【降臨20日目】 所持金1609万6919円 「レベル上がれば全てヨシ!!」
帰還20日目。
金銭的にも人材的にも既に軌道に乗っている。
現在の日利は3%。
手持ちは1200万円弱。
つまり、誰からも出資されなかったとしても一日30万円以上のキャッシュが入って来る。
殺生に協力的な猟師も確保済み。
順調だ。
不安要素と言えば荒木・恩師(笑)ペアと、向かいのテントからこちらに殺気を放っている女共くらいのものか。
まあ、こんなものか。
俺にしては上出来だろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
優雅な朝日を浴びて起床!
と思ったら、既に12時を過ぎていた。
隣では不眠の元凶である薩摩人が気持ちよさそうな寝息を立てている。
シャワーを浴びるべくドームテントから外に出ると、エモやんが着替えを持って来てくれた。
『いつもすみません。』
「いえ。
それより猟師の鈴木さんがもう来られてます。」
『え!?
早!』
「現在、響さんが東京から持って来た松坂牛のステーキで接待しております。」
『すぐに着替えます。』
「機嫌はかなり良さそうなので、焦らなくて大丈夫です。
身だしなみだけ、きっちりして下さい。」
浜松の猟師、鈴木翔。
コロナ前までブラジル人パブを経営していた男。
インスタを見る限り、程よくチャラくていい加減。
そしてコンプライアンス面がやや緩い。
カネ次第で、幾らでもレベリングを手伝ってくれそうな気配はある。
なので、大切にしたい。
『鈴木社長、はじめまして!
遠市で御座います!』
機嫌良く肉を貪ってる鈴木にピシッと挨拶。
49歳と聞いていたが、髪型もファッションも若い。
ただSNSの印象程はチャラくない。
しきりに周囲に気を遣う様子からは、むしろ生真面目さを感じる。
「おお!
遠市さんですか!
御丁寧に恐縮です!」
しばし互いにペコペコタイム。
色々な大人を観察しているうちに、初対面で「どもども!」と頭を下げ合う事の重要性は学ばせて貰った。
異世界でも地球でも要領は同じだ。
自分が相手に対して微塵も敵意を持っていない事を全身で表現しなくてはならない。
「いやあ、それにしてもカップル配信!
同接数凄いですね!
何せ国連公認ですからね!」
…いや、国連人権委員会からはガチのマジで敵視されている。
俺が鷹見を殴った件は、ロシアのウクライナ侵攻や中国のウイグル問題と同等に非難されていたからな。
エモやんに見せて貰ったBBCの動画で、自分の顔写真がプーチン・習近平と並んでいた時は心底驚いた。
日本以上に、英語圏・漢語圏・ラテン語圏で俺は有名になっているらしい。
『ああ、いえいえ。
恐縮です。』
「あ!
もしかして、バズってるのは不本意でした?」
『ははは
そうですね。
どちらかと言えばステルスしたかったので。
まあ、もう諦めましたけど。』
「失礼しました!
では私も自粛します。
実は近隣の事業者にインタビューする動画チャンネルを持ってまして。
遠市さんさえ良ければと思っていたのですが、忘れて下さい。」
『へえ、面白そうです。』
「ああ、いえいえ!
登録者数、1000にも満たない零細チャンネルですよ!
遠市さん程の世界的有名人の前で…
お恥ずかしい限りです。」
鈴木の動画チャンネルである「やらまいか放送局」を見せて貰う。
同年代の事業者とホワイトボードの前で雑談する動画で、画面は単調だが、結構本音で話していて面白い。
地元の大手企業であるヤマハやスズキも程よくディスっていて小気味いい。
「…結構中身のある話をしてるつもりなんですけど。
全然登録者数が伸びないんですよ。
サムネにブラジルのホステスさんを使った時だけ、異様に再生数伸びて…
アレはショックでしたね。
私が真面目に喋るより、美人の画像にみんな惹かれるんだなって…」
『お察しします。
動画の趣旨にもよるんですけど。
内容によっては無料で出演致しますので、気兼ねなく声を掛けて下さいね。』
「あーいやいや!
遠市さんほどの一流インフルエンサーを無料だなんて!」
『狩猟が一段落したら。
いつでも気軽にどうぞ。』
「あ、そうでした!
狩猟!
お任せ下さい!
既に数カ所の箱罠にイノシシを捕獲しております!」
『あー、ありがたいです。
では詳しい話は移動しながらで宜しいですか?』
「はい!
それでは、私のジムニーで移動しますか?
お連れ様はどうしましょう?」
江本車に随伴をお願いする。
寺之庄は拠点連絡役としてコテージに待機して貰う。
安宅は浜松市街の銀行で限度額まで引き出しに行く。
飯田は周辺探索担当、他のグランピング施設の下見を任せる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では意識の擦り合わせをさせて下さい。
遠市さんは、ジビエにも自然にも狩猟にさえ興味がなくて
ただ純粋に殺生を楽しみたい、と解釈していて宜しいのですか?」
『はい、概ねその理解で問題ありません。
えっと、ただ殺生は楽しんでいる訳ではなく、事情があってのことです。
私、暴力が嫌いなので。』
「承知しました。
…その、実物の遠市さんにこうしてお目に掛かれて
暴力が嫌いというのは、理解出来ます。
あの動画と全然印象違いますよね。
もっと半グレ軍団みたいなのが来るのかと思ってて…
内心怯えてました。」
『ああ、いやいや。
私は見ての通りのチー牛小僧ですよ。』
「いえいえ!
