【転移102日目】 所持金19京3515兆8250億9294万ウェン 「それだけの話だ。」
いつの間にか資産が10京ウェンを越えた。
もう訳がわからん。
複利は最強。
アインシュタイン博士、アンタの言葉に間違いはなかったよ。
どうせなら強さに伴う退屈さにも言及しておいてほしかったけどな
さて。
もう日付は回った筈だが。
ポール遅いな。
話が紛糾しているのか?
いや、すんなり纏まる方がおかしいのだが。
「ポールション様、帰って来てくれますかね?」
『くれますよ。
そういう男です。』
深夜1時30分。
ポール・ポールソン帰還。
「ただいま。」
『おかえりなさい。
…どうでした?』
「とりあえず港湾施設は破壊されていた。
勿論、守備兵も全滅。」
魔族達の悲鳴が上がる。
「あああ!!
何てことだぁ!!
我々が50年掛けて築き上げた魔界港がぁ!!」
?
50年?
あの糞ショボい寒村を作るのに半世紀?
(ちなみに東京タワーは1年半で建設)
ゴメン、逆に理解出来ない。
『お亡くなりになった皆様の御冥福をお祈りします。』
「で、橋頭保として簡易ながらもかなり大きな要塞陣地が建造されている。
上陸しているのは、連邦・首長国・自由都市の3か国合同部隊。
ちなみにこの3ヵ国が合同で軍事作戦を行うのは歴史上初なんだって。」
『相互理解の良いきっかけとなるといいですねー。』
「それに加えて冒険者ギルド保有の警備艇も多数接岸してた。
当然、南洋海運の輸送船(武装してないとは言っていない)も港の反対側を抑えてたしね。
俺が確認しただけでも2万以上の精鋭が上陸していた。」
…あー、魔界終わったな。
「で、改宗の話をした。」
『はい、それで!』
「ツベコベ言わずにまずはリン君を出せ! …と。」
『まあ、それが筋でしょうねえ。
皆さん、どんな感じでした?』
「怒り狂ってた。
完全にジェノサイドシフト。」
そりゃあ、怒るよなあ。
「俺も何発か殴られた。」
『え!? なんで!?』
「敵の肩を持ってるみたいに見えたんだろうね。」
『乱暴なことしますねえ。』
「ミュラー爺さん沸点低すぎ。
還暦過ぎて、何であの腕力なんだろうね。
エナドリ持って行かなきゃ殴り殺されたかも。」
ひでえジジーだ。
「で、ミュラーさんがエキサイトした事で
周りが少しだけ冷静になってくれた。
今、思うとそこまで計算してたのかもね。」
喰えないジジーだ。
『じゃあ、もう港に向かった方がいいですか?』
「合同軍が冷静なうちにね。
自由都市軍なんかは大型破壊兵器も持ち出して来てるしね。
人道上の理由から条約で使用禁止されてるんだけどさ。」
聞けば。
火魔法を応用した超広範囲ナパーム砲を自由都市は保有していたらしい。
国際条約で使用を禁止された為に死蔵していたのだが、《相手は魔族だからセーフ理論》に基づいて持って来たとのこと。
カタログスペックでは攻撃半径3キロ・1日50発まで発射可能とあるから、洒落にならない戦略兵器である。
この状況に観念したのか、魔族達は俺の送還に応じた。
まあ、結局は軍事力が解決するんだよな。
「あのぉ、魔王様…
ワシらの命乞いは…」
『頑張ります。』
「お願いしますぅ…」
『勿論、ベストは尽くしますが。
俺の指揮下という訳ではないので。
確約は出来かねます。』
「ワシらはどうすればいいんでしょう…」
『…祈りましょう、神に。』
神聖教の作法で魔族全員が祈りを捧げる。
何せ自分の命が懸かっているのだから必死である。
「リン君。
俺、宗教って嫌いだったんだけど。
精神安定剤としては最高かも。
薬代払わなくて済むし。」
『俺も、宗教は嫌いだったんですけど。
真面目に運営すれば行政コストは下がりますね。』
「まあ、こんなモン権力者の道具だからねぇ。」
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俺達が移動の準備をしていると早馬(厳密に言えば爬虫類だが)が到着する。
王国内を逃亡中のエドワード王から魔界への受入要請である。
「魔王様、どうしましょう?」
『どうすると言われても…』
「じゃあ領内に入ったら追放でいいですか?
関わり合いになるのは怖いですし…」
ん?
今、何て言った?
