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【転移105日目】 所持金90京9727兆8250億9294万ウェン 「異世界に来てから今が一番バトルしてるぞ」

地球に居た頃、『一生に一度でいいから3Pってしてみたいなあ』と思っていた。

夢は叶ったが…

これ、なんか違わないか?



夜中に俺が目を覚ますと、母娘が俺を挟んでアイコンタクトで会話している最中だった。

どうやらハンドサインも交えて無言密談をしていたらしい。

俺と目が合った瞬間、2人が一瞬だけ驚愕し…

1秒もしないうちに媚びた表情で俺に擦り寄ってきた。


…怖いよ!!!




「何かお夜食でもお持ちしますか?」




まるで胡桃亭の頃の様な口の利き方で尋ねて来る。

俺のエモーショナルな部分に訴える作戦を混ぜてくるつもりらしい。




『個室に案内して下さい。』




コレットが拗ねたように抓ってくる。

何だそれは?

可愛さアピールか?




『女将さん。

明日の奇跡までにドアを直しておいて下さい。』




それだけ言うと、目を閉じて睡眠を試みる。

こっそり薄目を空けて様子を伺おうとするが、母娘は巧妙に俺の視界の外に身体をずらしていた。

おまけに腕枕に偽装して俺が咄嗟に上半身を動かせないようにロックしている。


…俺、異世界に来てから今が一番バトルしてるぞ。




==========================




目が覚めてから、時計を没収されていることを思い出したので

ステータス画面で時刻を確認。


…13時か。

俺も随分、不健康な生活しているな。



例によってエルデフリダが入り口で俺を監視している。

母娘が船室を離れる時は、必ずこの女が立つ。

てっきり犬猿の仲かと思ったが、随分仲の宜しいことで。

余程、利害が一致するのだろう。



…いや、一致して当たり前か。

キーン家は自由都市におけるコリンズ家の保証人である。

文字通り一蓮托生なのだ。

魂胆までは判らないが、結託せざるを得ない状況なのは確かである。




『ご主人にはいつもお世話になっております。』




一瞥。

どうやら口を利いてくれるつもりはないらしい。




その後も、何度か雑談を持ちかけるが目すら合わせてくれなかった。

ヒルダが戻ってくると入り口でコソコソ密談。

まるで長年の戦友のような親密ぶりである。

いや、戦友なんだろうけどさ。



==========================



ヒルダに持ち上げられて、長い距離を移動しバスタブに運ばれる。

この女はお姫様抱っこの体勢で10分間以上階段を登っていた。

今更ながら凄い力だな。

用意のいいことにエナドリで満たされていて、丁度コレットが湯加減をチェックしているところだった。


巨大なバスタブだ。

この狭い艦内にどうやって持ち込んだのだろう。


と言うより、ここ艦橋じゃないか!

普通に女軍人達が行き来し、ヒルダを見ると敬礼してくる。

ヒルダは全裸のまま軽く手を上げるだけだ。



「入口の修理が完了するまで少々お待ち下さい。」



耳元で聞こえたのは優しい女将さんの声色だったが、表情だけは部下の手前上官のそれを崩さない。

器用な女である。




『自由都市か…』




眼前に広がる光景は懐かしの自由都市だった。

あの尖塔は中央政庁。

角度的に、ここは港湾区ではないのか?