ご友人の方、寺之庄さん以外も皆さん好青年ばかりで。」
『ふふふ、実はカプセルテントの中に駄目なオッサンが居たのです。
昭和のDQNw』
「ええ!?
見逃してしまいましたなあ(笑)」
『見ないのが一番ですよ。
ロクな奴じゃないので(笑)
あ、女共とは逢いませんでした?』
「え?
女性のお連れ様も居られたのですか?」
『ルナルナ@貫通済も来てますよ。』
「うおー!!!
マジっスか!?
私、ルナルナ@貫通済さんの大ファンになっちゃったんですよ!
いやあ、感激だなぁ。」
『じゃあ、タイミング合えば紹介します。』
「おお…
至れり尽くせりです!」
『あ、いやいや。
まだ至ってませんでした。
忘れないうちに、本日分の謝礼を渡しておきますね?』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1173万9445円
↓
1163万9445円
※鈴木翔に日当10万円を支払い
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「え?
日当?
いや、総額ではなく?」
『ああ、こちらの言葉足らずがあったかも知れませんね。
10万円とは、1日当りのガイド料です。
納めて頂ければ助かります。』
「あ、いや!
流石に1日10万は…
貰い過ぎと言いましょうか…」
『その代わり、なるべく多くのイノシシを効率的に殺害させて下さい。』
「多少、イリーガルな手段でも?」
『万が一問題になったら
《私に脅されて仕方なくやった》
と言って頂いて構いません。』
「いや、逆にしましょう!
万が一問題になったら。
《鈴木の指示通りにやった。
違法だとは知らなかった》
で押し通して下さい!
泥は私が被ります!」
『じゃあ、2人で万が一を防ぐように頑張りましょう!』
「はい!!」
鈴木と意気投合して、ブラジル人パブの裏話を色々聞かせて貰う。
日系南米人との軋轢、不良化したハーフ。
在日ブラジル人経済の光と影。
彼らに本国のパイプを提供させるコツ、などなど。
「ん?
後続って2台ですか?」
鈴木に釣られてバックミラーを見ると江本車の後ろにもう1台。
ヒルダのプリウスか…
『すみません。
勝手に付いて来た者が居ます。
なるべく大人しくさせますので。』
目を細めて注意深くプリウスを観察する。
運転席に関羽、助手席に鷹見…
2人の表情からして後部座席には多分ヒルダが居るな。
「うーーん、ルナルナ@貫通済さん
どうやら口論してますね。」
『いや、実はあのプリウス。
私の義母の車でして。
恐らく、後部座席に座っている義母と揉めてるのでしょう。』
「あ!?
お義母様も来られているのですね。
ああ、じゃあ甘味も持って来れば良かったかな。
実家が三ケ日みかんのスイーツを製造しておりまして。」
『いえいえ、そんなお気遣い申し訳ないですよ。』
「あーいえいえ!
本当に幾らでもあるものですから!
三ケ日蜜柑ジェリービーンズ。
道の駅に置いているような、どこにでもある土産物です。
大したものではありませんので。」
『ああ、何から何まで。
ではお言葉に甘えさせて下さい。』
「はい!
では明日持参させて頂きます!」
そんな会話をしながら、鈴木の狩猟用ジムニーは浜名湖畔を北上し山地に入る。
曰く、井伊谷といって大河ドラマの舞台になった土地らしい。
大河ドラマの定義は知らないのだが、どうやらTV用語らしい。
『山、結構近いですね。』
浜松は平野のイメージがあったのだが、浜名湖から少し北上しただけですぐに山が広がっている。
「関東の方は皆さんそれを仰いますね。
ちなみにですが、神戸はもっと海と山の距離が近いです。
若い頃、関西に住んでいたので。」
『へえ。
勉強になります。
殆ど関東…
というか神奈川から出たこと無かったんですよ。
静岡県は景色も綺麗ですし、最高ですね。』
「人の心も綺麗なら良かったんですけどね。」
『静岡人は綺麗だと信じたいのですが。』
「ふふふ、汚い汚い遠州弁まんまの地域性ですよw」
『まあ、確かに言葉は荒い印象あります(笑)』
「私ね?
初めて東京行った時驚いたんです。
2ちゃんねる上で民度が低い低いと揶揄されている足立区ですら、みんな結構紳士的なんですよ。
語尾もソフトだし。
ショックでしたねえ。」
『まあまあ。
滞在中に遠江の美点を100個見つけてみせますよ。』
「100個もありますかね?」
『富士山が綺麗。』
「なるほど。」
『浜名湖が綺麗。』
「他には?」
「人心清らか。」
「嘘は良くないですな。」
2人で大いに笑い合う。
遠州人の気質は兎も角、鈴木とは上手くやって行けそうな気がする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
箱罠の中にはイノシシが一頭。
鈴木曰く、中型のメスとのこと。
「最後に確認させて下さい…
殺害をしたいだけであって、肉や皮が欲しい訳ではない、と。」
『ご理解が早くて助かります。
後、追加しますと…
別にハンターや戦士として習熟したい訳でもありません。』
「了解。
えっと、これが止め刺し用の電気槍です。
正式名称は《2本槍電気止め刺し機》です。
この槍の使用に資格は要りませんが…
鳥獣を駆除したり捕獲したりするには本来《狩猟免許》が必要です。」
『万が一、私の殺生が発覚したら鈴木さんの狩猟免許に差し障りがありますか?』
「大丈夫です。」
『剥奪とか?』
「全然問題ありません。
遠市さんに迎合して言ってる訳ではなく。
私の人生哲学です。」
『了解、それでは使い方を教えて下さい。』
鈴木のナビに従い、長袖の作業着に着替えてゴム手袋を装着。
「物は試しです!