《追放》
そうか。
思い出した。
俺、追放されてここに居るんだな。
もし追放されてなかったら、級友と共に侵略者としてここに立っていたのかもな。
それを考えると、つくづく因縁が深い。
普通に考えれば
《俺を無理矢理放り出して、無一文で追放しやがって…》
である。
ただ、初日に借りたカネ、まだ返してないしな。
一応、亡命してきた大臣を厚く遇せとは指示してあるが、義理を返したうちにはならんだろう。
そう言えば幾ら借りたか?
1万ウェン? 10万ウェン?
よく覚えてないな。
もはや、今の俺は1兆ウェン以下の端数は把握出来ないのだ。
まあいい。
仮に10万の借りだとしよう。
10万ウェンを102日間借りた利息って幾らだ?
…計算してみるか。
日利は1%。
当然だよな?
追放時の日利はその程度なんだから。
計算方法は単利。
当然だよな?
オマエら複利を知ろうともしなかったんだから。
1日1000ウェンの利息を102日間支払い続けたとして…
10万2000ウェンか。
合計20万弱の返済。
良かったなあ、倍になったじゃないか。
「じゃあ、追放でいいですね?
これ以上、敵が増えたらやってられないですから。
まあ王国の王様なんて敵以外の何物でもないですし。」
『魔王命令。
受け入れて下さい。
一応、匿ってやって。
食料や治療も宜しくお願いします。』
「え?」
『貴方達には色々先払いしてますよね?
1つ位は俺の要望も聞いて下さいよ。
ポールさん、ミスリル以外で手持ち幾らくらいあります?』
「財布には20万くらいしか残ってないよ?
全部金貨。」
『20兆ウェンと交換しません?』
「財布に入らないよ。」
『じゃあ、ミスリル貨20枚。』
「なんか損した気分だなあ。
ほら、20万ウェン。
ちゃんと確かめてね。」
『ありがとうございます。
はい、2000億ウェン。』
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【所持金】
13京2547兆0250億9274万ウェン
↓
13京2546兆8250億9294万ウェン
※ポール・ポールソンとの両替費用として1999億9990万ウェンを支出。
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「…これっきりにしようね。
この2000億で最後に魔王城掃除しておくわ。」
『何から何まですみません。』
俺は20枚の金貨をエドワード王庇護の資金として渡しておく。
どうせこれから先、魔界が出どころのミスリル貨なんて人間は受け取ってくれないだろうしな。
金貨なら、密貿易人がパンくらいは売ってくれるかも知れない。
エナドリもエドワード王用に渡しておく。
「やっぱり魔王様は人間だから、人間の王様を贔屓するんですか?」
恨みがましい目で魔族達が見てくる。
『個人的な知り合いでね。』
「おお!
そうでしたか!
魔王様のご友人でしたか!
わかりました!
複雑な気分ですが、保護します!
…我々が生き残れたらの話ですけど。」
それな。
まあ、生死なんて運否天賦である。
願わくば、無駄死にする奴が少ないといいよね。
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太陽が昇った時。
魔王城は燦然と輝いていた。
『ぽ、ポールさん。
この短時間でどうやって…』
「スキルレベルも上がったからね。
まあ、これくらいの餞別はくれてあげてもいいだろ?
向こうも歓待はしようとしてくれたみたいだし。」
…俺、生きて地球に帰れたらアンタを主役にしたラノベを書くよ。
それにしても美しい威容だ。
魔王城の名に相応しい。
ギーガーの様な誇り高い君主にこそ、この城に住んで欲しかったのだがな。
『じゃあ、行きますか?』
魔族達がうなだれて俺から目を逸らす。
まあ、気持ちはわかるよ。
港に着いた瞬間殺されてもおかしくない状況だからな。
『一緒に行きたい人、いますか?』
何人かの勇敢な若い魔族が挙手したので連れて行く。
それ以外の老人は目を伏せたままだった。
別に責める気は無い。
俺も含めて誰だって命は惜しい。
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例によって数時間で港に到着。
恐ろしい大軍が殺気満々で布陣している。
よく見れば、全軍の先頭ド真ん中で仁王立ちしているのはグリーブさんだった。
今まで《頼りになるオジサン》くらいの印象しかなかった彼だが、いざ対峙してみると恐ろしい威厳だな。
鬼の形相でこちらを睨みつけている。
こ、この人、こんなに怖い人だったのか…
王国軍の最精鋭部隊を率いて前線で戦い続けたって話だしな。
ポールが2度俺達の間を往復して最終的な話を纏める。
魔族達は俺の背中に隠れて震えてる。
立場が逆なら俺も必ずそうするので軽蔑はしない。
寧ろ、役職者でも無いのにこの場所に自主的にやってきた胆力に敬意を抱く。
「いよう、コリンズ君。
魔王閣下って呼んだ方がいい?」
『勘弁して下さいよ。』
放胆にもミュラーが単騎でやって来て、俺を一瞥する。
『彼らの命乞いって受け付けて貰えるんですか?』
「ワシは受け付けたくないけど。
どうせ君がお願いして来るんだろう?」
『ええ、まあ、一応。』
「今のコリンズ君の表情を見て、大体の雰囲気は察したわ。
で?
