【転移10日目】 所持金68万9000ウェン 「炸裂少年でーす♪」
見慣れない天井だったので、慌てて飛び起きて警戒態勢を取る。
両脇に侍る母娘を視認して、ようやく頭が状況を思い出した。
『起こしてしまって申し訳無い。』
「いえいえ、私達も早く馴染んで頂けるよう励みますね。」
これ以上、励まれても困る。
母娘は切れるカードを全部切って来た。
後は俺が報いていくだけだ。
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俺が最初に尋ねたのが、宿屋の経営状況。
ざっくりとした収支感が知りたかった。
部屋数は1階4部屋・2階8部屋の計12部屋。
月の平均売り上げは十数万ウェン。
但し、外国から商団が来訪する時期は40万ウェン程に跳ね上がる。
毎月の経費は2~3万ウェン。
営業税は5000ウェン徴収されているが、俺がこの家に婿入りしたと看做されると通常の1万ウェンを毎月支払う必要が出て来る。
食材は国からの業者向け配給があるので、恐ろしく安価に入手出来る。
これは一種の宿屋利権であり、儲からなくても廃業しない者が多い理由である。
だからこそ、宿の過剰供給が起り、差別化の為に各宿屋が娼館化していった、とのこと。
家賃も食費も節約出来るため、生存には好ましい業種だ。
しかも、この王都の城壁内は騎士が常に巡回しているので治安も悪くなく、女2人でも比較的身に危険が及びにくい。
何より、宿屋業界が貴族利権になっている為かヤクザが絡んで来ない、というのが大きい。
貴族は王都の行政には無関心だが、自分達の利権・面子が少しでも脅かされたと感じたら猛獣の様に怒り狂って採算度外視で過剰防衛に走る。
過去、何度かミカジメ料を宿屋業界から徴収しようとしたヤクザが居たらしいのだが、その悉くが惨たらしい手法で族滅された。
恐ろしい話だが、宿泊業者にとっては頼もしい限りである。
税金さえ納めていれば貴族を自称する野蛮な地方軍閥が命懸けで守ってくれるのだから。
『なるほど…
悪くない。』
ヒルダとコレットが母娘揃ってニッコリ笑う。
そう、余所者の俺には非常に都合が良い。
建国以来慣習的に認められている貴族利権の一部である宿泊産業。
そしてその貴族は普段は各々の所領で暮らしているし、税金さえ払っていれば業務内容には関心すら持たない。
職業柄、内外の情報も入り易い。
いや下手をすると外国事情を一番入手し易い環境とも言える。
『この世界で、一番住みやすいとされている国はどこか解かる?』
「いつもお母さんと自由都市に行けたらいいな、って話してる。」
『移動に幾ら位かかる?』
「凄く高いよ。
商団の馬車の乗車料金がかなり平和な時期でも300万ウェンするし。
向こう着いたら物価は高いし。」
なるほど。
カネで解決するなら、寧ろ俺に有利だ。
『なあ。
同じ生活水準なら王都と自ゆ「「自由都市♪」」
だろうな。
まあ、この2人を連れて行くか否かは、まだ判断しないとして
まだまだ元金が必要だ。
向こうの事情も知っておきたい。
例えば今手元にある70万ウェン。
向こうのレートでは話にならない金額に過ぎない可能性が髙い。
『今日も農業地帯に行って来るよ。
大丈夫、そんなに無理をするつもりはない。』
そう、5000ウェンの炸裂弾を10発持って行くと決めてある。
計5万ウェンの出費は大きいが、今は利率を1%でも上げておきたい。
レベルアップまでの必要経験値は倍々に増えていく。
近いうちにレベリングが不可能な域に達してしまうだろう。
(俺の身体能力的にレベル10越えは困難かも知れない。)
ヒルダが倉庫に案内してくれて、冒険者であった亡夫の装備を見せてくれる。
「使える物があれば装備していってくれ」
との事である。
ただ残念ながら、対人戦用のレイピアとか大剣とかを俺が装備しても仕方ないので、彼が従者に持たせていたサスマタと従者用のレガース・小手を借りた。
臨時雇いの農兵に貸与する為の武装なので、軽さと使い易さに特化しているようだった。
「こっちの鎧の方が丈夫そうではありませんか?」
とヒルダが指さした巨大なプレートメールはとてもじゃないが俺に装備できるとは思えない。
こんなものを着こんでしまったら、宿屋の敷地から出る事すら叶わないだろう。
「それってお百姓さんが畑仕事に使う道具じゃないの?」
コレットは俺がサスマタを選んだことが不満なのか、巨大な戦斧を勧めて来る。
オイオイオイ、こんな物騒な物を持ち歩いてたら、それこそ逮捕されてしまうわ。
『別に戦争に行くわけじゃない。
あくまで今後の商売の準備の一環だから。』
《商売》という単語を出した途端にコレットは納得した。
さぞかし母親の薫陶が篤いのだろう。
「お気を付けて下さいね。
娘も心配しておりますので。」
直訳すれば《ヤリ逃げするなよ?》という意味だ。
俺はそのままレベリングに向かった。
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いつもの武器屋で炸裂弾を10個購入。
「おお!
