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処刑

地下牢に閉じ込められてから何日経ったのかはもう分からない。だが着実に処刑の日がが近づいてきている。



俺は特殊な地下牢に手足を拘束されて閉じ込められていた。シュネの魔法がかかった地下牢に。この中じゃ魔法が使えない。



ツカツカという音を立てながら見守りがやってきた。


「今日の飯だ」


そう言って檻の中に置かれたご飯はドブの水で作ったようなスープだけだった。


「ふっ、お前にはそれがお似合いだ」


どいつもこいつもなんなんだよ。俺が何をしたって言うんだ。俺はこの国のために本気で戦ってきた。旅の途中、何度も死にそうになりながらも魔王を倒すことが使命だと信じて戦ってきた。こんなヤツらのために。



前までなら人のためだと言って剣を奮っていただろう。だが今の俺はこいつらを殺すことしか頭にない。殺したくて殺したくてしかたない。


「お、王女様?!」


「少し、外してくれるかしら?」


「は!」


ガチャと音を立てながら牢屋の扉が開き誰かが入って来て俺の前で止まった。俺はゆっくりと顔を上げる。


「王女様…」


そこにはこの国の王女、スペンシーヌ姫が居た。姫は俺のことをとても労わってくれた人だ。


「ぷ、あはははっ!惨めですわね、ヒシス」


…あぁ、この人、こいつもそうなのか。


「今どんな気分ですの?悔しい?苦しい?憎い?恨めしい?」


「うるせぇ…」


俺はそう言って王女を睨みつける。


「…なんですのその目は。なんですのその目は!!」


「ぐっ!」


王女は足を勢いよく振り上げ俺の顔面を思い切り蹴ってきた。何度も何度も何度も。


「あなたなんて!生きてる価値の無い!クズですのよ!」


王女が息を荒らげてそう言ってくる。


「はぁ、はぁ、血でお洋服が汚れてしまいましたわ。汚らしい」


蹴ったのはお前だろ。



分かる。俺の中にどす黒い感情が蓄積されていくのが。


「ふん、せいぜいあと1日の命。大切にしなさい」


なるほど、俺は明日処刑されるのか。だがこのままじゃ死ねない。俺はまだアイツらを殺してない。



-------------------------------------------------------

「この者、勇者ヒシスはサスティ村に住んでいた自身の母と妹を虐殺した残虐で非道な外道だ!」


なるほど、そういうシナリオか。俺は今国の広場で張り付けにされていた。もちろんシュネの魔法で5種全ての属性、火、水、風、土、氷の魔法が禁じられていた。


「なんてやつだ!」


「勇者の皮を被った悪魔だ!」


「自分の肉親を殺すだなんて…」


「死んじまえ!」


今まで散々国を救ってきたのにこの扱い。今俺への暴言を吐いているやつの中には俺が直接助けたやつも混じっていた。王が王なら国民もここまで堕ちるのか。こんなヤツら助ける価値なんて無かったんだな。改めて自分の愚かさに嫌気がさす。


「よってこれよりこの者を処刑する!」


「いいぞー!」


「殺せ!」


「殺せ!」


「殺せ!」


「殺せ!」


「殺せ!」


「火あぶりの刑だ!」


国王が声高々にそう言い放つとマレスが松明を持って俺の傍に近寄ってきた。


「いやァ、役得だなァ。お前を殺せるなんて」


やはりマレスは見るに堪えない卑しい笑みを浮かべていた。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


「何ブツブツ言ってんだよ。殺せるもんなら殺してみろ」


マレスは笑いながらそう言い、松明の日を俺の服に引火させた。


「ぐぅぅっ!」


熱い。全身が灼熱の炎に焼かれる。こんな熱さは初めてだった。いや、この胸の奥に宿っている炎に比べればなんてことの無い熱さだ。この復讐に燃える炎に比べれば。俺はこいつらを殺す。絶対に殺す!どんな手を使ってでも殺す!後悔してもしきれないほどの苦痛を与えてから殺す!殺す殺す殺す!



その時、俺の全身から闇よりも暗い闇が吹き出した。


「っ!?おいシュネ!何やってんだ!あいつ魔法使ってるぞ?!」


「え?!嘘!魔法は使えないはずだよ!?」


「じゃあなんだってんだ?!」


「知らないよあんなの!全ての魔法を司る私でさえあんなの見たことない!」


なんだ…この体を焦がすような感情は。全てを終えるまで消えることの無い炎は。



俺の全身を包み込んでいた灼熱の炎は消え、身体中の火傷は消え去っていた。代わりに瘴気を放つような漆黒の闇が俺の全身を包み込んでいた。


「な、馬鹿な!あいつは回復魔法は使えないはずだ!」


憎い。全てが憎い。国王も、マレスも、シュネも、王女も、この国の国民も。全てが憎い。きっと今俺が暴れればこの場にいる全ての人間を確実に殺すことが出来るだろう。だがそれじゃ満たされない。後悔してもしきれないほどの苦痛を与えてから殺す。それが出来なければ意味が無い。だから今は我慢だ。



そう思った俺はなぜだかこの力の使い方が手に取るように分かるため浮遊した。


「な、逃げるぞ!殺せ!」


その掛け声で広場の防衛にあたっていた兵士たちが武器を握りしめた。その中の弓兵が俺に向かい矢を放ってきた。だが俺に向かって放たれた矢は俺の全身を包んでいる漆黒の闇によってその意味を無くした。


「矢が弾かれた?!」


「俺はここに宣言する」


俺は口を開いた。


「お前たち全員を後悔のどん底にたたき落としてから殺してやる」


その日、全てを恨み全てを消し炭に還す漆黒の復讐者が生まれた。

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