【転移当日】 所持金1万8700円 「俺の勝手だろ。」
【岩田浩太郎 (享年17)】
「おーい、遠市。
こっちのバスだ!」
『あ、本当だ。
うっかりA組のバスに乗っちゃう所だったよ。』
「仕方ないさ。
こんなわかりにくい場所でトイレ休憩するかね、普通。
なーんか、この社会見学、雑なんだよなー。」
『話がコロコロ変わってたもんね。
まさか修学旅行に行く行かないで、TVのニュースになるなんてね。』
「まあ柔道部でさえ相当揉めた位だからな…
おい! 遠市、早く乗れ。
点呼始まったぞ!」
【渡辺陽介 (享年16)】
「と、遠市君。
お、遅いよー。
迷ったの?」
『ゴメンゴメン。
意外に景色が良かったから、元を取っておこうと思ってさ。』
「き、君は、い、いつも。
お、おカネの話ばっかりだね。」
『んー?
そうかなー?
俺、そんなにカネの話してるイメージある?』
「きょ、教室でも
いつもおカネの本を読んでるからさ。
ぼ、僕が奨めたラノベは全然読んでくれないのに。」
『いや、読んだ読んだ。
ランキングの上から何作品か読んだよ。』
「嘘!?
ど、どれが面白かった?」
『タイトルに《異世界》って入ってた作品が面白かったよ。』
「もーーー、それ殆ど全部じゃない!
ぜ、絶対真面目に読んでないだろ!」
『ははは、怒らないでよーw
男向けと女向けの違いとかは読み比べてて面白かったしさ。』
「あー。
ま、また捻くれた物の見方してるー。」
【金本光宙 (享年16)】
「なんや、遠市君もラノベとか読むん?」
『金本君の1%位は読んでるかも。』
「ははは、せやったら遠市君は1万冊は読まなアカンでww」
『え? 君、そんなに読んでるの?』
「ウチは両親が揃ってオタクやから。
ボク、オタクの英才教育受けてんねんでww」
『ははは、すげーw』
「まさかコミケ行きたいから関東引っ越すとは思わんかったで。」
『え? 金本君ってそんな理由で転校してきたの!?
流石に驚いたな。』
「あはははw
こんなんで驚いとったらオタクの世界じゃお荷物やでww
ボクん家の車、超絶痛車やから
遠市君が見たら腰抜かすと思うでww」
『い、痛車ってアニメとかゲームの絵を描いた車?』
「ボクの両親、凌辱系のエロゲの痛車に乗ってるからな。
おかげで最初のアパート追い出されてもーたw」
『え!? う、うそー!?』
「ははは、今度見せたるわ。
まあボクらは18歳未満やから厳密には見るのもアカンねんけどなww」
【曽田美香 (享年16)】
「まーた陰キャがキモイ話してるわ。」
「ちょ曽田ちゃん、聞こえるよ!」
「…セクハラ事件が起きたばっかりなのに
下ネタの話する奴が信じらんないのよ!
担任は全然頼りにならないし!
東横女は捕まった癖に何故か退学にならないし!
小峠の奴は懲戒免職にならないしさ!
信じられる?
ゴーカンで捕まった犯罪者に税金から退職金出るんだよ?
…異常だよ、この国。」
「曽田ちゃんも小峠の被害者だったもんねー。
アイツ小さくて可愛い子ばっかり狙ってたから。」
「…女のチビってマジで人生ハードモードだわ。
キモオスは揃いも揃ってアタシみたいなチビをタゲるしさ…
あーーーーもう!!
キモいキモいキモい!!!
ロリコン死ね!」
【橋本憂作 (享年17)】
「隼人君、また曽田ちゃんが発狂してるけど…
どうする?」
「え? また?
中学の頃はあそこまで酷くなかったんだけどな。」
「俺も最近知ったんだけど
一年の時、小峠に一番粘着されてたのが曽田ちゃんだったみたい。」
「…犯罪被害は同情するけどさあ。
周り全員に当たり散らすのはよくないなあ。
わかった。
後で少し説得してみるよ。」
「ご、ごめんね。
俺達、隼人君に全部任せちゃってさ…
この社会見学も…
隼人君のお父さんが監査請求してくれたんだろ?」
「俺の父親、…好戦的だから。
サクもそう思うだろ?」
「あ、うん。
ちょっと厳しそうな印象はあるよね…」
「典型的なサイコパス社長だよ。
性格最悪だから、離職率エグイし…
母さんも東京に帰っちゃったしね」
「え?
隼人君のお母さん、出て行っちゃったの?
あの綺麗な人でしょ?
り、離婚… とか?」
「籍は抜かないんじゃない?