スイッチを入れて、そのまま首からやや上を狙っ…
おお… 早…」
なるほど。
これは文明の利器である。
そりゃあ直で電流流されたら、大きなイノシシでも死ぬよな。
異世界ではカイン・D・グランツが雷系のスキル使いとしてその武名を知られていたが。
地球の電気技術を用いれば誰もがあの猛者と同等の殺傷能力を発揮出来るのだ。
『ああ、これはいいですね。
10秒も掛けずに絶命しました。
いやあ、鈴木さんにお願いして正解でした。』
「…かなり思い切りがいいですな。
全く躊躇いがなかった。」
『不快でしたらお詫びします。
命の尊さは重々承知です。』
「あ、いえ。
私は博愛主義者ではないので。
そこら辺のお気遣いは不要です。」
『…同年代の人間に比べて、私はドライだと思います。
周囲からも《冷たい》とか《サイコパス》と指摘された事もあります。
ただ、娯楽で殺生をするつもりはないので、その点を信じて下されば幸いです。』
「信じます。
遠市さんは、理由のない事をなさらない方だと思いますので。」
まずイノシシを1匹殺害。
俺の仮説に間違いが無ければ、次のレベルまで40ポイント必要。
異世界ではボア系の経験値は丁度40だった。
もしも地球のイノシシが異世界のそれと同種だとしたら、この一殺でレベルが上がっている計算だが…
そんな都合の良い話があるとも思えない。
ここは少なく見積もるべきだろう。
異世界のディア系が経験値20だったのに、地球のキョンは1だった。
なら、異世界で40ポイントだったボア系は、地球では2ポイントでもおかしくない。
『…鈴木社長。
今日中にもう一匹だけ譲って下さいませんか?』
「少し走りますが、大丈夫ですか?
愛知県との県境に近い場所に箱罠を仕掛けておりまして
あ、これリアルタイム映像です
ほら、猪が3匹… 失礼4匹入ってるのがわかりますか?」
『え?
これ、撮影してるんですか?』
「最近の箱罠はトレイルカメラとセットですよ。
わざわざ見に行くのは時間の無駄ですから。」
『うおお。トレイルカメラを真面目に使ってる人を初めて見ました!』
「はははw
他にどんな使い方あるんですかw」
『いやあ、ストーキングに悪用している屑ばかり見てましたので
実は私、トレイルカメラの規制派だったんです。』
「いやいや、今の狩猟現場はトレイルカメラに支えられておりますので…
規制は、ちょっと困ります。」
『御安心下さい!
規制は取りやめます!
猟師さんが安くトレイルカメラを使えるように尽力します!』
「ははは、それは頼もしいですw」
一旦、下車して江本車に報告。
鈴木も交えて4人で談笑していると、プリウスから殺気を感じたので愛想笑いで手を振ってみる。
フルスモークなので中の様子は分からないが、苛立ちは伝わって来る。
途中、三ケ日みかんの無人販売所があったので、女共の為に買ってやる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1163万9445円
↓
1163万9345円
※鎮静剤として三ケ日みかんを100円で購入
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『やあ、3人共。
今日も綺麗だね。
こんな天気のいい日に、君達とドライブ出来て光栄だよ。』
ジト目×3。
『あ、みかん食べる?
ここら辺の名物らしいんだ。
いやいや、遠慮することないよ。
俺からのほんの気持ちさ。』
助手席の鷹見が無言で肩パンしてきた。
『痛たたた!
まあまあ、落ち着いて落ち着いて。
楽しい旅にしようぜ!』
「こんな糞BBA共とずっと顔を合わせて
何を楽しめって言うんスかね?
ちなみにウ↑チ↓。
この旅行に期待して、超エロエロな下着をドンキで買って来ました。
後ろのBBAにBBQ燃料にされちまいましたけど。
何なんスかね、この色狂いBBAは。」
『ヒルダ。
BBQ施設で食品以外を燃やすのはマズいって。
規約にも書いてただろ?』
「…。」
『…。』
不意に後部座席の窓が開く。
濃いサングラスを掛けたヒルダが居た。
『やあ、ヒルダ。
ご機嫌は如何?』
「見ての通りです(怒)。」
『ははは。
鷹見とは上手くやって行けそう?』
「見てわかりませんか(怒)?」
『うーーーん、この。』
言葉とは裏腹に、鷹見とヒルダの息は合っている。
俺に文句を言うタイミングで互いにうんうんと頷いているのだ。
「実はこのBBAをブッ殺す予定だったんですけどね?
いやあ、考えてる事は一緒だったらしくて。
昨夜は大変でしたよ。」
『仲良くは出来ないか?』
「じゃあ、エサを下さいよ。」
『エサ?』
「釣った魚にエサを寄越せって話っスよ。」
『いや、オマエを釣った覚えはないのだが。』
「ねえダーリン様。
流石に今晩からはテントに入れてくれるんスよね?」
『あ、いや
浜松での同室は平原さんでいいかな、と。』
「ホモかテメえはッ!!!
LGBT配慮!? LGBT配慮なのか!?
え?
あのオッサンとヤッたの!?
