1-7:儂と田舎の小さな異変 ルカは良い子じゃからの
「なるほど。それが本題じゃったのか」
「あぁ、そうだ。途中で余計な事を挟んでしまったが、要はその確認だな」
「近隣で唐突に目撃されるようになった魔物と宿場町に現れた魔物が同じ種類かどうかか・・・まぁ、たぶん一緒じゃろうな、儂が見たのは骨みたいな鳥とデカい牛巨人みたいなのだけじゃが」
「そうか。やはりか・・・」
少し剥げかけたギルドの職員は天井を見上げ目を閉じ何かを考え込んでおる。
なんとなく儂も同じように天井を見上げた。
応接室じゃからか知らんけど、この部屋だけ天井も綺麗にピカピカじゃ。おもろいの。
で、いま何をしておるかと言えば、ギルドの職員からの聞き取り調査の最中だったりする。本来ならギルド所属のルカが聞かれるはずじゃったのが、アヤツは別件で忙しくなってしまったので儂が代理というわけじゃな。
ちなみにルカが先輩を叩きのめしたり焼き飯を作って食べたりしておった結果、既に時刻は夕刻。昼前に到着しておったのにスッカリ遅くなってしもうた。
そして無意味に時間を消費して辿り着いた話の本筋は結局シンプル。
「ギルドも把握していない新たな異界が出現してるって事か」
「そじゃの。魔物が自然にポコポコ湧いて来とらん事を前提にするなら、その推測が正しいじゃろうな」
「・・・実は魔物との遭遇地点から逆算して探索は始めてるんだが」
「あー、牛はともかく鳥がおるから絞り込みは辛そうじゃなぁ。宿場町の辺りなんか既に人が少なかったし・・・・」
ん?そう言えば、この世界の魔物は何を材料にしておるんじゃ?
魔術師が使う竜牙兵なら幻想種の身体の一部から生まれて来るし、スケルトンなら人の骨、ゴーストぽい不定形のでも存在の核となる何かは必要になる・・・と考えると、この世界の魔物も異界が出現の切っ掛けになるとは言え、形作られる際に材料が必要なはずじゃよな?
今までに儂が出会ったのはトカゲ、鹿、熊、枯れ木、鳥、牛。と考えると
「宿場町の近くに畜産をやっとる村はなかったかえ?」
「あったと思うが、それがどうした?」
「儂らが出会った魔物は鳥と牛じゃからな。何処かの村の家畜が素材になって、それがテクテク歩いて来たんかなと、そう思い付いたわけじゃ。もちろん、素人の適当な思い付きではあるんじゃが」
儂がサラリと思い付くような事ぐらいは既に誰かが気が付いてないはずが無いんじが。
「・・・・・・」
おっ?意外と悩んどるの。儂の言葉が何かの切っ掛けになったとかかの?
「・・・魔物の素材云々の話はよく分からないが、宿場町から少し離れたところにある農村から魔物の目撃情報が上がって来ていない」
「あー、それは・・・もうやられてしもうたんと違うか?」
電話もネットも無いものなぁ、ここ。
「出来る限り早くギルドから調査隊を出そう。悪いが協力してくれるな?」
「あぁ、そうじゃの。答えはルカに聞かんと分からんが、まぁ、反対はせんじゃろうし、緊急事態を放置してのんびり魔術の教練を続けたいと言うような娘でも無いし」
ルカは良い子じゃからの。
今も訓練場からルカが偶然居合わせたギルドマンの皆々様に訓練をつけておる声が聴こえて来ておる。
そりゃ、下っ端の若い娘が『中堅どころを瞬殺出来るような魔術を習得した』ってなりゃ注目を集めんはずが無いんじゃよ。うちのルカは超人気者。おめでとう。めでたいの。
「あの肉体を強化する魔術、普段使っている術式とは異なる方式の魔術。あれをルカに教えたのは君なんだろう?」
「いや知らんの。儂は単なる料理人じゃからして」
「ルカは特別なところの無い普通の新人だったんだ。魔術がほとんど使えないという意味では劣等生と言えたかも知れない。それが唐突に化けたわけだ」
「そりゃ秘められた才能が開花したんじゃろ。パーッと満開になったわけじゃな」
「あの鉄鍋、呼び出してから当たり前のように片手で持ち続けていたが、普通の子供にはそんな事は出来ないと思うぞ」
ふむ。焼き飯を作る方に意識が向き過ぎてて何も考えておらなんだ。
「凄く軽い魔法の鉄鍋だったのやも知れんぞ?」
「それならそれで凄い魔術じゃないか。魔術で未知の素材を作り出してるって事なんだろ?」
ほぅほぅ、これはお手上げじゃな。
「そうじゃ、ルカに強化魔術を教えたのは儂じゃ。魔術を使えんルカが不憫での。何だかんだで恩もあるし、どうにかしてやりたかったんじゃ」
儂の答えにおじさんギルドマンはニヤリと笑っておる。大方「コイツから新魔術のノウハウを手に入れれば簡単に戦力増強だぜ」みたいな事を考えておるのじゃろうな、浅はかな事に。
「ルカの使っておる魔術じゃが、あれはルカが異様に適正があるだけで、本来なら結構難しいからの。
どれだけの人数が術式の展開まで進められるか分からぬし、アヤツ程に使いこなせるレベルを視野に入れたら更に微妙じゃ。すまんの。期待外れで」
「あぁ、それは・・・運が良ければぐらいで良いさ。今は優秀な調査員が2名増えた事を喜ぶとするよ」
「儂は料理人だと言っておろうが」
「戦えるなら料理人でも良いさ。異界があるなら早めに確認するにこした事は無いのだから」
「ま、しゃーなしだの」
外からは魔術の指導に当たるルカの声が聞こえておった。アヤツも頑張っておるし、儂も少しぐらい頑張らないといかんじゃろな、と呑気に構えておったのが、この時の儂じゃ。
後から考えれば、この世界の『道理』も分からぬのに軽々しくイレギュラーケースにクビを突っ込んだ儂が軽率じゃったんじゃろうな。
さっさと逃げとりゃ良かったんじゃ、いらん事に巻き込まれぬうちに。
今日も読んでくれてありがとう!ジワリとお話が進んで行くわけですが、ギルドで頭角を現してランクアップ!とかにはならないですし、料理人編が始まったりもしないのです。なら、どんな話になるんでしょうね?みたいな。
では、また明日!