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1-9:儂と見知らぬ場所 恥ずかしい名前


 ルカは来客を出迎るため家の入口へと向かった・・・向かったのじゃが・・・ 


「私だけじゃなく村の恩人でもある方を捕まえて、いきなりの無礼な態度。

 あなた、一体どういうつもりなんですか?

 分かってます?あなたは私達に喧嘩を売ってるんですよ?どんなつもりで、あんな事を言ったのか説明してもらえますか?何故、私達の恩人をいきなり悪者扱いしているのか教えて貰えますか?」


 ルカがキレておった。声を荒げたりしておるわけでもないし、奥方のように暴力に訴えるわけでもないが、それでも怒っておった。


「・・・どうしたらええか分からん」


 儂としては魔王でも鬼でも他の不吉っぽい感じのサムシングでも、どう呼ばれても気にはならんのじゃが・・・この辺りは何処に地雷があるのかは文化的な差異じゃからして下手に口を挟むのも怖い。


 なので、とりあえず先に飯を頂く事にする。


 今日の昼は山の幸を使った豚汁のような何かと余った米を使った焼きおにぎり。

 おにぎりの方は向こうにおった時とそう変わらんぐらいの出来栄えなのじゃが、汁物がイマイチじゃ。出汁は足らんし、味噌の旨味も足らん。ついでに言えば妙に塩辛いし。


「だから、あなたは!!」


 言い争いがヒートアップしておった。ついにはルカも大きい声を出し始めておる。


 でものぅ、儂が出て行っても更に荒れるだけじゃしなぁ。


「帰って下さい!!!」


 ドカンと大きな音を立てて引き戸が乱暴に閉められた。

 あの爺さん追い返して良い感じの者じゃったんか?役所の者とかや無いんか?


 ルカはドスドスと足音を立てながら囲炉裏の傍へと戻って来て腰を降ろした。


「ホント腹立ちますねぇ。訳の分からない昔の話を持ち出して頑張ってくれたアリスちゃんを悪く言うなんて。

 どうせ都会の人は『魔物が出始めた』って言ったところで、田舎のためには真剣に動いてくれたりしないくせに」


 なるほど。あの爺さんは都会人じゃったんか。


「状況はよく分からんのじゃが、ほれ、飯を食え、飯を。腹が減ってると人間はイライラするものじゃからな」


 温かな汁物じゃぞー。


 ありがとうございます、そう応えイラツキの残滓で顔を少しヒク付かせながらもルカは食事を始めた。


 にしても、さっきの爺さんは儂の見た目に過剰に反応しておったの。特にこの金髪か。やっぱ目立ち過ぎか。とは言え髪色を変えるのは骨が折れるし・・・なら、せめて・・・


 形はルカの家着のコピペで、素材は綿とか麻の組み合わせかの?色味もちょっとくたびれた感じに調整して


「こんなもんか」


 白いワンピーズを村娘風のファッションに組み替えてみた。

 どうじゃろな?これで悪目立ちも少しはマシになるじゃろ?


 そんな風に少し満足している儂の事をルカが茫然とした顔で見つめていた。


「え?魔術で服を作った?」


「作ったというか作り替えただけじゃの。元々のワンピースも、この身体自体も魔力で編まれたモノじゃから」


 ほれ、見てみい、と言いながら両の手を黒い鉤爪に変化させたり戻したり。


「さっぱり分からないけどアリスちゃんは凄いですね。・・・ねぇ、お弟子さんって優秀な人だったんですか?」


 弟子・・・どうじゃったかな?


「存在は思い出したんじゃが、詳細まではのぅ。随分と機能不全を起こしとるようで弟子がおった事は思い出したんじゃが、エピソードがまだまだ不足しとる感じでの。

 でも、アヤツは儂が何かを教えるまでもなく最初から優秀じゃったような感触はあるの。そういう意味では魔術の初歩から教える事になった弟子はルカが初めてじゃ」


 まぁ、人外である儂が人であるルカに教えてやれる事は、そう多くないやも知れんが。今だって大して教えの効果は出とらんようじゃし。


「ねぇ、アリスちゃん。アリスちゃんは村の外に行っちゃうんですよね?」


「そりゃのぅ、いつまでもお客様扱いしてもらうわけにもいかんし、昆布も探しに行きたいし」


「その時になったら私も連れて行って下さいよ。村は今回のお金で新しく事業を始めるそうですし、そうなったら人も増えて、私がここで出来る事だって無くなっちゃうだろうし。

 それに私も魔術を使えるようになりたいから」


 そんな事を言うルカの瞳は儂が思っていたより、ずっとずっと深刻な色をたたえていた。


 ・・・なるほどの。ルカは独り暮らしで家族もおらんようじゃったし、はっきり言って特筆すべき能力も無い。それじゃったら


「そじゃの。儂も教えを中途半端にして放り出すのは気持ち悪いからの。

 とは言え、儂は『ここ』の事を何も知らんから面倒は見てやれん。むしろ、ルカに儂の世話を頼むぞ。それでも良いかの?」


 ガッテンです!そう力強く言いながらルカは胸を張った。


「でも村を出るのは良いとして、目的って何かありますか?その・・・昆布と異界以外で」


 昆布は王都近くにあるそうじゃし、異界は何処にあるか分からん。他の目的は強いて言えば


「ここの住人が魔術を使っとる仕組みが知りたいの。ルカの刻印を分析した限りじゃと通信しとるだけみたいじゃし。可能であれば開発運運用しとる奴等と話をしてみたいところなんじゃが」


「開発者なら分かりますよ」


 へ?!マジか?!


「ちょうどタイミングよく話に出たばかりです。

 昔々に魔王と相打ちになったって言われてている我が国の英雄『サヤカ様』です。

 そして、この国の名前は聖サヤカ王国。何百年も前の英雄が起こした国で、英雄が遺した仕組みを土台にしている魔術国家なんです」


「つまり・・・」


「残念ですけど開発者の話は聞けませんね。もう死んじゃってますし。運用は王都の人達が引き継いでいるのだとは思いますけど」


 そっかー。不自然に高度な魔術の仕組みから、この世界の事を辿れるかと思ったんじゃが、結局は米やら日本文化と同じように元の世界から持ち込まれただけなんか。


 あぁ、微妙じゃあ。


 つまり、この路線で掘り進めたところで、分かるのは『ルカが魔術を使えん理由』ぐらいのもんか。意味不明なこの世界の事は引き続き意味分からんままと。


「にしても、聖サヤカ王国か。・・・サヤカ様とやらも、あの世で恥ずかしさに悶えとるじゃろな」


「へ?なんでですか?」


「日本人のセンスじゃと多分耐えられるラインを超しとるからの」


 はぁ、そんなものですか、そう呟きルカは大人しく食事に戻った。


 前世でどんな事をしたら、そんな変な形で名前が残ってしまうような状況になるのじゃろうな。

 大方『魔の王』がいたから『聖なる王』みたいなノリなんじゃろが。


 不憫よな、本当に。



今日も読んでくれてありがとう!あと一話で導入編が終わって旅立ちますよ!(昆布を求めて

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