【転移107日目】 所持金201京9687兆7250億9294万ウェン 「異世界子供部屋おじさんはチートスキル【清掃】でこっそり世界を救っちゃってます。 ~家業を継ぎたくないから皆には内緒だよ~」
俺が読んで来たラノベは概ね冒険物である。
主人公は冒険を重ねて徐々にランクアップし、重要な場所や偉い人と会えるようになっていく。
まさしく、この成り上がりの過程こそが醍醐味であり、俺も主人公と自分を重ね合わせて、その蓄財や出世を我がことのように喜んでいた。
断言しよう。
男にとって至上の喜びは上昇である。
ラノベが楽しいのは手軽に上昇を体験出来るからに他ならない。
俺もそういう冒険的な人生を歩んでみたいと考えていたし
現に異世界転移してきた最初の30分は心がときめいていた。
問題は俺が強すぎたことである。
何度も言うが、光が最速であるように【複利】は最強だ。
最強であるが故に、これ以上の上昇が望みにくい。
今の俺は《魔王》なる国家元首的な立場である。
元首以上の地位となると、それこそ《神》くらいのものだが…
その申し出も謝絶済みだしな。
もう俺が冒険することはない。
何故なら、俺はみなにとっての目標地点だからである。
目標にウロチョロされたら困るだろう?
だから、迂闊に動けない。
「こちらから出向きますよ?」
と各担当者に提案することもあるが、皆が慌てて首を振る。
『コリンズ社長のお手を煩わせてしまったら、私の立場がなくなってしまいます!』
必死な顔で言われてしまうと、こちらも譲らざるを得ない。
俺と違って彼らには生活があるのだ。
なので。
この大陸の最南端にある自由都市ソドムタウンの、最南端にあるリゾートハーバーの最端にある第3工区まで皆に来て貰わざるを得ない。
こちらも遠方の人間を呼びつけるのは本当に心苦しいのだが、これだけ毎日色々な連中が訪れてしまっている以上、動きようがなくなってしまったのだ。
俺は冒険どころか、ソドムタウン内すらまともに見て回る事が出来ていない。
次のアポが常に迫っていてスケジュールをずらせないのだ。
クーパー会長にお願いして、第3工区の入り口にホテルを建造してもらっている。
そうしないと国外の要人が野宿をしてしまう羽目になるからである。
ホテルが完成するまでは、遊牧民族団体にありったけのゲルを並べてもらった。
宿割りがどうなっているか、あまり把握出来ていない。
次のアポを消化しなければならないからである。
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コレットの機嫌が非常に良い。
理由は明白である。
妊娠したのだ。
自由都市選りすぐりの産婦人科医団が保証するからそうなのであろう。
「リンは運命の王子様だよ。」
いや、たまたま訪れた宿屋の客だ。
それを口には出す気はない。
何せ次のアポが迫っているからな。
女共には機嫌良くいて貰いたい。
(エルデフリダがウロチョロしているが、そこまで知らん。)
後は、コレットが産むのが男子が女子か?
それによって皆の命運が大きく変わる。
コレットが健康な男子を産み、ヒルダから生まれた子が女子であれば一番揉めにくい。
逆の場合が怖い。
皆が迷惑する。
一応、産婦人科医団に尋ねてみたが、今のところ男女を産み分ける技術は確立されていないそうである。
無いものは買えない。
なので、血が流れにくい未来を俺は祈り続けている。
誰に?
とりあえず神だ。
どの神に?
