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儂とアヤツと何処ぞの世界  作者: シマタロウ
1章:儂とアヤツと旅の始まり
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1-8:儂と田舎の小さな異変 まるで主人公みたいじゃ



「行軍中に食べられるように米菓子を作るのもええかも知れんの。ここは米だけは異常に美味いし」


「おせんべいとかじゃ駄目なんですか?美味しいですよ。それともアリスちゃんなら、もっと凄い何かを作れるって事?」


「そじゃの。すぐに量産は出来んじゃろうが、少なくとも儂らが食う分ぐらいなら簡単に作れるの。

 とりあえずは今回の調査が終わったら試作品を作ってみるかの」


 時間が無いから歩きながらもチビチビ食うのはええんじゃが、まぁ、この世界の携行食の不味い事よ。やたら硬くて甘味が無くてパサパサのプロテインバーみたいな。・・・よく考えたら海外産のは現代でもそんな感じじゃったか。何でも美味くしてしまうのは日本人特有の病気みたいなもんじゃからして。


「それは楽しみっすねぇ。俺にも食わしてくれるんっすよね?」


「そりゃ、来てくれるなら食わしてやるが。一発目から美味くなるとは限らんぞ?」


 儂も試作段階では失敗する事も多いからの。


「アリス嬢ちゃんの作る物なら間違いなんて無いっしょ?行軍中の有り合わせで、しかも大所帯向けの料理でアレだぜ。何を作っても美味いに決まってるっしょ!」


「そうですよ。アリスちゃんが作る物は何でも美味しいんです!凄いですよ!」


 ほほぅ、そうか・・・そうか!!


「そじゃの!儂に任せておけ!!儂が携行食に革命を起こしてくれるわ!」


 そうじゃ、儂には現代の調理知識がある。それは、つまり現代知識無双が可能って事じゃ!!


「おぅ、お前ら、魔物が潜んでるかも知れないから、あんま無駄に騒ぐな」


 おぅ、ベテランからの苦言じゃ。

 人から注意されるとか地味に久しぶりな気がするの。


「すみませんっす。ちょっとはしゃぎ過ぎったっす」


 儂の料理を褒め讃えてくれておった若手ギルドマンがしょんぼりした様子で隊列へと戻って行った。ルカは儂の横で苦笑いしてるだけで反省してる様子は無いがな・・・って騒いでおったのは儂とアイツだけか。ルカは微妙に賢いの。


 静かになったので何気なく歩く先を眺めてみた。遠くに川と森が見えるだけ。のどかで穏やかで暮らしやすそうな土地じゃ。


 まぁ、魔物がいるやも知れんがな。


 ギルドマン達と儂は『出現しているかも知れない異界』の調査のために出張中じゃ。より正確には、調査のための移動の最中ってとこじゃな。


 派遣されておるのは子供(偽)である儂を入れても11人だけの小規模の調査隊。空振りに終わるかも知れんし、仮に異界が見つかったとしても儂らが処分に動くわけで無いしって事で、速度優先で暇な者を集めただけの即席部隊じゃ。

 小さな荷馬車と少しの荷物、片道二日のちょい本格的なキャンプみたいな感じじゃの。

 予定通りに動ければ夕方には目標の村に到着するし、そこで何も問題が無ければ一晩村に滞在して折り返し運転じゃ。ちなみに、問題(異界)があったら村人を連れての折り返し運転になるそうじゃ。


