【降臨18日目】 所持金326万8365円 「よくぞ来た、勇者よ。」
俺の目標日利は10%である。
すなわちレベル10。
我が国でそこまで上げるのが困難である事は重々承知なのだが、何とかそこまでレベリングしたい。
現在、俺のレベルは3。
キョン(推定経験値1)を30匹殺して、このレベルに至った。
無論、これは後藤・江本というトップアスリートの助力の賜物である。
俺一人では殺害どころか発見すら出来なかった可能性が高い。
もしもレベルアップ方式が異世界同様だとしたら、次のレベル4に到達する為にはキョン60匹を殺害する必要がある。
皆にも相談したが、60匹は目立ち過ぎる。
既に幾つかの動物愛護団体が千葉入りしてキョン保護を訴えだしているし、地元メディアも動いている。
このタイミングで、先日のキョン大量殺害犯が俺だと発覚すれば、取調べとバッシングで身動きが取れなくなってしまうだろう。
なので、寺之庄・弓長案。
《猪猟を日常的に行っている猟師に謝礼を支払いトドメを譲って貰う》
これを採用する。
もう当たりも付いていて、青森・福井・静岡・岐阜・滋賀・兵庫・岡山・大分の8県の猟師が、寺之庄の打診に対して好意的な返答をくれている。
寺之庄煕規が連絡に用いたインスタアカウントを見せて貰ったのだが、典型的な爽やかイケメンリア充のそれであり、《そりゃあこんな奴の打診なら好感度高いよな》と思った。
俺の顔写真アイコンで打診していたら、通報されていたかも知れない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【協力猟師一覧】(見込み)
「青森」 毛内敏文
十和田湖畔において、半猟半漁の生活を営んでいる。
4年前に発生した『青森クマ食害事件』において武名を上げた。
十和田湖観光の誘致に奔走中。
「福井」 谷口一晃
県を南北に大きく二分する木ノ芽峠(木嶺)で活動する猟師。
くくり罠の名人として知られ、狩猟業界人向けにカスタマイズした罠具の制作・指導を行っている。
高齢にも関わらずネット運用に長けており、自身で運営する通販サイト「またぎや」は、そのユーザビリティを絶賛されている。
それらの経緯から、地元商工会でオンラインショップの講師を務めている。
「静岡」 鈴木翔
浜名湖畔にてミカン農家を営む豪農の3男。
浜松市内でブラジル人パブを2店舗経営していたが、コロナで廃業。
現在は実家の要請に従い、イノシシ・ニホンザルの駆除に専念している。
「岐阜」 松永謙一郎
下呂市にてイチゴ園を営む。
近年のキャンプブームに便乗しキャンプ場を開設した。
名古屋市内での宣伝活動が功を奏し、かなりの活況。
散弾銃を用いてツキノワグマ猟を行っている。
「滋賀」 宮田大輝
米原市の農家兼便利屋。
元々、イタチ・ハクビシンなどの小型獣の駆除を得意としていたが、近年では地域の要請により二ホンジカ駆除に注力している。
「兵庫」 宇田川政則
丹波篠山で自動車整備業を営む。
軽トラやジムニーに狩猟用クレーンを取り付けるサービスが好評だったことから、SNSを用いた多頭運搬パフォーマンスを開始。
売上は増大したものの、動物愛護団体の激しい攻撃にさらされるようになり頭を抱えている。
「岡山」 ほりけん@ (本名不詳)
エッセイスト。
以前から狩猟業界では有名人であったが、人気アニメ「大都会学園マタギ部」の原案・監修を務めたことによりブレイク、一躍時の人となった。
本人は《生涯一狩人》を宣言しているが、経済基盤はセミナー業に移行しつつあり、その猟果も全盛期の1割程度まで下落している。
「大分」 浦上衛
大分市内で代々続く工務店の息子。
九州ではアウトドア合コンの第一人者として知られる。
家業を嫌って福岡市内で飲食業に携わっていたが、父の急逝を受けて35歳で帰郷した。
関心の乏しかった建築業務を大幅に縮小し、箱罠の製造販売・リース業に専念している。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
以上の中でも、寺之庄は浜松の鈴木を強くプッシュする。
理由はシンプル。
都内から最も近い位置にある上に、彼のSNSを見る限りコンプライアンスに甘い性格が見え隠れしているからである。
(駆除積極派で猟期の延長を強い口調で訴えている)
寺之庄のスマホで挨拶だけさせて貰ったが、《融通の効くタイプ》という印象を受けた。
東京で雑用を済ませ次第、静岡に向かう方針とする。
「リン君が運び込まれてから、まだ半月なのにね。
俺の人生の中でこんなに濃密な半月はなかったよ。」
『清麿さんのくれた原資のおかげですよ。』
「ふふふ、100円じゃあ威張れないな。」
『でも、最初のお客様って…
やっぱり印象に残りますよ。
私が文字通り無一文の時ですからね。
だから、貴方にはちゃんとした配当を払いたいです。』
「ねえ。
リン君は、どれくらいの金持ちになるの?」
『うーん、皆がカネについて考え直すくらいには。」
飯田は声を立てずに愉快気に笑った。
「その答えに優る配当なんてないよ。』
ありがとう。
後は俺がどこまで実践出来るかである。
それも飯田に恥じない形で。
そうなのだ。
レベリングに赴く為の原資も貯まった。
俺の手元だけでも700万強あるし、安宅や飯田夫妻がまとまった金額を銀行から下ろし終わったおかげで毎日1億円以上の元本を運用出来るようになった。
現時点で俺の取り分は2%。
つまり毎日200万以上のキャッシュが入って来る計算である。
インカムに関しては、今や田舎の大地主くらいには匹敵している。
決まった拠点を定めない方針に変わりはないが、原則的に東海道沿いで行動するつもりである。
俺の【複利】が経済特化スキルである以上、なるべく経済活動の中心地から離れるべきではないだろう。
我が国の歴史を振り返っても、経済的主導権は概ね博多~江戸の間にあったように思える。
何より、今の俺の仲間たちの生活基盤が東京にある以上、いつでも帰京可能な位置にいる事が皆の精神衛生上好ましいと考えている。
狩猟地への移動には寺之庄のキャンピングカーを主軸にした数台の車両を使用。
(異世界でキャラバンを組んだ事を思い出して目頭が熱くなった。)
更に纏まったカネが出来れば、車両や運転も外注化する。
関東での用事が片付き次第、狩猟地へ向かうか。
「トイチさん、用事って何が残ってはりますの?」
スイートルームのカーペットに寝転がったまま後藤が問う。
『戻ってから知り合った人に、軽い近況報告をします。
流石に何も言わずに関東を離れるのは申し訳ないので。』
「俺に出来る事はありますか?」
『…後藤さん。
BBQとかってしたことあります?』
「え?
