3,惚れさせてみて
「エルミー様、お慕いいたしております」
騎士の少年の言葉に、エルミーは唖然とするしかなかった。
何を言われているのかようやく理解した後、とてつもない疑問が湧いてくる。
なぜ今? どうしてここで? 本気?
彼の調子を見れば、ふざけていたり冗談を言っているようには思えなかった。
では、一体。
「何を……言っているの?」
「そのままの意味です。――お恥ずかしながら、俺はずっとあなたのことを愛しておりました」
「は?」
はしたなくも、そう声を漏らしてしまうエルミー。
ダンはとてつもなく真剣な顔をしているのに、どうにもついていけない。
「ずっとあの野郎……ジルク様は胡散臭いなと思っていたんです。でもエルミー様は彼を好いていらっしゃったようですし……。けれどこのような事態になった以上、もはや彼を許すことなどできません。そして、この気持ちを抑える必要もないかと」
「つまり、あなたは私のことが好きだったっていうの? 小さい頃から?」
「はい。無邪気で可愛らしいそのお姿が、大好きです」
ダンの顔は真っ赤だった。
ただでさえ婚約破棄されて大混乱中だというのに、告白までされてしまい、エルミーはどうしていいのかわからず戸惑うしかない。
なんと答えればいいのか? どういう風に受け取ったらいいのか?
エルミーにとってダンは頼れる友人かつ護衛であるが、それ以上ではない。
なのに心構え一切なく迫られてしまった。
第一、エルミーは身分は低いとはいえ歴とした貴族令嬢である。
元平民であり騎士としてもまだ新米のダンとは、身分的にとてもとても釣り合いっこないと思った。
「あのね、ダン。気持ちは嬉しんだけど」
「承知しております。俺にとってエルミー様が殿上人であることは。それでも俺はエルミー様のお傍にあるだけでは満足できないのです。愚かと、そう言われればそれまでですが」
エルミーを腕の中からそっと離し、ダンがそう言って笑う。
いやこれ……マジなんだ。彼は至極真面目に言っているに違いない。
こんな心ボロボロの時に?
そんなに言われたら、縋りたくなってしまうじゃないの。
でもエルミーは子爵令嬢である。
子爵家を守るため、金持ちに嫁ぐという義務がある。例え侯爵家がダメでも、まだ別の金持ちの家はあるだろう。
例え愛がなくても、それがエルミーの果たすべき役目――。
「やっぱそんなの嫌だ。……ねえねえ私の騎士」
「はい」
「私を惚れさせてみて。そしたら結婚してあげる」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、エルミー子爵令嬢は屋敷から忽然と姿を消していた。