『もしかしてリゾートハーバー?』




「ええ、その第3工区です。

まだ工事予定すら纏まらず皆が困っておりましたので

弊社が取得しました。」



もうツッコむ気もしない。

無限にカネが湧くってこういう事なんだろうな。



外資誘致用のリゾートハーバー。

第1工区・第2工区は順調に開発が完了した。

極めて好評で世界中から資本が集まった。

問題はこの2つの人工島で全てが完結してしまった点である。


それで立地的に工業区が近い第3工区への開発希望業者が無くなってしまい、無人の人工島だけが放置されていたそうである。

明らかに計画ミスだが、リゾートハーバー自体が大成功を収めているので、特に誰から責められることもなかったらしい。


で、この穴をヒルダが突いた。

軍事的に考えれば自由都市の湾内を制圧可能なかなりの要地なのだが、自由都市政府はあっさりヒルダ・コリンズに売り払ってしまった。

なので、この第3工区でコリンズ家が何をやっても勝手(ヒルダ曰く)なのだそうだ。




「貴方の島です。」




『…違うな、自由都市の土地の一部を開発させて貰ってるだけ。』




「事実上、貴方の島です。」



『じゃあ、その事実を是正しておくよ。』




俺達3人は全裸でエナドリ風呂を堪能しながら、そんな遣り取りをしていた。

ああ、上手いな。

俺が感情的になりそうな会話は、衆人環視の中で風呂に入れながら話す、という訳だ。

つくづく小賢しい女だ。




『第3工区って俺の名義で買ったの?』



「㈱エナドリです。」



『ここ、ミスリルの貯蔵庫にするわ。

ピット会長とも、自由都市のどこかに建造する話をしていたし。』



「承知しました。」



『反対しないんだな。』



「女は殿方が側に居て下さるなら何の不満もないのです。」




いつの間にか艦橋で指揮を執っていたエルデフリダがフンフン頷く。

この女共の参戦目的って、男から見たら死ぬほどアホらしい理由なんだろうな。

女から見た男の闘争がアホらしいように。




『ピット会長から連絡はあった?』



「近いうちに面会させて欲しい、とのことです。」



『まあ、他に言いようがないよな。』




他の報告としては、首長国から連絡がありフェルナン殿下が赦免されたらしい。

シティホテルに軟禁され切腹処分を待っていたらしいのでギリギリのタイミングだったらしい。

但し無罪放免とは行かず、ケジメとして王族籍は剥奪され平民身分に落とされるとのこと。

現在、のんびりと自由都市を目指しているらしい。

(ちなみに首長国王室に関する執筆は厳重に禁止されてしまっている。)




『第3工区、案内してくれよ。

皆も呼んでおいてくれ。

この艦にテント積んでるなら、張っておいてくれ。』




「畏まりました。」




少し態度が軟化したな。

特にコレットの緊張が解けている。

絶対監禁モードは終わったのだろうか。


ひょっとして妊娠を確認するスキルでもあるのか?

それとも女という生き物は自然にそれを理解出来るのか?

わからん。

機会があればドナルド辺りに聞いてみよう。




「それと今入った報告ですが。」



『ん?』



「共和国から使者が来ているそうです。」



『共和国?

何で?

俺とは接点ないだろう?』



共和国というのは、たまに名前が出て来る国だ。

ちゃんと地図で見ないと思い出せないのだが、王国や魔界と国境を接していた気がする。



「謝罪と補償をさせて欲しい、と。」




『?

謝罪?

何かの間違いじゃないのか?

俺、彼らとは何の接点もないぞ。』



「リンは魔王なのでしょう?」




あ!

そういうことか!


共和国は魔界に侵攻していた。

そしてその途中で俺が魔王に就任したと知り慌てて軍を撤退させたようだ。

魔族の連中が「我々の王は、あのコリンズ様なるぞ!」と吹聴しまくっているらしい。


最初、誘拐された時はアホらしい作戦だと思ったが、結果は最高の物が出せたようだ。

当面、表立って魔界を攻撃する勢力は現れないだろう。

国債が売れなくなっちゃうからね。

つくづく、カネと言うのは暴力である。




「現在、共和国の使者はリンの許しを乞うために神殿の前で跪いているそうです。」




『それ迷惑だからやめさせて。

俺の名義でどこかに宿でもとって、そこに泊めさせておいて。


あ、宿割は政治局に決めて貰って。

俺は費用だけ負担するから。』




「畏まりました。」




ここまで俺の権勢が強まってしまうと…

もう冒険は不可能だな。

呼ばずとも問題や解決方法が向こうから出頭してきてしまう。

何より、嫁が五月蠅い。



==========================



久しぶりの陸地。

俺の輿は女軍人達が担いでいる。

ヒルダとコレットは騎馬。

随分馬術が上達したな。



財界の要人達の馬車が連なっていたので、そこに挨拶に行く。

纏め役のクーパー会長が皆を代表して祝辞を述べてくれる。

表向きは《魔界からの帰還祝い》だが、どう考えても《奥さんの監視が緩まった祝い》である。

例によってピット会長は隅っこでニコニコしている。

あのステルス術、俺も学ばなきゃな。



続いて各省庁の代表が挨拶に来たので、こちらも返礼する。

産業局に至っては花束まで用意していた。

感謝の意味も込めて輿に一輪だけ差しておく。

ウェーバー政治局長とも数言交わす。

彼の目には深い隈が出来ていた。

もし彼が早死にしたら俺の所為だな。



数時間、辛抱強く答礼を続けた。

1人1分の挨拶であっても、相手が300人いれば5時間掛かる。

そして、今の俺の利害関係者が300で収まってくれる筈もない。




==========================




即興の提案によく応えてくれたものだと感心するが。

大きなプールを用意して貰った。

リゾートハーバーで8000万ウェンで売っていたらしい。

小銭が手元に無いので誰かに建て替えてもらう。




『じゃあ、ミスリルだけ運び出していて。』




「畏まりました。


フォーメーション・デルタ!」



ヒルダが号令すると女軍人達が無言で散開する。

オマエら、その練習どこでやってるんだよ。




《29京5047兆ウェンの配当が支払われました。》




おお、この糞デカいプールが満ちていく。

たまには建設的な使い方しないとな。




向こうに下がらせていた政財界の連中をプールに招待する。

リゾート用の水着も配布した。

職業柄高齢者が多いので、リゾートというよりまるで高齢者施設の入浴タイムだが、身体に良いのだから別に大丈夫だろう。

(ウェーバーの隈もちゃんと消えた。)




途中、キャンペーンガールみたいな連中が大量に入って来る。

驚いた俺が『え? 誰が呼んだの?』と戸惑っていると、向こうも困惑した表情で「社員ですよ!」と抗議してきた


㈱エナドリの子会社に、《チェスター合同リゾート開発》という法人があり、その子会社の《チェスター人材派遣》がこういうキャンペーンガールの派遣事業を行っていたらしい。


