【転移103日目】 所持金41京5324兆8250億9294万ウェン 「嘘を吐け、その逆が本音だろうが。」
状況が全く分からない。
母娘と再会した瞬間にその私兵団によって拘束され、船舶に連行されたからである。
この船舶の船籍すら判らない。
魔族達はどうなったのだろうか?
約束通りに教徒として生きる事を許されたのかも知れないし、とっくに皆殺しにされているのかも知れない。
この船室はかなり防音性能が高いので、悲鳴どころか波の音すら聞こえない。
ただ体感で、既に出航したことだけは理解出来る。
「ねえ、リンは私のことなんか嫌いになっちゃったでしょ。
綺麗な女の人多いもんね?」
コレットは必死に冗談めかそうとするが、怒りや憎しみが隠し切れていない。
仕方ない。
彼女はまだ少女の年齢なのだ。
かなりよくやっている方だと思う。
俺は抵抗出来ないままベッドに放り込まれ、そのままずっとコレットに抱かれている。
ベッドの反対側にはヒルダが腰掛けており、稀に伝声管で外部と手短に遣り取りしている。
例のコスプレ軍服を脱ぐ気はないらしい。
(この女の場合、正式に軍籍を購入している可能性もあるが。)
「私、リンの言う事なら何でも聞くよ?」
嘘を吐け、その逆が本音だろうが。
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かつてこの母娘は、その親密さ故に離れずにセットで行動していた。
だが、今は違う。
軋轢が生じているからこそ、セットで行動せざるを得ないのである。
コレットから見た場合。
ヒルダが男子を出産してしまうケースが最悪である。
当然、どんな手を使ってもコリンズ家の嫡男に据えようとするだろう。
すると、この後コレットが産んだ子を母子共々害そうとする可能性がある。
ヒルダにその気が無かったとしても、その男子や男子の派閥はそう考えるだろう。
ヒルダには娘のその予測が当然読めているし、その緊張がコリンズ家にとって不毛であることも理解しているので「早く孫の顔が見たい」とだけ繰り返している。
2代目を産むのがヒルダかコレットかで、彼女達の関係は大きく変わって来るのだ。
もしも選べるのであれば、コレットが産んだ子を嫡子に据えるのが一番無難である。
俺も母娘も周囲もそれを願っている。
お家騒動さえなければ資本家は盤石であるからである。
ただ、こればかりは生物学的な条件に左右されるので、現時点では何とも言えない。
コレットは不妊治療にまで手を出しているようだが、そもそも彼女の年齢で妊娠出来るのだろうか?
体格的には日本の同世代少女よりも発育が良いようにも見える。
だがいかんせん幼いし、そもそも論として異世界人と地球人との間に子が生まれるものなのだろうか?
(ヒルダの妊娠にしたってDNA鑑定している訳じゃないしな。)
不意にヒルダが気配を殺して何気なく扉の外へ退出した。
その隙間から一瞬だけ鮮烈なブロンドが見える。
エルデフリダだ。
ちゃんとは確認出来なかったが、お揃いのコスプレ軍服を着ていたように思う。
トラブルだろうか?
もしも、この船舶をドナルドが追撃しているとかだったら爆笑ものだけどな。
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窓の無い部屋なので外の様子は判らない。
昼なのか夜なのか?
どの国の領海を通ってどこに進路をとっているのか?
全て不明。
更には時計も没収されたが、ステータス画面で時間は確認可能。
複利の表示を凝視(心の中でクリックするイメージ)すると、配当までの残り時間が表示されるからね。
いくぞ、ムン!
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【スキル】
「複利」 (配当まで残り07時間02分)
※日利46%
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午前10時か…
そりゃあ、俺も若い男子だから夜も眠らずセックスしたいという願望はあったけどさ。
流石にこの状況では…、ね。
コレットが食事を運んで来る。
船内にしてはかなり豪勢だが、運んできたという事は俺をこの船室から出す気がない証拠である。
「はい、あーーーん♪」
…俺も年頃の男子だからさ。
可愛い女の子に「あーーん」をして貰うのが夢の一つであった。
まさかこんな形で叶うとは思ってもいなかったけどな…
「ねえ、リン。
怒ってる?」
『…別に。』
「いやーん、ゴメンなさーい♪
私、リンの事が心配で心配で
思わず来ちゃったの。」
アホらしいので返事をする気も沸かない。
魔王城が懐かしいなあ。
少なくともあそこには窓があった。
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「もうすぐ時間になっちゃうね。」
無言で寝転がっている俺の背中越しにコレットが声を掛けてくる。
「エナドリとミスリルで、この船を沈めちゃえ
とか思ってる?」
突然心を言い当てられたので、不覚にも動揺してしまう。
「あははは。
リンは最初会った時からずーっとそう♪
いつもずーっと1人で何かを企んでるよね?