どうするの?」
『どうするとは?』
「魔王になるの?」
『いや、俺の独断で決めていいことじゃないでしょう。
請けるにせよ断るにせよ、各国各省庁と綿密な調整を行わなくちゃ。』
「君、若い癖に役人みたいな奴だな。」
『すみません。』
「いいよ。
この資本の時代じゃあ、君みたいな性格の人間が仕切ってくれた方が丸く収まるんじゃろう。」
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その後、首長国の従軍司祭(厳密には司祭の息子なだけの軍人さん)と宗教的な相談を行う。
当然、魔族の改宗なんて教団の運営コンセプト的に想定すらしていなかったそうなのだが…
「偉い人はみんな死んだから、コリンズ社長が決めてOKなんじゃないですか?
位階的には社長がトップでしょう?」
『魔王になったから位階は無効ってことで。』
「でも寄付金ランキング的に永世1位だと思いますよ?
社長が布告したら、大抵はそのまま通るのでは?」
『じゃあ、俺の代わりに寄付金ランキング制度を廃止しておいて。
カネで人間の貴賤が区別されるなんて間違っている。』
《6京0971兆ウェンの配当が支払われました。》
その後、皆の前で魔族達に神聖教の経典を読ませてみたり礼拝をさせてみたりする。
こんな茶番で事態が収まる訳がないのだが、公文書上の体裁がかろうじて整うようになった。
俺は皆に足労を詫び、今回の出兵費用を負担する事を約束した。
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【所持金】
13京2546兆8250億9294万ウェン
↓
19京3517兆8250億9294万ウェン
↓
19京3515兆8250億9294万ウェン
※6京0971兆ウェンの配当受取
※リン・コリンズ救出費用として2兆ウェンを支払
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向こうを見ると、ポールソンハーレムのメンバーが泣きながらポールを囲み抱き着いている。
確かにポールはハーレムの解散を宣言した。
だが、女達に彼から離れる意図はなかった。
それだけの話だ。
あの男は、本物のハーレムを築いたのである。
そして俺である。
眼前にはヒルダとコレット。
ヘンテコなコスプレみたいな軍服を着用している。
どうやら彼女達も私兵を率いて参戦していたらしい。
背後にはおなじみの娼婦師団、軍服に付着した血痕が生々しい。
「「御無事で何よりです。」」
母娘が笑顔を作って跪く。
『…どうもです。』
俺は母娘から逃げ出したが、彼女達に俺を手放す意図はなかった。
それだけの話だ。
この女は、本物の王朝を築くつもりなのである。
【名前】
リン・コリンズ
【職業】
(株)エナドリ 創業オーナー
駐自由都市同盟 連邦大使
連邦政府財政顧問
世界冒険者ギルド 永世名誉理事
【称号】
魔王
【ステータス】
《LV》 46
《HP》 (6/6)
《MP》 (6/6)
《腕力》 3
《速度》 3
《器用》 3
《魔力》 2
《知性》 5
《精神》 10
《幸運》 1
《経験》404兆3368億6256万2858ポイント
次のレベルまで残り23兆8626億2777万9597ポイント
【スキル】
「複利」
※日利46%
下12桁切上
【所持金】
19京3515兆8250億9294万ウェン
※バベル銀行の8兆8167億8740万ウェン預入証書保有
※国際産業道路98号線交通債100億ウェン分を保有
※第11次魔族領戦時国債200億ウェン分を保有
※第4次帝国インフラ債550億ウェン分を保有
※帝国総合プランテーション債230億ウェン分を保有
※自由都市海洋開拓債1000億ウェン分を保有
※第2次自由都市未来テック債1000億ウェン分を保有
※首長国臨時戦時国債1100億ウェン分を保有
※自由都市国庫短期証券4000億ウェン分を保有。
【試供品在庫】
エナドリ 188605ℓ
※今回発生分の86758ℓは周辺に撒き捨て