とりあえず、地球と異世界の両方の神に祈っている。
まさかバッティングに腹を立てるほど幼稚な相手ではないと信じたい。
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フェルナン殿下が流れ着いてくる。
俺が魔界に誘拐されたのはつい10日前の話だが…
やはり色々激動だったらしい。
『やっぱり陛下のお怒りは解けませんか?』
「切腹を免除してくれただけでも、陛下にしては寛容な対応です。
今も、特に行動制限されてませんし。
財産の国外持ち出しも許されました。
むしろ感謝していますよ。
文筆業に関しても、今回の事件や王室に触れない限りは問題視しない、とのことですしね。」
『殿下が王室のことを書けないのは、エッセイストとしてかなり大変なのではありませんか?』
「いやぁ。
確かに表現の幅は狭まりますが、当然受け入れるべきかな、と。
これからは自分で題材を見つけますよ。」
『じゃあ、魔王は執筆OKということで。』
「ははは。
お気遣い感謝します。
そうですね、これも何かの縁でしょう。
魔界や魔族が国際社会に上手く溶け込めるような文章を書きます。」
『言葉が通じる事は知っていたのですが、話も割と通じるので驚きました。』
「今のフレーズいいですねえ。
何かの場面で使わせて下さい。」
流石に筆耕生活が長いだけあって言葉に敏感である。
「魔王様にはご迷惑の掛けっぱなしです。
私は文章を書く以外に能の無い男ですが、出来る事がありましたら
何でもお申しつけ下さい。」
『あー、殿下は物語とかって書きます?
そのフィクションです。』
「子供向けの童話集なら刊行した事があります。
と言っても各地の民話を要約しただけのものですが。」
『じゃあ、掃除しか取り柄の無いオッサンが大活躍する話を書いて下さいよ。』
「掃除屋になればよいのでは?」
『掃除屋の息子なんですよ。
家業を継ぐのを嫌がってる。』
「ははは、いますよね
そういう人。
あ、じゃあこういうタイトルはどうですか?
《異世界子供部屋おじさんはチートスキル【清掃】でこっそり世界を救っちゃってます。
~家業を継ぎたくないから皆には内緒だよ~》
https://ncode.syosetu.com/n1559ik/」
『おおお!
流石は殿下!
即興でアイデア出しますね。
俺の故郷に文章投稿用のインフラがあるのですが
殿下ならそこでも活躍出来ますよ!』
俺は口の中でタイトルを読み上げ、ポールの顔を思い浮かべて噴き出してしまう。
やっぱり物語には笑いと自由がなくっちゃね。
「ははは。
こんな程度で良ければ幾らでも書かせて下さい。
今は仕事も無く、妻子に恥をかかせておりますからね。
出来る事は何でもやらなくちゃ。」
そんな会話があったので、殿下に四天王の座を贈る。
「ええ!
別に猟官の為に来た訳じゃないですよ!」
『無論、殿下のお人柄は存じております。
ただ、ある程度公的な肩書がなければ文筆活動が困難でしょう。
折を見てステップアップして頂いて結構ですので。
今は取り敢えず生活を軌道に乗せる事だけを考えて下さい。』
「お心遣い痛み入ります。」
殿下には迷惑を掛けた。
俺が不用意だったから、危うく切腹させられる状況まで追い込まれてしまった。
そう。
今の俺に何かがあれば、周囲の人間が罰せられてしまうようになった。
もう我儘は言えない。
俺はおとなしく皆の指示に従い、安全圏で守られていなければならないのだ。
でなければ、罪のない人が甚大な不利益を蒙ってしまう。
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『ダークドラゴン?』
「ええ、世界に深刻な厄災をもたらすと言われている
巨大な邪龍です。」
カインの説明によると、魔界の遥か北側でダークドラゴンが目撃されたらしい。
どうやら人間の住まう地域に対して進路を取っているようだ。
俺も冒険者ギルドの理事に名を連ねているので、一応把握しておかなければならない。
『俺、どうすればいいでしょうか?』
「ギルドは討伐令を発令します。
恐らく事後承諾的な稟議が回って来ると思いますので
そこにサインして下さい。
後、かなり高額な賞金が懸ります。
今のギルド財政は苦しいので…
恐らくリンにも話が回ってくるでしょう。」
ああ、そういうことね。
金持ちに色々な役職が提供されるのは、いざという時の資金供給源として扱う為である。
俺、誤解してたわ。
役職というのは、金持ちが自身の名誉の為に買い漁っているのかと思ってた。
無論、そういう側面もあるのだろうが、実態は逆だな。
組織が財務の安定を図るために、金持ちに役職をあてがって…
要は一種のタカリである。
金持ちを直接強請ればすぐに粛正されてしまうが、役職に祭り上げる分にはそこまで怒られない。
だから、俺には魔王だの大主教だの理事だのの話が回ってくるのだ。
本当は俺が一番嫌いな構造なのだが、社会全体の利益を考えれば受け入れざるを得ない。
俺がピエロになってカネを取られるくらいで、助かる人がいるのなら、それは祝福すべき仕組みではないか。
その数時間後に冒険者ギルドから偉い人たちがやってきて、資金支援を要請されたので快く供出する。
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【所持金】
135京5494兆8250億9294万ウェン
↓
135京5494兆7250億9294万ウェン
※冒険者ギルド総本部に対して邪龍被害対策費用として1000億ウェンを供出。
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「おお、これほどの額をご支援頂けますとは!