いや、まあ親父に仕込まれた程度ですけど。
リトルの子らの合宿に付き合った事もありますね。」
『唐突な提案なんですけど。
後藤さん、BBQお兄さんになって貰えませんか?』
「うわっ。
相変わらず、唐突な…」
『いや、結構自分の中では筋道が通った話なんですよ。』
「ほう。」
『私、何度か《カネを配る事が目標》
って言ったじゃないですか?』
「ええ、伺っております。」
『今後、当局のマークがあまりに厳しかったり、世論の反発が大きい場合。
肉を配ります。』
「ええ!?
に、肉を!?」
『後藤さんは大阪の方なので敢えて例えますが…
北野大茶会のBBQ版を連日開催するイメージで居て下さい。』
「れ、連日と申しますと?」
『連日と言ったら連日ですよ。』
「…あ!?
く、配るってそこまで徹底してはるって事なんですね!?」
『こちらの規模が小さいうちに雛形を作っておきたいんです。
後藤さんならビジョンを共有してくれるんじゃないかな?
って漠然と考えていて。』
「…いや、光栄です。」
『私の身体は一つなので、後藤さんが希望されるのであれば場所は関西でも構いませんよ。
貴方は色々と助けて下さりましたし、その恩返しも兼ねて。』
「いやいや!
恩だなんて。
正直、自分は何のお役にも立ててないと感じてます。
なので、まずはトイチさんの仰られた事に対して真剣に取り組んでみようと思います。」
『貴方には無茶振りばかりしてしまいます。』
「ふふっ、俺は楽しいですよ。
上手く言えませんけど、冒険の旅に出てる気がしますんで。」
『良い旅にしましょう!』
「はい!」
これもポール・ポールソンの受け売りだ。
かつて、やらかしまくって街に帰れなくなったポールは郊外でBBQイベントを行い、首都世論を探った事があると語っていた。
言ってしまえば露骨な人気取りなのだが、これが存外好評で居場所を失っていたポールの元に各地からキーパーソンが駆け付け、結果復帰に繋がったらしい。
俺が転移した1年前の出来事と言っていたから、タイミング次第ではあの男とは接点が無かったかも知れない。
「リン君~♪
カネより配られて嬉しいものってなーんだ?」
『え? 何ですかね? 女?』
「はははww
そりゃあ嬉しいや。
ただ配られてる女の子は可哀想だけど。」
『ですよね。
女性を泣かせているポールさんが言うと説得力あります。』
「答えはねー。
にくーーーー♪」
『え? 肉って食肉の肉ですか?』
「ピンポーン、正解♪」
『そ、そりゃあ確かに嬉しいでしょうけど。
カネより… ですか?』
「リン君は1万ウェンを貰うのと、1万ウェン分の精肉を貰うの。
どっちが嬉しい?」
『そりゃあ、カネですよ。
肉も貰えるならありがたいですけど。
使い道限られるじゃないですか?』
「じゃあ、1万ウェンと1万ウェン分の焼いた肉なら?
味付けバッチリ、味変調味料いっぱい♪」
『あ、それなら話は違ってきますね。
うん、結構天秤が傾きました。』
「あはは。
リン君も食べ盛りだもんね。
じゃあさあ、1万ウェン分の肉が食べられるイベントならどうかな?
みんな来るよ?」
『あ、それは是非行ってみたいです!
何だか楽しそう!』
「…そういうことだよ。」
『?』
あの時は、単なる雑談だと思って聞き流してしまっていた。
俺は何と愚かなのだろう。
あれこそが彼なりの教導だったのだ。
露骨なカネ配りで分不相応な権力を得た俺に対する、ソフトな説諭。
カネは暴力だ。
それも最強の暴力である。
最強であるが故に、カネさえ惜しまなければ大抵の言い分は通ってしまう。
現に、異世界での俺はそうだった。
だが、暴力を振るわれた側は一体どんな心境で俺を見ていたのだろうか?
