
そういう退屈な女読者が感情移入出来る範囲でしかないんだよ。
男から見たら、単に口数が多くて身の程知らずか、コミュ障で身の程知らずか
そういう下らない女。
全然面白くない。
でも鷹見は面白いだろ?』
「…まあ、私好みではあります。」
『昼間にさあ。
今晩小遣いをやるって、鷹見に約束しちゃったのね?
幾ら欲しいか聞いてきてくれない?』
「…リン。」
『ん?』
「貴方の面白さに比べれば、大抵の女の面白さなど小賢しいだけです。」
『あっそ。』
コイツ、自分が大抵に含まれないって理解した上で言ってるからなあ。
とは言え、ヒルダは律儀に俺に従ってくれる。
30分後。
「《オマエごと寄越せ、この財布野郎!》
とのことです。
オブラートに包もうかと思ったのですが、趣のある名台詞だったので脚色せずに伝えました。
どう答えますか?」
『そうだな。
《ママに聞かないとわからないでちゅ。》
って言っとけ。』
「あまり苛め過ぎないでやって下さい。」
『そこら辺の匙加減はヒルダに任せるわ。』
「じゃあ側室で。」
『まあ、無難な落としどころだな。』
「勘違いしないで下さいね。
私は不本意極まりないのです。」
言いながらもヒルダは笑いを隠せていない。
不本意なのは事実だろうが、極まりないという程でもないのだろう。
その後、色々な人がやって来て、かなり本格的な治療を受ける事が出来た。
カネさえあれば大抵の問題は解決出来るということだ。
そう、女のヒステリー以外の問題には概ね対処出来る。
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 5
《HP》 刺されて痛い
《MP》 ずっと悪だくみ可能
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 204 (仮定)
次のレベルまで106 (仮定)
※キョンの経験値を1と断定
※イノシシの経験値を40と断定
【スキル】
「複利」
※日利5%
下2桁切上
【所持金】
所持金2378万6819円
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
「責任をもって養ってくれるんスよね?」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」