プロローグ
「やっ…たぞ…やっと、やっと魔王を倒したんだ…!」
俺の目の前には魔王の亡骸が転がっていた。今しがた打倒した魔王の遺体だ。
「これで世界が救われた…シュネ!マレス!やったな!」
俺はここまで一緒についてきてくれた魔王討伐の旅を共にした大切な仲間に声をかけた。シュネは全ての魔法を司る大魔術師、マレスは命に関わる人体の損傷でも一瞬で直してしまう僧侶だ。
「…あぁ、本当によくやってくれたな」
「うん、魔王を倒してくれてありがとう」
2人の少しおかしな言い回しが引っかかったが今はそんな事どうでも良かった。ようやく人間に仇なす存在の魔王を倒せたんだ。今はその事を素直に喜びたかった。
「これはみんなで掴み取った勝利だ…本当にありがとう…」
俺は改めて勝利を噛み締めて2人にお礼を言った。
「さぁ!早く王都に帰ろう!」
「そうだな…」
「そうだね…」
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「勇者ヒシスを捕らえろ!」
そんな言葉が国王の口から出たのは魔王討伐の報告を終えた瞬間だった。
「は?」
当然俺は意味が分からなかった。
「こ、国王様?い、一体どういう…ぐっ!?」
俺が困惑していると後ろから左右に整列していた兵士たちが俺を押さえ込んだ。
「勇者ヒシスよ。魔王を倒してくれたことは感謝している。だがお前は有名になりすぎた。このままでは国の政治にも影響を及ぼしかねん。ならば勇者には早々に退場してもらうしかないだろう」
「くっ!離せ!なんなんだ!シュネ!マレス!大丈夫か?!」
俺は2人のことを心配して声をかける。
「あぁ、大丈夫だ」
「大丈夫だよ」
2人からは全く慌てている様子が無かった。どういうことだ?
「え、は?どういう、ことだよ」
2人は取り押さえられていなかった。さっきから魔法が使えない。そして俺はこの状態を知っていた。シュネの魔法だ。対象の魔法を禁ずる魔法。旅の途中によくお世話になった魔法だ。それが今俺にかけられている。つまり2人は俺を捕らえるつもりだということだ。
「どうして…どうしてだよ!俺たちは信じあった仲間じゃないか!助けてくれ!」
俺はわけが分からず声を上げる。なんで俺を裏切ったんだ?さっきまで一緒に命をかけて戦っていた仲間じゃないか。それがどうしてこんな事に…
「どうして、か」
マレスが俺に近づいてきた。そして抑えられて顔の位置が低くなっている俺の髪を鷲掴みにして無理やり上に持ち上げた。
「それはお前が邪魔だからだ」
マレスの表情は醜悪な笑みに染まっていた。
「まれ、す?」
「俺とお前が仲間?笑わすなよ。俺はお前のことなんて1度も仲間だと思ったことなんてない。ほんとに苦痛だったぜ。お前とパーティーを組んで旅をする日々は。言っておくが俺はお前のことが大っ嫌いだったんだよ。お前は俺の踏み台だ。俺が名声を手に入れるためのな」
「お前…そんなことのために俺を騙したのか?!」
俺は糾弾した。
「あぁそうさ!これで俺は一生生きるのに困らない!やりたい放題だ!今まで勇者としてご苦労だったなァ!」
「くそ!」
マレスはもうダメだ。それならシュネは…
「シュネ!頼む!こいつらを退かせてくれ!」
「あう…えっと…」
シュネは元々気が弱い少女だ。だが今はそんなこと言ってられない。もしかしたらシュネは脅されているのかもしれない。
「シュネ!」
シュネは困ったように眉を顰めていた。だが次の瞬間。
「あはっ!ほんと無様だねヒシス!」
マレス同様、表情が醜悪な笑みに変わった。
「…は?」
「私がか弱い女の子だと思ってた?思ってたよね!残念!ヒシスは最初から私に騙されてたんだよ!」
俺は頭の中が真っ白になった。
「どう、して…」
「どうして?うーん…特に理由は無いかな?」
「は?」
本当に意味が分からない。特に理由は無い?ならどうして俺を裏切った国に味方しているんだ?
「実はね?私たちが旅に出る前、マレスと私は国王様に呼び出されたの。勇者が魔王を倒せばその噂は瞬く間に国中に広がるだろう。そうなれば政治にも影響を及ぼす存在になるかもしれない。そんな危険な人物を野放しにする訳にはいかないから魔王を倒して帰還したら勇者を捕らえる手助けをしてくれって。私は二つ返事で了承したよ。だってそっちの方が面白そうだったもん!だから魔王を倒した後ワクワクしてたんだ!仲間だと思ってた私たちに裏切られたヒシスがどんな反応をするのか!もう本当に最高だよ!」
「そん、な」
つまり最初から仕組まれていたことだったのだ。最初から2人は俺のことを仲間だなんて思っていなかった。その事がとてつもなく悲しかった。悲しかったがそれ以上に
「くそっ…母さんとマーシャにどんな顔すればいいんだよ…」
その事が頭を過ぎった。故郷のサスティ村に居る母親と妹。俺の世界でいちばん大切なもの。
「ん?あぁ、安心しろヒシス。もう合わせる顔なんて無いんだからな」
「どういう、ことだ?」
嫌な汗が頬を伝う。心臓の鼓動が早くなる。
「…」
マレスはいやらしい笑みを浮かべたまま黙っている。
「おいマレス!どういうことだ!!」
「ほらよ」
俺の前に何かが投げられる。俺はそれを見た瞬間体が硬直した。
「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
目の前が歪み正しく息が出来なくなる。投げられたそれは母さんとマーシャがいつも身につけていた銅でできたペンダントだった。
「俺が殺しておいてやったぜ」
「マレスゥゥゥ!!」
「おいおい、そんなに怒るなよ」
自然と涙が頬を伝う。
「なんで、なんで母さんとマーシャを殺した!!あの二人は関係無いだろ!」
「ヒシス、俺がさっき言った言葉を忘れたのか?俺はお前が嫌いなんだよ」
「あああぁぁあぁあぁぁああ!!」
言葉にならない怒りが込み上げてくる。
「ヒシスを地下牢に閉じ込めておけ!10日後の正午、街の広場で公開処刑する!」
殺してやる…お前ら全員…殺してやる。
良ければ読んでください。