氏素性すらわからない若造がカネに物を言わせて好き放題する有様に、不快感が湧かない筈が無かっただろう。
俺のカネを受け取った連中ですら、喜びつつも内心釈然としない想いを抱えていたに違いない。
もしも俺がカネの代わりに肉を振舞っていたら…
あそこまでの権力は得られなかっただろうが、皆はもっと真っ直ぐな笑顔を見せてくれたに違いない。
今思えば。
異世界人は俺に対してどこか卑屈な笑顔を浮かべていた。
彼らが卑しいのではない。
俺が彼らを卑しめていたのだ。
…俺は失敗から学ばねばならない。
友の忠告を真摯に受け止めなくてはならない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目が覚めるとキッチン部分で寺之庄と後藤がワチャワチャやっていた。
良い匂いがする。
「トイチさーん。
まずはベーコンエッグから始めることにしました!」
恥ずかしい話だが、勧められるままに卵4つ分を貪り喰ってしまった。
程よく焼けたベーコンの旨味がそうさせたのだ。
『いやあ、まさか寝起きからこんなにスルっと入るなんて
思っても居ませんでした。』
「トイチさんには栄養付けてもらわな。
エモやんも食うかーー?」
「あ、俺がやりますよー。」
「怪我人は無理せんでええ。
たまにはのんびりしときーな。」
エモやんに至っては、俺と同数を10秒程度で平らげてしまった。
「俺もそうなんですけど
野球部の奴らって皆こうなんですよ。
一瞬で喰い尽くしますからね。
我が家でも何度オカンとバーちゃんに呆れられたことか。
しかもウチ、兄貴も野球でしたからw」
聞けば野球家庭は、そもそも炊飯する量が一般家庭とは比べ物にならないらしい。
実家が中華料理屋の江本家は兎も角、後藤家は半年毎にまとめ買いした米を農家に軽トラで配達して貰っていたとのこと。
膨れた腹でエレベーターを降り、いつもの広場に到着。
何人かの見覚えのある界隈民を見かけたので、会釈を交わす。
通り過ぎようとした時に「次は私も餃子おごってよ。」と声を掛けられたので、やはり食べ物の話は広まるのが早いようだ。
何気なく横に位置したjetが「アイツはいい奴」「アイツはヤバい」と手短に教えてくれる。
俺には区別が付かなかったのだが、同じような服装をしている者の中でもやはり当たり外れはあるらしい。
『一番ヤバい奴ってどんなの?』
「オマエの女。」
『いや、鷹見とは付き合ってないし。』
「アイツが配信で吹聴し続けてるから
オンライン上では定説だぞ。」
『ネットで嘘言うの禁止しようよ。』
「いつか嘘発見器とwifiが直結される日が来るよ。
…おい、噂をすればだ。」
jetが指を指す方向には、鷹見夜色。
雑居ビルから何食わぬ顔で出て来て、真っ直ぐ俺に向かって来る。
「どもどもー、ダーリン様❤
いやあ、奇遇ですなぁ♪」
『なあ。
オマエ、何で俺の出て来るタイミングわかるの?』
「えー?
偶然っスよw」
『俺の身体に盗聴器か何かを仕込んだ?』
「あっはっはっはwww
どこのスパイ大作戦っスかww
答えは簡単♪
この植え込みに隠したトレイルカメラで広場を監視してたっス❤」
鷹見がゲーセンの前の大型植木鉢から小さな何かを取り出し、見せつける。
『え!?
か、勝手にそんなことしちゃ駄目だろ!』
「まあまあ別にそこまでの違法性はないっスよ❤」
『いや、何らかの法律に抵触すると思うが…』
「じゃあ、ダーリン様♪ (ガシッ!)」
『え?』
「折角会えたんだからLOVE×2配信でもしながら恋人同士の絆を深めましょうや。
安心して下さい♪ ウ↑チ↓この辺のラブホに詳しいんで❤」
『いや、ちょ…』
俺が何とか鷹見のベタついた手を振り払おうとした時だった。
「ちょっと待った!」
と背後から声を掛けられる。
振り返ると白いセルシオが停まっており、中には…
「あーーー!!!!
あの時のジジーーーー!!」
『あ、平原さん。
ご無沙汰しております。』
数日前に鈍器で俺を殴った男が居た。
平原隼人の父・猛人である。
「なんだテメーー!!
やんのかーーー!!」
大型のサバイバルナイフを取り出した鷹見を一瞥して平原猛人は言う。
「遠市、乗れ。
オマエと話がしたい。」
「テメエ!!
人の男にちょっかい出してんじゃねー!!」
『あ、jet。
皆に友達のお父さんとドライブ行くって伝えてくれない?
平原さん、名刺あります?』
「え? ダーリン様?
普通この状況でそっちを選びます?
え? ギャグっスよね?」
俺は平原猛人から名刺を預かると、jetに渡した。
何気なく鞄も託す。
jetは受取る際にSuicaをこっそり渡してくれる。
イレギュラーには、これとポケットに忍ばせてある10万円のみで対処する事に決めた。
そしてよくわからん間に車は発進した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
途中、飯田から安全確認の電話があった他は異変無しである。
『平原さーん。
この車、どこ向かってるんですか?』
「鎌倉。」
『え!?
鎌倉?
何で?』
「オマエ言ってたじゃん。
ウチの隼人と別荘を見に行く約束したって。」
『ええ、そんな話もしましたね。』
「そういうことだ。」
…どういう事だよ。
こんな偉大な反面教師がいたお陰で、平原隼人はあんなにも爽やかだったんだろうな。
平原猛人は案の定好戦的な運転をする男で、軽自動車を見る度に煽り運転っぽい車間の詰め方をしていた。
「スマンなー。
昔からハンドル持つと性格変わっちゃうんだよ。」
『まるで普段はおとなしいみたいな言い分じゃないですか。』
「おとなしいよ。
ほら、よく薩摩紳士って言うだろ。」
『あー、スミマセン。
それは初耳です。』
「そうか。
もっと勉強しなきゃ駄目だな。」
『ええ、今日は実地で判断させて頂きます。』
車内では取り留めのない話をした。
学校への不信感とか、事件後のマスコミの態度への恨み言とか。
後、当然鷹見への殺意も。
「なあ、オマエ。
女は選べ!
幾らなんでもアレはないだろう、アレは!」
『選んだ覚えはありませんが…
くっついてました。』
「ヤッたの?」
『ヤッてないです。
裸は見ました。』
「へえ。
アイツって本当に女だった?
