【降臨19日目】 所持金1173万9445円 「落ち着いて下さい、この人は中卒で不動産成金で薩摩人です」
特に仲が良かった訳でもない。
たまたま同じクラスになった。
たまたま帰宅方向が一緒だった。
たまたま体育の授業でペアを組まされてた。
たまたま同じスクールカーストだった。
(下ってことだよ、言わせんな。)
そして、たまたま共に異世界転移し…
たまたま、それぞれに戦い抜いて生き残った。
「隣いいか?」
『どうぞ。
尻に敷く段ボール貰って来ようか?』
「いや、このままでいい。」
『ほら、飲めよ。
回し飲みで恐縮だけど。』
「オマエ、ストゼロなんて飲んでるのか?」
『苦いお酒が苦手でね。
ストロー、口付けてくれてもいいんだぜ?』
「じゃあ、一杯だけご馳走になるわ。」
俺と荒木は隣り合って人ごみを眺め続けていた。
『なあ、荒木。』
「ん?」
『後ろのビルのてっぺんから
この広場を探してみたんだけどさ。』
「うん。」
『広場がどこにあるかさえ分からなかった。
結構必死で探したんだぜ?』
「ああ。」
『今こうやって見上げると。
ビルのてっぺんは、クッキリ見えてるじゃん?
底辺から頂点は明確に認識出来てるのに
…逆は全然なんだよな。
不思議なものだと思わないか?』
「そうだな。」
『俺、地球ではこれを踏まえた戦い方をすると思う。』
「そうか。」
『…。』
「…。」
荒木が無言で右側を眺める。
戻って来たjetや茨城がこちらを心配そうに眺めていたので、ハンドサインで大丈夫である事を伝えた。
「遠市の方から接触してくれるとは思ってなかったよ。」
『接触?』
「担任の家に行っただろ?
金額も約束通りだった。」
『ああ、あれ符丁のつもりだったんだ。
担任が引っ越ししてたら、どうするつもりだったんだよ。』
「オマエの性格なら意地でも探すだろ。
粘着質だから。」
『えー、それ皆から言われるぞ。
俺ってそんなに粘着質かな。』
「自覚無かったのかよ。
まあ、兎に角。
さっき担任から連絡があって、オマエが歌舞伎町のココに居るってわかった。」
『あの人、意外にマメなんだな。
学校行事の説明マニュアルは配り忘れる癖に。』
「カネ次第で結構動くぞ、あの女は。
ちなみにオマエの賞金額5万な。」
『生徒を売るかね、普通。』
「そういう女だから連絡ポイントに使わせて貰った。
現に即日俺達が逢えた訳だろ?」
『…物は言いようだな。』
あまりこんな言い方はしたくないが…
異世界の方が、まだプライバシー意識は高かったぞ。
ほら、今も向こうから俺達を撮ってる外国人観光客(ファッションからインド系か?)がいるしさ。
どうせyoutubeに勝手にアップされるんだろうな…
パーカーの俺とスーツ姿の荒木の組み合わせが面白いのだろうか?
盗撮野郎の感性は理解に苦しむな。
『荒木。
オマエ、随分立派な身なりになったな。
そのスーツ、ブランドだろ?
こんな所に座らせてゴメンな。』
「いや、気遣い無用。
俺もオマエみたいな緩いパーカーの方が…
本来の性に合ってる。」
『で?
俺を殺しに来たの?』
「それも、かなり真剣に考えたんだけどな。
別に殺したい訳じゃない。
ただ、オマエの魔の手から世の中を守りたいだけなんだ。」
『なんか荒木って正義の味方みたいだな。』
「正義に味方なんていない。」
『だな。
その点は同感。』
「遠市の目的は、まだあの頃のまま?」
『正義。』
「あっそ。
じゃあやっぱり俺…
オマエを倒さなきゃなんだな。」
『うん。』
「オーラロードでオマエを追い越した。
興津や宇治原と揉み合ってたからな。」
『あの2人なら死ん…
いや、俺が殺した。』
「あの件に関しては正当防衛だ。
誰がオマエを責めても弁護してやる。」
『いつか俺が俺を責めたら…
庇ってくれよ。』
「いいよ。
約束する。」
『じゃあ、俺より先に地球に帰ってたんだな。』
「そろそろ1年になるか…
あっと言う間だったよ。」
『随分凄い時計してるけど、商売でもしてる訳?
意外っていうか。
俺、オマエは鉄道関係に就職するものって思ってたからさ。』
単なる同級生に過ぎなかった荒木鉄男について、俺は殆ど何も知らない。
熱心な鉄オタであった事は知っているが、今の荒木からその気配は感じない。
高そうなスーツ、高そうな時計、高そうな靴、高そうな鞄。
まるで青年実業家である。
精幹で冷徹な表情をしている。
或いは今の彼が眼鏡をしてないから感じるだけで…
この男は元々そういう男であったのかも知れない。
「なあ、遠市。
俺はずっとオマエの足音に怯えていたんだぜ。
地球に辿り着く事は確実だったからさ。
…オマエが地球で本格的に動き始めた時に
何とか喰いつけるように、大急ぎで事業を起こして…
かろうじて社会的地位らしいものを築いて…
せめて資本家身分でなきゃ、オマエに近づく事すら出来ないから。」
『そっか。』
「だが、タイムオーバーだ。
今のオマエ、勝確なんだろ?」
『うん、流石に2回目だしね。
コツっぽいものは理解出来ている。
たまたま人に恵まれたし。』
「たまたま、なんかじゃないさ。
異世界でもそうだった。
オマエは意識して一流の人材だけを周りに置いている。
フィルタリングが絶妙なんだ。
うん、凡俗をちゃんと弾けてるよ。
スキルなんか関係ない。
人材登用と保全。
それがオマエの真の能力なんだ。」
『…じゃあ、荒木に再会出来たのも
真の能力とやらのお陰だな。』
「残念だけど、俺は平凡な男だよ。」
『そう?
ドラゴン倒したり、ドワーフの養子になったり
こっちじゃ商売に成功してたり…
結構、破天荒だと思うけど。』
「斎藤や金本も転移前によく言っていたよ。
ラノベでよく見る展開は、その時点で凡庸なんだってさ。」
『あの2人が言うなら…
そうなんだろうな。』
「遠市。
また、カネを配るのか?」
『今は皆から融資を受けて元金増やしてるところ。
なあ、荒木。』
「ん?」
『カネ、貸してくれよ。』
「駄目だね。」
『あっそ。』
「出資法で禁止されてるから。」
『法律で決まってるなら仕方ねえな。』
「ああ、仕方ない。」
あの日の様に、2人で静かに苦笑する。
転移した当日。
コイツにカネを借りようとしたが
「校則でカネの貸し借りは禁じられているからw」
と断られたのだ。
『あの時は校則、今度は出資法か。』
「カネの貸し借りってトラブルに発展し易いからな。
やっぱり規制されがちなんじゃないか?」
『だろうな。
俺の団地でも5万の借金で人を刺し殺したオッサンとか居たわ。』
「マジ?
5万で死ぬとか悲劇だな…」
『ああ。
担任に売られるよりはマシだけどさ。』
「人命は地球より重いから
マーケットでは5万前後で取引されてるんだろう。
で、今度は幾らバラ撒くんだ?」
『さあ。
今回も金額までは数えないんじゃないか?
俺、不器用だしさ。
100万数えるのも苦労してるんだぜ?』
「オマエ、数字とか苦手だったもんな。」
『うん。
今でも苦手かな。
頭の中で必死で暗算してるのに
それでも結構間違ってる。
凹むわ。』
「金額大きいから仕方ないさ。」
『ありがと。』
2人で交代でストローを吸い合ってるうちに、缶は半分ほどに減っていた。
「じゃあ、今日は挨拶だけってことで。」
『何?
