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妖女学園のこくりちゃん  作者: こんぐま
第7話 年越しノーズ
48/61

3時間目 年末挑戦ガール(1)

 季節は冬の12月31日。

 葉の無い木々がたくさん生えるとある山のふもと

 そこに、こくりとお狐さまは里帰りの為にやって来ていた。

 そしてこくりの隣には、山に来るには合わないであろうオシャレなお洋服で身を包むみっちゃんの姿。


美都子みつこよ、お主その格好で山を登るのか?」


「だって、まさかこんな獣道を歩く事になるなんて思わなかったんだもん」


 みっちゃんは冷や汗を流して、山道を見る。

 それは言う通りの獣道で、子供にはとても険しい山道。


 稲荷神社に行くと聞いていたみっちゃんとしては、神社に続く階段を上れば辿り着くと思っていただけに、これは予想外の展開だった。


「ここいらは人の出入が少ないでのう。こくりが学園に入園してからは、手入れをする者もおらんようになった」


「いなくなったって……神主さんや巫女のお姉さんはいないの?」


「おらん」


「えええええ!?」


「違います。神主はパパで、こくりが時期神主です。早く行くです」


「うん、そうだね」


 と、言うわけで、二人と一匹は獣道な登山を開始する。

 みっちゃんにとっては初めての登山で、お子さまには厳しく険しい獣道。

 しかし、こくりのおかげで、随分と楽しい山登りになる。


「これはご近所さんのマサムネのうんこです」


「まさむね……? って誰?」


「森のクマさんです」


くま!?」


「あ、みっちゃんこっちに来て下さい」


「え? って、こくりちゃんいつの間にあんな所に……」


 等々、こくりとみっちゃんは山の中を駆けまわった。

 本来であれば、山を駆けまわるなんて危ない以外の何ものでもない。

 良い子も悪い子もお兄さんもお姉さんも真似をしたらいけないが、こくりとお狐さまがいれば話は別。

 こくりの野生スキルが半端なく、そしてお狐さまがしっかりと見守っていたので、みっちゃんの身に危険が及ぶ事は全く無かった。


 そうして寄り道しながら山を登って行くと、ついに稲荷神社の鳥居がある場所までやって来た。

 そしてその鳥居の近くには、立ち入り禁止の立札と、稲荷神社のやしろへと続く階段。


 みっちゃんは鳥居の下で階段を見上げて、お口をポカーンと開けてそれを眺めた。


「すっごく長い階段だあ。まだまだ先が長いね」


「ここを上ったら、こくりのお家です」


「よし。じゃあ、頑張るよ。の前にお茶を飲もう」


 こくりのお家が山にあると聞いていたので、念の為に持って来た水筒。

 持って来て大正解だと思いながら、みっちゃんは水筒に入れてきたお茶を飲む。

 なんだかぼやけて薄い味のするお茶。


(これ何回目にれたお茶だろう?)


 なんて事を考えながら飲んでいると、こくりがもの欲しそうに見ていたので、「どうぞ」とお茶をわけてあげた。


「ありがとうございます。渋めで大人の味です」


「う、うん。それじゃあ上ろっか」


「はい」


 みっちゃんは渋め? と疑問を浮かべながらも、直ぐに「よし」と気合を入れて、鳥居をくぐって階段を上り始めた。

 しかし、この階段、滅茶苦茶長い。


 階段の段数はだいたい1300段くらい。

 こくりとみっちゃんが通う妖女学園初等部校舎の階段の段数が13段なので、およそ百倍の段数だ。

 その長さは聞くだけでも果てしなく、初等部一年で誕生日前の6才児みっちゃんからすれば、かなり厳しい階段。


 何より、ここに来るまでに、既に獣道な山道を寄り道しながら歩いて来ている。

 流石にみっちゃんの体力も大分尽きてきて、どんどんと階段を上る速さも下がっていく。


 そこで、みっちゃんは気を紛らわせる事を思いつく。

 気を紛らわせて上れば、辛い階段も乗り越えられると考えたのだ。

 そして思いついたのは、今朝集合場所にした生物室。


 何でそんな所にしたのかと言うと、こくりとお狐さまが妖女を離れる前に、あやかしの様子を見ておくためだ。

 と言うわけで、みっちゃんはそれを話題にする。


「そう言えば、妖は退治したの? お狐さまが最近調べてたんだよね?」


「学園の七不思議の一つ“ハナだらけの生物室”か? 実はまだでのう。どうもこの妖は移動するようなのだ」


「……移動」


 お狐さまの言葉を聞いて、みっちゃんはデジャヴを感じた。

 だから、繰り返したその言葉は疑問では無く、ただ単純な言葉の繰り返し。

 しかし、それを聞いたこくりは疑問と感じたようで、みっちゃんのそれに答えてくれる。


「こくりのペットの花子さんと一緒です。同じ生物室なら、お引越しできるみたいです」


「うわあ。それは厄介……って、え? こくりちゃん、まだ花子さんを虫かごに入れてるの?」


「はい。こくりのお家に連れて行くとおはらいしてしまうので、ちゃんと封じてお留守番させてあります」


「え? なにそれ怖い。大丈夫なの? 暴れない?」


「花子さんはご飯もいらないし、おしっことうんこもしないので大丈夫です」


「わたしが心配してるのそこじゃない」


 みっちゃんはそう言うと、疲れすぎて前のめりに階段に座ると言うか寝転がる。


「ダメだあ。ちょっと休ませてえ」


「わかりました」


 気を紛らわす作戦は良かったが、その作戦内容には問題があった。

 お話をしながらの階段上りは、みっちゃんが想像していたより辛く、逆に疲れる要因になってしまったのだ。

 おかげでツッコミにも元気がなく、この通りのギブアップ。


 こくりの合意をとると、みっちゃんは階段に座り直して、再びお茶を飲む。

 やっぱり何だかぼんやりしたお茶の味に微妙な顔をして、それから、会話への妙な違和感……デジャヴを感じていた。

 とは言え、今まで散々に学園の七不思議のお話をしてきたので、みっちゃんはそれを特に気にする事も無く、階段を見上げた。

 そして、まだまだ先が長いのを見て、更に疲れが出たのだった。

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