俺の中でニューハーフ説あるんだけど。」
『いえ、見た感じ女でしたね。
全身に虐待跡ありました。
結構酷いキズも残ってましたよ?』
「ふーん。
一番大きいキズはどんなだった?」
『あ、いや
俺が折った頬骨だと思います。』
「オマエ素質あるよ。
今度鹿児島旅行に連れて行ってやる。」
『道真でも大宰府までで許して貰えたのに…』
その後、女の話をする。
胸と尻とどっちを重視するとか、女の経験人数は何人まで許容できるか、など。
心底どうでも良い話題だ。
『いやー。
息子さんとこういう話で盛り上がりたかったですわー。』
「贅沢言うな。
俺で我慢しろ。」
『今年のノーベル我慢賞は私が貰っときますわ。』
「なあ。」
『はい?』
「息子と…
隼人の奴と普段どんな話してたんだ?」
『いや、実は直前まであんまり話した事なかったんです。』
「そうなのか!?」
『俺は貧乏な陰キャだし、隼人君は金持ちの陽キャでしょ?』
「うん、そうだな。」
『そこはフォロー入れて下さいよ。
…陰キャ特有の僻みなんですかね、今思えば露骨に避けてましたね。』
「その割に…
随分、息子の事を楽しそうに語るじゃねえか。
オマエが隼人の名前出す時、十年来の親友みたいな顔してるぞ?」
『アイツのこと好きだからじゃないですか?
もっと早く話しておけばって、今でも後悔してますもん。』
「ちなみに俺のことは?」
『ははは。』
「Z世代特有の陰湿な受け流し方!」
『いや、でも息子さんは本当にそれくらい価値のある男でした… ですよ。
いつも女を侍らせて嫌な奴だって、内心嫉妬してたんですけど。
冷静に振り返れば、クラスで持て余されてる女の世話をしてやってただけですね。』
「アイツ、不思議と世話慣れしてるんだよなあ。」
『お父さんがこんなんだからw』
「ははははは、殺すぞww」
『息子さん、モテるんですよ。
サッカーの試合がある時なんか、他校の女子生徒が応援に来てましたからね。』
「オマエもモテてるだろ。」
『鷹見に苛められてるだけですよ。』
「嘘つけー。
昨日もいっぱい女を引き連れてただろ。
ちゃんとトレイルカメラで確認したんだからな。」
『ちょ!
またトレイルカメラ!
あれ、法律で禁止しましょうよ!』
「そのお陰で俺に会えたんだから喜べ。」
『プラスの要素が何一つないですー。』
「じゃあ、一個プラスしてやんよ。
おい、そこの店入るぞ。」
『ウインカー出して下さいよ!!』
平原猛人が入ったのは普通の定食屋。
住所表記を見ると、もう鎌倉市内に入ったのだろうか?
『なんすか、コレ?』
「けんちん汁だ。
飲め。」
『…あ、はい。
神奈川発祥説ありますよね。
小学校の頃、給食で食べさせられましたわ。
クッソマズかったのに教師がキチガイだったから
無理やり完食させられました。』
「それは災難だったな。
俺が育った鹿児島なんか、全員俺みたいな常識人しかいなかったぞ。」
『脳味噌チェストしてますね。』
「ほらっ、残すな。
全部喰え。」
『まっず、まっず。』
「隼人がさー。
小学校上がる前、やや偏食気味だったんだよ。
女は馬鹿だからさー、息子を甘やかす訳よ。
アレルギーだなんだってゴチャゴチャ言い訳しやがって。」
『フン族でももっと科学を重んずると思いますよ?』
「それで俺が毎週鎌倉に連れて来て
無理矢理、けんちん汁を口の中にぶち込みまくってやったんだわ。
おかげで健康優良児。
いやあ、ほっこり親心エピソードだわあ。
オマエも人の親になったら俺を見習えよ。」
『脳味噌薩摩揚げかな?』
「おい、残すな!
全部喰え!」
『いやいや、俺ばっかり食わせて!
平原さん何も食べてないじゃないですか!』
「いや、俺はけんちん汁嫌いだもん。
こんなマズいモノ食える訳ないだろうに。」
『流石に2人で1汁はマズいですよ。
平原さんも何か注文しなきゃ!
それに車も駐車線からモロにはみ出してますし。』
「最近の若い奴らはゴチャゴチャうるせーなー。
おーい! ビール! 大瓶で!」
『ちょ!
ビールはマズいですよ!』
「あれ?
オマエ、まだ酒飲んじゃ駄目な年齢だった?」
『平原さん運転してるでしょ!』
「ああ、そっちの。
っるせーなー。
分かった、じゃあ俺は我慢するから。
オマエが1人で飲め。
おい、グラス2つねー!」
『ちょ!
駄目!
飲んじゃ駄目ですよ!』
「じゃあ、オマエが二杯同時飲みしろ。」
『アルハラ止めてくださーい。』
「大人の社交だよー。
最近の奴らはすーぐにハラハラ言いやがって。
ドイツもコイツもよー。
俺なんかヒラハラだぞ!」
『酔ってます?』
「俺はいつでも素面だよ!」
『脳味噌芋焼酎かよ。』
「ほら、イッキイッキ。
全然飲んでねーじゃねーか。」
『ビール苦くてきらーい。』
「最近の若い奴はそんなんばっかだな。
フィズとかナンチャラとか女みたいな酒ばっか頼みやがって。」
『げーっぷ、苦。
けんちん、まずっ!