次はいきなり攻撃してくる訳?』
「…頼むから、俺にそんな下らない真似をさせないでくれよ。
その日まで、何かやっておくべき事はあるか?
頼みがあれば聞くぞ?」
『もしも…』
「ああ。」
『クラスの連中の遺族が生活に困ってたら。
俺の代わりにカネを渡しておいてくれ。』
「…オマエが渡せよ。」
『顔も名前も、あんまり覚えてない。』
「金本は?」
『流石に金本君は覚えてるよ。
向こうから積極的に話しかけてくれたしさ。
俺、今度大阪行こうと思ってて。
彼がよく話してた千林商店街も行ってみようと思ってる。』
「ああ、アイツその話ばっかりしてたもんな。
じゃあ。
岩田は忘れた?」
『岩田君を忘れる訳ないじゃん。
中学の頃から色々面倒見てて貰ったしさ。
流石に柔道部誘われた時は断ったけど。』
「岩田は遠市係だったからな…
流石に忘れてたらバチが当たるわな。
その割に平原の話ばっかりしてたけど
オマエらって仲良かったか?」
『昨日、平原の親父さんと鎌倉で飯食った。』
「マジ!?
どんな人だった!?」
『見た通りの糞老害だった。
昭和のDQN、鹿児島verみたいな感じ。
ああいう人種は一生九州から出ないで欲しいよな。』
「オマエ、よく同級生の親と飯なんか食えるよな。」
『同年代より年上のオッサンの方が話しやすい。』
「コミュ障あるあるだな。
まあ、卜部なんかも割とそんな感じだな。
オッサンホイホイっていうの?
周りの大人と上手く折り合い付けて…
交渉役的なポジションで活躍してくれてたよ。」
『それが意外。
彼、いつも黙ってニコニコしてるイメージだったからさ。
最後、あんな風に別れちゃったし。』
「アレはどう考えてもオマエが悪いわ。
あの場でオマエに同調してたら、卜部が婚家から不信感持たれてただろうしな。
同じ新婚でもえらい違いだよ。」
『それは思う。
家庭守れる男が一番強いよね。』
「地球では守るの?」
『家庭とか…
そういうのは持たないんじゃないかな。
短期決戦で全部決めるつもりだし。
そんな暇ないだろ。』
「…オマエ程の男が形振り構わず相討ちを狙ってるんだから怖いよな。」
『他に芸がないだけさ。』
「…自爆テロみたいな生き方やめろよ。
オマエのそういう在り方を見て、傷付いてる子も居たんだぜ。」
『あのなあ。
生き方なんて俺の勝手だろ。』
「面と向かってオマエにそう言われて…
泣いていた子も居たんだぜ。
今だから名前出しちゃうけど、和田さんなんかオマエを…」
『なあ荒木。
わかってんだろ?
俺のやろうとしてること。
来月殺されてなきゃ奇跡だとさえ思ってる。
そんな俺が、女が泣いた位で手を緩めると思うか?』
「だな。」
荒木は「ご馳走様」と短く言うと立ち上がった。
事務的な話を済ませて別れる。
伊藤教諭の墓参りとか、そういう関係。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
脳内反省会。
恩師(笑)に上手く誘導されてしまった。
「広場に居るような人間の屑と関わっちゃ駄目よ?」
この言葉にムキになって広場に居座っていたから荒木に捕捉されたのだ。
たまたま向こうに殺意が無かったから良かったが、相手は竜殺しの成功者である。
無防備に逢って良い相手では無かった。
俺がスキルを使えるという事は、荒木も地球に【鉄道】を持ち込んでいる確率が高い事を意味する。
恐らくはスキルを商売に利用しているのだろう。
身なりもかなり立派なものだった。
わざわざ、ああいう服装で来たという事は、俺がドレスコードのある空間に逃げ込む事への対策も兼ねていたのだろう。
担任と荒木は結託している。
一時的な関係なのか?
肉体関係も含んだ切り崩しが難しい性質のものなのか?
現時点では不明。
いずれにせよ、あのマリファナマンションには2度と近づくまい。
3万も恵んでやったのだ、恩師(笑)への義理は果たしたと言っても過言ではないだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『皆さん。
毎度毎度、ウロチョロして申し訳御座いません。』
例によって深夜。
ホテルの部屋に戻って形式的に頭を下げておく。
無論、何人からも責められる謂われはないが、このグループは大切にしたい。
飯田清磨
後藤響
江本昴流
寺之庄煕規
安宅一冬
jet (山田典弘)
俺を含めてスイートに7名。
勿論、全員がこの部屋で寝ている訳ではなく、このホテルに分宿している。
置いて行ったバッグは飯田が監視を担当していたとのこと。
(文字通り、あぐらを組んでずっとバッグを睨んでいたらしい。)
「リン君、まずはバッグを確認して。
俺達は勝手に触れないから。」
『ああ、すみません。
利息も支払わせて下さい。』
皆の見ている前でバッグを確認。
昨日、10万円だけを手元に置き、残りの718万7407円をバッグに詰めた。
そこに出資者達が1億円を追加したらしい。
もう皆は俺以上に俺の使い道を理解している。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
326万8365円
↓
1045万5772円
↓
1億1045万5772円
※バッグの資産718万7407円を確認
※出資金1億円を確認
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「要は、形振り構わずトイチ先生にお金を集めて
ずっとくっついていれば良いのです。」
『安宅さーん。
それ、一番ポンジとかで狩られるパターンなんでしょ?
ヤバいですよ。』
「でも、先生を見ているだけで楽しいので。
バトルシーンとかも意外に多いですし♪」
…だから、俺がバトル描写に巻き込まれ得ることが最大の投資リスクなんだよ。
『まあいいや。
まずは払い出しをさせて下さい。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1億1045万5772円
↓
1045万5772円
↓
945万5772円
※配当金100万円を出資者に支払い
※出資金1億円を返却
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『…その私はありがたいのですが。
皆さん、メリットあります?
6人で日利100万って少額過ぎると思うのですが。』
俺だけが得をしているように見える状況なので、念の為個々と意思確認を行うことに決める。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【飯田清磨】 出資額3500万円 本日受取配当34万円
『スイマセン。
俺、清磨さんにはずっと世話になってる気がします。』
「ああ、いやいや。
こちらこそ、三田の方にあの人が入り浸っているみたいで。
何かゴメンね。」
『…正直、ああいう女同士の人間関係って理解出来ないんです。
森さんが完全にヒルダの秘書みたいになってますし。』
「本人が楽しそうだからねえ。
職場では死んだ目で働いてたから。
俺としては…
リン君に迷惑が掛かってなければ、というのが本音。」
『いやいや!
こちらこそ、飯田夫妻の生活を完全に変えてしまって…
責任感じてるんです。』
「いいのいいの、今の生活が楽しいからww
100円からこんなに面白い投資生活が始まるなんて思ってもいなかったよw」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【後藤響】 出資額200万円 本日受取配当4万円
『あの、後藤さん。
大学とかって行ってるんですか?』
「休学です。」
『なんか、すみません。』
「ふふっ。
この状況でトイチさんに乗らんかったら
逆に親父に愛想尽かされますわ。」
『金銭的には…
ペイ出来てます?』
「既に軌道に乗りました。
安宅さんがやや多めに分配してくれるのもあります。
正直に申告しますね?
現在出資額200万で、日4万を分配して貰ってます。
宿代も出して貰ってますし。
幾ら俺が無学でも、これが頂き過ぎである事くらいは理解しています。」
『安宅さんから見れば、貴方も投資価値が大きいのでしょう。』
「俺と言うより江本ですね。
まあ、アイツは昔から頭切れますから。
野球にだけ使っていたのが、おかしかったんですよ。」
『私は…
後藤さんも別の種類の知性に秀でていて
安宅さんは、そこに期待して投資…
いや、繋ぎ止めたがってるように見えます。』
「さてさて、俺なんかが何の役に立ちますかねw」
『あ、その表情は自信がある時の顔ですねw』
「ははは、どうでしょうね。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【江本昴流】 出資額200万円 本日受取配当4万円
「トイチさん。
俺、何もしてませんよ?
