1-5:儂と田舎の小さな異変 ギルドじゃ!テンプレ展開じゃ!!
「これがギルドか!!」
小さな街の薄汚れた事務所。これがこの地方を管轄するギルドの支店。
「ルカに教えてもろうてはいたが、実際に目にすると胸に込み上げるものがあるの。さて、さっそく入店じゃ」
扉を開けると、そこは・・・
「あれじゃな、ハローワークみたいじゃ。掲示板と書き物スペースばっかりじゃ。酒場とか飲食スペースとか、仕事にあぶれたギルドマンが駄弁るようなスペースは無いんか?」
「そりゃ無いですよ。お仕事の斡旋所なんですから。ほら、入口で立ち止まってたら迷惑ですから、奥に入って下さいよ」
ルカに押されるままにギルドの中へと初侵入。まぁ、侵入と言うか呼び出されて来ただけなんだけどの。昨日は出張所に泊まらされて今朝から馬車で連行されたってわけじゃ。大変じゃの。
しかし、なんとなしに憧れはあったものの実際に来てしまうと夢が醒めてしまうの。もっと、こう、異世界!ギルド!イベント!!みたいなノリにはならんもんか?
昼に近い時刻じゃからか仕事を探しとる者も大しておらんし、カウンターで何やら話こんどる者も書類の処理の相談をしとるだけみたいじゃし。
と言うか、カウンターの中におるギルドの職員がオッサンばっかりじゃ。
つまらん。これはつまらんな。
「せめて新人いびりが好きな年期だけが取り柄の不器用なベテランとかはおらんもんかの?」
「・・・いたとしてもギルドの支店で悪さはしないと思いますよ」
そうか。ルカには分からんか、儂のやるせなさが。
・・・何か無いのかの?楽しい事。
せっかくギルドまで来たのに事情聴取だけで終わりでは全然愉快じゃないし豊かさが足らん。
「じゃ、私は向こうで話をしてきますから。アリスちゃんはここで待ってて下さいね」
「あぁ、そじゃの。頑張っての」
儂が説明に乗り出すとややこしくなるものな。と言っても、そもそも儂らが知ってる事なんて何もありゃせんのだけど。宿場町に着いた。魔物がおった。倒して救助活動した。それだけじゃ。強いて言えば魔物の種類ぐらいなら語れるかの?
そんな事を考えながら儂は壁に貼り出されておる仕事の募集を見ておった。それで分かったのじゃが、この世界のギルドは儂が創作物で親しんでおったギルドとは少し違うようじゃ。仕事の内容は基本的には『魔物狩り』か『武力の提供』ばかり。イメージ的には傭兵の派遣業と言ったところかの。
となると、あの田舎の村で身寄りのないルカがギルドの仕事を請けおった理由は
「なぁ、お嬢ちゃん。君はルカの身内か何かなのかい?」
何時の間にやらカウンターの中におったナイスミドルが儂のそばまで来ておった。身体もデカくて剥げかけた頭の前側に傷跡もあるから『現場を引退して事務職に就いた元ギルドマン』ってとこか。
「儂はルカの旅路の同行者じゃよ。別に親戚であったり血縁であったりするわけではないぞ」
よく知らん人に個人情報は語ったらいかん、そう主殿に言われとるからの。
「となるとギルドマンに憧れたくちか?子供でも資格は得れるが、正直あまりお勧めはせんぞ?
最低ランクの仕事なら危険は少ないが、小遣い程度の実入りで危険を冒さなくても生きていく道は色々とあるからな」
「あー、儂はギルドマンになるつもりは無いんじゃ。旅の中での儂の役目は飯炊きでな」
「は?調理専属って事か?そんな事のために子供を連れ歩くのはリスクが大きくないか?」
なるほど、そうとるか。ここはルカが訳アリの子供を連れ歩く方便と受け取って欲しかったのじゃが。仕方ない。路線変更じゃ。
「実はの、儂は料理人専用の魔術を受け継いでおる凄腕なんじゃ。せっかくじゃから見せてやろう。中華鍋召喚!!」
まぁ、普通に投影魔術なんじゃが。
左手で握る形で元の世界で愛用していた中華鍋を顕現させた。デカくて分厚くて、とても火の通りが良い素敵な鍋じゃ。
「・・・凄いな。物を呼び寄せる魔術なんて初めて見た」
「秘伝じゃからの。せっかくじゃし、何か作ってみようかの?儂の作る飯は美味いぞ。
ちなみに、昼も近いし焼き飯がオススメじゃ」
久しぶりに中華鍋を持ったら作りたくなっただけじゃけどな。
「あぁ、それならお願いしてみようかな。昼に食べようと思ってた握り飯があるから、それを崩して使ってもらうとして、油とか他に必要な物はあるか?」
「具材含めちょこちょこ残っとるから大丈夫じゃよ。んで、火は何処で使ったら良いんじゃ?出来れば竈を組んでも問題無い場所を教えて欲しいんじゃが」
「裏手に訓練所があるから、そこで良いか?この時間なら誰も使ってないはずだから」
「了解じゃ。ふむ、あっちの扉か。んじゃ、先に行って準備しとるからの」
ええの、ええの。面白みの無いギルドではあったが中華鍋を振れると思うと気分が上がってきおったわ。
やっぱり儂はギルドマンより料理人の方が向いとるようじゃ。
そして儂はわき目もふらずに訓練所へ・・・って運動場じゃな。ここで火を使ってもええんかの?
そんな事を思いながらも壁から十分に離れたところの土を弄って竈を成型、鍋を煽れるぐらいの高さに微調整をして、荷物から食材やら油やらを出し準備を進めて行く。
儂にかかれば、ちょちょいのちょいじゃ。
「うおっ、もう用意出来てるのか。この短時間で竈まで・・・確かに飯炊き専業でも連れて行きたくなるな」
「ふっふっふ、驚くのは今からじゃぞ。儂の作った料理は妙に美味いからの。まるで未来の技術を先取りしたような最高の焼き飯を食わしてやる」
実際に先取りしとるから美味いんじゃよね。ルカの村がアレだった事を踏まえても、ここの料理とは別次元じゃよ。
「あっ、アリスちゃん。こんなところでお料理ですか?今から試合なんで少し待ってもらえると嬉しいんですけど」
ふらりと現れたルカは訓練用の皮鎧と木の槍を持っていて、後ろにはベテランの戦士風の男が同じ装備を付けて
お主・・・まさか、それは・・・
「ルカよ、それはひょっとしてCランクのベテランが報告内容とお主の力量が釣り合っていないと判断して『俺がお前の能力を確かめてやるぜ』みたいな感じのイベントが起こっておるのではなかろうな?!」
「わっ、凄い!その通りです!流石ですね、アリスちゃん!どうして分かったんですか?」
なんで儂のいないところで楽しそうなテンプレイベントが起こっとるんじゃ?!楽しみにしておったのに!!
今日も読んでくれてありがとう!筆者、少し生活に余裕が出て来ました!(投稿ペースが上がる程では無いです)