ビール、にがっ!』
「文句ばっかり言うなよー。
オマエ、ビールとか飲まないの?」
『仲間と居れば不思議とゴクゴク行けちゃうんですけどね。』
「はい来たー。
Z世代特有の狭い内輪感。」
『宿に帰ったらビールで口直ししときますわ。』
「おい、そっちのグラスも飲み干せ。」
『…こっちは、隼人君の分ってことで。』
「…そうだな。
アイツに酒仕込もうと試行錯誤したんだけどなー。
未成年者飲酒がどーたらこーたらって生意気言いやがってさー。
女親が馬鹿だから息子の肩持ちやがるしさー。
結局、親子で飲めずじまいだったわ。」
『アイツ結構、融通利くタイプっすよ?
未成年者飲酒はタテマエで、単に平原さんと飲みたくなかっただけじゃないですかね?』
「…うーーーーーーん。
悔しいが認めざるを得ない。
心当たりがありまくり!
というか出てったヨメがそう言とったわ。」
結局、二杯目も俺が飲む。
「なあ。」
『はい?』
「隼人は死んだのか?」
『いえ、死んだ場面は見てません。』
「ロシア行ったの?」
『あの国が帰してくれる訳ないでしょうが。』
「じゃあやっぱり異世界か。」
『…。』
「俺さあ。
息子が居なくなってから
異世界アニメって奴をいっぱい見たぞ。
…手がかりあるんじゃないかって。」
『そっすか。』
「アレ、キモいな。
現実逃避コンテンツの典型だよ。
モテなくて喧嘩弱いオタク野郎の為のコンテンツ。」
『マッチョなおまわりさんでも見てますよ?』
「まさかあww
警官があんなもん見る訳ねーじゃねーかw」
『平原さんみたいな健常者には
現代社会の闇は理解出来ないんですよ。』
「いや、分からなくもないよ!?
俺、頑張って10本くらいDVD見たもん。
ラノベだって5冊買って今読んでるところ!」
『うっわー、浅!
浅! あさ!
この健常者が!
クラスには100万冊読んだ猛者が居ましたから。』
「キッショ!
そいつ病気だろ。」
『でも金本君は、人の悪口言わない子だったから。
皆から結構好かれてました。』
「俺も人の悪口は言わない方だぞ?」
『キッショ!
どの口が!』
けんちん汁を7割以上残して店を出る。
その後、車で小一時間走って別荘を見せて貰う。
想像以上に豪華だったので、一瞬テンションが上がりかけたが…
庭に転がっていた子供用のサッカーボールを見た瞬間に心が折れてしまって、その場にしゃがみこんでしまった。
「そっか、やっぱりそうなのか。」
泣き崩れる俺の背後で平原猛人の呟きが微かに聞こえた。
涙がいつまでも流れ、ビールもけんちん汁も全部吐き出してしまった。
「遠市。
そろそろ、帰るか。」
『平原さんが泣き止んだら帰ってあげます。
そんな目で運転されたくないんで。』
「…泣いてねーよ。
薩摩の男が…
ガキが死んだくらいで…
…。
ふーーー。
泣いてねーよ!!!」
『じゃあ、俺が泣き止んだら。
車出して下さい。』
「…なあ。」
『はい?』
「俺、もうアイツに逢えないのかな。」
『…。』
「遠市。
オマエ、相当賢いだろ。
何か方法考えろよ。」
『…。』
「考えろよーー!!!」
どいつもこいつも自分の都合でばっかり物を言いやがって。
この健常者共が。
『あー、じゃあ。
出てった奥さんを連れ戻すのはどうでしょう?』
「は?
ヨメなんか関係ねーだろ。」
『奥さんにもう一度産んで貰ったら…
隼人君と最も近いDNAを持つ子供が生まれます。』
「オマエ、脳味噌にまで傷が達してるのか?」
『かも知れません?
皆から狂気だとはよく指摘されます
でも薩摩的にはアリじゃないですか?』
「チェストだよ。」
『いや、どっちっすか?』
しばらく運転席で腕を組んで考え込んでいた平原猛人は不意に電話を掛けた。
ボソボソ喋っているのでよく聞こえないが
「息子の居場所の手掛かりを見つけたから内々でオマエにだけ見せたい」
的な趣旨である。
『え?
さっきの電話。
手掛かりなんてないでしょ?』
「そうでも言わないと誘き出せんだろうが。」
『え?
騙し討ちですか?』
「籍は抜いてないから犯しても強姦にはならん。
女は黙って産むもん産んどったらええんじゃ。」
『脳味噌カルカンかな?』
「遠市。
オマエ、やっぱり頭いいわ。
気に入ったよ。
おっし。
生まれた子には隼人と名づけるか。」
『同じ名前は紛らわしいっすよ。』
「じゃあ隼人Mk-IIで。」
『それ、絶対変な方向に育っちゃいますって!