なのに分配だけ一人前に貰ってしまって。」
『そうですか?
江本さんのロードキル戦法が無ければ
分配そのものが出来て無かったと思いますけど。』
「いや、その話は…」
『失礼、その所為で叱責されてしまいましたものね。
でも、俺の中でエモやんの功績は不動ですし、後藤さんも貴方の居ない所では常に絶賛していますから。』
「所詮、鹿を轢いただけですからね。」
『警察無線も傍受してくれたじゃないですか。』
「…ははは、次から合法部分で協力させて下さい。」
『これから狩猟関係で西へ向かいますが…』
「俺も同行させて貰ってええですか?
勿論、大学は休学済です。」
『自分でも予定が読めないのですが…
大阪にも立ち寄ると思います。』
「大阪を拠点にしはるんですか?」
『大丈夫大丈夫、後藤さんと
《大阪は滅ぼさない》
って約束したのでw』
「…まあ、なるべく他の街も穏便に。」
『大丈夫大丈夫♪
おカネ配るだけおカネ配るだけ。』
「…ハーメルンの笛吹き男みたいなオチが見えましたわ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【寺之庄煕規】 出資額1100万円 (100万円)
本日受取配当11万円 (2万円)
※()は弓長真姫からの預託分
「おカネもそうなんだけどさ。
トイチ君が本当に面白い(笑)
僕、君のカノジョさんの配信、かかさず見てるもの。」
『いや、アレは彼女という訳ではなく。』
「ああ、そうだったね。
三田の人はどうするの?」
『えっと、取り敢えず正妻格は三田で。
そこは不動にします。
それ以外の女は…
もう三田に差配させようと思ってるんですよ。』
「まるで大名の奥政治みたいww」
『笑い事じゃないですよぉ。
アイツら、ちょっと喧嘩が強いからって容赦なく暴力を振るって来るんです。
いや、鷹見に関しては先に殴ったのこちらですけど。』
「僕、刺激の無い人生を歩んで来たからね。
トイチ君劇場をドキドキしながら見せて貰ってるよ。」
『いやいや、ヒロノリさんも舞台に上がっちゃってるんですから。
ちゃんと自己防衛して下さいね?
ご実家とか婚約者さんとか、現状をご存知なんですか?』
「うーん、そのうち、ね。
機会を見て話すよ。」
『あー、駄目ですよぉ。
絶対後で揉めるパターン。』
「あははは。
じゃあ、僕が怒られる時は一緒に来てくれよ。
地元観光案内するからさあ。」
『行きます。
出資者サービスということで。
まあ、私が出来る事って謝るかカネ出すくらいしか無いんですけどね。』
「大丈夫大丈夫、大抵の大人もそうだから♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【安宅一冬】 出資額5000万円 本日受取配当47万円
『安宅さんなら、トレードに専念したらもっと稼げるでしょう?
ホテルの株主優待券も供出して下さってますし。
ちゃんと利益出てますか?』
「いえ、トイチ先生も本心ではお分かりだと思いますが
この初期出資者グループに入れた事が大きいんです。
だって、この先出資者が1000人とか1万人に増えたら
もう個々とは話して下さらないでしょう?」
『まあ、金額が膨れたら…
親しい仲間を通じてしか外部と接触しなくなりますね。
後、よっぽど偉い人の面会にだけ応じたり。』
「そういう経験を… 異世か…
あ、いえ。
そういう経験をされたのですね。」
『異世界では。』
皆が一斉に振り返る。
『最後は四天王としか話す機会がありませんでした。
勿論、なるべく多くの人々と謁見しようとは試みていたのですが
どうしても儀礼的・機械的になってしまって…
ラスボスやら裏ボスに対してだけ、時間枠を長めに取っておりました。』
「…はは。
まるで王様のような。」
『…。』
「いえ、失礼しました。」
『俺は単なる東横キッズです。
異世界云々なんて、ガキの妄想です。
そうでしょ?』
「…はい、トイチ先生はずっと地球に居られました。」
『ただ妄想の中で学んだことを、安宅さんに対して真摯に還元して行く所存です。』
「あ、いえ!」
『諸経費・時間・リスクも計算に入れた場合。
安宅さんにお支払いしている日利1%が十分とは考えておりません。
悪いようにはしません。
これからも私を守って下されば幸いです。』
「…地球でも、王になられますか?
あ、いや!
これは勿論、私の妄想話です!」
『安宅さんの方が詳しいと思うのですけど。
王政ってコスパが悪いんです。
なので、地位・身分は資本の原理に背かない範囲でしか取得しないと思います』
「こうやって先生のお話を伺わせて頂いているだけで、千金の価値がありますよ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【jet (山田典弘)】 出資額0万円 本日受取配当0万円
『jetにも幾らか払わせてくれない?』
「カネ出してない俺が受け取っちゃうと…
後々、ややこしくなるんじゃない?」
『でも、昨日なんか担任に3万円カツアゲされたぜ?』
「ああ大麻の人。
何で逮捕されないんだろうな?」
『さあ、お巡りさんは俺の取り調べで忙しいんだろ。
なあ、せめて面倒みてくれた分のお礼くらいさせてくんない?』
「なんか仕事くれたら
その報酬を受け取るよ。」
『うーーん。
もう実際に色々助けられたしな。
ほら、警棒オジサンを撃退してくれたり。』
「アレは…
仕事なのか?」
『下手すりゃ、俺死んでたしな。』
「じゃあ、とりあえず10万だけくれ。」
『ありがとう、助かる。
ゴメンな。』
「オマエが謝ることじゃねーよ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
945万5772円
↓
935万5772円
※jet(山田典弘)に諸々の謝礼
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なあ、リン。」
『んー?』
「俺、オマエの役に立てることなんかないぞ?」
『本気でそう思ってる訳じゃないんだろ?』
「そりゃあ、使い道はあるだろうけどさ。
東横って、注目スポットの一つだから。」
『ここって貧困の象徴みたいに報道されてるじゃん?
そこを舞台にして俺がバズっちゃった訳じゃん?
…そりゃあ政治利用考えちゃうよな。』
「俺、ここで色々調整しようか?」
『えー、狩猟ツアー一緒に行こうぜ。』
「でも政治利用したいなら、連絡役は置いておいた方がいいぞ?
報道陣やらも毎日来てる訳だし。
昨日だって友達が来てた訳だし。」
『jetが相手だから本音で言うけどさ。
東横経由でしか連絡を取れない
って言うのは、俺のブランディング的に面白いと思う。』
「ミステリアスではあるよな。」
『だから、これから俺の行動がマクロになればなるほど
オマエというパーツが必要になって来るんだよ。』
「ふふっ」
『何だよ。』
「ちゃんと部品って言ってくれたから、気分よく仕事してやるよ。」
『オマエって自分で思ってる以上にレアリティある。
もし友達じゃなかったとしても、手放さなかったんじゃないかな。
jetに色々打ち明けてるのは、気まぐれや数合わせでない事さえ伝わってくれればいい。』
「オマエの発言って一々情報商材のランディングページみたいだぞw」
『確かにw
想いを伝えるって難しいよな。』
そういう遣り取りを終えてからjetは女に呼ばれて帰って行った。
安宅が去り際のjetと連絡先交換しながら、幾らかを包んでいた。
あの辺のマメさが投資家の投資家たる所以なのだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、皆でルームサービスをポリポリ齧りながらの雑談が盛り上がってしまい、今日も夜更かしだった。
目が覚めると11時を過ぎていたので、ホテルの電話を借りてもう一つのレア部品に連絡する。
『どうも、忙しい時間帯でしたでしょうか?』
「遠市さん!?」
『古屋さん。
連絡が遅れて申し訳ありません。
生活が安定してきたので、まずは一報致します。』
「おおおおお!」
『例の場所に行く方法はまだなのですが…
貴方の事をちゃんと覚えている事を伝えさせて下さい
万が一自首しなければならない状況になりましたら、古屋さんに最初に相談させて下さい。』
「うおー! うおー!」
言うまでもなく、《自首》というのは、俺達2人で決めた《異世界行き》の隠語である。
そんな状況が来るとは思えないが、何かの事情で異世界に地球人を送らざるを得なくなれば、望み通り古屋を放り込む。
何せあのガタイである。
オーラロードも突破してくれるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『清磨さん。
俺、今まで気づかなかったんですけど。
ホテルって電話を使わせて貰えるんですね。
素晴らしいです。』
「え?