オマエ、コノヤロウ!
聞いたぞ、本当に炸裂弾で駆除したんだって?」
『この店の事、宣伝しておきますよ。』
「はははw
じゃあ、王宮放出のダガーが安いって皆に言っておいてくれ。
ほら、前期にモデルチェンジがあっただろ?」
『承知しました。
今日も炸裂弾で兎狩りを成功させてきます。』
「炸裂弾流行ってくれたら王様も喜ぶんだけどなあ。」
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【所持金】
70万ウェン
↓
65万ウェン
※ゴードン武器店にて炸裂弾5万ウェン分購入 (1個5000ウェンを10個)
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農業地区に向かう途中、何人かの農夫や冒険者に声を掛けられた。
「おお、炸裂少年じゃないか!
今日は何個持って来た?」
『炸裂少年でーす♪
10個仕入れて来ました。』
「はははww
ホーンラビット相手に炸裂弾10個www
気合入ってるじゃねーかww」
「傷の借りを返さにゃいかんもんなーw」
「おーい、兎の群れ見つけたら教えてくれ!
炸裂少年が来たぞーww」
途中、カインと言う名の冒険者風のお兄さん?オジサン?が「途中まで一緒に行こう」と声を掛けてくれたので2人で農道を歩いた。
「私も若い頃は勇者を目指していてね。
剣術道場に通ったり、盗賊団追討のアタックチームに志願したんだけれど。
魔王軍とは戦わせて貰えなかったねえ。」
『そうなんですか?』
「昔、魔王領の隣に領地を与えられた公爵が独立してしまってね。
彼らは公国を名乗っているんだけど…
兎に角、現在の我が国はそもそも魔王領と接点が無い。
だから魔王の倒しようがない。
代わりに、公国とは争いが絶えないから、休戦条約が結ばれてはすぐに破棄されるの連続で…
冒険者ギルドも年々剣呑になって、今は憲兵団の出張所みたいになってるからねえ。」
『はえ~。
色々あるんですね。』
俺達が《魔王を倒す為に呼ばれた》、というのは建前で、実際は《異能者を軍に組み込む事によって他国を牽制したい》というのが王国の本音らしい。
平原の受け売りだが、カインさんも似たような捉え方をしていた。
道中、大型の狼らしきモンスターが雑木林の奥から様子を窺っていたが、カインが一歩踏み出すなり恐れをなして逃げ出してしまった。
俺一人ではどうこう出来たとは思えないので、礼を述べる。
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等と言っている間に農業地区に到着。
アラン・カインの両名は面識があるらしく、「久しぶりー」「子供何歳になった?」などと雑談に興じている。
俺は挨拶回りをして、皆に炸裂弾の使用許可を取る。
前回の爆発が楽しかったのか、皆が弁当片手に集まって来る。
余程、娯楽が無いのだろう。
「炸裂少年ーーーwww
噂通り顔が男前になっとるじゃないかーww」
「今日は何発投げてくれるのーww」
「デカいの始末してくれたじゃなーいw」
『みなさーん。
例によって肉は寄付しますので
トドメを譲ってくださーい。
今日は欲張ってサスマタまで持ってきましたーw』
「それ泥棒捕まえるやつーーーww」
一同爆笑。
そんな雰囲気だったので、今回は皆が協力してくれた。
途中、握り飯や干し林檎を差し入れて貰う。
次のレベルまで残り40ポイント。
そこまで頑張らなくても日利を1%上げる事が可能とみた。
欲張らず1投1殺の精神で取り組もう。
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顔見知りの農夫が満面の笑みで手招きしてくれる。
声を押し殺してジェスチャーで「あっちを見ろ」と合図してくれる。
ホーンラビットの群れが小休止して草を食んでいる。
農夫曰く、兎が唯一足を止める場面、とのこと。
よし、1投目はあの群れだ。
ドバー―ンッ!!