俺、最近悪い見本を見ましたもん!』
「じゃあ、厘で。」
『勘弁して下さーい。』
「平原厘。
おっ、結構フィットするねえ。」
『息子さんなら命名する時も
もっと周囲に配慮すると思うんですけどねー。』
「配慮?」
『アイツなら、周囲が嫌な思いをしない無難な名前つけますよ。
無難に《○○人》って付けるんじゃないですか?』
「厘人?」
『俺から離れてくださーい!!』
車が俺達の地元を通る頃だった。
運転しながら*スマホを取った平原猛人は車を停めた。
*道路交通法第71条 第5号の5により禁止されています。
「スマン、もうヨメが来ちゃったわ。」
『早いっすね。』
「女なんて子供が生まれたら全員そうなるぞ。
生まれた子供ほったらかしにして旦那の元に来るような女は皆無だな。
居たら宇宙一の純愛だよ。」
…ヒルダなあ。
あれこそ究極の純愛だよなあ。
俺としては、感謝するべきなんだろうなあ。
『そっすか。』
「だから、ここで降りろ。」
『ファ!?』
「丁度校区内で良かった。
土地勘あるだろ?」
『いや、平原さんどうするんすか!』
「ちょっくらMk-IIを量産してくるわ。」
『いや! アンタ自分から誘っておいてなあ!』
「遠市厘。
これでオマエに借り1つだな。」
『1つ!? アンタ今、1つって言ったか!?』
「んじゃあな。
安心しろ。
今度、この礼として鹿児島旅行に連れてってやる。」
『ちょ!』
「久しぶりに楽しい一時だった。
心から笑い合えたよ。
じゃ、これからヘソから下で笑ってくるわ。
アバヨ。」
ブルウウウウウウウン。
平原ァ。
オマエ、よくぞあの父親の元で、ああも真っ直ぐ育ったな。
俺、これから先《親ガチャ》って言葉は封印するわ。
あんな女に愚痴ってたら、天国のオマエに合わす顔ないよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
タクシーを拾おうにも住宅街なので見つからない。
しばらくトボトボ歩いてから異世界では下半身不随状態だったことを思い出す。
人体というのは不思議なもので、痛いと思えば痛くなり、急に疲れて座り込んでしまった。
いや、疲労の原因は絶対にあのオッサンだが。
30分ほど、電柱にもたれてしゃがみこむ。
東横に慣れた所為か、地べたに座り込むことに何の抵抗もなくなってしまった。
…腹が減ったな。
マズいけんちん汁に苦いビール。
見たくない光景。
何もかも吐き出しちまった。
ああ、腹が減った。
何かを喰いたい。
俺は両手でガサゴソと全身を漁る。
無論、ポケットには何も入ってない事は知っている。
それでも浅ましくガサゴソ。
昨日の中華屋で貰った口直しのガム。
茨城にくれてやった事は確かなのだが…
何かの間違いでポケットにでも紛れてないかな?
《321万8622万円の配当が支払われました。》
しゃがみ込んだ足元に札束がバサボソ落ちる。
この金額は、皆が鞄にカネを詰め込んだな。
しまった、《カネは鞄に出現》って念じるのを忘れてた。
こんな大金、裸で持つの怖いよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
10万円
↓
331万8622万円
※配当321万8622万円を取得
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コンビニで小さめのトートバックか何かを買おうと決意。
それまでは我慢するしかないので、ポケットに無理矢理カネをねじ込んだ。
今思えば、ミスリル貨便利だったよなあ。
俺の所為で廃止されちゃったけど。
俺がしゃがみ込んでいると、幾人かの笑い声が聞こえて来る。
学生?
妙に見覚えがあると思ったら、母校の制服だった。
本当なら俺も今頃あの制服来て学校通ってたんだよな、等と思いながらボンヤリ見ていた。
向こうもこちらに気付いたらしく、俺を指差して何やら騒いでいる。
通報されたら厄介だな、と思ってうんざりしていると、向こうから声を掛けて来た。
「トイチ先輩ですよね?」
『ええ。
私がトイチです。』
「「「うおおお!」」」
一斉に歓声が上がった。
聞けば、俺は母校始まって以来の有名人であるらしい。
「当たり前じゃないっスか!
先輩のバズり具合、《おとわっか》や《大谷翔平》を超えてるんですよ!?
オマケに害悪系配信界の姫、ルナルナ@貫通済先輩と付き合ってるんでしょ?
俺らにとっちゃ、神みたいなモンっスよ!」
『え、そうなんだ。
流石底辺高校。』
「先輩が評判下げまくったから
今や《最》底辺高校っスよw
一昨日なんて国連からガイジンのオバサンが視察に来やがったんですよ!」
『え? マジで?』
「もーーww
当事者の癖に何で知らないんスかーーw
まとめサイトとかでも散々ネタにされてたでしょw
今や我が校、沼っき以下の扱いですからww」
『な、なんかゴメンね。
俺の所為で後輩の皆にまで迷惑掛けちゃったみたいで。』
「あはははww
トイチ先輩って実物は腰低いですよね。
俺、もっと鬼の様な超絶DQNを想像してました。
声掛けるの、結構勇気出したんスよ?」
『えー、俺なんかただの《チー牛》だよ。』
「ふっふっふ、ルナルナ@貫通済先輩が配信で言ってましたよ。
トイチさんは一見《チー牛》に見えても、心に熱い想いを秘めた《チー猛牛》だ、って。」
『その小学生のイジメみたいな例えヤダよーww』
「あはははw」
その後、後輩達とコンビニ前でウンコ座りして雑談。
恐らくは我が校のランクをまた微かに下げる。
その中でも盛り上がった一人とアイスを喰いながら散歩。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
331万8622円
↓
331万8365円
※低意識チョコアイス×2を256円で購入。
(チェリオとは言っていない。)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『え?
伊藤先生が!?』
「はい、自殺っス。
先輩らが行方不明になって…
半年くらいっスかね。」
体育の伊藤先生。
怖いオッサンだった。
『何も死ぬことはないのに。』
「責任感じてたみたいっスよ。
ほら、先輩達がアクアライン行くの…
プッシュしたのが、その教師だったらしいんです。
《修学旅行がなくて可哀想だから、せめて日帰りでも想い出を作ってやりたい》
って。」
『ああ、何かそんな話もあったよなあ。』
「それで、川崎の埠頭でその伊藤って教師の遺書と靴が見つかって。
暫くして水死体が上がったらしいんです。」
『そっか…
真面目な人だったからねえ。』
俺がしんみりしていると、そのアクアライン見学の際の汚職事件も聞かされる。
『えー、感涙していた所なのに。』
「校長と旅行業者が幼馴染同士だったらしくて。
キャシュバック+キャバクラ接待が発覚して…
懲戒免職。
当時は学校の雰囲気が滅茶苦茶だったらしいっスよ。」
『うわああ。
ゴメンね、俺達の代で変なことになっちゃって。』
「偏差値下がりましたよー。」
『あれ以上下がる余地あったの!?』
「今では俺でも入れるくらいっスから。
まあ、入学した時は…
ヤバかったっスね。
毎日、校門に週刊文春の名刺もった記者が5人くらい溜まってるんㇲよ。
職員室には刑事が聞き込みに来てましたし。
ほら、ウクライナの戦争始まった頃じゃないっスか?
