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【転移108日目】 所持金302京9531兆7250億9294万ウェン 「私怨です。」

さて裁判所に出廷する日だ。

何せ原告と被告を兼任してしまっている。

出席する意味はわからないが、欠席することも難しい。


エナドリが神聖教団の知的財産権を侵害しているらしいからな。

話がややこしくなるので、こういう法律回りは早めに解決しておきたい。



「ねえ、リン。

今日はどのドレスを着て行けばいい?」



『派手な格好は控えてくれ。

これ以上の反感を買いたくない。』



「リン、私も法衣を纏いましょうか?」



アンタ、どの面下げて…


結局消去法だが、例のコスプレ軍服で同行をお願いする。

聞けば、ヒルダ軍は正式に自由都市陸軍の軍籍を保有しているらしい。



「第5独立支援連隊です。

私もコレットも将官待遇。」



こともなげに言いやがる。

そして何故か保有している軍用馬車を周囲に見せつけている。



俺は軍属ではないので、キーン家の馬車で移動。

コレットが「一緒に乗ろう」と愚図るが…

だから俺はオマエらと違って軍人さんじゃないんだよ。



『エルデフリダ様は乗せないんですか?』



「アレは私と違って軍人さんらしいから。」



随分、あっさりとした答えである。



「まあ、昔からアレの事はポールに任せてますので。

アイツが何とかするでしょう。」



この3人にも色々ドラマがあるようなのだが、彼らは俺よりも1回り以上年上なので踏み込まないことにする。



「経済人のコミュニティって狭いですから。

色々あるんですよ。」



そっかー。

大変だね。



裁判所に到着するまで、ドナルドと携行用の茶菓子を楽しみながら馬車に揺られる。

今から始まる茶番は憂鬱だが、こうやって街並みを眺めるのは悪くないな。



「リン。

君の故郷はこの街よりもっと栄えてるんだよね?」



『人口は多いです。

ただ、ここまで綺麗ではないですね。』



「ソドムタウンは気に入ってくれた?」



『はい。

首長国の首都ジェリコも良い街でしたが

あそこは王族の所有物の観が強かったです。


ここは…

一種の公平性を感じます。

市民の街、そうあろうとしています。』



「そこまで汲み取って頂けると幸いです。

いや、正直嬉しい。」



『結局、封建制度は無くなるのでしょうか?』



「徐々に数を減らして、最後は懐古主義の象徴に落ち着いて…

最後は惜しまれつつ消滅するんじゃないかな。」



『やけに具体的ですね。』



「…私は社会の在り方を考えるのが好きだから。」



ドナルドが口を濁す。

行動主義者の彼が考えるだけで過ごしたとは思えないが、無粋な追及をする気も無い。

俺がこの街に定住した事実こそが、全ての答えだからである。



「…リンは帰っちゃうんですか?」



『その予定です。』



「…そっか。」



その後は法廷に着くまで2人で流れる景色を眺め続けた。




==========================



原告はリン・コリンズ( 神聖教団大主教 )

被告はリン・コリンズ( ㈱エナドリ代表取締役会長 )


茶番もいい所なのだが、法律と言うのは真面目に運用するほど、こういう珍事が発生するものらしい。

取り敢えず『大主教ではない』と主張するのだが、裁判長曰く俺が大主教らしい。

納得できないのだが、法律的にはそうなっているらしい。



「では、原告から。」



『…はい。

㈱エナドリは弊教団が独占的製造権を保有するエリクサーを無許可で模倣し、エナドリと称して販売しております。

この行為は知的財産権の侵害以外にほかなりません。

この行為によって生じた損害の賠償を被告人に請求します。』



「被告人、反論はありますか?」



『先程、原告は《エナドリと称して販売》と仰られましたが、弊社は社会貢献活動の一環としてエナドリを配布しておりますが、販売した事実は御座いません。

またエリクサーの模倣を指摘されておりますが、エナドリは弊社が独自に開発したものであり、如何なる知的財産権も侵害していない事を主張致します。』




俺の発言はそれだけ。

教徒達から渡された原稿と社員たちから渡された原稿を棒読みしただけ。

一々原告席と被告席を車椅子で移動させられて非常に苦しかった。




次に、原告側(俺)が成分分析資料を提出し、エナドリの成分がエリクサーと全く同じである事を主張。

被告側(俺)は『偶然の一致』と反論。



30分ほど審議が続き、《エナドリはエリクサーの模倣品》との結論が出た。

まあ模倣も何もエリクサーそのものだしな。



結局、裁判所が和解を勧めてきたので、㈱エナドリが神聖教団の福祉活動に協力することで和解することになった。

最後に和解調書の原告欄・被告欄に俺がサインしておしまい。

和解時は原告と被告が握手を行う慣例があるので、右手で左手を強く握り締める。


滑稽な光景だが笑う者はいない。

茶番で社会が穏当に運営されるのならば、人は喜んで道化を演じなければならないのだ。



今でも俺は、資本があれこれ独占する事には反対だ。

だが、カネ持ちが色々な組織を保有することで、組織同士の軋轢が解消されるのは悪い事ではないかも知れないな。



俺は裁判長と法廷に深く一礼し、車輪を翻した。




==========================




約束通り、富裕区のレストランで食事をとる。

誰が手続きをしたのかは不明だが貸し切りである。

コレットの口ぶりからみて、きっと店が配慮してくれたのだろう。


カネ持ちは高い店ばかりに入れてズルいな、と思っていた時期もある。

だが、その憤慨は的外れである。

ある程度の知名度や財産を築いてしまった者は、こんな店以外に入れないのだ。


確かに庶民派ぶって普通の店に押し入る馬鹿も居るよ?