ハメたの? ハメられたの?」
『いや、俺は別にそっちの趣味はないし。
あの人もホモ行為を強く蔑んでるし。』
「…わかんねーッス。
ダーリン様、アンタ一体何をしたいんっスか?」
『俺の思考に関してはヒルダに聞けって。』
鷹見は俺を睨みつけたまま、背後のヒルダに声を掛ける。
「ねえBBA先輩。
息子さん、何を考えておられるんスか?」
『あーら、くすくす。
そんな事もわからないのですか?
ふふふ。
仕方ありませんねw
リンは私にしか考えを明かしませんから♪
うふふふ。』
「ッチ!
っぜえBBAだな。」
「説明してあげても構わないのですが…
ルナには少し難しいかも知れませんね。
私のリンは常に高度な政治的判断を行ってますから」
「うっわ、キッショ!
なーにが《私のリン》だよ!
キッショキッショ、BBAの発情キッショ!」
マズい、やはりこの2人は相性がいい。
この分だと遠くないうちに結託した矛先が俺に向かう…
すぐにでも引き離したいのだが…
俺の方だって、コイツラは一カ所に纏めて監視したいからな。
5分程してエモやんが走って来て仲裁案を提示。
ヒルダ・鷹見とデートイベントを行うことを約束させられる。
『え?
デートと言いましても
私、この辺の土地勘無いんですよ。
それに浜松って完全に自動車社会ですよね?
免許持ってないしなぁ。』
「御安心下さい。
全て何とかします!
最高のデートプランを組み立てて御覧に入れます!」
結局、エモやんに押し切られる。
まあ、山中でグダグダ話すのは時間の無駄だしな。
「では、早速!
席替えターイム!」
『え!?
エモやんさん?
え? 席?』
「トイチさんはプリウスに搭乗して下さい!」
『え? え?
いや、鈴木さんに案内して貰わなきゃ。』
「鈴木社長のジムニーには後藤響が同乗します!」
『え? え?』
「森さん。
お手数ですが、俺の車に移って頂けませんか?
飯田さんからも色々相談を受けておりまして。
…式場選びとか。」
関羽が嬉々として江本車に移る。
「よーし、これでますます皆の親睦が深まりそうですね。
じゃ、トイチさん。
そういうことで。」
…どういう事だよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
プリウスの助手席に座った瞬間。
運転席のヒルダに肩を抱き寄せられる。
『え? ちょ? ムグッ!』
当然の権利の様に舌を入れて来る。
「あ!!!
BBAテメエ!!!」
『むがっ もがっ』
「…ぷはっ♪
あらあ、まだ居たのですか?
ごめんなさいねー。
私とリンっていつもこんな感じだから。
ごめんなさいねー(笑)」
「テメエの腐った羊水!!
小林製薬で洗浄したるわあ!!!」
その後、2匹目のイノシシに到着するまで延々と2匹を宥め続ける。
疲れる。
あー、コイツラに電気槍刺したい。
『おい、2人共。』
「何スか?」
「何でしょう?」
『オマエラ同士で会話しとけ。』
「はぁ↑?」
「…一体何を。」
『気分転換に、女子同士の華やかな会話を聞きたい。
チェスト弁で汚れた耳をオマエラの女子力で洗い流してくれ。』
2人は数秒考えた後に、関羽の悪口を淡々と繰り広げた。
次の狩場に到着した頃には、やや打ち解けていた。
耳は更に汚れたものの、俺も中々捨てたものじゃない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『鈴木さん!
本当に申し訳御座いません!』
「あ、いえいえ。
こちらこそ気が回らず申し訳ありませんでした。
…それにしても両手に花ですな。」
『摘まれているのは私なのですが…』
「まあ、それはそれで。」
駐車位置から5分ほど山道を進んで箱罠の設置位置に辿り着く。
イノシシやシカが泥浴をする場所を沼田場と呼称するらしい。
上空から異音がするので見上げると、ドローンが俺の直上をグルグル旋回していた。
「遠市さん、アレは?」
『鷹見のドローンでしょう。』
「ああ、たまに空撮実況してますね。」
『アイツ、絶対配信してやがる。
鈴木さん、江本さんに電話してカメラ止めさせて下さい。』
どうやら鈴木は俺よりもルナルナ@貫通済に詳しいようなので、歩きながら色々とあの女の逸話を教えて貰う。
借り物のゴム長靴で泥を踏みつけながら、箱罠に接近する。
数分ドローンを睨みつけていると、やがて去って行った。
一々時間を盗みやがって。
『じゃあ、鈴木さん。
他にカメラは…
ないですね。
よし開始します。』
電気槍で箱罠の中の1匹だけ殺す。
「トイチさん。
後の3匹は…
宜しいのですか?」
『申し訳ありません。
訳あって、今日は2匹だけと決めております。』
「そ、その。
殺害数に何か意味が?」
そりゃあね。
さぞかし不可解だろうよね。
経験値不明のモンスターを相手にレベリングしてるからね。
俺なりに足りない頭で必死に計算しているんだぜ?
『鈴木さん、今何時ですか?』
「15時30分です。」
『ありがとうございます。
それでは本日はホームに戻って下さい。』
「は?
まだ日は高いですが…
承知しました、戻ります。
急ぎですか?」
『いえいえ。
急かすつもりはないので、安全運転で帰還して下さい。
あ、そうそう。
イノシシを仕留めさせてくれたお礼です。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1163万9345円
↓
1143万9345円
※イノシシ2匹殺害補助に関しての歩合報酬として20万円を鈴木翔に支払い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやいや!
こんなに貰い過ぎですって!」
『いえ、そういう約束でしたし。』
「え?
成功報酬ってそういう意味だったんですか?