土煙が上がり、背後の小高い丘で見物していた農夫たちから歓声が挙がる。
俺は先程勧められた、狩猟用竹槍でトドメを刺して回る。
4匹!
そして、ふらつきながら逃げた1匹を先程の農夫が踏みつけてくれている。
「ほら! トドメ!!」
『はい!!』
計5匹!
幸先が良い!
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※ホーンラビットを5匹討伐 5匹×5経験値で25経験値獲得
《経験》 135
次のレベルまで残り15ポイント。
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2投目に取り掛かろうとすると、ギャラリーが駆け寄って来て俺の肩をパシパシ叩いてくれる。
どうやら炸裂弾狩猟に娯楽としての要素を見出したらしい。
「俺達も今度炸裂弾で狩ってみないか!?」
「いいなあ!
俺も投げてみたいわ!」
「1回だけ女を買うの我慢するわww」
一同爆笑。
かなり盛り上がっていたので、サービスの意味も込めて
『炸裂弾投げてみたい方おられますか?
トドメさえ刺させて貰えるならですけど
よかったら2投目お譲りますよ。』
どよめきの後に3名が挙手したので、2から5投目を3人に譲ることにする。
「本当にいいの?
外したらゴメンね?
外したらゴメンね?」
あまりに不安そうな顔をされるので、こちらまで不安になるも
いざ投球フォームに入ると非常に落ち着いており、高速走行中の群れのど真ん中で爆発させた。
即死経験値は彼に入るようだが、6匹のトドメを刺せた。
「おい、あそこでふらついてるのもそうじゃないか!?」
見ると3匹くらいのホーンラビットが千鳥足で離脱しようとしていたので、サスマタを使って一匹ずつ確実に捕殺した。
計9匹。
9匹×5経験値で45経験値獲得。
この時点であっさりレベルアップした。
これ、炸裂弾を投げるのも皆に任せた方がいいんじゃないかな?
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【ステータス】
《LV》 5
《HP》 (3/3)
《MP》 (1/1)
《腕力》 1
《速度》 1
《器用》 1
《魔力》 1
《知性》 2
《精神》 1
《幸運》 1
《経験》 180
次のレベルまで残り130ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利5%
下2桁切上
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こっそりステータス画面を見て思わずほくそ笑む。
日利5%にスキルが育った上に、《下2桁切上》なる効果がしれっと付与されている。
今夜が楽しみだww
第3投目。
今度は背の低い老農夫。
集落のムードメーカー的な存在らしい。
「け、結構緊張するね。
は、外しちゃったらゴメンね!」
日頃、冗談ばかり言って皆を笑わせているらしいが、今はとても緊張している。
「外したら5000ウェン弁償しなきゃですよww」
と若者グループが茶化してプレッシャーを掛けたからだ。
案の定、軌道に力が無く群れの中心から外れた場所で爆発。
1匹しか昏倒させられなかった上に、それ以外の個体は一瞬で逃げ去ってしまった。
まさしく脱兎の如く、である
老農夫はショックのあまり涙と鼻水を垂らして謝って来る。
「トイチ君、ゴメン!
ゴメンねー!!!
本当にゴメンーーー!!!」
『いえいえ!
気にしない下さい!