でも、それって周囲全員に負担を押し付けているだけなのだ。




『2人ともすまないな。

こうなる前に、もう少し自由に遊ばせてやれば良かった。』



「自由にはさせて頂いております。」



うん、アンタのは遊びの範疇じゃないよね。



「自由都市の割にリンはずっと誰かに気を遣ってるね。」




『俺がそうしなければ、皆が自由に過ごせないからな。』




そう、自由な社会とは皆の自制によってのみ成立する。

本当に皆が自由に振舞ったら、社会における自由度などは即座に消滅してしまうだろう。

特に持つ者にはその影響力相応の自制が求められる。

裁判ごっこに付き合うくらいは安いものだ。



今回の和解で、㈱エナドリはエリクサーの研究・開発・製造を正式に教団から依頼された。

無償で配布し続ける訳には行かないが、皆が薬品を廉価に入手できる環境は作れそうな雰囲気である。

立つ鳥としては、跡を清めておきたい。



1時間ほど母娘と食事をして、他愛もない話をした。

帝国四諸侯は半分が死に、王国では各諸侯の独立宣言が相次ぎ、首長国の誇り高き姫君は戦場の露と消えた。

世界が混乱する中で、この2人の妊婦だけが至って健康である。



==========================



ピット会長を誘って、第3工区へ戻る。

俺が吐き出すミスリルの量を実際に見てもらって、この先の保管場所を考えなくてはならないからである。

改鋳プロジェクトも本格的に進めなくちゃだしな。




「時間があれば南洋でもミスリルやエナドリを出して頂きたかったのですが。」



『妻の監視が厳しいんです。』




俺がそう言うと会長は珍しく声を上げて笑った。

我ながら滑稽なので咎める気も湧かない。



「皆がコリンズさんを目指してやって来られますな。

エルフは腰が重い種族だと聞いておりましたが、まさかキャラバンを組んで出発して来るとは。

しかも内戦中の王国を通ってまで。」



『会長のお口添えのおかげです。』



まあ、全然売れなかった国債の買い手が突然現れたのだ、形振り構わず顔を繋いでおきたいという気持ちも理解出来る。

公国や合衆国のキャラバンも俺を目指して疾走中らしいしな。


俺もキャラバンを率いた経験があるので分かるのだが、行程が1日遅れただけで少なくない経費が飛んでしまう。

なので目標地点たる俺は動きたくても動けない。

そんな無責任なこと、出来る訳がないじゃないか



《100京9844兆ウェンの配当が支払われました。》



いつもの光景を会長は愛おし気に眺めている。




「この力を持ったのが貴方で良かった。」



『恐縮です。

これからもそう思って頂けるように精進します。』



「やはり帰られるのですか?」



『はい。

俺には故郷を正す義務があります。』



「…。」



『…。』



「…私怨でしょう。」



『私怨です。』



「帰るな、とは申しません。

ただ、貴方が故郷に対しての想いにもう少し整理を付けてからの方が…

好ましい里帰りになるでしょう。」



『ご苦言に感謝致します。』



「私がしてあげられる事は、これくらいしかないからね。」



その後、会長から貨幣改鋳に関しての草案を渡される。

同じものをルイ陛下に送るそうなので、俺からの弔辞も同梱してもらった。




人民全ての共有財に祝福あれ。

【名前】


リン・コリンズ




【職業】


魔王

神聖教団大主教

(株)エナドリ 創業オーナー

世界冒険者ギルド 永世名誉理事




【称号】


魔王




【ステータス】 


《LV》  50


《HP》  (6/6)

《MP》  (6/6)


《腕力》 3

《速度》 3

《器用》 3

《魔力》 2

《知性》 7

《精神》 10

《幸運》 1


《経験》4219兆9712億7751万3280ポイント


次のレベルまで残り2599兆8743億8749万7975ポイント




【スキル】 


「複利」


※日利50%  

 下12桁切上




【所持金】


302京9531兆7250億9294万ウェン



※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有

※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有

※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有

※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有

※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有

※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有

※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有

※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有

※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。




【配給薬品在庫】 


エナドリ 525847ℓ


※配給薬品208616ℓを補充

※神聖教団救済部会へ100000ℓをエリクサーとして納品


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― 新着の感想 ―
100th like
[良い点] バイバインに突入しちゃったね
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