私はてっきり
《止め刺しを体験出来たら10万円ボーナス》
と解釈しておりましたので。」
『ああ、失礼。
当方の説明不足でした。
殺害1匹につき10万支払います。』
「いや!
でも、今日の私の実働、まだ3時間ちょっとですよ?
もう30万も貰っちゃって…
正直、全然働いてないのに…
せめて半額にして頂けませんか?」
『正当な対価だと思いますよ。
鈴木社長はリスクを負って下さってます。
狩猟免許を持たない上に、悪名が轟いている私を案内して下さっているのですから。』
「あ、いや。」
『代わりと言ってはなんですが、私が滞在している間
案内に専念して下さると助かります。』
「…わかりました!
遠市さんのガイド一本でやらせて頂きます!」
実は猟師の待遇に関してはエモやん達に綿密に調べて貰っていた。
だから、彼らが日頃どれだけ冷遇されているかを知っていた。
生活の為に従事しているこの危険な作業をレジャーか何かの様に誤解する無知な世間への怒りもだ。
「社会って不思議なものでさ。
辛い仕事や汚い仕事、危険な仕事をしている人間ほど差別されるんだ。
解体屋、馬丁、清掃人、そして山に住んでる猟師なんかもそうかな。
リン君は権力者とは言え、他所からやって来た人でしょ?
そういう地盤を持たない人間が支持基盤を作る為にはね?
差別されている層を味方に付けるのが、一番早いよ。
上辺だけカネを配るのは逆効果。
それは単なる成金の人気取り。
一番いいのはね?
現場で直接そういう層と話すこと。
意見や不満を聞いて、政治に反映させてから
その報告を彼らに対してすること。」
『ねえ、ポールさん。
貴方がbarカウンターに立つことに拘るのって。
もしかして…』
「ふふふ、俺は夜遊びが好きなだけー。」
ポール・ポールソンには色々と処世術を教わった。
その最たるものものが支持基盤の作り方である。
少なくともあの放蕩男は、下町で妙に人気があった。
ボンボンの癖にスラムに入り浸って遊んでいたお陰らしい。
ソドムタウンでの俺の支持率の何割かはあの奇妙な中年男の功に帰する。
もう二度と会う事もないだろうが、だからこそ学んだことは活かさなくてはならない。
オーラロードの存在を知る前から、地球に帰ったら狩猟関係者を支持基盤として狙い撃つ事に決めていた。
王都で農業地区に入り浸っていた頃、農村民の都市生活者への不満や怨嗟は散々聞かされたし、そのお陰で彼らの人気を獲る方法も何となく見えているからである。
鈴木は厚遇する。
単にカネを渡すだけはない。
彼とその業務に対して真摯に向き合い、全力で政治的要望を叶える。
これは長い目で見れば、レベリングなどよりも遥かに優先すべき事項である。
現代日本において、狩猟に経済的合理性は無い。
故に、理外の経済力を持つ俺に付け込む余地が生まれるのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鈴木は読み取ってくれた。
言外に《本当は急いで欲しいのだ》と匂わせた俺のシグナルを。
おかげで拠点のグランピング場には16時30分に帰って来る事が出来た。
やはり寺之庄が言った通り鈴木はアタリの人材だ。
夜の店を経営していただけあって、上手く空気を読んでくれる。
『戻りました。』
「準備出来ております。
銀行でややゴネられましたが、全額引き出せました。」
安宅のテントに入る。
本日の立ち合いは俺・後藤・江本・寺之庄・安宅の5人。
飯田は浜名湖周辺のキャンプ場・バーベキュー場・イベントホールを撮影中。
今も画像と所見を送り続けてくれている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1143万9345円
↓
1億5143万9345円
※出資金1億4000万円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『安宅さん4000万もおろしたんですか?』
「本当は全ての口座から全額おろしたいのですけど。
…まあ、私が行員でも渋りますから。」
流石に成功した投資家である…
それを一代で築いたのだから感嘆の他ない。
これで安宅からの出資金額は9000万となった。
大金を持ち歩く恐怖は俺も嫌という程に知っている。
この男には何らかの優遇措置を取らなくてはならないな。
留守中、鈴木の奥様が地元のフルーツを差し入れてくれたらしく、干し柿や三ケ日みかんスイーツが籠に山盛りにされていた。
勧められるがまだ食べない。
手が汚れると、スキルで生み出した紙幣に匂いや汚れなどの痕跡が付着する可能性があるからである。
《605万7574円の配当が支払われました。》
『あ!』
思わず声が漏れる。
慌てて脳内で何度も計算。
…間違いない、日利4%。
レベル4に上がった!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1億5143万9345円
↓
1億5749万6919円
※配当605万7574円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「トイチ先生?」
『あ、いえ。
何でもありません。
信仰は順調です。』
「おお…
それは素晴らしい。」
『レベルが上がった、とだけ報告させて下さい。』
不安気だった皆の表情が一斉に満面の笑みとなる。
そりゃあね。
この場に馬鹿は居ないのだから、俺のギミックは内心で把握してくれてるよね。
それを敢えて一言も口に出さない彼らの姿勢も嬉しい。
『では、まずは分配を。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1億5749万6919円
↓
1億5609万6919円
↓
1609万6919円
※配当金140万円を出資者に支払い
※出資金1億4000万円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
脳内で計算式を組み直す。
現在の現金資産1600万強。
日利4%ということは、毎日65万弱のキャッシュを産み出す事が可能ということである。
無論、喜ばしいことだ。
俺にとっては。
そして預金者にとっての不安が高まる段階でもある。
俺の経済力が増すということは、キャッシュを借り集める必要性が薄れる事を意味するからである。
配当の為に預けたい周囲と、自由度を高めたい俺の水面下のせめぎ合いが始まる。
異世界を振り返る。
当初、俺とカイン・D・グランツの関係はカネ貸しと客という関係でしかなかった。
当初、俺とドナルド・キーンの関係は宿屋の婿と客という関係でしかなかった。
彼らの高額預金のおかげで俺は資産を築くことが出来たのだが、複利によって俺が超富裕層となってしまったことにより、単なる富裕層に過ぎなかった彼らとの立場が徐々に逆転乖離して行き…
いつの間にか恩人である筈の彼らは俺の配下に成り下がってしまったのだ。
詫びる俺にドナルドは笑って答えた。
「経済的合理性ですよ、皆が魔王様に忠誠を誓うのは。
だって、人間が生きてる限り、結局は誰かに頭を下げなきゃならないじゃないですか?
