1-4:儂と見知らぬ場所 朝餉と切っ掛け
拝啓、主殿。
儂は随分と遠いところに来てしまったようじゃ。それこそ天に浮かぶ星々さえ見知らぬ物ばかりの遠い場所。
物理的に遠いと言うより次元が遠いって感じやも知れぬ。それこそ主殿が観測していた『並行世界』とやらなのかも知れんな?
残念ながら浅学菲才である儂には判断する事は出来ん。自力での帰還も、まぁ、難しいじゃろうな。
そもそも並行世界か異世界か何か知らんが、そんなところに対象を放り込むとか・・・それもう『魔法』の領域じゃよな?
そんなん儂にどうにか出来るはずなかろうて。無茶ぶり甚だしいんじゃよ。
「と言うわけで、朝飯の用意じゃ。ルカはまだ寝とるしの」
ある意味で食事の用意は儂が儂である証みたいなところがあるでの。こんな時こそ手を抜くべきでは無いであろうなと、そう思うわけじゃ。
じゃが、残念ながら色々と手の込んだ料理を作れるかと言えば、そうでもない。
ぶっちゃけ食材があんまり無い。独り暮らしで仕事も外に出る事が多いルカの家には備蓄があんまり無いのじゃ。昨夜も交易者とやらから譲ってもらった品で二人だけの小さな宴を行ったわけで
「まぁ、朝じゃし軽めでええか」
簡単な味噌汁擬きを作る事にした。小さな竈に古い鉄製と思われる鍋。魔力を流せば水が出て来る水道擬きと、同じく魔力で動くガスコンロ擬き、ついでに手元を明るく照らす魔力灯。
・・・いや、変なとこだけ現代日本的なのおかしいじゃろ?便利すぎじゃろ?台所にオーパーツ混ざっとるじゃろ?
そりゃ、もちろん『家屋の土台がコンクリで主要な建築材は規格化された材木、屋根には瓦のような物が使ってある』って時点で時代設定の意味が分からんってのはあるぞ?
それに『戦闘の道具が槍で防具が皮鎧だったのに時代が合ってないじゃん?』みたいな思いもあるぞ?
でも、それにしたって台所の便利さが群を抜いておかしいじゃろ?
下手打てば現代日本でキャンプするより便利じゃぞ、これ。火力調節なんて無意味に自由自在。魔力コントロールだから調理中に手を放す必要さえなく火加減が出来ますの、みたいな。おかしじゃろ?文明のバランス崩れとるじゃろ?!台所だけ極端に時代が違うじゃろ?!
まぁ、あれじゃ、便利なのは悪い事じゃ無いからええんじゃけどな。
「おはよぅごぉざいます・・・」
「おぅ、おはよう。簡単なもんじゃが飯を作っとるんで、先に顔でも洗って時間を潰しておいとくれ」
ちょこちょこ調理に精を出しとると家主が起きて来た。まだ寝ぼけておるようで、フラフラと外にある洗い場へと彷徨い出て行ったが大丈夫かの?ちゃんと辿り着けるかの?
そんな事を思いつつも儂は食卓の用意を開始する。畳の上のペライ布団を畳んで隅っこに寄せ、立てかけておいた『ちゃぶ台』を部屋の中心へ・・・地味に初めて見たんよな、ちゃぶ台。
にしてもルカもそうじゃしチラホラ見かけた村民も何処となく欧米風の顔立ちなのに、なんで文化だけ和風なんじゃろな?思いっきり田園風景じゃし、畳もあるし。
儂としては「まさかのナーロッパかぁ」からの「ナホンかぁ」の落差で大変混乱しておるんじゃが。
「そもそも儂も英国生まれの英国育ちじゃし、今更ナホンでも問題は無いかの」
得意料理は中華で無意味にグローバルじゃしな。残念ながら、この農村で中華料理を作れそうな感じはせんが。
そんなわけで今朝のメニューは『昨晩の干物の残りと謎のしいたけ風のキノコを煮込んだ味噌汁のような物』と同じく『昨晩の残りの米を握って炙った焼きおにぎり』じゃ。上等じゃ。清く正しい日本人の朝食って感じで実に上等じゃの。
ルカを待ちつつ食卓から立ち上る湯気をぼんやりと眺める。
ええもんじゃの、こういう時間。
全てが穏やかじゃ。
そして、しばしの時を挟み、まったり穏やかな朝の一時を打ち壊す慌ただしい足音が。つまり、家主のルカが朝の支度を終え食卓に参上じゃ。
「わぁ、凄い朝ご飯。すみません。お客様に用意させちゃって」
「ええんじゃよ。儂は料理が趣味なもんでの。
いや、むしろ料理が本職であったと言えるかも知れんぐらいには入れ込んでおったか」
「え?お嬢様ですよね?」
「いんや、違うぞ。昨晩も言ったと思うが儂は遠くから来たフリーの魔術師みたいなもんじゃ」
「はぁ、そうですか」
うむ、こやつ信じておらんな。森の中で魔術で戦うところも散々見せたと言うのに。
やはり、あれか、見た目か?この少女スタイルがいかんのか?・・・しかしのぅ、元の姿に戻るのは・・・なんとなく抵抗があるのでなぁ。それに唐突に姿が変わってもコヤツも混乱するじゃろうし。
「うわ!美味しいですよ!何ですか、これ!ウチにある材料だけで何でこんなのになるんですか!」
いつの間にか食事を始めていたルカからの絶賛。うむ、良いな。実に気分が良い。
「料理は科学じゃからの。理屈を踏まえて食材と調理手法を適切に組み合わせてやれば美味いもんは作れるんじゃ。
もっとも儂も知らない事は多いし、ここの食材の多くは儂にとって未知なものであるからして」
その時、ゴンゴンと家の引き戸が叩かれた。
「あら、お客さん。ごめんなさいアリスさん、食事中なのに」
「ええんじゃよ。早く開けてやっとくれ。こんな時間に来るぐらいじゃ。向こうも急いでおるのじゃろうからの」
飯時に来るのもどうかと思うが農家の朝は早いとも聞くし一概に非常識とも言い切れん。
ちなみに、結論としては農家時間の問題ではなく、普通に緊急の用事があっただけじゃった。
その朝ルカの家を訪ねて来たのは村の顔役の男。唐突に発生した『異変』について参考までに話を聞かせて欲しいと、そんな用件だったそうな。
その『異変』とは森の中に発生するようになった化け物達の事。
そして、それと時を同じくして村の中心部に発生した『大きな黒い柱のような物』についての事。
この時の儂はまだ「朝のちょっとしたイベント発生」程度にしか捉えておらなんだが、後から考えてみれば、この朝の知らせこそが『儂とルカの物語の始まり』じゃったような、そんな気がしないでも無い。
まぁ、そうでも無いかも知れんが。
今日も読んでくれてありがとう!そろそろ導入編の終わりも見えて来ましたね?
ちなみに次の更新も週末と思われます。よろしく!




