準備
復讐するための準備をするため王国から離れた俺は身を隠す場所を探していた。
そして王国から少し離れた場所に森を見つけた。俺はゆっくりと降下して地面に足をつけた。
「…なんなんだこの力は」
俺は全身から出る漆黒の瘴気に目を向けてそう呟いた。こんな力、見たことも聞いたことも無かった。5属性の魔法じゃないのか?でなければシュネの魔法がかかっていた俺が発動できるはずがない。
「…どうしてなんだよ」
王国を離れて緊張の糸が切れたのか俺の目からとめどなく涙が流れてきた。信じてたのに、マレスも、シュネも、国王も、王女も、国民も。みんな俺を慕っていてくれていると思っていた。
だが現実はどうだ?ずっと嫌いだったと言われ母親と妹を殺された。面白そうだから裏切ったと言われた。国を救ったのに危険人物だと言われ裏切られた。
俺は、俺はアイツらを許せない。許すことなど出来ない。俺を裏切った全ての人間を確実に殺すまで止まれない。
「さぁ、始めよう」
表情が無い俺の顔を涙が零れ続ける。この先俺はもう涙を流すことは無いだろう。
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「勇者ヒシスが逃げ出した!追え!」
その頃王国では全ての人間がパニックを起こしていた。
(くそ!ヒシスの野郎!もうちょっとで死んでたくせに!死に損ないが!)
ヒシスに火をくべた張本人のマレスはそんなことを思っていた。
(だがまぁいい。この手でアイツを殺せるかもしれなくなったんだからなァ)
マレスはヒシスを憎んでいた。あの目が、自分を下に見て同情するような目が憎くて仕方がなかった。
マレスは生まれた時から特別だった。マレスの母親はマレスを産むために帝王切開をしたのだ。帝王切開は非常にリスクが高く、子供が生まれても母親が死んでしまうことが大半だった。だがマレスが生まれた瞬間、帝王切開で開いていた腹が淡い光に覆われて瞬く間に傷1つなく元の状態に戻ったのだ。
そんな生まれながら特別だったマレスは子供の頃から自尊心が膨れ上がっていた。周りは平凡で自分が特別なのだと。
だがヒシスに出会った。出会ってしまった。ヒシスは唯一無二の特別だった。それこそマレスの比にならないほどに。
そんなヒシスを見たマレスはとてつもない嫉妬心に駆られた。
なぜ自分よりも特別なやつが居るんだと。
マレスにはそれが許せなかった。だから旅に出る前国王に呼ばれてあの話をされた時、マレスは迷いなくその話に乗った。
これで邪魔なやつを消せると、そう思ったのだ。
だがヒシスは死ななかった。そして更に特別な力を手に入れた。まただ、また自分より特別になった。もうマレスは我慢の限界だった。この手でヒシスを殺すことでしかその怒りは収まらない。マレスはヒシスを殺すことを決意した。
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「そうだな…まずは母さんとマーシャを殺したマレスからにしよう」
漆黒の復讐者はマレスという獲物に目をつけた。
もう彼は止まらない。
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