だったら、気前の良い人間に従いたいじゃないですか。
後ね?
《リン・コリンズを見つけたのは私だ》
って天下に自慢したい気持ちが強いんです。
貴方は、私の誇りです。
私は貴方が大好きなんですよ。
胸を張って貴方の指揮下におります。
だから、どうか気に病まないで下さい。」
…気に病まない訳ないだろ。
俺だって貴方が大好きだ。
兄であり父であると尊敬している。
年上の人間に頭を下げさせるのって、結構傷付くんだぜ。
あ、ポールさんはジュースでも配っといてください。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『今後、私の立つステージが変化する速度は早まります。』
皆の表情に緊張が走る。
「ですが、初動を支えて下さった方への恩義は忘れません。
ここに居る皆様には起ち上げメンバーとしてのプレミアムオプションを考えておりますので
どうか御安心下さい。」
誰ともなく安堵の溜息を漏らす。
そりゃあ、そうだろう。
俺は無能だが、これほどのストックとフローがあれば幾らでもキャッシュを搔き集める事が可能だ。
彼らにとっては出資募集を打ち切られる事だけは避けたいのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
飯田が帰還。
浜名湖周辺の施設事情を教わる。
山・海・湖に恵まれた土地だけあってアウトドアイベントが多い。
東海道の中央に位置し、高速道路・新幹線で来訪出来る立地もイベントに向いているのだろう。
滞在中、タイミングが合えば覗いてみたい旨を皆に伝えた。
「リン君。
対岸の渚公園もイベント貸しに対応しているみたい。
ほら、あそこの島。」
『え?
島を借りれるんですか?』
「うん、コンサートとかも開催実績もあるって。
最近じゃアニメの聖地として有名。
そこを1日220万円で借りれる。
面積は40,000㎡」
…意外に安いな。
何か仕掛ける時は数日借りてもいいかも知れない。
その後、鈴木に鷹見を紹介。
あんなに粗暴な女でもファンは可愛いらしく、サインを書いたり記念撮影に応じたりとサービスに余念が無かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【BSS配信】 浜名湖でダーリン様(遠市 †まぢ闇† 厘)と新婚旅行♪ [雑談]
「はい、人類下位99%の弱者男性みなさーん!
本日も養分乙でーすw
なんJの姫武将《ルナルナ@貫通済》でーすww
今日はねー。
なななな、なーんとダーリン様と浜名湖に!
新婚旅行に来ております!
もうねー。
昨日は全然眠れなくて♪
カー、つれーw 寝不足でつれーーーww
カーw カーw
羊水腐ったBBA共、見ってる~↑ww
隣のオッサ… オジサマはぁ。
地元の猟師さんでーす。」
「あ、どもども。
画面におっさん入ってゴメンなさいねー。
浜松市内の事業者のインタビューチャンネル
《やらまいか放送局》を運営しております、カポエラ鈴木です。」
「え?
カポエラって、あの格闘技のカポエラですか?
あ、《やらまいか放送局》のURL貼っておきまーす。
チャンネル登録推奨でーす。」
「いやあ、助かります。
コロナ前にブラジル人パブを経営してたんですよ。
そこでチーママを任せてた子の弟さんが結構有名なダンサーで
何度かダンスイベントをお願いしたんです。
その彼がずっとカポエラやってて、どちらかと言うとダンス寄りのカポエイラなんですけど。
彼から習ってたんですよ。」
「うおっ!
そういう大事なことは最初に言って下さいよ!
あ、実演希望コメントが殺到してる!
じゃあ、鈴木さん!
ぶっつけですがオナシャス」
「BGMが無いと踊れないよーw」
「欠陥格闘技かwww
しゃーねーな、ウ↑チ↓がぁ。
BGMを叫んでやんよ。
あーーーー♪
あーーーー♪
ららららららら、かーぽーえらー♪
あいやあいやあいやあいや♪
かーぽーえらー♪」
「うおっ!?
やっぱり貫通済さん凄いですね。
即興でラテン風!?」
「ほら、ちゃんと踊れーww
あいやあいやあいやあいや♪
かーぽーえらー♪
そいやそいやそいやそいや♪
かーぽーえらー♪
おお!!
結構、動きがマジだ!!!
え、鈴木さんって歳幾つでしたっけ?」
「ほっ! ほっ! ほっ!
49歳でーす!!」
「いや、すげえ!
49でそのキレキレ具合はマジすげえ!
腹は出てるけど!」
「ほっ! ほっ! ほっ!
