2-4:儂と王都と違和感と チグハグな世界と足元の星空
そこそこ整備された街道を馬車が進む。
不十分なサスペンションがゴトリゴトリと揺れを伝え、これまた不十分な座席のクッションが微妙な感じに身体にこわばりと微かな痛みをもたらしてくれる。
要するにじゃ
「のぅ、ルカよ。走って行った方が良くないかの?」
「ダメですよ、アリスちゃん。監督の人も連れて行く必要がありますし、何より現地で異界を潰す事が前提の調査なんですから。
馬車無しだと、せっかくの成果物を置いて帰る事になっちゃいます」
くそぅ。無理か。監督役の一人ぐらいなら儂が抱えて走っても良いんじゃが・・・異界の遺物がなぁ・・・また最初の時みたいに金属類が出て来ても困るしのぅ。
「・・・仕方ない。馬車で我慢するか」
「たった二人の調査隊のために用意してくれた馬車なんですから、文句を言ったら可哀想ですよ」
「それも分かるんじゃがなぁ。もう何日も馬車の中じゃから正直飽き飽きなんじゃ。アヤツは飯も食ってくれんし」
「監督って言うより監視が主な任務なのでしょうね、役所から派遣された人ですし。文脈的には監視より監査とか、そんな意味合いなのかも知れませんけど」
「美味いんじゃけどなぁ。儂が作った飯は」
旅の中での些細な楽しみとして儂の作ったもんを食べて欲しい。一人だけ離れたところで保存食を食っとるのはマジで哀れなんじゃ。ベテランのオジサンだからこそ妙に郷愁みたいなもん(サラリーマンの辛さ的な何か)を感じて儂も辛いんじゃ。
「きっと帰りはあの人の態度も緩くなりますって。今はまだ私達の事を信じ切れていないのでしょうし」
「そりゃ、そじゃの。なにせ柱の調査に向かう二人組のうち一人が子供とか普通にビックリじゃよな。儂だったら怒って帰るぞ」
「分かってるならフォローしてあげれば良いのに」
「嫌じゃよ。説明したら説明したで面倒じゃし。魔術の説明とか何度も話をするの嫌なんじゃ」
「自分勝手ですねぇ」
「おうさ!それが儂らしさじゃ!・・・まぁ、戦うところを見たら分かるじゃろうしな。そんなに急がんでもええかとも思うわけじゃ」
「そうですね。今回は私も頑張って戦いますから」
唐突にそんな事を言うルカの顔は・・・思っておったより随分と深刻な様子で
「ルカはええ子じゃな」
色々と思うところがあるんじゃろな。儂にはあまり理解出来ん感覚ではあるが。
そんな訳で儂とルカ(+監督兼御者)の3人は僻地の柱の観測ツアーに参加中じゃ。
役所からルカへの指名依頼で動いておるんじゃが、柱の状態の異界をサクッと壊す事が出来るか調べて来いとの事。
そりゃ、気になるわのぅ。柱の近くで魔術を使えば『人』でさえ汚染される可能性が高いんじゃから。どうにかして安全に処分出来る方法が欲しいわなぁ。気持ちは分かるぞぉ、気持ちは。まぁ、儂らからすると面倒なだけの依頼じゃけどな!
「で、話は変わるんじゃが、なんで誰もいない僻地に向けて街道が整備してあるんじゃ?」
「街が無いってだけで誰もいないわけじゃ無いんじゃないんです?採れる資源があるとか、何処かの街への交易路だったりとか?」
「そんなもんなんかの?踏み固めた道が残っておるわりに他の旅人と出会うわけでも無いし、宿場町も無いしで不思議でな。あれか、失業者対策の公共事業かの?」
「王都もそんなに人が余ってる感じはしないですけどね。柱が出現したから最近になって人の流れが変わったとか、そんな感じじゃないです?」
「・・・そうかのぅ」
どうにも違和感が残る。なんというかバランスがオカシイんじゃ、色々と。
自然を切り開く苦労や魔物の存在を無視したかのように人里が点在し、そこにも当たり前のように街道が通され、挙句の果てには首都は立派な大都会。その上、マジでヤバイ脅威もあるのに、それに対して大きな混乱が起こる事も無い。
この世界、どうにもチグハグな気がするんじゃよな、儂には。
もちろん、儂の疑問は単に元の世界の常識から生えて来ておるだけの事やも知れん。なにせ『この世界の住人はほぼ例外なく魔術師』、土木作業や資源を得るための労力は元の世界よりも簡単に圧縮する事が出来る。それが原因で儂には理解出来ない考え方が産まれていても何も不思議では無い。
常識なんぞ環境で如何様にも変化するものじゃから。
そんな違和感に頭を捻りながら、あるいは意味の無い思考で頭を休ませながら、儂達は気楽な馬車の旅路を進めた。
目的地は僻地に誕生したという柱。その柱は人もおらぬところにポツンと立っていたそうな。仮に儂らがへまを打ったところで問題は無い、そんな判断で今回の調査対象に選ばれたんじゃろうが
「聞いておった話と違うが、これも含めて試験という事かえ?」
「いや、こんな状況とは知らなかった。調査は中止で良い」
地味に御者と会話が成り立ったの初めての気がするの。
「それにしても、これはどうしたものでしょうね。もし、これが全部『扉』になったとして・・・アリスちゃんなら対応出来ます?」
「ん?そりゃ、敵が出て来て叩くだけなら問題無いが、これはそんな話でも無かろ?」
「ですよねぇ」
目の前の光景が意外過ぎてルカも首を捻っておる。
遠目でも分かっておったが、儂たちの目の前には『柱』があった、何故か9本も。
前回の田舎村の時は3本、王都のデカいのは4本、柱というのは意外と複数同時に生えて来るのがデフォルトなんかも知れん。
「んなわけ無いわな。とりあえず記録して王都の専門家に共有じゃな。のぅ、御者よ、スケッチか何かで記録を残せるかの?」
あぁ、もちろんだ、そう言いながら荷物をゴソゴソし始める御者。監視に御者に記録係。実に多目的な人材で良い感じ。
しかし、なんか奇妙な生え方をしてるんよな。『柱』と言うわりに何かを支えるような配置には見えんのよ。大きく緩い弧を描く形で配置されておって・・・『上に何かを置いて支える』のではなく、どちらかと言えば『何かを縫い付けて押さえる』とでも表した方が相応しいような?
そんな事を考えながら儂はテクテクと柱が生えている荒地を呑気に散歩しておった。
「アリスちゃん!!」
ルカの突然の叫びは何に気が付いてのものだったのか。
呼びかけに警戒度を上げた儂が見つけたのは『足元に広がる綺麗な星空』だけじゃった。
不意の落下感と共に儂の意識は薄れ行き、全てが暗く閉ざされて・・・
今日も読んでくれてありがとう!明日に続く!!(GWは出来る限り毎日更新します。前の話の時と同じく書き溜めは無いので努力目標ですけどね)




