1-8:儂と見知らぬ場所 せめて昆布があればのぅ
「あー、味に深みが出んのぅ。旨味の種類が足らなさ過ぎるんじゃぁ・・・」
囲炉裏で昼飯用の汁物を煮込みつつも、素材の無さを嘆く儂。
「十分に美味しいと思うんですけど?」
ルカはいつものように褒めてくれる。じゃが儂はそれでも納得出来ないんじゃ。
「美味い事は美味いぞ。でもの、世の中にはもっと旨いもんが色々とあるんじゃ。いや、あるはずなんじゃ。
現に交易者にもらった魚の干物を出汁代わりに使うだけでも全然違ったじゃろ?」
「美味しかったですよねぇ。まさか焼いて食べる以外の使い道があるとは思いもしませんでした」
「そうなんじゃ。要は素材の活かし方なんじゃよ。旨味は種類と量の両方を揃える事が大事じゃからの。
ここは米は妙に旨いんじゃが、それ以外の食材がのぅ。肉と茸と野菜だけでは、今以上のものは・・・」
ホント米だけは異様に旨いんだけどの。恐らくは土壌改良に使用しておる『賢者の石』と呼ばれとる万能肥料?のおかげじゃとは思うが。
そんな事を考えながらも儂の手は目の前にある鍋の中身を混ぜるのを止めない。囲炉裏は風情があって良いんじゃが、ぶっちゃけ魔道コンロ?と比べると火が揺れるから料理の手間はかかるんよ。
ちなみに、いま儂とルカは村に用意してあった客人用か何かの小奇麗な建物に住まわせてもらっておる。
大きな板の間に囲炉裏に土間に藁ぶき屋根のフルセットじゃ。日本におった時にすら見た事も無かった純日本家屋を、なんでかナホンで経験しておるとかいう不思議で素敵滅法な事態が発生中。
まぁ、ルカの家は家と表現するより小屋と表現する方が適切な感じじゃったから、随分と良い住まいを提供してもらっておるなって感想じゃな。
なんでこんな事になっておるかと言えば、前に村に現れた異界、よく分からんままに異界の主ごと壊してしまったんじゃが、その残骸から大量の資源、具体的には魔力を帯びた鉱物が採れたって事で儂たちは大出世してしまったって事なんじゃ。
実際のところは出世というか、異界の調査をする役人が来るまで拘留されておるだけなんじゃが、待遇も良いし、仕事もせんでよいし、一日中料理したりルカの魔術を見てやるだけだったりで、実に良い休暇って感じじゃの。
にしても・・・
「せめて昆布があればのぅ」
料理が捗らん。
肉や魚と合わせればレベルが段違いに上がるんじゃが。
「コンブですか?・・・聞いた事はありますね。あれですよね、確か黒くてピラピラした干して食べるとかいう」
「おぉ、あるんじゃな、こっちにも。たぶん、それの事じゃ。交易者から聞いたのかえ?」
「いえ、ギルドに資格を取りに行った時の話ですね。王都の方で魔物狩りをしてた人が語ってました。売れば良い値になるけど、そのまま食べても全然美味しくないって」
「昆布はそのまま食うもんじゃないからの。
それはそれとしてなんじゃが、昆布が手に入るって事は、王都ってのは海の近くにあるのかえ?珍しいの」
「いえ?海からは随分と遠いですよ?」
「でも昆布が採れるんじゃろ?」
なんか会話が擦れ違っとるの?
案外こっちの昆布は陸生だったりするんかの?
「あぁ、そういう事ですか。アリスちゃんがいたところのコンブは海で採れたんですね。
となると王都のコンブはドロップアイテムですので、ちょっと違う物かも知れませんね」
は?ドロップアイテム?
「なんぞ、それ。ドロップ?なんで急にゲームみたいな話になっとるんじゃ?
それはあれか、魔物を倒せば一定確立でアイテムが出現するとか、要はそんな話なんかえ?」
「ええ、そうですよ?魔物の中でも生き物から離れて魔素で構成される割合が高くなったケースですと、倒した時に死体が残らない代わりに何かアイテムを残す事があるそうなんです。
私もそんな魔物と出会った事は無いので詳しくは分からないですけど」
いきなりゲームの話になったのは何故じゃ?!とか思ったが、これは『ここのルール』に儂と同じように外から来た魔術師が介入した結果なんじゃろうな。
魔術で作った生き物をそこらに徘徊させて、しかも退治した場合には一定割合で褒美が発生するようにしていると。
「・・・なんでじゃ」
「なんででしょうねぇ。まぁ、異界の主を倒したら金属が湧いてくるのも意味不明ですし、世の中ってそんなものなのでは?」
そうかのぅ。なんか腑に落ちんのぅ。
「じゃが昆布が手に入るのはええの。料理の幅が格段に広がる。それに異界の探索も出来るならしてみたいし、今の件が落ち着いたら王都に出向くのもありやも知れんな」
「それは・・・失った記憶を取り戻すためですか?」
動機の半分はマジで昆布なんじゃが、ここは「うぬ、そうじゃの」と返事をしてやり過ごす事にする。
いや、ルカってば凄く真剣な表情じゃからな。流石に「まぁ、記憶もあった方がええじゃろ」とかは言えんて。
「まぁ、でも、あれじゃぞ、確かに異界を壊して力を回収すれば、失った能力と一緒に記憶も取り戻せるようじゃが・・・そこまで深刻にならんでもええとは思うんじゃ。いざとなれば主殿と奥方がどうにかするとは思うし」
あの二人は必要とあらば何でもしよるからの。
「ま、後の事は後で考えたら良いじゃろ。ほれ、そろそろ飯が出来たから食うと良いぞ。味わいは微妙じゃが温まるからの」
その時、外から言い争うような声が
「何かあったのでしょうか?」
「金が動くとトラブルも起こるもんらしいぞ。儂はよー分からんが。ほれ、食え食え」
「はぁ、そんなものですか。いただきます」
さて、儂も頂こうかの。にしても今晩は何にするかのぅ。農村だから仕方ないとはいえ、何とかしてバリエーションを出したいところなのじゃが。
その時、唐突に我が家(仮)の扉が開け放たれ、見知らぬ爺さんが大声で喚いた。
「申し訳ない!ここに異界を滅した者がおると伺って来た!」
うるさいの。なんじゃ、飯時に。
冷めた目線で儂とルカが爺さん(禿頭)を眺めておると、今度は何故か小刻みに震え出した。キモいの。
「やはり!やはりそうであったか!!
噂話を聞いて懸念を持ってはいたが、まさか!本当だったとは!!
強大な魔力、未知の魔術、そして何よりその金色の髪!!
古の時代に我らが王を滅ぼした魔王の再来では無いか!何故こんなところに魔王がおるのだ?!答えよ!!」
ビシイッ!!と爺の指が儂に向け突き付けられた。
流石の儂も、どうしたもんか分からんのじゃが
「こんな小さな子供に魔王とか、頭がおかしいんじゃないですか?」
傍に座っておるルカが静かにキレておった。
とりあえず、アレじゃ・・・儂、別に子供では無いぞ。
今日も読んでくれてありがとう!そろそろ導入編が終わりに近づいて来たので「ちょっと良いじゃん」って思ってくれた方はブックマークとかポイントとかを入れてくれると筆者嬉しいです!