ああ、そっか。
リン君って、まだスマホ買ってないから。」
『そうなんですよ。
ちょっとした連絡に苦労していて。
助かりました。』
…いや、これが一番の収穫。
ホテルって電話を使わせてくれるんだな。
高級施設とは縁のない人生だったので知らなかった。
『ははは。
でも、連絡手段を確保した所で掛ける相手も居ないんですけどねw』
「え?
三田には電話掛けないの?」
『あ!
…掛けた方が、いいんですかね?』
「うーーーん。
ヒルダさんも心配してると思うし。
一応、一報くらいは入れた方がよくない?」
…この話の流れでコールしないのも変な話だしな。
一報入れておくか。
重い指を何とか叱咤して三田に電話する。
「コリンズです。」
相変わらずの瞬間受電。
VIP向けのコールセンターみたいな女だ。
『えっと、あの。』
「リン。
御無沙汰しております。」
『うん、御無沙汰。』
「…。」
『あのさあ。』
「…はい。」
『またキャラバン組むことにしたわ。』
「日本を出るのですか?」
『違う違う、亡命はしない。
レベリングの為に日本の郊外部分をしばらく回る。』
「…。」
一応、機嫌も取っておくか。
セックスする相手は確保しておきたいし、また内戦でも引き起こされたら堪ったものではない。
『ヒルダも来るか?』
「…宜しいのですか?」
『折角の地球だ。
特等席で楽しめよ。』
「お供致します。」
『側室の話だけど。』
「は?
…ええ。」
『原則的に増やすつもりはない。
ただ、自然増加した分に関してはヒルダの差配に任せる。』
「自然に妾など…
いや、リンであれば増えますか…」
『今は大した金額は動かしてないけど。
億・兆・京と桁が増えるにつれ、そういう機会は増えるよ。
だって魔界や首長国でもそうだったから。』
「でしょうね。」
『今回は混乱を避ける為に先にルールを設定しておく。
《ヒルダの気に入らない女は邸内に入れない。》
以上。』
「リン。
女というものは、そもそも他の女が気に入らない生き物なのですよ?」
『じゃあ、全員ブロックしてくれればいい。』
「どうして急にそんな話を?」
『ヒルダに助けて欲しいからだ。
側にも居て欲しい。
後、こう見えて結構気に掛けてるんだぜ?』
「…。」
『知らない世界で不安だろ?
俺もあっちではそうだったから、わかるよ。
今思えば、あの時コリンズ家の婿養子になったから
俺の生活が安定したんだと思う。
返礼だ。
今度は俺がヒルダの身分保障を行う。』
「それは…
私を正室として認めて下さるということですか。」
『俺の正室はコレット・コリンズ。
それは変わらない。』
「ッ!」
『だからヒルダは俺の義母。
ここも譲らない。』
「…。」
『俺の中では、ヒルダこそが母親だからな。
多くを学ばせて貰っている。
親のみならず師であるとも思っている。』
「何一つ嬉しく感じませんね。」
『それはそれとして。
オマエは俺の女だとも自惚れている。』
「…随分都合のよろしいことで。」
『仲間には、ヒルダをそう紹介する事に決めた。
義母にして愛人。
聞かれたらそう答える。』
「地球でもきっとそうだと思いますが…
義理とは言え母親と愛人関係になるなど…
最低の男の烙印を押されますよ。
少なくとも、あちらの世界の評価基準では
母子相姦は獣畜生以下の唾棄すべき行為です。」
『なあ、ヒルダはこういうの嫌か?』
「私は一匹の獣です。」
それだけ宣言するとヒルダは自分から電話を切った。
カッコいい女である。
俺もいつかはあんな風に颯爽とした振舞をしてみたいものだ。
「リン君。
ヤバいって。」
『え?』
「一般回線で異世界を匂わせる発言はヤバい。」
『いや、異世界っぽい発言してましたっけ?』
「してたよー。
特にさあ。
《知らない世界で不安だろ?
俺もあっちではそうだったから、わかるよ。》
この発言はヤバいって。」
『聞きようによっては
どこか遠い場所に行って来たみたいに聞こえますね。』
「リン君。
100円株主として要望出していい?」
『ええ、筆頭株主の発言を許可します。』
「これからは、一般回線で異世界の話はしないで欲しい。
盗聴を前提に動くべき。」
『株主提案を採用します。』
「随分大きな100円になったよ。」
『清磨さん。』
「ん?」
『いつもありがとうございます。』
「友達だろ。
恐縮はなしで行こうぜ。」
俺の幸運は得難い友を得れたことである。
異世界でも、地球でも。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
部屋に戻り、東京での用事が一通り済んだことをメンバーに伝える。
丁度、12時。
『では、浜松にはいつ行っても良いという事ですね?』
「うん、ほらメッセージ見て。」
寺之庄がインスタ画面を見せてくる。
[いつでも歓迎しますよー。
色々融通利かせます(笑)
ルナルナ配信も登録しましたー♪]
『随分、好意的ですね。』
「トイチ君がバズってるからね。
提示した報酬に加えて、今の君には有名人プレミアムが付いている。」
一応、好意的な猟師にはガイド料1日10万+成果報酬を提示してある。
成果報酬の【成果】が何なのかは敢えて言及していないが、どの猟師も馬鹿ではないので察してはくれている。
例えば、兵庫の宇田川猟師のメッセージ。
[JR篠山口駅まで電車で来て頂けば、こちらの車両で猟場まで案内致します。
JR大阪駅から50分乗り換えなしでお越し頂けます。
日帰り対応しますので、いつでもお申し付け下さいね。]
「ね?
好意的でしょ?
大分の浦上さんや、福井の谷口さんも地元写真送って来てくれたし。
福井は僕の実家があるから嶺南なら案内出来るよ。」
猟師が協力さえしてくれれば、俺のレベリングは容易だ。
我が国に多い狩猟獣は鹿・猪・熊。
異世界ではディア系・ボア系・ベア系と呼称していた。
王都で親しくしてくれたゴードン武器店は
《レベリングがしたいなら農村に泊まり込んで狩猟を手伝わせて貰え》
と言っていた。
彼の言葉は正しかったし、地球でも応用出来るはずである。
「これ、男なら頭の中に叩き込んでおくべき数字なんだけどな?
ラビット系5ポイント
リザード系10ポイント
ディア系20ポイント
ボア系40ポイント
ウルフ系50ポイント
ベア系100ポイント
これが経験値の目安なんだ。」
キョンはシカ科なのでディア系。
なので20ポイントの経験値があっても良かったのだが推定1ポイントしか貰えなかった。
地球では取得経験値が20分の1になってしまうのだろうか?
それとも異世界の逞しいディアと矮躯のキョンでは経験値が異なるのが当然なのだろうか?
