1-7:儂と見知らぬ場所 こんな大事な事すら覚えとらんかったとは
「魔術を使う上で起動式はそこまで大事ってわけでも無いんじゃ。特にここの人間の魔術は『遠隔地にある術式を読み込む』って方式をとっておるから意識する事さえあまり無いのやも知れんな」
「■■■!!」
岩の巨体が両手を魔術の壁に突き出し、全力で押し込もうと雄叫びを上げた。
だけどアリスちゃんはそんな事を意にも介していない。ただ自然に当たり前のように障壁の維持を続けている。
「ルカの場合は読み込む先との接続に難があるのじゃろうな。残念ながら儂にはそれを解消してやる事は出来ん。お主らが何処と接続しておるかすら、儂には分からんからの。
じゃが、普通の魔術なら話は別。魔力を持っておって、それを流す回路があるのなら術式を展開する方法なんぞ幾らでもある。
それに肉体と武装を強化する術さえあれば、それだけで十分でもあるしの。儂の主殿は馬鹿みたいに強かったが、独力で使える魔術は強化魔術だけじゃったし」
アリスちゃんは私に向けて話をすると同時に岩の巨体をジワジワと押し込み始めていた。
やっている事は凄くシンプル。片手を前に突き出してトコトコと歩みを進めるだけ。
ただ、それだけの事で岩が、この異界の主が、アリスちゃんの何倍も大きな巨体が、ズルズルと後ろに押し込まれていく。
「ま、こんなもんじゃな!こんだけ距離が空いとったら流れ弾の心配も無いじゃろ!
今から色々と実践するから良く見ておくんじゃよ!」
ニコニコのアリスちゃんが突き出していた右手を降ろすと同時、岩の巨体を何本かの光る槍が貫いた。
「まずは定番の『魔力を押し固めて作った武器』じゃな。威力は大した事ないが、普通の武器と違って持ち運びをせんでええから取り扱いが超楽なんじゃ。
しかも、色々な効果をのせるのも楽でな。今回は魔術生物の動きを阻害する術式を込んでみたから、この岩のデカブツに有効かも知れん。
じゃがな、ゼロから武器を作るのは大変なんじゃ。慣れるまでは武器の核となる物を持ち歩いておいて『刃先だけ魔力で作る』とかがお勧めじゃな」
ドスンと大きな音を立て岩の巨体が膝を地面に着けた・・・威力は大した事ない??何処が??
「次は少し派手目にいくぞ。まぁ、いわゆる形態変化形じゃな。火とか水とか出るやつ」
アリスちゃんの足元から水が流れ、巨体の足元で浮きあがり水の塊がフヨフヨと。
「いま儂がやったのは水っぽい性質を疑似的に魔力に付与しただけじゃが、もちろん、水そのものを呼び出す事も出来る。
じゃが、本物の水を呼んでも水で出来る事しか出来んから結構微妙じゃ。水を持ち運ぶか、水場から持って来た方が楽じゃからな。
で、水っぽい魔力で何が出来るかと言えば」
アリスちゃんが右手を振り上げた。
そして、それと動きを合わせるようにして水球から細い水の束が伸び、縦方向に幾度か回転した。
「■■■■■ァ!!!!」
何だか分からないけど岩の絶叫が響き渡った。
「うるさいの、デカい図体をしとる癖に。もっと堂々と構えとかんか。アホめ。
で、それはそれとしてじゃ、さっきのが、ウォーターカッターみたいな使い方じゃな。圧力をかけて押し出すだけで即席の水の刃が出来あがるというわけじゃな。
たかが水でも魔力剥き出しの状態よりずっと使い勝手が良いって事だの」
凄い。うん、とても凄い。全然何をしてるのか分からないけど、とにかく凄い。
圧倒的に思えた異界の主がアリスちゃんの魔術で完封されている。光の壁と槍で動きを封じられ、さっきの水の刃で手傷まで
岩が砕ける音とともに巨体の左腕が肩口あたりから滑り落ちた。
「■■■!!!」
手傷どころか腕自体を切り落としていたみたい。ホント意味分かんない。
「ちなみにじゃが、もっと高度なコントロールをすると、こんな事も出来るぞ」
アリスちゃんが掲げた手に白く大きな剣が現れた。まるで光そのものを固めたみたい。
「これは儂というより、よく主殿が振るっておった魔術でな。まぁ、儂のオリジナルかと言えば、そうでも無いような微妙な術式ではあるんじゃが、威力だけは抜群なんじゃ」
ほいさ、と振り下ろされた刃は音さえ無く、地面に転がっていた岩の腕だったモノを切り裂いた。
「じゃがアホみたいに制御が難しいから、現実的には分業せんと無理じゃな。実用的では無いの」
今しがた普通に使ったけど、それでは満足出来ないと??
「で、次が最初に教える魔術の実践じゃ。よー見とけよ、参考になるでな」
アリスちゃんがそう言うと光の壁と岩の身体に刺さっていた槍が消えた。
それに驚きの声を上げる間もなく事態は動く。いえ、何時の間にか動いていた。
私の目に入ったのはアリスちゃんの真っ白なワンピースが巨体の頭の近くで翻る光景。
地面から何メートルも離れた場所で、宙を舞うのが当然のように彼女は飛んでいて、その細く小さな腕を縦横無尽に振るっていた。
「な?!」
驚愕する私。何度も響く金属を打ち抜くような音。
そして、その次の瞬間には軽い音を立てアリスちゃんは私の傍に着地していた。
息も乱しておらず、全くもって平常通りの様子。
異界の主は念入りに切り崩されガラガラと音を立て転がっているのに。
「やっぱ思ってたような性能が出とらんの。覚えとらん期間の間に何かがあったのは確実か」
「え?!・・・ちゃんとバラバラですけど」
「そりゃ、まぁ、これぐらいはの。でもの、肉体強化に魔力を使えば一目瞭然・・・と言うか目で追えたじゃろ?儂の動き」
「追えたというか少し見えただけです。こうスパっと飛んで、スパスパと切ったなってのは分かりましたけど、それだけです」
「上等じゃよ。それで十分じゃ。じゃがの、儂は全力で主殿をエミュレートしたんじゃ。思い描いたような出力が出ておれば、本来ならルカに視認出来るはずなんて無かったんじゃ」
失った記憶に答えがあるんじゃろなー、そんな事を言いながらアリスちゃんは空を見上げ考え込んでいた。
「ん?そういや、これどうやって元の場所に帰るんじゃ?」
「いきなり話が変わりますね・・・私は未体験なんですけど、主が消えれば自然に異界も消えるそうですよ。ほら、丁度それっぽい感じの光が」
舞台のあちこちが綻ぶようにして光を発し始めていた。
「へぇ、こんな感じなんですねぇ。でも、ちょっと怖いですね。なんだか足場が消えて落ちちゃうんじゃないかなって。
ねぇ、アリスちゃんもそう思いますよね?・・・・ん、アリスちゃん?」
返事が無いけど、どうしたの?
舞台からの光に照らされるアリスちゃんは何故か唖然とした顔をしていた。
「・・・不味いぞ、今の儂はどれぐらい『不完全』な状態なんじゃ?一体どうなっとるんじゃ、これは」
こんな大事な事すら覚えとらんかったとは
そんなアリスちゃんの呟きを最後に私達は無事帰還を果たした。
今日も読んでくれてありがとう!次回へ続く!って感じの引きですが導入編なので、物語の動機が語り終わるまで引き続けるのですよ!来週もよろしく!