これで執行部の顔も立ちます。
魔王様には是非感謝状を贈らせて下さい!」
『あ、いえ。
感謝は討伐に参加される皆様へ。』
もう無難なコメントしか出来ない。
これで良いのか、とカインを盗み見ると満足そうに微笑んでくれている。
なら、常識的な発言が出来ているのだろう。
…神経を使うな。
『カインさんは、龍の討伐とか興味あります?』
「討伐ミッション全般好きですよ。
何か、社会に貢献しているような気になれるじゃないですか。
冒険者同士でワチャワチャやってると楽しいですし。」
『理事はあんまり楽しくないのですが…』
「リンの気持ちは分かります。
でもね?
1人の冒険者として言わせて貰うとね?
肩書や役職を楽しむ人間よりも
その重責に真剣に向き合う人間にこそ役職に就いて欲しいです。
だから、貴方にはこのまま理事で居て欲しい。
身勝手な意見の押し付けでゴメンね。」
記録を見る限り、冒険者ギルドって横領事件の多い組織だしな。
確か連邦支部も横領で潰れてたくらいだしな。
…俺が役職に就いた方がマシなのだろうか?
カインはそう言ってくれるが、考え込んでしまうな。
「リンはよくやってますよ。
若い頃は自分が動きたいと考えがちなものですが
貴方はちゃんとマネージメントに徹しています。
正直、退屈でしょう?」
『ええ、まあ。
多分このポジションって功成り名を遂げた老人のものだと思うのですよ。
…正直、退屈ですね。』
「またいつか、こっそり炸裂弾を投げに行きましょう。」
悪戯っぽくカインがウインクする。
今は、そういう優しい嘘がありがたい。
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《66京4193兆ウェンの配当が支払われました。》
『なあコレット。
ひょっとして、ホース係気に入った?』
「元々、これはリンと私で始めたことでしょう。」
ああ、確かに。
エナドリの元株のエリクサー。
これを剽窃した時の相棒がコレットだった。
ある意味、この女だけが真相を見ているのだな。
「明日の裁判、結局リンが出廷するの?」
『法務局とも話し合ったんだけど
流石に俺が出ざるを得ないみたい。
…コレット。
裁判ついでにメシでも喰いに行くか。』
「はい!!」
裁判のついでに妻とランチ。
今となっては、これが俺の数少ない自由だ。
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
魔王
(株)エナドリ 創業オーナー
世界冒険者ギルド 永世名誉理事
【称号】
魔王
【ステータス】
《LV》 49
《HP》 (6/6)
《MP》 (6/6)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 6
《精神》 10
《幸運》 1
《経験》2832兆1954億8826万3946ポイント
次のレベルまで残り578兆7722億1692万3949ポイント
【スキル】
「複利」
※日利49%
下12桁切上
【所持金】
201京9687兆7250億9294万ウェン
※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】
エナドリ 417231ℓ
※試供品137210ℓを補充