殺してみるまで分からないし、ステータス画面が見えない以上、殺した所で厳密な数字はわからない。
次のレベルまで推定80ポイント必要。
もしも異世界同様に猪を殺して40ポイント貰えるなら2匹殺しただけでOKなのだが…
そんなに甘い話はないだろうしなあ。
『ヒロノリさん。
少し長丁場になるかも知れません。
しばらく郊外に滞在させて欲しいんです。
御迷惑でなければ…』
「じゃあ、今から車を出そうか?」
『え?
今からですか?』
「だってトイチ君。
凄くそわそわしてるよ(笑)」
『ははは。
もう狩猟のことばかり考えてました。』
「よし、じゃあキャンピングカーを持って来るよ。」
鉄道ではなく車両で移動するのは最初から決めていたことである。
大金を持ち歩き、何より大金の話題をする以上、ある程度の密室性は欲しいからである。
寺之庄のキャンピングカーのスペックは、ドイツ製の最高級車という事もあり非常に高い。
乗車定員・就寝定員5名。
以前千葉でも見せて貰ったが、冷蔵庫・キッチン・ベッド・シャワールーム完備である。
用いる車両は以下の通り。
・寺之庄 (寺之庄・俺・安宅)
・江本 (江本・後藤)
・飯田 (飯田・関羽?)
皆で地図を見ながら、浜名湖畔のグランピング施設を予約する。
数か所あるので、泊まり比べながらベストスポットを模索するのだ。
『皆さん。
最初に女について話させて下さい。』
「「「「「女?」」」」」
『長丁場になる可能性が高いので、女を連れて来て下さって構いません。
内輪には入れないように、との条件は付きますが。
ワンデイの女性も可。』
一同笑。
『要は、快適に過ごして欲しいんです。』
まず安宅が挙手。
「セフレは居るんです。
ただ、率直に言って信用出来ない女なので
トイチ先生に出会ってからは、連絡を絶っております。
ここまで話が大きくなってしまいました。
女を混ぜるのは… 怖いです。」
遊び慣れているだけに率直。
気持ちはわかる。
『じゃあ、安宅さんが信用できる女性を探す事も旅の目的に加えましょう。』
「そんな女、居るのかなー?」
一同笑。
続いて、後藤が挙手。
「俺は彼女すら居ないので…
どうしましょう。」
『いやー、後藤さんが一番モテそうに見えるんですけど。』
「えー?
モテてないですよー。」
『でも野球やってた時、追っ掛けの子はいっぱいいたんでしょ?』
「アレはファンであって彼女ではないですからね。
何とかならんのですかね?」
まず、常識的に考えて後藤がモテないという事はあり得ない。
筋肉質な長身、精悍で端正な顔付き。
ルックスだけでもオスの上位1%に入っている。
これに加えて、柔軟で知的なコミュニケーション能力。
アクティブで創意に富んだ性格。
そして何より野球人生で勝ち取ってきた無数の功績。
(普通にリトルシニア時代に日本代表のエースとして世界大会で優勝している。)
「め、面と向かって言わんとって下さいよ!
照れるじゃないですか!」
『あ、いえ。
私の後藤さんに対する第一印象が
《イケメン・育ち良さそう・滲み出る万能感》
ですから。』
「…いやー、真正面から言われると反応に困りますね。
ほ、褒めて下さって嬉しいです。」
『後藤さんの交際相手なんですけど。
エモやんさんに決めて貰いません?』
「え!?」
「え!?」
『いや、それだけ恵まれたスペックなのに
相手が居ないというのは…
多分、無意識的に後藤さんから遠ざけているんですよ。』
「えー。
俺、遠ざけてますかね?
自分ではそういうつもりは無いんですけど。」
『多分、貴方は根が潔癖なんですよ。
最初に後藤さんに逢った時の話ですけど。
港区女子への嫌悪感を溢してましたよ。』
「ああ、初日、そんな話題もしましたね。」
『後はエモやんさんに任せます。』
「えー、後輩に女の世話させるとか、恥ずかしいし…
男としてあり得ないですよ。」
『でも、エモやんさんなら信頼出来るでしょ?』
「…まあ、一番気を許している相手ではありますね。
わかりました!
もう全てを江本に委ねます。
エモやん、全てを任せる。
もう俺はゴチャゴチャ言わへん!
お願いします!」
「お任せください!」
これで話は終わった。
江本なら本当に何とかするだろう。
そして後藤も本当にゴチャゴチャ言わない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ホテルから出て面識のある東横組と話していると、ホストの乱舞が遊びに来たので連絡先を交換。
「バーバリアンにガサ入ったんすけど。
あれは遠市さんっすか?」
『はい、私です。
新宿署に依頼しました。
遼介さんからも聞いていると思いますが、ホストへの取り締まりが厳しくなると思うので…
聖夜Mk-IIさんにも注意するように気を付けて下さい。』
「はい、聖夜Mk-IIオーナーからもネンカク厳しくするように命令されました。
あの日仰ってたように、ホスト潰しっすか?」
『…乱舞さん。
商売替えする予定はありませんか?
そんなに儲かってないでしょ?』
「え?
い、いやなんとか食えるくらいには貰ってますが。」
『女を殴ってまで徹夜して
《なんとか食えるくらい》って割に合ってませんよ。』
「まあ確かに、女を殴る分には構わないんですけど。
徹夜は本当に辛いです。」
『乱舞さんも遼介さんも愛想烈さんも有能な方ですし
あんな仕事しなくても、普通に儲かると思いますよ。』
「…俺、年少上がりなんすよ。
学歴もちゃんとした職歴もありませんし
夜職以外は、雇ってくれるとこ無いと思うんすよ。」
『ねえ、乱舞さんって年収幾ら位欲しいんですか?』
「え?
あ、いや。
そりゃあ多いに越したことはないっすけど。
拘りはあります。」
『拘り、ですか?』
「はい。
同年代でサラリーマンやってる奴より多く欲しいです。
地元の奴ら500とか、いい工場に勤めてる奴は650とか貰ってるんで。
それより多く欲し… 1000万欲しいです!
ホストになれば、それくらい行くかなって思ったんすけど。」
『…じゃあ、日当3万とかなら来ます?』
「引き抜きッすか?」
『いやスカウトの際は聖夜Mk-IIさんに許可を取りますし
移籍料もちゃんと支払うつもりです。』
「あ、いや。
気持ちは嬉しいんですけど。
俺、中卒っすよ?」
『…乱舞さん、ステーキの切り分けって出来ます?
酒を注いで回ったり。』
「え?
あ、飲食?
居酒屋とかボーイズバーなら、多少は経験ありますけど。
え? 飲食で日当3万っすか?」
『この件、遼介さんや聖夜Mk-IIさんと話し合って貰えませんか?
私の人手が足りなくなった時、助けて欲しいんです。
日当はさっき申し上げた額を最低保証額にします。
ホストクラブの規制を推進してはいますが、個々に対してそこまでの悪感情は持ってません。』
「…わかりました。
遠市さんのお話、そのまま皆に共有します。
勿論、遼介にも。」
『ありがとうございます。』
ビジュアル的に目立つ乱舞と話していた所為か、面識ある者が目敏く俺を見つけて話し掛けてくる。
一昨日、一緒にチャンポン麺を喰いに行ったカップルからも礼を言われる。
そんな風にワチャワチャしていると、例によって鷹見が湧いて来る。
『…またトレイルカメラか。』
「はい!
深センから輸入した最小モデルッス。
見て見て、葉っぱに偽装した超小型太陽光発電。
広場で大きな動きがあった場合、ウ↑チ↓にアラームが飛ぶ仕組みッス♪」
『…そうか。』
「ダーリン様のオトモダチ、全員荷物を纏めてますね?
どっか行くんスか?」
『…旅行。』
「えー?
急に言われてもウ↑チ↓困りますよ!
女の子には準備物が多いんですからね!」
『いや、鷹見は呼んでないけど。』
「えー!! やだやだやだやだ!!!