世間体を気にする家だし。
まあ、あんなに派手に喚いてたら世間体も何も無いんだけどね。」
「で、でも俺の母親は隼人君のお父さんに感謝してたよ。
修学旅行の積み立てがいきなり有耶無耶になったからさ。
あれ、汚職なんでしょ?」
「まだ断定は出来ないけどね。
そこだけは珍しく父さんに同意かな。
コロナで世間が大変なのは仕方ないとしてさ。
それを隠れ蓑にカネを誤魔化すのは…
ちょっと許せないかな。」
「うん、このご時世だから俺も修学旅行は諦めてたんだけどさ。
積み立てが返ってこないのは…
ウチ、貧乏だし本当に困るんだよ。
隼人君のお父さんが声を上げてくれて助かったよ。」
「サク!
オマエのスマホ、望遠強かったよな?」
「え!?
あ、ああ。
新品だから。」
「バスの外で運転手と話してる男。
ほら、茶色いスーツのオッサン。
念の為、撮影しておいてくれ。」
「え!?
か、顔を撮るの!?」
「多分、旅行代理店だ…
校長の幼馴染疑惑がある。
…撮ったら俺に画像送ってくれ。
サクには絶対迷惑掛けないから。」
「と、撮った。
これでいい?」
「OK
いつもスマン。」
「その… 裁判とか、そういうことに使うの?」
「…俺に送ったら、その画像は消せ。
撮影したのは俺ってことにしとけ。」
「い、いや! 流石にそれは!
隼人君は推薦もあるだろ!」
「元々、ウチの父親が勝手に騒ぎ出した事だ。
これ以上サクや皆を巻き込めない。」
【田村アイリーン (享年17)】
「ねえ、隼人ぉ!
難しい話ばっかりしてないで一緒に座ろうよー。
折角の旅行なんだからさぁ!」
「あのなあアイリ。
これは一応、授業の一環なんだ。
旅行って言葉は使うな。」
「あーー、もーーーつまんないーーー!!!
毎年修学旅行は京都だったって言うのに!!!
なんでウチらの代だけバスでアクアラインなのよーー!!
文化祭も体育祭も全部中止だしさ!!
ウチらの青春ぶち壊しだよ!!」
「仕方ないだろう。
世界的に似た状況なんだ。
我慢してるのは皆一緒だから。」
「つまんないーーーーー!!!!
アタシだって頑張って我慢してるし!!!
隼人ってば、遊んでくれるって言ったのに全然じゃん!!!
いつもいつも難しい話ばっかりしてさあああ!!!!」
「…わかった。
アクアラインの真ん中で降りるみたいだから…
そこで何か飲むモノ買ってやるから。」
「えー♪
マジ―、隼人超優しー♪
あっ、うみほたるでツーショット撮ろうよ♡
面白いアプリ見つけちゃったんだー、インスタにあげようぜー。」
「駄目だ。
SNSはやめろ。
世間的にこの社会見学は批判されてるんだ。
自粛すべき時期だってわかってるだろ?」
「はァーーーーーーーーーーー!?
信じられないんですけどぉ!?
あの東横女なんか、毎日ライブ配信してるんだよ!?
ウチらの悪口言ってるみたいだしさー!!
今度見掛けたらマジ殺してやろうかって思ってるんですけどぉ!!」
「…女が物騒な口を利くな。
わかった、鷹見さんには厳しく言っておく。
学校側からも注意させる。
だからアイリは乱暴な事は考えるな。」
「ぶーぶー。
隼人、女に甘すぎー。
アタシの事はもっと甘やかして欲しいけど、キャハッww」
【和田和子 (享年18)】
「あ、遠市君。
今、大丈夫?」
『うん。』
「進路希望調査票、遠市君だけがまだ未提出だから。」
『ああ、ゴメンゴメン。』
「仕方ないよ。
遠市君は、お父さんの事もあったし。
…大丈夫?」
『…大したことないよ。』
「そう…
何か困った事があったら気軽に相談してね。」
『…いいよ、役所が色々教えてくれたし。
あの団地もそのまま住めるみたいだし。
俺、法律的には《孤児》になったらしいんだけど…
弱者補正っていうの?
結構、色々な制度を適用してくれるみたいなんだ。』
「そういうことじゃなくて…
心とか、色々あるでしょ。」
『…大丈夫だよ。』
「…全然大丈夫じゃない癖に。」
『…。』
「…それと、合格おめでとう。
こんな時に言う事じゃないけど。」
『ん?
和田さんが何で宅建の話知ってるの?』
「ホームルームで松村先生が話してた。」
『…オイオイ、プライバシーないのかよ。
普通、個人情報を本人の居ない所で勝手にペラペラ話すかね。
あの女、何て言ってたの?』
「遠市君はお父さんを亡くしたばかりなのに、高校生で宅建合格して偉いって…」
『信じられないな。
今時、そういうセンシティブな話するかね?
