1-6:儂と田舎の小さな異変 テンプレって大事なんじゃよ?
「胸を借りるつもりで頑張ります!」
「ちょっと待てぇい!!」
意気揚々と先輩ギルドマンとの試合?に挑もうとしておるルカを儂は大声で引き留めた。
「なんですか?試合とは言え、これもお仕事なんですから邪魔しちゃダメですよ」
「いやいや急に子供に諭す様な事を言うでないわ!
たぶん自覚は無いと思うが、今のお主は強化魔術の戦闘への応用が出来始めとるんじゃ!分かっとるか?戦闘態勢のお主は意識せずとも思考速度や反応速度が常人の比では無くなっとるんじゃぞ!」
そんな儂の言葉を聞いたルカは
「・・・はあ、そうですか」
あぁ、ダメじゃ!ちっとも伝わっとらん!!
そんな儂たちの漫才を他の者が待ってくれるわけも無い。そりゃ、そうじゃ。この場で『ルカの特異性』を理解してるのは儂だけなんじゃから。
「ほら、そろそろ始めるぞ。魔物を蹴散らす実力があるなら、こんな訓練ぐらい何の問題も無いだろ?それとも子供の相手を続ける方が重要か?」
こっちのベテラン(Cランクギルドマン仮)は何処となく言い方が嫌味っぽい。なんか助け船を出すのが面倒になるの。
「・・・まぁ、もうええか。ルカよ、出来る限りの速攻じゃ。先手必勝の気持ちでぶちかませばええ。それが互いにとって一番幸せじゃ」
たぶんの。
「はい!実力が無い分は初速でカバーします!」
あぁ、やっぱ全然わかっとらんわ。
にしても、この自分の過小評価っぷりは主殿を思い出させるの。儂は自覚無き強者に縁があるのやも知れん。
そんな儂の達観なんぞ誰も気にせず事態は進む。
ルカはチャージのために腰を落とし力を蓄え、ベテランは余裕の態度でルカを待ち受けておる。
恐らくは突っ込んで来るルカの槍を受け流して叩き伏せるつもりなんじゃろうな。
そして試合が、いや一方的な暴力の嵐が始まった。
ルカは儂の言いつけ通り最初から強化魔術を全開にして最速の一撃を解き放った。
踏みしめた足は地面を抉り、巻き起こる粉塵よりも速くベテランの胸元へと木の槍が迫る。
だが、そこに至ってもベテランは身じろぎ一つしていない。
ルカの槍はそのまま吸い込まれるようにしてベテランの皮鎧のど真ん中へと突き込まれた。
まぁ、これは当然の結果じゃな。今のルカは強化魔術の効果により脊椎反射と同程度の速度で思考を行っておるはずなのじゃから。
相手が視覚で情報を得て頭で考えて筋肉を動かしておる生き物である以上、あの状態のルカが接近戦で負ける事なんてありゃせんのじゃ。
だが残念な事にその事実をルカ自身も把握出来ていなかった。
ルカは正面からのチャージに続き、流れるように掬い上げの一撃を繰り出し、足が地面から離れたベテランに対し空中コンボを決め始めた。
コワッ。儂あんな攻撃方法なんて教えとらんぞ。
ベテランの吹き飛ぶ軌道に合わせルカの槍が縦横無尽に振るわれる。まさに滅多打ちじゃ。
主殿のような無駄の無い動きではないが、それでも十分に速く、そして多い。木の槍の猛攻はベテランの皮鎧を砕き始めておった。
だが、その時、ルカの持つ木の槍が衝撃に負け半ばから圧し折れた。
不利を察したルカは一旦攻撃を止め着地。
そして槍を一回転させ石突きで再度攻撃を・・・
「ルカ止まれ!攻撃中止じゃ!!」
再びチャージを行おうとしていたルカを静止した。
「え?」
土埃が巻き起こる程の踏み込みで止まったルカ。その顔は困惑で満ち溢れている。
「惚けとる場合か。相手の様子をよく見てみぃ」
「え?・・・演技?」
「んなわけなかろうが。鎧もぶっ壊れて意識も飛んで全身ボコボコになって勝負ありじゃ。完封じゃよ、誰にも文句がつけれん程のな」
「いや、だって、そんなはず、私、まだ槍だって上手く使えないのに」
「そりゃ、根本的な速度が違うから技とかそんなの関係無いんじゃよ。人間の反応速度を超える打撃を避けられるわけ無かろうに」
「え?」
まだルカは不思議そうな顔をしておる。何日か魔術の基礎訓練をして二日程走り込んだだけでベテランとの戦闘力の差が埋まった、いや、それどころか圧勝した、本人からすれば理解が追い付かんのも当然かもしれんが
「のぅ、そこのギルドの人よ。とりあえず倒れとるベテランさんを介抱してやってくれんか。アヤツに起きてもらわんと話が進まんのじゃろ?」
「あぁ、そうだ、それもそうだな。では俺はアイツを治療院に運び込んでくる。昼飯の材料は置いておくから二人で食ってくれ。他の手続きはカウンターにいる職員に任せてくれたら良いから。では、さっそく行ってくる」
何も良いところが無かったベテラン(Cランク仮)は剥げかけたナイスミドルの職員に担がれて退場となった。・・・また後での。
「さて、せっかく準備もしたし焼き飯でも作るとするか。米は少ないが、まぁ、たまには軽めでも良いじゃろ。どうせ夜は『急成長した新進気鋭のホープをもてなす会』みたいなのが開かれるじゃろうしな」
「え?」
「・・・お主、意外と想定外の事態に弱いの。
儂はしばらく調理に没頭しとるから、その間に頭を整理しておくんじゃぞ。たぶん、あの二人が帰って来たら根掘り葉掘り聞かれるじゃろうし」
そんな儂の言葉に無言でブンブンと頷くルカ。
田舎から出て来た若造が隠された能力で嫌味な先輩をぶちのめす。・・・なんとかギリでテンプレをこなしたと言えるかの?微妙かの?
今週も読んでくれてありがとう!忙しさの波もマシになってきたので週末投稿のペースが安定しそうです。と言うわけで、筆者を応援しても良いのよ?って人はブックマークとかポイント評価とかしてみよう!(して下さい!)
んじゃ、また来週お会いしましょう!