あ、わかった!!!
他の女っスね!?
ウ↑チ↓以外の女が来るんスね!!
いきなり浮気ッスか!!」
『えーっとねえ。
母親も来ると思う。』
「え?
母親と旅行とかキモ。
マザコンキモ。」
『うん、普通はそう思うよな。
だから来なくていいぞ。』
「あーーーー!!
今のナシ! 今のナシ!!
じゃあウ↑チ↓、ダーリン様のお母様に挨拶するッス!
挨拶も兼ねて旅行連れてって下さいッス!
ハネムーンも兼ねて!!!」
『えーーっと、参ったな。
さっき電話したばっかりなんだよ。
《勝手に女を連れ込まない》ってさ。
まあいいや。
一応紹介するから、仲良くやれよ。』
「わかったッス!
礼儀正しくしてるッス!!
(スキヲミテブッコロスッス♪)」
『勝手に戦争するなよ?』
「あはははww
ダーリン様大袈裟ぁww
幾らウ↑チ↓でもそこまではしませんよおw」
…残念だがヒルダはそこまでするぞ?
鷹見と話していると背後からクラックション。
「おう、リン。
昨日は楽しかったな。」
「あーーー!!!!
昨日のジジーーーー!!
毎回毎回、ウ↑チ↓がダーリン様と居る時に限って邪魔しやがって!」
『あ、平原さん。
どうもです。
貴方もトレイルカメラですか?』
「二か所にしか埋め込んでないぞ?
AIに学習させたオマエの歩行姿勢データがアラーム鳴らしてくれたから
慌ててホテルから出て来たんだ。」
『えっと、どっから突っ込んでいいのかわからないんですけど。
技術の悪用は止めましょうよ。』
「そっかー、姿勢学習かぁ。
その手があったんスね。」
『悪人って、悪知恵を共有する時だけ妙に仲良くなるよな。』
「オマエのおかげでMarkⅡを仕込めた。
礼に送ってやるよ。」
「ハア!?
何だぁ、テメエ!
ダーリン様は今からウチとなあ!」
『あ、じゃあ。
駅までお願いしていいッスか?』
「おう! 任せろ。
さあ、お友達も遠慮なく荷物乗っけてねー。」
「ちょ!!
ダーリン様!!
ウ↑チ↓は!!!
旅行はどうなるんスか!!!!」
「え? オマエ旅行行くの?」
『あ、はい。
浜松で豪華グランピングを。』
「おお、マジ!?
行く行く、俺も行く!」
『いや、平原さんは誘ってませんけどね。』
「鰻食おうぜ!
俺もMarkⅢを仕込む為に精を付けたいから!」
『いや、まあいっか。
後で仲間に紹介しますよ。
鰻はjetに喰わせてやって下さい。』
「jet?」
『ほら、貴方の頭蓋骨を砕いた。』
「ああ、居たなそんな奴。
まあいいや、喰わせてやる。」
平原猛人は余程フットワークが良いのか、俺達を送る事も忘れてそのまま走り去ってしまった。
本人曰く、「先に浜松で待ってるぜ」とのこと。
アホらしいのでツッコむ気も湧かない。
「ダーリン様!!
ウ↑チ↓は!?
ウ↑チ↓は!?」
『…まずは母親チェックで。』
「ウ↑チ↓が通過する訳ないでしょ!!!!」
『うん、俺もそう思う。』
「あががががががーーーッ!!!!!」
『ただな。』
「あがっ?」
『鷹見って女社会では嫌われるタイプだけど
男社会を模倣しようと足掻いてる女の群れでは、ちょっと嫌われるくらいで済むキャラだと思う。』
「どのみち嫌われてんじゃねーか!!」
『俺はそんなに嫌いじゃない。』
「え?
トゥンク?
ここトゥンクする場面?」
近くのカラオケボックスに飯田と入り、関羽経由で鷹見をヒルダとリモート面接させる。
一応、女同士の会話なので席を外した。
飯田とドリンクバー前で談笑していたのだが、防音扉越しに鷹見の金切り声が漏れて来る。
『清磨さん、ここ防音弱くないんですか?』
「間取りからしてネカフェか何かを改造した物件なんじゃない?」
『カラオケで防音弱いとか終わってますね。』
「でも歌舞伎町のど真ん中だからね。
儲かってるっぽいよ。
まあ、結局商売なんて立地が全てだからね。」
『清磨さんは、何か商売やってみたいとかあります?』
「あの人と…
FIREしたら夫婦でカフェでも経営したいね、とは言ってる。」
『するんですか?』
「客として行く分にはいいんだけどね。
さっきも乱舞君が言ってたでしょ
飲食はしんどいから。」
『看護師とどっちが大変ですか?』
「…決まってるでしょ。」
『あ、すみません。』
そんな雑談をしている間に、鷹見が飛び出して来る。
「ぼえええええええ!!!!
ダーリン様あああああ!!!!!
あのBBAがウ↑チ↓とダーリン様の仲を引き裂こうとしてくるううう!!!」
『ヒルダは他者に対しては健常者である事を望むタイプだから。』
「絶対母親って嘘でしょ!!!!
あの糞BBA!!!
女丸出しで敵意剥き出しでしたよ!!!!」
『それだけ鷹見が魅力的だったんじゃない?
女としてのライバル心を刺激するくらい可愛かったんだよ。』
「…そ、そんな初歩的なヨイショには屈しないッス!
屈しないっスよ!!!」
『あながち世辞でもないんだけどな。
まあいいや。
そういう訳で俺はしばらく浜松に居るから。
鷹見も元気でな?』
「ん?
ウ↑チ↓も行くッスよ?」
『え?
ヒルダから断られたんだろ?』
「断られたのは交際であって
浜松には糞BBAヒルダ先輩と一緒に行く事になったッス。」
『ファ!?』
「いや、勿論タダじゃないっスよ?
ダーリン様の個人情報を売り渡すことで話は付きました。」
『ファーーーィ!!??』
「ウ↑チ↓だって不本意なんスけど。
他に出せる対価もありませんしね。
しばらくBBA先輩の手先としてダーリン様の監視業務を遂行しますわ。」
『いや、ちょっと待て!!
その話の展開はおかしい!!!
その理屈はおかしい!!!』
「いや、男の人の都合からしたらおかしいかもですけど。
女からしたら自然な自己防衛じゃないッスか?
ゲーム理論的には正しい同盟だと思いますよ?
もう纏まったカネも振り込んで貰いましたし。
BBA先輩とは一時休戦ってことで。」
結局、本当に鷹見は来るつもりらしく、スマホでヒルダと談笑しながらどこかに去ってしまった。
アイツらが結託したら嫌だな。
いや、俺が嫌がるからアイツらが結託したのか…
つくづく楽をさせてくれない連中である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局、東京を出立したのは14時過ぎだった。
浜松ICまで3時間弱と聞いていたので、恩寵の儀は中間地点の富士川SAで迎えることに決める。
寺之庄は「ベッドで寝ていて構わない」と提案してくれたが、高い車高からの眺めが気持ちいいので、運転席の側に控える。
車は既に川崎に入っている。
「冷蔵庫にワインが入ってます。
安宅さんも飲んで下さいね。」
「あ、いえ。
私は予備のドライバーのつもりでおりますので。」
「ふふっ、助かります。
じゃあトイチ君が飲みますか?」
『いえ、予備予備として待機してます。』
一同笑。
厚木を越える所で、後藤から連絡が入る。
江本車も高速に乗ったとのこと。
手筈通り富士川SAに向かって貰う。
順調に走っていたのだが寺之庄のスマホに平原から着信がある。
不本意ながら俺が出る。
「おう、浜名湖でかなり有名な鰻屋があるんだ。
大将とは懇意でな。
今日は何人で食べる?」
『あ、平原さん。
我々にも予定というものがですね。』
「えー、来ないのー?」
『グランピングって言ったでしょ。
多分、そのままキャンプ場に入ります。
19時を過ぎると思います。』
「よっし、鰻買って行くわ!