腹は勘弁してくださいーーい。
ふー、疲れた。」
「はーいお疲れまでした。
おっ、鈴木さんにアイテム送られてます。
はい、《跡部命》さんゴールデン風船感謝です!!
《マー君のパパ@FX爆死》さん、大花火ありがとうございます!!!
《大貧民》さん、10連お茶爆ありがとうございまーーーーす!!!」
「ふわっち民の皆さん、ありがとうございまーす。
ちなみに、貫通済さん。
このアイテムの分け前ってw?」
「えーーww
ウ↑チ↓が分配する訳ないっしょーww
まあいいや、配信盛り上げてくれたし!
ご褒美キッスだ!!
えーい♪
ぶちゅるるる♪
ぷはあ、NTR完了♪」
「いや、まさか舌まで入れられるとは思ってませんでした。
一生の記念にします。」
「はっはっはw
淋病ってキスで感染するんでしたっけ?」
「うおっ!
勘弁して下さいよーー!!
嫁がまた発狂するwww」
「うっわー、奥さん可哀想ww
鈴木さん遊んでそうですからね。
今までも結構浮気とかしてたんスか?」
「やっぱりねえ。
パブ経営してると、店の女の子で懐いてくる子も出て来るんですよ。
手料理差入れとかされたら、こっちも情が移るじゃないですか。
セキーリョを焼いてくれたりね。」
「うほほw
こういう話、大好物ッスww」
「それで相手は十代だし。
肌もピチピチで巨乳な訳ですよ?
仕方ないじゃないですか。」
「うはははww
ギルティ♪ ギルティ♪」
「いや、今は全然遊んでないですよ?
貫通済さん一筋です。」
「奥さーんwww
台本とは言え盗っちゃってゴメンね♪」
「いやいや、新婚旅行配信でしょww」
「あはは、タイトル忘れてた。
さっきからコメント欄でもダーリン様映せってうるさいんスよね。
はーい、じゃあダーリン様にカメラ向けまーすww
ダーリン様ぁ!!!
視聴者に視聴者に一言!!」
「ちょ!
駄目ですよ!
遠市さん怒ってますって!」
「え? 何?
《世も末だな》?
はい! ダーリン様の本日のコメントは
《世も末だな》です!!!
《世も末だな》頂きましたーーーーwwww」
「あ、ヤバいヤバい
貫通済さん、私のクライアントを刺激するのやめて!!!
配信終わったらすぐに土下座しなくちゃ!!」
「確かにヤバいッスねーーww
ウ↑チ↓も隣で土下座しますわ。
はい、それじゃあ。
まだまだ時間は余ってますが、ダーリン様が恐ろしい表情でこっちを見てるので
本日の配信は終わりまーすwww
ちょっとビビってまーす♪
それじゃあゲストのカポエラ鈴木さん!
本日はありがとうございましたー♪」
「ども!
皆さんありがとうございました!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『鈴木さん、頭を上げて下さい。』
「いえ!
誠に申し訳御座いませんでした!!」
『あ、本当に怒ってないので。
単に感覚が麻痺してるだけかも知れませんが。
鷹見、オマエはそのまま顔面で井戸でも掘ってろ。』
「カメラ回ると…
どういう訳か舌も回っちゃうんですよ。」
『ああ、わかります。
カメラの魔力ってありますよね。』
結局、鈴木夫妻にも宿泊テントを提供して、明日は起床と同時に動く事に決める。
飯田は関羽と同じテントに移って貰う。
問題は弓長が何食わぬ顔でここに居ることだ。
明らかに男受けを狙った清楚ワンピースを身に纏って、寺之庄の隣をキープしている。
『ヒロノリさん、どうするんですか?』
「え?
どうするとは?」
弓長が席を外したタイミングを待って寺之庄に話し掛ける。
『弓長さん、どこに寝かせるんですか?』
「えー、考えてなかったなあ。
どうしよう?」
あ、コイツ。
マジで何も考えてない。
『婚約者さんは、ここにおられる事知ってるんですか?』
「あ、いや。
僕のインスタ投稿にいいねが付いてたから…
知ってるでしょ。」
『…婚約者さんは、弓長さんとは面識ないんですよね?』
「あー、どうだったかな。
たまに集合写真に真姫が映ってるから
見た事くらいはあるんじゃない?
大学生活のこと、よく聞かれるし。」
『ヤバいっすよ。
後で絶対揉めるパターンですよ。』
「そうかなあ?」
結局、寺之庄は乗って来たキャンピングカーで寝ることになった。
弓長が当然の権利のような顔をして車に乗り込む。
どう考えても後で問題に発展するパターンなのだが、幾ら友人とは言えそこまでプライベートに踏み込む訳にも行かず、皆で顔を合わせて黙り込む。
「トイチさん、これ…
後で婚約者さん怒りはるんちゃいます?」
『で、ですよね。
ヒロノリさんも婚約者さんも、実家はかなり大きいらしいんで…
変な揉め方しないといいんですけど。』
俺も後藤も女性関係には本当に疎いのだが、それでも今の状況が寺之庄にとって好ましくない事は理解出来る。
ただ俺達は無力なので、何事も起こらないことをナムナム祈っておいた。
『まあ、ヒロノリさん以外の部屋割りは概ね問題なしだな。』
「大ありッスよ!!!」
『鷹見…
本当に顔面で穴掘ったのか…
すげえな、オマエ。』
「ちなみにこの泥だらけの顔を複数のSNSにアップしました!
