1-6:儂と見知らぬ場所 アレを倒してしまっても、構わんのだろう?
私は今日の事を、きっと一生忘れない。
目の前で繰り広げられた夢のような光景を、きっと一生忘れない。
「あー、ルカよ、ここは何処じゃい?異界ってわりには随分と穏やかで快適な空間なんじゃが」
「私も初めて入りましたけど、ここが異界の中で間違いは無いはずです。
まだ扉すら現れてなかったのに急に飲み込まれるなんて前代未聞ではありますけど」
いま私とアリスちゃんがいるのは、石畳が敷かれた大きな舞台のような場所。
村の広場より大きな舞台だけど、その端は切り落とされたのように垂直で、そして・・・その周りには空しか無かった。
舞台の端から上を見ても、下を見ても無限に空が広がっている不思議な光景。
私達が扉に飲み込まれたのは朝だったはずなのに、何故か夕暮れのような穏やかな光がここには満ち満ちている。
「なるほどの。雲より高い位置にある謎の建造物。巻き付いた木の根っこが支えとるような構造のわりに、その木が何処に生えとるかは・・・いや、違うかの?木の上下が逆さまなんか??意味が分からんぞ??」
アリスちゃんはウロウロと周囲をうろつきながら分析を口ずさんでいる。ついさっき異界の事を知ったばかりとは思えない落ち着きっぷり。
「そういや異界にも何タイプかあるって言ってたよの?これはどんなタイプなんじゃ?」
「え、タイプですか・・・私もよく分からないですけど、建物の姿も無く、他の陸地のような物も見えないって事は消去法で魔物が出て来るタイプかなと」
そして、そんな私の言葉に合わせるかのようにして状況は動き始める。
「なるほどの・・・出来れば最初はダンジョンとやらが良かったんじゃがな」
石舞台の中央に現れる赤い光の柱。
最初は細く、少しずつ太く、渦巻き捻じれ、何かを形作るかのように有り様を変え
「なかなかの外連味じゃの。登場シーンは『らしい演出』が無いと物足らんからの。
ルカもそう思うじゃろ?」
「・・・赤い光?!まさか異界の主が!そんな事って」
「なぁなぁ『主』って何じゃい?さっきの説明では、そんなのは無かったぞ?魔物とは違うんかえ?」
膝を付いてしまった私の顔を上機嫌にアリスちゃんが覗き込んでいる。
その顔はニコニコと上機嫌で、とても今の状況を理解しているとは思えない。
「異界はその呼び名の通り『私達の世界』とは何処か別の場所の事です。そして、極稀に『たった一体の生き物』を封じ込めるかのように作られた世界に繋がる事があって」
「なるほどの。それがコレか」
捻じれた赤い光が解け、そこから大きな何かが迫り出して来る。
見上げても、まだ見上げたらないような巨体。
それは岩肌のような生き物とは思えない何かで構成された脅威。
私程度なら簡単に踏み潰せそうな大きく凶悪な足、それが綺麗な石畳を踏み躙り・・・
「■■■■■■!!!」
理解出来ない言葉での咆哮が轟く。
「カッカッカッ!!これは凄いの!こんな化け物らしい化け物なんぞ久しぶりに見たわ!
見てみろ!あの巨体を!まるで岩で出来た鬼じゃ!鬼そのものじゃ!
それになんじゃ、あの頭は。バチバチ鳴っとるぞ!雷か?雷が出とるんか!!最高じゃな!!」
彼女は何故か嗤っていた。
目の前に、すぐ目の前に脅威が迫っているというのに。
「まぁ、見た目は合格じゃ。作ったヤツのセンスは褒めてやる。じゃが、内包しとる力がスカスカじゃ。こんなん案山子もええとこじゃぞ」
大きな腕が振り上げられた。
ニヤニヤと嗤う彼女へと、その大きな腕は振り下ろされ
「アリスちゃん!!!」
恐怖で身体は動かなかった。私は意味も無く呼びかける事だけで精一杯だった。
「そんなに焦るな。大した事ないって言ったばっかりじゃろ?」
化物が振り下ろそうとした腕はアリスちゃんの少し前に現れた『黄色く光る魔術の壁』で防がれていた。
「そう言えば師匠って呼ぶとか言っておったのは、どうなったんじゃ?せっかくじゃし次はちゃんと頼むぞ?
んじゃ、さっそく最初の授業を始めようかの。もちろん、授業のついでにコイツは片してしまうが問題は無いんじゃよな?」
アリスちゃんは狂暴な笑みをその顔に浮かべ、私を見つめていた。
今日も読んでくれてありがとう!ギリギリで土曜の更新です!明日もよろしく!