皆で焼いて食おうぜ!!」
『いや、だから我々にも予定というものがですね!』
ツーツー。
平原ぁ、あの時は疑ってゴメンな。
場を和ませる為のギャグかと思ったんだよ。
まさか本当にあんな人間が実在するとは思いもしないじゃないか。
オマエからあのオッサンを連想するのは流石に不可能だって。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
15時。
足柄SAで寺之庄のトイレ休憩。
巨大金太郎人形があったので、3人で記念撮影。
メンバーに送ってやる。
そして、すぐに発進。
「富士川SAまで1時間弱ってナビに出てる。」
『ああ、それなら余裕を持って17時の恩寵を迎えられそうですね。』
「窓の目張りを忘れないように気を付けるよ。
キャンピングカーって結構覗かれるからね。」
『そりゃあ、こんな豪華な車なら思わず見ちゃいますよね。』
途中、後藤から連絡が入る。
「大変です。
トイチさんが誘拐容疑で告訴されたそうです。」
第一声がそれ。
『え?
誘拐?
俺が、誰を?』
俺は誘拐されるのは得意だが、誘拐した経験はない。
「伊東という少女です。」
『は?
い、伊東ですか?
ちょっと記憶に…』
「ほら、江本が連絡先を交換してたじゃないですか。
佐々木って子と。」
『ああ、佐々木さん!
あの人美人ですよね、スラっとしててカッコいい!』
「その友達ですよ。
何かいたでしょ。」
『ああ、佐々木さんの隣にナニカ居ましたね。』
「あの子、家出してた中学生なんです。
14歳。」
『ああ。確かにそれくらいの年齢感ありますよね。』
「で、伊東一族が血眼になってナニカを探してたみたいなんですね。」
『まあ、中学生が家出したら
そりゃあ探すでしょうね。
あそこには探して貰えない子がいっぱいいましたけど。』
「どうやら、トイチさんの配信にナニカが映ってたみたいで
それを見た伊東一族が、トイチさんに娘を攫われたって総発狂してるらしいんです。」
『マジっすかー。
俺、その子の顔すら覚えてないんですけど。』
「今、佐々木さんが伊東一族を宥めてくれてます。
ただ、肝心の佐々木さんもまだ16歳みたいで…
警察にも接触出来ず困ってるみたいなんです。」
『ええ!?
あんなに美人で落ち着いているのに、まだ16!?
いやあ、女の子ってわからないですねえ。』
「ちなみに、佐々木さんと江本が割といい雰囲気だったので
先輩としてくっつけようとしてたんですけど。
いやあ、危なかったですわ。」
『た、確かに。
今は未成年者とのそういうのは厳しいですものね。』
「ちょっと軽率やったと反省してます。
あ、話を戻しますね。
まだ確報ではないんですけど、埼玉県警が告訴を受理しちゃったっぽいんです。」
『えー、告訴って。
困るなあ。』
「今、佐々木さんとjetさんが状況把握に動いてくれてます。」
『その伊東ナニカさんは、そこに居るのですか?』
「昨日、大久保公園で客引きしている場面を目撃されてます。
その時に佐々木さんにメールで告訴の話をしたみたいですね。
読み上げますね
[ママがリン君を訴えててまぢムカ]
とのことです。」
『え!?』
「佐々木さんが粘り強く事情を聴き取ってくれたのですが。
[さゆっち5000ぇんちょーだぃ]
のメッセージを最後に連絡がないそうです。」
『佐々木さん美人なんだからもっと友達を選ばなきゃ。』
「本当ですよねえ。
いや、佐々木さんはスタイルも江本好みですし
年齢さえなければ、俺も何とかくっつけてやりたかったんですけど。」
「いや響さん、もおええですやん。
今は俺の話はええですやん。」
『後藤さん。
佐々木さんは江本さんのこと…
どう思ってるんですかね?』
「うーん、俺も恋愛関係には本当に疎いんですけどね?
江本が《実家は大阪》って言ったら
即座に《大阪旅行してみたいと思ってました》って返して来たんですよ。」
『おおお!!!』
「これ絶対脈あるでしょ!?
絶対佐々木さん江本に好意ありますって。
それにあの子、江本が《ずっと野球やってた》って言った瞬間に
《スポーツマンの彼氏が欲しい》って返してきたんですよ!?」
『うおおおお!!!!
エモやんさーん!!
絶対!! 絶対に佐々木さんに惚れられてますよ!!』
「いや、トイチさん。
今は告訴を何とかしましょう。」
『この誘拐騒ぎが切っ掛けになって…
エモやんさんと佐々木さんが結ばれたら…
私、ちょっと感動しちゃいます。』
「いや、何でそんなにポジティブなんですか。
まあ、引き続き佐々木さんとjetさんには動いて貰います。」
その後、通話モードで恋愛話に盛り上がった。
そういう話題に興味の無さそうな安宅が目頭を赤くして
「江本くーーーん!!!
俺っ、応援するから!!!」
と絶叫して感動はピークに達した。
「いやあ、トイチ先生に同行して本当に良かったです。
まさかこの歳で、こんな青春トークが出来るなんて
やばっ、また涙が出て来た。
私ねー、進学校だったんですよ。
クラス全員東大ガチ勢みたいな。
…だから、ああいう若者同士の恋愛トークって
本当に憧れがあったんですね。
いやあ、今日も素晴らしい1日です!」
安宅は涙をボロボロ流しながら灰色の学生時代を語り始めた。
そりゃあ、7時から22時まで受験勉強させられたら、恋愛なんてする暇ないよな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
16時10分。
富士川SAに到着。
jetに通話で平謝りする。
「ばーか。
オマエは何も悪いことしてないんだから
堂々としてろ。」
『いや、俺ずっとjetに世話になってるから。』
「友達だろ、お互い様だ。
こっちで情報集めておくから
オマエは電波だけ確保しておいてくれ。」
『了解。
ここからは皆と一緒に居る。
単独行動はしない。』
「状況分かり次第、メッセージ送る。
オマエはのんびりキャンプを楽しんでおけ。」
『落ち着いたらjetも来いよ。』
「俺、実家が長野だろ?
景色全部が山なんだよ。
だからキャンプ系は…
うーん、オマエとならいっか。
まあ、気が向いたら遊びに行くわ。」
『なあ、せめて土産くらい送らせてくれよ。』
「じゃあ、バイト先の居酒屋に送ってくれ。
店長たちと一緒に喰うわ。」
『了解。』
17時前、江本車が合流。
まずは預り金を受け取る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
945万5772円
↓
1億0945万5772円
※出資金1億円を預かり
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
寺之庄の車でとりあえず乾杯。
『かんぱーい♪』
「トイチさん、この状況で落ち着いてはりますね。」
『まあ、捕まったら捕まったで
その状況を利用しますから。』
「ちなみに…
異世… あっちでもそういう目にあったんですか?」
『逮捕とか拉致とか…』
「結構ハードですね。」
『私、カネだけは持ってたので。
そんなに乱暴はされなかったんですけど。
兎に角、皆が身柄を押さえようと必死でしたね。』
何せそれが最適解だからな。
現に、滅亡寸前の魔界はその博打に成功して存続を勝ち取った。
「あの!
俺、トイチさんを束縛するつもりはないんで!
それだけは言っときます!」
『いやいや、後藤さんであれば喜んで側に居させて貰いますよ。』
そんな会話をしているうちに、いい時間になる。
《328万3673円の配当が支払われました。》
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1億0945万5772円
↓
1億1273万9445円
※配当328万3673円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『じゃあ、皆さんに配当を。』
「いや、もうこの車に保管して頂けません?