《ダーリン様に虐待された》
って添えてね!!!」
『反響は?』
「ダーリン様のDVランキングが黒田清隆を越えて1位に躍り出ました。」
『マジかー。』
鷹見、オマエすげえな。
大魔王を1人で完封しちゃってるよ。
冗談抜きで俺の選択肢100個くらいオマエに潰されたわ。
「ダーリン様!
何でウ↑チ↓があのBBAと同室何スか!」
『ヒルダにはもう言ったけど
殺し合い禁止な。』
「殺そうにも隙が無いんスよ。
何ですかあのバケモンは!」
『向こうもオマエを褒めてたぞ。
《実の娘と同じように想ってる》
だってさ。』
「どうせ母娘で憎み合ってるとかそんなんでしょ!」
へえ、流石に勘がいいな。
ヒルダの殺気が露骨過ぎる所為でもあるが。
「で?
ダーリン様は誰と寝るんですか?」
『平原の親父さん。』
「…ダーリン様、もしも国際社会への復帰を狙う場合は
ホモ匂わせからのLGBT路線で攻めましょう。」
『そんな国際社会は嫌だなあ。』
「あの…
実はあのオッサンとヤッてるとかじゃないんスよね?」
『それはないな。』
「うーん。
信用出来ないッス。
ダーリン様はずっと男同士でイチャイチャしてるから
ウ↑チ↓の脳が破壊されるんスよ!」
『俺さあ。
男色の法則を発見したんだけどさ。』
「ほう!」
『アレって女に困らない立場・スペックの男の趣味なんだよ。
その証拠にホモ野郎って、比較的ルックスがいいだろ?』
「うーーん、どうなんスかね。
あー、でも言われみれば
その傾向は強いかもッス。」
『俺、典型的なモテない君だからさ。
女に対して飢えと憧れがあるのね?
要は余裕がない訳。』
「なるほど。」
『いや、そこは表向き否定してね?
俺も多感な年頃だから。
で、俺みたいに女を獲得する能力の低い男はホモになる確率が低いんだと思う。
要するに食糧難世代は食い意地が張ってる理論ね。』
「…あの、ウ↑チ↓は全然手付かずなんですが、それは。」
『だから。
ヒルダに紹介したじゃん。』
「え!?
そういう文脈だったんスか?」
『オマエだけだぞ?
妾候補としてヒルダに紹介したのは。』
「…でも日陰の女なんスね。
で、本妻は誰よ?」
『ヒルダの娘さん。』
「またメスの新キャラ!!!!」
『俺にも色々あるんだよ。』
「ぐぬぬ。」
『じゃ、今夜もチェストと親睦深めて来るわ。』
「ウ↑チ↓はどうすれば?」
『…ヒルダと親睦深めとけ。』
「だからぁ!!
女はそういう原理で動く生き物じゃないんスよ!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
テント。
平原の晩酌には付き合わない。
このオッサンほど暇ではないのだ。
「なあ、リン。
俺、懲役あるかも。」
『え?
マジっすか?
強姦罪?』
「おう。
嫁の弁護士にガチのフェミ活動家が付いたみたいでな。
ガチモードに入ってるらしい。」
『あー、そりゃあ自業自得っすね。』
「オマエ、冷たいなあ。
親友の俺を見捨てるのか?」
『えー、平原さんって俺の親友だったんすか?』
「拳を交わし合ったらダチよ。」
『俺が一方的に殴られただけなんスけどね。
まあいいや。
平原隼人にこれ以上キズを付けたくないですし…』
「お? 助け船?」
『明日、母に相談してみます。
世知に長けているので。』
「流石は俺のリンだぜ!
オマエなら隼人MarkⅡを任せられる!」
『…奥さん、堕胎とかされるんじゃないんですか?』
「あそこはガチガチのカソリックだから。
堕ろしはしないんじゃない?」
『じゃあ薩摩人との婚姻禁止を教義に盛り込めないか
バチカンに打診しておきますww』
「やめーやww
割とマジで採用されそうww」
2人で笑い合う。
「あ、リン。
オマエはどうなんだ?」
『は?』
「あ、いや。
誘拐犯なんだろ?」
『あ、忘れてた。』
「オイオイ、Z世代はそういう所鈍いよなぁww
ちゃんと自己防衛しなきゃだぜ?」
『ですね。
ちょっとエモやんさんに近況を聞いて来ます。』
平原猛人が買って来た浜松餃子チップスをポリポリ齧りながらエモやんのテントに話を聞きに行く。
テント内では佐々木(16歳)との交際の是非を巡って賛成派の安宅と反対派の後藤が激論を繰り広げていた。
キャンプって青春感あっていいよな。
「おう、リン。
オマエ、結局どうなってたん?」
『どうやら指名手配されたみたいです。』
「マジ!?
あー、まーた警察の誤認逮捕案件が発生しちゃうよ。
俺もしょっちゅうやられたわ。」
『平原さんのは誤認じゃないでしょーww』
「バレたかーww」
『「あっはっはっはwwww」』
まあ色々ゴタゴタしてるけど、レベル上がれば全てヨシ!!
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 4
《HP》 疲れやすい
《MP》 ずっと悪だくみ可能
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 30+x (仮定)
※キョンの経験値を1と仮定
※ロードキルの有効性確認済
【スキル】
「複利」
※日利4 %
新札・新貨幣しか支払われない可能性高し、要検証。
【所持金】
所持金1609万6919円
※但し警視庁が用意した旧札100万円は封印、タイミングを見て破棄するものとする。
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
鈴木翔 「配信に出演して。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」