1-4:儂と混乱する王都 不思議じゃろ?肉を洗うとか
「もう夕暮れか。思っとったたより時間がかかってしもうたの」
ゲートのハッキング自体はそこまで難しくなかったんじゃが、初期位置の固定に手古摺ってしもうた。機能追加案件じゃったからの。ちと疲れてしもうたわ。
ふと空を見上げれば、夕暮れの空には昼間よりも更に多くの煙がたなびいておった。
今が温かな季節で助かったが、もし冬場に魔術が使えなくなっておったら煙の害だけで大変な事になっておったじゃろうな。
「とは言え、今の状況が続けば大気汚染の概念が生まれるまで大して時間は必要無い気がするの」
さっさと行って、さっさと帰って来ないと大変な事になりそうじゃ。
「ほんに人は弱い」
こんなに綺麗で良く出来た街でもインフラ一つ欠けただけで風前の灯火じゃ。
「で、早く出発したいのにルカはどこじゃい?まだ戻ってこんのか」
ゲートの設定も終わっとるし、荷物も持っとるし、もう出発するだけじゃと言うのに。
儂がカチャカチャやっとる間にギルドに呼ばれてるから~みたいな事を言っておった気はするが。
「・・・飯でも作って待っておくか」
ダンジョンの構造が分からん以上、独りで突っ込んで閉じ込められたりしても困る。最悪の場合でもルカを初期位置に送り返せば役所の人間がどうにかしてくれるじゃろうし・・・いや、どうじゃろうな?何も出来んかも知れんな?・・・まぁ、少なくとも儂が戻って来るまで街の維持は必死こいてやってくれるじゃろうし、それで十分かの?
しかしのぅ、もう一人ぐらい儂と同じぐらいに魔術の事を理解しとる者がおってもええような気がするんよな。一人だけで全部回すのはリスキーじゃ。万が一、儂が地の底で囚われたり、あるいは『外側』に放り出されたりしてしまえば、この王都だけではすまん可能性すら出て来るやも知れんわけで。
そんな重めの事を考えながらも儂は中華鍋を取り出し、肉の塊の下茹でを始めておる。
時間のあるうちに何度か下茹でを繰り返し過剰な油を落としておく事が重要じゃ。本来なら下茹でから本番の味付けと煮込みまで一気にやる必要があるのじゃが、儂なら隙間時間にちょいちょい工程を進める事が出来るのが強いところじゃな。
魔術の炎に炙られ鍋の中の湯が揺れる。
豚っぽい塊肉が湯の中でクツクツと煮える。
混乱した王都の中で、今ここだけは緩やかで穏やかな時間が流れておる。そんな気がした。
おっ、脂が白く濁った状態で浮いて来ておるの。
「まず一回目じゃな」
地面に深めの穴をあけ、湯を捨てる。そして魔術で水を生み出し肉をゴシゴシ洗う。
周囲で片づけをしとる役人か何かが不思議そうな顔をして見ておるわ。不思議じゃろ?肉を洗うとか。でもの、繊細で美味い料理を作るには地道な工程が必要不可欠なんじゃよ。
まぁ、電子圧力鍋があったら、かなり大胆に簡略化する事も出来るんじゃが、流石にそれは無い物ねだりじゃな。そもそも圧力鍋の再現さえ出来とらんし。
「んじゃ、二回目じゃ」
鍋に湯を入れ肉を煮る。最初からグツグツのフルパワーじゃ。
落ちろー、落ちろー、脂よ、落ちろー。
「あのアリスちゃん、お料理中にすみません」
「おぅ、帰って来よったか、遅かったの。で、後ろの奴らは何じゃい?」
なんだか大層な装備のむさくるしいのが集団でおるんじゃが。
「魔術師殿!ダンジョンの攻略の先陣は是非我々に任せて頂きたい!!」
先頭におった立派な鎧の大男がそんな事を宣った。
「なんでじゃ?」
「魔術師殿と探索経験の浅い者では深度の攻略はさぞかし困難でしょう。我々ベテランの助けがあれば随分と快適な旅路になると思いますが?」
あぁ、井の中の蛙が勘違いしとるわけか。
と言うか王都が惨状一歩手前になっとるのに、まだ探索とか続けるつもりか。
「ルカや。こいつらは片してしもうても良いな?」
「はい、大丈夫です。私も付き合いでアリスちゃんのところに連れて行くまでを頼まれただけですので」
苦笑いのルカ。大方、なんか家柄が良いけど遊び半分でギルドに所属しとるとか、どっかの商家がスポンサーに付いておるとか、そんな感じなんじゃろ?知らんけど。
鎧の大男が二人、軽装が三人。これぐらいなら軽く一撫でじゃな。
火を止めて鍋と肉を今の状態のまま空間魔術の収納スペースに放り込んで、ついでに他の場所と遮断する事で時間経過を抑えて、忘れずに調理道具一式も格納して
「ほな、いくぞ。怪我せんように守りを固めるんじゃぞ」
「は?何を言って」
危機意識の薄い大男は惚けたまま何のリアクションも取れなんだ。ダメな奴じゃ。
儂が雑に大きく展開した魔力の腕。それに叩き飛ばされる様にして男どもは吹っ飛んで行った。
鎧がガチャンガチャン煩く音を立てておるわ。
「何がベテランか。たわけ共が」
「たぶんアリスちゃんの見た目に引っ張られて油断したんだと思いますよ。今はお嬢様装備ですし」
「そじゃったの。役所に出向く時にめかし込んだままじゃったわ」
スルッと服を作り替え冒険者ルックへ。
「んじゃ、行くぞ、ルカ。目的は異変の中心地ダンジョン50層じゃ!」
「はい、了解です。頑張りましょうね」
そして儂らはゲートの中に広がる青白い光の中へと歩みを進めた。
50層に何があるかは儂も知らん。じゃが、今回の異変の原因ぐらいは掴めると、儂はそう予想しておる。
「おっ、そうじゃ、そうじゃ」
儂らの転送後に入口を閉じる処理を追加しておいた。これで誰もダンジョンに侵入する事は出来んはずじゃ。出来の悪いギルドマンに冒険とかされたらかなわんからの。「環境が変わって遭難しちゃった」とか言われてもどないもしてやれんし。
今日も読んでくれてありがとう!作中で作ってるのは豚の角煮のような何かです。下茹でした後に肉を洗って、また茹でるんです。