これって結構難しいんですよ。
俺もゼロ匹なんてザラです。』
何で年上のオッサンをフォローしなきゃいけないのか解らんが、場の雰囲気を悪くしたら次から志願してくれなくなるかも知れないからな。
とりあえず、1匹を確実に始末する。
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※ホーンラビットを1匹討伐 1匹×5経験値で5経験値獲得
《経験》 185
次のレベルまで残り125ポイント。
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「トイチ君!
儂、ちょっと他に大きな群れが居ないか探して来るよ!」
老農夫は必死な表情で林の方に駆けていってしまう。
気持ちは解るが、そういう過大な反応をされると…
思った通り、4投目を志願していた農夫は臆してしまって
「肩の調子も良くないし、今日はやめておくよ。」
と引き下がってしまった。
仕方ない。
4投目は自分で投げるか。
群れを探してウロウロしていたら、弱ったホーンラビットを踏みつけている少年が居て。
「トドメ譲ります!
兄さん、どうぞ!」
と1匹譲って貰う。
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※ホーンラビットを1匹討伐 1匹×5経験値で5経験値獲得
《経験》 190
次のレベルまで残り120ポイント。
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『この分の討伐チップは当然君が受け取ってくれるよね?』
「はははw
そんなに気を遣わなくてもw
じゃあ、遠慮なく。」
『ゴメン、経験値乞食みたいなことして。』
「いやいや、貴族連中は普通にやってますよ?
子供の頃から家来を使ってレベリングしてから、騎士試験を受けてるんです。
それでも落ちる奴とか居て笑えますけどww」
『へえ、そんな事もあるんだねえ。』
「ボクは身体も小さいし貧乏だから
レベリング諦めてたんですけど
炸裂兄さんの噂を聞いて!
ボクも炸裂猟をやろうと決意しました!」
そんな遣り取りがあったので、親御さんの許可を得て少年(ボブ君9歳)に4投目を託す。
「ぼ、ボク初めてですよ?
いいんですか?」
『誰だって最初は未経験だし。
ボブ君にだって練習は必要だろ?
運試しだと思って投げてみてよ。』
第4投目。
幼いとは言えボブ君は田舎の健康優良児だ。
普段石投げで害鳥を追い払ったりもしている。
チュド―――――――ン!
上手いっ!
死角から投げ下ろして当てた!
2匹が即死。
1匹が昏倒していたので急ぎトドメを刺す。
「兄さん! 足元! 切り株の裏です!」
『おお! こんな所にも!!』
追加で1匹殺害。
「兄さん! こっちもです!
ふらついているのが2匹川辺に!」
『じゃあ1匹ずつ仕留めよう。』
ボブ君に1匹譲って、川辺でフラフラしている1匹を殺害
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※ホーンラビットを5匹討伐 5匹×5経験値で25経験値獲得
《経験》 215
次のレベルまで残り95ポイント。
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いいペースだな。
俺、何もかも自分でやる事に拘ってたけど。
レベリングに関しては絶対に周囲に頼った方がいいと思う。
『ボブ君。
そっちの討伐チップも君のだからね。』
「あ、いえ。
ボクはふらついてるのを譲って貰っただけなので。」
『君のお父さんにも話は通してあるから。
それでカネを貯めて、いつか自分の炸裂弾を買ってみようよ。』
「はい!!」
そんな遣り取りがあって、一旦人垣に戻る。
「トイチ君。
爆発が続いたから兎共が怯えて姿を隠してしまったよ。
俺達も探してるんだけど。」
『あ、いえ。
居ないなら御の字ですよ。
農作物被害が減ってくれたら俺も嬉しいです。』
「君は真面目だなあw
俺達なんか爆発見物にすっかり夢中だよww」
それから皆で群れを探してくれるが、中々見つからない。
休憩も兼ねて皆で座り込んでモンスター談義に盛り上がっていると、玉ねぎ農家の奥さんが兎の固まってる場所を教えてくれる。
「ほら! 炸裂クン!
あそこだよ!
道の反対側に逃げて固まってる!」
『あ、本当ですねぇ
言われなきゃわかりませんでした。』
第5投目。
敢えて茂みに向かって投げる。
視界が塞がれてるので、近づくのが怖い。
チュドムっ!
やや音が鈍い。
流石に遮蔽物のある場所に投げるのは悪手か?