 ま、どちらにせよ簡単な仕事じゃの。


 プラプラと荷馬車の横、隊列の真ん中で儂とルカは気ままに過ごしておった。

 魔物も出て来んし、トラブルも無い。綺麗な空の下、心地よい気候に揉まれながらの軽やかな旅路。みな何事も無く帰れる事を当たり前のように信じておった、そんな旅路。


 それが幻想に過ぎなかった事が分かったのは、目標である農村に着いてすぐの事じゃった。


 そこは・・・ただひたすらに静かじゃった。


 何らかの畜産が放されていたであろう柵の中、村の周囲に広がる畑、少し離れたところにある森、そこには誰も、どんな生き物も存在しておらんかった。何の気配も物音もせん。


 あぁ、きっと、たぶん・・・ここは終わった後じゃ。


 儂たちは荷馬車を村の入口に留め置き、周囲を警戒しつつ村の中へと進んだ。


 異界が人里に現れる時、それには明らかに傾向があるそうだ。ルカの故郷と同じように、きっと・・・


 数分歩くと開けた場所に出た。そこは井戸があり、水回りの作業が出来るように色々な設備を共同で行えるように作られた云わば『村の中心』


「くそっ!なんだよ、これは!」


 ギルドマンの誰かが毒づいている。それもそうじゃ。儂もその気持ちは分かる。この広場には大きな黒い柱が三本も生えていた。

 まだ異界の扉と化してはおらんが、この柱の状態でも魔物を出現させる効果はあると聞いている。つまり、この村が無人なのは


「撤退だ。報告に戻るぞ」


 部隊のリーダー役が呟いた。誰もそれに反論する事なく、ジリジリと儂らは後退を始めた。

 残念ではあるが、もうここには守るべきものなぞ残っておらんからの。儂が適当に言ったように魔物の素材になってしもうたか、あるいは魔物に喰われてしもうたか、ハッキリせんが、こうなってしまえば、どちらでも同じ事じゃ。


「おい!柱が扉に?!!」


 叫んだのは儂に米菓子をねだっておった若造じゃった。振り返った儂が見たのは三本の柱のうち一本が形状を変え石造りの扉へと成り果てた場面。そして、それがゆっくりと開き『向こう側』から黒い何者かの腕が


「行きます!」


 槍を構えてルカが飛び出した。止める間も無い即断即決。


 扉から出て来る前に黒い『人の似姿』がルカの槍に貫かれグズグズした何かへと変わり地面へと零れ落ちた。


 ルカは槍を振り、穂先に付いた黒い飛沫を振り飛ばしている。


 先手は取った。すぐに次の敵が出て来ないようであれば、このまま全速で走って逃げれば一見落着なのじゃが・・・


「そうはいかんよな。やっぱり」


 儂らの目の前で残り二つの柱が伸びるように姿を変え、大きな扉が現れる。


「行け!後輩にばかり良いとこを持って行かせるな!!」


 リーダー役の掛け声に応え周囲のギルドマンが詠唱を唱和させる。

 なるほどの。威力が低くともタイミングさえ合わせれば魔物相手でも十分使えると。


 二つの扉が開くと同時、無数の火球が扉へと殺到し、出て来ようとしていた黒い人影を吹き飛ばした。


「戦果の確認は必要無い!戻るぞ!!」


 号令が響きルカも含めギルドマンが密集体系を取る。何かが出て来ても一点突破を図り走り抜ける、そんな構えというわけじゃ。


 あれじゃな、正規の軍隊程では無いのじゃろうが、これはなかなか訓練が行き届いた良い組織じゃ。ギルドとか言うから荒くれものを束ねただけの集団とばかり思っておったわ。先入観に囚われるのはいかんの。


 じゃが、順調と思われた逃走劇は、さして間を置かずに瓦解を迎えてしまう。


 隊列の前の方で誰かが倒れ、集団の勢いが唐突に削げた。


「隊長!!」


 いち早く気が付いたルカが強化魔術を発動させ隊列から零れ落ちたギルドマンに駆け寄った。


 倒れたのは先頭を走っておったはずのベテランじゃった。ソヤツが唐突に力を失い地面に転がってしまったと。


「あ、どうして・・・」 


 倒れたギルドマンの右手に黒く小さな『鎖のような物』が巻き付いておる・・・いや、これは小さな文字の集合体?まさか呪か?


「・・・ルカ、これはすぐには解決出来そうにないぞ。抱えて撤退を考えるしかなさそうじゃ」


「いえ、それも難しいみたいです。次がもう来ます。

 アリスちゃん、私と一緒に殿を担当してくれますか?」


「そらの。お主の強化魔術はまだ長くは使えんのじゃから一人にしたら死んでしまうものな。

 むしろ儂が全部片してお主は先に逃げておいてくれた方が確実じゃぞ?」


「私がアリスちゃんを置いて逃げるわけが無いじゃないですか」


「そう言うと思っておったわ」


 敵は何だかよく分からない黒い人影。儂と釣り合うようなレベルの代物では無いが・・・


「大丈夫です。みんな私が守ってみせます!」


 おぉ、凄いの。まるで主人公みたいじゃ。妙にかっちょ良いのウチのルカは。


今日も読んでくれてありがとう!いきなり何かが始まり出す感じですね!続きは来週になりますがね!

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