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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第1話 運命の出会い
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4時間目 ようじょのこくりちゃん(4)

 学園の七不思議の一つ“動く人体模型”を退治してから一夜が明け、少し雨雲が見える朝。

 幼稚舎への通園の時間。

 こくりは頭に狐耳のカチューシャを付け、園児服で身を包み、通園バッグを肩からぶら下げた。


狐栗こくりや、儂は理事長室に行って、実果みかに昨晩の事を報告する。気を付けて行くんだぞ?」


「分かりました。いってきます」


 ここは、妖女学園の学生寮。

 こくりがお世話になっている場所である。


 部屋を出ると、登校する生徒たちの姿が既にあちらこちらで見えていた。

 そしてその殆どが、高等部か大学のお姉さんだ。

 なので、まだ5才で幼いこくりは、お姉さんたちからかなりの人気者。


 こくりが寮の廊下に出ると、すれ違うお姉さんたちに笑顔で手を振られる。

 もちろんこくりも手を振るが、その顔は相変わらずの眠気眼な無表情。

 しかし、それが逆にエモ可愛いと評判が良く、お姉さんたちの笑顔もマシマシである。


 そんなこんなで学生寮を出て、幼稚舎に向かっている途中だった。


「待ってええええ!」


 不意に聞こえた少女の声。

 しかし、こくりは気にせず頭の狐耳を揺らして歩く。


「きみ! 待ってよおおおおお!」


 少しずつ近づく少女の声。

 しかし、こくりは気にせず今朝の朝食で出たベーコンエッグの味を思い出す。


「こ、こくりちゃん待ってえええ…………」


 途中で力尽きたのか、少し遠ざかっていく少女の声。

 しかし、こくりは今度こそ飾りであるはずの狐耳をピクリと動かして足を止めた。


「や……やっと、止まって…………くれ……たっ」


 振り向くと、少し離れた所に少女の姿。

 少女は走って追いかけていたようで、汗だくになって、激しく息を切らして肩を上下に揺らしていた。

 そして、こくりはその少女に見覚えがあった。


 その少女は、昨晩、動く人体模型を退治する時に助けた少女。

 こくりに美都子みつこと名乗って、その後に悲鳴を上げて気絶した子だ。


 昨日は尻餅をついて座った状態だったので分かり辛かったが、改めて会うと、こくりにも年上のお姉さんだと分かる容姿。

 頭一つ分くらい大きめな身長で、少しムッチリな体つき。

 髪は黒にブルーのグラデーションカラーで、肩下までのウェーブのかかった髪型。

 目は大きく、パッチリしていて可愛らしい。


 そんな印象の少女にこくりは近づき、今日のプールで使う用のタオルを無言で差し出した。

 すると、少女は「ありがとう」と言ってタオルを受け取り、それで汗を拭う。


「こくりに用事ですか?」


「うん。昨日のお礼がまだだったから」


 少女はそう言うと、汗を拭いたタオルを返そうとして、返さずに引っ込める。

 こくりがそれを不思議に思って首を傾げると、少女は苦笑した。


「汗で汚れちゃったから、洗って返すね」


「それは困ります。今日のプールの後に体が拭けません」


「え? あ。そ、そっか……ごめん」


 流石にプールの後にびしょびしょのままでいさせるわけにもいかないので、少女がタオルを返し、こくりはそれを受け取った。


「昨日はありがとう。目を覚ましたらいなかったから、ビックリしちゃったよ」


「保険の先生にお願いして、お腹空いてたから帰りました」


「そ、そうなんだ……?」


 昨夜の事件の後の事だ。

 こくりは初等部の校舎に行き、宿直だった保健の先生に頼んで、少女を運んでもらっていた。

 そして、こくり本人が言う通り、お腹が空いたから帰った。

 と言う事で、実はあの後に二人は会話どころか会ってすらいない。


「あ。それよりお礼なんだけど、次の日曜日にわたしの家で夜ご飯を食べてもらうとかでもいいかな? 良かったらその後に昨日の事を色々お話したいし。ダメ?」


「ご飯ですか?」


「うん。わたしの家はみんなと比べたら貧乏で、お小遣いとかも貰ってないの。だから、家でご飯をご馳走しようかなって」


「ご馳走ですか。行きます」


「え? 本当? 良かったあ。あ、そうだ。それなら、ついでに綺麗にしたい服とか持って来てよ。わたしの家クリーニング屋だから、ピッカピカにするよ」


「それはいらないです」


「あ、うん。そうだよね」


 つい嬉しくなって話してしまった少女は、相変わらずの眠気眼な無表情なこくりの返事に落ち込み、顔をしゅんとさせた。

 しかし、直ぐに気を取り直す。

 少女は少し緊張した面持ちになり、そして、こくりに向かって手を伸ばした。


「わたし、絹蔦きぬつた美都子みつこ。初等部の一年生なの。お友達になって下さい!」


「お友達ですか?」


「う、うん。嫌じゃ無かったらだけど……」


 こくりの質問に少女は少しだけ顔をうつむかせて答えた。

 その表情は自信なさげなもので、どこか寂しそう。

 しかし次の瞬間――


「ちゅっ」


「――――っ!?」


 ――突然少女のくちびるに重なるこくりの唇。


 少女はあまりにも突然な衝撃に驚愕きょうがくして後退り、口元を押さえた。

 すると、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情で、特に何かを気にした感じも無く目を合わせる。


「嫌じゃないです。みっちゃん、よろしくです」


「え!? え!? ええええ!? こ、恋人じゃないよ!? 友達だよ!? 何でキスしたの!?」


「はい。今日から友達です。だから仲良しのチューです」


 驚いて慌てふためく少女改めみっちゃんは、こくりの相変わらずの眠気眼な無表情とメリハリのない声色のせいで、更に頭を混乱とさせる。

 みっちゃんから見たこくりのその姿は、それが普通かのような振る舞いだった。

 全くもって意味の分からない行動に、みっちゃんは頭をぐるぐると回して混乱を加速させ、しかし気が付いてしまう。


「可愛いわね」


「うふふ。とっても仲良しね」


「小さい子は純粋で微笑ましいわ」


 周囲からクスクスと聞こえるお姉さま方の声と視線。

 ここは学園の敷地内の通学路の真ん中で、今は登校時間。

 二人は登校中のお姉さま方の注目を集めていたのだ。


 みっちゃんは顔を真っ赤に染め上げ……いや、既に染まっている。

 そんなわけで真っ赤な顔したみっちゃんは、ここから逃げるように駆けだした。


「ありがとー! でも、友達はお口にキスなんてしないんだよー!」


 こくりは取り残され、みっちゃんの背中を見つめながら首を傾げた。


「変なお姉さんです」


 やはり、こくりはズレていた。

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