4時間目 妖退治出張サービス(1)
「それじゃあ、この狐が……お狐さまがこくりちゃんのお父さんで、わたしが見た狐のおばけだったんだ?」
「うむ。驚かせてすまなかったな。今後とも狐栗共々世話になる」
「は、はい……」
こくりが黙々とピザをうまうましている中で、みっちゃんの部屋で姿を現したお狐さまは自己紹介をした。
すると、流石に喋る狐に説明されては疑うのも馬鹿らしくて、みっちゃんはそれを信じて頷いた。
「美味いです。二人とも食べないんですか?」
「え? ああ、うん。食べる食べる」
「儂も頂こう」
こくりにピザを渡され、みっちゃんはパクリと口に含み、チーズを伸ばす。
そして、こくりとお狐さまを交互に見て、伸びまくるチーズと格闘しながら考えた。
(このチーズ伸びすぎ……じゃなくて、あの日見た狐のおばけが、こくりちゃんのお父さんだったなんて……。きっと暗い感じの事情があるんだろうなあ)
「こくりは捨て子です。今流行の親ガチャ失敗です。赤ちゃんの頃に山に捨てられて、パパに拾われて育ちました」
「ほっはあ…………っんん!?」
相変わらずの眠気眼な無表情で重めな過去を話したこくり。
しかし、その瞳はシイタケになっていて、十字はピザを食べながら輝いている。
だが、みっちゃんからしたら、それはとんでもない爆弾発言。
親ガチャがどうのと、そんな事を言ってる場合では無いくらいには重い話。
みっちゃん的には、軽い感じで親ガチャとか言えないくらいには暗く重い過去。
なんと言えば良いのか分からなくなり、言葉に詰まって、ついでにピザも喉に詰まって慌てる。
すると、こくりが自分が飲んでいたオレンジジュースを差し出して、みっちゃんはそれを受け取って一気飲みした。
「はあ、はあ。ありがとー」
「どういたしまして」
「あ、あのさ、こくりちゃん」
「ピザのおかわりですか?」
「え? ううん、なんかもういいかな」
こくりが二切れ目のピザを差し出すと、みっちゃんがゲッソリした顔で断る。
すると、こくりは差し出したピザを器に戻して、自分はもぐもぐチーズびょろーんを再開した。
「美都子よ、こくりの生い立ちの事なら気にせんでよい」
「は、はあ……」
「ほふひははひほんほほうひ――」
「あ、ごめん。こくりちゃん。お口の中のもの飲んでから喋ってほしいかも」
「ははひはひは」
「…………」
こくりは返事? をすると、言われた通りにごっくんする。
みっちゃんはそれを冷や汗を流して見守った。
「こくりはライオンのように谷に落とされて試練を乗り越えてるのです」
「え? あ、うん?」
「野生児こくり爆誕です」
「野生児……?」
「こくりは国際的つよつよ神主マスターになります」
みっちゃんは思う。
(全然気にしてなさそう。国際的つよつよ神主マスターってなに……?)
と言うわけで、こくりの鋼ポジティブメンタルのおかげで、重い筈の過去はよく分からない方向へと向かっていた。
実際に、みっちゃんの目から見ても、こくりの瞳には闘志が宿ってメラメラと炎が燃えている。
と言っても、その表情は相変わらずの眠気眼な無表情なわけだが。
あまりにもこくりが気にしていなさすぎて、みっちゃんが逆に困惑していると、お狐さまが側に来る。
「ところで美都子、聞きたい事があったのではないか?」
「――っあ。はい。そうでした」
みっちゃんは改まって真剣な表情を見せ、お狐さまと目をかち合わせる。
そして、その様子を、こくりがうまうまとピザを食しながら見守った。
「こくりちゃんに助けてもらった時に、人体模型が青い炎で燃えてて、こくりちゃんのお尻からも同じのが出てました。あれって何なんですか?」
「ふむ。その話か。しかし、困ったのう。その話をすると、言霊となって負を呼び寄せ、今後お主に災いが起きるやもしれん」
「災い……?」
「うむ。あまり儂等側の事を知りすぎると――」
「これは“燐火”です。変態の妖退治に使います」
そう言って、燐火を手の平の上に出すこくり。
「――狐栗よ。何故言ってしまうのだ?」
「変態の……妖…………? え? やだ、怖い」
お狐さまが冷や汗を流し、みっちゃんがドン引きする。
「この世の全ての魑魅魍魎の変態を妖と言います」
「おばけの変態って事なの?」
「そうです」
「っこわ」
「今更だが、変態では無く変異体だ」
「そう、変態です」
「…………うん」
みっちゃんは思う。
(どうしよう? もう変異体って聞いても、勝手に頭の中で変態になっちゃう)