2-7:儂とアヤツと地下迷宮 ストレスに対する反発力って凄いんですね
空から降って来たサイケデリックな何かとの死闘から既に一週間と少し。
私はいま優雅に朝風呂を楽しんでいます。
なだらかな斜面にアリスちゃんが大穴を開け魔術でなんやかんやして適温のお湯が湧き出る温泉(露天)が生まれてしまったのです。
作成者の意図としては「行き詰った事によるストレスを解消するために労働環境を改善する必要があるんじゃ!」との事でしたが
「何もしてない私が恩恵にあずかるのは微妙な気がしますねぇ」
アリスちゃんは今も急造したログハウスの中で頭を抱えています。
そうです。彼女はストレスを溜めると創作意欲が湧き出るタイプだったのです!
作業開始前は掘っ立て小屋しか無かったのに、今やベッドまで備え付けれたログハウスに露天風呂、屋外バーベキュー用の設備まで兼ね備えた貴族様の別荘のような場所が産まれてしまっています。
ここダンジョンなのに。しかも深層なのに。意味不明です。
まぁ、ここ数日のアリスちゃんは作った物も使わずウンウン唸っているだけなのですけど。
「・・・あの雪っての、そんなに厄介なんでしょうか。白くて静かで綺麗なのに」
アリスちゃんがストレスを爆発させている原因はゲートの向こう側の景色にあります。
それは氷漬けになった30層ボスへのハッキングとやらを始めて2日目の事。
「よっしゃ!通った!儂の勝ちじゃ!!」
中空に無数に浮かべた光る板、それに走る文字を眺めていたアリスちゃんが両腕を天に突き出し勝鬨の声を上げています。
「自分の才能が恐ろしいの!魔術と現代技術を掛け合わせた異次元の発想!これぞ!まさに!天才の所業!!凄いぞ!儂、偉いぞ!!」
凄い自画自賛です。いえ、私も凄いとは思ってますよ。
「さぁ、来たれ!次のワールドよ!
まずは小窓をちょちょいのちょいじゃ!!」
そして、アリスちゃんの目の前に現れたのは空間の穴。真四角でそれこそ「窓」のようで
「ん?・・・風がひんやりですね?」
その窓が現れた時に私が感じたのは寒さ。
「あー・・・これはひょっとすると・・・」
アリスちゃんが小窓に頭を突っ込んで向こう側の様子を確認し、そして蒼白な顔を私に向けました。
「・・・ヤバいぞルカ。40層目は雪原じゃ。ひたすらに真っすぐで何も無い雪原が広がっておる。ついでに言えば日の光も無く真っ暗じゃ」
アリスちゃんの苦難の日々が始まりました。
どうにも雪原と言う物は『ただそこにいるだけで命の危機がある』そうでして、それこそアリスちゃんはともかくとして私は耐えられないのが確実らしいと。
とは言え、私達は進むしかありません。最初の壁は30層に留まりつつ40層のボスを探すという苦行でした。
次のフロアに侵入してから探査機を飛ばすのは簡単らしいのですけど、ここからだとライン、魔力の通り道が分断されてしまうそうで大変に対応が難しいとの事。
40層から30層への移動は出来ない(ボスが生み出すゲートは常に下層向き)、異なる階層とは魔力のラインがうまく繋がらない。
そんな状況を踏まえ、アリスちゃんが考え出した解決策は探査機の有線接続。宙に浮く小窓の中へ長い尻尾を持つ自走探査機が次々と放り込まれて行きました。大きなネズミの玩具のようで少し愉快。正直、空を飛ぶ気持ち悪いのより随分と好ましかったり。
ちなみに尻尾の先は氷漬けの30層ボスに繋がっています。形式としては『30層が40層に向け手を伸ばしている状態』だそうです。私にはあまり意味が分からないですけど。
そんな風にアリスちゃんは、とんでもなく頑張ってくれているのですけど・・・
「駄目じゃ。どこにもボスがおらん。いや、そもそも40層には何も無いんじゃ。階段も無いし、敵もおらんし、ボスもおらん。
実際に乗り込んで探索したいところじゃが、そんなんしたら、さして時間も過ごさぬうちにゲームオーバー確定じゃ。
どうしたら、ええんじゃ、こんなん。無理ゲーじゃろ」
そんなわけでログハウスと温泉が出来上がってしまいました。ストレスに対する反発力って凄いんですね。
そして、今日もアリスちゃんは頭を悩ませています。お風呂上りの火照った身体をゲートからの冷気で冷ましログハウスに「ただいま」しても気が付く様子さえありません。俯いたまま、ひたすらにウンウン唸っています。
中空に浮かぶ複数の板に走り書きのようなモノが残されていました。
ボスのコアを具体化せずに分散化?
環境の中にコアのみをむき出しで配置?
ボスの存在力を全て環境変化に回している?
環境そのものがボス?
攻略の手順が用意されていない。悪意の顕現?
なるほど。大体は愚痴ですね。まぁ、でも
「これって雪がボスなら、30層から雪にハッキングをしかけたら良いんじゃないですか?
ほら、ボスを弱らせて動けなくしたら、やりたい放題なんですよね?
雪は最初から動いてないし、それがボスみたいなモノなら出来るかなぁって」
「・・・あ?」
俯いたままのアリスちゃんの動きが止まりました。
「すみません。素人の思い付きで集中の邪魔しちゃって」
「いや、それは構わんが・・・そうかボスに拘る必要も階段に拘る必要も無いんか・・・儂に必要なのは50層に至る情報のみじゃからして・・・」
そうか。そうじゃったんか。足元を見たまま、ぶつぶつと呟くアリスちゃん。
うん、ちょっと怖いですね。
「・・・ルカよ、行けるやも知れん。それで解決するやも知れん。助かった。凝り固まってしまっておった儂への最高の助け舟じゃ」
アリスちゃんは顔を上げニチャリと笑う。
「あ、うん、良かったです」
早く解決して、いつものアリスちゃんに戻って欲しいですね。過度のストレス、駄目絶対。
今日も読んでくれてありがとう!FF16の体験版を遊ぶ間も無く製品版の発売日が過ぎ、もちろん遊び暇もなく積みゲーが増え・・・そんな感じです!




