6時間目 クリスマス注意報(6)
妖女学園の幼稚舎に努める宗内先生は、前代未聞の力作に困惑していた。
クリスマスパーティーに合わせて、園児たちに書いて貰ったサンタさんへのお手紙。
そのお手紙で一人、フィンランドの言葉で書いた強者が現れてしまったからだ。
しかもそのお手紙には、心のこもったサンタさんへの贈り物も付属されている。
「がんばりました」
「偉いわねえ、こくりちゃん。ええっと、これは何て書いてあるの?」
お手紙を入れる可愛らしい封筒に書かれた文字に視線を移して、その力作を作った猛者こくりに尋ねた。
すると、こくりは相変わらずの眠気眼な無表情を何処か得意気にして答える。
「“サンタさんへ”と書いてあります。こっちはこくりの名前です」
「あ、そこは普通なのね」
宗内先生は冷や汗を流し、こくりに視線を向けて目を合わせる。
「中身がちゃんと書けてるか、先生と一緒に確認しようね?」
「その心配はいらないです。じひなんとクイーンに確認しました」
「え? だれ……?」
「じひなんとクイーンです」
「…………」
宗内先生は本気で困っていた。
と言うのも、このお手紙はどんなプレゼントがほしいとか、そう言うのも書いてみてねと、みんなに伝えている。
何故なら、出来るだけほしい物が手に入るようにして、クリスマスパーティーでサンタさんに持って来てもらう為だ。
しかし、残念な事に、この幼稚舎に来るサンタさんは日本製。
フィンランドのサンタクロース村から来るサンタさんとは無縁だった。
だからと言って、こくりの夢を壊すわけにもいかず、日本製のサンタさんなんて言えるわけも無い。
「あ、あのね、こくりちゃん。あだ名じゃなくて、本名の方のお名前を教えてほしいな」
「じひなんは修羅です」
「修羅!?」
朱里である。
「クイーンは数珠です」
「数珠!?」
数樹である。
宗内先生は悩んだ。
こくりが言った名前はどう考えても絶対に違う。
何度も何度も教えて貰った名前を頭の中で繰り返し、そして、口ずさむ。
「じひなん……修羅。じひなんしゅら。――っあ。寺雛井朱里先生ね。芍薬寮の寮長をしてる」
「はい。じひなんです」
宗内先生は漸くホッと一安心して、こくりに笑顔を向けた。
「それじゃあ、これは先生が責任を持って預かるわね」
「お願いします」
こくりがお願いすると、宗内先生はニコニコ笑顔で頭を撫でた。
そして、こくりはトテテと走って、他の園児が遊んでいる輪の中へと入って行った。
こくりが無事にサンタさんへのお手紙を渡した放課後。
初等部の図書室に向かっている途中の事だった。
最近ではお馴染みになっているお狐さまと理事長実果の内緒の密談。
いつもであれば、お狐さまは下校時刻にならないと顔を出さない。
しかし、この日は珍しくこくりの目の前にお狐さまがやって来た。
そしてその顔は、少し真剣。
「狐栗、変異体がでたようだ」
「変態ですか?」
「変態では無い。変異体だ。美都子のクラスの娘が被害にあったようだ。美都子のクラスの担任が、生徒の一人が目を覚まさないと報告に来おった」
「みっちゃんの同級生ですか?」
「うむ。確か名を黄金院明媚と言ったか? 名家のお嬢様らしくてな、今朝図書室で眠っていたようだが、未だに目を覚まさないと騒ぎになっておるのだ」
「カナブンちゃんお寝坊さんですか?」
「うむ……うむ? カナブンちゃんとは、狐栗が言っておった新しい友人の事か? まさか、黄金院明媚と言う少女が……」
「はい。カナブンちゃんです」
「そうであったか。とにかく恐らく変異体の妖が図書室におるはず。友人を助ける為にも向かうの……だ? 狐栗? 狐栗どこにおる~?」
お狐さまがお話の最中だったが、こくりはいつも通りマイペースでいなくなる。
もちろん向かった先は図書室だった。