ただ、即死経験値が4匹分入ったので、この時点で元は取れている。
数秒してから、2匹だけフラフラと道のこちら側に出て来たので、周囲を確認してから捕殺。
茂みを確認するのが怖いので、皆で石を投げ込んで様子を見る。
「ゴメンw 俺に経験値入っちゃったww」
「あっ! 俺も!」
石を避ける体力もないのか茂みの奥で兎がどんどん死んでいく。
1匹だけ勇敢な兎がこちらに突撃してきたが、足取りに勢いがなく、農夫にあっさり踏みつけられた。
「トイチ君! 今だ!」
『はい!』
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※ホーンラビットを7匹討伐 7匹×5経験値で35経験値獲得
《経験》 250
次のレベルまで残り60ポイント。
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殺生が順調な上に負傷者もゼロなのでテンションが上がって、皆で爆笑しながらホーンラビットの群れを探し始める。
場の雰囲気が明るくなった所為か、「やっぱり俺も投げてみたい」というお兄さんが出て来たので6投目を譲ることにした。
村はずれの休耕田。
持ち主もノリノリで「炸裂ゥ!!」とか煽るので投げて貰う。
第6投目。
休耕田をウロチョロしている群れ。
ズド―――――ン!!
凹んだ場所に弾がハマったらしく真上にしか爆風が上がらなかった。
責任を感じたのかお兄さんが凄まじい勢いで兎を捕えて回り、両手に2匹足元に1匹捕獲してしまう。
(後から聞いた話、村で一番喧嘩が強い人らしい。 動きが全然違っていた。)
「トイチ君、ごめんな!
この3匹だけでも仕留めてくれ!」
『いえ! 助かりますよ!』
本当に助かる。
俺一人ではこんなにスムーズに捕殺出来ないのだから。
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※ホーンラビットを3匹討伐 3匹×5経験値で15経験値獲得
《経験》 265
次のレベルまで残り45ポイント。
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そのお兄さんと一緒に7投目の対象を探してると、皆が俺を呼んでくれる。
何かと聞けば山の際に巣穴を見つけたらしい。
アランさんも呼ばれてカインさんと共に駆け付けてくる。
「アラン!
火魔法の前に…」
「ああ、分かってる!
トイチ君! 巣穴を見るのは初めてかい?
投げ込んで御覧!」
巣穴、と言っても俺の眼には草が凹んでいるようにしか映らなかった。
言われてみれば、周囲に草を踏んだような形跡があるような気もする。
「わからないのは仕方ないよ。
俺達地元の百姓でも中々見つけられないんだから。」
「兎は狡猾な生き物だからね。
巣も巧妙に隠されているんだ。」
「真正面に立っちゃ駄目だよ!
角ごと突っ込んでくるから!
グリズリーが殺される事もあるんだぜ!」
第7投目。
山際の巣穴。
ボフッ!
最初、不発かと思った。
が、すぐに即死経験値が3匹分入る。
俺が驚いていると更に2匹が死亡。
『え? アランさん?』
と振り返る間に2匹が追加で死んでくれた。
「結構即死経験値入ったんじゃない?」
『はい。
即死が3匹。
その後4匹… いえ、更に1匹死亡確認!』
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※ホーンラビットを8匹討伐 8匹×5経験値で40経験値獲得
《経験》 305
次のレベルまで残り5ポイント。
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「それくらい密集しているんだよ。
ちなみに中には、子供も入れて100匹以上入ってるよ。」
『え!?
そんなに!?』
「その100匹が一斉に畑を荒らすんだ。
やってられないよな。
あ、みんなちょっとゴメン。
火魔法使うから。
トイチ君ももう少し下がって!
はい、火魔法撃ちます!」
ブボワッ!!!!!!
一瞬で火柱が立ち、地面が少し赤くなる。
あ、これ穴の奥まで火が通ったパターンだ。
「OK!
117匹の死滅を確認!
念の為、この穴をふさぐぞ!」
アランの指揮で埋め立て用の土が穴の横に盛られる。
地中の熱が引いたら、皆で土を押し込むらしい。
しばらくして、落ち着いたのかアランが俺の隣に座る。
「どうだった?