だから低民度校区とか言われるんだよ。』
「…悪気は無さそうだったよ。
いつも通り何も考えてないだけだと思うけど。」
『善悪はいいから、最低限の配慮をして欲しいよ。』
「進路、どうする?
はい、ペン。」
『え!?
ここで書かされるの?』
「仕方ないでしょ。
もうとっくに締切過ぎてるんだから。
学校に帰ったらすぐに提出しろって…」
『担任に言われたのか?
しかもあの女、自分はきっちり欠席してるし…
俺らには出席必須とか言いやがった癖に…』
「そういう言い方をしちゃ駄目。
松村先生にだって、体調とか事情とかあるのよ…」
『…。』
「じゃあ、悪いけど。
進路、書いて。」
『進路って言ってもなあ。
生きて行く為に、出来る事全部をするだけだからな。
宅建だって、その為に取った訳だし。』
「じゃあ、不動産業界って書いとく?」
『…宅建取っておいて、こういう事を言いたくないんだけどさ。
俺、不動産屋って嫌いなんだよね。
なーんか悪いことばっかりしてそう。
人生で一番付き合いたくない人種だわ。』
「ちょっと、やめなさい!
平原君だって居るのよ。」
『ああ、平原不動産。
ん?
何か後ろの方で女と騒いでない?
非常識だよなアイツ。
あんまり話したことないから知らんけど。』
「偏見で人を決めつけるのは良くないよ。
さっき聞いたけど、曽田さんとか田村さんを宥めてくれてるみたい。」
『ふーーん。
別にいいんじゃない。
俺には関係ない。』
「平原君はちゃんとした人だから。
一度話してみたら?
相性はいいと思う。」
『サッカー部の連中って、いつも内輪で固まってるからな。
どうせアイツら、俺みたいな陰キャは嫌いだろ?
別に話すことないよ。』
「…遠市君の悪い癖だよ。
偏った物の見方で周りに壁を作って。
君は…
そういう点を改めるべきだと思う。」
『あのなあ。
他人の生き方に口を出すなよ。
俺が何をしようが、俺の勝手だろ。』
「遠市君が干渉されるの嫌いだって知ってる。
自分が踏み込み過ぎてる事も理解してる…
でも、友達じゃない。」
『?
たまたまクラスが一緒になっただけだろ?』
「それも縁だと私は思ってる。
縁は… 大切にしたいの。」
『縁… か。』
「…特に遠市君には助けて貰ったこともあるし。」
『?
覚えて無いな。』
「…だろうね。」
『進路希望、学校に戻るまでに書き上げるよ。
それでいいか?』
「うん。
…いつもごめんね。」
『…俺の方こそ。』
「え?」
『何でもない。
一旦、用紙はしまうよ。
アクアラインって結構揺れるらしいから。』
「うん。
…遠市君。」
『ん?』
「遠市君も来れて良かったと思う。
こんなご時世だけど、それでもクラスの皆と少しでも一緒に居たかったから。
…あ、本当だ
アクアラインの標識見えたよ♪
いっぱい思い出作ろうね!」
【浮島高校生集団失踪事件】
(株)甲駿相運輸バスが川崎市浮島公園にて停車中に、社会科見学の為に搭乗していた県立東相模高等学校の生徒29名が突如失踪した事件。
事件当日、現地では異臭・異音に対する通報が相次いでおり、生徒達がこれらに関連する何らかのトラブルに巻き込まれたものと見られている。
県警本部は事件・事故の両方の可能性から行方不明者の捜索に当たっている。
◇ ◇ ◇ ◇
県立東相模高等学校 2年B組(総員30名 欠席者1名)
担任 松村奈々(欠勤)
運行会社 甲駿相運輸
運転手 上原信一郎 (事件後自死)
◇ ◇ ◇ ◇
転移者名簿
【戦死(魔界攻略戦)】
今井直宏
岩田浩太郎
遠藤天使
金本光宙
工藤桜
曽田美香
平原隼人
堀田愛
宮本一平
山田麗
和田和子
【戦死(王国内乱)】
木下凰華
橋本憂作
布川翔
前田則大
【刑死】
木島瞳
鹿内樹理奈
【事故死(戦闘訓練)】
原田蛍
渡辺陽介
【事故死 ( オーラロード )】
宇治原琴子
興津久幸
【粛清】
田村アイリーン
吉岡龍吾
【生存】
荒木鉄男
卜部優紀
工藤葵
二戸恵梨香
塙健
【帰還】
遠市厘