ロシアに集団拉致されたんじゃないか?
って。」
『それ、俺も警官にしつこく聞かれた。
突然、向こうがロシア語っぽい言語で怒鳴ってくるのね?
その反応を見て、俺が向こうの工作員かどうかを調べてたみたい。』
「え!?
それでどうなったんスか?」
『どうもロシア疑惑は晴れたみたいなんだけどさ。
現場の刑事さん達から異世界帰りを疑われ始めちゃって…
色々なお巡りさんが入れ替わり立ち替わり、俺に異世界アニメの話を振って来るんだ。』
「うわ、その取調べ面白そうw」
『全然面白くなかったよ!
ガタイのいい刑事さんに囲まれて、肩とか胸倉掴まれながら
《オマエのステータスをオープンしろ!》
とか怒鳴られて、滅茶苦茶ビビったってww』
「あはははww
その様子をアニメ化したら受けそうww」
『気の弱い奴は、そこで視聴やめると思う。
それくらい怖かったww』
「へー。
ちなみに先輩のステータスは?」
『最弱の癖に精神力だけ異常に強い、って言われた。』
「あはははw
サイコパスーww」
『それ、みんなから言われて結構凹んでる。
俺、そんなにサイコかなー。』
「いやあ、ボコった女とカップル配信してる時点で
相当アレっスよ?
クラスの奴らもドン引きしてましたもん。」
『あー、やっぱあの動画で俺の印象決まっちゃったね。』
「日本のイメージが致命的に悪化しましたからね。」
『ゴメン、わー国にも何か埋め合わせする。』
「じゃあ油田で。
なんかゲンユカカク上がってるらしいから。」
『そうなの?』
「俺の親父、トラックの運ちゃんなんスよ。」
『へー。』
「運転の合間にルナルナ@貫通済先輩の配信見てます。
ウチの親父バカだから、アレを報道の一種と思い込んでるんです。」
『え? 嘘!?』
「バカにはバカのメディアが必要なんスよ。
先輩らの担任が当日サボったから無事だったのも、その配信で知りましたし。」
『おお、恩師(笑)
あの人、まだ居るの?』
「事件後、ずっと有給フル消化して辞めたって伝説残ってます。
労働者の星ですよ。」
『あの人らしいなあ。
クラスのDQNとか喘息持ちより欠勤日数多い人だったわ。
普段やる気ねー癖に、車の自慢する時だけは饒舌になるし。
ピンクのクーパだったかな。
ホームルームで1時間くらい、その自慢話聞かされて…
皆で唖然としちゃったもん。』
「ああ、有名っすよね。
それも我が校の伝説っス。
駅前のマンションにまだ停まってますよ。」
『ああ、思い出した。
クラスで特定班ごっこしてた奴いたわ。
マリファナ疑惑とか上がってたし。』
「え?
マリファナ!?」
『そもそも、恩師(笑)の服とか鞄が全てヘンプ柄なのね?』
「ワンナウト。」
『それで強烈な香水を全身に付けてるのね?』
「ツーアウト。」
『それでホームルームで喫煙や飲酒の注意喚起する時に、急に《世界の多くで大麻は合法、日本は遅れてる!》とか語り出すのね?』
「確実にやってますねえ。
あ、ピンクカー見えて来た。
ほら、トイチ先輩!」
『うっわ!
ボンネットにデカデカと大麻ステッカーww』
「やっべw
絶対自宅で大麻栽培やってますよ。」
『あの人捕まったら、また学校のイメージ下がるんだろうなあ。』
「えー。
これ以上下がったら、就職に影響出ますよー。
今でもウチのガッコ、あちこちの工場で受け入れ拒否されてんのに。」
『あ、思い出した。』
「何スか?」
『友達がさー。
転移騒動で担任が苦労してるかも知れないから
ポストにカネだけ恵んでやろうぜ、って。』
「絶対、異世界行った方が苦労してますって。」
『それな。』
「あ、701号室っスね。」
『え?
そうなの?』
「ほら、ポストに大麻マーク。」
『その情熱、1ミリくらいは生徒に向けて欲しかったわあ。』
「どうするんスか?」
『ポストに万札入れてから電車乗って帰るよ。』
「うおお、生徒の鑑っスね。」
『あ、こっちは君の取り分。』
「マジっすか!?
気前良すぎて逆に怖いんスけど。
トイチ先輩、反社とかじゃないっスよね?」
『違うよ。
俺は正義の味方。』
「怖! 怖! この先輩怖!」
『まあまあ。
遠慮せずにとっときなよ。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
331万8365円
↓
330万8365円
※母校の後輩・今井透に1万円の小遣い支給
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…この万札、やけにピンピンしてるんスけど。
え?
偽…?」
『大丈夫大丈夫。
財務省と警察庁から本物認定されてるから。
安心して使っていいよ。』
「それ! 逆にヤバい奴ーww!!」
笑いあって後輩と別れる。
鷹見のアカウントのフォロワーなので、あの女を介せば連絡を取れるとの事。
無論、大切な後輩にリスクを負わせる気はない。
周囲の様子を見渡し、誰も居ない事を確認する。
そして、ヘンプステッカーが貼られた701号室ポストに万札を入れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
330万8365円
↓
329万8365円
※恩師・松村奈々の自宅ポストに1万円を投函
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よし、アイツとの口約束は守れたな。
これであの糞恩師(笑)とも縁が切れた。
だが残念ながら、俺が駅へと歩いていると不意に背後から呼び止められた。
「トイチ君!」
…振り返ると、恩師(笑)。
部屋着らしき灰色スエットにゴムサンダルを履いている。
甘い奇妙な臭いがしているという事は、これがマリファナの臭いなのだろう。
『あ、ども。』
「この1万円、先生にくれるのね?
