1-1:儂と見知らぬ場所 なんぞ悪い事でもしたのかえ?
本作は以下作品のスピンオフとなります。
猫と僕と知らない世界
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目を覚ますと、そこは森の中じゃった。
木々の葉っぱの隙間からキラキラと陽光が漏れておる。
背中に当たる感触もフワフワと柔らかく、少し湿ってはおるものの不快感はあまりない。・・・ちょっとモゾモゾした感触があるぐらいじゃの。
・・・うん、あれじゃ、なんか知らんが森の中に仰向けで寝かされておったようじゃの、これ。
「なんでじゃ」
さっぱり状況が分からん。なんで儂はこんなところで寝とらんといかんのじゃ?
見た目だけとは言え、年端も行かん少女を、しかも艶々ロングの金髪に真っ白なワンピースという明確に何処かのお嬢様っぽい少女を森の中に放置せんといかん理由ってなんじゃ?
あまりに絵面が酷いじゃろうが!
犯罪臭がキツ過ぎるじゃろうが!!
・・・・・・
・・・
まぁ、別にええか。そんなもん考えたところで何の意味も無いしの。
経緯も含め、そのうち何やかんやと思い出してくるじゃろうし。
「ちょいや!」
ネックスプリングでスパっと飛び起きる。
小さな虫やら土埃が飛び跳ねた勢いでポロポロと周囲に飛び散った。
周囲をキョロキョロと見渡すが、案の定、その景色に全く思い当たる部分は無い。
「あー、なんも分からんの。完全に記憶が飛んでおる。儂をこんな風に追い込んで転がせる可能性があるのは」
十中八九、奥方が犯人で間違いなかろうな。
儂が主殿にいらんちょっかいをかけて、それで奥方がブチ切れて何かしらの術式で儂を前後不覚にして森に放置した・・・そんな感じじゃろ、たぶん。
そんな妄想をしつつも儂は魔力で靴を、森を歩きやすいようにスニーカーを生み出してサクサクと歩き始めた。
ここが何処かも分からんし、事情もさっぱり思い出せんが、森の中に留まっておっても良い事無いしの。
幸いにも太陽の高さからして今は昼過ぎ。早めに移動を開始すれば暗くなる前に人がおるところまで移動出来るじゃろうって感じじゃ。
「にしても、スマホぐらいは持たせておいて欲しかったのぅ。完全に手ぶらで放り出すとか、何かの罰にしても、ちょっと厳しすぎると思うんじゃよ」
なぁ、過去の儂よ。なんぞ悪い事でもしたのかえ?随分と酷い目にあっとるんじゃが。
流石の奥方とは言え、ちょっと主殿に悪戯した程度では、ここまでの事はせんと思うのじゃよ。・・・せんはずじゃよ?
森の中とは言え足元の草の背は低く、小柄な儂でも順調に歩みを進める事が出来た。もちろん、草や虫を掻きわきながら進むのは鬱陶しいので緩やかに生気を吸い取りながらではあるが、なんやかんやで順調ではあった。
だが、そんな順調な旅路が続いたのは、ほんの僅かな間だけ。
「腹が減ったの」
そう、飯を食っていないのである。人里離れた森の中、手ぶらでうろついている儂に腹を満たす手段などありはせん。
もちろん、その辺りにいる鳥なんぞを魔術で撃ち落として火を通せば食えん事は無いのじゃろうが・・・塩も無ければ水も無い、ついでに言えば山火事のリスクを無視するわけにも・・・
「いや、鍋程度なら魔術で再現出来るの。焼く以外にも煮るぐらいなら、この場でもなんとか」
そんな風に夕食の実現方法に意識を向けていると、ふと懐かしい音が聞こえて来た。
硬質な物同士が激しくぶつかり合う戦闘の音。
誰かが何処かで命の奪い合いをしている音。
まだ距離は随分とある。無視しても良いのじゃが・・・質はともかくとして少なくとも人間がおる事だけは確実。無意味に森を彷徨い続ける事と比べたら・・・
儂は音のする方へと駆け出した。
枝やら草やら虫やら小動物を吹っ飛ばしながらも際限無く加速を続ける。
イメージするのは主殿の強化魔術。自分の身体を一時的に作り替え最適化し、魔力という燃料をそこに流し込む。
景色が流れ、瞬く間に森の切れ目が見えて来た。
「あれか!」
目標を発見したので木に隠れて、まずはコッソリ観察タイム。
まず目立っておるのは人間大のトカゲ?のような生き物。
二足歩行しておるし、棍棒みたいなの握っとるし、なんか三匹?三人?でフォーメーション組んどるし、たぶん魔術師が作った私兵的なもんじゃろ?始めて見るタイプではあるが。
そして、そのトカゲ隊と相対しているのは粗末な革の鎧を身に着けた少女。
武装は穂先だけ金属の雑な槍。遠目なんでハッキリとは分からんが、オシャレさんなようで肩口あたりまでの髪を黒に近い深い紫に染めているようじゃ。今どきの若者は凄いの。
それはそれとして状況はあまり良くないようじゃった。
多勢に無勢。少女の後ろには横倒しにされた粗末な荷車。いんや、荷車というか馬車じゃな。
・・・この時代に馬車!あの少女も魔術絡みの人間なのじゃろうが、そこまで現代社会から目を背ける必要も無いじゃろうに。便利じゃぞ、軽トラ。
まぁ、それで儂はどうすべきかじゃ。
主殿なら「一概にどっちを助けるのが正解かは分からないよ」とか言いそうじゃが、儂は悩まん。即断即決じゃ。後悔なら後ですれば十分。
木陰から飛び出し加速のままにトカゲの一匹にドロップキック。
背中を押されたトカゲは無様に地面に転がった。
「そこな少女よ!義を見て助太刀致そう!構わんな!」
口上は大きく胸を張って。堂々としていれば大概の問題はどうにかなる、そう奥方が言っておった。
「・・・は?」
呆気に取られておるな。そら、こんな山の中で助けが来るとは想定もしておらんものな。もう大丈夫じゃからな。
「なんで子供が?!速く逃げて!!」
そっちか。いや、それもそうか。儂って可愛らしい少女にしか見えんものな。
にしても、自分もピンチじゃろうに、乱入して来た子供の心配が出来るとは。ふむ、関心じゃの。
「よし。気に入った!儂に任せておけ!!」
主殿ほどでは無いが、儂も暴力には自信があるんでな。トカゲぐらい恐れるに足らずじゃ。
ホントじゃぞ?
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