私ね、リンのそういう所が大好き。」
自惚れる訳ではないが。
コレットは初日から俺に好意的だった。
理由は明白。
策士のヒルダに女商人としての英才教育を受けているからである。
祖父と父親が(恐らくは)思慮の不足から王国に粛清されているからである。
手の内を見せる事を極度に嫌い身体に触れられることすら忌避していた珍妙な宿泊客は、コレットから見て相当新鮮に見えたのだろう。
「ねえ、リン。
リンのお父さんの名前を教えてよ。」
『…。』
「あははは。
夫婦なんだからそれくらい教えてくれてもいいじゃない。」
悪いなコレット。
流石に父親の名前だけは穢されたくないんだ。
「みんなが言ってるよ~?
リンって気難しいから扱いが難しいって。」
だろうな。
地球でも似たような事を言われてたよ。
コレットが無理矢理キスをしてこようとするので、目と歯を食いしばって顔をそむける。
「ほら、こういう所♪」
『…。』
「リン、足が治り掛けてるよ?」
『!?』
「あははは
自覚なかったんだ。
さっき私を跳ねのけようとしてた時
足がかなりピクピク動いてた。」
…そうか。
押し倒していた側が言うのだから、案外そうなのかも知れないな。
「ねえ、覚えてる?
キャラバンの旅でリンが大怪我をした日のこと。
馬車が転がされた時、私とお母さんを咄嗟に抱き寄せてリンは私達を護ろうとしたのよ。
頭を抱えてくれたおかげで私達は無傷だった。」
…忘れたな。
「私を庇って大怪我をした旦那様が、私を跳ねのけたいが為にその怪我を克服するって面白いと思わない?
女にとっては悲劇だけど♪」
男社会なら上手く小噺にするだろうな。
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…利息発動まで残り20分。
この密室でエナドリとミスリルが溢れたら、多少は状況が動くだろうか?
あまり期待は出来ない。
その思考を読んだのかコレットが勝ち誇ったように笑う。
『…!?』
「じゃーん、秘密兵器の排水ホースです♪」
何とかエナドリで溺死させられないか考えていたのだが、向こうもそこは想定内だったらしい。
俺は溜息を吐く。
『魔界はどうなった?』
「うわっ、びっくりした。
でもさあ、やっと口を利いてくれたと思ったら
第一声がそれぇ?
妻として少し傷付いちゃうな。」
『安全を保障する約束だったよな?』
「安心して。
旦那様の肩書を減らすようなことはしないから。
あ、そうだ。
私もリンのこと、魔王様って呼んだ方がいい?
うふふふ♪」
何が面白いのかコレットは1人で笑い転げている。
…俺は微塵も笑えねーけど。
不意に船室のドアが開き、何人かの女軍人(?)がコレットに敬礼する。
コレットは鷹揚に答礼しながら「ゴメンね、変な仕事ばっかりさせちゃって♪」などと軽口を叩いている。
…俺にも謝れ!
「はーい、お客様。
お部屋の掃除入りますねー♪」
懐かしいな。
つい3ヶ月前まで、君はごく平凡な宿屋の娘で、そう言って客室の掃除をしてくれていた。
今は昔の物語である。
今では軍服を着馴れたコレットがホースを構える。
大抵の権力者の妻がそうであるように、この女も必死だ。
《9京0953兆ウェンの配当が支払われました。》
俺がアナウンスを聞き取るよりも早く、コレットが号令を掛ける。
「状況開始!」
オマエ、今の表情ヒルダそっくりだったぞ。
女軍人(?)達が無言で溢れ出るミスリル貨を収納し室外に出していく。
コレットはニコニコしながらホースで俺から溢れるエナドリを吸い取っている。
「ねえ、リン。
夫婦の共同作業って感じが素敵だと思わない?」
…オマエが一方的に吸い取ってるだけじゃねーか!!
アホらしいので女共に背中を向けてふて寝する。
余程、コイツらは仕事が出来るのか一切の遺漏なく、エナドリとミスリルを回収し終えてしまった。
その後、またもや一晩掛けてエナドリじゃない方もしっかりと吸い取られた。
…やっぱり魔王になるから、魔界に戻らせてくれないかな?
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
世界冒険者ギルド 永世名誉理事
【称号】
魔王
【ステータス】
《LV》 47
《HP》 (6/6)
《MP》 (6/6)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 5
《精神》 10
《幸運》 1
《経験》590兆3318億1934万1773ポイント
次のレベルまで残り263兆9774億1597万8602ポイント
【スキル】
「複利」
※日利47%
下12桁切上
【所持金】
41京5324兆8250億9294万ウェン
※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】
エナドリ 188605ℓ
※今回発生分の88644ℓは行方不明(海中に投棄されたものと推測)