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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第2話 きぬつたクリーニングへようこそ
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1時間目 お友達の家に行きます(1)

 この世に蔓延はびこる怪奇な現象。


 人々の心から忘れ去られていく“おばけ”や“幽霊”や“妖怪”のたぐい


 それ等が詰まったこの世の不思議は、


 時が経つにつれ薄まっていく。


 だが、そんな不思議が今でも集まる場所がある。


 それが、世界に名だたる名門女子校【私立妖花(ようか)威徳(いとく)女学園】。


 幼稚舎から大学までエスカレート式に通える少女達の学び舎。


 “妖花”や“威徳”などと言う可笑しく奇怪な名の学園ではあるが、


 設立当時はこの名前が【徳女】と略されて話題となり、


 徳を積む事の出来る学園として、名家のお嬢様方からの注目を集め、


 今では名門と呼ばれる学園となった。


 しかし、時が経ち、今では若者たちから【妖女】と呼ばれ、


 その名に釣られた一部マニア達からも一目置かれた乙女の園。


 この物語は、そんな可笑しな名の学園に通う幼女『狐栗こくり』の、


 奇妙で不思議なあやかしが満載な物語である。







 天気の良い真夏のような気温がする7月上旬の初夏。

 通園する幼女たちがたくさんいる朝の八時前。

 初等部一年の絹蔦きぬつた美都子みつここと“みっちゃん”は、幼稚舎の前でソワソワしていた。


「おっきーお姉さまがいる」


「ほんとだー」


「何かあったのかなー?」


 幼稚舎にやって来た幼女たちは不思議そうに話し、みっちゃんはそれに気づいて木陰に隠れる。

 しかし、その姿は完全に不審者そのもの。


 みっちゃんは初等部指定の制服を着ていて、身長は125.3センチと同世代の子と比べて高い。

 ただ、高いと言っても、あくまで同世代の子と比べればの話。

 みっちゃんより身長の高い生徒は、初等部に行けばたくさんいる。

 髪は黒色で肩下くらいまでのウェーブのかかった普通の髪型で、ブルーのグラデーションカラー。

 とてもオシャレで可愛らしいファッションとも言える容姿で、怖い要素は無い。

 しかし、駄目だ。


 木陰から幼女たちをガン見しているのだから、いくらオシャレだろうが、気の弱い子が見れば恐ろしいのは変わらない。


 遂にはみっちゃんを見て半泣きで幼稚舎に逃げ込む幼女まで現れて、先生が異変に気がついてやって来る。

 するとその時、相変わらずの眠気眼な無表情をたずさえた狐耳装着幼女こくりがやって来た。


「あなた、そこで――」

「こくりちゃん!」


 先生が話しかけるのとほぼ同時に、みっちゃんがこくりの名前を呼び、声を上げた二人は動きを止めた。

 そして、みっちゃんは顔を真っ青にして先生を見て、先生はこくりとみっちゃんを交互に見る。

 こくりはと言うと、つい先日チューして友達になったみっちゃんが現れたので、相変わらずの眠気眼な無表情を向けて近づいた。


「みっちゃんとやまぞの先生おはようございます」


「ふえ。あ、うん。おは……ごきげんよう」


「ごきげんよう。えーと……こくりさんのお知り合いかしら?」


「みっちゃんはこくりのお友達です」


「そうなのね。えーと……」


「絹蔦美都子です」


「そう。美都子さん、驚かせてしまってごめんなさいね」


 不審者のみっちゃんがこくりの友達と知ると、山園先生は謝罪してから幼稚舎の中に戻って行った。

 山園先生がいなくなって二人きりになると、みっちゃんの顔色がようやく元に戻る。


「この前は逃げちゃってごめんね。それで、その時に言ってたお返しの事なんだけど……」


「ご馳走ですか? こくりは何でも美味しく食べられます」


「え? そ、そうなんだ? じゃなくて、連絡先聞いてないなって思って待ってたの」


「連絡先ですか? こくりは芍薬しゃくやく寮の596号室です。持ち運びできる電話は持ってません」


「……え!? 持ってないの!? アイフォンも? スマホも?」


「持ってません。こくりは一文無しです」


 まさかの発言にみっちゃんが驚き、こくりは何故か自慢気。

 と言っても、その顔はいつも通りで相変わらずの眠気眼な無表情。


 みっちゃんは驚き終わると、今度は「どうしよう」と頭を悩ます。

 すると、こくりはいつものメリハリのない声色で提案する。


「図書館で待ってます」


「図書館……?」


「はい。こくりの住んでる芍薬寮にある図書館です」


「ああー。学生寮の図書室だね。夜ご飯をご馳走するけど……。日曜日のお昼前の11時に迎えに行くね。あ、時間は大丈夫?」


「大丈夫です。ご馳走楽しみです」


 こくりが頷くと、みっちゃんはホッと安心して、柔らかい微笑みを見せる。

 と言うのも、この前逃げてしまったし、最後には断られるんじゃないかと思ったからだ。

 だから、ちゃんと楽しみにしてくれている事に安心した。


「決まりだね。それじゃあ、そろそろ行くね。こくりちゃん、また日曜日に会いましょ」


「うん。お別れのチューしますか?」


「――ええ!? し、しないよ! わたし達お友達だなんだよ!」


 突然のチュー発言。

 この前のファーストキスの記憶がよみがえり、みっちゃんの血は上昇し、顔がこれでもかと言うくらいに赤くなる。

 対してチュー発言のこくりは、特に気にした様子も無く、相変わらずの眠気眼な無表情。


「はい。仲良しのチューです」


「お友達はチューしないのー!」


「……?」


 みっちゃんは顔を真っ赤にさせたまま駆け出して、こくりはその背中を見つめながら首を傾げた。

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