【降臨1日目】 所持金0円 「勝った!」
オーラロードを抜けるとそこは地球だった。
太陽の香りが今が初夏である事を告げていた。
地面に叩きつけられた俺は、あまりの疲労と激痛に意識を保つのがやっとだったが、それでも力を振り絞って伏臥したまま周囲を確認する。
『ハアハア!
ハアハア。
…ハアハア。
ゴホっッ、ゴホっッ。
フ―ーーーー。
…こ、ここは?』
呟きながらも、地球、それも日本に帰れた事を確認し安堵する。
…日本。
それも都市部である。
正直、ありがたい。
到達したのがアマゾンの奥地や南極のクレバスなら確実に死んでいたことだろう。
今、俺が倒れているのは… アスファルト?
車道?
目の前に高速道路を彩る淡いグリーンが見える。
マズい、かなり大きめの国道だ。
俺は不様に這ったまま転がり歩道に転がり込む。
薄々予想していたが、今の俺は肌着一枚。
ピット会長に仕立てて貰った黄金の鎖帷子は厳重に着込んでいたにも関わらず、どこにも見当たらなかった。
あれを持ち込めれば、数千億円くらいで取り引き出来ただろうがな…
まあいい。
スキルの感触が体内に鮮明に残っている。
重要なのはこの能力だけだ。
まずは良しとしよう。
…駄目だ、全身が痛む。
アイツらの所為で着地に失敗した。
死んでいった奴らに恨み事は言いたくないが、アイツらには最後の最後まで足を引っ張られた。
…痛い、地球に着地した時、胸部を打った。
痛い、駄目だ…
意識が、保てない…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『う、うーーん。 けほっ けほっ。』
天井の電球…
よし、やはりここは異世界ではなく地球だ。
「先生、意識が戻りました。」
そして、看護師?
ということは、ここは病院か…
俺がキョロキョロしていると、医者らしき老人と2人組の警察官が寄って来る。
警察か…
当然、想定内。
4か月も失踪していたのだ、警察沙汰になっていない筈がない。
対公的機関に関しては荒木と合議して、「覚えてない」の一点張りで通す事に決めてある。
(異世界云々を言い出したら精神病院に収監され兼ねないからな。)
「失礼、今大丈夫?
あ、日本語解かる?
Do you speak Japanese? 」
枕元に立った警官が緊張した表情で話し掛けてくる。
『あ、日本人です。』
「ああ、良かった。
いや、倒れていた君が救急でこの病院に運ばれてきたのだけど。
身元を証明する物が何もなくてね…
困ってたんだよ。」
相棒の警官が何気なく身体でドア前までの道を塞ぐ。
そりゃあ、そうだろう。
ほぼ裸で倒れてる奴なんてマジモンの不審者だからな。
「えっと、じゃあ手続きとかあるから…
君の氏名と住所、それと生年月日いい?」
さあ、ここが最難関。
地球への公式帰還手続き。
これさえ乗り越えれば勝ち確である。
だってそうだろう。
俺の中にはスキルが濃厚に渦巻く感触が残っているのだから。
【複利】
俺には所持金に複利を自動適用させる能力がある。
スキルが一般知識であった異世界においてすら異能中の異能。
俺はこの【複利】で4か月も掛けずに異世界の王となった。
勿論、地球が異世界ほど緩いなんて馬鹿な錯覚はしていないが…
それでも、このアドバンテージは圧倒的だ。
…要は、異世界の件さえバレなければ俺は無敵なのだ。
『俺の…
私の名前は遠市厘です。』
「ん? トイ?
もう一回いい?」
『遠い近いの 《遠》。
市場の 《市》。
打率の端数《厘》。』
「ああ、御丁寧にありがとう。
若いのにしっかりしてるね。
学生さん?」
よし、警官の表情が柔らかくなった。
受け答えの心証は悪くない。
不審者から行き倒れ被害者にランクアップだ。
後はこの場を凌ぐだけだな。
思わず笑いがこぼれる。
…勝った!
『ええ、東相模高です。』
警官は微笑みながら軽く頷く。
「ああ、あの異世界転移の。」
ん?
【名前】
遠市厘
【職業】
無職? 学生?
【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)
《LV》 ?
《HP》 ?
《MP》 ?
《力》 ?
《速度》 ?
《器用》 ?
《魔力》 ?
《知性》 ?
《精神》 ?
《幸運》 ?
《経験》 ?
【スキル】
「複利」
※日利?%
【所持金】
0ウェン
0円
【所持品】
身元を証明するもの含めて一切なし