彼女達は親会社が政財界を集めたプールイベントを開催すると聞いて慌てて駆け付けたとのこと。

(よくこの業界の作法が分からないのだが、このケースだと呼ばれてなくても近くで待機しなければならないそうだ。)

向こうでチーフっぽい女性がヒルダに挨拶をしている。


ごめん、今初めて知った。

チェスター氏は以前お見舞いに来てくれていた気がする。

体調を崩していた時期なので、話した内容は覚えてない。




俺が一番、この状況を理解していないのだが。

皆がリラックス(彼らの年齢だと養生だが)してくれているようで嬉しい。





==========================



皆は帰って行った。

ピット会長が去り際に「ここがベストかも知れませんね。」と仰って下さる。

無論、ミスリルの貯蔵場としてである。




最後に身内が残ってくれる。

あちらの方ではエルデフリダがドナルドに泣きながら縋りついているが、ドナルドは不機嫌にそっぽを向いている。

そりゃあ怒るだろうな。




「おかえりなさい。」




カインが優しく声を掛けてくれる。

ポールもその隣で微笑んでいたが、エルデフリダがヒステリックに仲裁を頼んで来たので苦笑しながらキーン家の仲裁に向かった。

見ようによっては家族ぐるみのお付き合いである。




「冒険は如何でしたか、魔王様。」




カインが冗談めかして言うので。




『本物の魔王には随分と泣かされました。』




とだけ答える。

勿論、母娘が席を外しているタイミングでの話である。




「リン、君の冒険は本当に終わってしまった。」




『そうですね。

ここまで手持ちが膨れてしまうと、世界の方から勝手にやって来ます。』




現に、共和国という名前くらいしか聞いた事がなかった国が謝罪の為の特使を俺に派遣している。

今の俺は、どこかに赴く必要がないのだ。

多分、エルフやら学者やらも呼べば来るだろう。


だって世界一の大富豪なんだぜ?

俺だって喜んで行くよ。

カネが貰えるかも知れないんだから。


竜の牙に関しても、俺が探していると表明するだけで誰かが気を利かせてくれるだろう。

多分、買い取り額を提示する必要すらないと思う。



級友達を送還する為に王国に向かおう、そんな馬鹿な考えを持っていた時期もあるが…

呼びつければいいだけである。

俺が平和的な面会を希望している、と言えば誰かが勝手に連れて来るだろう。



一見、横柄に見えるが。

周囲にとっては、そうしてくれなければ逆に困るのである。

連邦だの首長国だの魔界だの嫁に軟禁だの、一々転々とされては謝罪も出来ないじゃないか。



『カインさん。

ここに居を構えます。

極めて不本意ですが、腰を据えます。』



「同情するよ。

せめて話し相手になってあげるからね。」




『ありがとうございます。

それが一番助かります。』




プールサイドに張られた軍用テントの横。

カイン・ポール・ドナルドと4人で星を眺めながら下らない話をする。


女共が遠巻きに囲んでいるが、まあ広義のハーレムということにしておこう。




子供の頃の話をした。

貧困の話や父親の話… 

流れであの女に捨てられた話もしてしまう。


何故、そんな話をしたのか分からないが、話したということは本当は誰かに聞いて欲しかったのだろう。



魔界の話もした。

如何に魔族が身勝手で無思慮だったか。

そんな愚痴を延々と零す。

久しぶりに笑ったので、やはりあの数日間は楽しんでいたのだろう。



この下らないエンディングの幕間としては悪くなかった。

エンディングロールのキャスト欄にはこれからも貴賓の名が足され続けて行くだろう。


だが、俺自身の物語が紡がれる事は二度とない。

旅は…  いや、俺の個人的な人生はもう終わったのだ。

【名前】


リン・コリンズ




【職業】


(株)エナドリ 創業オーナー

駐自由都市同盟 連邦大使 

連邦政府財政顧問

世界冒険者ギルド 永世名誉理事




【称号】


魔王




【ステータス】 


《LV》  48


《HP》  (6/6)

《MP》  (6/6)


《腕力》 3

《速度》 3

《器用》 3

《魔力》 2

《知性》 6

《精神》 10

《幸運》 1



《経験》1284兆3259億0615万9961ポイント


次のレベルまで残り422兆2028億1911万6254ポイント  




【スキル】 


「複利」


※日利48%  

 下12桁切上



【所持金】


90京9727兆8250億9294万ウェン  



※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有

※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有

※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有

※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有

※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有

※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有

※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有

※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有

※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。




【試供品在庫】 


エナドリ 188605ℓ


※今回発生分の90530ℓで「政財界慰労エナドリプールパーティー」を開催

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― 新着の感想 ―
[一言] よくわからなくなるほど、暗い物語になったんだが?
[良い点] 貧乏人には貧乏人の、金持ちや権力者にはそれなりの悩みがあり、満たされた人生を送ることが難しいことを分かりやすく教えて貰えました(現在進行形ですが) そして、とにかく筆が早いことに驚きます…
[良い点] エナドリ風呂!?エナドリでドラゴンボールのサイヤ人ごっこができるな!
感想一覧
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