巣穴レベリングは?」
『本来、殺生を楽しむのは良くないんでしょうけど…
最高ですね!!』
「それなw
カインの奴がトイチ君に譲ってやってくれってしつこくてさw
あの巣穴を見つけたのもアイツだよw」
『あ、そうなんですね!?』
俺は兎の解体を手伝っているカインの元に駆け寄り礼を述べる。
「いやいや!
たまには私も世間様の役に立ちたいからね。
帰りまでにもう一つ巣穴を見つけられたら嬉しいね。」
そんな話をしていると、3投目の老農夫が満面の笑みで駆けて来た。
巣穴を見つけたらしい。
…それはありがたいのだが、腕から血を流している。
どうやらさっきのリカバリーの為に無茶をしたらしい。
「こんなのかすり傷だよ!」
と本人は強がるが、明らかに出血量が多い。
皆で力ずくで寝かせて即時に治療にあたる。
老農夫の奥様が貴重品のポーションを持ってきて、泣きながら周囲に謝った。
「いつもウチの人が迷惑を掛けてしまって
本当に申し訳御座いません!」
この老農夫は日頃からこういうポジションらしい。
第8投目。
老農夫が見つけた巣穴。
(血痕を辿って見つけた。)
ボフンッ!
即死10匹。
アランが魔法を発動するまでに追加で8匹が死んだ。
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※ホーンラビットを18匹討伐 18匹×5経験値で90経験値獲得
《経験》 395
次のレベルまで残り235ポイント。
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凄いな。
まさか、1日で2レベル上がるとは…
老農夫様様である。
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【ステータス】
《LV》 6
《HP》 (3/3)
《MP》 (1/1)
《腕力》 1
《速度》 1
《器用》 2
《魔力》 1
《知性》 2
《精神》 1
《幸運》 1
《経験》 395
次のレベルまで残り235ポイント。
【スキル】
「複利」
※日利6%
下2桁切上
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あ、ステータスの器用が1だけ上がったww
あんまり実感ないけどw
アランの火魔法処理をカインさんと眺めながら雑談。
「見事だね。
君のおかげでかなり駆除が進んだ。」
『いえ!
皆が手伝ってくれたからですよ!』
「それは違うかな。
何かアクションを成功させるにはね?
手傷を負ったり自腹を切ったりしながら率先する者が必要なのさ。
今回はそれが君だった。
特に炸裂弾を皆に投げさせたのは素晴らしかった。
おかげで農業地区の住民に《炸裂弾駆除は現実的》という意識が根付いた。
きっと駆除は進むだろう。」
『過大評価は嬉しいですが、俺のは単なる私利私欲です。』
「誰だってそうさ。
だからこそ、君の様に私欲と公益を整合させようとする者は貴重なんだ。
ボブの父親が君を絶賛していたぞ。
《あの若さで長者の器がある》ってさ。」
『評価に値する人間になれるように精進します。』
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話していると、《狼が降りて来た》との報告があって地区に緊張感が走る。
どうやらホーンラビットの血を嗅ぎ付けたらしい。
女子供が素早く屋内に戻された所を見ると、相当恐れられている存在らしい。
ただ、俺が遠目に2匹見つけた数秒後にアランとカインさんが駆け寄ってこれを斬殺した。
あまりの早業に感嘆の声が漏れる。
「あの2人は相当強いよ?
若い頃は大きな盗賊団の逮捕クエストで大活躍した事もあるくらいだからね。」
うん、それは解かる。
2人からはラノベとかで散々読んだ強者のオーラが出ている。
俺の位置からは見えなかったのだが、後続に数匹居たらしくそれらも斬っていく。
遠目にも血が飛び散る形跡が確認出来る。
見惚れていると、カインさんが走って戻ってくる。
「スマン!
トイチ君、ここで狼の巣を潰しておきたい!
炸裂弾を売ってくれないか!」
『あ、いえ!
是非お役に立てて下さい!
どうぞ!』
「礼は後でする!