先生のポストに入った以上、所有権は先生にあるんだからね!」
…第一声がそれかよ。
「ふー、ガサ入れ対策にトレイルカメラ仕掛けておいて正解だったわ。」
もうマジでトレイルカメラ禁止にしようぜ。
悪人が私欲の為に濫用してるだけじゃねーか。
『あ、はい。
半分ギャグなんですけど、どうぞ。』
「生活は軌道に乗ってるの?」
『まあ人並みには。』
「もうちょっとだけ増額してくれない?
今月ピンチなのよ!
ウクライナの戦争で電気代が上がっちゃって!
85万以上請求が来てるの!」
『え、それって部屋で大麻…』
「ロシアが悪いのよ!!!」
『はあ、そうっスか。』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
329万8365円
↓
327万8365円
※乞食に2万円を喜捨
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『じゃあ、俺はこれで。』
「待って!!」
『3万あれば充分でしょう。
後、その臭いってマリファナなんですよね?
部屋に戻った方がいいですよ。』
「偏見はやめなさい。
大麻に罪はない、世界中の多くの国で大麻は合法。
日本が後進的なだけ。」
『いや、現状我が国で違法ですよねって話です。』
「やれやれ、貴方のように意識をアップデート出来ない人間がいる所為で…
だから戦争がなくならないのよ!!
聖職者として君を教育し切れなかった力不足を悔やむわー。」
『あ、そっすか。
じゃ、俺はこれで。』
「また歌舞伎町に帰るの?」
鷹見の配信の所為でプライバシー無くなったよな。
マジで勘弁して欲しいわ。
『さあ。』
「ちゃんと宿は取ってるんでしょうね?」
この女に詳細を伝えるとタカられるな、絶対。
『ええ、まあ。』
「広場に居るような人間の屑と関わっちゃ駄目よ?」
…何様だよ、テメエ。
腹が立ったので、無言で去った。
後ろからゴチャゴチャ言って来るがすべて無視。
jetが渡してくれたSuicaで新宿まで戻る。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【所持金】
327万8365円
↓
326万8365円
※新宿駅にてSuicaを1万円チャージ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『ただいまー。
jetのお陰で帰って来れたわ。
忘れないうちにSuica返しとくな。』
「ドライブ楽しかった?」
『鎌倉巡り+母校で恩師と歓談。』
「おお!
有意義な1日!」
『痛快に糞だったよw』
「はははw
まあリンの表情で察したけどなw
ホテル戻るか?」
「広場に居るような人間の屑と関わっちゃ駄目よ?」
『いや、もう少し…
ここでボーっとしとくわ。』
「そっか。
じゃあ、一応皆に電話するぞ。」
『おっけー。
配当もまだだしな。』
「ばーか。
そんなの後でもいから。
まずはオマエの安全だよ。」
やや電波状況が悪いのか、jetは少し離れた場所に歩いていく。
人ごみがjetの背を隠す。
それにしても、今日は広場の前に立つコンカフェ嬢・メンコン男の数がいつも以上に多い。
倒れた酔っぱらいAを挟んで、酔っ払いBが警官に議論を吹っ掛けている。
いつも以上の狂騒。
夜の歌舞伎町のボルテージは頂点に達し…
「久しぶりだな、魔王。」
何故か俺の周囲だけが異常に静まり返っていた。。
『よくぞ来た、勇者よ。』
全ての時間が停まったかの様に、眼前の男だけが鮮明に浮かび上がる。
敢えて俺を《魔王》と呼んだ。
そう、この男だけが知っているのだ。
俺がたったの4カ月で異世界を征服したことを。
我が子ダンがコリンズ朝の2代目魔王に就任していることを。
眼前に佇む、この荒木鉄男だけが知っている。
【名前】
遠市 †まぢ闇† 厘
【職業】
東横キッズ
詐欺師
自称コンサルタント
祈り手
【称号】
GIRLS und PUNCHER
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 3
《HP》 疲れやすい
《MP》 ずっと悪だくみ可能
《力》 女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧
《経験》 30 (仮定)
※キョンの経験値を1と仮定
※ロードキルの有効性確認済
【スキル】
「複利」
※日利3%
新札・新貨幣しか支払われない可能性高し、要検証。
【所持金】
所持金326万8365円
※但し警視庁が用意した旧札100万円は封印、タイミングを見て破棄するものとする。
【所持品】
jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ
寺之庄コインケース
奇跡箱
コンサル看板
【約束】
古屋正興 「異世界に飛ばして欲しい。」
飯田清麿 「結婚式へ出席して欲しい。」
〇 「同年代の友達を作って欲しい。」
「100倍デーの開催!」
〇後藤響 「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
江本昴流 「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫 「二度と女性を殴らないこと!」
× 「女性を大切にして!」
〇寺之庄煕規 「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香 「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介 「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇堀田源 「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘 「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
楢崎龍虎 「いつかまた、上で会おう!」
警視庁有志一同 「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会 「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬 「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
水岡一郎 「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
×平原猛人 「殺す。」
「鹿児島旅行に一緒に行く。」
車坂聖夜Mk-II 「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」
今井透 「原油価格の引き下げ。」
木下樹理奈 「一緒に住ませて」
〇鷹見夜色 「ウ↑チ↓を護って。」
「カノジョさんに挨拶させて。」
×ヒルダ・コリンズ 「芋羊羹…。」
「王国の酒…。」
「表参道のスイーツ…。」