旅先で財布が膨れるのも怖いですし。」
『うーん、じゃあせめて出資金は別に保管させてくれません?
ケジメはきっちりつけたいんで。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
1億1273万9445円
↓
1億1173万9445円
↓
1173万9445円
※配当金100万円を出資者に支払い
※出資金1億円を別に保管
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まだ明るかったので、そのまま発進。
浜松IC・浜松西ICを越え、舘山寺で降りる。
そこから下道を10分ほど走り、浜名湖のど真ん中にある豪華グランピング施設に到着。
隣は《浜名湖ガーデンパーク》なる静岡県営の大公園があり環境が非常に良い。
眼前の三方は浜名湖。
夕日に照らされ美しいのだが…
「よう! 遅かったじゃねえか!」
『平原さーん、わざわざ景色を遮らないで下さいよ。
そもそも呼んでないでしょ!』
「鰻買い込んだから、BBQしようぜ!」
『いや、今から肉を焼こうと。』
「えー?
浜名湖って言ったら鰻だるぉお?」
『いや、肉を…』
「焼くぞ! 焼くぞ!
焼き方は知らんが、鰻を炙るぞ!!」
…結局、ウナギテロに妨害されて肉を断念する。
「よーし、みんなー、かんぱーい!」
『なーんで平原さんが音頭取るんですかねえ。』
「戦いが終わればダチだろ。」
『俺が一方的に貴方に襲撃されただけなのですが…』
「細けーことはいいんだよ!
ほら、オマエラ喰え!
若いんだから喰え!」
取り合えず、平原猛人にメンバーへの挨拶を促す。
勿論、最初は顰蹙を買っていたが
『落ち着いて下さい、この人は中卒で不動産成金で薩摩人です。』
と取りなすと、皆が納得したような顔をしてくれた。
ウナギは至って美味であり、平原猛人のアレっぷりを差し引くほどであった。
やはりグルメは偉大である。
「なあ、リンよ。」
『何すか?』
「あの後、MarkⅡを仕込んだろ?」
『みたいっすね。』
「さっき、嫁の弁護士から電話があってな?」
『あ、はい。』
「何と驚くことに、俺を強姦罪で告訴するつもりらしいんだ!
酷いと思わないか?」
『あ、いや。
驚きもしませんし、酷いのは平原さんなのでは?』
「いやいや、我ら夫婦ぞ?」
『うーーん、最近では夫婦間でも不同意性交に厳しいらしいですから。』
「いやー、納得できんわー。
女なんて産むのが仕事じゃねーか?
なーんで俺が悪者扱いされなきゃならんのだ?」
『うーん、平原さんが悪者だからでは?』
「はっはっはww」
『いや、その自信はなんなんですか。』
「リンよ。
俺は正しい。」
『え?
まあ平原さんの中ではそうなんじゃないですか?』
「男はな?
万難を排して自分が正しいと思った道を進まねばならんぞ!」
『うーーん、俺もそういう考え方の人種だったんですけど。
平原さん見てたら、軌道修正の必要性を痛感しました。
これからは皆の意見を慎重に聞いて、周囲といっそうの調整を心掛けます。』
「おいいいいい!!!
隼人と同じこと言うなよーーー!!!」
平原ぁ。
俺、もっと早くにオマエに話し掛けておきたかったよ。
あの頃は脚がちゃんと動いたんだから、サッカー教えて貰っても良かったかな。
「あ、電話だ。
俺の側の弁護士。」
『へー。』
しばらく平原猛人はスマホに怒鳴っていたが、呆然と電話を切る。
「どうも法律的には俺が悪いらしい。」
『いや、法律的にも社会的にも倫理的にも
全面的に平原さんが悪いでしょ。』
「おいおーい。
酷いなー、オマエって隼人の奴と同じこと言うよな。
少しは俺を慰めろよ。」
『いやいや、俺も告訴されてるんですよ。
平原さんに構ってる暇がないんです。』
「え、マジww?
罪状は?」
『なーんで嬉しそうなんですか。
誘拐ですよ。
未成年誘拐の嫌疑を掛けられてるんです。』
「うおっ、オマエって見た目通りのワルだったんだな。」
『冤罪ですよ冤罪。
そもそも俺自身がガキなんで。』
「弁護士貸してやろうか?
20年俺を弁護し続けた猛者だぞ?」
『うわー、場数踏んでそう。』
一応、平原不動産の顧問弁護士を紹介して貰う。
どうせロクな奴じゃないだろうけどな。
11時。
ヒルダが到着。
関羽と鷹見も一緒。
明らかに人間的な相性の悪い3人だが、三者三様に高い利害調整能力を発揮し合ったのだろう。
『えー、皆さん。
紹介します。
これなるはヒルダ・コリンズ。
私の義母にして養母です。』
ヒルダのあからさまに不満そうな表情を見て一同が色々と察する。
『でも、肉体関係があります。』
皆が微妙そうな表情で俯く。
『まあ、この様にあまり健全ではない関係なので
同室には宿泊しません!』
「という事はダーリン様はウ↑チ↓と!」
『いや、ヒルダの許可のない女は、そもそも入室させないルールなので。』
鷹見がヒルダをチラ見するが、鬼の形相で拒絶されていた。
だがこれは勘だが、ヒルダと鷹見は相性が良い。
いずれ矛先が俺に向かい兼ねない程に相性が良い。
ヒルダの様にガチ感が強い女には、鷹見の様なある程度ジョークで流せるふざけた女を合わせるべきなのだ。
現に異世界でも、ガチな実娘コレットとは内戦まで発展した癖に、エルデフリダというふざけ切った女とは親密だった。
「トイチさん、ひょっとして俺らに彼女がおらんから気を遣って下さっているんですか?」
『まあ、そこまで大層なことではないですよ。』
異世界で学んだ真理。
《他人がセックスしてるとムカつく》
全くもって異論の余地のない、絶対の真理。
文字通り、俺とピット会長の命運を分けた。
即ち護衛の前でセックスし続けた会長よりも、我慢し続けた俺を戦士達が支持したのだ。
無論、異世界と地球では文化も価値観も異なる。
だが、人間の本質はそこまで変わらないのではないか?
なら、勝率を上げる為に打てる手を打つべきではないだろうか?
無力な俺に実践出来る数少ないやり方。
セックスを我慢する。
出来る状況だからこそ我慢する。
あくまで直感だが、これを実践出来るか否かが地球での俺の命運を決める。
これは、これこそが政治なのだ。
「…トイチさん。
向こうではかなり偉い人やったんとちゃいます?」
『ははは。
見ての通りのダメ人間ですよww』
俺は一番小さなドームテントを借りて眠らせて貰う事にした。
ヒルダは不本意ながら鷹見と同室で寝るらしい。
久し振りに1人でゆっくり寝ようと思ったのだが、皆から嫌われてる平原猛人が勝手に入って来て隣のベッドで晩酌を始めた。
俺は眠りたいのに、若い頃の武勇伝やら猥談やらを上機嫌にペラペラと聞かせようとしてくる。
改めて言おう。
この痛苦こそが、現時点で実践し得る俺の政治だ。
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 3
《HP》 疲れやすい
《MP》 ずっと悪だくみ可能
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 30 (仮定)
※キョンの経験値を1と仮定
※ロードキルの有効性確認済
【スキル】
「複利」
※日利3%
新札・新貨幣しか支払われない可能性高し、要検証。
【所持金】
所持金1173万9445円
※但し警視庁が用意した旧札100万円は封印、タイミングを見て破棄するものとする。
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
「一般回線で異世界の話をするな。」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
藤田勇作 「日当3万円。」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
「お土産を郵送してくれ。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
荒木鉄男 「伊藤教諭の墓参りに行く。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
〇 「カノジョさんに挨拶させて。」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」