皆にフォーメーション取る様に指示しておいてくれ!」
手短に叫ぶとカインさんは身を翻して丘を駆け上って行く。
…速い。
俺なんかとは基礎スペックが違いすぎる。
フォーメーションと言うのは、皆横一線になり狼の逃亡経路を塞ぐ陣形を取る事らしい。
俺が役に立つとは思えなかったが、サスマタを構えて横隊に加わる。
1匹だけ、パニックになった狼が駆け降りて来たので、皆で囲んで滅多打ちにして殺す。
皆で気勢を上げていると、爆発音が1発… 2発…
そして鳥の群れが飛び立つ。
追加で大きな狼が2匹降りてくる。
1匹だけ俺の近くに来たので、パニックになってサスマタを突き出すが、あっさり噛み掴まれてしまい軽々と振り回される。
!?
何だ?
このパワーは!?
あ、アカン膂力が違い過ぎる!!
『うわああああ!!!』
俺は狼の首の一振りで数メートル転がされる。
恐怖ッ!
殺される!!
と思って身体をすくめさせていると、両隣の農夫が鍬と大棍棒で撲殺してくれた。
『ハアハア! ハアハア!』
「トイチ! 安心しろ!」
「もう仕留めたぞ! 落ち着け!」
「深呼吸しろ!」
周囲が声を掛けてくれて何とか精神が収まる。
『す、すみません。
全く抵抗出来ませんでした。』
「いや、よく止めた!
普通はあんなもんだ。
寧ろ誇っていいからな!」
誇って良いと言われても…
恐怖で心が折れてしまった。
ああ… 調子乗ってたな。
人手と火薬の力で兎を殺して、自分が戦士か何かになったような錯覚に陥っていた。
あんなに軽々と転倒させられるなんて…
1人で行動してる時なら確実に殺されてた…
アランとカインさんは狼の巣穴に炸裂弾と火魔法を撃ち込むことに成功したらしく、大量の狼の死骸を運んで並べ始めた。
(死骸の様子を分析して今期の狼の栄養状態等を農協に報告しなければならないらしい。)
俺も一応男子だし、あっち側に立ちたかったんだよなあ。
少し日が落ちて来たので、王都帰還組はカインさんが護衛してくれた。
ああ、時間的にニコニコ金融は無理だな。
討伐チップは皆で分配したので、10枚だけ貰っておいた。
遠慮されたが、俺1人の力では絶対に大怪我をしていただろう。
まあ、皆で儲ければいいさ。
《3万9000ウェンの配当が支払われました。》
==========================
【所持金】
65万ウェン
↓
68万9000ウェン
※3万9000ウェンの配当受取
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前日比でマイナスになったのは初めてだが…
日利を2%も引き上げられたからな。
金銭的な達成感は凄い。
だが、最後の狼で完全に心を折られた。
レベリングを続ける自信が無い。
いや、フィールドが怖い。
聞けばこれから狼が増えるらしい。
城壁の外に住んでいる人々の勇気に驚嘆する。
俺はカインさんや共に帰って来たメンバーに今日の礼を述べて胡桃亭に帰った。
サスマタの先(鉄製)が歪んでいたので、コレットが泣きそうな顔をする。
「兎退治って言ってたでしょ!」
『俺もそのつもりだったんだけど。
途中で狼が出て来てさ。』
「あぶないことはしないで。」
『しばらくおとなしくしてるよ。』
壊したままでは申し訳ないので、明日武器屋にサスマタを治して貰おう。
簡単な鍛冶なら引き受けてくれるらしいからな。
「でも、狼退治をするなんて勇敢ですのね。」
『軽く転がされただけだよww』
水浴びをした後、居間のソファーでまどろんでいるうちに睡魔に襲われた。
やっぱり殺生は心身ともに疲労度高いよな。
【名前】
遠市厘
【職業】
宿屋のヒモ
【ステータス】
《LV》 6
《HP》 (3/3)
《MP》 (1/1)
《腕力》 1
《速度》 1
《器用》 2
《魔力》 1
《知性》 2
《精神》 1
《幸運》 1
《経験》 419
本日利息 24
次のレベルまで残り211ポイント。
※レベル7到達まで合計630ポイント必要
【スキル】
「複利」
※日利6%
下2桁切上